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アルツハイマー病の画像診断―voxel-based morphometryと人工知能によるアルツハイマー病スコアの有用性

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Academic year: 2021

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(1)

はじめに

 Voxel-based morphometry(VBM)は脳の 3 次元画像を 標準座標系〔MNI(Montreal Neurological Institute)座標〕 に登録し局所の体積を統計的に解析するもので,その 手法は英国 Wellcome Trust Center で開発されている SPM(statistical parametric mapping)が基礎となってい

る1).SPM は functional MR 研究を中心に開発され,対 象は比較的若い健常脳を想定してプログラムされた経 緯があり,VBM のように高齢脳や萎縮脳の場合には MNIへの登録が不完全であることが問題であった.こ れに対し affine 変換を事前に行い非線形時の変形を小 さくする工夫や段階的に精度の高い空間に変形を繰り 返す DARTEL(diffeomorphic anatomical registration through exponentiated Lie algebra)が開発され,今日では

VBMは SPM の一つのユニットとして扱われるように

なっている.

 VBM の基本はグループ間比較であり,統計には多 重比較検定における random field theory(RFT)の理論や これに替わる permutation test などの知識が必要とな る.しかしながら本稿では 1 例ごとの診断補助として の有用性を検討するもので,通常の VBM の統計手法 1滋賀医科大学神経難病研究センター MR 医学研究部門 2立命館大学情報理工学部メディア情報学科 3産業技術総合研究所人工知能センター〒 520-2192 滋賀県大津市瀬田月輪町TEL: 077-548-2943E-mail: shiino@belle.shiga-med.ac.jpdoi: 10.16977/cbfm.28.2_303

アルツハイマー病の画像診断

―voxel-based morphometry と人工知能による

アルツハイマー病スコアの有用性

椎野 顯彦

1*

,岩本祐太郎

2

,韓  先花

3

,陳  延偉

2 要  旨

 Voxel-based morphometry(VBM)は MRI 画像から脳の局所的な体積を統計学的に解析するもので,z 値とし て画像表記する手法は SPECT における eZIS(easy z-score imaging system)や iSSP(interface software of 3D-SSP) と共通している.今回我々は VBM 統合ソフトである BAAD(Brain Anatomical Analysis using Diffeomorphic deformation)に人工知能(AI(artificial intelligence))を搭載し,複数の関心領域の情報からアルツハイマー病 (Alzheimer s disease: AD)である確率を ADS(Alzheimer s disease score)として提示させた.AI は RBF(radial

basis function)カーネルによる SVM(support vector machine)を基本とし,スラック変数と境界マージン緩和の調 整のための学習には北米の ADNI(Alzheimer s disease neuroimaging initiative)データベース(AD=314,健常者 =386)を用い,交差検証には leave-one-out 法を用いた.これによる ADS の正答率と検査後オッズは 89.6%, 134.1であった.適合性の評価としてオーストラリアの AIBL(Australian imaging, biomarker & life style flagship study of ageing)データベース(AD=72,健常者=447)を用い VSRAD(voxel-based specific regional analysis system for Alzheimer s disease)と比較した.ADS の正答率と検査後オッズは 86.1%と 47.9 で,VSRAD の 84.8%と 14.9 に比べて高い予測能力を示した.人工知能は多くの情報量を単純化することによって,日常診療における診断 のサポートに役立つことが期待できる.本稿では VBM の概要を紹介し,ADS の有用性についての検証結果を 報告する.

