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エビデンスに基づく歩行理学療法

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Academic year: 2021

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理学療法における臨床倫理

 当院に勤務していた理学療法士が体重免荷トレッドミル 歩行練習(Body Weight Support Treadmill Training:以下, BWSTT)の臨床研究を進めている際に,ある大学附属病院脳 神経外科学の教授から「BWSTT は脳卒中治療ガイドラインで 推奨されている。理学療法士はなぜ BWSTT のように治療ガ イドラインに示しているエビデンスを活用しないのか?」と質 問されたと聞いた。また,著名な回復期リハビリテーション病 院の経営者や一般病院のリハビリテーション部門管理者である 医師が,BWSTT は有効なので,免荷歩行装置購入の決裁を したのに,現場の理学療法士,特に管理者クラスの理学療法士 が拒んでいるから購入できないことが多いというお話を医療機 器販売者から漏れ聞いた。同じような意味で,数名のリハビリ テーション科専門医から体重免荷トレッドミルの装置があるの に,臨床場面で BWSTT をしていることが少ないという不満 を聞くことがある。  一方,臨床に従事している理学療法士の生の声を聞いてみる と,「ハーネス装着に時間がかかることが問題である」「場合に よっては 2 人以上の療法士が必要となり,人的にも報酬的にも 効率が悪い」という声に集約された。確かに,慣れるまでは ハーネスの装着には時間を要し,2 人以上で BWSTT を実施す ることは効率が悪いと感じるときもある。しかしながら,血圧 測定,周径測定や徒手筋力検査を我々は最初から素早くできた でしょうか? 他動的関節可動域練習,物理療法や装具療法を 最初から上手にできる理学療法士はいるでしょうか? 2 人の 理学療法士が必要な関節可動域測定や移乗動作を効率が悪いか らといって,実施しなかったりできるのでしょうか? あるい は,不正確な手技で実施してよいのでしょうか? このように, 基本となる臨床技能を自分が上手にできないから,あるいは時 間がかかって効率が悪いという理由で取り組まないということ は専門職として許容すべきではないと思われる。さらに,日々 刻々と進歩している医療において,クライアントに必要と客観 的に推奨されている治療方法や専門技能を,環境が許されてい るのに自分が上手にできないから,あるいは時間がかかって効 率が悪いという理由が臨床倫理,あるいは医療倫理から正しい とは筆者は思わない。BWSTT に限ったことでないが,読者に も理学療法の評価や治療選択という臨床判断において臨床倫理 の視点からも省察されることを推奨する。 理学療法におけるエビデンス 1.基礎研究と臨床研究  理学療法士は医学者であり,医療者である。医療者本来の職 務とは,病気に苦しみ悩んでいる患者を援助することである。 また医学とは,医学研究としては,試験管内や動物などの段階 で完結させ,臨床の場面からは研究的色彩を排除し,すでに科 学的に証明され,確立された効率的かつ安全な戦略,技術だけ を駆使して日常診療を行うことが理想である1)。したがって, 基礎研究,すなわち非臨床研究が重要である。しかしながら, 科学的理由と倫理的理由により,場合によっては研究的色彩を 排除できない日常診療,あるいは臨床研究が必要である。科学 的理由は,試験管内実験,動物実験は人間の医学のために不可 欠な,重要な研究手続きであるが,その情報だけでは常に必ず しも臨床の指針,エビデンスとしては十分でないという点であ る。倫理的理由は,人間,患者のかけがえのなさを考えると, 念には念を入れなくてはならないこと,つまり動物実験からの 情報は,どれほどもっともらしくとも,もう一度人間で確認し てから臨床に用いなければならないという点である。 2. 医学研究  ここで,医学研究の種類を整理する(図 1)2)。 1)基礎研究  基礎研究は,純粋研究と呼ばれ,新たな法則,定理などの「発 見」を目的にして行われる研究である。臨床研究が,人間の診 断と治療に関するものが中心であるが,基礎研究は生命の仕組

エビデンスに基づく歩行理学療法

斉 藤 秀 之

1)

 田 中 直 樹

1)

専門領域研究部会 神経理学療法 特別セッション「シンポジウム」

Evidence Based Physical Therapy for Gait

1) 医療法人筑波記念会 筑波記念病院リハビリテーション部 (〒 300‒2622 茨城県つくば市要 1187‒299)

Saitou Hideyuki, PT, PhD, Tanaka Naoki, PT, PhD: Department of Rehabilitation, Tsukuba Memorial Hospital

