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Microsoft Word - タイにおける日本語研究原稿 doc

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タ イ に お け る 日 本 語 研 究 の 傾 向 ―1986 年∼2009 年に公開された研究を対象に―

Kanokwan Laohaburanakit Katagiri Patcharaporn Kaewkitsadang Somkiat Chawengkijwanich 1. 研究目的と先行研究 本研究は、1986 年から 2009 年までにタイで出版・公開された日本語研究を調査し、データベースを作成・ 分析し、タイにおける日本語研究の傾向を探ることを目的とする。現在までに行われた研究傾向を分析するこ とが今後のタイにおける日本語研究の発展のために不可欠であると考えるためである。 タイで出版・公開された日本研究または日本語研究を調査したものに、次の2 点がある。「日本」研究を調 査したSida Sonsri (2008)と「日本語」研究を調査したカノックワン(2001)である。本研究と直接関係がある のは、日本語研究を調査したカノックワン(2001)であるが、Sida Sonsri(2008)の中にも、日本語研究に関す る指摘があるため、まず紹介したい。 Sida Sonsri(2008)は 1907 年から 1995 年までに出版・公開された「日本」に関する書籍、記事、研究論文 を調査し、①1907 年-1945 年、②1946 年-1969 年、③1970 年-1979 年、④1980 年-1989 年、⑤1990 年-1995 年の5 つの年代に分け、それぞれの年代における日本研究の傾向を分析した。第二次世界大戦から 1960 年代 にかけて書籍・テキストが徐々に増えたが、記事・研究論文は少なく、1970 年代からは記事が倍増し、1980 年-1989 年には記事及び研究論文が急増し、書籍を上回った。研究分野別では、最も多く研究されたものは1) 経済に関するもので、その次は2)貿易・投資・農学、3)国際関係、4)文化社会、5)政治、6)歴史・ 日本語といった順である。また、日本語に関する研究については、大学での日本語講座が開設された1960 年 代から辞書、会話および文法のテキストが出版されるようになり、1970 年代には日本語のテキストが増え、 1980 年代にはテキストのみならず、日本語・タイ語の対照研究の論文や記事も書かれるようになった。1990 年-1995 年には日本語ニーズ調査、教授法の研究もなされるようになった。Sida Sonsri(2008)の調査結果から、 タイで出版・公開された「日本」に関する研究のうち、量的に日本語研究が最も少ない分野であること、また 日本語研究が始まったのは1980 年代であることがわかった。 日本語研究の傾向を調査したカノックワン(2001)では、バンコク市内の各大学の図書館やデジタルライブラ リーを利用して2000 年までに出された研究論文を収集し、日本語とタイ語を対照して研究したものと日本語 だけを取り上げたものの2 つに分類した。日タイ語対照研究については、1990 年代前半までは慣用句、挨拶 表現、敬語といった語彙に関するものがほとんどだったが、1990 年代後半から文法の対照研究が発表される ようになった。日本語だけを取り上げたものについては、文法、漢字、表現の研究があり、全体的にタイ人日 本語学習者の学習上困難である点や日本語教育への応用を意識した研究が多かった。量的にみると、2000 年 までに出された研究論文は極めて少なく、22 本しかなかった。そして、最も古い研究は 1982 年のものとされ ている。これは、Sida Sonsri(2008)の日本語研究が数少ないという指摘、及び日本語研究が注目されるよう になったのは1980 年代であるという指摘と共通している。カノックワン(2001)では日本語研究の少なさの原

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はタイの大学で日本語を学んだ後、日本をふくむ海外へ留学し、言語学・日本語学を学んで帰ってきた人に限 られていたため、論文執筆者の数が少なかったとしている。また、言語学や日本語に関する学会や研究会が限 られていたことから、発表の場自体が少なかったという要因もあると述べている。このことから、2000 年以 前において、タイの日本語研究が盛んであったとは言えないと結論付けている。 上記の先行研究から、日本語研究は1980 年代に始まり、1980 年代後半に入ってから少しずつ拡大していることがわか る。しかし、カノックワン(2001)の調査研究は、2000 年のものを対象にしているので、2000 年以降の日本語研究がどうな っているのか明らかにされていない。Voravudhi Chirasombutti・北村武(1996)が指摘しているように、タイの日本語教 育は1990 年代に入ってから、質・量共に広がりを見せている。そのことにより、日本語を研究する研究者の 人口も急速に増加しているのではないかと予想できる。また、1990 年後半にタイの高等教育の中核をなす大 学であるチュラーロンコーン大学とタマサート大学に日本語研究ができる大学院が設置されたことにより、 2000 年以降の日本語研究には著しい変化があったと考えられる。 本研究では、こうした変化があったことから、カノックワン(2001)の研究を引き継いだ形で日本語研究の実 態を再調査する必要があると考え、タイで出版・公開された日本語研究を対象に調査し、その分類と傾向を分 析考察する。1990 年代から日本語研究は質・量共に拡大していることから、発表された研究の形態と種類は カノックワン(2001)の調査の時点よりバリエーションが増えていると考えられる。そのため、本研究では、カ ノックワン(2001)と異なり、研究論文だけではなく、研究報告、研究ノート、実践報告、調査、資料、記事も 研究対象とする。さらに、デジタルライブラリーを利用している場合網羅できない可能性があるため(カノッ クワン(2001,p.1)、本研究では調査範囲をカノックワン(2001)の調査の後の 2000 年からではなく、日本語研 究が始まった1980 年代の後半、すなわち 1986 年から 2009 年までとする。 2.研究対象・分類方法 本研究は1986 年から 2009 年までにタイで出版・公開された主要論文集、主要大学紀要、主要報告書、研 究・教育機関の論文・研究報告を中心に調査を行った。詳細は次の通りである。 Ⅰ論文集・報告書 (日本語名がある場合はそれを用いる。英語名とタイ語名がある場合は英語名を用いる。タイ語名しかない場 合は、その発音をローマ字で表記する) 1)『アジアにおける日本語教育「外国語としての日本語」修士課程設立ー周年セミナー論文集』 (チュラーロンコーン大学文学部東洋言語学科日本語講座) 2)『国際シンポジウム日本語教育の諸問題報告書』(チュラーロンコーン大学文学部東洋言語学科日本語講座) 3)『タイ国日本研究国際シンポジウム論文報告書』(International Symposium on Japanese Studies in