(脳循環代謝 28:303∼308,2017)

(2)

とは異なることをまず確認しておきたい.採血検査で は正常値の上限 下限が設定されているが,VBM にお いてはボクセルの z 値(正規分布における標準偏差)が これに相当する.さらにボクセルには位置情報があ り,これに対して関心領域(ROI)を設定して解析する こ と に な る.VSRAD で は ア ル ツ ハ イ マ ー 病(Alz-heimer s disease: AD)から得られた両側の側頭葉内側に

ROIを設定してその z 値を表記するが2),本来 VBM は全脳にわたる z 値の情報を保有しているため複数の ROIを利用することが可能である.一般に情報量(ROI 数)が多いほど予測精度は高くなるが,複数の ROI の 結果の羅列では解釈が難しい.このため人工知能を用 いてわかりやすい情報として提示する工夫が必要とな る.我々が開発している BAAD(Brain Anatomical Anal-ysis using Diffeomorphic deformation)3)では ROI を 300 以上も保有し,これらの情報を機械学習させることに より AD である確率値をアルツハイマー病スコア (ADS)として提示するようにした.本稿では機械学習 の概要と ADS の有用性の検証をオープンデータソー スで実施しその効果を VSRAD と比較した.

1.Brain Anatomical Analysis using

Diffeomorphic deformation(BAAD)

 BAAD(バード)は VBM 研究のための統合支援ソフ トであり,VBM 以外にも tensor-based morphometry (TBM)や surface-based morphometry(SBM)の研究にも 用いることができる.また MATLABⓇを導入すること なく SPM12 が使えるなど多くの機能を備えている. 対照群として SPM の開発に利用されている IXI デー タベースを用いて 20 歳代から 80 歳代までを用意し, 1症例ごとの z 値マップと ROI ごとの計算を実施す る.ROI は AAL,Brodmann,LBPA[LONI(laboratory of neuro imaging) probabilistic brain atlas]40 を標準で備 え,ユーザが独自の ROI を作成しカスタム ROI とし て BAAD に搭載することも可能である.ROI の計算 は SPM から得られる ROI 内ボクセルの平均値ではな く,ROI ごとに再計算することにより誤差の影響を少 なくするよう工夫されている.このため 1 例当たりの 計算は VSRAD の約 2 倍の時間が必要であるが,解析 に使われる際の空間情報量は VSRAD の 4 倍あり相対 的な解析処理のスピードは BAAD の方が早いとも言 える(Table 1).BAAD で最も時間を必要としている作 業はセグメンテーションであり,SPM よりも病変の情 報を忠実に保つよう工夫されている.最新のバージョ ン(4.2)では FLAIR 画像を 3DT1 強調画像で補間して 白質病変の灰白質への混入を自動的に補正するととも に,脳ドックや公衆衛生の研究用に領域ごとの白質病 変の体積や側脳室の体積計算も行っている.OS(Win-dows)の言語によって日本語と英語が自動的に切り替 わるように工夫されている.

Inference Single ROI Multi-ROIs SVM (ADS)

4.10

        regional volume (ml) Time/subject 4–5 min 9–10 min

セグメンテーションアルゴリズムが BAAD と SPM では大きく異なる.計算時間 は Windows10,CPU はインテル Core i7 使用を使用したときの目安を示す. VSRAD: voxel-based specific regional analysis system for Alzheimer s disease, BAAD: Brain Anatomical Analysis using Diffeomorphic deformation, SPM: statistical paramet-ric mapping, CAT: computational anatomy toolbox for SPM, LAS: local adaptive seg-mentation, LST: lesion segmentation tool, DARTEL: diffeomorphic anatomical registra-tion through exponentiated Lie algebra, SVM: support vector machine, ADS: Alzheimer s disease score

(3)

2.SVM(support vector machine)

