(東女医大誌 第44巻 第12号頁1016∼1020昭和49年12月目
先天性腸閉鎖症の3症例
東京女子医科大学産婦人科学教室(主任 扇 内 オギ ウチ 菊 池 キク チ講師 相 羽
アイ ハ 大内広子教授)美恵・植村和子
カズ コ エ ウエ ムフ 信 勝・高 清 美 ノプ カツ コウ キ響 ミ早百合・助教授高橋文子
サ コ・ リ タカ ハシ フミ コ (受付 昭和49年9月18日) 緒 言 近年,社会的問題の一つとして,先天性奇形発 生の増加が注目されている.1万∼4万の出産に 対して1例出現すると言われている先天性腸閉鎖 症は,その中でも早期発見,診断により,手術的 に全治することが可能になってきた疾患の一つで ある.われわれは,最近,先天性小腸閉鎖症1 例,先天性十二指腸閉鎖症2例を経験したので報 告する. 症 例 症例 1 患者:金○英○,児,男 家族歴:特記すべき辱なし. 母の妊娠経過:最:終月経は昭和46年8月30日∼6日 間.胎動感知は昭和47年2月初旬より.妊娠中著変な し. 分娩経過:昭和47年4月2日陣痛発来にて入院.8時 間33分にて正常分娩,児の生下時体重3,5909.胎盤: 6509,著変なし.勝帯:43cm,膀帯巻絡頚部2回,羊 水:中等量,緑褐色混濁著明. 新生児経過概要:Apgar Score 7点(1分後). 蘇生術,胃内容物吸引.3分後暗泣あり.5分後全 身状態良好となるも,顔面にチアノーゼ出現した ため,保育器に収容,胃洗浄施行にて暗緑色の胃 内容物30ml採取.翌日,腹部膨満,嘔吐出現. 胆汁様の物20ml嘔吐す.肛ゴム施行により,ガ ス5発あり,少量の胎便排泄を認む.腹部膨満は 軽度となるも,腹部単純X−Pにて腸閉鎖を疑わ しめる像あり(写真1,2).小児外科受診,腸閉 鎖症の診断にて手術施行. 手術時所見:回盲部より口側に80cmにわたる小 腸発育不全による小腸閉鎖を認めるも,児は手術 中に死亡す, 写真1(症例1)金○英○児 正面像Mie OGIUCHI, M.D.,Kazuko UEMURA, M.D., Nob曲atsu KIKUCHI, M.D.,Kiyomi K6, M.D., Sayuri AIBA, M.D., Fumiko TAKAHASm, M.D.3 Department of Obstetrics and Gynecology(Director:Pro£Hiroko
写真2(症例1)金○英○児 側面像 症例 2 患者=牧○和○ 児 男 家族歴=特記すべぎ具なし. 母の妊娠経過:某大産婦人科にて不妊治療後,結婚5 年目に妊娠.最:終月経は昭和48年2月6日∼6日間.胎 動感知は昭和48年7月初旬より.妊娠10ヵ月(41週)か ら,妊娠中毒症(純粋妊娠中毒症)にて昭和48年11月22 日入院. 分娩経過:昭和48年11月24日午後3時陣痛発来,8時 間7分にて正常分娩.児の生下時体重2,7409.胎盤: 5409,白色硬塞,石灰沈着軽度にあり.膀帯:53cm, 卵膜附着.羊水:約3,000m1,混濁なし. 新生児経過概要:Apgar Score 9点(1分後),6 時間後哺乳開始,哺乳力良好.胎便の排泄あり. 2日目より軽度ロ区吐出現したが,哺乳力良好であ った.3日目に褐色μ区繕物を認め,胃洗浄施行に てやや粘稠な茶褐色の胃内容物を吸引した.排便 なきため肛ゴム施行後,少:量の胎便排泄を認めた が,一応哺乳中止し,観察中,腹部膨満もなくグ ル音聴診したため,5%T・Z・経口投与開始.軽 度の嘔吐を認めたが,哺乳力良好にて少:量の胎便 排泄あり.ミルクに切り替えたところ,再度ロ区吐 出現. 4日目に体重減少著しいため,哺乳中止 し,膀静脈より点滴開始.