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譲渡債権の「発生原因である契約」から生じた自働債権による三者間相殺(民法新469条2項2号) 利用統計を見る

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債権による三者間相殺(民法新469条2項2号)

著者

深川 裕佳

著者別名

FUKAGAWA Yuka

雑誌名

東洋法学

61

3

ページ

133-161

発行年

2018-03

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00009674/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止

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《 論  説 》

譲渡債権の「発生原因である契約」から生じた自

働債権による三者間相殺(民法新469条 2 項 2 号)

深川 裕佳

目次 Ⅰ.問題の所在 Ⅱ.フランス民法典における「牽連した債務の相殺」(新1348― 1 条)の検討   1 .フランス民法典における「牽連した債務の相殺」(法改正による新設条文)   2 .「一つの統一的な契約の集合」から生じた債務間の牽連性 Ⅲ.若干の検討――フランスの議論から得られる示唆   1 .「発生原因である契約」(日本民法新469条 2 項 2 号)の意味   2 .相殺の効果発生時――法律上の相殺と裁判上の相殺の区別   3 .債権譲渡と差押えの場合における相殺可能な場面の違い Ⅳ.おわりに 引用文献 Ⅰ.問題の所在  「債権譲渡と相殺」について,日本の民法(債権関係)改正(平成29年 6 月 2 日法律第44号。以下,この改正を「債権法改正」といい,改正・新設された 規定には「新」を付すことにする。)では,自働債権の取得が債権譲渡の債務 者「対抗要件具備時」(新466条の 6 第 3 項)よりも前であれば相殺を認めると いう,いわゆる無制限説が採用されるとともに(新469条 1 項。[部会資料69A, 29頁]及び[部会資料74A,14頁]),さらに,対抗要件具備時後に取得した債 権であっても,それが「対抗要件具備時より前の原因に基づいて生じた債権」 であるとき(新469条 2 項 1 号),または,そうでなくても「譲受人の取得した 債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権」であるとき(同項 2 号)に は,これらの譲渡人に対する債権による相殺をもって譲受人に対抗することが

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できることになった。本稿は,このうち,「発生原因である契約」(新469条 2 項 2 号)の意味について検討するものである。なお,同条 2 項ただし書では, 対抗要件具備時後に他人の債権を取得して自働債権とする場合には相殺を対抗 できないものとされており,本稿も,この場合を除いて考えることにする。  新469条 2 項 2 号の文言からは,一見すると,自働債権と受働債権との「発 生原因である契約」が同一である場合を指すものであって,解釈上の困難はな いようにもみえる。しかし,当事者間で締結された同一の契約から生じた本質 的(対価的)な債務間の相殺を認めれば,いずれも履行されることがなくなっ て契約の目的を達成することができなくなるために,たとえ当事者間であって も,同一の契約に基づく本質的な(対価的な)債務同士――たとえば,書面で する消費貸借契約(新587条の 2 )における引渡債務と返還債務――を相殺す ることはできないはずである。  新469条 2 項 2 号の改正の議論は,債権法改正の中間試案作成段階(第二ス テージ)から本格的に行われている。そこでは,「譲渡禁止特約を第三者に対 抗することが一切できない」という見直しの方向において,「これまで譲渡禁 止特約によって保護されてきた債務者の相殺の期待が引き続き保護されるよう に」[部会資料37,52頁],「譲渡された債権と関連して一体的に決済されるこ とが予定された取引」から生ずる自働債権について相殺を認めることを検討す ることが提案された[部会資料37,50頁【甲案】]。その後,「中間試案のたた き台」以降は,「一体的に決済されることが予定された取引」という文言に替 えて,「同一の契約」[部会資料55,24頁]という文言が用いられている(「中 間試案第18の 3 ( 2 )ア(イ)」及び[部会資料74A,15頁])。そこにおいて 例として挙げられるのは,譲渡された将来の売買代金債権と,当該売買代金債 権を発生させる売買契約の目的物の瑕疵を理由とする買主の損害賠償債権との 相殺である[中間試案・補足説明 2013,255頁]。「要綱案のたたき台」にも, それまでの議論と同様の内容が述べられているが,そこでは,さらに,「この 規律が適用されるのは将来債権が譲渡された場合に限られることになる」[部 会資料74A,15頁]こと,及び,「同一の契約」の解釈にあたっては,「契約書

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が同一であるか否か」は「重要な考慮要素」になるものの,契約書が同一で あっても全く関係のない二つの契約は「同一の契約」に当たらないし,反対 に,「一通の契約書が作成されることが取引慣行上一般的である取引」につい て「二通の契約書が作成された場合」であっても,「取引の一体性」が考慮さ れて「同一の契約」になりうることが指摘される[部会資料74A,15頁]。  このように,新469条 2 項 2 号の例として,受働債権の発生原因となった売 買や請負,賃貸借などの同一の契約から自働債権が発生する場合,すなわち, 自働債権が売買契約や請負契約の不適合を理由とする損害賠償請求権であると か,賃貸人が支出した費用償還請求権であるとかいう場合には,学説は,一致 して相殺を認めるべきであるとする[中井 2015,740頁][石田ほか 2016,17 頁(木村発言),18頁(縣発言),18頁(赫発言),19頁(石田発言)][潮見 2017,447―449頁]。これに対して,異なる契約から生じた場合にも相殺を認め るべきかどうかということには見解の相違がみられる。相殺への合理的期待を 保障するという観点からは,立法論として,同一の契約というよりも「一体的 に決済されることが予定された取引」という準則が適していると指摘しつつ [潮見 2017,446頁(注265)],新469条 2 項 2 号の解釈論としては,たとえば 異なる二つの請負契約から生じた二つの債務の相殺について,基本契約がある とか,契約書の個数によるのではなく,「要するに,相殺への合理的な期待と いう観点から解釈をして,個々の状況下で同一の契約と捉えることができるか どうかの判断をすべきである」[潮見 2017,448頁]と述べるものがある。こ れに対して,原料の販売とその原料を加工した製品の購入という双方向の継続 的取引においては,「同一の契約でない」[中井 2015,741頁]ために,「客観 的な牽連関係のある場合を超えて,当事者間の意思(主観的な牽連関係)を理 由に,たとえば一体的決済を予定した基本契約にまで拡張する必要性に乏し い」として,当事者は「債権譲渡制限特約によって相殺可能な領域を創出する こと」[中井 2015,741頁]によって,そのような場合の手当てをすべきであ ることを述べるものもある。  このように議論のあることから,「発生原因である契約」(新469条 2 項 2 号)

