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〈新刊紹介〉『フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち』マイケル・ルイス 著、『データの見えざる手 : ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』矢野和男 著、『ゼンテギ』グレッグ・イーガン 著、『ハルロック』西餅 著

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Academic year: 2021

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彦根論叢 2016 spring / No.407 160

新刊紹介

過去約2年間に発行された書籍の中から時事的で 話題性があり内容豊かなものを会員のご要望に応 えながら編集委員会が選択して紹介いたします。

『フラッシュ・ボーイズ

10

億分の

1

秒の男た

ち』

マイケル・ルイス著|文藝春秋 2014、346pp.

『データの見えざる手

:

ウエアラブルセンサ

が明かす人間・組織・社会の法則』

矢野和男著|草思社 2014、256pp.  本書は、

2011

年に公開された映画「マネーボール」 の原作等と原著者を同じくし、ドキュメンタリーでは あるが関係者らの物語として描くという、読みやすい 構成が取られている。本書はまず、偏執的なまでにこ だわり抜いた低遅延

(

情報を送り始めてから到着し 始めるまでの時間が短い

)

の通信回線を敷設すると いう興味深いチャレンジから話が始まる。ここまでは まだ、しかるべき健全なスピード競争の延長線上に ある。本題は、物語の中心人物となる銀行員らが、日 頃使っている株式売買システムの不可解な挙動に悩 まされるところからである。取引画面に表示された売 り注文に合うよう買い注文を出した瞬間、株価が高 騰してほとんど取引が成立しないというような奇妙な トラブルが続発したのだ。彼らは調査の結果、その 原因と市場を不公平に歪める不健全なからくりを見 破った。何が不健全かを端的に表せば、それが、金 融の仕組みに根ざした市場の先読み手法などでは なく、金融取引用に構築されたコンピュータとネット ワークが、スピードに関する要求に限界まで応えて いった結果として生じた実装上の隙を突いていた点 に尽きる。彼らは奇妙な対症療法を開発して一定の 成果を収めた後、市場から同様の不公平を抜本的 に閉め出すための本格的な戦いに移っていくことに なる。   評/『彦根論叢』編集委員/梅津高朗  本書では、ビッグデータという単語が定着する以 前から、後にそう呼ばれるようになるようなデータを 収集し続けて分析して得た、興味深い知見が紹介さ れている。まず、著者らが専用のリストバンド型のセ ンサー端末を開発して、

10

年以上前から日中も就寝 中も装着して集め続けデータから見いだした、人の 動きに関する奇妙な法則が紹介されている。それは、 人は、日によってやらなければならない事が異なり、 それをどうこなすか、それ以外をどのように過ごすか をそれぞれ自由に決めているにも関わらず、センサー が腕の動きを検出した頻度のとある分布が、どの日 を見ても一定になるというシンプルながら強力な法 則だ。最近ではスマートウォッチや活動量計などで 誰でも簡単に著者らの知見を試せるようになってき ており、この知見は応用性が高い。続いて、組織とし ての業務効率改善の話が登場するが、ここでは、誰 が誰といつどれだけの時間対面していたか、会話は 活発になされたか等の情報を蓄積できる名札型の センサーが活躍する。得られたデータから業務上で の人間関係を可視化し、データに基づく効率的な改 善策の策定に役立てた例が示されている。さらには ビッグデータ解析に存在する大きな壁と、著者らが 見いだした壁を越える方法が紹介され、未来への展 望で本書は締められている。   評/『彦根論叢』編集委員/梅津高朗

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新刊紹介 161

『ゼンテギ』

グレッグ・イーガン著|早川書房 2015、560pp.

『ハルロック』

西餅著|講談社 2014-2015、全4巻  本書の原著者であるグレッグ・イーガンは、当代 きってのハード

SF

の書き手である。例えば本書の前、

2013

年に日本語翻訳版が刊行された「白熱光」

(

早 川書房刊

)

では、我々とは異なる環境に生じた文明が 物理法則を発見していく過程の描写が多くのウェイ トを占め、発見された物理法則が我々の知るどれに 当たるかを読み解いていくという、マニアックな楽し みが提供されている。他にも、一昨年話題になった 映画「楽園追放」にも登場する、「コンピュータ上に コピーした人格に当人の主観が継承されると見做せ る」という設定についての様々な角度からの考察に 基づく多くの著作が発表されている。その設定が単 なる

SF

的なアイデアではなく、現実にあり得る話だと 納得したい場合、著者の数々の作品に当たることを お勧めする。本書は、そこへと至る技術開発の最初 の一歩がテーマになっており、著者の他の作品と比 較すると物語性が高く間口が広い。物語は、主人公 が記者として訪れたイランで革命運動を目撃するこ とから始まる。やがて彼が直面する大きな困難が、も う一人の主人公の目指す脳の働きをコンピュータ上 に再現する研究とリンクしていく。主人公とは全く主 張を別にする、ある登場人物が、結局、同じ結論に 到達するという洞察もおもしろい。   評/『彦根論叢』編集委員/梅津高朗  本書は、一言で言えば電子工作の啓蒙マンガであ る。電子工作のイメージは、この十年ほどの間に完 全に変わって来ている。本書で主人公が最初に取り 組むのは

3

分タイマーの作成で、これは、コンデンサ と抵抗、トランジスタなどを組み合わせて実現でき る古典的なお題だ。が、本書ではそのような回路は 登場せず、代わりにいきなりデジタルプロセッサが 登場する。今や、組み込み用の手のひらサイズのコ ンピュータが数百円ほどで手に入る。回路の設計は、 目的達成のためにはどんなセンサーを付けて何を計 測し、どんな動作や音や光として出力するデバイス を付けるかに注力すれば良い。それらの制御や複雑 な処理はプログラムの形で書き、コンピュータに押し つける。パーツを選べばインターネットにデータを投 げ込むことも可能だ。本書はマンガとして抜群におも しろい。それも、小手先の面白さだけではなく、作る 事の楽しさを源泉として描かれているのが素晴らし い。作る物のアイデアがいちいち独創的だが、そう見 えてきちんと作成可能なのである

(

実際に作成してか ら登場させているようである

)

。さらには、愛好家らの 交流から流行のクラウドファンディングにも触れ、趣 味を超えた一つの生き様としても描かれている。   評/『彦根論叢』編集委員/梅津高朗

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