Thailand) 通称 JST

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Ⅱ 教育機関の紀要

5)『国際交流基金バンコック日本語センター紀要』(国際交流基金バンコック日本語センター) 6)『Journal of the Faculty of Arts』(チュラーロンコーン大学文学部紀要)

7)『Journal of the Faculty of Liberal Arts』(タマサート大学教養学部紀要)

8)『Patana Teknik Suksa』(キングモンクット工科大学 北バンコク校技術教育開発センター紀要) 9)『Phasa le Phasasaat』(『ことばと言語学』タマサート大学教養学部言語学科紀要) 10)『Thai-Yiipun Suksa』(『日・タイ研究』タマサート大学東アジア研究研究所紀要) Ⅲ 修了論文 11) タマサート大学大学院教養学部日本研究コースの修了論文 12) チュラーロンコーン大学大学院東洋言語学科日本語コース修了論文 13) チュラーロンコーン大学大学院東洋言語学科外国語としての日本語コース修了論文 Ⅳ 助成金を得た研究報告書 研究助成金を出した機関に出された報告書 14) カセサート大学人文学部 15) 国際交流基金

16) タイ国高等教育委員会(Office of the Higher Education Commission) 17) タマサート大学教養学部及びタマサート大学研究センター 18) 東芝国際交流財団 本研究では広い意味で「論文」という用語を用いる。ここでいう論文とは、研究論文、修了論文、研究報告 書、研究ノート、実践報告、調査・資料、記事等のことである。書籍とテキストおよび、文化・社会に関する 論文は調査範囲外とする。 収集した論文を次の3 分野に分類する。 1) 日本語学、つまり日本語そのものを研究対象とするもの 2) 対照研究、つまり日本語とタイ語を対照して研究するもの 3) 日本語教育、つまり日本語教育への応用が研究目的であるもの この分類は論文の内容を基準にしたものである。このため、論文題目が日・タイ語の対照研究であっても、 その内容が日本語そのものを研究する論文の場合は、対照研究の分野ではなく、日本語学の分野に分類する。 図2.1 のように、上記の 3 分野に分け、さらに、収集した論文の研究内容を 1)「日本語」つまり日本語そ のものを研究対象としたもの、2)「非日本語」つまり日本語そのものではなく、日本語教育への応用が目的で ある研究の 2 グループに分類する。すなわち、1) 日本語学(「日本語」)2) 対照研究(「日本語」)3) 日本語 教育(「日本語」と「非日本語」)となる。

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談話、読解、作文、会話・スピーチ・発音・音声、文字・語彙、漢字、誤用分析、社会言語学、その他である。 「非日本語」は学習者、教師、リソース、機関、日本語教育全体、その他、というように下位分類するが、「非 日本語」の場合、研究内容が多岐にわたるため、図 2.1 のように、更に次のように細分化する。「学習者」を クラス・タスク・授業システム改善、ストラテジー・学習スタイル・学習者の心理的情緒的な側面、習得、学 習者の問題点に分ける。また、「教師」を教師教育、教授法・指導法に、「リソース」を教材作成・改善、設備・ システム・ソフトに、「機関」を日本語教育史、シラバス・カリキュラム・コース設計、テスト・評価、機関・ 研究会の紹介と活動(制度を含む)、機関調査に下位分類する。 以上の分類に基づき、データベースを作成し、附録として載せる。データベースには次のような情報を載せ た。 1) 出版、公開された年号 2) 著者名 3) 著者の詳細(タイ人研究者、日本人研究者の別) 4) 共同研究、単独研究の別 5) 論文名 6) 論文の出典(雑誌名、紀要名、出版社名など) 7) 論文の種類(研究論文、研究報告書、実践報告書、修了論文、研究ノート、調査・資料、記事) 8) 論文執筆の言語(タイ語、日本語、英語) 9) 要旨の言語(タイ語、日本語、英語) 10) 分野(日本語学、対照研究、日本語教育) 11) 内容分類 10)の分野をさらに分類する。詳細は図 2.1 を参考

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図2.1 1) 日本語学 2) 対照研究 文法・談話 読解 作文 会話・スピーチ・発音(音声) 文字・語彙 漢字 誤用分析 社会言語学 その他 日本語 3) 日本語教育 クラス・タスク・授業システム改善 ストラテジー・学習スタイル・学習者の心理的情緒的な側面 習得 学習者の問題点 教師教育 教授法・指導法 教材作成・改善 設備・システム・ソフト 日本語教育史 シラバス・カリキュラム・コース設計 テスト・評価 機関・研究会の紹介と 活動(制度を含む) 機関調査 非日本語 学習者 教師 リソース 機関 日本語教育全体 その他

