プロセス原価計算の一考察
一限界計画原価計算との比較一
両 頭 正 明 1.はじめに 近年,アメリカおよびわが国において,活動基準原価計算(activity based costing,以下, ABCという。)がFA化, CIM化,多品種少量生産の段階にお ける製造企業の新しい原価計算として注目されていることは周知のところである。このアメリカで生まれたABCはドイツにおいてはプロセス原価計算
(ProzeBkostenrechnung)と呼ばれ,その展開がみられる。本稿では,このプ ロセス原価計算と従来からドイツにおいて展開されている限界計画原価計算 (Grenzplankostenrechnung)との共通点ならびに相違点に注目しながら,プ ロセス原価計算の特徴を明らかにしたい。 II.プロセス原価計算の意義 プロセス原価計算は従来の全部原価計算,直接原価計算における問題点を克 服するために生まれてきたものであるといえる。つまり,それは間接的な給付 領域における原価計算の透明性を得ること,価格決定のための原価計算の説明 1) 力を保証することの2点である。 CIM環境のもとでの現代的な原価計算システムは,従来の原価計算システム 2) と比較すると,次のような特徴をもっている。 1.付加価値を生まない活動による非生産的給付の原価を明らかにし,それを 除去すること。 1) Lorson, 1992, S.7. 2) Lorson, 1992, S. 8.78 清水哲雄教授退官記念論文集(第293号) 2操業基準ではなくて,活動基準にもとつく給付計算を実施すること。 3.期待実際レベルの予算原価ではなくて,市場志向的な目標原価を指示する こと。 4.原価の跡づけ可能性による配賦ではなくて,発生原因による原価の帰属計 算:を行うこと。 現代的な原価計算システムであるABCおよびプロセス原価計算は,以上の ような特徴をもっており,戦略的なコスト・マネジメントの用具として,また, 日常のオペレイティブな用具として展開されている。 プロセス原価計算は,戦略的な問題の解決にその重点がおかれており,また, どちらかといえば,原価負担者的観点よりもプロセス原価の計算が強調される という議論がある。 次に,ホルヴァート・マイヤー(Horvath, P. u. R. Mayer)が示している購 3) 買部門の例によって,プロセス原価計算を具体的に示す。 製品種類ABCの1個当りのプロセス原価を計算する。 Aは8,000個, Bは 1,500個,Cは500個 合計10,000個生産する。購買部門の部分プロセスは,購 入請求受付,発注,クレーム処理の3っである。それぞれの計画プロセス量, プロセス原価率,生産量に依存するプロセス量の割合,および,製品種類数に 依存するプロセス量の割合は以下の通りである。 プ ロ セ ヌ、 購入請求受付 発 注 クレーム処理 計画プロセス量: 1,200個 3,500個 100個 プロセス原価率 DM 250 DM 20 DM 1,000 生産量に依存するプロセス量の割合 30% 0% 100% 製品種類数に依存するプロセス量の割合 70% 100% 0% 《製品ABCの単位当りプロセス原価》 製品A 製品B 製品C 購入請求受付 DM 9.00十DM 8.75 DM 9.00十DM 46,67 DM 9.00十DM 140.00 発 注 0.00十 2.92 0.00十 15.56 0.00十 46.67 クレーム処理 10.00十 〇.00 10.00十 〇.00 10.00十 〇.00 計 DM 30.67 DM 81.23 DM 205.67 3)Horvath/Mayer,1989, S.218f.,尾畑(1992)713−714頁参照。
4) (計算:過程) 購入請求受付 計画プロセス量1,200個 発 注 計画プロセス量3,500個 30%→360個 360個×DM 250=DM 90,000 DM 90,000÷10,000個=DM 9 70%→840個 840個×DM 250=DM 210,000 DM 210,000÷3(製品種類数)=DM 70,000 DM 70,000÷8,000(生産量)=DM 8.75…A DM 70,000÷1,500(生産量)=DM 46.67…B DM 70,000÷ 500(生産量)=DM 140 …C oO/. 100%→3,500個 3,500個×DM 20=DM 70 , OOO DM 70,000÷ 3 =: DM 23,333 DM 23,333÷ 8,000 =: DM 2.92 DM 23,333 ÷ 1,500 = DM 15.56 DM 23,333 ÷ 500 = DM 46.67 クレーム処理 計画プロセス量100個 100%→100個 100個×DM 1,000=DM 100,000 DM 100,000 ÷ 10,000 = DM 10.00 III.プロセス原価計算の特徴 プロセス原価計算は間接費の管理および削減のための用具であり,間接給付 領域における原価の透明性を高め,効率的な資源の消費を確保し,経営能力の 負担を明確にし,製品の原価計算を改善し,戦略的に正しい意思決定のための 原価情報を提供しようとするものである。このようなプロセス原価計算の目的 5) を達成するためには,次の3つの課題が重要である。(!)プロセスの分析,お 4)この計算過程は筆者が作成したものである。 5) Lorson, 1992, S.8.
