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ネギネクロバネキノコバエ (Bradysia sp.) 防除のための手引き 年改訂版 - 農業環境変動研究センター 野菜花き研究部門 農林水産省消費 安全局植物防疫課

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ネギネクロバネキノコバエ(

Bradysia

sp.)

防除のための手引き

-2018 年改訂版-

農業環境変動研究センター・野菜花き研究部門

農林水産省消費・安全局植物防疫課

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はじめに

ネギネクロバネキノコバエ(Bradysia sp.)は、平成 26 年より埼玉県北部のネギ、 ニンジンで発生している新規の害虫である。同県は平成 28 年 6 月に、ネギネクロバ ネキノコバエに関する病害虫発生予察情報特殊報を発表した。また、同年 12 月には、 群馬県でも本害虫の発生が確認されている。ネギネクロバネキノコバエは、国内既発 生種のチバクロバネキノコバエ等とは発生生態や作物への加害状況等が大きく異な っており、防除体系の早急な確立と生息域の拡大抑止が強く求められている。 このような状況において、農研機構、埼玉県農業技術研究センター、埼玉県大里農 林振興センターおよび静岡大学は、平成 28 年度に、農林水産業・食品産業科学技術 研究推進事業「クロバネキノコバエ科の一種の生態の解明及び防除手法の開発」(委 託元:農林水産省)において、ネギネクロバネキノコバエに関する研究・調査を実施 し、その成果を「クロバネキノコバエの一種Bradysia sp.防除のための手引き」とし て取りまとめた。また、平成 29 年度からは、群馬県農業技術センターと森林総合研 究所も加わり、安全な農林水産物安定供給のためのレギュラトリーサイエンス研究委 託事業「クロバネキノコバエ科の一種の総合的防除体系の確立と実証」(委託元:農林 水産省)を実施している。この「ネギネクロバネキノコバエ(Bradysia sp.)防除の ための手引き-2018 年改訂版-」は、平成 30 年 3 月までに得られた成果を取り まとめたものであり、平成 29 年 5 月に発行した「クロバネキノコバエの一種 Bradysia sp.防除のための手引き」の改訂版となる。ネギネクロバネキノコバエの防 除に少しでも貢献できれば幸いである。なお、手引きの中で紹介している知見や防除 技術には、研究や開発途上のもの、未発表データなどが含まれているため、取り扱い には注意されたい。 平成 30 年5月25日 研究代表者 吉松慎一(農研機構 農業環境変動研究センター 環境情報基盤研究領域 昆虫分類 評価ユニット) 編集責任者 太田 泉(農研機構 野菜花き研究部門 野菜病害虫・機能解析研究領域 虫害ユニ ット)

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(注 1)小俣良介(2017) 秋冬ネギ及び春ニンジンに発生したクロバネキノコバエ科の一種ネギネク ロバネキノコバエ(仮称)(Bradysia sp.)について.植物防疫 71:260-263.

Ⅰ.ネギネクロバネキノコバエ(

Bradysia

sp.)とは?

本手引きでは、埼玉県のネギ、ニンジン、群馬県のネギで被害を発生させているク ロバネキノコバエの一種を総称して“ネギネクロバネキノコバエ”と呼ぶ。この和名 は、本害虫が地下深くの「ネ」に生息し、ネギ地下部の茎盤、葉鞘だけでなく、根菜 類のニンジンも加害するという本種の特徴、生態を表す名称として提唱されたもので ある(小俣、2017)(注 1)。一方、ネギネクロバネキノコバエの学名はまだ確定してな い。現在、本害虫とその近縁と推測される種のタイプ標本を比較して、本害虫の種同 定を進めており、学名は近日中に確定される予定である。 1.ネギネクロバネキノコバエの形態的特徴 ネギネクロバネキノコバエは、国内既知種のチバクロバネキノコバエ Bradysia impatiens と同様に、前脚脛節内側の先端部に一列に並ぶ剛毛を備えること(図 1 左) 等から、Bradysia 属に含まれる。また、小顎鬚(palpus)上に感覚毛を備えた窪み を持つこと(図 1 右)等で、Bradysia 属 16 種群のうちの B. tilicola 種群に属する。 図 1 チバクロバネキノコバエの前脚脛節内側先端部の剛毛(左)と ネギネクロバネキノコバエの小顎鬚(palpus)上の感覚毛を備えた窪み(右) 一方、ネギネクロバネキノコバエは、雄の触角第 4 節や雄の交尾器の形状がチバク ロバネキノコバエと異なっている(図 2、図 3)。 図 2 ネギネクロバネキノコバエ(左)とチバクロバネキノコバエ(右)の 雄の触角 ネギネの触角第 4 節の長さは幅の約 2.2 倍、チバクロでは約 1.4 倍である。