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3.結果 3.1 全体の考察 まず、全体の傾向をみる。収集された論文は331 本である。分野別にみると、表 3.1.1 のとおり 1)日本語学 が 42 本 2)対照研究が 41 本 3)日本語教育が 248 本あり、日本語の理論や原理を追求する研究よりも教育 現場で応用できる日本語教育の研究の方が多く、全体の約74.92%を占めている。 表3.1.1 分野別にみる論文本数 分 野 論 文 本 数(%) 日本語学 42(12.69%) 対照研究 41(12.37%) 日本語教育 248(74.92%) 合 計 331 また、表 3.1.2 のように論文の種類に注意してみていくと、1)研究論文 131 本 2)研究報告 17 本 3)実践 報告90 本 4)修了論文 38 本 5)研究ノート 17 本 6)調査・資料 35 本 7)記事 3 本になっており、研究論文 が最も多く、次いで実践報告が多いことが明らかになった。大学院生の修了論文が第3 番目で、38 本と多い ことも特徴的である。 表3.1.2 論文種類にみる論文本数 論 文 種 類 論 文 本 数 (%) 研究論文 131(39.58%) 研究報告 17(5.14%) 実践報告 90(27.19%) 修了論文 38(11.48%) 研究ノート 17(5.14%) 調査・資料 35(10.57%) 記事 3(0.91%) 合 計 331 本研究はタイで公開・出版された論文を対象に調査したが、タイ人より日本人のほうが数多く執筆している こともわかった。著者の詳細について、タイ人が 91 名、日本人が 148 名とその他1名であり(延べ数)、タ イ人、あるいは日本人同士の共同研究や日本人とタイ人の共同研究も見られた。

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表3.1.3 著者詳細にみる論文執筆人数 著 者 の 詳 細 論 文 執 筆 人 数 タイ人 91 日本人 148 その他 1 調査結果から、いくつか面白い現象がみられたので、ここで述べておきたい。 タイで出版・公開された日本語学、日本語とタイ語の対照研究及び日本語教育の論文は、カノックワン(2001) が述べているように1998 年以前は極めて少なかった(1986∼1997 年の 10 年間で 4 本しかない)が、1998 年を境にその数が急増している(1998∼2009 の 12 年間で 327 本。平均して 1 年 27.25 本)。 表3.1.4 発行年別にみる論文本数 発行年 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 論文本数 2 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 1 発行年 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2207 2008 2009 論文本数 18 18 12 20 21 20 26 30 36 56 36 34 1998 年から論文数が飛躍的に増加した理由は、その年に初めて国際交流基金バンコック日本語センターが 紀要を発行し(以下『基金紀要』と表記する)、論文を発表する場が与えられたためである。1998 年に発表さ れた18 本の論文はすべて『基金紀要』に載ったものである。しかし、著者の半数以上が日本人であることに 注意されたい。なお、1997 年以前に発表されたタイ人研究者の論文は外部機関の紀要ではなく、研究者本人 の所属機関の紀要(『Thai-Yiipun Suksa』(『日・タイ研究』タマサート大学東アジア研究研究所紀要)や『Phasa le Phasasaat』(『ことばと言語学』タマサート大学教養学部言語学科紀要)に載せられたものである。 1998 年以降の論文数の増加には、タイの大学院において日本語・日本語教育コースが設立され、大学院生 の論文が1999 年以降、修了論文や投稿論文として発表されるようになったことが大きく関わっているといえ よう。タマサート大学は1997 年に大学院日本研究コース、チュラーロンコーン大学は 1999 年に日本語コー ス、そして2007 年に外国語としての日本語コースを開設した。両大学のタイにおける日本語・日本語教育研 究の発展に対する貢献は大きいといえる。修了論文だけをみても、以下の表のように毎年欠かさず発表されて おり、この 11 年間で 38 本に達している。また両大学の大学院生は『基金紀要』や研究会・シンポジウム報 告書でも積極的に発表している。表3.1.6 はどのような紀要や報告書で発表されているか、発行年別の論文の 本数を示している。

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表3.1.5 発行年別にみる修了論文の数 発行年 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 合計 修了 論文数 1 2 4 2 4 5 3 2 6 5 4 38 表3.1.6 発行された紀要・報告書別および発行年別にみる論文本数 * 大学紀要は入手可能であったチュラーロンコーン大学文学部紀要及びタマサート大学教養学部の紀要のみ。 表3.1.6 から、大学院生だけでなく、教員も『基金紀要』はもちろん所属大学の紀要や研究会・シンポジウ ム、特定の機関から助成金を得た研究の報告書などを多数発表していることがわかる。 上記の表で特に注目したいのは2002 年までは専ら『基金紀要』で発表されたものばかりであったが(しか も日本人が著者のものが多い)、2003 年以降は『基金紀要』以外の論文が多数発表され、『基金紀要』とそれ 以外の比率がおおよそ半々になったことである。また、2007 年には特に論文の数が目立って多いが、それは 「タイ国日本研究ネットワーク」(Japanese Studies Network-Thailand 通称 JSN)と「タイ国日本研究国際 シンポジウム」(The International Symposium on Japanese Studies 通称 JST)が発足・開催され、その報 告書が作成され、教員の論文が紀要への投稿論文や研究報告という形で発表されたためである。 3.2 分野別にみる傾向 分野別では、日本語教育248 本(74.92%)、日本語学 42 本(12.69%)、対照研究 41 本(12.37%)の順に本数が 多いこと、1998 年を境に論文の数が急増していることを 3.1 で述べた。ここで、分野別の傾向をもう少し詳 しくみることにする。まず、年別に公開・発表された各分野の論文の本数を次の表に示す。 199 8 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 基金紀要(207) 18 14 9 15 18 13 17 18 25 22 20 18 研究会・シンポ ジ ウ ム 報 告 書 (49) 6 7 18 7 11 修了論文(38) 1 2 4 2 4 5 3 2 6 5 4 大学紀要*(16) 1 1 3 2 1 1 4 3 助成金を得た研 究報告(15) 2 1 2 2 1 6 1 その他(2) 1 1 合計(327) 18 18 12 20 21 20 26 30 36 56 36 34

