Japanese Physical Therapy Association
NII-Electronic Library Service
Japanese Physioal Therapy Assooiation理 学療法 学
第
39
巻 第27i
l20
〜
121
頁 (2012年 )平 成
22
年
度 研 究 助成 報 告 書
肥
満
症
の
有 無 が
TKA
患 者
の
運 動
に
対 す
る
自
己
効
力 感
に
与 え
る
影 響
森 本 信三D
,
中 本舞D
,
廣田 倫.
1
・
t),
幸亜 沙 美D,
朝間知 樹D,
⊥井 健 司1〕t
宮尾康 平1),
中本佳代予D,
岩 切 健太郎 2〕,
飯田高 広2),
金本成煕Z},
小凵健3丿
,
松本 大 輔 4〕 1丿 白浜 は まゆう病 院南 紀 白 浜温 泉リハ ビ リテ
ー
ショ ンセ ンター
L〕白浜はまゆ う病 院整 形外 科 3}
n
浜はまゆ う病 院リハ ビリ テ
ー
ション科 4) 畿 央 大学健康 科 学 部理 学療 法 学科 要旨:本 研 究で は
,
変 形性 膝 関節 症 (以下,
OA ) 患 者の身 体 組 成・
血液 所 見・
身 体 機 能・
運動 継 続および運 動に対 する自己 効 力 感につ い て予術 前 後の変 化および肥 満・
非肥 満 群で比較 する こと に よ り,
肥満症の有 無が人工膝 関 節 全 置換 術 (以下,
TKA ) 患 者の 運動に対 する白己効 力 感に与 える影響 を 検 討 することをH
的 とし た。
対 象は,
当 院でTKA
を 施行 し,
術 後在 院 日数 が4 週 問 以 上であっ た 入 院 患 者29
名 と した。
評 価 項 目 は 身体 組 成,
血 液 所見 血 圧 値,
身 体 機 能,
疼 痛検 査.
運動習慣,
運動に対す る 白 己 効 力 感,
身 体 活 動 量 と し た。
結 果 と し て,
各群に お け る 術 前 後の比 較 に おい て,
両 群 で 血 液 所 見の 改 善 と 非 肥 満 群 でのみ身 体 活 動 量 と 運 動 に 対 す る自己 効力感 に も有 意に改 善が 認 め ら れ た。
これ らの結 果か ら.
理学療法
士 が 運動 器 障害 を もつ 患 者に対 して 入院 中に身体
活動
量 とSEE
を 向上 させること ができ,
退 院後
の 運動習慣へ
つ な げ る ことが できる 可能性 を示 唆した。
キー
ワー
ド:肥満 症,
人.
匚膝関節 奈 置 換 術.
運 動に対 する自己 効 力 感 は じ め に 肥 満 症 を 伴 うOA
患 者 で は,
疼 痛 に よ りADL
が低 ドす るこ と に 加 え,
生 活 習慣 病を 悪化さ せ て し まう危 険性が高い c その た め,
人 1:関 節置 換 術 後 早 期か らADL
向
F
.
のみ な らず
運動を 継続・
習 慣 化さ せ る 必要がある。
そこ で
,
OA
患 者の身 体 組成・
血液 所見・
身 休 機能
・
運動 継 続お よ び 運動に対 する白己効 力 感につ い て手
術前
後の変
化お よ び 肥満・
非肥満群で比 較すること に よ り.
肥満症の有 無が TKA 患者の運 動 に 対 す る 自 己効力 感 に 与 え る 影 響 を 検 討 し 鵡 対象 と 方 法1
.
対象 対象は,
当 阮 でTKA
を 施 行 し,
術 後 在 院 日 数 が4
週 問 以 上 で あっ た入 院 患 昔29
名 (女 性25
名,
男 性4
名,
平 均 年 齢75.
8
± 7.
9
歳 )を対 象とした。 な お,
調 査の 内容 を説 明 し同 意 を得た。 2.
評 価 項 目評 価 項口として
,
身体 組 成は身長,
体 重,
Body
Mass
Index
〔
BMI
).
腹囲.
体 脂 肪 率 (オムロ ン社 製、
カラダ ス キャ ン) を 測定し た。
血液 所見 で は,
空 腹 時血糖 値 (FBS
),
HbAlc
,
総 コ レス テロー
ル (T
.
