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売却価値に関する一考察--利益三分化試考---香川大学学術情報リポジトリ

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(1)

売 却 価 値 に 関 す る 一 考 察

一一利益三分化試考一一一

井 原 理 代

I はじめに 財務諸表において,資産および利益を報告す!るための測定基準として,いか なる価値が採用されるべきか一一一スターリングのこの間いは,会計における古 くして新しい一大課題である。スターリングが,この聞いに対して売却価値 (exit value)とし、う答えを提唱していることは,つとに知られているが,しかし, 測定基準をめぐる論議にあって,彼の提唱に対する賛同の声は数少ない。それ にもかかわらず,あるいはそれだからこそ,あらためて売却価値の採用を提唱 する彼の所説には,興味深いものがある。小文では,なによりもまず,測定基 準をめぐる論議について考える素材としたく,売却価値の〔択一的〕採用を提 唱するスターリングの揺ぎなき道筋を辿ってみたい。ついで,その道筋になお 揺ぎがみられるとすれば,売却価値の併用を試みに考えてみたく,草したもの である。 II 代替的な価値の認識とその概念 資産および利益の測定基準として採用されるべき価値を論議するにあたっ ( 1) R R.Sterling, Vo.117, No 2,1981, p..96

( 2 ) スターリングは,その主著Teoη

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the Mesurement

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Entertrise lncome, Kansas, 1970を始め,一貫して売却価値基準の提唱を行っている。

( 3) R

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Sterling,

(2)

453 売却価値に関する←考察 7i AV QJ て, スターリングの出発点は,その採用の対象となる全ての代替的な価値につ いて,認識することである。 スターリングによれば,そのような「代替物の存在について,広く認識しな かった」ことが,測定基準をめぐる論議を狭陸なものとしている。伝統的な歴 史的原価会計が,激しい価格変動の下で,妥当性を問われ,測定基準の改善が 論議されることになったが,歴史的原価の代替物として考えられたのは,もっ ぱら現在原価であった。「これまでの論議のほとんどは,原価のための会計(伺ac -C

oun凶1 焦点は,原価のタイミングの上に置かれ,現在価格は現在原価として狭く捉え られてきたのである。 しかしながら,測定基準として採用の対象となる代替的な価値は,歴史的原 価だけでなければ,歴史的原価か現在原価のいずれかで、もなし、。それは,スター リングによれば, どの資産についてもいつの時点でも有する価格にもとづく価 イ直である。 そこで, とやの資産についてもいつの時点でも有する価格について認識しなけ ればならないことになるが,その場合,資産の価格の種類によるちがし、と,そ れの時点によるちがし、とを峻別する必要がある。ここに,種類のちがう価格と は,資産が同一時点でかかわる二つの市場,すなわち購入市場と売却市場にお ける購入価格(purchaseprice)と売却価格(saleprice)であり,他方,時点のち がう価格とは,購入価格と売却価格それぞれの過去,現在,将来における価格 である。どの資産についてもいつの時点でも有する価格は

6

種類あり,したがっ て,測定基準として採用の対象となる代替的な価値は,それぞれにもとづく 6 種類に分かたれることになる。 その6種類の価値とは,過去,現在,将来の購入価格にもとづく,歴史的原 価(historicalcost),現在原価(currentcost),取替原価(replacementcost), および過去,現在,将来の売却価格にもとづく歴史的売却価値(historicalexit ( 4) R ,RSterling, opcit, p.94 (5) Ibid

(3)

-110- 第58巻 第2号 454

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,現在売却価値

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,終末売却価値

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であり,表で示すと,表lのとおりである。 表l 去 「 現 日寺日司白勺{fl-trl 価 格 の 税 類 過 在 将 来 購 入 価 格 │ 歴 史 的 原 価 │ 現 在 原 価 │ 取 替 原 価 売 却 価 格 ! 歴 史 的 売 却 価 値 │ 現 在 売 却 価 値 │ 終 末 売 却 価 値 こうして6種類の代替的な価値が認識されたからには,それぞれについて概 念上明確にしておかなければならないであろう。スターリングは,まず,価格, 原価,売却価値についてつぎのように定義する。すなわち,価格とは,原価お よび売却価値の「参照数字J