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表 3.2.1 発行年別にみられる各分野の論文本数(一番上の数字=発行年、表内の数字=論文本数) 1986 1988 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 合計 日本語学 0 0 0 0 1 2 4 2 8 3 3 6 7 0 6 42 対照研究 2 0 1 0 3 3 1 5 3 4 3 2 9 2 3 41 日本語教育 0 1 0 18 14 7 15 14 9 19 24 28 40 34 25 248 注:1987 そして 1989 年から 1996 年の間、全分野において論文本数が 0 であるため、その期間内の情報を割愛した。 1998 年以降は論文の本数が急速に増えている。特に日本語教育の分野の論文が目立って多く、毎年増える 傾向にある。1998 年から 2009 年にかけて日本語教育の分野の 1 年間の論文数の平均は 22.45 本にも上る。 これに対して、日本語学の分野の平均は3.8 本であり、対照研究の分野の平均は 3.4 本と極めて少なく対照的 である。このことから教育現場に直結する研究が圧倒的に多いことがわかる。 ところで、上記の3 つの分野のうち、日本語学と対照研究は「日本語」、つまり日本語という言語そのものを 研究対象とするものである。これに対して、日本語教育には、誤用分析などのような「日本語」を取り上げて 研究対象とするものと、カリキュラムや教授法などのような「日本語」そのものとは直接関係のないことを研 究対象とするものとに分けられる。ここで、上記の3 つの分野を「日本語」研究と、「非日本語」研究という 2 つに分類する。収集された 331 本の論文において、各分野における「日本語」を取り扱う研究と「非日本語」 を取り扱う研究の割合はどうなっているのだろうか。その割合を次の表で示す。 表3.2.2 各分野における「日本語」を取り扱う研究と「非日本語」を取り扱う研究 (数字=論文本数、( )内=全論文数 331 本を分母としたパーセンテージ) 「日本語」研究 「非日本語」研究 日本語学 対照研究 日本語教育 42 41 35 118(35.64%) 日本語教育 213(64.35%) 「日本語」を扱う研究は118 本あり、全体の 35.64%になる。これに対して、「日本語」以外を扱う研究(非 日本語)は 213 本もあり、全体の 64.35%を占めている。さらに、「日本語」研究と「非日本語」研究の論文 本数を発行年別にみると、次の表になる。

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表3.2.3 発行年別にみられる「日本語」研究と「非日本語」研究の論文本数 1986 1988 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 合計 日本語 2 0 1 2 7 7 6 9 12 13 11 13 24 4 9 118 非日本語 0 1 0 16 11 5 14 12 8 13 19 23 34 32 25 213 注:1987 そして 1989 年から 1996 年の間、全分野において論文本数が 0 であるため、その期間内の情報を割愛した。 1998 年から「日本語」研究も「非日本語」研究も増えているが、増える割合は「日本語」研究よりも「非 日本語」研究の方が著しい。「日本語」研究の本数の方がやや多い2000 年と、同じ本数である 2004 年を除い て、「非日本語」研究が「日本語」研究より1.3 から 8 倍の量となっている。タイの日本語研究において、関 心の対象が言語(そのもの)から言語外へと移ってきていることがわかる。 3.3 著者別にみる傾向 次に、著者という観点から傾向をみる。3.1 で述べたように、タイ人研究者よりも日本人研究者のほうが多 く論文を執筆している。タイ国内で公開・出版された論文を調査の対象にしているにもかかわらず、こうした 傾向があるのは興味深い点である。ここでは、タイ人と日本人の研究行動を次の観点でさらに考察することに する。 1) タイ人研究者と日本人研究者が研究対象とする研究分野の違い 2) タイ人と日本人が行う共同研究の行動の違い 3) タイ人と日本人の執筆言語の傾向 まず、タイ人研究者と日本人研究者が研究対象とする研究分野であるが、次の表ではタイ人研究者と日本人 研究者が書いた論文の研究分野の割合を示している。まず、日本語学、対照研究、日本語教育の3 分野に分け た場合をみる。 表3.3.1 タイ人研究者と日本人研究者と研究の分野 (数字=論文本数、( )内=全論文数 331 本を分母としたパーセンテージ) 研究者 日本語学 対照研究 日本語教育 タイ人またはタイ人同士の共同研究 27 (8.16%) 37 (11.18%) 76 (22.96%) 日本人または日本人同士の共同研究 15 (4.53%) 3 (0.90%) 157 (47.43%) タイ人と日本人の共同研究 0 1 (0.30%) 14 (4.29%) タイ人または日本人以外の研究者 0 0 1*(0.30%) 合計 42 (12.69%) 41 (12.38%) 248 (74.92%)

