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遺伝子増幅と染色体異常

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69 シンポジウム

〔書聖鷹36七里63劉言〕

遺伝子操作の基礎と臨床

遺伝子増幅と染色体異常

東京女子医科大学 カン ダ

神 田

第二解剖学教室 ナオ トシ

尚 俊

(受付 昭和63年1月20日) はじめに 1970年代は遺伝子工学発展の基礎となった基本 的原理の確立期と位置づけられる.1980年代に入 ると,この原理を応用してヒトの遺伝子の解析が 本格的に始まり,遺伝性疾患や腫瘍細胞で,特定 遺伝子の異常が実証されるようになった.その成 果の一部は米国を中心に臨床診断に応用されるよ うになってきている.腫瘍細胞における遺伝子増 幅と染色体異常との関係も,遺伝子工学の手法を 用いて研究が飛躍的に発展した.その結果,一部 の腫瘍細胞が抗癌剤に対して抵抗性を獲得するの は,特定遺伝子の増幅によることが明らかにされ た.さらに,一部の腫瘍では特定遺伝子の増幅が 腫瘍を悪性化させていると考えられるようになっ ている. 遺伝子増幅と染色体異常 遺伝子増幅(gene ampli丘cation)とは,細胞の 核DNA中で特定の遺伝子の数が増える現象であ る.この現象は広範な生物種の正常細胞でも観察 されているが,ヒトでは現在のところ,薬剤耐性 細胞や腫瘍細胞に限って観察されている.Schim− keら1)はこの現象に注目し,当時確立しつつあっ た遺伝子工学の手法を導入して,腫瘍細胞が制癌 剤メソトレキセートに対し耐性を獲得する機構を 解明した.その結果,耐性がメソトレキセートに 対し拮抗するジヒドロ葉酸還元酵素の遺伝子量の 増加(増幅)と,その結果生じた遺伝子発現の増 大(酵素が大量に作られる)によることを明らか にした.また,遺伝子増幅の結果HSRs(homo− geneously staining regions,染色体均質染色領 域)やDMs(double minutes,微小染色体)等の 染色体異常が生じることも証明された.このよう

な薬剤耐性細胞で観察されたHSRsやDMs等の

染色体異常は,薬剤耐性と関係なくヒトの腫瘍細 胞でも観察されており,特に小児癌の1つである 神経芽細胞腫では出現頻度が高く,遺伝子増幅と の関係が注目されてきた(図1).Montgomery ら2)は神経芽細胞腫・細胞株から密度勾配遠心法 によりDMsを,また筆者ら3)はセルソーターで

HSRsを持った染色体を分離し, DMsやHSRs

の中に存在するDNAの解析を行った.その結果,

本腫瘍で観察されたDMsやHSRsも遺伝子増幅

の結果生じた染色体異常であり,しぼしぼ共通の 遺伝子増幅が認められ,神経芽細胞腫で起こる遺 伝子増幅が特定の遺伝子を標的にしていることが 示唆された. 腫瘍における遺伝子増幅 癌遺伝子は,人為的に細胞に導入されると,細 胞が腫瘍性の増殖能を獲得する遺伝子として,こ れまで約50種分離されている.癌遺伝子は正常細 胞にも存在し,細胞の生存にとって欠くことので きない遺伝子と考えられている.細胞腫瘍化に 伴って癌遺伝子に種々の異常が観察されており, 1)点突然変異,2)染色体転座に伴う染色体間移

Naotoshi KANDA〔Department of Anatomy, Tokyo Women’s Medical College〕:Gene amplification

and chromosome aberrations

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70

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ヨ齢・ 図 1 A:神経芽細胞腫・細胞株SCMC・N3に見られた微小染色体(DMs,例.矢印). DMs の数は細胞によって異なる(数個∼数百個). B:神経芽細胞腫・細胞株TNB・1で見られた第12染色体照照におけるN・彫夕‘遺伝子 の増幅(矢印).この部位はHSRsに相当する.(’ηs”π・・イブリッド法による) 動,3)増幅等が主な変化である.その結果,しぼ しぽ遺伝子発現の異常が引き起こされている.こ れらの異常の中には特定腫瘍に頻発している例も あり,腫瘍の特性を知る上で大事な指標となりつ つある.このうち遺伝子増幅については,種々の 癌遺伝子の増幅が多様な腫瘍で報告されてお り4),腫瘍特異性の高い例として,神経芽細胞腫, 肺小細胞癌におけるN・〃z夕。の増幅,腺上皮癌,特 に乳癌におけるθγ∂B・2の増幅がその発生頻度, 腫瘍の特性との関係で注目されている5). 神経芽細胞腫では,遺伝子増幅の存在が証明さ れると2)3),次に増幅を起こした遺伝子は癌遺伝子 と関係しているのではないかと考えられ,種々の