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(注 2)Arimoto, M., Uesugi, R., Hinomoto, N., Sueyoshi, M. and Yoshimatsu, S.(2018)

Molecular marker to identify the fungus gnat Bradysia sp. (Diptera: Sciaridae), a new pest of Welsh onion and carrot in Japan. Applied Entomology and Zoology(投稿中)

図 3 ネギネクロバネキノコバエ(左)とチバクロバネキノコバエ(右)の 雄交尾器

2.ネギネクロバネキノコバエの DNA 解析

ネギネクロバネキノコバエの DNA バーコーディング(ミトコンドリア COI)領域 の塩基配列は、国内既知害虫種のチバクロバネキノコバエB. impatiens、ジャガイモ クロバネキノコバエ Pnyxia scabiei、ツクリタケクロバネキノコバエ Lycoriella ingenua とは異なる(データ省略)。また、ネギネクロバネキノコバエと Bradysia 属 キノコバエ 53 種(海外種も含む)を対象に DNA バーコーディング(ミトコンドリ ア COI)領域の塩基配列情報に基づいて系統関係を推定した結果、ネギネクロバネキ ノコバエは、中国に生息しているBradysia odoriphaga と遺伝的距離が近いことが 明らかにされている(図 4)(Arimoto et al, 2018)(注 2) 図4 ミトコンドリア COI 領域に基づくクロバネキノコバエ科Bradysia 属の 近隣接合樹 Bradysia cellarum (カナダ) B. cellarum (イラン) B. cellarum (カナダ) B. odoriphaga (中国) B. sp. near tilicola (韓国) B. impatiens (日本) B. trivittata Bradysia sp. (日本) 0.02 99 100 100 36 40 21 99 100 100 ネギネクロバネキノコバエ チバクロバネキノコバエ

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Ⅱ.PCR 法によるネギネクロバネキノコバエと国内既知害虫種との識別

ネギネクロバネキノコバエの DNA バーコーディング(ミトコンドリア COI)領域 の塩基配列は、チバクロバネキコノバエ等の国内既知害虫種と異なっていたことから、 本害虫に特異的な PCR プライマーを設計し、簡易な分子生物学的識別法を開発した (Arimoto et al, 2018)(注 2)。この手法では、PCR 増幅産物のアガロースゲル電気 泳動を行い、約 324 塩基のバンドが検出されればネギネクロバネキノコバエ、709 塩基のバンドが検出されれば他 3 種と識別できる(表 1、図 4)。 表 1 DNA バーコーディング(ミトコンドリア COI)領域の塩基配列解析および 分子生物的識別法の検証に利用したクロバネキノコバエ類 4 種のサンプル *図5を参照。約 324 塩基のバンドが検出されたものを「+」、約 709 塩基のバンドが検出さ れたものを「-」とした。