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マレーシア人 表3.3.1 から日本語学と対照研究の分野において、日本人研究者よりもタイ人研究者のほうが多く研究を行 っていることがわかる。特に、対照研究の分野では、日本人研究者の研究は3 本(0.90%)しかないのに対して、 タイ人研究者の研究は 37 本(11.18%)もあり、約 12 倍になっている。一方、日本語教育の分野になると、タ イ人研究者よりも日本人研究者のほうが多く研究していることがわかった。 また、「日本語」研究と「非日本語」研究という観点においては、タイ人研究者は「日本語」研究、日本人 研究者は「非日本語」研究を行う傾向があることがわかった。次の表で確認することができる。 表3.3.2 タイ人研究者と日本人研究者と「日本語」研究・「非日本語」研究 (数字=論文本数、( )内=「日本語」研究全論文数 118 本、「非日本語」研究全論文数 213 本を分母とした場合 のパーセンテージ) 研究者 「日本語」研究 「非日本語」研究 タイ人またはタイ人同士の共同研究 83 (70.33%) 57 (26.76%) 日本人または日本人同士の共同研究 33 (27.96%) 142 (66.67%) タイと日本人の共同研究 2 (1.69%) 13 (6.10%) タイまたは日本人以外の研究者 0 1* (0.47%) 合計 118 213 *マレーシア人 「日本語」研究分野の7 割の研究がタイ人研究者によって行われ、「非日本語」の 6 割以上が日本人研究者 によって行われていることがわかる。 次に、タイ人と日本人が行う共同研究の行動の違いを考察する。 表3.3.3 タイ人研究者と日本人研究者の共同研究(数字=論文本数、( )内=パーセンテージ) タイ人が関わる論文数 155 日本人が関わる論文数 190 タイ人の共同研究の論文数 23 (15%) 日本人の共同研究の論文数 39 (20.5%) 日本人との共同研究の論文数 15 タイ人との共同研究の論文数 15 タイ人同士の共同の論文数 8 日本人同士の共同の論文数 24 331 本のうち、単独研究も共同研究も含んだタイ人研究者が関わる論文は合計 155 本になる。その 155 本の うち、タイ人研究者が共同研究として行ったのは23 本で、タイ人研究者の全論文の 14.8 %になる。これに対

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て行ったのは39 本で、日本人研究者の全論文の 20.5%である。このことから日本人研究者は共同研究をより 多くしていることがわかる。 タイ人と日本人の共同研究を除いて、タイ人同士の共同研究もしくは日本人同士の共同研究だけに注目する と、両者の共同研究における行動の違いがさらに明確になる。 表3.3.4 タイ人同士の共同研究と日本人同士の共同研究(数字=論文本数、( )内=パーセンテージ) タイ人の単独研究とタイ人同士の共同研 究の論文数 140 日本人の単独研究と日本人同 士の共同研究の論文数 175 タイ人同士の共同研究の論文数 8 (5.71%) 日本人同士の共同研究の論文数 24 (13.7%) タイ人単独研究の論文数 132 日本人単独研究の論文数 151 タイ人と日本人の共同研究を除いて、タイ人の単独研究とタイ人同士の共同研究の論文計 140 本のうち、 タイ人同士の研究は8 本(5.71%)しかない。これに対して、日本人の単独研究と日本人同士の共同研究の論文 計 175 本のうち、日本人同士の研究は 24 本(13.7%)もある。共同研究という研究形態については、タイ人研 究者よりも日本人研究者の方がより積極的なようである。 また、どんな分野において共同研究が見られるのか見てみると、以下で示すように、日本語教育の分野で共 同研究がよく見られることがわかった。 図3.3.1 共同研究と分野(共同研究の全論文数=47 本) 上の図の四角で囲まれたところを見てわかるように、多くの共同研究で研究対象となっているのは日本語教 育の分野、そして「非日本語」研究のテーマである。共同研究の全論文47 本のうち、「非日本語」、すなわち 日本語そのものと直接関係のないテーマの論文が合計42 本(89.4%)もあるのに対して、「日本語」そのものと 非日本語研究 13 本 日本語教育分野 14 本 タイ人と日本人の共同研究の論文数 15 本 日本語研究 1 本 対照研究分野 1 本(日本語研究) 非日本語研究 6 本 タイ人同士の共同研究の論文数 8 本 ― 日本語教育分野 8 本 日本語研究 2 本 日本語教育分野 23 本(非日本語研究) 日本人同士の共同研究の論文数 24 本 日本語学分野 1 本(日本語研究)