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の意味について検討する必要がある。同条は,以下に述べるように,相殺適状 にないにもかかわらず,法律に基づく相殺権を債務者に付与するものである。 債権法改正では,将来債権譲渡の規定が設けられたものの,その移転時期は定 められておらず,解釈に委ねられている(新466条の 6 第 2 項)。そこで,将来 債権譲渡によって譲受人の下において譲渡債権が発生するものと考える立場 (たとえば,将来債権譲渡担保における将来債権の移転時期について[池田 2001,379頁],[中田 2013,562頁]及び[潮見 2017,368頁]を参照。)から は,譲渡人と債務者との間には,二つの債権が対立することがないとも考えら れる。また,将来債権譲渡によって譲渡債権が発生した瞬間に譲受人に移転す る(すなわち,観念的には譲渡人の下で債務者に対する債権が発生する)と考 える立場にあっても[白石 2014,171―172頁],自働債権と受働債権が同時に 発生する場合を除けば(ただし,このような同時発生は,将来債権譲渡に関す る新469条 2 項 2 号において想定されない。),実際には,相殺の意思表示の時 点において譲渡人と債務者間で債権の対立がない。譲渡された将来債権(受働 債権)の発生後に自働債権が発生する場合には,なおさら債権の対立を考えに くい。譲渡制限特約があったとしても,民法新466条 1 項及び 2 項によって, 譲渡人と譲受人の間では債権が移転するので,三者間相殺になる。法定相殺の 意思表示の時点において相殺適状を満たしていなければならないという原則か らすれば,将来債権譲渡における債権の移転時期についてのいずれの立場に よっても,新469条 2 項 2 号は,二人の間で債権が同時に対立して存在するこ とがなくても,譲受人・債務者・譲渡人の三者にまたがって存在する二つの債 権の間の三者間相殺を定める特別の規定と考えられる。そうすると,同項 2 号 の「発生原因である契約」の意味を検討することは,二人の間で債権が対立す るという,相殺適状(505条)の要件の一つを満たさなくても相殺が認められ る場合,すなわち,三者間法定相殺の要件を探ることにつながる(なお,相殺 の期待という観点から,石田[2017,168頁]は,新469条 2 項 2 号は,特則説 と確認規定説という二つの見方が可能であるものと整理する)。  以下では,日本民法における「発生原因である契約」(新469条 2 項 2 号)の

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意味を検討するのに特に問題になる場合,すなわち,二つの債権がそれぞれ異 なる契約から生じた場合における相殺の可否について考察するために,「牽連 した債務の相殺」(フ民新1348― 1 条)を条文化したフランスにおける議論を参 照することにする。日本の学説は,日本民法新469条 2 項 2 号を自働債権と受 働債権の間の牽連関係に着目した規定として位置づけている[石田ほか 2016,27頁(沖野発言)][岡 2016,34頁][石田 2017,168頁][山田 2017, 32頁](ただし,[石田ほか 2016,22頁(石田発言)]は,牽連性が同条の要件 になることは「理論的説明が困難」であるとする。なお,新469条 2 項 2 号の 意義自体に疑問を呈するものとして,[池田 2016a,24―25頁]及び[池田 2016b,71―76頁]がある)。 Ⅱ.フランス民法典における「牽連した債務の相殺」(新1348― 1 条)の検討 1 .フランス民法典における「牽連した債務の相殺」(法改正による新設条文) ⒜債務間の牽連性の役割(改正前の議論)  まず,フランス民法典において,「牽連した債務の相殺」(新1348― 1 条)の 規定が創設された背景を確認することにする。  破毀院は,次のように述べて,裁判上の相殺においては,たとえ法定相殺の 要件(フ民旧1291条)を満たしていない場合にも,牽連した債務の間では相殺 を認めなければならないとしてきた[深川 2008,137―138頁]。

  破毀院民事第一部1967年 1 月18日判決(Civ. 1re, 18 janv. 1967, Bull. civ. I, n°

27.)「二つの債務に牽連性がある場合,裁判官は,二つのうちの一方につ いて数額の確定性(liquidaté)と請求可能性(exibilité)の要件が満たされ ていないことを理由として,相殺の要求を退けることはできず,当事者に とって担保(une garantie)を構成するこのような相殺の原則を確認する義 務を負う。」  停止条件付債権であるとか,不法行為に基づく損害賠償請求権であって裁判 官によってその賠償額が定められなければならないときには,数額の確定性は

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ないと考えられている[深川 2008,97頁]。また,フランス民法典新1347条 1 項では,相殺が「相互的債務の同時消滅」と定義されているのに対して,フラ ンス商法典 L. 622― 7 条 1 項が相殺による「支払い」と規定するように,相殺 の結果は,弁済に類似することから,弁済期未到来の場合には請求可能性がな いと考えられている[深川 2008,97頁]。前掲の1967年の破毀院判決は,これ らの法律上の相殺要件(相殺適状)を満たさない場合であっても,相殺の抗弁 が認められることを示している。さらに,その後,破毀院は,当事者の一方に 対して破産手続きの開始決定があっても,一方の債権に対して差押えや譲渡が あっても,牽連した債務の間の相殺を認める[DANOS 2015, p. 1658]。  このような相殺の効果は,破毀院商事部2007年 2 月20日判決(Com., 20 févr. 2007, n° 05―19. 858, Bull. civ. 2007, IV, n° 50.)において,相殺に供される「それ らの債権のうちの一つが最初に請求可能になった日(au jour de l'exigibilité de la première d'entre elles)」に生じるものとされた。その後の破毀院判決も同旨を 述べる(Civ. 1re, 25 nov. 2009, n° 08―19. 791, Bull. civ. 2009, I, n° 234 ; Com., 23

sept. 2014, n° 13―20. 399, Bull. civ. 2014, IV, n° 133.)。一方の債権についてのみ 弁済期が到来していれば,他方の債権については弁済期になくても,その一方 の債権の弁済期に相殺の効果が生じるとするこれらの判例によって,牽連した 債務の裁判上の相殺について遡及効が認められたものといえる。 ⒝「牽連した債務の相殺」規定の新設  ⅰ相殺の種類――法律上の相殺,裁判上の相殺,合意上の相殺  改正前のフランス民法典には,法律上の相殺(compensation légale)に関す る規定しかなかったが,相殺には, 3 種類――①フランス民法典旧1289条以下 に定められた法律上の相殺,②フランス民事訴訟法典70条〔反訴及び追訴請 求〕に規定された裁判上の相殺(compensation judiciaire),③明文の規定はな かったが契約自由の原則に基づいて認められてきた合意上の相殺(compensation conventionnelle)――が存在することが認識されていた[TERRÉ et al. 2013, nos 1409 et 1410]。2016年のオルドナンス(Ord. n° 2016―131 du 10 févr. 2016)によ