PCR 法のプロトコル

(1)DNA の抽出法 ① 1.5ml チューブに虫体を入れる。エタノール浸漬個体の場合、室温で 10~20 分静置してエタノールを揮発させる。

② PrepMan® Ultra Sample Preparation Reagent(Life Technologies, CA, USA)50µL を加える。 ③ 直径 1.5mm のジルコニアビーズを 4~6 個入れ、マルチビーズショッカーで 磨砕する。 ④ 100℃に設定したヒートブロックで 20 分間加熱後、室温で 15,000g・3 分 間遠心する。 採集地名 採集年月日 寄主 種名 分子 識別法* 埼玉県北部 2015 年 12 月 ネギ ネギネクロバネキノコバエ + 埼玉県深谷市 2016 年 5 月 シャコバサボテン チバクロバネキノコバエ − 静岡県静岡市 静岡大学累代飼育系統 チバクロバネキノコバエ − 大分県豊後大野市 2012 年 9 月 イチゴ チバクロバネキノコバエ − 茨城県つくば市 2016 年 9 月 木材チップ チバクロバネキノコバエ − 埼玉県鶴ヶ島市 2016 年 11 月 サトイモ ジャガイモクロバネキノコバエ − 千葉県旭市 2010 年 11 月 マッシュルーム ツクリタケクロバネキノコバエ − 長野県佐久市 2004 年 11 月 エリンギ ツクリタケクロバネキノコバエ − 長野県長野市 2011 年 11 月 エリンギ ツクリタケクロバネキノコバエ −

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(2)PCR 実験方法 ① プライマー配列

② PCR 反応液組成

TaKaRa Ex Taq® Hot Start Version(タカラバイオ)を使用する。 1 サンプルあたり反応液を 10µL とする。

③ PCR 条件

(3)電気泳動によるバンドパターンの確認

PCR 増 幅 産 物 を 2% SeaKem® GTGTM ア ガ ロ ー ス ( Lonza, Basel, Switzerland)を用いて 100V で 30 分~40 分間電気泳動し、GelRedTM(Biotium, CA, USA)を用いて 20 分間染色する。 プライマー名 塩基配列 LCO1490 5'-GGTCAACAAATCATAAAGATATTGG-3' HCO2198 5'-TAAACTTCAGGGTGACCAAAAAATCA-3' BCOF1 5'-TTCTCATTCAGGTGCATCAGTA-3' 滅菌済蒸留水 6.15 µL 49.20 µL

10×Ex Taq Buffer (20mM Mg2+ plus) 1.00 µL 8.00 µL

2.5mM dNTP 0.80 µL 6.40 µL

プライマー LCO1490 (10µM) 0.50 µL 4.00 µL

プライマー HCO2198 (10µM) 0.50 µL 4.00 µL

プライマー BCOF1 (10µM) 0.50 µL 4.00 µL

TaKaRa Ex Taq® HS (5U/µL) 0.05 µL 0.40 µL

DNA抽出液 0.50 µL 4.00 µL 合 計 10.00 µL 80.00 µL 1サンプル 8サンプル 95℃  4分 94℃ 30秒 60℃  1分   30サイクル 72℃ 40秒 72℃  5分

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図5 ネギネクロバネキノコバエと国内既知害虫 3 種における種特異的プライマー を用いた PCR 増幅産物の 2%アガロースゲル電気泳動写真 M: 100bp DNA ラダーマーカー、1-5:ネギネクロバネキノコバエ、6-10:チバクロバ ネキノコバエ、11-12:ジャガイモクロバネキノコバエ、13-14:ツクリタケクロバネキノコ バエ、15:ネガティブコントロール(抽出 DNA 未添加の PCR) M 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 M 709 bp 324 bp