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であり,原価は I購入したなら ば,支払ったもしくは支払わなければならない現金額」であり,他方,売却価 値は I売却したならば,受け取ったもしくは受け取ることのできる現金額」で ある。したがって,原価は,資産の価値をその犠牲という属性

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において捉え,他方,売却価値は,その便益とし、う属性

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において捉える概念である。 ついで,スターリングは,時点のちがう原価および売却価値を明らかにする ため,つぎのような

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つの取引例を示している。いま

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ドルの市場 性ある有価証券(株式〉があり,その売買取引のための手数料を

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ドルとす る。ある人が,この

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株を購入したとすれば,

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ドノレプラス

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ドルの

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ドルを支払わなければならず

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株を売却したとすれば,

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ドルマイナス

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ドルの

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ドルを受け取ることができる。この場合,前者の

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ドルが原 価にほかならず,それが,過去における購入によるならば歴史的原価であり, 現在における購入によるならば現在原価であり,将来における購入によるなら ば取替原価である。他方,後者の

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ドルが売却価値ということになり,それ ( 6) R

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,。戸 cit,p..96 (7) Ibid (8) Ibid

(4)

455 売却価値に関する一考察 -111-も同様に,過去,現在,将来のいずれの売却によるかにより,歴史的売却価値, 現在売却価値,終末売却価値となる。 以上のように,測定基準として採用の対象となる全ての代替的な価値が認識 され,概念上明確にされると,つぎに,そのうちのいずれが採用されるべきか, 選択することが順序となるであろう。そのような選択にさきだって,その代替 的な価値の相異を鮮明ならしめるため, スターリングは, さきほどの株式売買 取引の例示を用い,つぎのような3つの問題を提起する。それは,第1に,資 産および利益の測定基準として採用されるべき価値は,原価かあるいは売却価 値か,第2にそれは,現在価値かあるいは将来価値か,第 3に,それは,現 在価値か過去価値かという問題である。このような問題提起は,代替的な価値 を,それのもとづく価格の種類と時点のちがし、とをl峻別して認識したスターリ ングにあって,当然、のことであり,これらに対して以下のように検討している。 第1の問題に対しては,株式の購入日(仮に 1月 1日とする)における原 価と売却価値による記録をそれぞれ行い,両者の相異?を鮮明にしようとする。 すなわち,原価によれば, (借〉有価証券 1,100 (貸〉現 金 1,100 となり,他方,売却価値によれば, (借)有価証券 900 (貸〉現 金 1,100 購入損失 200 となって,両者の相異は,有価証券価値のちがし、のみならず,後者では,購入 損失

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を認識することである。売却価値による場合,この株 式の購入にあたって, 1,100 ドルの現金を支払ったのに,売却したならば 900 ド ルの現金しか受け取ることができないというのだから,その差額200 ドルを購 入時点での損失として認識し,これを購入損失と称するわけである。 ¥

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( 9 ) ここでは,購入損失が認識されているが,一般的にいえば,購入損益であり,これは通 常,用いられていない概念であろうが,スターリングによれば,購入日において,当該時 点の原価と売却価値とを比較することによって求められるものである。これに対して,後 述の売却損益は,売却日において原価と売却価値とを比較することによって求められる が,いずれの時点のそれらを用いるかによって,内容が分かたれることになる。

(5)

-112ー 第58巻 第2号 456 第

2

の問題に対しては,資産とは将来便益をもたらすものと定義されるので あれば,将来価値が採用されるべきではないかと指摘しながら,きわめて簡単 な理由で,これを斥けている。「将来は未知だから」であり,未知な将来価値を 記録することは「散慢もしくは悪いと答められるであろう」からである。 さらに第3の問題は,株式を保有したまま決算日に至り,貸借対照表にこの 有価証券を計上するにあたって生じるものである。いま,決算日(仮に 1月 31日とする〉に 1株が1,050ドルに上昇し,手数料は変わらないとすると, 原価は1,150ドルで,売却価値は950ドルとなる。この場合,有価証券の貸借 対照表価値は,現在の決算日における原価あるいは売却価値であろうか,それ とも過去の購入日におけるそれであろうか。このうち,歴史的売却価値は r未 だかつて主張されたことはなし、」ゆえに,検討の外に置かれる。したがって, 採用されるべき貸借対照表価値は,歴史的原価,現在原価,および売却価値の うちのいずれかということになり, これら3つの価値について検討が進められ ることtこなる。 まず,この決算日において, これら 3つの価値の相異をみてみよう。歴史的 原価によると,いうまでもなく,さきの購入日における記録に対する修正記入 は必要でなく,何らの利得も生じない。これに対して,現在原価によると, (借〕有価証券 50 (貸〉保有利得 50 という修正記入が必要となる。現在原価は,現在時点のl月31日に当該株式を 購入したならば,支払わなければならない現金1,150ドルで、あるが,すでに1 月1日に支払った現金は 1,100ドルでhあるので, 50ドルの利得が生じ,この利 得は保有利得