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るフランス民法典の契約法等改正(以下,「フランス契約法等改正」という。) によって,これらの三種類の相殺が民法典に規定されることになった。すなわ ち,前述①は,「第 4 章債務の一般規定,第 4 節債務の消滅,第 2 款相殺,第 1 目総則」に規定され,前述②及び③は,「同款,第 2 目特則」に規定された [齋藤 2017,217頁]。  このような相殺の種類の違いは,その要件に表れている。まず,法律上の相 殺(フ民新1347条以下)では,新1347― 1 条に規定される相殺適状(当事者間 に対立する債務について,特定性,数額の確定性,請求可能性,代替可能性を 備えていること)が要求される。つぎに,裁判上の相殺(フ民新1348条以下) では,その要件の一部を欠く(債務の一方若しくは双方の数額が確定されず, または,請求可能でない)場合にも相殺の効果を生じる(後述(ⅲ))。そし て,合意上の相殺(フ民新1348― 1 条以下)では,債務の特定性及び代替可能 性さえも不要である(すなわち,将来債権も対象にすることが可能である。フ 民新1348― 2 条)。裁判上の相殺は,日本では民法に規定がなくその法的性質に ついて議論が存するものの,フランスでは,たとえば,売買契約の不履行に基 づく損害賠償債権を自働債権として代金債権を受働債権として相殺する場合 に,この損害賠償債権は,裁判官が不履行を認定することによって特定性のあ る債権になるのであるが,法律上の相殺要件を満たして相殺適状になるには, さらにその数額が確定されることが必要になるところ,裁判上の相殺であれ ば,「相殺は,債務の一方が,特定性がある(certaine)が,いまだ数額が確定 (liquide)されず,または請求可能(exigible)でないとしても,裁判において 言い渡すことができる」(フ民新1348条)と説明される[BÉNABENT 2016, n° 784]。  前述に紹介した判例の展開を背景として,上述の法律上の相殺及び裁判上の 相殺に関する規定において,「牽連した債務の相殺(la compensation de dettes connexes)」という概念がフランス民法典に採用されることになった(なお, フランス商法典 L. 622― 7 条 1 項には,すでに,「牽連した債権の相殺(la compensation de créances connexes)」に関する規定がある)。以下において,こ

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の民法典上の規定を検討していくことにする。  ⅱ法律上の相殺の場合――「債務に内在する抗弁」を生じさせる牽連性  まず,「牽連した債務の相殺」は,①債権譲渡,②債務引受,③契約譲渡, ④弁済者代位のそれぞれの箇所において「債務に内在する抗弁(exception inhérente à la dette)」として特別に規定されている(この順に条文を挙げれば, ①フ民新1324条 2 項第 1 文,②新1328条,③新1216― 2 条 1 項,④新1346― 5 条 3 項第 1 文。改正法の邦語訳として,[荻野ほか 2017]がある)。これに対し て,牽連しない債務の相殺(la compensation de dettes non connexes)について は,債権譲渡が対抗可能になる「前」(フ民新1324条 2 項第 2 文),及び,弁済 者代位が対抗可能になる「前」(フ民新1346― 5 条第 3 項第 2 文)に,譲渡人ま たは被代位者と債務者との関係からその抗弁が生じている場合には,譲受人ま たは代位債権者にその抗弁を対抗できるものと規定されている。これらは, 「個人的な抗弁(les exceptions personnelles)」または「債務に外在する抗弁 (exception extérieure à la créance)」[FRANÇOIS 2017, n° 490]とされる。

 「債務に内在する抗弁」について条文に明確な定義はないものの,前掲のい ずれの条文においても,無効,同時履行の抗弁及び解除と並んで,「牽連した 債務の相殺」が例示列挙されている。近年の論文[DANOS 2017, p. 1320]に よれば,それは「物(この場合には債権)に結びついた抗弁(exceptions rei

autem cohaerentes)」であり,ローマ法においては,「人に結びついた抗弁

(exceptions quae personae cujusque coherent)」と区別され,この二つの区別は, 古法を経てフランス民法典2313条(2006年改正前2036条)に,保証人が援用で きる主債務者に属する抗弁として規定されたという。すなわち,保証人は,主 たる債務に内在する抗弁を援用することができるのに対して,主債務者にもっ ぱら個人的な抗弁を援用することはできないとされたのである。DANOS [2017]によると,「債務に内在する抗弁は,この抗弁が適用される債権を生じ させた行為または事実に基づくものとして定義される」[DANOS 2017, p. 1320]。すなわち,それは,「債権の発生原因」に由来するものであり,たとえ

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ば,債権の発生原因が契約であれば,この抗弁の発生原因も契約である [DANOS 2017, p. 1320]。破毀院商事部2010年 1 月12日判決(Com., 12 janv.

2010, n° 08―22. 000, Bull. civ. 2010 IV, n° 2.)は,「債権譲渡の場合に,たとえ譲 渡通知の後に生じた抗弁であっても,債務者は,債務に内在する抗弁を援用す る(invoquer)ことができる」と述べており,フランス民法典1324条 2 項第 1 文の新設は,判例法理に沿ったものである。

 牽連した債務の相殺は,法律上の相殺として,当事者によって「援用される ことを条件として,対当額において,その要件が充足された日に生じる」(フ 民新1347条 2 項)[BÉNABENT 2016, nos 701 et 775][CLÉMENT 2016a]。なお,

改正前のフランス民法典1290条は,自動相殺主義を採用しており,これは学説 によって批判されていたところ[深川 2008,98―106頁],契約法等改正によっ て,法律上の相殺では,当事者によって「援用されることを条件として」,相 殺適状に遡って効果が生じるものとされた(フ民新1347条 2 項)。  ⅲ裁判上の相殺の場合――相殺要件の一部を代替する債務の牽連性  つぎに,裁判上の相殺においては,「牽連した債務の相殺」に関する次のよ うな規定がある。   フランス民法典 1348― 1 条 裁判官は,その債務の一つについて,数額が 確定して(liquide)いない,または,請求可能(exigible)でないという理 由のみによって,牽連した債務の相殺を拒むことができない。   この場合において,相殺は,それらの債務のうちの一つが最初に請求可能 になった日(au jour de l'exigibilité de la première d'entre elles)に,効果を生 じたものとみなされる。

  同様の場合に(Dans le même cas),債務の一方について,第三者による権 利取得は,その債務者が相殺を対抗する(opposer)ことを妨げない。  牽連した債務の相殺は,この条文に示されるように,相殺の一連の規定の中 では,裁判上の相殺の一種とも位置付けられそうである。これに対して,学説 には,牽連した債務の相殺を裁判上の相殺とは区別すべきことを主張するもの

