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虚血性心疾患―冠攣縮性狭心症・急性心筋梗塞―におけるエンドセリンの病態生理学的意義

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(1)

原 著

〔二二薔、第二、二言〕

虚血性心疾患一意攣縮性狭心症・急性心筋梗塞一における

エンドセリソの病態生理学的野義

東京女子医科大学附属日本心臓血圧研.究所 循環器内科酷虐室(主任      オカ        トモ       岡   朋 :細田瑳一.教授)     コ . 子 (受付 平成5年8月26日) P.athophysiological Significances of Plasma.Endothelin in.Patients with         Coronary Artery Disease, Vasospastic Angina and        A¢ute Myocardial Infarction        Tomoko OKA Departmeht of Cardiology(Director:Prof. Saichi HOSODA), The Heart Institute of Japan,        Tokyo Women’s Medical College    To elucidate the pathophysiological significancβof endothelin(ET)in coronary artery disease, we determined plasma ET levels i耳patients with vasospastic angina and acute myocardial infarction (AMI). Plasma ET levels were elevated in patients with vasospastic angina, as compared to controls. ET Ievels did not, however, change.significantly during coronary artery spasm. Therefore, we speculate that ET increases the basal tone of coronary arteries, thought it may not trigger coronary ・a士tery spasn}。 In patients with AMI, plasma ET levels were elevated within 24 hours Qf 6nset. Moreover, those patients whose left ventricular function. р奄п@not improve showed further elevatlon after succuessful reperfusion. Therefore, ET may be an import.ant modulator of vasucu.lar tone ahd reperfu.sion inj ury.in patients with coronary artery disease.        緒  言  血管内皮細胞は,従来は血管内面と曲管壁との 物理的境界としてしか.認識されていなかったが, 1980年Furchgott&Zawadzki1)により内皮細胞 由来め血管弛緩函子.(βndot恥elium・derived relax・ ing factor:EDRF)の存在が指摘されて以来, 次々と新しい機能が明らかにされている.即ち, 凝固因子,抗凝固因子の産生,血液と組織間の物 質の輸送,各種血管作動物質の活性化および不活 化等である2)(表).この中でも,EDRFについて は近年Palmerら3)によりnitric oxide(NO).がそ の.大部分を占めることが明らかにされたが,血管       ず 収縮因子(ehdothelium−derived contracting fac・

tor:ECDF)は1982年DeMey&Vanhoutte4)に

表 血管内.皮細胞の機能 1,Prevention of the adherence of platelets, leukocytes,   and monocytes 2. Production of factors involved in blood clotting    von Willebrand factor VHl    plasm.inogen activators, inhibitors    a痴一thrombin III, thrombomodωin, heparan sUlfate 3.Capillary transport and exchanges between blood   and tissue 4.Activation(Ang I)and inactivation(Le, NE,5・HT,   BK, ADP)of circulating homlones and other plas血a   constltuents 5. Synthesis and secretion of    Vasodilator  =PGI2, EDRF    Vasoconstrictor=Ang II,prostanoids, histamine,       EDCF, TX.A2, growth factors       regulating VSMC gr6wth

(2)

よりその存在が指摘されたもののその本態は不明 であった.しかしYanagisawaらにより1988年ブ タ大動脈内皮細胞の培養上清から単離されたエン ドセリソ(ET)5)は,その特徴的な血管作用が今ま で知られている血管作動物質とは全く異なってい ることから注目を集めた.ETは21残基のアミノ 酸からなるペプタイドでありその血管収縮作用は 非常に強力(angiotensin IIの100倍5))でかつ持続 性(ratにおける昇圧作用はET投与後60分以上 持続5))である.さらにETはET・1, ET−2, ET− 3の3種類のサブタイプから成るファミリーを形 成し,これらは血管内皮細胞だけでなく神経系, 消化器系など各種の臓器で発現しており,局所で のgrowth factorとしての作用も注目されるよう になった6).従って生体内でのETの産生,分泌は 厳密な調節を受けていると考えられるが,これに ついては未だ不明の点が多い.このようなETの 性質からETレベルの異常と各種病態との関連が 注目され,実験的に高血圧7)8)や脳攣縮9),冠動脈攣 縮’0)∼12)との関連が報告されている.さらに最近,