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にほかならないのである。また,売却価値による と, (10) R R Sterling, opαt, p..97 (11) Ibid (12) R R Sterling, 0)うじit,p 98 (13) それゆえ,スターリングにあっては,売却価値といえば,通常,現在売却価値を意味し, 以後,現在なる語を冠さず,特に,過去ないし将来の売却価値をあらわす場合のみ歴史的売 却価値ないし終末売却価値という用語を用いる。そこで,本稿でも,それに治うことにする。

(6)

457 売却価値に関する一考察 -113 (1昔〉有価証券 50 (貸〉価値利得 50 とし、う修正記入がなされなければならない。売却価値は, 1月31日に当該株式 を売却したならば,受け取ることのできる現金950ドルであるが 1月 l日に は900ドルで、あったので, 50ドルの利得が生じ,この利得は価値利得(value gain)と称されるのである。 このように,現在原価によっても売却価値によっても,ともに50ドルの利得 が計上されるが, しかし,それらは明らかに異なる概念であることに注意しな ければならない。現在原価による保有利得は,現在支払わなければならない現 金額と過去に支払った現金額との差額であって,犠牲差異(sacrificechange)と して特徴づけられるのに対し,売却価値による価値利得は,現在受け取ること のできる現金額と過去に受け取った現金額との差額であって,便益差異 (ben -efit change)として性格づけられるものである。そうして,このような利得の認 識により 1月31日の決算日に報告される利益は,歴史的原価によれば,もち ろん純利益Oであるが,現在原価では,保有利得50ドルよりなる 50ドルの純 利益となるし,売却価値では,購入損失200ドルと価値利得50ドルよりなる 150ドルの純損失ということになる。 さらに,株式売買取引が続けられることによって歴史的原価,現在原価,お よび売却価値の3つの価値の相異が鮮やかになる。す町なわち,さきの決算日の 翌 日 (2月1日), 1月31日と同ーの状況の下で,当該株式は売却されたとす る。この場合,いずれの価値によっても,受け取った現金額を借方記入し,そ れぞれの価値の株式を貸方記入して,双方の差額を利得とすることになる。し たがって,歴史的原価によれば, ( 借 〕 現 金 950 (貸〉有価証券 1,100 売却損失 150 現在原価によれば, (f昔 〉 現 金 950 (貸〉有価証券 1,150 売却損失 200 売却価値によれば,

(7)

-114- 第58巻 第2号 458 (借〉現 金

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5

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(貸〉有価証券

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となる。それゆえ,当該

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月の決算日に報告される利益は,歴史的原価にあっ ては,売却損失

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ドルよりなる

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ドルの純損失でhあり,現在 原価においては,売却損失

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ドルよりなる純損失

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ドルであるが,売却価 値によれば,純利益Oということになる。 そうすると,当該取引の 1月と 2月を合わせた全体期間の利益は, 3つの価 値のいずれにもとづいても,純損失

1

5

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ドルで町同ーである。というのは,歴史 的原価にもとづくと,