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[ROBINE 2015, p. 63]や,牽連した債務の相殺を裁判上の相殺の一つの種類に 押し込める理由はないと述べるもの[LAITHIER et al. 2016, p. 782],牽連した 債務の相殺は牽連しない債務の法律上,裁判上または合意上の相殺との関係で は真に独立した独自の制度であると述べるもの[FRANÇOIS 2017, n° 115]が ある。フランス共和国公式機関紙に掲載された契約法等改正に関するレポート [Rapport, JO 11 févr. 2016]も,民法典第 4 章第 4 節第 2 款第 2 目特則の説明に おいて,牽連した債務の相殺が必らずしも裁判上の相殺であるとは限らないと の立場を示している。  フランス民法典新1347― 7 条(旧1298条に相当する。)は,「相殺は,第三者 によって取得された権利を害さない。」と規定する。すなわち,あらゆる種類 の差押え(saisie)の後に法律上の相殺の要件を満たした(相殺適状)として も,相殺は効果を生じないのであり,またこれに加えて,破産手続き(procédure collective)の開始決定の後,すなわち,保全手続(sauvegarde),企業の更生手 続(redressement judiciaire)及び清算手続(liquidation judiciaire)の開始後に法 律上の相殺の要件を満たした(相殺適状)としても,相殺は効果を生じないの が原則である[LATINA et CHANTEPIE 2016, n° 1014]。不完全直接訴権の場合 も同様である[FRANÇOIS 2017, n° 82]。これに対して,フランス民法典新 1348― 1 条 3 項は,牽連した債務が問題となる場合に,「第三者による権利取得 は,その債務者が相殺を対抗することを妨げない。」と規定して,牽連した債 務の相殺は,第三者に対しても効力を有することを認める。この「第三者によ る権利取得」には,前述のように,差押え及び破産手続きの開始[LATINA et CHANTEPIE 2016, n° 1029][MAXIME 2017, n° 551]が含まれており,同条 は,これらがあった場合にも相殺を対抗できることを意味している。さらに は,債権譲渡や併存的債務引受,契約譲渡,弁済者代位のような債権・債務の 移転もこの「第三者による権利取得」に含まれる[LATINA et CHANTEPIE 2016, n° 1029]。前述のように,これらの場合における債務に内在する抗弁と しての牽連した債務の相殺を法律上の相殺の箇所で説明する学説がある一方 で,これらを裁判上の相殺に関する新1348― 1 条 3 項から演繹される原則

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[LATINA et CHANTIEPIE 2016, n° 1029]としても言及するものもあることか ら([LAITHIER et al. 2016, p. 783]も同様である。),明言する文献は見当たら なかったものの,牽連した債務の相殺は,当事者の援用によって効果が生じる ときには法律上の相殺として,裁判官の言い渡しによって効果が生じるときに は裁判上の相殺として扱われるということになるものと思われる。  牽連した債務の相殺の効果は,相殺に供される債務のうち,いずれかの債務 について,先に弁済期が到来した日において生じるものとみなされる(フ民新 1348― 1 条 2 項)。前述Ⅱ . 1 (a)の判例法理に従うものである[MEKKI 2016, p. 614]。すなわち,牽連しない債務に関する裁判上の相殺については,原則と して,「裁判の日付にその効果を生じる」(フ民新1348条 2 文)という規定に 従って,遡及効が認められないのに対して,牽連した債務に関する裁判上の相 殺の効果については,遡及効が認められる[ROBINE 2015, p. 63][LATINA et CHANTEPIE 2016, n° 1028]。  ただし,改正法においては,「牽連した債務」の定義は規定されておらず, 解釈にゆだねられている[FRANÇOIS 2017, n° 111]。代表的な法律用語辞典 (Vocabulaire juridique Cornu, 11e éd., Ⅲ° Connexité.)によれば,牽連性は,「同

一の法律関係から生じる二つの債権を結び付ける関係(lien)」と定義されてい る。しかし,ここにいう「同一の法律関係」の意味は明確でない。そこで,こ れまでの判例及び学説における考え方を探ることが改正条文の解釈を知るため にも有用であろう。 2 .「一つの統一的な契約の集合」から生じた債務間の牽連性 ⒜二者間の異なる契約から生じた債務  ⅰ法律上の牽連性  債務間の牽連性については,フランスにおいていくつかの研究がなされてい るものの[深川 2008,254―282頁],以下では,フランス契約法等改正に言及 のある概説書・体系書[BÉNABENT 2016, n° 784 (notes 22 et 29)][FRANÇOIS 2017, n° 110(note 2 )]において参照される近年の研究[DANOS 2015]を参

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考にして,異なる契約から生じた債務間の相殺が日本民法新469条 2 項 2 号に 基づいて認められるかどうかという本稿の問題について検討するために,フラ ンスにおける債務間の牽連性に関する議論を紹介していくことにする。  Danos[2015]は,牽連した債務の相殺における「債務の牽連性」は,二つ の債権が「同一の発生原因」[DANOS 2015, p. 1657]に基づくことによって認 められるものと述べて,①同一の契約から生じた債権,または,②異なる契約 であっても「一つの統一的な契約の集合(un ensemble contractuel unique)」を 構成する契約から生じる債権に,このような牽連性が認められるとして,これ を「法律上の牽連性」と称する[DANOS 2015, p. 1656]。  ⅱ債権の発生源における同一性  ①「同一の契約関係」から二つの債権が生じる場合は,債権間の牽連性が認 められる典型的な例である[DANOS 2015, p. 1656]。そこでは,「契約の主た る債権(代金債権)」と,しばしば「契約の不履行に結び付けられたその契約 から生じた従たるまたは二次的な債権(遅延賠償,約定損害賠償等)」との 間,または,「従たるまたは二次的な債権」間で,それらが「同一の目的物 (金銭)」であり,代替可能(fongible)である場合に作用するものと指摘され る[DANOS 2015, p. 1656 et 1660]。ただし,その契約において主たる債権及び その契約に特徴的な債権は,他方の債権が一方の債権の原因であるので,代替 可能ではなく,相殺することができないものとされている[DANOS 2015, p. 1656]。  これに対して,②異なる契約を発生源とする債権であっても,牽連性を特徴 づける「共通の発生原因または発生原因の一体性(unité)」は,「より広く理解 できる」[DANOS 2015, p. 1656]ために,牽連性が認められる場合があるとい う。ただし,フランスの学説には,そのような牽連性に関する判例の態度は 「よりためらいがちである」として,たとえば,ⅰ当事者の取引関係を発展さ せるための枠組みを定義する合意の履行として契約が締結された場合であると か,そうでなくてもⅱ一つの統一的な契約の集合(un ensemble contractuel

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unique)を構成するものと認められる場合については,異なる契約から生じる 債務の牽連性を認めてきたものと述べるものがある[AUBERT et al. 2015, n° 485]。

 前者の例(ⅰ枠契約のある場合)として,たとえば,破毀院商事部1994年 4 月 5 日判決(Com., 5 avr. 1994, n° 92―13. 989, Bull. civ. 1994, IV, n° 142.)は, 「当事者間の継続的な売買契約から生じた複数の相互的な債務は,当事者間で 取引関係を発展させる枠組みとして定められた合意の履行の結果であることか ら牽連性が認められる」と述べる[深川 2008,262頁]。後者の例(ⅱ一つの 統一的な契約の集合と認められる場合)として,たとえば,破毀院商事部1995 年 5 月 9 日判決(Com., 9 mai 1995, n° 93―11. 724, Bull. civ. 1995, IV, n° 130.) は,原材料の売買とその加工物の売買という二つの契約が三者にまたがって存 在する場合に,これらの契約が「当事者間の取引関係の一般的な枠組みとして 利用される一つの統一的な契約の集合」を構成するときには,それぞれの契約 から生じる債権間の牽連性を認める[深川 2008,263―264頁]。これらをまと めて,破毀院商事部2001年 7 月17日判決(Com., 17 juil. 2001, n° 97―18. 387, Inédit.)は,「同一の契約に基づく相互的債務が欠ける場合には,このような 関係〔債権と債務の間の牽連関係(connexité entre les créances et dettes)〕は, 当事者間でその取引関係を発展させる枠組みとして定められた合意の履行にお ける作用(opérations en exécution d'une convention),または,当事者間の取引 関係の一般的な枠組みとして役立つ一つの統一的な契約の集合の要素を構成す る合意の履行における作用から生じた債権と債務の間にのみ存在する」と述べ る。  ⅲ破毀院商事部2014年10月14日判決  近年の判例として,たとえば,破毀院商事部2014年10月14日判決(Com., 14 oct. 2014, n° 13―24. 482, Inédit.)は,以下のようにして,当事者間に対立する 債務が一つの契約からではなく,異なる二つの契約から生じた場合にも,それ らの契約が一つの統一的な契約の集合を構成するものとして,破産管財人から