キーワード:エビデンス,臨床研究,イノベーション

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 臨床試験は,患者や健康な人に対して行う「治療を兼ねた試 験」を指すが,「未承認の薬物や未承認機器の開発の目的に限 らない」試験であることが特徴である。「新薬開発」「新機器開 発」だけでなく,薬や機器の効果の追跡調査,既存の薬や機器 の別の効能を調査・確認など,患者や健康な人に対して行う, 治療を兼ねた試験のすべてである。臨床試験は,厚生労働省へ 事前に届ける必要のない場合が多い。  垣添は抗がん剤の開発を例に,臨床試験を前臨床試験,Ⅰ相 試験,Ⅱ相試験,Ⅲ相試験に段階づけて紹介した3)。前臨床試 験とは基礎研究や動物実験である,Ⅰ相試験は安全性や投与量 を決定し,Ⅱ相試験はどのようながんに有効かを調べ,そのが んにおける有効で安全な投与量や投与方法を決定する。そし て,Ⅲ相試験で,そのがんに対して従来,実施されている標準 的治療に比較して,新規抗がん剤を含む治療が間違いなく優れ ているかを決定する。理学療法技術の開発においてもこうした 過程に取り組むべきである。  実際に治験や臨床試験を理学療法士が主導的に実施すること には障壁が存在するが,その環境が整備される必要がある。そ のためにも質の高い理学療法基礎研究が大学院や分化学会・部 門で構築され,理学療法士による理学療法のエビデンスを社会 に発信されることが望まれる。 4)臨床研究  臨床研究は,医療における疾病の予防方法,診断方法および治 療方法の改善,疾病原因および病態の理解並びに患者の生活の質 の向上を目的として人を対象に実施される医学系研究である。① 介入を伴う研究であって,医薬品または医療機器を用いた予防, 診断または治療方法に関するもの,②①に該当するものを除く, 介入を伴う研究,③明確に特定された人間集団の中で出現する健 康に関する様々な事象の頻度および分布並びにそれらに影響を 与える要因をあきらかにする科学研究である疫学研究を含まな い介入を伴わない,試料等を用いた研究に分類できる。 5)トランスレーショナル・リサーチ  トランスレーショナル・リサーチは,基礎研究段階から臨床 応用への円滑な移行を担う新しい分野である。橋渡し研究であ り,研究者が薬剤や器具を用いて行ってきた基礎研究成果を, 新たな疾患の予防や治療,診断等として人に使用,つまり臨床 応用できるようにするために行う研究である。基礎研究の成果 を用いて人を対象とした研究を実施するために,その薬剤や器 具等を人に使用することが科学的,倫理的に妥当であること を,実験動物等を用いた非臨床試験も含めた基礎研究段階にお いて,適切に確認しておくことが重要である。特に遺伝子治療 や再生医療といった先端生命科学研究においては,これまでの 知見では効果や安全性を予測することが困難な場合があり,臨 床応用の妥当性,安全性について規制当局も交えて十分な検討 と臨床応用に際しては被験者の権利の尊重や説明責任といった 倫理的配慮を行う必要がある。トランスレーショナル・リサー チでは基礎および臨床研究者,生物統計家,データ管理者など 様々な職種の専門家が協力して研究が遂行される。  今まで述べたように,理学療法士の基礎と臨床が確立される ためには,対象者のために理学療法士が基礎・臨床の立場で理 学療法を創造していることを,双方に従事している理学療法士 自身が共通理解しなければならない。  基礎研究はそれ自体が独立しているものではなく,臨床活動 などでの疑問をきっかけとして課題が設定されることが多い。 また臨床活動も基礎研究をもとに構築される。根拠をもった理 学療法の発展において,基礎と臨床は車の両輪であり,どちら も欠くことができない。一見かけ離れているかのように感じら れる両研究領域も,相互に不可欠であり,補完的である。した がって,どちらか一方を軽んじるあるいは重んじるものではな く,相互に価値を認め,研鑽していくことが重要である。  このように考えると,質の高い理学療法基礎研究のアウト プットを受ける,理学療法の臨床研究が実施できる理学療法臨 床機関や臨床に従事する理学療法士の大量養成と定着が課題で ある。このためには,部門管理者の質の向上とともに,職場基 盤型の卒後教育・人材育成が必要不可欠である。さらに,各施 設での臨床研究の成果を分化学会・部門に留まらず,論文とし て精力的に発信されることが理学療法のエビデンス構築には望 まれる。 エビデンスを臨床にどういかすか 1.歩行練習の変遷  さて,今回のテーマである「脳卒中後遺症者の歩行獲得に向 けた理学療法─エビデンスを臨床にどう生かすか─」である。  筆者は我が国における歩行練習の歴史的変遷をまとめる機会 を得た4)(図 2)。  昭和 41 年に理学療法士が我が国に誕生する前の臨床での理 学療法は,経験を体系化したものや外国で学んだ先人達の教え が主であった。昭和 54 年に短期大学教育,平成 4 年に大学教 育が開始されてからは,医師主導の臨床実践による歩行練習の 治療体系が登場してきた。しかしながら,歩行練習に限らず今 日までの我々の治療体系は,すべてというわけではないが,理 図 2 我が国における歩行練習の歴史的変遷4)