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Ⅲ.ネギネクロバネキノコバエの飼育法

未知の昆虫の生態を調べる際には、継代飼育法の確立が重要になる。本項では、ネ ギネクロバネキノコバエの飼育法を解説する。なお、日本国内でネギネクロバネキノ コバエの発生定着域が拡大しないように、不要なネギネクロバネキノコバエの飼育は 行わないようにする。 1.大量飼育法:ツマグロヨコバイ用飼育箱(幅 340mm×奥行き 260mm×高さ 340mm)に円形の作業口をとりつけたものを用いる。作業口には捕虫網を加工し 取り付ける。プラスチック容器の中に茎盤部を含む長さ 20cm 程度のネギ数本と 水で十分に湿らせたキムワイプを入れた後、ネギネクロバネキノコバエ雌雄成虫を 数十頭ずつ飼育箱内に放飼する。飼育中はキムワイプが乾燥しないように随時給水 する。放飼した成虫は飼育箱内で産卵し、孵化した幼虫はセットしたネギを摂食し て成長する。25℃では 1 カ月程度で次世代の成虫が羽化し始め、ネギもほぼ食べ つくされるので、吸虫管を使って雌雄成虫を数十頭ずつ採取し、新しい飼育箱に移 す(図 6 左)。 2.系統維持飼育法:ガラスビン(φ120mm×H18mm)の中に水分調整・餌を兼 ねて米ぬかを高さ 3cm 程度入れ、その上にピートモスを培養土として高さ 6cm 程度まで入れ、ネギを2~3 株程度植える。この中に、ネギまたはニンジンから採 集したネギネクロバネキノコバエ幼虫または成虫を入れる。ビン本体とフタ(本研 究では目合 1.0mm の金網メッシュのフタを使用)の隙間や網目からの逃亡を防止 するために、目合 0.4mm 以下のナイロンゴース等をかませる。ピートモスが乾燥 しないように適宜給水する。1 回のセットで飼育瓶内で世代交代を繰り返し、3 ヵ 月程度維持可能である(図 6 右)。さらに飼育を継続する場合は、老齢幼虫のステ ージの際に新たに用意したセットに移すか、大量飼育法のように吸虫管を使って雌 雄成虫を数十頭ずつ採取し、新しい飼育瓶に移す。 図 6 ネギネクロバネキノコバエの大量飼育法(左)と系統維持飼育法(右)

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Ⅳ.ネギ、ニンジンでネギネクロバネキノコバエの寄生を確認する方法

ネギネクロバネキノコバエの卵や幼虫はサイズがきわめて小さく、多数の幼虫が食 害している場合を除き、栽培中のネギ、ニンジンから本種の卵や幼虫を肉眼で確認す ることは困難である。そこで、ほ場から採取したネギ、ニンジンを実験室に持ち帰り、 ネギネクロバネキノコバエの寄生を確認する3つの方法を開発した。 図 7 ネギ、ニンジンでネギネクロバネキノコバエの寄生を確認する方法 1.植物培養法 ほ場から採取したネギ、ニンジンをプラントポットの中で保存し(図7A)、ネギネ クロバネキノコバエ成虫の羽化個体を確認する。ネギは茎盤から 10~15cm の部分 を使用する。ニンジンは、根の肩~中部の部分を使用する。プラントポット(W72× D72×H約 200mm)にはバーミキュライト(約 100ml)、水(約 80ml)を入れ て、ネギまたはニンジンを1本ずつ培養する。温度 25℃・日長 16L8D の条件下で 保存し、ネギネクロバネキノコバエの寄生があれば 14 日程度で成虫が発生しはじめ、 28 日程度でほぼ終息する。したがって、サンプル採取(またはサンプルセット)14 日後~21 日程度の成虫の発生で寄生の有無を判定する。 2.植物分解法 ネギの茎盤から上 15cm の葉鞘までを採取し、ひげ根と付着土壌(図7B の右上)、 茎盤(同左上)、茎盤側の葉鞘(同左下)、残りの葉鞘(同右下)に分ける。それぞれ を実体顕微鏡下で観察して、寄生しているネギネクロバネキノコバエ幼虫を直接確認 する。若齢幼虫は動きがなくなると顕微鏡下で発見しにくくなるため、若齢幼虫発生 時期などは、採取後できるだけ早いうちに調査することが望ましい。また、透過型顕 微鏡を利用すると幼虫を確認しやすい。

