日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-60 240
-大学生の自閉スペクトラム症傾向と被援助志向性と精神的健康の関連
――メンタルヘルスリテラシーと感情コンピテンスを介した検討――
○長田 有里子1)、金澤 潤一郎2) 1 )北海道医療大学大学院心理科学研究科、 2 )北海道医療大学心理科学部 【問題と目的】 発達障がいを持つ学生の支援において, 本人に ニーズがなく支援に繋がらないケースが少なくない (高橋, 2010)。適切な援助を受けられないことで二次 障害に繋がることが指摘されており, 自閉スペクトラ ム症傾向 (以下, ASD傾向) が高い大学生ほど, 精神 的健康度が低く (伊勢・十一, 2014), 精神疾患に発 展する可能性が高いとされている (Shattuck et al., 2012)。よって, 大学生活で問題が生じたときにASD傾 向が高い大学生が自主的に援助要請をすることは, 精 神的健康の維持・増進に重要である。 援助要請の概念には, 援助を受けることに対する態 度や考え方である援助要請態度や相談することに対す る意思決定である援助要請意図, 援助要請意志など 様々な概念があり, これらの複数の援助要請を包括し た概念として, 被援助志向性がある。被援助志向性と は, 「個人が, 情緒的, 行動的問題および現実生活に おける中心的な問題で, メンタルヘルスサービスの専 門家, 教師などの援助者および友人・家族などの援助 者に援助を求めるかどうかについての認知的枠組み」 を指す (水野・石隈, 1999)。 被援助志向性を促進する変数として, 直接学生に介 入可能なメンタルへルスリテラシーと感情コンピテン スがある。メンタルヘルスリテラシーの高さが援助要 請の概念の 1 つである援助要請意図の高さと関連して いることが示唆されている (Bonnabi et al., 2016)。 感情コンピテンスにおいても, 感情コンピテンスの一 部である自分の感情調節及び周囲の他者の感情理解が できるほど専門家への被援助志向性が高いことが示唆 されている (水野・山口, 2009)。 本研究では, 大学生のASD傾向がメンタルへルスリ テラシーと感情コンピテンスを介して被援助志向性及 び精神的健康とどのように影響を与えているかを検討 する。これらを検討することにより, ASD傾向を持つ 大学生の援助要請を促進し, 精神的健康の維持・増進 のための支援の一助となると考える。 【方 法】 研究協力者:地方大学に所属する大学生400名に質問 紙を配布した。その内, 回答に不備があったものを除 く309名を分析対象とした。研究協力者の年齢は, 平 均19.40±1.52歳 (女性214名, 男性95名) であった。 調査材料:( a )フェイスシート(性別,学部,年齢), ( b )特性被援助志向性尺度 (田村・石隈, 2006) を 用いて被援助志向性を測定した。( c )情動コンピテ ンスプロフィール日本語短縮版 (野崎・小安, 2015) を 用 い て 大 学 生 の 感 情 コ ン ピ テ ン ス を 測 定 し た。 ( d )K 6 質 問 票 日 本 語 版 (F u r u k a w a , K e s s l e r , Andrews & Slade, 2003) を用いて精神的健康度を測 定した。( e )自閉スペクトラム指数日本語版10項目 版 短 縮 版 (AQ- J -10; Kurita, Koyama & Osada, 2005) を用いてASD傾向を測定した。( f )メンタルヘ ルスリテラシー尺度 (坂上・岡村・山上, 2013) を用 いて大学生のメンタルへルスリテラシーを測定した。 手続き:本調査は, 北海道医療大学心理科学部・心理 学研究科倫理委員会による承認を得た上で実施した。 調査への協力が得られた教員の担当する授業終了後に 本調査の目的,意義,方法,個人情報の取り扱いにつ いて理解し合意を得られた方のみの質問紙への回答を 求めた。統計解析:尺度間の相関についてはピアソン の積率相関係数を用いた。ASD傾向がメンタルへルス リテラシー及び感情コンピテンスを介して被援助志向 性と精神的健康に与える影響の検討にはパス解析を用 いた。 【結 果】 ASD傾向がメンタルへルスリテラシーと感情コンピ テンスを介して被援助志向性及び精神的健康にどのよ うに影響しているかを検討するためにパス解析を 行った (Figure)。まず, ASD傾向は, 感情コンピテン ス (β=-.40, p <.001) に有意な負のパス係数が示 唆され示唆されたが, メンタルへルスリテラシー (β=-.04, n.s. ) への有意な影響は見られなかっ た。次に, 感情コンピテンス (β=.21, p <.001), 及 びメンタルへルスリテラシー (β=.11, p <.05) に, 被援助志向性と有意な正のパス係数が示唆された。最 後に, 被援助志向性 (β=-.27, p <.001) は, 精神 的健康に有意な負のパス係数が示唆された。モデル適 合度は, GFI=.96, AGFI=.87と概ね良好な値であっ た。 これらから, 第一に, ASD傾向が高くなるほど感情 コンピテンス及び精神的健康が低下する可能性, 第二 に, メンタルへルスリテラシーと感情コンピテンスが 高くなるほど被援助志向性が向上し, 被援助志向性が日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-60 241 -向上することで精神的健康が高くなる可能性が示唆さ れた。 【考 察】 本研究の結果により, ASD傾向が高くなるにつれ, 感情コンピテンスが低下し, 被援助志向性と精神的健 康が低下する可能性が示唆された。また, メンタルヘ ルスリテラシーが高くなるにつれ, 被援助志向性と精 神的健康が向上する可能性が示唆された。実際の学生 支援において, ASD傾向を持つ大学生の援助要請を促 進する方法を考える際, ASD特性自体を変容すること は困難である。だが, 自分や他者の感情をマネジメン トする力である感情コンピテンスに介入を行うこと で, 援助要請を促進し, 間接的に精神的健康の向上に 繋がる可能性がある。感情コンピテンスを高める介入 として, 認知行動療法の技法であるマインドフルネス ト レ ー ニ ン グ (Horn et al., 2013; Lawlor & Schonert-Reiichi, 2010) や感情コンピテンスの一部 の感情調節に対して, 問題解決療法が用いられている (Nezu, Nezu, & D'Zurilla, 2013)。これらの介入を
入学当初の導入講義などで実施することで, ASD傾向 を持つ大学生の被援助志向性と精神的健康の向上に繋 がる可能性がある。 一方で, ASD傾向からメンタルへルスリテラシーへ の影響において, 有意な影響は見られなかったが, メ ンタルヘルスリテラシーから, 被援助志向性に正の影 響が示唆された。この結果から, ASD傾向の程度に関 わらず, 大学生全般においてメンタルへルスリテラ シーを高めることで, 被援助志向性及び精神的健康の 向上に繋がる可能性がある。大学内で実施可能なメン タルヘルスリテラシーを高める方法として心理教育が 挙げられる。具体的には, 大学の講義の中で専門家が 心理教育を実施する方法や冊子などによる情報提供を 行う方法がある (中岡・兒玉・栗田, 2012)。これら の方法を大学で実施することで, 大学生全般に対し て, 被援助志向性と精神的健康を高めることに繋がる 可能性がある。 本研究では, 研究協力者が医療系大学のため, 大学 生全般においても本研究の結果が同じように当てはま るとは限らない。そのため, 医療系ではない学部のあ る大学も含めた調査が必要であると言える。また, 本 研究は個人内要因にのみ焦点を当てており, ASD者が 援助要請を行いやすくなるような他者からの関わりや サポート体制といった個人外要因については未検討で あり, 今後はASD傾向を持つ大学生の環境設定に着目 した検討が必要と言える。