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関係するテーマの論文はたった5 本(10.6%)である。 表 3.2.2 でも示しているように、「非日本語」研究の論文は合計 213 本あり、「日本語」研究の論文は合計 118 本ある。その 213 本の「非日本語」研究の論文の中で、共同研究として行われたのは 42 本であり、全体 の19.7%となる。これに対して、118 本の「日本語」研究の論文の中で、共同研究として行われたのは 5 本で あり、全体の 4.2%しかない。このことから、日本語そのものと比べて「非日本語」の方が共同研究のテーマ になりやすいのではないかと考えられる。 最後に、論文執筆の言語と著者の関係をみる。331 本のうち、タイ語で書かれた論文は 112 本であり、日本 語で書かれた論文は 217 本、英語で書かれた論文は 2 本である。ここでは、タイ語および日本語で書かれた 論文と著者の関係をみる。その詳細は次の表3.3.5 と表 3.3.6 にまとめてある。 表3.3.5 タイ語で書かれた論文 112 本の著者 (数字=論文本数、( )内=パーセンテージ) タイ人研究者 98 (87.5%) タイ人同士の共同研究 6 (5.3%) タイ人と日本人の共同研究 5 (4.5%) 日本人研究者 3 (2.7%) 表3.3.6 日本語で書かれた論文 217 本の著者 (数字=論文本数、( )内=パーセンテージ) 日本人研究者 148 (68.2%) タイ人研究者 32 (14.8%) 日本人同士の共同研究 24 (11%) タイ人と日本人の共同研究 10 (4.6%) タイ人同士共同研究 2 (0.9%) タイ人でもない日本人でもない 1* (0.5%) マレーシア人 執筆言語と著者の関係は予想通り、タイ人研究者はタイ語で、日本人研究者は日本語で執筆する傾向がある ことがわかった。しかし、タイ人研究者が日本語で執筆した論文も 15%近く見られる。この点は他の国の研 究事情と比べてどうであるか今後注目すべき点であろう。また、今回の調査では英語で執筆された論文は331 本中2 本しか見られず、タイで公開・出版された論文の執筆言語が日本語、タイ語に集中していることがわか った。 4. 考察 4.1 日本語学分野の研究の傾向

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すぎない。年によってその数には増減があるが、全体的にまだ少ないと言わざるを得ないだろう。 表4.1.1 発行年別にみる「日本語学」の論文本数 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 日本語学 の論文数 1 2 4 2 8 3 3 6 7 0 6 これら42 本の研究はどういった内容を扱っているかというと、文法・談話に関するものが最も多く、全体 の7 割を占めている。具体的には格助詞、連体修飾、ヴォイス(自動詞や受身)、テンス・アスペクト、モダ リティ(「わけだ」、否定、疑問表現)や終助詞から、言いさし表現(「から」と「けど」)やコミュニケーショ ン・ストラテジー(お詫びや依頼表現)等まで、多岐にわたっている。 文法・談話研究の他に、社会言語学の研究も多少みられる。具体的には、婉曲表現、コード・スイッチング、 呼びかけ表現、日本語における性差及び日本語の社会言語学研究における方法論を扱うものがあげられる。ま た、分類できない「その他」には『日タイ・バイリンガル児の生育記録』と『タイにおける日本語の受容‐外 国語・外来語としての日本語の姿』がある。 表4.1.2 発行年別、内容別にみる日本語学の論文本数(数字=論文本数) 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 文法・談話(30) 1 1 4 1 6 1 1 4 6 0 5 社会言語学(5) 1 1 2 1 文字・語彙(2) 1 1 漢字(2) 1 1 会話・スピーチ・発音 (音声)(1) 1 その他 1 1 合計 1 2 4 2 8 3 3 6 7 0 6 文法・談話に関する研究は他の分野と比べて圧倒的に多いが、この 10 年間で 30 本という数は極めて少な いと言わざるを得ない。言うまでもなく、社会言語学や文字・語彙、漢字、会話・スピーチ・発音(音声)に ついてもタイ人日本語学習者にとって課題の多い分野であり、タイ人が日本語を学習するのに必要不可欠な知 識であるため、今後より多く研究する必要があろう。 4.2 対照研究分野の研究の傾向 331 本の論文のうち、対照研究は 41 本で、最も少なく、全体の 12.38%である。1986 年から 2009 年まで

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の24 年間で平均すると、1 年に 1.70 本出版・公開されているという計算になる。ただし、表 4.2.1 で示した ように、年代別にみると、1980 年代に 2 本、1990 年代に 4 本、2000 年代に 35 本と、出版は 2000 年代に集 中していることがわかった。21 世紀に入ってからのこの 10 年間では、1 年に平均 3.5 本出版・公開されてお り、80-90 年代と比較すると、飛躍的に増加している。特に 2007 年に出版・公開された論文が多かったのは、 タイ国日本研究国際シンポジウムとタイ国日本研究シンポジウムの発足・開催があったためだと考えられる。 表: 4.2.1 発行年号、内容別にみる対照研究分野の論文本数(数字=論文本数) 研究内 容 1986 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 文法・談 話 (18) 2 2 1 2 1 1 1 5 2 1 社 会 言 語学 (16) 2 1 1 2 2 2 4 2 文字・語 彙(5) 1 3 1 会話・ス ピ ー チ・ 発音(音 声)(1) 1 誤 用 分 析(1) 1 合 計 2 1 0 3 3 1 5 3 4 3 2 9 2 3 80 年 代 (2) 90年代 (4) 2000年代 (35) 対照研究の分野ではその研究内容がすべて、日本語を研究対象としたもので、その研究内容の詳細を見てみ ると、表 4.2.1 で示したように、文法・談話が 18 本で最も多く、対照研究全体の 43.90%を占めている。次 いで社会言語学が 39.02%、文字・語彙が 12.19%、会話・スピーチ・発音(音声)及び誤用分析がそれぞれ 2.43%という順である。

