意匠制度と3Dプリンター
3
0
0
全文
(2) デザイン学研究特集号 Vol.25-2 No.98. 3.議論の前提 欧州共同体意匠規則20条⑴(a)と欧州共同体意匠指令13条⑴(a)は、それぞ. れ、「私的に、非商業目的で行われる行為」には意匠権の行使はできないと 規定している。この規定は、個人的・家庭的な実施にまで意匠権の権利行使 を認めるのは適切ではなく、意匠権は市場における利用においてのみ保護さ れるという趣旨でおかれている。我が国では「業として」の解釈で検討され る点であるが、欧州では当該規定により、3D プリンターによる個人的・家. 庭的な実施には意匠権侵害を問えないということになる。なお、本規定につ いての欧州司法裁判所の裁判例はこれまで存在しない7)。 一方で、TRIPs 協定は、その26条⑵において意匠の保護の例外について、. 「加盟国は、第三者の正当な利益を考慮し、意匠の保護について限定的な例. 外を定めることができる。ただし、保護されている意匠の通常の実施を不当 に妨げず、かつ、保護されている意匠の権利者の正当な利益を不当に害さな いことを条件とする」と規定している。このように、TRIPs 協定においては、. 意匠における three-step test が存在している。. 4.3つの視点 こうした法的な前提と、3D プリンターが有する利益とリスクの利益衡量. に基づいて、リーガルレビューでは以下の3つの観点から3D プリンターと. 意匠法との関係を検討している。. まず、著作権に関する情報社会指令の「公正な補償」の観点である。2001 年の情報社会指令は8)、デジタル環境における権利者の著作物のコントロー ルと例外規定のバランスを考慮し、5条2(b)で構成国に公正な補償を伴っ た私的利用における複製権の制限を認めている。一方で、先に述べたよう. に、欧州共同体意匠規則および指令は、意匠の個人的・家庭的実施に対する 例外を認めつつも補償金の支払いは必要としていない。 次が、「私的に、非商業目的で行われる行為」の観点である。現在のとこ ろ3D プリンターは、個人による実施も限定的な範囲にとどまっているが、. 将来的にはこうした個人的実施が爆発的に拡大する可能性がある。. 最後が、仲介業者の責任の観点である。3D プリンターのエンドユーザー. への権利行使は、通常その行為が1ヶ所で集中的に行われるものではないこ とから現実的にはかなり困難である。一方で、エンドユーザーの設計図のダ ウンロードを容易にするサイトの提供者や、エンドユーザーの発注に応じて 製品をプリントアウトする業者などの仲介業者がすでに多く存在している。 そこで、著作権の分野で検討されてきたインターネットサービスプロバイ ダーに対する責任の議論を、仲介業者にも援用できるかが問題とされて いる。. 5.4つの推奨策 リーガルレビューでは、以上の3つの観点から、3D プリンターと意匠法. との関係で4つの方策が推奨されている。. 1つ目の推奨が、個人的・家庭的実施の制限である。これは、エンドユー 7)LR p.129.. 8)Directive 2001/29/EC of the European Parliament and of. the Council of 22 May 2001 on the harmonization of. certain aspects of copyright and related rights in the information society.. ザーに対する権利行使を意図するものである。そこでは、TRIPs 協定の. three-step test に示される「意匠の通常の実施を不当に妨げない行為」に3D プリンティングという行為が該当しないという解釈を採用することで、「私. 的、かつ非商業的な」実施は意匠権を侵害しないという例外規定の範囲を制. 107.