高感度で特異的なエンドセリンの

radioimmunoassay13)やenzyme immunoassay14) による測定法が開発され,ヒトの血漿,髄液,尿

にET4が存在することが明らかになっ

た13)15)16).また,血中ET−1の動態として,本態性 高血圧症17)18),慢性腎不全19)20),急性腎不全2D,急 性心筋梗塞22)23),心原性シ・ック24),経皮的冠動脈 再建術(PTCA)25}などで上昇することが報告され ているが,いずれも予報的な報告であり,病態の 重症度と血中ET濃度との関係を詳細に検討した 報告一特にin vivoでの急性心筋梗塞における再 論流障害と血中エソドセリン濃度との関係につい ての報告は見られない.そこで筆者らは,代表的 な心疾患であり血管のtonusの異常が病態に大き く関わると考えられる冠動脈疾患に注目し,病態 の推移とETの血中レベルに関連がみられるか検 討した.本研究では,冠攣縮性狭心症(VSA)と 急性心筋梗塞(AMDの症例において経時的に血 中エンドセリン濃度を測定し,臨床病態と対比検 討を行ったので報告する.        対象および方法  1.症例および採血プロトコール  1)冠攣縮性狭心症(VSA):11例(37∼71歳)

 VSAは全例ST上昇を伴う胸痛発作を起こし

て入院し,急性期の冠動脈造影で有意な狭窄がな いことを確認した症例である.平均第12病日にそ れまで投与していたカルシウム拮抗薬と硝酸薬を 一時中止し冠攣縮の誘発のための冠動脈造影試験 を施行した.冠攣縮誘発試験は7例でアセチルコ リン,2例でエルゴノビソを使用し,全例で冠攣 縮を誘発できた..また,2例においては造影検査 中に自然発作を認めた.  コントロール時,発作中,寛解時(STが基線に 復してから5分以内)に上行大動脈(Asc Ao), 冠状静脈洞(CS)および大腿静脈(FV)より採血 を行い血中エンドセリン濃度を測定した.また, カテーテル挿入による血中エンドセリン濃度への 影響を調べる目的で,心不全を伴わない弁膜症例 8例,不整脈症例11例,肥大型心筋症1例につい て心臓カテーテル検査時,最初に静脈にシースを 挿入したとき(FV1),右心系,左心系にカテーテ ルが挿入された後(FV2)の血中エンドセリン濃 度を比較した.不整脈症例ではペーシング前に上 記の採血を行った.  2)急性心筋梗塞:17例(48∼83歳)  対象は典型的な胸痛と心電図変化を認め,入院 後緊急冠動脈造影にて左冠動脈前下行枝または右 冠動脈近位部に完全閉塞を認めた17例である.前 壁梗塞12例,鼠壁梗塞5例で全例Killip 1群であ り,その後の経時的に末梢採血により全例心筋逸 脱酵素の上昇が確認された.再馬流療法としては, 冠動脈内血栓溶解療法を11例に,冠動脈形成術を 6例に施行し,15例で再両流が得られた.血中ET 濃度測定のための採血は入院時(再灌流療法施行 前),再臨流施行後4時間,第2病日以降慢性期ま で経時的に行った.そして血中ET濃:度とKillip 分類,血中creatine kinase(CK)最高値,左室 造影から得られた左室駆出率(LVEF)との対比, 検討を行った.  再渦流が得られた例では,再灌流直後と3週間 後に冠動脈造影と左室造影を施行し,急性期と,

一11一

(3)