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受益表現(やりもらい)、連体修飾節といったものがある。量的に見ると、ヴォイスに関するものが目立つ。 社会言語学の分野では、コミュニケーション・ストラテジー(お詫び、ほめ言葉、依頼表現など)、若者言 葉、職業名を使った呼び方といったものがあり、社会言語学全体の16 本のうち、コミュニケーション・スト ラテジーが13 本で、特に、謝罪表現に関するものが見立つ。 文字・語彙の分野では、日本語の「気」とタイ語の「cai」の比較といった、語彙の違いについて研究する ものがほとんどである。 論文の種類を見てみると、表 4.2.2 で示したように、「論文」が最も多く、対照研究の全体の 60.97%を占 め、次に多いのは「修了論文」で、対照研究の全体の31.70%を占めている。 表: 4.2.2 論文の種類にみる論文本数と発行年号 1986 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 論 文 (25) 2 1 2 2 1 3 2 1 2 1 4 1 3 修 了 論 文 (13) 1 2 1 3 1 1 3 1 研 究 報 告 (2) 2 研 究 ノ ー ト(1) 1 41 本を研究者別にみると、タイ人研究者によるものが 37 本、日本人研究者によるものが 3 本、タイ人・日 本人の共同研究が1 本である。対照研究の分野では、タイ人が書いたものが圧倒的に多いと言える。ただし、 41 本のうち、14 本(37%)が日本語で書かれたものである。英語で書かれたものも 1 本ある。 以上みてきたように、対照研究分野は論文本数が日本語学と日本語教育と比べると、最も少なく、その研究 内容も日本語学、特に文法・談話に集中している。対照研究の分野では日本人・タイ人の共同研究が極めて少 なく、タイ人の単独研究が多い。以上のことから、日本語研究の今後のさらなる発展のためには、文法に留ま らず、語彙、会話などに関する研究がもっとなされる必要があると言えるだろう。 4.3 日本語教育分野の傾向 ここでは、日本語教育分野の研究に着目して、その傾向を述べる。表3.2.2 で示しているように、日本語教 育分野の論文本数248 本のうちの 35 本が「日本語」そのものを研究対象としているものであり、213 本が「非

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日本語」を研究対象としているものである。日本語教育分野の中では、全体的に「日本語」そのものを研究対 象とする論文は少ないと言える。 次項の表 4.3.1 は日本語教育分野の内容をさらに分類し、その詳細と各年の論文本数を示したものである。 まず、「日本語」を対象とした研究をみると、35 本中、「文法・談話」に関する研究が最も多く 12 本ある。公 開・出版されたのは 2004 年以降であるため、「文法・談話」は比較的新しい研究内容と言える。その次に多 いのは「誤用分析」に関する研究であり、35 本中 11 本ある。1999 年から継続的に公開・出版されている研 究内容である。「会話・スピーチ・発音(音声)」と「文字・語彙」はそれぞれ5 本ずつであり、あまり研究さ れていない研究内容と言える。「作文」は最も少なく、たった2 本しかない。また、「読解」、「漢字」に関する 研究は全くなく、この方面に早急に力を入れる必要があるだろう。以上から日本語教育の分野において「日本 語」そのものを研究対象とする研究内容が少ないということ、また、その研究内容が偏っていることがわかっ た。 213 本の「非日本語」を対象とした研究のうち、最も多いのは「日本語教育機関」に関するものである。そ の中で、「シラバス・カリキュラム・コース設計」および「機関調査」を取り上げている研究が半分以上であ る。これに対して、「テスト・評価」は最も少なく3 本しかない。これは、新しい日本語能力試験の開発や国 際交流基金のJF スタンダードの開発が話題になっている今の日本語教育の流れでは、少ない数字であると言 わざるを得ない。 「日本語教育機関」の次に多く見られるのは「学習者」に関する研究内容である。「学習者」に関する研究 内容はさらに、「クラス・タスクおよび授業システム改善」、「ストラテジー・学習スタイル・心理的情緒的な 側面」、「習得」、「学習者の問題」に分類できる。その中で、「クラス・タスクおよび授業システム改善」につ いての研究内容が半分を占めている。その次に多いのは「ストラテジー・学習スタイル・心理的情緒的な側面」 に関する研究内容である。2008 年と 2009 年にこの研究内容が急増しているのは注目すべき点である。今後 こうした方面の研究内容がもっと出てくる可能性があるだろう。最も少ないのは「習得」と「学習者の問題点」 を取り上げる研究である。いずれも2002 年から研究され始めた研究内容である。 次に多く見られるのは「教師」に関する研究内容である。この内容はさらに「教授法・指導法」と「教師教 育」の2 つに分類できる。その次は、「リソース」に関する研究内容である。「教材作成・改善」「設備・シス テム・ソフト」に関する内容がある。最も少ない研究内容は、「日本語教育全体」と「その他」である。日本 語教育の話題を取り上げてその概要や事情を説明したりする内容である。 以上みてきたように、「非日本語」研究では、「機関」、「学習者」、「教師」、「リソース」の順に多く研究がな されている。「機関」に関する内容が最も多いのは、1980 年代後半から各地域の「ラチャパット大学(各地の 教員養成大学から発展した地域密着型大学)」において、次々に日本語講座が開設されていることに関係があ ると思われる。