腹部単純X−Pにてイ レウスの疑いをもつも,立位にて撮影しなかった ため,確診困難であった.再度胎便排泄があり, 写真3(症例2)牧○和○児 正面像 写真4(症例2)牧○和○児 斜位像 経過観察中,5日目夜より全身状態が急激に悪化 し,褐色嘔吐多量,チアノーゼ出現,不規則呼 吸となり,腹部膨満著明となり,けいれん発作出 現,典型的なイレウス症状が認められたので,た だちに腹部単純X−Pをとり(写真3,4),double bubble signを認め,十二指腸閉鎖症の診断のも とに,小児外科受診,即手術施行となった. 手術時所見:十二指腸膜様閉鎖,十二指腸空腸 吻合術施行. 手術後,一過性に発熱を認むるも,点滴.カテー
テルよりのミルク注入,抗生物質(ケブリン)投 与にて,全身状態好転し,体重順調に増加,術後 21日目にカテーテル抜去,経口哺乳に切り替え, 経過良好にて退院す. 症例 3 患者:浜○秀○ 児 男 家族歴:特記すべき事なし. 母の妊娠経過=最終月経は昭和48年10月5日∼5日 間.胎動感知は昭和49年2月初旬より.妊娠7ヵ月(27 週)に下肢の浮腫出現.また左眼がかすむとの訴えによ り眼科受診し,中心性網膜炎と診断され,薬物投与(カ リクレイソ,ヨーレチン)をうけている. 分娩経過:昭和49年6月27日陣痛鶴来にて入院.11時 間25分にて正常分娩.児の無下時体重2,9909・胎盤, 6809,軽度の石灰沈着あり.携帯:43cm.羊水:2,930 m1,混濁なし. 新生児経過概要:Apgar Score 8点(1分後). 6時間後哺乳開始.哺乳力順調で,腹部膨満は認 めず.翌日(6月29日)突然,午後1時30分頃より 血性嘔吐出現肛ゴム施行すれども排ガスなく, 少量の灰色胎便を認めたのみであった。直ちに腹 部単純X−P撮影をし(写真5,6,7).double bubble signを認め,十二指腸閉鎖症の診断に て,小児外科受診,即手術施行. 手術後は,点滴,カテーテルよりのミルク注 入,抗生物質(ケブリン)投与をしていたが,術 写真5(症例3)浜○秀○児 正面像 写真6(症例3)浜○秀○児 側面像 写真7(症例3)浜○秀○児 正面像 中,胆汁が少し腹腔にもれたための局所性腹膜炎 と,さらに術後3日目より黄疸出現し,血中総ビ リルビン値25.6㎎/dlと上昇したため,光線療法48 時間施行し,血中総ビリルビン値は18.8mg/d1と下 降し,その後急激に11,3㎎佃と下降した.現在ま で経過良好である. 考 按 児の先天性奇形について,AndersonやReedl) により類別されたものをみると,全奇形中,中枢 系35%,骨筋系25%,心血管系20%,泌尿器系6
%,消化管系3%,複合奇形11%とあり,消化管 系の先天性閉鎖については,十二指押部,空回腸 部,結腸および直腸部,機能的なものとに分類さ れている.’ 閉鎖部位の頻度については,Gross2)の報告 セこよれをま, .140修山中, 一十二才日野音1≦32イ列, 空腸音属19 例,回腸部72例,回盲部2例,結腸部6例,多発 型9例とあり,回腸,十二指腸,空腸の順となっ ている.1733年にCalderにより始めて報告され た先天性十二指腸閉鎖症は,消化管奇形中でも, 部位,頻度などで高位をしめている. その原因には,外部より機械的に閉鎖,狭窄さ れている外因性のものと,内腔が離断,門端,隔 膜閉鎖,又は膜様物で狭窄されている等の内因性 のものとあり,その性質上,母体の羊水過多症と の合併が注目されている. 轡型については,膜様物による閉鎖(膜様閉鎖) と,その他の型によるものの二種に大別され,膜様 閉鎖はEmbryologicalな原因によっておこる典型 的な閉鎖形式と言われている.