C
),
LDL
コ レ ステロー
ル (LDL
−
C
),
HDL
コ レ ス テロー
ル 〔HDL
−
C
)
,
巾性 脂 肪(
TG) を検 査した,
,
rfrL 圧値は,
収縮 期 血 圧 (SBP
),
拡 張 期lllL圧 (DBP
) を測 定した、
t 身 体 機 能で は,
101n
速歩,
10m
歩数Timed
UP
andGO
test (TUG ),
30
秒間 立 ち 上 が り テス ト,
I
I
本 整 形 外 科 学 会 変 形 性 膝 関節 症 治療 成績 判 定基準 (JOA
)を評 価し た。
疼 痛 検 査 で は,
Visua!AnalogueS
じale 〔VAS
)を 用い て,
安
静 時と歩 行 時の疼 痛 を評 価し た。 運動 習 慣は,
Transtheoretical
model(
TTM
) を用い,
無 関 心 期 (1点〉
・
関心期(
2
点)
・
準備
期(
3
点 )
・
実 行 期 (4点)・
維 持 期 (5点 )を調査 し た。
運動
に対 す る自己効力 感は,
Self
−
cfficacy fQr exercise (SEE )を用い,
たった今
.
週 に3
回,
1回 20分 間の運 動を行 う 臼信の程 度を.
9
項 目の質聞 (天気が悪い とき,
運 動を退屈と感じ る,
運動 中に 痛 みを 感じ る,
ひとりで も運 動ができる,
運動を楽し め ない,
忙 しい と き,
疲れ てい る,
ス トレ ス を感 じて い る,
憂 うつ 感を 感じ てい る)か ら,
で きない 〔1
点 〉・
や やで きない と思 う (2
点
)・
ど ち ら ともい え ない (3
点 )・
や や できると思 う (4
点 )・
でき る (5点) を 調 査 した。
身 休活 動量 は,
生 活習慣 記 録 機 (ス ズ ケン社 製,
ライフコー
ダMe
)を 用い て,
総消 費量,
運動 量,
歩 数 1−
3Mets
と4Mets
以1
.
tt
の運 動 時 間 を 測定し た。
3
.
介入介 入 内 容と し て術 前に管理栄 養士 に よ る 栄
養計
画(
1
,
600
〜
1,
800kcal
)と理 学療 法士 に より手 術翌 日 か ら疼痛
の軽 減・
活 動 量 向ヒ目的 に,
アイシング・
関 節.
iij.
動域練 習・
筋力
ト レー
ニ ン グを行い,
疼 痛の程 度 など状 況に応じて術 後 1週 目か ら平 行 棒 内歩 行か ら歩 行 器 歩 行に移 行 し,
術 後2〜
3週 目か ら杖歩
行ま た は杖な し歩 行へ 移 行と並 行して ADL 練 習を行い,
術 後4週 目頃に は外 泊 練 習を行い.
退 院に至 る経過 と な る。
4.
統 言卜解tJT
一
対 象 者を肥 満 学 会によ る 肥満 症の基準を 用い,
BM 正25
以 上 を肥 満 群.
BMI25
未 満 を非肥 満 群の 2群に分 けた. 肥 満 群 と非 肥 満 群の術 前の比 較 をMann−
WhitneyU
検 定を 用い,
肥 満 群 お よび非 肥 満 群におい て術 前と術 後4
週 後の比較 をWilcoxon
の符 号つ き順 位 検 定 を 用い て分 析し た。
統 計 学 的 有 意 水 準は5
%未 満 とし た。
結 果 対 象は肥 満 群 11名,
非 肥 満18各であっ た。
肥
満
群と非肥満 群の2
群の比 較に おい て,
術 前・
術 後ともに 肥満
群で体
重,
BMI
,
腹囲,
体 脂 肪 率の身 体 組 成が有 意に高 値 を示し た。
ま た,
血液 所 見で は,
術 前に おいてT
−
c
(肥 満 :非 肥満,
194
.
6
’
±22
、
4mgfdt
;166
.
5
±21
rng 〆dl
,
p<0
.
05
)で有 意に高 値を 示 し,
HDL
−
C
(肥満1非 肥 満,
38
.
7
±8
.
8
mg /dl
:52
.
8
±9
.
6mg
/dl
,
p<0
,
05
)で 有 意 に低 値を 示 し た が.
術後 で は 有 意 差 は 認 め ら れ な かっ た。
各群 に お け る 術前後の比 較 に おい て,
肥満 群で は体 重,
BMI
,
T
−
c
で 有 意 に 改善し,
非 肥 満 群 で はFBs
以外にJoA,
sEE
(術 前 :術 後,
27
.
3
±11
.
7
点 ;33
,
7
±5
.
7
点,
p <0
.
05
)
に も 改善
が 認め られた. また,
両 群ともに歩
行VAS
に有 意な改 善が認め られ.