左室壁運動改善二 二性期 慢性期 乳◎り 左室壁運動非改善例 急性期 慢性期 「L葡 9a 4 2 0 −2 −4 図1 Centerline methodによる局所心機能の評価一心筋梗塞急性期と慢性期の比較一  □で囲まれる面積をasynergyの程度と広がりを表す指標と考え, wan motion abnor・ mality index(WMAI)とした.急性期と慢性期のWMAIを比較して,改善がみられ たものを改善群,WMAIが不変か悪化しているものを非改善群として,両群間での血中  ETレベルの推移を比較した.  改善群:7例,非改善例:8例. 慢性期の局所心機能の評価を左室造影のcenter− line method26)を用いて検討した. Centerline

methodで一2SD以下のasynergyを示す斜線の

部分の面積をasynergyの程度と範囲を示す指標 と考え,wall motion abnormality index(WMAI) と定義した(図1).急性期と慢性期でこのWMAI を比較し,これが縮小した群を壁運動改善群,拡 大した群を壁運動非改善群とし,詩学間で血中 ET濃度を比較検討した.・  2.血中エンドセリン濃度測定法  血中エソドセリン濃度測定は成瀬らによる既報 の方法で行った27).すなわち血漿からミニカラム (C2)を用い血漿1mlを等量の5%酢酸にて酸化 後,カラムに添加し,5%酢酸ついで70%アセト ニトリル/5%酢酸混合液にて洗浄後,70%メタ ノール/0.1%TFA混合液にて溶出し,凍結乾燥 後,radioimmunoassayに供した. R1A系は0.3% BSA,0.1%Tween 20含有0.1M Tris−HCI(pH 8.2)をassay bufferとして,抗血清添加後,1−1 dad遅延反応にて1251−ET(Amersham社製)を添 加後,Marcella−10(大日本製薬)を用いた二抗体 法にてB/F分離を行った.その結果,この抽出系 での血漿からの回収率は90%と高値であり,健常 者(n=65)における血中ET濃度は8.0±2.6pg/ mlであった.また,測定内誤差7.2%,測定間誤差 9.4%と良好な再現性が得られた.  なお,1血中ET濃度の経時的変化は対応のある t検定を行い,その他は対応のないt検定を行っ た.p<0.05を有意差ありと判定した.          結  果  1.冠攣縮性狭心症における血中エンドセリン 濃度  1)カテーテルによる血中エンドセリン濃:度へ の影響:非冠動脈疾患の症例での血中エンドセリ ン濃度はFV1で8.2±3.4pg/m1, FV2で8.9±3.4 pg/mlと差はなく,カテーテル挿入および挿入後 の操作で血中エソドセリンレベルの上昇は認めら

・ll・・「黙

・..il

l;1彗

0 COIltrol  VSA 図2 冠攣縮性狭心症(VSA)における   血中ETレベル

(4)

Ascending aorta P9/mI 2⑪ 15 10 5 0

ト{

P9/m1 25 20 15 10 Coronary sinus P9/mI 25 20・ 15・ lG 5 0・ Femoral vein

ト1

 Control Spasm       Colltl℃l Spasm      Control Spasm 図3 Ascending aorta, coronary sinus, femor31 veinにおける冠攣縮時の   ETレベル れなかった.また,健常者の血中エンドセリン濃 度と比較しても有意差はなかった.  2)VSA症例では発作誘発前の静脈血中エンド セリン濃度は15.3±4.8pg/mlと健常者に比べ有 意に(p〈0.01)に高値であった(図2).また, Asc Ao, CSでのET濃度は12.0±5.5,13.3±4.2 pg/mlと高値を示したが,各部位での血中エンド     (P9/ml)   20 15 10 5     O         ControI  AMl 図4 急性心筋梗塞(AMI)における血中ETレベル セリ/濃度間に有意差はなかった.  3)冠動脈攣縮誘発時のAsc Ao, CS, FVでの エンドセリソ濃度は,コントロール時と比べどの 部位でも有意差はなく.,冠動脈攣縮による急性の 変化は認められなかった(図3).  2.急性心筋梗塞症例における血中エンドセリ ン濃度  1)AMI症例において血中エンドセリン濃度は 急性期に最高16.6±4.8pg/m1と健常者に比べ有 意に上昇していた(図4).