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の請求に対する債務者による相殺の抗弁を認めた。

 原審の認定する事実は,次のようなものであった。Distrisport 79社は,ス ポーツ・レジャー用品の小売業を営んでおり,共同購入の協同組合である Groupe Intersport 社に加入し,その加入条件を確認して,特に,委託契約の履 行責任において,組合員である小売商に共同の納入業者を調整することを担当 する Intersport France 社の株主になった。Intersport France 社の定款及び内部規 則は,その株主の一人の事業停止の場合を規定しており,それによれば,その 原因が何であれ,その事業を停止した株主は,Intersport France 社に対して負 担する債務全額を履行して,その保有する Intersport France 社の株式を Groupe Intersport 社に譲渡しなければならないものとされていた。Distrisport 79社は, 2010年 1 月27日に,裁判上の清算(liquidation judiciaire)に陥った。破産管財 人から株式譲渡代金の支払いを求められた Intersport France 社は,Distrisport 79 社から返済されていない共同購入代金債権による相殺を主張した。控訴院がこ の相殺を認めたので,破産管財人は,相互的な債務が同一の契約に由来する場 合に当たらないこと,さらには,Distrisport 79社の債権を生じさせた会社(組 合)契約(contrat de société)と Intersport France 社の債権を生じさせた商品供 給契約とは不可分な契約の集合を構成する場合にも当たらないことを主張して 上告した。

 破毀院は,次のように述べて,この上告を退け,原審を支持した。

  破毀院商事部2014年10月14日判決「管財人自身の要求に基づいて,株式譲 渡代金について,Intersport France 社が Distrisport 79社に対する債務者であ ることを認めたことを確認した後で,控訴院は,その約款と内部規則の条 項 に 基 づ い て, 事 業 を 停 止 し た 株 主 が, そ の 決 算(l'apurement des comptes)のために,それ自体の名前において Intersport France 社から取得 したインボイスの額を決済し,同社にその株式を売却しなければならない ものとされおり,したがって,売買委託契約は供給代金の返済債務の起源 (origine)であり,会社契約はその株式譲渡債務の起源でもあるのであっ て,それらの契約は,援用された相互的な債権の起源となる一つの統一的

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な契約の集合(un ensemble contractuel unique)を形成するものと判断した の で あ る。 よ っ て, 控 訴 院 は, こ れ ら の 債 権 が 牽 連 関 係(un lien de connexité)によって結び付けられていることを正しく演繹したのである。」 ⒝三者間の異なる契約から生じた債務(三者間相殺)  ⅰ債務の相互性要件の緩和  ここまでにおいて述べたのは,異なる契約から生じた二つの債務が二者間に 対立する場合であるが,先に述べたように,日本民法新469条 2 項 2 号では, 三者間にまたがる債務の相殺が問題になる。そこで,さらに,フランスにおい て,二者間の異なる契約から発生する債務間の牽連性に関する前述の議論がこ のような三者間の場合にも妥当するものかどうかを検討する必要がある。  前述のように,牽連した債務間では,差押えや譲渡に関わらず相殺が可能に なることから,「牽連した債務を結び付ける相互依存関係(lien d'interdépendance) は,債務の対立要件が満たされていないとしても,相殺を可能にする」 [DANOS 2015, p. 1658](債務法の教科書[FAGES 2017, n° 515]においても, 牽連性のある債務においては相互性(réciprocité)要件は満たされていなくて も裁判上の相殺がなされる旨の記述がある)。さらに,DANOS[2015]は, 「一つの不可分なまたは統一的な契約の集合が存在する場合には,そこから生 じた債権の牽連性に基づく三者間相殺(compensation triangulaire)が生じう る」[DANOS 2015, p. 1660]ものと考える。すなわち,たとえば債権譲渡のた めに債務の相互性要件が失われたにもかかわらず,破毀院は相殺が作用するこ とを認めているのであり,結局,そもそも債権の対立が存在しなかった(すな わち,当初から,三者間にまたがって債権が発生した)としても,相殺を認め てかまわないのではないかというのである[DANOS 2015, p. 1659]。  ⅱ破毀院商事部2014年 9 月23日判決  DANOS[2015]は,異なる当事者において異なる 2 つの契約が締結され, それぞれの契約から発生した 2 つの債権の牽連性を認める破毀院商事部2014年

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9 月23日判決(Com, 23 sept. 2014, n° 13―14. 815, Inédit.)を取り上げて紹介す る[DANOS 2015, p. 1660]。

 この原審の認定によれば,事実関係は,次のようなものである。フランス法 を準拠法にする2003年12月23日の契約によって,ドイツの会社 Schwarzkopf & Henkel(以下,「Schwarzkopf 社」という。)は,フランスにあるその子会社で あり,梱包事業を行う Liepvre cosmetics 社の株式をオランダの会社 Budelpack Holding BV に対して譲渡し,この譲渡代金は,2005年 1 月 3 日から2009年 1 月 2 日までの間に,年 5 回の分割払いで支払うことができると約束された。こ の譲渡合意は,Schwarzkopf 社と Budelpack Liepvre 社間の下請契約(contrat de sous-traitance)と呼ばれる第二契約への署名を停止条件としており,それは, Schwarzkopf 社,Budelpack Holding BV 社 の 子 会 社 で あ る Budelpack internationnal BV 社,及び,Liepvre cosmetics 社(株式譲渡によって Budelpack Liepvre 社になった。)の間で同一日に決済されることになっていた。株式譲渡 代金の最終支払期日に支払いがなかったので,Schwarzkopf 社は,Budelpack Liepvre 社の配達代金債権を取得したベルギーのファクタリング会社 Eurofactor NV 社(以下,「Eurofactor 社」という。)に対して,その支払いを停止した。 Eurofactor 社から支払いを求められた Schwarzkopf 社は,第二契約である調達 契約(contrat d'approvisionnement)に基づく代金債務を株式譲渡契約に基づく 債権と相殺すると抗弁した。親子会社であるにしても Budelpack Liepvre 社と Budelpack Holding BV 社とは別法人であるので,Schwarzkopf 社が第三者であ る Budelpack Holding BV 社に対する債権をもって,Budelpack Liepvre 社に対し

Schwarzkopf社 Liepvre cosmetics社 →Budelpack Liepvre社 Budelpack Holding BV社 ファクタリング会社 Eurofactor社 Liepvre cosmetics社の 株式譲渡 株式譲渡代金