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論科学に基づいた経験則による職人的技術あるいは途上的技術 体系であることを省察した。  「脳卒中後遺症者の歩行獲得に向けた理学療法」に関するエ ビデンスは,「脳卒中治療ガイドライン 2004」5)に「歩行障害 に対するリハビリテーション」として本邦ではじめて整理され ていた(図 3)。その後,5 年を経て「脳卒中治療ガイドライン 2009」として改訂された。4.の「痙縮により尖足があり,異 常歩行を呈している時は腱移行術を考慮してもよいが,十分な 科学的根拠がない(グレード C1)。」は「十分な科学的根拠が ない」が削除され,「痙縮により尖足があり,異常歩行を呈し ている時は腱移行術を考慮してもよい(グレード C1)。」となっ た。5.の「筋電図や関節角度を用いたバイオフィードバック は,歩行の改善のため勧められる(グレード B)。」も「筋電図」 が「筋電」に修正され,「筋電や関節角度を用いたバイオフィー ドバックは,歩行の改善のため勧められる(グレード B)。」と なった。このように,図 3 の 1 から 6 までは文言の修正が中心 で,推奨グレードの変更はなかった。対して,図 3 の 7 と 8 は 1 つにまとめられ,「トレッドミル訓練,免荷式動力型歩行補 助装置は脳卒中患者の歩行を改善する(グレード B)。」と推奨 グレードが1グレード向上した。このことは,臨床研究の発信 がエビデンスレベルに反映された結果であり,「歩行障害に対 するリハビリテーション」について 5 年間を経たエビデンスが 改定された特徴的な内容である。  また公益社団法人日本理学療法士協会も,公益社団法人移行 前の社団法人日本理学療法士協会ガイドライン特別委員会理学 療法診療ガイドライン部会が平成 23 年 10 月に「理学療法診療 ガイドライン第1版(2011)」を提示した。「脳卒中後遺症者の 歩行獲得に向けた理学療法」に関するエビデンスとして,「早 期歩行練習(推奨グレード A エビデンスレベル 2)」「回復期 の姿勢・歩行練習(推奨グレード A エビデンスレベル 2)」「装 具療法(推奨グレード A エビデンスレベル 2)」「トレッドミル 歩行練習(推奨グレード B エビデンスレベル 2)」が取り上げ られた。理学療法士自らの手で,より実践的な理学療法のエビ デンスを整理した点で,脳卒中治療ガイドラインよりも評価で きる。そして,歩行獲得に向けた理学療法が,「理論科学に基 づいた経験則による職人的技術あるいは途上的技術体系」から 「エビデンスに基づいた経験則を要する科学的技術体系」とし て構築される基盤が確立したと判断しても過言ではない。 2.エビデンスを自ら創る  今後は,理学療法士自らがこの推奨レベルやエビデンスレベ ルを高める,臨床研究を計画し,その結果を成果として築いて いく必要がある。  そこで,小生の所属する筑波記念病院の理学療法部門では, 脳卒中患者の歩行理学療法として「BWSTT(図 4)」,「歩行 感覚提示装置による歩行練習(Gait Training with Locomotion Interface:GTLI)(図 5)」を積極的に活用し,「ロボットスー ツ HAL®を 用 い た 歩 行 練 習(Gait Training with HAL®: GTHAL)(図 6)」の臨床研究を実施している。 1)BWSTT  BWSTT 自体はすでに多くの報告があるので割愛する。筆者 らが所属施設で BWSTT の導入から現状までを図 7 に示す。  はじまりは,筆者が臨床機関に所属しながら大学院に所属し ていた時に実施した,パーキンソン症候群に対する BWSTT の臨床研究の英文抄読である。同時に,パワーリハビリテー ションの理念と概念を知る機会があり,今まで使っていたいわ ゆる「プラトー」は,「仮性プラトー」として位置づけられる のではと筆者は意識改革した。すなわち,最大限の機能・能力 回復を引きだした結果としてプラトー,あるいは機能回復の限 界であり,真の回復に必要な十分な練習量や治療法を実施して いるとはいい難い環境で,発症からの時間や変化が乏しい状態 図 3 脳卒中治療ガイドライン 2004 図 5  歩行感覚提示装置による歩行練習(Gait Training

with Locomotion Interface:GTLI)