癌遺伝子をプローブに腫瘍のDNAが調べられ

た.その結果,レトロウイルスの癌遺伝子v・〃3夕6 の細胞性癌遺伝子である。・賢息に対し,部分的に 塩基配列の相同性を有する新しい癌遺伝子N一 彿夕6が分離された6,7).N・〃3夕6は全長約7kbの遺 伝子で,3つのエクソンより成り,ヒトの正常細 胞における遺伝子座は第2染色体短腕(2p23−24) である8).N・〃zッ。の増幅はHI期, IV期の神経芽細胞

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図2 サザンプロットハイブリダイゼーションによる 増幅遺伝子の検出 A:乳癌DNA中に見られたθ乃B・2遺伝子の増幅. a. 腫瘍組織,b.正常組織. B:神経芽細胞腫DNAに見られたN一〃3ッ。遺伝子の 増幅.a,正常組織, b.腫瘍組織. 腫の30∼40%で増幅を起こしており(図2),N・ 挽y6増幅型神経芽細胞腫は,非増幅型と比べてよ 一534一

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71 り悪性で,患者の生存期間が短いことが明らかと なった9). N一辮夕6遺伝子はDNA結合性の蛋白をコード しており,個体発生の初期に発現が充進ずること から,細胞の増幅,分化にとって不可欠の遺伝子 と考えられる.従って,腫瘍はN一〃z鋼遺伝子の増 幅とこれに続く発現の増大によって,より強い増 殖力を獲得したと推定される.実際,過去15年以 上にわたって株化されてきた40種以上の神経芽細 胞腫の細胞株や移植株では,その80%でN一鋭脚 の著しい増幅が観察されており6)7)10),N一眠6増幅 型腫瘍細胞が選択的に株化されてきたことを示し ている.神経芽細胞腫で頻発して観察されている 染色体異常DMsやHSRsも, N一腰6遺伝子増幅 の結果であることが加s伽ハイブリッド法で証 明された(図1).N粥夕6の増幅は肺小細胞癌でも 観察され,増幅型は悪性であると報告されている. 6乃B−2遺伝子はトリに赤芽球症や肉腫を誘発 するレトロウイルスの癌遺伝子であるが,この遺 伝子に類似の遺伝子として,ヒトより分離された. ¢7ろB−2の遺伝子産物は構造上,上皮細胞増殖因子 レセプターとよく似ており,腺上皮癌で過剰発現 が知られる11).Slamonら12)は米国で発生した乳 癌のDNAを調べ,67∂B−2の増幅と腫瘍の悪性度 の相関について,増幅型乳癌は早期発見にもかか わらず予後が悪くなるケースが多いと報告してい る.日本人集団において同様の関係が成立するか 否か未確認であるが,日本人にも6乃B−2増幅型 が相当の頻度で存在することが確かめられており (未発表),近い将来,結論が出されるであろう(図 2). さらに,上皮細胞増殖因子(EGF)レセプター 遺伝子の増幅は扁平上皮癌で見られ,細胞株では 12例中10例で増幅が報告された5).神経芽細胞腫 の場合と同様,遺伝子増幅型の扁平上皮癌が選択 的に株化されたことを示している. 遺伝子増幅発生のメカニズム 遺伝子増幅が起こる機構についてはまだ不明な 点が多い.その機構は,おそらく進化のかなり早 い段階で細胞が獲i得したと想定される.実際,さ まざまな生物種は発生,分化に伴って特定遺伝子 を増幅させる機構を持っており,ヒトでは進化の 過程で不要になったのではないかと考えられる. このメカニズムはDNAの組換えと修復に関与す る一連の遺伝子を内包しているはずであり,何ら かの“引き金”によって誤作動し,増幅が誘導さ れると考えられる. これまで調べられた限りでは,増幅を起こす単 位DNAぱ,標的遺伝子よりはるかに大きく,メソ トレキセート耐性細胞では少なくとも200∼300 kbある.また,神経芽細胞腫・細胞株IMR−32で は,増幅単位DNAの大きさは約2,000∼3,000kb もあり,この中にあるN一〃zy6遺伝子の大きさは 約7kbなので, N一軸夕6以外のいろいろな遺伝子が 増幅に巻き込まれていることは明らかである.た だし,神経芽細胞腫で増幅を起こした遺伝子はす べて第2染色体虚威に由来する.今後,この数千