 ET

(P9/mi) 30 20 10 0

 前後 2 3−56−89一病日

 白田流 図5 血中ETレベルの推移‘   一左室壁運動改善例(58歳男)一

一13一

(5)

 ET

(P9/ml) 30 20 P9!ml  30 20 10 0 ** ** * *p<0.05 **o<0.O1 10 0

 剛後 2 3−56−89一病日

 再灌流 図6 血中ETレベルの推移   一左室壁運動非改善例(68歳女)一 P囑1 20 10 P9/m[  30 20 10 0

前後 2 3−5、6−89一

       病日再灌流 図8 血中ETレベルの経時的変化   一左室壁運動非改善群一   細線は個々の症例を示す * ’ * * 改善群 非改善群 mean±SD ★pく0.05

0前後 23づ昏8外病日

図7 血中ETレベルの経時的変化   一左室壁運動改善二一   細線は個々の症例を示す  2)血中ET濃:度最高値と, CK最高値, LVEF との間に有意な相関は認められなかった.  3)Centerline methodにより急性期および慢 性期の局所心機能を比較した結果,再疎通が得ら

れた15例中壁運動改善群7例,非改善群は8例

あった.壁運動改善例,および壁運動非改善例の 実例を示す(図5,6).  再灌流までの時間は改善群,非改善群の間で差 はなかった.再灌流した責任冠動脈は,漫性期の 冠動脈造影でも15例全例良好に血流が保たれてお り,再閉塞は1例も認めなかった.  4)壁運動改善群では血中ET濃度の推移は図

  前後 2 3−56−89一

  再灌流      病目 図9 血中ETレベルの経時的変化   一左室壁運動改善群,非改善群間での比較一 7,9に示すように,再灌流前15.0±6.9pg/ml, 再灌一三14.0±5.8pg/ml,第2病日11.3±6.1pg/ ml,第3∼5病日9.8±3.6pg/ml,第6∼8病日 13.7±5.2pg/ml,第9病日以降10.2±5.7pg/m1 と,再灌流前が最も高く,再灌流後より慢性期ま で漸次低下した.  これに対して壁運動非改善群では,再灌流前 14.4±4.4pg/mlであったET濃度が,再灌流後 21.8±5.5pg/mlと有意に(p<0.05)上昇し,こ の上昇は第2病日(21.2±4.8pg/ml)まで持続し た.再灌流前のET濃度は,壁運動改善群と非改 善群の問で差はみられなかったが,再灌流後と第 2病日の血中ET濃度は壁運動非改善群で改善群 に比べて有意に高値を示した(p<0.05).第3病 日以降は改善群と同様慢性期まで徐々に低下した (図8,9).

(6)

         考  案

 ETの強力かつ持続性の血管収縮作用や

growth factorとしての作用から,高血圧や血管 攣縮あるいは動脈硬化との関連が注目され,現在 までに膨大な数の報告がある.しかし生体内に存 在するETの量が微量であるため,これまでの実 験的報告はほとんど培養細胞を用いたin vitroの 系か,外因性にETを投与して生体の反応を見る というものであった.ところが近年高感度で特異

的なETに対するradioimmunoassayが確立さ

れ,臨床的に種々の病態で血中エンドセリン濃度 のデータが蓄積されつつある.ただしETは血中 を循環して標的臓器に働くhormone様の作用よ り,局所でparacrine, autocrineとして働いてい る可能性が高いため,血中濃度がどの程度病態を 反映するかについては議論のあるところである. しかし最近の高血圧や腎不全におけるETの血中 濃度の報告17)によると,合併症の進行や重症度と ET濃度との間に関連がみられ,たとえ血中のET

濃度が局所からのoverHowを見ているもので

あったにしても,病態を現す何らかの指標になる 可能性がある.本研究もこのような視点から,冠 動脈の収縮,閉塞,再疎通というような冠循環に おける大きなeventでETの動きと病態の推移と の関連を検討した.  1.冠攣縮性狭心症における血中エンドセリン  冠攣縮の機序については,未だに不明の点が多 いが,一般的には基礎に動脈硬化を伴う血管壁の 変化があり,これがprostanoid, EDRF, ETなど の液性因子と自律神経系で形成する血管トーヌス の調節系が収縮する側に傾きやすい状態にあり, そこで何らかの刺激が加わって強い血管収縮が起 こるものと理解されている28)∼30).ETの持つ持続 性の強力な血管収縮作用から,これが血管tonus に関与していることは容易に想像され,実際に動 物実験で冠動脈内にETを投与すると著明な冠攣 縮と心筋虚血が引き起こされることから10),冠攣 縮性狭心症(VSA)とエソドセリンとの関連が示 唆されている.