そ れ 以外の項 日では有 意 差は認め ら れなかっ た。 身体 活 動 量におい て は,
同 意 が 得ら れ,
かつ 利 用 可 能 なデー
タが得ら れ たもの に対し解 析を行っ たn
肥 満 群,
非 肥 満 群 間で有 意 差は認め ら れ な かっ た が,
術 前.
術 後に お い て肥 満 群で は4Mets 以 上の運動 時 問に おい て増 加 したもの の,
総 消 費 量 (術 前:術 後.
L496
.
3
± ll9,
5 kcal: N工 工一
Eleotronio LibraryJapanese Physical Therapy Association
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Japanese Physioal Therapy Assooiation肥 満 症の有 無 がTKA 患者の運動に対 する白 己効 力 感に与 える影響
121
表
1
身体
組 成・
血液 所 見
・
lflL圧値
・
身体 機 能
・
疼 痛 検 査
・
TTM
・SEE
の肥満 群
と非
月巴満 群
にお ける術.
前 後
の比較
と各 群
の比較
]巴tth
君許 〔【1=
11} 術 前 術 後t
{週後 P値 年南肴 〔歳 ) 74 土 8.
6 0A 歴 〔年11
11.
8
±11、
9
在 院日数 46.
6± 9 身長 〔cm ) 145、
5
土7
.
1 手 術 回 数 (回> L5 ± O.
5 体 重 (kg:ト 61、
6土 6.
5ワ
BMI (kg/m つ 28、
{土 3、
lfi
夏囲 〔crm) 92.
5±9.
8 体 脂 肪率 〔%> 37±7.
4 HbAlc 〔%) 5.
3土 1 FBS 〔mg /dl> 102.
7±31.
7 T・
C (mg 〆dl) L94.
6±22.
4 LDL・
C (mg 〆dD HO.
6±4、
5 HDL−
C 〔mg !dD 38.
7±8.
8 TG 〔mg.
”dl) llO土33、
6 SBP (mmHg ) ]44土20.
2 DBP 〔mmHg 〕85
.
5± 1胴 10m 速 歩 (秒 ) 9.
5±3.
9 1Dm 歩数 〔歩) 21土7
.
7
TUG 〔秒 ) ll.
5±5.
3 30秒、
ン:ち ヒが りテス ト(ll1D 10.
4±2.
5JOA
(点 ) 62、
2土 ll 安 静 時VAS (cm ) 2.
3±2.
2 歩行 時V八S 〔cm ) 5± 2.
6 TTM 〔点 ) 3土 1.
3 SEE 合 言1
.
(点〕 30土 9.
6 平 均 値±標 準 偏 差.
59.
2 ± 62 28±2.
99L8 土 10.
1 34.
9 士 5.
8 5± O.
788.
9士 14.
2 160.
6 ± 2593.
4 土 20.
9 4L6 ± 10.
l lDl.
6 ±25.
6 139.
3 ± 22.
5 78.
工 土 8.
510、
7 土 5」22
.
1
± 5.
7 ユ2、
5土 6.
511.
2 ± 4.
267.
7± ll.
2 ].
5土 L52.
5± 2.
1 3.
5± 1.
130.
1± 10FD
[
つ 0000 < < 5「
O S お S £ 01 nnnn く SSSSSSSSSSS nn11nnnnnn11n50 翫 覧 n11 〈 非肥満群 (n−
18} 肥満・
非肥満の比較 術 前 術 後1週 p値 術 前 術 後1週 76.
8± 7.
4 6、
1=
5.
942.
1 = 8.
2148、
5 ± 9.
4 1.
5 土 C〕.
550.
2± 722.
6 土 1.
683.
5 ±8.
1 28 ±5.
9 52土 0、
5 111.
2 ± 22.
5 166.
5 土 2189.
2± 1952.
8 ± 9.
6112 ± 53.
4 132、
9 土 1・
1.
7 76、
3 ± 9.
910.
8 ±4.
721.
1土 4.
513.
4士 6.
6 9.
3± 4.
759.
4 土 工4.
7 工.
7士2.
23.
8±2.
128 土 1.
lL7、
3土 1L7 n,
S,
:110t significant.
49.
9 土 6、
522.
5 ± 1.
6 82土 8、
126.
7± 6、
8 5、
1± D.
493.
7 土8.
1 158.
8 ± 24.
3 88土 21.
1 47.
6 ±8、
196.
7 ± 36.
S
l31.
8 ± 17.
9 74.
3 土 11.
49
.
9
±2、
820.
6± 3.
6122 土 4、
98.
8 ± 3.
870.
8 土 9.
1 1.
1士 1、
7 2± 1.
8 3⊥ 133.
7土5.