kbのDNA中に存在するN脚6以外の遺伝子を

明らかにするとともに,増幅単位DNAの配列様 式と,DNA組換えに関与していると考えられる 特定塩基配列の同定が,増幅の機構を考える上の ヒントになるであろう.また,増幅を起こしたジ ヒドロ葉酸還元酵素遺伝子や,N一画翼遺伝子は増 幅に伴って不特定の染色体へ移動しており,増幅 の初期過程でゲノム全体に“ゆらぎ”が生じ,ゲ ノムの部分的再構成が起きたことを示している. おわりに ヒトの場合,遺伝子増幅は腫瘍細胞や薬剤耐性 細胞で観察される現象であり,一般に増幅を起こ した細胞は特定遺伝子の発現増大によって,より 優位の増殖力を獲得していると考えられる.遺伝 子増幅は,しばしば特徴ある染色体異常として

HSRsやDMsの出現を伴っており,これまでの

観察からHSRsやDMsが存在する場合,何らか

の遺伝子が増幅を起こしていると考えてよい.し かし,DNAレベルで増幅が検出されていながら

HSRsやDMsを検出できないことも少なくな

く,光学顕微鏡で識別できない程小さなDMs

(DNA量にして約2,000kb以下)の存在が考えら れる.また,HSRsやDMsが存在する腫瘍細胞の 中には既知の遺伝子の増幅が見られず,未知の遺 伝子が増幅を起こしていると考えられるので,こ 一535一

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5.

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1) Schimke RT ed: Gene Amplification. Cold Spring Harbor Laboratory, New York (1982) 2) Montgomery KT, Biedler JL, Spengler B et al: Specific DNA sequence amplification in human neuroblastoma cells. PNAS USA 80 [ 5724-5728, 1983

3) Kanda N, Schreck RR, Alt FW et al: '

tion of amplified DNA sequences from IMR-32 human neuroblastoma cells: Facilitation by

fluorescence-activated flow sorting of phase chromosomes. PNAS USA 80I4069 -4073, 1983

4) pm M th ue I me inth ilZl :]i cD ag re. Oncologia 20 I

58-67, 1987

5) Lt4ZS re, NPiRdiiti l erb BwaMagdemu[l tz-tz 7e pt -. ff ・ gg? . ut 31 : 1052-1065, 1986

6) Kohl NE, Kanda N, Schreck RR et al: Transposition and amplification of oncogene related sequences in human neuroblastomas. Cell 351359-36Z 1983

7) Schwab M, Alitalo K, Klempnauer KH et al :

Amplified DNA with limited homology to nayc

cellular oncogene is shared by human lastoma cell lines and a neuroblastoma tumour.

Nature 305I245-248, 1983

8) Schwab M, Varmus HE, Bishop JM et al: Chromosomal localization in normal human

cells and neuroblastomas of a gene related to

c-mpc. Nature 308I288-291, 1984

9) Seeger RC, Brodeur GM, Sather H et al:

Association of multiple copies of the N-nayc oncogene with rapid progression of tomas. N Eng J Med 313 : 1111Lll16, 1985 10) Kanda N, Tsuchida Y, Hata J et al: Amplification of IMR-32 clones 8, G21 and N-nayc in human neuroblastoma xenografts. Cancer Res 47:3291-3295, 1987

11) Yokota J, Toyoshima K, Sugimura T et al: Amplification of c-erbB-2 oncogene in human

adenocarcinomas in vivo. Lancet (April) : 765 -766, 1986

12) Slamon DJ, Clark GM, Wong SG et al: Human breast cancer: Correlation of relapse

and survival with amplification of the HER-2/

neu oncogene. Science 235:177-182, 1987

参照

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