80 清水哲雄教授退官記念論文集(第293号) よび,間接領域におけるアウトプットの分析によるプロセス管理(2)プロセス 原価管理,すなわち,間接領域のプロセスにおける原価作用因と原価関数の分 析(3)戦略的な,製品のプロセスに志向した原価計算,である。これらの課題 は必ずしもそれ自体は新しいものではないが,給付プロセスの機能分析が核心 となるものである。そして,発生原因によって製品の全部原価を計算しようと するものである。この意味で,プロセス原価計算は全部原価計算(Vollkosten− rechnung)とよばれる。また,組織的には,プロセス原価計算は組織の水平的 な見方が強調される。つまり,領域最:適化や領域エゴイズムをなくすることを 考えている。従来のような機能による組織プロセスの切断を避けようとするの である。 IV.プロセス原価計算と限界計画原価計算 限界計画原価計算は,1950年代にプラウト(Plaut, H. G.)によって実務にお いて展開され,さらに,キルガー(Kilger, W.)によってその理論的基礎iが提示 された。従来からの全部原価計算としての弾力的計画原価計算から部分原価計 算としての限界計画原価計算へと発展をみたのである。したがって,限界計画 原価計算については,その基本的概念や手法は確立されている。しかし,本稿 で問題としているプロセス原価計算については,未だ十分な基礎的概念や手法 は確立されているとはいえない。そこで,ここではロールソン(Lorson, P.)の 示しているところ(次頁の図)によって,筆者の解釈を加えて,プロセス原価 計算と限界計画原価計算とを比較し,その共通点と相違点を考察する。 両者の共通点としては,いつれの原価計算も伝統的な原価種類計算と原価部 門計算を利用し,それに役立つものである。また,プロセス原価計算は限界計 画原価計算における関連値(原価の測定の基準となる値)を利用することも共 通している。さらに,両者はともに意思決定に関連する原価情報を提供しよう とするものである。 次に,両者の相違点を考察する。限界計画原価計算は部分原価計算であるが, プロセス原価計算は全部原価計算である。この点において,プロセス原価計算
プロセス原価計算の一考察 81 6) 《限界計画原価計算とプロセス原価計算の相違》 限界計画原価計算 プロセス原価計算 原価計算の性格 部分原価計算 全部原価計算 生産要素費消の測 原価種類 活動,アクティビティ,部分 vロセス 間接費計算 原価部門 tロセス,王フロセス 原価概念 変動費と固定費 給付数量によって生ずる原価 ニ給付数量には中立的な原価 i直接費と間接費) 原価分解の基準 操業依存性 作業量の変動性 原価発生原因の測 関連値 コスト・ドライバー 原価統制 製造領域中心 間接的給付領域中心 原価責任 個々の領域責任(原価部門 ヌ理者) いくつかの領域責任(プロセ X管理者) 原価計算関連値の
I択
製品単位に集計するための シ接的・間接的関連値 いくつかの領域責任(プロセ X管理者) 組織形態 機能的な観点による垂直的g織
プロセスの観点による水平的 g織またはマトリックス組織 意思決定関連性 短期的意思決定(業務計画) 短期的意思決定および長期的 モ思決定(業務計画および戦 ェ計画) 7) の提唱者であるホルバートは,部分原価計算論者に対してパラダイムの変革を 要求している。限界計画原価計算ではまず生産要素の費消額の測定は原価種類 (例えば,材料費)ごとに行われるが,プロセス原価計算においては活動(ア クティビティ,部分プロセス)ごとに生産要素の費消額が測定される。アクテ ィビティそのものが原価計算の対象となるのである。また,限界計画原価計算 においては直接費と間接費とが区別され,さらに,変動費と固定費とに分解さ れる。プUセス原価計算では,給付数量の変化によって生ずる原価と給付数量 の変化には関係しない原価,つまり,直接費と間接費とに区分している。