いとこ同志による 結婚で,同胞9平中4名,他のいとこ同志による 同胞4名子3名が,十二指腸又は空腸閉鎖で手術1 されたとのMishalany3), Berant4)の報告もある. 羊水過多症の頻度は,出産数の0.3∼0.6%と 言われ5),その原因は,母体側では,糖尿病,妊 娠中毒症,RH因子不適合,梅毒,その他心・ 肺・肝・腎疾患,胎児側では,胎児の奇形,胎児 の静脈循環の閉鎖による血流停滞,浮腫,浸出液 等によるもの,双胎などによるものと言われてい る.Rahimtulla6)は,羊水の異常,特に過多に 118例中31例に消化管の奇形が認められたと報告 している.疋田?)らば,薬物,膀帯,胎盤の異常 と消化管奇形との関連性は実証されていないが, 注意しておく事が重要であると述べている. 先天性腸閉鎖症に合併する奇形の頻度は多く, YoungおよびWilkinson8)らによれぽ,内因性閉 鎖症には70%,外因性には27%とある. われわれが経験した2例は,いずれも十二指腸 部膜様閉鎖であった.父母については,遺伝関 係,結婚,既往疾患などいずれも著変なく,羊水 過多症は,分娩時発見2例,羊水混濁1例,胎盤 は2例に石灰沈着,1’例に石灰硬塞,1例に卵膜 付着あり,!例に膀帯巻絡頚部2回があった. 先天性腸閉鎖症は,急激な嘔吐,腹部膨満,胎 便排泄の異常等の臨床像と共に,レントゲン所見
でdouble bubble sign,ガス像の有無,母の妊娠
および分娩歴によって診断が確定されるが,発見 が遅れると,駆吐,脱水,磯餓,そして新生児の 腸管は未発達で壁が薄いため,拡張され血流が停 止,壊死に陥り破裂し腹膜炎となり,外科的処置 なくしては1週間以内に死亡する. 先天性十二指腸閉鎖症の手術に最初に成功した のは,Fockens(1911年9))であり,日本での最 初の手術成功例は隅田ら10)の報告によれぽ,思田 ら(1957年)によってなされ,1967年までの全症 例は55こ口,そのうち生存例は19例(34。5%),新 生児期のものでは13例(23。6%)となっている. また駿河ら11)は,腸閉鎖では,最近(1970年)生 存率60%を越えるようになったと報告している. 手術形式,生存成績では,十二指腸空腸吻合術 が最も多くなされ,また良好である.その他に, 胃空腸吻合術,十二指腸十二指腸吻合術などがあ る.当報告の2例は,十二指腸空腸吻合術が施行 され,全例生存している. 産科医にとっては,早期診断をつけることが最 重要であるが,腹部膨満,嘔吐,便排泄異常の3 点が主症状で,どの様に出現してくるかが二二で ある.植田12),島田ら13)も嘔吐のひどい場合,胃 内容を吸引,20∼30mlの胆汁の存在する時はイ レウスを疑うこと.便の初回排泄までの時間,胎 便の性状,凝血混入の有無,便秘等について十分 観察することの重要性を述べている. 結 語 1)われわれは,稀な疾患である先天性十二指 腸,腸閉鎖症を短期間に経験した. 2)第1例は,術中に死亡したが,第2例と第 3例は手術により救:命しえた.第2例は症状の出 現が非特異的で,早期診断が困難であったが,早 期加療により,第3例は第2例の経験により早期 発見となり,児の生存と予後を良好にできたと思 われる.
..eを終るにあたり,ご校閲を賜わりました大内広子教 授に深謝致します・ .(木稿の大要は第202回四水会にて発表した.) .文 献 ユ).And・掌・ρn・聡・q a唄S・C・Rρ・d・Lik・liね・・d ・fRe⑩e・ce.・f C・ng・・i・嘩Mal恥・m・ゆ・. J.Lancet 74175(May)(1954)
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