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3.水浸漬法 水(水道水でよい)を入れた容器にネギを浸して、組織内に隠れたネギネクロバネ キノコバエ幼虫を出現させる(図7C)。ネギネクロバネキノコバエ幼虫は水没して容 器の底に沈下する(図7D)。 幼虫数調査では、上述の植物分解法は非常に労力がかかるため、水浸漬法と植物分 解 法 を 組 合 せ る と よ い 。 ポ リ プ ロ ピ レ ン 製 タ イ ト ボ ッ ク ス ( ロ ン グ 、 約 30×10×9.8cm、2.5L)等を使い、ネギ(茎盤から 15cm までの部分)やニンジ ン(葉の付け根2cm 程度を残した根部全体)が水面下に浸るように本数を適宜調整 して水道水(約 0.6~1L 前後)を注ぐ。なお、水温が低すぎると幼虫の出現も抑制 されると考えられることから、冬期は水道水の温度に注意する。ネギでは 30 分、ニ ンジンでは約1時間静置する。その後、浸漬した水をステンレス製の網(φ15~ 20cm)などにペーパータオルを敷いて濾し、実体顕微鏡下で幼虫、蛹数を計数する (図8)。 図8 水浸漬の様子と浸漬液を濾過した残渣の幼虫を検鏡しているところ 浸漬後のネギ、ニンジン根部は、実体顕微鏡により分解調査を実施し、残存虫を計 数する。また、サンプルを入れたポリ袋内の壁面および残存する土壌中における幼虫 の有無も実体顕微鏡等で確認する。 水浸漬法では、ネギに寄生する幼虫の約 80%が水中に出現するため(図 9)、簡易 調査としては水浸漬法のみの調査でも十分である。このため、「泥ネギ」を出荷する際 の本種害虫の寄生の有無をチェックする簡易調査に利用可能である。 ニンジンでは「割れ」や内部の腐食部分に幼虫が残存する割合が多く、分解調査法 との併用が不可欠である。

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図 9 ネギの 1 株あたり幼虫数と水浸漬法による幼虫数の関係

y = 1.1446x + 2.3933

R² = 0.9742

n = 75

0

20

40

60

80

100

120

140

160

0

20

40

60

80

100

120

水浸漬法による1株あたり幼虫数

株あた

幼虫

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Ⅴ.ネギほ場におけるネギネクロバネキノコバエの発生生態

ネギネクロバネキノコバエによるネギの被害は、収穫時になって初めて気付くこと が多く、ネギの生育期におけるネギネクロバネキノコバエの発生生態は不明であった。 そこで、ネギネクロバネキノコバエの発生地域のネギほ場において、ネギの掘り取り 及び黄色粘着トラップによる本種の発生調査を行った。その結果、 1.ネギネクロバネキノコバエ幼虫は、夏期も含めてネギに継続的に寄生しており、 土寄せ後の 10 月に増加した(図 10)。 図 10 ネギほ場におけるネギネクロバネキノコバエ幼虫の寄生数の推移 2016 年 7 月下旬から 2 週間~1 ヶ月の間隔で、埼玉県北部のネギほ場 2~4 ヶ所か ら 9 もしくは10株のネギを掘り取り、実体顕微鏡を用いた分解調査により、ネギに 寄生するネギネクロバネキノコバエ幼虫数を記録した。折れ線の縦棒は標準誤差を示す。 2.土寄せ前のネギでは、ネギネクロバネキノコバエ幼虫個体の 80%以上は茎盤部 に集中して寄生していたが、土寄せ後は、土が被った葉鞘にも移動した(図 11)。 幼虫は、ネギの茎盤の外縁と葉鞘の境付近に溝や空洞を作った後に葉鞘へ移動し (図 12)、卵や蛹は、地表面近くの葉鞘のほかに茎盤でも確認された(表 2)。 0 5 10 15 20 25 30 35 0 30 60 90 120 150 180 1 株 当 た り の 幼 虫 寄 生 数 7/20 8/19 9/18 10/18 11/17 12/17 1/16