そこ 6) Lorson, 1992, S.9. 7) Horvath/Mayer, 1989,82 清水哲雄教授退官記念論文集(第293号) では,コスト・ドライバーの階層を考えて直接費と間接費とを区分するのであ る。ここに,プロセス原価計算はリーベル(Riebel, P.)の「相対的直接原価お 8) よび補償貢献額計算」と接点をもっていることが見いだされる。さらに,限界 計画原価計算は原価部門に対して間接費を帰属計算させるのに対して,プロセ ス原価計算では内部給付計算を経てプロセス(部分プロセス,主プロセス)を 通じて直接的に間接費を製品に帰属計算させるのである。 限界計画原価計算の場合,原価責任は個々の原価部門管理者にある。プロセ ス原価計算では,原価責任はプロセス管理者にあり,その職能領域責任を負う ことになる。また,限界計画原価計算は製造領域においてその関連値システム を基礎にして規範・実際比較による原価管理を実施する。これに対して,プロ セス原価計算では間接的給付領域(研究開発,組織,購買,物流,生産管理, 修繕,品質保証など)における給付の測定が問題となる。 V.限界計画原価計算のプロセス原価計算に対する批判 次に,限界計画原価計算の立場からのプロセス原価計算の批判について,ロ 9) 一ルソンによって考察する。 限界計画原価計算には次のような特徴がある。 1.固定費の配賦が避けられること。 2.限界計画原価計算としての段階的固定費補償計算では,すべての製品の 補償貢献額が全体の固定費を一括して補償しなければならないという原 価計算上の補償の原則が貫かれている。 3.限界計画原価計算において,原価負担者に関する全部原価情報が必要で あれば,その特別計算において原価構成の透明性を損なわずに,全部原 価を迅速に決定することができる。 4.限界原価は意思決定に関連する原価の決定の基礎となり,短期的意思決 定に貢献する。 8)リーベルの相対的直接原価計算については, 9) Lorson, 1992, S.10f, 両頭(1981)を参照されたい。
プuセス原価計算の一考察 83 5.限界計画原価計算では,間接的給付領域においては間接的な関連値が用 いられる。 6.限界計画原価計算では,製品,または,製品グループに対して固定費の 発生原因からみて正しい原価の帰属計算が行われる。 7.限界計画原価計算には,利益分析および意思決定の実施に関して,プロ セス原価計算の考え方がすでに十分取入れられている。例えば,プロセ ス原価計算におけるコスト・ドライバーは,限界計画原価計算における 関連値と広範に一致している。 以上,ロールソンは,限界計画原価計算のプロセス原価計算に対する優位性 を主張している。限界計画原価計算は段階的固定費補償計算によって補足され, 全体的な企業モデルに統合される。その場合,原価発生の透明性が間接的給付 領域でも得られ,短期計画および長期計画の統合が可能になる。限界計画原価 計算においては,プロセス原価計算によって得られる成果は全て考慮されてい るというのである。 VI.プロセス原価計算の基本構想 プPセス原価計算は,限界計画原価計算とは違って,意思決定に関連する原 10) 価が自由に得られるといわれている。その基本的な考え方は,次の点にある。 1.従来,たんに間接費としてのみ取り扱われていた聞接的・第2次的給付領 域を重視すること。 2.間接的領域の給付(プロセス)の分析,原価依存性ないしは原価発生原因 の研究,したがって,管理活動における関連値思考の適用を考えているこ と。 3.企業の全体的な価値連鎖を考えていること。トップ・ダウンとして,企業 全体に関連する主要プロセスを,各種の領域における多くの部分プロセス に分解する。そして,ボトム・アップとして,部分プロセス(原価部門) における間接的給付を,企業全体に関連する主要プUセスに関連づける。 10) Mayer, 1990, S. 75.