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て負っていた代金債務を相殺することができるかどうか,すなわち,三者間相 殺の可否が問題になる。  原審は,二人の間に債権が対立していないために相殺することができないと した上で,「複数の約定規定や履行過程において当事者の間で交換された通信 によって,株式譲渡合意及び調達契約〔第二契約〕が当然に結び付けられて (naturellement liées)おり,二つの契約の間で当事者によって作られる経済的 関係(lien économique)を反映していることが確認されているとしても, Budelpack グループの様々な会社が Schwarzkopf 社に連帯して債務を負ってい たものではない」し,「締結された合意は,一方が他方に無関係に存在しうる ので,その間に真実の不可分性(véritable indivisibilité)は存在しない」とし て,「Schwarzkopf 社は,その子会社であった Liepvre 社からすでに商品を調達 していたのであり,さらに,株式譲渡は,Schwarzkopf 社と Budelpack Liepvre 社の間で締結された調達契約〔第二契約〕のコーズではなかったことによっ て,株式代金の支払いがなかったことは,この契約のコーズを消滅させるもの ではない」(〔 〕内は筆者挿入。)と判断して,相殺を否定した。これに対し て,破毀院は,次のように述べて,諸事情を考慮して契約間の関連性の有無を 検討することのなかった原審を批判した。   破毀院商事部2014年 9 月23日判決「民法典1134条及び1218条に鑑みて, ……調達契約〔第二契約〕の締結に株式譲渡契約の締結を条件づける条 項,二つの契約の署名の同時性,及び,経済的観点から二つの契約を結び 付ける様々な契約条項,特に,譲渡株式代金の分割払いに関する金融上の 費用の Budelpack Liepvre 社に供給される〔調達契約上の〕製品代金の中 への組込み(incorporation)を予定する条項が,それぞれの契約を一つの 不可分な契約の集合(un ensemble contractuel indivisible)とする三者の意 図(intention),並びに,その債権及び債務をそれぞれ相互的なものと考 えて全体的な合意上の相殺(compensation conventionnelle globale)の目的 とする意思(volonté)を,本質的に(de nature),特徴づけないものかど うかを探求することがないので,控訴院は,その判決の理由を欠いている

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のである。」(〔 〕内は筆者挿入。)  このようにして,この判決は,三者の意思に基づいて,「一つの不可分な契 約の集合」が形成され,その三者間で「全体的な合意上の相殺」が目的とされ る場合に,法律上の相殺の要件である二者間での債務の対立要件を満たしてい なくても,合意上の相殺が有効となること,及び,それを債権譲受人に対抗す ることができることを示唆したのである。ただし,ここにおいては,一つの統 一的な契約の集合から生じた債権が存在するものとされるのであれば,当事者 の主観(合意)によって認められる「合意上の牽連性」ではなく,発生原因の 同一性によって客観的に認められる「法律上の牽連性」が問題になる[DANOS 2015, p. 1659]。本件の評釈には,一つの不可分な契約の集合に基づいて,この 破毀院は,その中心的な契約当事者が相殺を援用できることを認めるものの, 「このような解釈は,特別の状況,すなわち,二つの契約から生じた債権と債 務が重なり合っている(imbrication)場合にのみ可能になる」[LATINA 2015, nos 7 ― 8 ]として,制限的に理解されるべきことを指摘するものもある。これ に対して,本判決が公式判例集未搭載判例であるために,その射程は不明であ るとして,合意上の相殺についても相互的な債務(obligations réciproques)に ついて相殺することが可能であることを規定する改正条文(フ民新1348― 2 条) は,本判決の採用した解決策を維持する可能性を退けたものと考える学説もあ る[CLÉMENT 2016b]([齋藤 2017,217頁]も参照)。たとえば,HONTEBEYRIE [2016, n° 6 ] は, フ ラ ン ス 民 法 典 新 1348― 1 条 2 項 の「超 遡 及 性(super-rétroactivité)」によって,債権譲渡においても相殺の要件となる債務の相互性 は失われていないものとして説明しようとする(ただし,日本においては,将 来債権譲渡と相殺が問題となる場面では,たとえこのような遡及効を用いたと しても,なお,相殺の意思表示の時点での債務の相互性を認めることは困難で あろう)。

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Ⅲ.若干の検討――フランスの議論から得られる示唆 1 .「発生原因である契約」(日本民法新469条 2 項 2 号)の意味  以下,ここまでに紹介したフランスの議論を参考にして,「発生原因である 契約」(日民新469条 2 項 2 号)について検討していくことにする。  第一に,「発生原因である契約」の意味が問題になる。本稿のはじめに紹介 したように,同一の契約から二つの債務が生じた場合に日本民法新469条 2 項 2 号に基づいて相殺できることについては,学説では特に問題とはされていな いので,以下,自働債権と受働債権との発生原因が異なる契約である場合につ いて検討していくことにする。そのような契約間の関連性を認定するのに,フ ランスの判例や学説は,⒜枠契約,及び,⒝一つの統一的な契約の集合の存在 に言及してきた。 ⒜枠契約が存在する場合  まず,枠契約(contrat cadre)について,フランス契約法等改正においては, 「当事者がその将来の契約関係(relations contractuelles)の一般的特性について 取り決める(convenir)」という「合意(accord)」であるとする定義条文が新 設された(フランス民法典新1111条。なお,枠契約または枠組契約に関する従 来の議論は[野澤 1999][中田 1999]を参照)。牽連した債務の相殺に関する フランスの破毀院判決のこれまでの議論からは,このような枠契約の履行とし て締結された異なる個々の契約から債務が生じた場合に,それらの債務に牽連 性が認められることになる。  はじめに紹介したように日本の学説には,日本民法新469条 2 項 2 号に基づ いて,同一の基本契約のもとで統合することが適切な,異なる契約から生じた 債務の相殺を認めるべきであるとする見解が示されているのに対して,継続的 取引関係があっても,たとえば原料の売買契約と,その原料を利用して作られ た製品の売買契約が同一の契約でない場合には,一体的決済を予定した基本契 約があることを理由にする相殺を認めるべきでないとする見解もある(なお,