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表4.3.1 発行年別・内容別にみる日本語教育分野の論文本数(数字=論文本数) 日本語/ 非日本 語 詳細 88 年 98 年 99 年 00 年 01 年 02 年 03 年 04 年 05 年 06 年 07 年 08 年 09 年 文法・談話 (12) 4 1 3 3 1 誤用分析(11) 2 2 1 1 1 1 2 1 会話・スピーチ・発音(音声)(5) 1 1 2 1 文字・語彙(5) 1 1 1 1 1 日本語 (35) 作文(2) 1 1 シラバス・カリキュラム・ コース設計(23) 2 2 1 1 2 4 2 2 1 2 1 3 機関調査(20) 1 1 3 3 2 1 3 3 3 機関・研究会の紹介と 活動(15) 1 2 1 1 2 2 2 2 2 日本語教育史(14) 1 1 1 4 3 3 1 機関(75) テスト・評価(3) 1 1 1 クラス・タスク・ 授業システム改善(36) 4 1 2 3 1 2 3 9 6 4 1 ストラテジー・学習スタ イル・心理的情緒的な側 面(23) 2 1 1 2 2 7 8 習得(7) 2 3 2 学習者(72) 学習者の問題点(6) 1 2 1 1 1 教授法・指導法(20) 1 3 1 1 1 4 5 3 1 教師(35) 教師教育(15) 2 2 1 2 2 3 3 教材作成・改善(17) 1 1 1 1 3 2 2 3 3 リソース(25) 設備・システム・ ソフト(8) 1 2 1 1 3 教育全体(5) 1 2 1 1 非日本 語(213) その他(1) 1 注:1) 年号は 1988 の 19 や 2000 の 20 を省略する。 2) 1989 年から 1997 年の間、論文本数が 0 であるため、その期間内の情報を割愛した。

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以上、日本語教育分野の研究内容の傾向を考察した。「日本語」そのものと関係する研究内容が少ないこと が今後のタイの日本語研究の課題であろう。特に、「音声」、「作文」、「読解」、「漢字」に関する研究内容はこ れから必要になってくると思われる。「非日本語」の研究に関しては、研究者の興味の方向が学習者に向かっ ていることがうかがえるが、今後「機関」に関する研究にとどまらず、幅の広い研究内容への拡大が望まれる。 5.終わりに 以上、1986 年から 2009 年までにタイ国内で出版・公開された研究を対象にして、タイにおける日本語研 究の傾向を考察した。 量的にみて1998 年を境に増加したが、日本人の方が数多く出版・公開している。また、日本語教育分野の 研究、特に応用研究が多いのに対し、日本語学、対照研究が比較的少ない。したがって、日本語学、対照研究 の分野の更なる充実が求められる。 質的にみても、研究内容が学習ストラテジーや表現といった偏った項目に集中している。また、応用研究の 多くは調査研究にとどまっている。そのため、今後はより多様な内容の研究、及び基礎研究を取り入れた分析 的研究が求められる。 国立大学などでは、論文を投稿することが修士課程修了の条件として設けられるようになったことと、修士 課程の開設を計画している大学も増えてきていることから、これからは大学院の修了論文及び投稿論文が増加 すると予想される。今後の展開を考えるならば、数的な増加を目指すことも重要であるが、質的な向上も重要 な課題である。タイにおける日本語研究が次の段階に進むためには、偏った研究内容に集中せずに、幅広い内 容の研究の充実を図ることが不可欠である。また、タイ人研究者の育成と同時に、機関および国籍を越えた、 日本人・タイ人の共同研究の増加が今後の日本語研究の発展につながると考える。 謝辞

この論文報告書のためのデータベースはCenter of Excellency Program on Language, Linguistics and Literature, Faculty of Arts, Chulalongkorn University の研究費補助金を受けて作成されました。ここに深く謝意を表します。

引用文献

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Sida Sonsri (2008) “Trends of Japanese Studies in Thailand :Review from the past” Japanese Studies Journal. Vol.25,No.1,Institute of East Asian Studies. Thammasat University.pp.31-47.

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図 2.1                                                                                                                                         1) 日本語学                2) 対照研究   文法・談話  読解  作文   会話・スピーチ・発音(音声)  文字・語彙  漢字   誤用分析   社会言語学   その他  日本語  3)  日本語教育
表 3.1.5    発行年別にみる修了論文の数 発行年  1999  2000  2001  2002  2003  2004  2005  2006  2007  2008  2009  合計  修了  論文数 1  2  4  2  4  5  3  2  6  5  4  38  表 3.1.6    発行された紀要・報告書別および発行年別にみる論文本数 *    大学紀要は入手可能であったチュラーロンコーン大学文学部紀要及びタマサート大学教養学部の紀要のみ。    表 3.1.6 から、大学院生だ
表   3.2.1    発行年別にみられる各分野の論文本数 (一番上の数字=発行年、表内の数字=論文本数) 1986  1988  1997  1998  1999  2000  2001  2002  2003  2004  2005  2006  2007  2008  2009  合計  日本語学  0  0  0  0  1  2  4  2  8  3  3  6  7  0  6  42  対照研究 2  0  1  0  3  3  1  5  3  4  3  2  9  2  3  41
表 3.2.3    発行年別にみられる「日本語」研究と「非日本語」研究の論文本数 1986  1988  1997  1998  1999  2000  2001  2002  2003  2004  2005  2006  2007  2008  2009  合計 日本語 2  0  1  2  7  7  6  9  12  13  11  13  24  4  9  118  非日本語 0  1  0  16  11  5  14  12  8  13  19  23  34  32  25  21
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