図 4  体重免荷トレッドミル歩行練習(Body Weight

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を「プラトー」という概念に押しこめて,真の回復に努力を惜 しまざるを得なかったと考えたのである。その後,若年性意識 障害患者に対する看護の臨床研究に協力し,そのひとつとし て BWSTT システムの整備・導入が実現し,卒後教育として 実践していた患者回診による臨床指導により徐々に事例を経験 した。部下が筆者同様の大学院に進学する機会に,研究テーマ を BWSTT とし,所属施設の倫理委員会で理学療法士が申請 者としての臨床研究が承認され,社団法人日本理学療法士協会 研究助成も受託した6)。所属施設をフィールドにした学位論文 が完成した7)。週 3 回,1 回 20 分の BWSTT を 4 週間実施す とが聞かれた。また導入はしたものの十分な活用ができない施 設の例も聞こえた。そこで,効率的,効果的な歩行獲得に向け た理学療法のプログラムである BWSTT に対して,互いの情 報交換や勉強会などを実施し,正しい認識とより広く普及する ことを目指すとともに,将来 BWSTT の多施設共同研究体制 を構築し,臨床に基盤をおいた研究成果を発信していくことを 目的として,「BWSTT ユーザーネットワーク」(http://www. sakaimed.co.jp/bwsttnetwork/)を立ち上げ,ワークショップ を全国で年間数回実施することにした。また,公益社団法人日 本理学療法士協会のオフィシャル学術雑誌である「理学療法 学」に所属施設の BWSTT 前向き研究成果が採択された8)。  こうした経過により,従来の理学療法では歩行獲得が限界で ある事例やより短い期間で歩行獲得すべき事例に対峙した時に は,積極的に所属施設でエビデンスを臨床に生かす土壌が構築 できた。このことは「脳卒中後遺症者の歩行獲得に向けた理学 療法─エビデンスを臨床にどう生かすか─」のひとつの実践事 例として位置づけてもよいと考える。 2)GTLI  「GTLI」は,1990 年代後半に Yano らにより開発された歩行 支援ロボットの範疇である部分面型のアクティブ型のロコモー ションインターフェースを用いた当院と筑波大学で開発したオ リジナルな歩行練習である9)。  はじまりは,筆者が臨床施設に所属しながら大学院に所属し ていた時に,指導教官に工学の研究室から機器開発に関する協 力の要請があるから筆者に関与せよとの指示である。その後, 一定の基礎研究を試行錯誤したうえで,BWSTT の経過と同 様,部下の大学院に進学する機会に,研究テーマを GTLI とし, 所属施設の倫理委員会で理学療法士が申請者としての臨床研究 が承認され,社団法人日本理学療法士協会研究助成も受託し た10)。所属施設をフィールドにした学位論文が完成し11)12), 所属施設の理学療法士に徐々にではあるが臨床における GTLI の活用が認識された。さらに,所属施設での GTLI の前向き 研究成果が学術雑誌に採択された13)14)。週 3 回,1 回 20 分の GTLI を 4 週間実施することで,歩行速度,動的バランス,麻 痺側股関節筋群の有意な改善がみられ,歩行可能かつ ADL が ほぼ自立している維持期脳卒中片麻痺患者に対する運動機能向 上を得ることができる短期集中的な理学療法プログラムとな りうることを示唆した15)。この成果は,Cochrane Database of Systematic Reviews に お け る ‘Electromechanical-assisted training for walking after stroke’ のアップデートのワーキン ググループに現在取り上げられている。我々が自ら創りだし, 世界に発信したエビデンスが Cochrane Database に取り上げ

図 6  ロボットスーツ HAL®を用いた歩行練習(Gait Train-ing with HAL®:GTHAL)