 本研究ではVSA患者の全例で血中ET濃度は

高値を示したが,冠静脈洞と大動脈,静脈での血 一15 中濃度の比較から,冠循環論での産生詠進は見ら れず,また冠攣縮時あるいはその直後(発作寛解 後5分以内)での血中濃度の変化,すなわち急速 変化は認められなかった.これらの結果は冠攣縮 とETの関連について,以下の2つの点を想定さ せるものである.  第1は,冠攣縮性狭心症の症例では,たとえ非 発作時であってもおそらく“発作の起こりやすい 時期”では血中ET濃度が高いという点である. 本研究の症例は全例ST上昇発作を起こして入院 し,投薬により一時発作は消失してはいたものの, 約12日後の検査のための薬物の一時中止時より, 容易に発作が誘発され易い状態にあった.血中

ET濃度の測定はこの時期に行われたものであ

り,これが高値を示していたことは,この時期の 狭心発作の起こり易さ,あるいは冠攣縮発生の閾 値の低さを反映している可能性がある.狭心症(特 に冠攣縮の関与する狭心症)の症例では,ある時 期非常に発作が起こり易い状態が続くがしぼらく すると落ち着き,その後また発作の多発する時期 が来るというように,症状の変動を示すことは日 常よく経験することである.ETはこのような長 期的な病態の推移と関連することが想定される が,この点をさらに明らかにするためには,今回 検討した症例の慢性期一発作が十分コントロール され,長:期間発作が見られない時期一に血中ET 濃度を測定して,今回の測定値と比較することが 必要である.  第2に発作中および非発作時に冠循環内での ET産生充進が冠攣縮そのもののtriggerになっ ている可能性は少ないという点である.最近冠攣

縮時に冠循環でのET濃度が上昇するという報

告12)が見られるが,我々の症例では発作中(および 非発作時)冠静脈洞でのET濃度が冠循環の上流 にあたる大動脈でのET濃度に比べて上昇してい る証拠は得られなかった.  数分間隔の採血であり,またautocrine・para− crineでの局所の現象を血中濃度で推測すること が困難などの測定上の制約からETの微妙な変化 は検出できていない.たとえぽ今回の検討では発 作中,発作後にわたって連続的に血中ETをモニ

(7)

ターしているわけではないので秒単位の変化は記 録できないこと,また冠血流量を測定していない ので,たとえ1枚に攣縮とともに強いET放出が 起こってもその枝の流量の減少のため他枝からの 血流でET濃度が希釈されている可能性も否定は できない.しかし冠攣縮誘発試験中は発作中から 発作直後には頻回(直後,1∼2分後,5分後) に採血しており,もし多量のET産生,放出が冠 循環内で起こっていれぽ,少なくともwashoutの どこかの時点でETの上昇が記録できるものと思 おれる.  さらにETが局所で内皮細胞から血管平滑筋細 胞に対してparacrineとして働くとすれば,微妙 な局所での変化を血中レベルでは検出できない可 能性も考えられる.しかしETの血管収縮作用が いかに強力であっても,内皮細胞を剥離した摘出 標本を用いたET投与実験でも明らかな収縮を引