7 5°
Q SSSS ぷ α nU nn く 5,
」
「
,
°
°
°
」
°
’
0 お ぷ 3SSSS β £ お α nnn11nnnn11n く 5「
a「
0°
0 3 α sO n < <一
b555.
°
、
°
、
OOOO £ 渇 SS β α 01 α α n 皿 nnn < < < <一
〇一
b°
0、
O ssOsD n < < 照 略 聡 照 鴫 賂 郎 鵬 晴 照 照一
D一
b55 0DOO OOOO < < < < SSSSSSSSSSSSS & 鼠 & & 乱 乢 nn 且 焦 且 且 職 几 職 n 且 nn 瓦 瓦表
2
身 体 活 動
量の肥満 群
と 非 肥 満 群 に お け る 術前 後
の比較
と各
群の比較
灯巴}荷群 (n=
7〕 妻卜目巴言襾群 〔n=
16:1 肥満・
非 肥 満の比 較 術前 術 後 4週 後 歩数 〔歩) 運 動 吊: (kcaL) 総 消 費 量 〔kca1) 運 動 時 聞 4M 巳匸s以上 〔分〕 運 動 時 間1・
3Mets (分 ) P 値 n.
S.
]、
s.
く0.
05n.
s、
n、
s、
術 前 術 後 4 週 P 値 2,
160、
6 ± 1、
823、
2 3、
052 土 2β39.
6 46.
2 ± 45.
9 68、
2土 56.
5L496
.
3 土ll9.
5 1,
353.
1 ± 250.
2 L3 土 L9 2.
4 ± 3.
3 24.
6 ± 188 29.
5 ± 26、
2 平 均値
±標 準 偏差,
2β84.
5 ± 1、
288.
9
3733
± 2!188.
8 < 0.
05 術 前 n.
s.
n、
s、
n.
s.
n.
S.
Il.
s、
術 後4週 45.
3 上 28.
8 L423 土 217、
9 0.
8± 128、
6 土 17.
1 75.
7 ± 63.
5 く0.
05 1、
428土23Ll n.
s.
1.
6 士2.
5 11、
s,
39.
9 土 28.
1 < O.
05 n.
S.
n.
s.
n.
S.
Ω.
S.
n、
S、
n.
S,
:not siL,
11ificallt.
L353,
1
±250
,
2
kcal
,
p<0
,
05
) は術 前に 比べ 有 意に減 少 して いた。
非肥満群 に おいて は,
運動量,
歩
数,
1
〜
3Mets
の運 動 時 間で有
意 に増加し た が,
総 消費
量におい て変 化は認め ら れ な かっ た,
、
考 察 今 回,
TKA 患者におい て栄 養 計 画・
運動 療 法の介 入により.
SEE の改善も認め ら れ たこと か ら,
理学 療 法士 が 運動 器 障 害 を もつ 生活習 慣 病 患 者に対して入 院 中に身 体 活 動 量とSEE を 向ヒさせ ることができ,
退 院 後の運 動 習 慣へ つ な げることがで きる可 能性 を示 唆 した。
ただし,
肥 満 群では有 意 な改 善 が 認 め られな かっ たことか ら,
肥 満 症 が 阻 害 因 子とな り,
運 動 継 続の た め には これ らを考 慮 する 必要がある。
また,
肥 満の有 無でSEE
の改 善に違い が認め ら れた こと か ら,
SEE
をより向E
させ るには肥 満 症の有 無 を 考 慮 する必 要 がある と考 えら れる。
TKA
単 独が体 重減 少 を促 進し ない ので,
患者
に栄養管
理 と 体 重 減 少 を 目的とした治 療 も必 要であ り1),
手 術 後 約7
年で肥 満 群は非 肥 満 群より,
機 能 面 が か な り低い 改 善 率であっ た と報 告して い る2)。 つ ま り,
肥 満 症 を伴 う 変形 性関節症 患 者に対し ては,
従 来の理 学 療 法の みな らず.
肥 満 症 等の代 謝疾 患 改 善 も 目的と し た減最に対 する アプロー
チが 必 要であると考 える。
今 後は退 院 後の身 体 活 動 量や運 動 継 続 状 況につ い て も調 査し て いきたいと考える。
文 献1}Zeni
JA
Jr.
Snyder
−
Mackler
L
:Early
postoperativemeasures predict l
−
and 2・
year outcome after unitate「al totat knee arthroptasty :importance of contralateral limbstrength
,
Phys Ther.
20’
IO;
90
:43−
54
,
2)Nunez M
.
Nunez E,
et α1、
:Heaヱth.
related quality of inpaしicnしs with oslcoarthritis sfter total knee replacement :
factors in且uencing oしltcomes at 36 mollths of follow
−
up.