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月の売却損失

1

5

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ドル=全体損失

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ドル 現在原価によると,

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月の保有利得

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ドル十

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月の売却損失

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ドル=全体損失

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ドル 売却価値では,

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月の購入損失

2

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0

ドル

+1

月の価値利得

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ドル=全体損失

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ドル となるヵ、らである。 以上のような株式売買取引をみてくると,歴史的原価,現在原価,および売 却価値の類似点と相異点をつぎのようにまとめることができるであろう。すな わち,これらの価値の類似点は,当該取引において,同ーの全体期間利益が報 告されるということである。他方,原価と売却価値との相異点は,それぞれが 資産の異なる属性を測定するということであり,前者は犠牲属性を,後者は便 益属性を測定するのである。また,原価のうちで,歴史的原価と現在原価との 相異点は,前者が過去価格にもとづくものであるのに対して,後者が現在価格 にもとづくものであるということである。 III 売却価値の採用 こうして,測定基準として採用の対象となる歴史的原価,現在原価,および 売却価値の類似点と相異点が鮮明になると,いよいよそのうちのいずれかの選 択が試みられなければならない。スターリングは,そのような代替物の選択に あたって,選択のための基準が必要で町あると主張し,従来用いられてきた基準

(8)

459 売却価値に関する一考察 -115ー には代替物に対する識別力が欠如していることを指摘する。そして,代替物を 識別しうる新たな基準として,代替物の一大相異点が異なる属性の測定である のだから,つぎのような目的適合性

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の基準があげられる。ここに, 目的適合性の基準とは,-ある属性は,当該意思決定モデ、ルによって特定された ならば,そのモデルに適合的である」というものである。 そこで,スターリングにあっては,測定基準の用いられる企業の意思決定モ デルによって, どのような価値が特定されるか,検討を加えることになる。企 業の意思決定モテ、ルが特定する価値こそ,これに適合的な価値であり,測定基 準として,採用されるべきことになるからである。ところで,そもそも企業の 目的は,利潤の最大化,ないしそれをもたらすキャッシュフローの最大化であっ てみれば,企業の意思決定は,なによりもキャッシュフローの最大化を導く取 引の意思決定からなるであろう。したがって,企業の意思決定モデ、ルによって 特定され,これに適合的な価値は,そうした取引の意思決定のために必要とさ れる価値と考えられ, スターリングは, これまでと同様に株式売買取引を用い て, このような価値について考察する。 株式売買取引は,株式購入取引と株式売却取引からなるので,まず前者から みると,株式購入の意思決定のためには,現在原価と終末売却価値との比較が 必要である。というのは,当該取引において 1月 1日のキャッシュアウトフ ロー

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ドノレと

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日のキャッシュインフロー

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ドルが比較されると, キヤグシコフローの最大化を志向する企業は 1月 1日には購入をしないとい う意思決定ができるであろうからである。この場合,価格にもとづき

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日 の現在価格

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ドルと

2

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日の終末価格

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ドルとの比較によって,購 (14) 従来用いられてきた代表的な選択のための基準として,継続企業の公準がある。継続企 業の公準にかなう測定基準は,原価であって,売却価値ではないとされる。売却価値は, 清算の仮定を必要とするからというのであるが,スターりングによれば,株式売却取引の 例示にみられるように,継続企業の下で,株式を原価で購入し,売却価値で売却するので あって,原価は継続企業を仮定し,売却価値は清算を仮定するというわけでhはない。彼に あっては,継続企業を仮定した売却価値を想定していると思われ,その意味では,継続企 業の公準は識)]Ijカが欠如していることになる。 (5)

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-116 第58巻 第2号 460 入の意思決定をするのは,それらは,そのまま企業のキャッシュフローとはな らないゆえに間違いである。購入取引の意思決定に適合的な価値は,現在原価 と終末売却価値であるというのである。 他方,後者について考えると,株式売却の意思決定のためには, (現在〉売却 価値と終末売却価値との比較がなされなければならなし、。キャ yシュフロ}の 最大化を志向する企業は 1月 1日のキャッシュインフロー900ドルと 2月 1 日のキャッシュインフロー950ドルを比較して 1月1日には売却しないと判 断できるであろうからである。売却取引の意思決定に適合的な価値は, (現在) 売却価値と終末売却価値であるというわけである。 このようにみると,終末売却価値は,購入取引の意思決定にも売却取引の意 思決定にも適合的であることが明らかである。また,現在原価は,購入取引の 意思決定には適合的であるが,売却取引の意思決定には適合せず,逆に, (現在〕 売却価値は,売却取引の意思決定には適合的であるが,購入取引の意思決定に は適合しないことがわかる。し、し、換えると,現在原価は,所有していない株式 取引の意思決定に適合的であり,他方, (現在〉売却価値は,所有している株式 取引の意思決定に適合的であるのである。だが,このうち,終末売却価値は, すで1こ述べたように,将来のことで未知ゆえに,また,現在原価は,所有して いない株式の価値とはなりえても,所有している株式,すなわち貸借対照表に おいて報告される株式の価値にはなりえないゆえに, どちらも測定基準として 採用されえない。貸借対照表において報告される株式は,所有している株式に ほかならないのだから,その報告のために採用される測定基準は,売却価値で あるべきであるということになる。 こうして,取引の意思決定のために必要とされる売却価値が,測定基準とし て採用されるべきことになるのだが,スターリングは,ついで,すでに行われ た取引の意思決定の評価のために必要とされる価値について検討を進める。 取引の意思決定の評価は,企業目的がキャッシュフローの最大化であってみ れば,過去現金残高と現在現金残高との比較によって求められるはずである。 過去現金残高より現在現金残高の方が多ければ,当該取引の意思決定は目的を