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図 11 ネギにおけるネギネクロバネキノコバエ幼虫の寄生部位とその推移 図 12 ネギの茎盤に寄生するネギネクロバネキノコバエ幼虫 茎盤とひげ根の間に溝を形成して生息する幼虫(左)、多数の幼虫の加害により形成さ れた茎盤部の空洞(右)。 表 2 ネギにおけるネギネクロバネキノコバエの産卵、蛹化位置 81.9 87.8 52.9 18.1 12.2 47.1 0 20 40 60 80 100 2016/10/24 2016/11/17 2016/12/8 弥藤吾 善ケ島 男沼 茎盤 葉鞘 土寄せ前 土寄せ後・収穫前 幼 虫 頭 数 割 合 ほ場A ほ場B ほ場C 平均 標準誤差 平均 標準誤差 最深 最浅 卵 14 7.14 1.88 2.61 0.99 7.8 -2.2 蛹・蛹殻 23 2.17 0.91 3.35 1.01 7.8 -2.2 n は調査したネギ75株のうち、卵、蛹もしくは蛹殻の付着が確認された株数 n 個体数(株あたり) 地表面からの深さ(cm)

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3.ネギネクロバネキノコバエ成虫は、初夏と秋にほぼ 1 カ月に 1 回程度の周期で発 生のピークを示した(図 13)。 図 13 ネギほ場におけるネギネクロバネキノコバエ成虫の発生消長(2016 年 8 月~2017 年 11 月) 埼玉県北部における本種の被害発生ほ場での調査。黄色粘着トラップを使用した。日当たり捕 獲数に換算後、5 日間移動平均を求めた後、各月の半旬毎に合計して対数変換した。 2016 年~2017 年 7 月のデータは、ネギネクロバネキノコバエ以外のクロバネキノコバエ 類を含んでいた可能性がある。2017 年8月以降は、成虫形態による簡易識別が可能となっ たため、ネギネクロバネキノコバエ以外のクロバネキノコバエ類は含まれていない。 4.ネギネクロバネキノコバエの寄主範囲(食害可能な作物種) ネギ、ニンジン以外でネギネクロバネキノコバエ幼虫が寄生可能な作物として は、本害虫の発生地域でのサンプリング調査において、ニラでの寄生が確認されて いる。また、室内飼育試験では、カリフラワー、ホウレンソウ、ブロッコリー、カ ブ、ハクサイ、キャベツ、コマツナ、チンゲンサイなどで幼虫の発育が確認されて いる(データ省略)。 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 Log10 (x+1) ( 対数変換値 ) 誘殺数/半旬 2016年 2017年

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Ⅵ.ネギネクロバネキノコバエの防除体系

ネギは栽培期間が長い作物であること、ネギネクロバネキノコバエ幼虫は地下部に 生息して加害すること、などの特徴から、本害虫の防除は、殺虫剤による化学的防除 が主体となる。 2018 年 4 月 30 日現在、ネギ、ニンジンのネギネクロバネキノコバエ防除に使 用可能な登録薬剤は以下の通りである(表3,4)。 表3 ネギのクロバネキノコバエ類に農薬登録のある殺虫剤 薬剤名 使用方法 希釈倍数 使用量 使用時期 使用回数 ニテンピラム 水溶剤 散布 2000 倍 100~ 300L/10a 収穫前日ま で 3 回以内 フルフェノク スロン乳剤 散布 4000 倍 100~ 300L/10a 収穫 14 日 前まで 3 回以内 ジノテフラン 水溶剤 株元灌注 1000 倍 1L/m2 生育期 但 し収穫 14 日前まで 1 回 ジフルベンズ ロン水和剤 株元灌注 2000 倍 300ml/m2 収穫 21 日 前まで 3 回以内 テフルトリン 粒剤 作条土壌 混和 9kg/10a 定植時 1 回 表4 ニンジンのクロバネキノコバエ類に農薬登録のある殺虫剤 薬剤名 使用方法 希釈倍数 使用量 使用時期 使用回数 テフルトリン 粒剤 全面土壌 混和 12kg/10a 定植時 1 回 ジノテフラン 水溶剤 株元灌注 400 倍 0.4L/m² 生育期(但 し、収穫 21 日前ま で) 1 回