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類似の例について,フランスでは,前掲・破毀院商事部1995年 5 月 9 日判決に おいて,牽連した債務の相殺が認められている)。  フランスの議論は,単に枠契約があれば相殺を認めるかのようであるが,し かし,枠契約の履行としてなされる個々の契約から生じた債務について牽連性 を認めるのであって,枠契約がある当事者間の契約から生じたものであればど のようなものでも相殺を認めるというわけではない。枠契約の存在は,異なる 契約間の結びつきを認定するための根拠の一つであり,そこで,枠契約の存在 それ自体よりも,相殺に供される二つの債務がその枠契約によって実現される 一つの取引または一つの契約関係の履行過程において生じたかどうかというこ とが問題になるものと考えられる。 ⒝一つの統一的な契約の集合が存在する場合  つぎに,フランスの破毀院判決は,たとえ枠契約が存在しなくても,一つの 統一的なまたは不可分な契約の集合(un ensemble contractuel unique ou indivisible) が存在する場合には,これを構成する異なる契約から生じる債権の牽連性を認 める(契約の集合(ensemble)について,[都筑 2007,11頁,119―120頁,223― 227頁][小林 2009,197―201頁,202―203頁]を参照。また,契約の不可分性 について,[都筑 2007,214―237頁]を参照)。一つの統一的なまたは不可分な 契約の集合に関して,フランス民法典には,「同一の取引を実現するために複 数の契約の履行が必要な場合」に,一つの契約の消滅が他の契約の失効 (caducité)をもたらすことを内容とする規定が創設された(同新1186条 2 項)。 フランス共和国公式機関紙に掲載された契約法等改正に関するレポート [Rapport, JO 11 févr. 2016]には,「本条文は,同一の取引(opération)を実現 するのに複数契約の履行が必要である場合に,その契約の一つの解除または無 効によって,契約の集合(ensemble contractuel)の消滅(anéantissement)がも たらされることを規定する」ものと説明されている。そこで,「同一の取引の 実現」という観点が重要になるものといえる。  日本の債権法改正では,「要綱案のたたき台」には,「同一の契約」の解釈に

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あたって,契約書の数にこだわらずに「取引の一体性」が考慮されるものとし ている。このことは,同一の取引の実現という観点から複数契約の関連性を認 めるフランスの議論と同一の方向性を示しているものと考えられる。ただし, フランスにおいては,契約間の関連性(一つの統一的なまたは不可分な契約の 集合)は,一方で,「失効」という側面では契約の存続に,他方で,「牽連した 債務の相殺」という側面では債権の履行・存続に影響を与えるのであり,その 概念の応用範囲は広いように思われる。日本民法に新設された「発生原因であ る契約」(新469条 2 項 2 号)の解釈論は,このうち,後者に関するものといえ よう。そこで,日本民法新469条 2 項 2 号は,契約の関連性を検討する手掛か りにもなるものと考えられる。 2 .相殺の効果発生時――法律上の相殺と裁判上の相殺の区別  第二に,日本民法新469条 2 項 2 号に基づく相殺が認められるために,相殺 適状をどのように考えるかという問題が存在する。  民法(改正前)511条について無制限説に立つものとされる判例(最大判昭 和45年 6 月24日民集24巻 6 号587頁)は,「相殺適状に達しさえすれば,差押後 においても,これ〔差押え前に取得した債権〕を自働債権として相殺をなしう るものと解すべき」(〔 〕内は筆者挿入。)と述べる。そこで,相殺の担保的 機能に関する無制限説について,学説は,自働債権の弁済期が未到来の時点で 受働債権が差し押さえられたときには,いかに無制限説に立っても,相殺適状 がいまだ生じていないために,相殺することはできないものとして,それゆえ に,相殺が認められるのは差押債権者が差し押さえた債権を回収することなく 時間が経過し,自働債権の弁済期が到来して相殺適状が現実化したというごく 稀な場合に限られるものとする[中田 2013,410頁][潮見 2017,307―309頁]。  これと同様に,もしも相殺適状を要求する考えが日本民法新469条 2 項 2 号 についても採用されるものとすれば,同条による相殺権の保護は,限定された 範囲にとどまる可能性がある。これに対して,新469条 2 項 2 号について,「譲 受債権の弁済期という判断基準時において,『将来の給付の訴えを提起するこ

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とのできる請求権としての適格』を有している自働債権についてのみ,相殺権 を保護する」として自働債権の成熟度によって相殺の可否を判断すべきことを 主張して,受働債権の履行期には自働債権の「金額が特定されて立証できる」 のであれば履行期になくてもよいという考えを示すものもある[岡 2016,33 頁,36頁][岡 2017,364―365頁,368―369頁]。そこで,債権譲受人から請求 を受けた債務者が相殺を対抗する時点において,自働債権(譲渡人に対する債 権)の弁済期が到来していない場合には,このような抗弁が認められるかどう かということが問題になる。  前述に紹介したフランスにおける解決策は,牽連した債務の相殺について, 第三者の介入時またはその請求時と自働債権の弁済期到来の時間的先後という 偶然的な事情に左右されない解決策を提示しているものと考えられる。学説に は,その理論的な位置づけについて議論があるものの,フランス契約法改正を 通じて,「牽連した債務の相殺」には,民法典上,①法律上の相殺(債権譲渡 等における債務に内在する抗弁としての相殺)と,②裁判上の相殺(狭義の牽 連した債務の相殺)とがあることが示されたものと整理できる。①前者につい ては,当事者の援用によって,相殺の要件を満たした時に遡及して効果が生じ るものの(フ民新1347条 2 項),これに対して,②後者では,裁判官の言渡し によって,一方の債務のみについて請求可能になった時に遡及して効果が生じ るものとされている(フ民新1348― 1 条)。確かに,債務に内在する抗弁とし て,牽連した債務の法律上の相殺が援用される場合には,その効果の発生につ いて相殺適状が要求されるために,両債権の弁済期が到来しない限りは,相殺 を主張することができないようにみえる。しかし,訴訟においてこれが争われ ることになれば,裁判官は,一方の債務の弁済期が到来していないことを理由 として牽連した債務の相殺を否定することができないのであり,このようにし て裁判上の相殺が認められるならば,債務の一方のみについて請求可能になっ た時に遡及して効果が生じる。そこで,これを全体としてみれば,牽連した債 務の相殺は,一方の債権が弁済期であれば,他方が履行期になくても,債権譲 受人に対抗することができるというのに同等になると考えられる([齋藤

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2017,219頁]は,フランスにおける牽連した債務の相殺において,自働債権 の弁済期が要件とされていないことに注目する)。  このような解決策を参考にして,日本民法新469条 2 項 2 号の効果発生時に ついても,通常の相殺の効果発生時(民506条)とは異なる検討が可能になる ものと考えられる。債権法改正によって改められることのなかった民法506条 は,新しく規定された将来債権譲渡と相殺(新469条 2 項 2 号)を想定してい ないものと考えられるからである。確かに,日本民法新469条 2 項 2 号は,相 殺適状のうちの債務の対立要件を緩和するものと解釈できるものの,自働債権 の弁済期の到来という要件を緩和するものとまで読み込むことは困難のように もみえる。しかし,将来債権譲渡の債務者の抗弁を保護するには,まだ弁済期 にない自働債権であっても,受働債権に対する履行拒絶の抗弁権を債務者に付 与することが,同条の趣旨に合致するであろう。そこで,一つの解決策として は,この場合に,債務者に履行拒絶の抗弁権を付与しておいて,自働債権の弁 済期が到来した時点に,対当額において債権を消滅させることが考えられる。 しかし,立法論としては,フランスにおける前述の解決策の方がより簡潔で明 解なものになろう。 3 .債権譲渡と差押えの場合における相殺可能な場面の違い  フランス民法典は,差押えや債権譲渡のような受働債権に対する第三者の介 入の方法にかかわらず,また当事者の一方の倒産にかかわらず,相殺適状を緩 和して裁判上の相殺を認める。これに対して,日本民法においては,譲渡の対 抗要件具備時後の受働債権の「発生原因である契約」(新469条 2 項 2 号)に基 づいて生じた自働債権による相殺を可能にすることが規定されているのは債権 譲渡の場合についてのみであり,差押えの場合には,差押え後の受働債権の 「発生原因である契約」に基づく債権を自働債権とする相殺は規定されていな い。そのために,相殺の担保的機能という共通の視点から両者を考察すると, 「債権譲渡と相殺」及び「差押えと相殺」の二つの場合において,帰結が異な る可能性がある。差押えと相殺については,日本民法新511条の改正にかかわ