(3) 108. 特集:各国におけるデザイン保護法制. 限する可能性の検討が推奨されている。言い換えれば、3D プリンティング. は、 「意匠の通常の実施を不当に妨げる」ので three-step test の要件を満たさ. ないことから、「私的、かつ非商業的な」実施には該当しないと解釈できる かを検討すべきだというわけである。 2つ目の推奨が、擬制侵害規定の創設である。これは、仲介業者に対する 権利行使の可能性を意図するものである。1975年に署名された共同体特許条 約(Community Patent Convention)の26条のように、3D プリンティングの. ためのファイルのアップロードを防ぐことなどを目的に、私的領域における 実施に対する擬制侵害規定(我が国の意匠法でいうところの間接侵害規定: 38条)を設けることが推奨されている。 3つ目の推奨も、仲介業者の責任の創設である。追加的または代替的な救 済手段として、意匠侵害を可能とする行為を行っている仲介業者に責任を負 わせる規定を導入することが推奨されている。立法モデルとしては、著作権 者の許諾を得ることなく、著作権により規制される行為を他の者に許諾する 行為を著作権侵害とする、イギリス著作権法16条⑵が想定されている。 4つ目の推奨は、侵害行為自体についての検討である。上記の仲介業者に 対する権利行使を意図した推奨は、技術の進歩により、エンドユーザーが自 身で対象物をスキャンして3D プリントできる場合には意味をなさなくなる. 可能性がある。そのため、権利者の許諾なく3D データたる設計図を作成す. ること自体を意匠権の侵害行為に含めるという、意匠権侵害の定義の拡大が 有効かどうかを検討することが推奨されている9)。. 6.おわりに 以上のように、欧州では3D プリンターに代表されるデザイン環境の変化. への対応策の検討も行われているが、紹介した2つのレビューもあくまで委 託調査であることから欧州委員会そのものの見解というわけではなく、議論 は始まったばかりという状況である。デザイン環境の変化に対し、欧州意匠 9)なお、意匠法に限定するわけではないが、平成28年度 特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書として「AI. を活用した創作や3D プリンティング用データの産業. 保護法制がどのような方向に向かうのかは、今後も注視していく必要が ある。. 財産権法上の保護の在り方に関する調査研究報告書」 (一般財団法人 知的財産研究教育財団 知的財産研究 所、2017年)が発行されている。そこでは、3D デー タの取り扱いについて、間接侵害に該当するかは当該 データがプログラム等に該当するかが問題とされ(同 報告書89頁以下)、3D データについては必ずしも全. てがプログラム等に該当するわけではないが(同報告 書99頁)、プログラム等に該当すれば間接侵害を問え るとしている(同報告書100頁)。ただし、結論として は「3D データの自由な流通を求める者の声も考慮し. つつ、慎重に議論を進める必要があると考えられる」 (同報告書101頁)としており、わが国でも検討は始 まった段階にすぎないといえよう(こうした検討は、 平成28年4月に公開された知的財産戦略本部 検証・ 評価・企画委員会 次世代知財システム検討委員会「次 世代知財システム検討委員会報告書 デジタル・ネッ トワーク化に対応する次世代知財システム構築に向け て 」31頁以下でも若干触れられている)。 また、3D プリンターと意匠法との関係における最. 近の論文として、青木広也「3D データとしてのデザ. インの保護と意匠法 3D スキャナ・3D プリンタを. 素材に 」特許研究63号(2017年)37頁以下、水野祐. 「3D データが知的財産法に提起する課題∼純粋/応. 用美術あるいは平面/立体の区別を超えて∼」パテン ト70巻2号(2017年)40頁。. [附記]本研究は JSPS 科研費26282006、17H01942の助成を受けたものであり、 九州大学基金長期海外派遣支援、末延財団在外研究支援奨学金、電気通信普及財 団長期海外研究援助、KDDI 財団研究助成の研究成果の一部である。.
(4)
関連したドキュメント
メラが必要であるため連続的な変化を捉えることが不
いかなる使用の文脈においても「知る」が同じ意味論的値を持つことを認め、(2)によって
ところで、ドイツでは、目的が明確に定められている制度的場面において、接触の開始
このように資本主義経済における競争の作用を二つに分けたうえで, 『資本
第四章では、APNP による OATP2B1 発現抑制における、高分子の関与を示す事を目 的とした。APNP による OATP2B1 発現抑制は OATP2B1 遺伝子の 3’UTR
アナログ規制を横断的に見直すことは、結果として、規制の様々な分野にお
県民のリサイクルに対する意識の高揚や活動の定着化を図ることを目的に、「環境を守り、資源を
また,この領域では透水性の高い地 質構造に対して効果的にグラウト孔 を配置するために,カバーロックと