による機械学習

 機械学習は数多くのデータから有用な判別境界を見 つけ効率よく組み合わせることによってコンピュー ター上のアルゴリズムを発展させるもので,人工知能 のコアとなっている.ヒトの脳の作業も言わば判別の 繰り返しであり,その中から正しい答えを導き出す過 程は機械学習による判別作業の組み合わせと共通して いる.BAAD の人工知能は滋賀医科大学と立命館大学 が共同で開発しているが,本稿ではその概要を記述す る.サポートベクターマシン(SVM)のカーネルには標 準的な radial basis function(RBF)を用いているが,この カーネルは分離の精度に影響するスラック変数とその 過学習を防ぐための許容度を決める 2 つのパラメー ターからなり,これらのパラメーターの最適な解を得 るための工夫がされている.  ここで A 集団と N 集団を分離する課題を想定して みる(Fig. 1).2 次元空間において自由に境界線を引く (スラック変数が小さい)場合には完全な分離が可能で あるが,この境界線はこのモデル特異的で普遍性がな い(過学習である).そこで滑らかな境界線を引こうと するが,2 次元空間では適当な境界線が見つからない ことがある.ここでもし Fig. 1 のように 2 次元空間の プロットが 3 次元的に配置されているとすると滑らか な境界面が得られる可能性のあることを想像して欲し い.SVM においてはベクターの内積を用いて高次元 空間で分離境界を探していると考えると,空間を歪め ることによりあたかも境界領域に位置するプロットを 移動させる(サポートベクター)に等しい効果が得られ ることになる.ただしこのままでは過学習の可能性が あるため,訓練グループと試験グループに分けて交差 検証を繰り返しながら学習しサポートベクターと境界 面の距離をできるだけ大きくとるようにしている. BAADでは交差検証に leave-one-out を用いて前述の 2 つのパラメーターの最適値を求めている.

3.アルツハイマー病スコア(ADS)

 ADS のための学習は北米 ADNI データベースから得 られた MRI 画像を用いた.対象は AD 314 例,健常者 386例.AAL(automated anatomical labeling),Brod-mann,LPBA40 ごとに学習した結果を BAAD の ADS として表記するようにした.ADS は 1 に近いほど AD である確率が高く,0 に近いほど健常者である確率が 高いことになるが両者の鑑別のための閾値は設定され ていない.これは MR 画像のみで AD の絶対的診断は できないものであり,示唆できるものは確率以外には な い か ら で あ る. 参 考 ま で に AAL に よ る ADS と VSRAD(advance2)における AUC(area under the reciver operator curve)の結果を Fig. 2a に提示した.正答率は BAADで 89.6%,VSRAD で 79.9%であった.ADNI 研究で髄液や PET など MRI を含めて複数のバイオ Fig. 1.サポートベクターマシン(SVM)による識別と汎化調整 A集団をオレンジ,N 集団をブルーで模擬的にプロットしている.両集団を分離する境界線を自由に引くと完璧 な分離が可能であるが,この境界線は過学習の状態で汎化性能に乏しい(a).滑らかな境界面を得るためには,超 次元空間で分離して汎化性を確保する.境界面付近のベクターをサポートベクターと呼び,空間の歪みのためこ れらのベクターが移動したように見える(b). a b

(4)

マーカーを用いた際の判別正答率が 87.7%であるとの 報告があり4)BAADの ADS による 89.6%はかなり高い 値と思われる.Odds 比は検査対象集団の有病率の影 響を受けないものであり,その値は検査で AD と予測 された場合の相対リスクに相当する.  次に北米 ADNI で学習した状態でオーストラリアの

ADNIである AIBL の症例を BAAD で解析した結果を

Fig. 2bに提示した.対象は AD 72 例,健常者 447 例 で北米 ADNI と比べると健常者の割合が多い(有病率 が 低 い)構 成 に な っ て い る.ADS に よ る AUC は 93.55%, 正 答 率 は 86.1%, 検 査 後 オ ッ ズ は 47.9 で あった.VSRAD で解析すると,AUC は 84.23%,正 答率は 84.8%,検査後オッズは 14.9 であった.AIBL に対しては AI の初期値の成績であり学習にともない 予測精度は高くなるはずで,今後 J-ADNI においても 解析する予定である.

4.症例提示

 56 歳女性で数カ月前から経験記憶の問題があるため 受診.MMSE=28,SPECT ではごく軽微は左半球の血 流 低 下.VSRAD は 1.36 で あ る の に 対 し BAAD の ADSは 0.944 と高値であった.この時点での WMSR

(Wecheler memory scale-reviced)で遅延再生の指標が 50 以下と認知症である可能性が示唆された.3 年後の VSRADは 2.51,ADS は 0.977 であった(Fig. 3).少な くとも BAAD は VSRAD よりも早期に AD の可能性を 示唆している結果であった.