き起こすためにはpmolオーダーのETが必要で

あり,今回使用したradioimmunoassay系でも

ETはpg/mlの濃度は検出可能である. ET投与 実験で血管収縮は長時間(約60分)持続する.ま た厳密なin vitroの実験においてもETのwash− outには数十分を要する5).臨床的に見る冠攣縮の 持続は通常数分であり時間経過が合致しない.  ETの産生,放出制御に関する細胞内情報伝達 系については,最近Gkinase, AP1/Junを介する ET遺伝子の転写調節が主経路であるとされてい る31).しかも内皮細胞内に明らかな分泌顯粒の存 在が確認されていないこと,内皮細胞内のエンド セリン含量が細胞外に比べてごく少ないことより エンドセリンの分泌様式は構成的(constitutive) な経路を介し,種々の刺激因子の作用はエンドセ リソ遺伝子の転写あるいは,プロセッシングのレ ベルで行われると推測される.臨床的にみる冠攣 縮性狭心症発作は,周期的に冠攣縮を繰り返すと いった症例が多く,このような場合冠攣縮といっ た数十秒から数分単位の速い動きには,構成的 (constitutive)なETの放出経路は対応でぎない と考えられ,冠攣縮発作前後でエソドセリソ濃度 に差が認められなかったものと思われる.このよ うにETレベルの上昇が即冠攣縮のtriggerとは

なり難いが,ETは冠攣縮性狭心症患者の血管

tonusの充進状態に何らかの関連を持つものと考 えられる.  2.急性心筋梗塞における血中エンドセリン  AMI症例では急性期に血中エソドセリソ濃度 は有意に上昇していた.またET上昇の程度と心 筋梗塞の梗塞量との間には相関関係はなかった が,これらの結果は過去の報告と一致するもので ある22)24).この心筋梗塞急性期における血中ET 濃度の上昇が,はたして冠循環からのものなのか, あるいは癖痛,精神的ストレス,または末梢血管 抵抗を増大させ血圧を維持するといった急性期の 生体の防御機序として働く全身性のものかについ ては明らかではない.  しかし再灌流療法を施行し急性期に再論流の得 られた例をみると,梗塞部位心筋の壊死の進行状 態により,血中ET濃度の推移に明らかな差がみ られた.慢性期の左室造影で壁運動異常の範囲と 程度が急性期のそれに比べて縮・」・した(WMAIが 低下した)一直運動改善群では,ET濃度は再灌八 前が最も高値で,再違命後は低下しそのまま慢性 期まで漸次低下する一方向性のパターンを示し た.一方,慢性期の左室造影で壁運動異常の範囲 と程度が急性;期と比べてさらに拡大した(WMAI が増加した)一二運動非改善群では,ET濃:度は義 心流前から正常に比べて高値であったが,再灌流 後これがさらに上昇し,この上昇が第2虚日まで 持続するパターンをとった.この非改善群では, 慢性期の冠動脈造影上再閉塞が1例もないことか らいわゆる再訴流障害を起こしたものと考えられ

る.さらに今回の症例で重症心不全や心原性

ショック例は1例もなく,梗塞サイズ,血行動態 も改善群,非改善群で差がないことから,この非 改善群での再灌流感のETの上昇は末梢循環から のものではなく,冠循環内での産生,放出の増加 による可能性が高いと思われる.

実験的にもWatanabeらがラットでの再越流

実験で,再灌雨後血中および心筋組織でのETの 著明な上昇を報告している.再灌流障害により生 じたトロンボキサンA2やフリーラジカルなどの 化学物質,あるいは再灌流による血管壁での急激

(8)