(10)

461 売却価値に関する一考察 -117-達成したと評価すべきであり,両者の差額がどれほど目的を達成したかの尺度 であって,その会計用語が利得(gain)にほかならないのである。このような評 価のために,売却日においては,売却による現在現金残高が明白であり,直ち に利得が報告されるが,購入日から売却日の聞の決算日においては,現在現金 残高および利得の把握が問題である。その把握のために必要とされるのは,ど のような価値であろうか。 まず,歴史的原価によると,すでにみたように,どの決算日の現在現金残高 も過去現金残高と変わらず,利得は常に

O

である。それゆえ, この場合,最善 の解釈でも,取引の意思決定の評価を提供しえないということになり,最悪の 解釈では,現在現金残高が変化し利得が生じていることを想定すると,誤った 評価を提供するということになる。 また,現在原価によると,キャッシュアウトフロー差異すなわち犠牲差異に 焦点があてられ,歴史的原価より現在原価が高い場合,原価の増加分が保有利 得として把握される。これまでの株式売買取引においては 1月1日の株式の 価格1.000ドルが1月31日には 1,050ドルに上昇した結果,原価が1.100ドル から 1,150ドルになったので, 50ドルの保有利得が把握されたが,はたして, この利得は現金残高の増加をもたらすであろうか。これに対して,売却価値に よると,キャッシュインフロー差異すなわち便益差異に焦点があてられ,過去 売却価値より(現在〉売却価値が高い場合,売却価値の増加分が価値利得とし て把握されるが,これは,現金残高の増加分にほかならない。あらためていう までもなく,売却価値は,売却したならば受け取ることのできる現金額である からである。問じ株式取引にあって 1月 l日の売却価値900ドルから 1月 31 日には950ドルになったので, 50ドルの価値利得が把握されたのである。 こうしてみると,保有利得が,価格の上昇を原因とする原価の増加による場 合,価値利得に対応し,現金残高の増加をもたらすといえよう。しかし,そう でない場合,保有利得は,現金残高の増加をもたらさないことを,スターリン グは,つぎのように説明する。すなわち,当該取引において,株式の価格は一 定であるが,手数料が1月1日の 100ドルから 1月31日には150ドルに上昇し

(11)

-118- 第58巻 第2号 462 たとすると,原価が

1

1

0

0

ドルから

1

1

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ドルになるので,やはり

5

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ドルの保 有利得が把握される。ところが, この場合,売却価値は

9

0

0

ドルから

8

5

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ドル になり,

5

0

ドルの価値損失となる。保有利得は,価値利得に対応せず,現金残 高の増加をもたらさなし、。このことを表でみると,表

2

のとおりである。 表

2

(単位 ドル〕 (a) (b) (c) (d) ( e)

1

1

1

3

1

2

1

日 (b) - (a) (c) 一 (a) 現 在 原 価

1

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1

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1

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価 直イ

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5

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-50

このような例示を踏まえて,スターリングは,保有利得が現金残高の増加を もたらすかどうかは,原価の増加の原因に依存するのであって i最善でも推測 的,最悪では有害である」と述べ,保有利得は現金残高の尺度たりえず, した がって現在原価は測定基準として採用されえないと断言する。そして,彼は, そもそも i目的が,便益を測定す}ることならば,何故に,便益そのものを測定 しないのであろうか。何故に,犠牲を測定し,それを便益の代用として用いよ うとするのであろうか」と説く。便益差異にほかならない価値利得は,そのま ま現金残高の増加分を意味するのであってみれば,売却価値が,すでに行われ た取引の意思決定の評価のために採用されるべき測定基準となるのである。 以上, 目的適合性の基準にもとづき,株式売買取引に関する意思決定につい て分析してみると,測定基準として採用されるべき価値は,売却価値というこ とになったが,念のため,その道筋をまとめておこう。すなわち,第