図 8 GTLI と免荷式動力型歩行補助装置の融合システム 図 7 筑波記念病院における BWSTT 導入と現状

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られる段階に到達した。このこと自体が臨床に従事している理 学療法士の動機づけにもなり,さらには新たな理学療法技術の 開発につながり,理学療法士主導の治験や臨床試験が実施でき る環境に結びつくことが重要である。  このことも「脳卒中後遺症者の歩行獲得に向けた理学療法─ エビデンスを臨床にどう生かすか─」のひとつの実践事例と考 える。  そして,GTLI におけるロコモーションにインターフェース 自体のさらなる開発により,GTLI と免荷式動力型歩行補助装 置の融合システムによる歩行獲得に向けた理学療法の試行が開 始した(図 8)。すなわち,臨床においてエビデンスを生かす 過程の中から,エビデンスを高める理学療法が創造されたので ある。こうした経験知に基づく臨床技能の形式知化が,臨床技 能を学問とするうえで必要不可欠である。 3)GTHAL  近年注目を浴びて久しい「ロボットスーツ HAL®」である。 この装置を用いた歩行練習として取り組んでいる GTHAL の臨 床研究について若干触れる。  ロボットスーツ HAL®については,開発前のプロトタイプ より知っていた。その当時は積極的に関与できる状況ではな く,一方で当時のことを知っている筆者にとっては,現状は想 像できない開発進歩とその速度である。茨城県としても推進し ていくということもあり,数年前より臨床研究として取り組 み,一定の成果は発表した16)。  ロボットスーツ HAL®については,治験も開始されており, 外国での保険収載も発表され,今後,我が国において保険収載 できる治療として臨床試験,臨床研究が本格的にはじまること が予測される。ロボットスーツ HAL®の治験,臨床試験,臨 床研究が成功することはなにを意味するのか?。単に,ロボッ トスーツ HAL®が広まるのみに留めず,その他の未承認医療 機器,とりわけ理学療法分野の機器を用いた理学療法の開発, 保険収載につながることがその本質である。一喜一憂すること なく,また矮小化することなく,物事の本質を見失わずに自ら のエビデンスを臨床に生かす準備をすべきである。 エビデンスを臨床にどうつなげているか  さて,シンポジウムのテーマであった「エビデンスを臨床に どう生かすか」という命題は古くて新しい問題提起と考える。 今回,筆者には「エビデンスを臨床にどうつなげているかとい う視点」での発言を求められた。すなわち,「ガイドライン・ エビデンスを活用しない,つなげられない理学療法士」から 「ガイドライン・エビデンスを臨床に活用する,つなげられる 理学療法士」,すなわち「臨床のプロフェッションとして好ま しい方向への行動変容」が必要であると考える。そこで,筑波 記念病院所属の理学療法士達が脳卒中患者の歩行獲得に向けた 理学療法のエビデンスを診療にどのようにつなげられるように なったかを前項で振り返った。振り返ってみると,理学療法士 個々の認知・精神運動・情意に働きかけ,また,働きかける組 織環境を整備し,「知らなかったものを知る」「理解できなかっ たものが理解できる」「できなかったことができる」の行動変 容過程が必要であると改めて理解できた。すなわち,「実践の 場での人材教育・育成」が必要である。筆者の職場で行ってい る「働きかけ」として,モーニングカンファレンス,教育回診, 臨床教育,文献抄読会がある(図 9 − a, b, c, d)。こうした「働 きかけ」は,成人学習理論に基づく医学教育モデルの一部であ り,十分理学療法教育にも活用できるモデルであることを確認 図 9 実践の場での人材教育・育成 a;モーニングカンファレンス.毎週月曜日 7 ∼ 8 時,b;教育回診.随時,c;臨床教育. 毎週月曜日 10 ∼ 11 時,d;文献抄読会.毎週月曜日 12 ∼ 13 時と金曜日 7 ∼ 8 時.