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ネギにおける防除体系(埼玉県の事例)

時期 処理時期 薬剤名 処理方法 5 月上旬 定植時 テフルトリン粒剤 土壌混和 6 月上旬 フルフェノクスロン乳剤 散布 6 月下旬 ニテンピラム水溶剤 散布 7 月中旬 フルフェノクスロン乳剤 散布 8 月上旬 生育期 ジフルベンズロン水和剤 株元灌注 8 月下旬 (土寄せ前) ジノテフラン水溶剤 株元灌注 9 月中旬 フルフェノクスロン乳剤 散布 10 月上旬 ジフルベンズロン水和剤 株元灌注 10 月下旬 ニテンピラム水溶剤 散布

ニンジンにおける防除体系(埼玉県の事例)

時期 処理時期 薬剤名 処理方法 2 月上旬 播種時 テフルトリン粒剤 土壌混和 4 月中旬 トンネル除去時 ジノテフラン水溶剤 散布

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Ⅶ.ネギネクロバネキノコバエの耕種的防除

ネギネクロバネキノコバエに加害されたネギ、ニンジンをほ場に放置したり、未分 解のまま鋤込むと、本害虫が作土中に残り、後作でも被害が発生しやすくなる。その ため、本害虫に加害されたネギ、ニンジンの後処理もきわめて重要である。 1.石灰窒素施用 石灰窒素は有機物の分解を促進する。ネギ残渣を鋤込んだほ場に 60kg/10a 相当 量の石灰窒素を施用すると、約 1 カ月後にネギの残渣量が約 20%まで減少する(表 5)。 室内試験において、石灰窒素を施用せずにニンジン残渣を土壌混和したのみでは、 ニンジンが再生し、地上部が回復した。また、粉砕してあれば、その程度によらず、 石灰窒素を処理することで分解が進んだ(図略)。したがって、石灰窒素を施用せずに ニンジン残渣を土壌混和しただけでは、ネギネクロバネキノコバエの発生を助長する 恐れがある。ニンジンでは、石灰窒素を施用し、軽くニンジン残渣を粉砕する程度の 混和を実施することで、残渣を十分に分解できると考えられる。 表 5 ネギ収穫後ほ場に各種資材を施用した場合のネギ残渣の分解促進効果 *補正指数:(処理区の処理○日後の残渣量/処理区の処理直前の残渣量)×(無処理区の処理 直前の残渣量/無処理区の処理○日後の残渣量)×100 反復 ① ② ① ② ① ② Ⅰ区 446 98 34 68 6 17 Ⅱ区 68 84 8 64 8 48 Ⅲ区 106 32 34 110 30 10 平均 補正指数* Ⅰ区 84 46 58 100 38 36 Ⅱ区 12 90 74 6 10 34 Ⅲ区 88 82 40 14 28 42 平均 補正指数* Ⅰ区 82 50 4 2 62 30 Ⅱ区 50 186 18 46 24 32 Ⅲ区 98 36 136 56 76 140 平均 補正指数* 土壌5ℓ当たりのネギ残渣量(g)  無処理 83.7 43.7 100 100 60kg/10a 64.5 31.3 60.7 分解ヘルパー (微生物土壌 改良材) 67.0 48.7 60kg/10a 139.2 73.1 19.8 処理 直前 処理 14日後 処理 33日後 供 試 資 材 施用量  石灰窒素 139.0 53.0 19.7