84 清水哲雄教授退官記念論文集(第293号) プロセス原価計算はこのような基本的構想に基づき,間接的給付領域におけ る原価の透明性を高め,効率的な資源の消費を確保し,経営能力の利用を明ら かにし,製品原価計算を改善し,戦略的に望ましい意思決定のための情報を提 供しようとするものである。このように,プロセス原価計算の基本的思考は, 間接領域において生み出される給付に対する新しい考え方である。製造領域に おけるのと同様に,計画問題,管理問題を部分プロセスに分解し,それぞれの 原価を帰属させるのである。このことにより,間接的給付領域の透明性を高め ると同時に,部門に関連する原価管理,および,給付に依存する原価管理が可 能となる。 プロセス原価計算は全く新しい原価計算システムではなくて,伝統的な原価 種類計算および原価部門計算を使用するのである。しかし,プロセス原価計算 と伝統的な原価計算との本質的な相違は,製品に対する帰属計算にある。原価 部門内部の個々の部分プロセスは,企業全体に関連する主要プロセスに関連づ けられる。そして,その主要プロセスにおいて,原価作用因(KosteneinfluB− gr6Be),つまり,コスト・ドライバー(cost driver)が用いられる。 プロセス原価計算は全部原価計算である。規範プロセス原価と実際プロセス 原価とを比較することによって,領域の負担額と能力適応についての情報を提 供する。また,プロセス原価計算では,戦略的な意思決定の基礎として,長期 的な経営能力は変動するものであり,ほとんど全ての原価は変動するものと仮 定されている(長期的変動費)。プロセス原価計算は限界計画原価計算の代わり となるものではなくて,限界計画原価計算を補足するものである。限界計画原 価計算は,本来,短期計画および統制目的のために有用な情報を提供するもの である。 VII.むすびに代えて アメリカにおけるABCは, FA化, CIM化,多品種少量生産など現代の複雑 な企業環境に適応していくための原価計算の技法として,従来からの全部原価 計算や直接原価計算(操業基準原価計算)に対する批判として生まれてきた。
本稿で取り扱ったプロセス原価計算はこのアメリカのABCにならって,従来 からの限界計画原価計算を修正・補足するものとして展開されてきたといえる。 限界計画原価計算もやはり操業基準原価計算といえる。本稿は,主として,プ ロセス原価計算の基本的な考え方を明らかにすることを目的としたものであり, そこで,若干,従来からの限界計画原価計算との比較を試みた。プロセス原価 計算のドイツの原価計算論上の位置づけや,ABCや限界計画原価計算との相違 の一層の明確化の問題,さらに,本文中でも少し触れたりーベルの相対的直接 原価計算との関連性の考察,プロセス原価計算システムの一層の明確化とその 11) 展開方向の検討など研究すべき課題が多く残されている。これら全ての問題は 筆者の今後の研究課題としたい。 (1) 【参 考 文 献】 Horvath, P. und R. Mayer, ProzeBkostenrechnung, Controlling, 1. Jg. 1989, S. 214 一219. (2) Mayer, R., ProzeBkostenrechnung, KostenrechnungsPraxis, 1990 1, S. 74−75. (3) Lorson, P., ProzeBkostenrechnung versus Grenzplankostenrechnung, Kostenrech一 nungsPrtzxt’s, 1992 1, S. 7−14. (4) Mannel, W.(Hrsg.), ProzeBkostenrechnung, KostenrechnblngsPrezxis, Sonderheft 2 (5) (6) (7) (8) (9) /93 u. 1/94. 尾畑 裕「ドイツにおけるプロセス原価計算の展開」一橋論叢,107−5,1992年5月。 阪口 要「プロセス原価計算」廣島大学経済論叢,16−4,1993年3月。 河野二男「プロセス原価計算の生成とその着想」九州産業大学商経論叢,33−4,1993年 3月。 長谷川拓三「ドイツにおける戦略的原価マネジメントの構想について」岐阜経済大学論 集,27−4,1994年3月。 両頭正明「直接原価計算システムの現代的意義」原価計算(目本原価計算研究学会特別 号第31冊)1991年9月。 (10) 両頭正明「現代西ドイツ直接原価計算論序説』滋賀大学経済学部研究叢書第6号,1981 年3月。 11)Manne1,2/93 u.1/94に最近のプロセス原価計算の理論的・実務的展開がみられる。