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している。教育のための教育,あるいは自己研鑚にとどまる教 育ではなく,クライアントの利益となるため,日常診療の質を 高めるための教育であることが絶対である。  また,「理学療法診療ガイドライン第1版(2011)」に大切で あると記述されている「臨床家による意図的,定期的,計画的 なエビデンスとなるデータの蓄積」により自らがエビデンスを 創りだす志を育てるべきである。そのためには,日常診療その ものを「研究化」する心構えが大切となる。このこと自体が, 医療者の責務であること,臨床の場には研究課題が充ち満ちて いるため,科学的理由と倫理的理由により,臨床を「研究」で はなく「研究化」すべきなのである。つまり,リサーチマイン ドを持った臨床家と臨床施設の育成である。日常診療そのもの を「研究化」するためには,日常診療に取り組む姿勢に加え, 読書と討論・対話が必要である1)(図 10)。 おわりに  こうした「エビデンスを臨床に生かす」理学療法の臨床をコ ア文化にしていくことが,理学療法士界には必要である。  「心が変われば行動・態度が変わる,行動・態度が変われば 習慣が変わる,習慣が変われば人格が変わる,人格が変われば 運命が変わる,運命が変われば人生が変わる」という言葉があ る。先ごろ引退した野球選手松井秀喜選手の座右の銘としても 最近紹介されたものである。アメリカの心理学者であるウィリ アム・ジェームズが原点といわれているようだが,積極的に自 己の内面を変えることで環境を変えるアプローチとして説明さ れている。「ガイドライン・エビデンスを活用しない理学療法 内科学の教授から「あなたの所属する病院のリハビリテーショ ンの療法士はリサーチマインドがあってよいね。」とお褒めを いただくようになった。このように,理学療法士によるイノ ベーション(図 11)を起こすためにも,自らが変わらなけれ ばいけない。あきらめずに,逃げずに,あせらずに取り組めば よいので,本稿が,読者諸氏にとって自己変革を少しでも考え る機会となれば幸いである。 文  献 1) 砂原茂一:臨床医学研究序説─方法論と倫理.医学書院,東京, 1988. 2) 福井次矢:臨床研究マスターブック.医学書院,東京,2008. 3) 垣添忠生:読売新聞,2008.1.20. 4) 斉藤秀之,高尾敏文,他:ニューロリハビリテーションと理学療 法.2.脳卒中患者の歩行障害に対するアプローチを中心に.特集: ニューロリハビリテーションと理学療法.理学療法ジャーナル. 2008; 42(12): 1027‒1034. 5) 篠原幸人,吉本高志,他:脳卒中治療ガイドライン 2004.株式会 社協和企画,東京,2004. 6) 高尾敏文:部分免荷トレッドミル歩行練習の有用性,平成 17 年度 理学療法奨励基礎研究等助成.日本理学療法士協会. 7) 高尾敏文:慢性期片麻痺患者に対する体重免荷トレッドミル歩行 練習の効果.筑波大学大学院人間科学総合研究科,修士(医科学) 学位論文,2007. 8) 高尾敏文,斉藤秀之,他:慢性期脳卒中片麻痺患者に対する体重 免荷トレッドミル歩行練習の即時効果および経時効果.理学療法 学.2011; 38(3): 180‒187. 9) 矢野博明,爲房新太朗,他:歩行リハビリテーョンのための新し い支援装置,整形・災害外科.2010; 53(11): 1299‒1304. 10) 田中直樹,斉藤秀之,他:脳卒中片麻痺患者に対する部分面型ロ コモーションインターフェースを用いた歩行リハビリテーション の効果の検討.平成 20 年度助成研究(臨床研究).日本理学療法 士協会. 11) 田中直樹:維持期脳卒中片麻痺患者に対する部分面型歩行感感覚 提示装置を用いた歩行リハビリテーション.筑波大学大学院人間 科学総合研究科,修士(医科学)学位論文,2009. 12) 田中直樹:部分面型歩行感覚提示装置を用いた歩行リハビリテー ションの有効性の検討.筑波大学大学院人間科学総合研究科,博 士(医学)学位論文,2012. 13) 田中直樹,斉藤秀之,他:維持期脳卒中患者に対する歩行感覚提 示装置を用いた歩行トレーニング効果の持続性.理学療法科学. 2012; 27(2): 123‒128.

14) Tanaka N, Kanamori T, et al.: Improvements of muscle strengths and gait ability among chronic post-stroke patients by gait training with a foot-pad type locomotion interface. J Nov Physiother. S1: 002

15) Tanaka N, Saitou H, et al.: Effects of gait rehabilitation with a footpad-type locomotion interface in patients with chronic post-stroke hemiparesis: a pilot study. Clinical Rehabilitation. 2012; 26(8): 686‒695. 16) 渡 邉 大 貴, 田 中 直 樹, 他: ロ ボ ッ ト ス ー ツ HAL®(Hybrid Assistive Limb®)福祉用の臨床応用にむけた症例研究.理学療法 科学.2012; 27(6): 723‒729. 17) 黒川 清:イノベーション思考法.PHP 研究所,東京,2008. 図 10 日常診療そのものを「研究化」するためのポイント1) 図 11 イノベーション17)

図 8 GTLI と免荷式動力型歩行補助装置の融合システム図7 筑波記念病院における BWSTT 導入と現状

参照

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