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Ⅰ.ネギネクロバネキノコバエ(Bradysia sp.)とは? 末吉昌宏(森林研究・整備機構 森林総合研究所九州支所) 吉松慎一・中谷至伸(農研機構 農業環境変動研究センター) 有本 誠・日本典秀・長坂幸吉(農研機構 中央農業研究センター) 上杉龍士(農研機構 東北農業研究センター) Ⅱ.PCR 法によるネギネクロバネキノコバエと国内既知害虫種との識別法 有本 誠・日本典秀・長坂幸吉(農研機構 中央農業研究センター) 上杉龍士(農研機構 東北農業研究センター) 末吉昌宏(森林研究・整備機構 森林総合研究所九州支所) 吉松慎一・中谷至伸(農研機構 農業環境変動研究センター) Ⅲ.ネギネクロバネキノコバエの飼育法 小俣良介・岩瀬亮三郎・植竹恒夫・岡山 研・渡辺俊朗(埼玉県農業技術研究 センター) Ⅳ.ネギ、ニンジンからネギネクロバネキノコバエの寄生を確認する方法 小俣良介・岩瀬亮三郎・植竹恒夫・岡山 研・渡辺俊朗(埼玉県農業技術研究 センター) Ⅴ.ネギほ場におけるネギネクロバネキノコバエの発生生態 小俣良介・岩瀬亮三郎・植竹恒夫・岡山 研・渡辺俊朗(埼玉県農業技術研究 センター) 小澤貴弘・野崎幸秀・安田尚子(埼玉県大里農林振興センター) Ⅵ.ネギネクロバネキノコバエの防除体系 小俣良介・岩瀬亮三郎・植竹恒夫・岡山 研・渡辺俊朗(埼玉県農業技術研究 センター) 小澤貴弘・野崎幸秀・安田尚子(埼玉県大里農林振興センター) 吉澤仁志・酒井 宏・谷口高大・前田宏美(群馬県農業技術センター) *所属は平成 29 年 4 月 1 日時点のものを表記しています。 写真提供 表紙:吉松慎一、太田 泉

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ネギネクロバネキノコバエ(

Bradysia

sp.)防除のための手引き

-2018 年改訂版-

本手引きは、平成 28 年度 農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業「クロバ ネキノコバエ科の一種の生態の解明及び防除手法の開発」(課題番号 28040C)及び、 平成 29 年度 安全な農林水産物安定供給のためのレギュラトリーサイエンス研究委 託事業「クロバネキノコバエ科の一種の総合的防除体系の確立と実証」で得られた成 果をとりまとめたものです。 本手引きの無断での複製・転載は禁じます。内容に関する問い合わせは、下記の編 集責任者までご連絡下さい。 _____________________________________ 発 行 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 野菜花き研究部門 野菜病害虫・機能解析研究領域 〒514-2392 三重県津市安濃町草生 360 TEL:059-268-1331(代表) 編集責任者:太田 泉(E-mail: ohtaiz@affrc.go.jp) 発行日:2018 年5月25日

図 3  ネギネクロバネキノコバエ(左)とチバクロバネキノコバエ(右)の 雄交尾器
図 9  ネギの 1 株あたり幼虫数と水浸漬法による幼虫数の関係 y = 1.1446x + 2.3933R² = 0.9742n = 75020406080100120140160020406080100 120水浸漬法による1株あたり幼虫数ネギ1株あたり幼虫数
図 11  ネギにおけるネギネクロバネキノコバエ幼虫の寄生部位とその推移  図 12  ネギの茎盤に寄生するネギネクロバネキノコバエ幼虫  茎盤とひげ根の間に溝を形成して生息する幼虫(左) 、多数の幼虫の加害により形成さ れた茎盤部の空洞(右) 。  表 2  ネギにおけるネギネクロバネキノコバエの産卵、蛹化位置 81.9 87.8 52.9 18.1 12.2 47.1 0204060801002016/10/242016/11/172016/12/8弥藤吾善ケ島男沼茎盤葉鞘土寄せ前土寄せ後・収穫前幼虫頭

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