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る問題であるため,別稿において検討を行うことにするが,フランスでは,前 述のように,「牽連した債務の相殺」によって,第三者の介入の方法に関わら ず,統一的な解決が可能になっていることが参考になるものと思われる。 Ⅳ.おわりに  本稿では,フランス民法典に新たに規定された「牽連した債務の相殺」とい う概念を検討することによって,譲渡債権の「発生原因である契約」(日本民 法新469条 2 項 2 号)に,異なる二つの契約が締結されている場合が含まれる か否かについて考察した。  日本民法新469条 2 項 2 号は,将来債権譲渡によって譲渡人と債務者の二人 の間に債権の対立という状態が生じることがないとしても,債務者による相殺 を可能にする三者間法定相殺を定めるものである。そこで,「発生原因である 契約」の意味を検討することは,債権が三者(C → A → B)にまたがって存 在する場合に,中間債務者 A による三者間法定相殺の要件を明らかにするこ とになる。別稿[深川 2012,40―56頁]においては,これを三者間法定相殺の 第 2 類型として検討し,本稿と同様に,債務間の牽連性がその要件になるもの と考えた。そして,民法469条 2 項 2 号の新設によって,特に問題になるのは 二つの債務がそれぞれ異なる契約から生じる場合に,同条に基づいて相殺する ことができるのかということである。本稿は,この問題について,以下のよう に考える。  フランス民法典では,「牽連した債務の相殺」は,一方で法律上の相殺とし て債務に内在した抗弁の働きを有するのであり,他方で裁判上の相殺として法 律上の相殺の要件を満たさない場合にも効果を生じるものと規定されている。 これらの規定によって,一方の債務についての差押えや債権譲渡,当事者の一 方の倒産にもかかわらず,相殺が可能になる。破毀院は,二つの債務が同一契 約から発生した場合にはもちろんのこと,二つの債務が異なる契約に基づくも のであっても,それらの契約が当事者の間に存在する枠契約の履行として締結 されたものである場合に,または,このような枠契約がなくてもそれらの異な

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る契約が一つの統一的な契約の集合を構成する場合に,牽連した債務の相殺が 認められるものと判示する。学説には,これらを,債権の発生源の同一性か ら,法的牽連性が認められる場合として整理するものがある。さらに,異なる 契約から生じた債務が二者に対立する場合だけでなく,三者間にまたがって存 在する場合についても,学説は,その間の相殺(三者間相殺)を認める破毀院 判決に言及して,法律上の牽連性があるときには相殺が認められているものと 指摘する。  このように,異なる契約からそれぞれに生じた二つの債務であっても牽連性 が認められる場合があること,及び,牽連した債務の三者間相殺が認められる ことに関するフランスの議論は,譲渡債権の「発生原因である契約」(日本民 法新469条 2 項 2 号)の解釈を考えるにあたって参考になるものと思われる。 別稿[深川 2008,260―264頁,293頁]においては,フランスの破毀院判決を 参考にして,関連性のある異なる契約から生じた債務間には牽連性が認められ るものと考えた。本稿の検討によって,枠契約の存在が二つの債権の発生原因 である異なる契約間の関連性を認める事由の一つとなりうることを確認した。 ただし,枠契約が存在するというだけでなく,二つの債権の発生原因となるそ れぞれの契約は,その枠契約の実現として締結されたものであることが必要で ある。さらには,枠契約が存在しないとしても一つの統一的な契約の集合を構 成する異なる契約から二つの債務が生じる場合にも,これらの債務間の牽連性 が認められるというフランスの議論は,債務の牽連性の判断において,当該契 約によって実現される取引の同一性を探求する必要性を示唆するものと考えら れる。そこで,枠契約の有無を問わず,取引の同一性が異なる契約を関連付け る要件になるのであり,これによって,関連性のある異なる契約のそれぞれか ら生じる債務間の牽連性が認められることになるものといえよう。  また,日本民法新469条 2 項 2 号に基づく相殺の効果を考えるにあたって, 同法506条の適用が問題になる。すなわち,日本民法新469条 2 項 2 号に基づく 相殺が同法506条の適用を通じて遡及効を生じるものとすれば,相殺の意思表 示の時点において相殺適状にあること,換言すれば,両債権について弁済期が

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到来していなければならないとも考えられそうである。しかし,このように考 えると,将来債権譲渡がなされた場合に,譲渡人と継続的取引関係にある債務 者の相殺権を保護するという新469条 2 項 2 号の趣旨を実現できないおそれが ある。  フランス民法典では,法律上の相殺であっても終局的には裁判上の相殺が問 題になるものとすれば,結局,牽連した債務の相殺について,相殺に供される 債務の一方のみの弁済期が到来していれば,その弁済期に遡って相殺の効果が 生じるとする解決策が採用されている。このような解決策が参考になるにして も,日本民法には,フランス民法典のような裁判上の相殺に関する特別の条文 がないのでそのような遡及効を認めることは困難であると考えられるのであ り,債務者の相殺を保護するという新469条 2 項 2 号の趣旨に鑑みて,たとえ 一方(自働債権)の履行期が未到来であっても,債務者は,譲受人からの請求 に対してその履行を拒絶することができ(延期的抗弁権),その後,両債権の 弁済期が到来した時に相殺によって対当額で債務が消滅すると考えることによ り,将来債権譲渡における債務者の相殺を保護することが可能になろう。  日本民法新469条 2 項 2 号は,自働債権の取得と債権譲渡の対抗要件具備の いずれが先であるかとか,自働債権と受働債権のいずれの弁済期の到来が先で あるかとか,譲受人の請求と自働債権の弁済期の到来のいずれが先であるかと かいうような偶然的な時間の先後関係にとらわれずに,相殺の担保的機能の認 められるべき本質的な要件を解明する手がかりになる。しかし,差押えと相殺 (新511条)においては,これと同様の規律は新設されなかったので,債権譲渡 かまたは差押えかという第三者の介入方法の違いによって,相殺を対抗するこ とのできる範囲が異なる可能性がある。特に,差押え・転付命令の場合を考え ると,債権譲渡がなされた場合との帰結に違いが生じることには合理的な理由 がないように思われる。第三者の介入方法に関わらず,債務者または第三債務 者の相殺権を統一的に考える解釈論が必要になる。その検討を行うにあたっ て,「牽連した債務の相殺」に関する規定を創設したフランス民法典の下で は,そのような統一的な解決策を考えることが可能になっていることが参考に

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なるであろう。

引用文献

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