なshear stressの増加がno reHow

phenomenon32)を起こしたり,ET自体が心筋に対 してcytokineとして働くことから33),心筋へ直接 障害を及ぼしている可能性もある.注目されるべ きはWatanabeら34)35)の再灌流実験で事前にET の抗体を投与しておくと,梗塞サイズが縮小する ことである.ETが原因であれ結果であれ,これが 再高這障害に大きく関与しているのは間違いない ものと思われる.  今後病態を理解する上では,ETが心筋組織中 のどの細胞で造られているのか,その産生は遺伝 子の転写調節を介するものかどうかを免疫組織染 色や遺伝子レベルでの検討をする必要がある.ま た治療面でも,ETの拮抗物質の再灌流障害への 効果が今後検討されていくものと思われる.          総  括  虚血性心疾患(冠攣縮性狭心症および急性心筋 梗塞)におけるエンドセリンの病態生理学的意義 を検討した.  1)冠攣縮性狭心症例では薬剤投与中止下での 血中エソドセリソ濃度は対照群と比べ有意に高 く,冠血管トーヌスとの関わりが推測された.し かし冠攣縮発作による急性の変化はみられなかっ た.即ちエンドセリンは冠攣縮急性期のtrigger とはなり難いが,冠血管のbasal toneを上げるも のと考えられた.  2)心筋梗塞急性期には血中エンドセリン濃度 は上昇しており,経過と共に徐々に低下していく パターンをとった..しかし再灌流療法施行例のう ち再臨三論に壁運動の改善がみられない例では, 血中エンドセリン濃度が再灌流後さらに上昇し た.エンドセリンは再島流障害の病態生理に大き く関わるものと推定される.  以上よりエンドセリンは冠動脈疾患においても 病態生理学的な意義を有すると考えられ,その産 生,放出は血管トーヌスや組織の唐心状態の変化 に密接に関連するものと考えられた.  稿を終えるにあたり,御指導,御校閲を賜りました 細田瑳一教授ならびに,終始御指導頂きました川名正 敏先生に深甚なる謝意を表します.また,研究に多大 なる御援助を頂ぎました第二内科学教室成瀬光栄講 師に深謝致します.  本論文の要旨は第54回,および第55回日本循環器学 会総会,第31回脈管学会において発表した.          文  献  1)Furchgott RF, Zawadzki JV:The obliga・   tory role of endoth61ial cells in the relaxation   of arterial smooth muscle by acetylcholine.   Nature 288二373−376, 1980  2)成瀬光栄,成瀬清子,出村 博:血管内皮細胞由   来の新しい血管作動物質.エンドセリンの現況と   展望.東女医大誌 59:1285−1295,1989  3)Palmer RMJ, Moncada S:A novel   citrulline−forming enzyme implicated in the.   formation of nitric oxide by vascular endothe・   lial cells. Biochem Biophys Res Commun 1581   348−352, 1989  4)De Mey JG, Vanhoutte PM: Heterogeneous   behavior of the canine arterial and venous   wa11, importance of the endothelium, Circ Res   51 二439−447, 1982  5)Yanagisawa M, Kurihara H, Kimura S et al l   Anovel potent vasoconstrictor peptide   produced by vascular endothelial cells. Nature   332 :411−415, 1988  6)Vigne P, Marsault R, Breittmayer JP et al;   Endothelin stimulates phosphat量dy王inositol   hydrolysis and DNA synthesis in brain capil.   1ary endothelial cells. Biochem J 266:415−420,   1990.  7)Miyauchi T,1曲ikawa T, Tomobe Y et al:   Characteristics of pressor response to endothe−   1in in spQntaneously hypertensive and Wister・   kyoto rats. Hypoertension 14:427−434,1989  8)Tomobe Y, Miyaycbi T, Saito A et al:   E丘ects of endothelin on the renal artery from   spontaneously hypertensive and Wister Kyoto   rqts. Eur J Pharmacol 152:373−374,1988  9)Ide K, Yamakawa K, Nakagomi T et al:The   role of endothelin in the pathogenesis of   vasospasm following subarachnoid haemo・   rrhage. Neurol Res 11:101−104,1989  10)Kurihara H, Yamaoki K, Nagai R et a1:   Endothelin:Apotent vasoconstrictor associ。   ated wlth coronary vasospasm. Life Sci 44:   1937−1943, 1989 11)Kiowski W, L髄scher TF, Linder L et al:   Endothe王in・1・induced vasoconstriction in   hurnans. Circulation 83:469−475, 1991  12)Toyo・oka T, A童zawa T, Suzuki N et ai:ln.   creased plasma level of endothelin−1 and cor,

一17一

(9)

onary spasm induction in patients with

vasospastic angina pectoris. Circulation 83 : 476-483, 1991

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of immunoreactive endothelin in human

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33) Underwoed DC, Falotico R, Cheung W et al : Dissociation of coronary vasoconstrictor and arrhythmogenic properties of endothelin in the dog. Circulation 80:11-149 (Abst), 1989 34) Watanabe T, Suzuki N, Shimamoto N et al : Endothe}in in myocardial infarction. Nature 344I 114, 1990

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参照

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3) Andersson HB, et al : Long-term survival and causes of death in patients with ST-elevation acute coronary syndrome without obstructive coronary artery disease. J Am Heart Assoc

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