おわりに

 人工知能は画像診断に大きく貢献する可能性がある が予測結果はあくまでも参考であることを前提として おり,人工知能の結果が勝手に一人歩きしないように 注意したい.機械学習はこれまでの一般的な統計とは 異なる手法で数多くのデータを容易に扱うことを可能 にしており,VBM の分野においても AD 以外の様々 な疾患の診断補助に有用と思われる.BAAD の詳細は http://www.shiga-med.ac.jp/~hqbioph/BAAD/Welcome_to_ BAAD.htmlを参照されたい.  本論文の発表に関して,開示すべき COI はない.

Sensitivity:96.2%

Specificity:84.2%

Accuracy:89.6%

Diagnostic odds

ratio:134.1

Sensitivity:69.6%

Specificity:89.9%

Accuracy:79.9%

Diagnostic odds

ratio:20.4

Sensitivity:88.9%

Specificity:85.7%

Accuracy:86.1%

Diagnostic odds

ratio:47.9

Sensitivity:68.1%

Specificity:84.5%

Accuracy:84.8%

Diagnostic odds

ratio:14.9

Fig. 2.ADS の有用性の検証と VSRAD との比較

BAADの AI に北米 ADNI データを学習させ,AIBL でその有効性を検証した.有病率に影響されないオッズ比で比べ ると,BAAD が 47.9 倍であるのに対し VSRAD では 14.9 倍であった.

(5)

文  献

1) Ashburner J: Computational anatomy with the SPM soft-ware. Magn Reson Imaging 27: 1163–1174, 2009

2) Matsuda H: MRI morphometry in Alzheimer s disease. Ageing Res Rev 30: 17–24, 2016

3) 椎野顯彦:Voxel based morphometry(VBM)の基本的

概念と支援ソフト BAAD の有用性の検討.臨床神経 学 53: 1091–1093, 2013

4) Martínez-Torteya A, Treviño V, Tamez-Peña JG: Improved diagnostic multimodal biomarkers for Alzheim er s disease and mild cognitive impairment. Biomed Res Int 2015: 2015, 961314

56歳 59歳

BAADのADSでは56歳の時にすでに high score (Max=1.0)

進行することを示唆 3年後に2SDを超える値 VSRADでは1SDを少し超える値 L R L L R R Fig. 3.症例提示 56歳女性.発症時の VSRAD の z 値は 1.36 であるのに対し,ADS では 0.944 とアルツハイマー病であることが高い確 率であることを示唆した.3 年後の再検査では VSRAD も 2.51 と高い z 値を示している.右下の MR 画像は発症時の T1強調画像.

(6)

3

National Institute of Advanced Industrial Science and Technology,

Artificial Intelligence Research Center, Tokyo, Japan

Voxel-based morphometry (VBM) uses structural MRI data to investigate brain region volumes in

a voxel-wise manner, not unlike computing z-scores in SPECT using eZIS or iSSP. Recently, we added

artificial intelligence (AI) to our software “BAAD” (Brain Anatomical Analysis using Diffeomorphic

deformation) that was originally developed to support diagnosis of Alzheimer’s disease (AD). The AI

combines support vector machine (SVM) with a radial basis function (RBF) kernel, and cost functions

and slack variables were optimized using data from the ADNI database (314 cases, 386 healthy controls).

The probability of AD is computed by BAAD from the set of all regions of interest and is shown as an

AD score (ADS). The accuracy and post-diagnostic odds ratio using BAAD AD scores were assessed at

89.6% and 134.1, respectively. We used the AIBL database (72 AD cases, 447 healthy controls) as an

application phase for validation by comparison to results from VSRAD (voxel-based specific regional

analysis system for AD) software. The accuracy and the post-diagnostic odds ratio for AD scores were

86.1% and 47.9 for BAAD but 84.8% and 14.9 for VSRAD. This suggests that the BAAD approach more

fully exploits the potential of structural analysis to support AD diagnosis.

参照

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