u

こ,株 式売買取引に関する意思決定を行うため,およびすでに行われた意思決定の評 価を行うため,取引の目的はキャッシュフローの最大化であるので,それぞれ 現在と将来の現金残高,および現在と過去の現金残高が比較されなければなら (6) R R Sterling

ραt

P 109. (17) lbid

(12)

463 売却価値に関する一考察 -119-ない。したがって,第

2

に, (所有していなし、〕株式購入取引に関する意思決定 のためには,現在の購入に要する現金額と将来の売却に伴う現金額が比較され なければならず,現在原価と終末売却価値が適合的である。また,第

3

に, (所 有している〕株式売却取引に関する意思決定のためには,現在の売却に伴う現 金額と将来のそれが比較されなければならず, (現在)売却価値と終末売却価値 が適合的である。そこで,第

4

に,財務諸表において報告される株式は,所有 している株式にほかならないので,その報告のための測定基準として,現在お よび終末の売却価値が採用されるべきである。だが,将来は未知ゆえ,売却価 値が,十分ではないが必要な価値として,貸借対照表上報告されるべきことに なる。さらに,第

5

に,すでhに行われた意思決定の評価のためには,過去の購 入に要した現金額と現在の売却に伴う現金額が比較されなければならず,歴史 的原価と(現在〉売却価値が適合的である。その意味でも,売却価値が貸借対 照表上報告され,そしてそれによる価値利得が損益計算書上報告されるべきこ とになるのである。

I

V

売却価値の採用に対するーコメント このような売却価値の採用について,これまで株式売買取引にもとづいて検 討がなされてきたが,スターリングはさらに,一般的な取引にもとづく考察を 行っている。われわれも,彼の考察に若干の修正を加えながら,あらためて売 却価値採用の道筋を辿ることにしよう。 いま,ある資産の購入日における歴史的原価を

A

,購入日から売却日までの 聞の決算日における現在原価を

B

,(現在〉売却価値を

C

,さらに売却臼におけ る終末売却価値をDとし,この取引による最終の全体利得をGとする。そこ で,決算日現在を想定し,まず簡単に

D-A

=

G

について考えると ,Dは未知だから ,Dを貸借対照表において報告することも, Gを損益計算書において報告することもできない。しかし,既知のAを貸借対 照表において報告し,利得

O

を損益計算書において報告するのでは r現在を測

(13)

120ー 第58巻 第2号 464 る試みではない。J[""現在を測ることが,前向きの意思決定のために, また後向 きの,過去の利得の測定(これまでの用語を用いると,すで、に行われた意思決 定の評価)を行うためにも必要である」。 そこで,現在を測ることを試みてみると,企業取引は犠牲から便益への一連 の流れであってみれば[""現在の購入による犠牲にもとづいて,過去から将来を 分かつ」試みと「現在の売却(による便益〉にもとづいて,現在から将来を分 かつ」試みの二つが考えられるであろう。 そのうち,前者は,現在の購入による犠牲をあらわす現在原価によって,つ ぎのように試みられる。 (D-B)+(B-A)

=

G この第1項(D-B)は,期待される将来利得であり,第2項 (B-A)は,過去の 保有利得である。第1項は,キャッシュフローの最大化を目的とする企業にあっ て,もし D < Bならば,当該資産を購入するという意思決定はしないであろう から,現在原価は,購入や否やの意思決定に必要とされる。けれども,当該資 産は所有され,決算日現在に貸借対照表上報告されるのであってみれば,いう までもなく,購入や否やの意思決定はすでになされている。したがって,現在 原価は,所有資産の取引に関する意思決定には適合せず,当該資産を報告する ための測定基準として採用されえない。また,過去の保有利得は,企業の目的 となる現金残高の増加をもたらすかどうかについて,原価の増加の原因に依存 し,推測的かあるいは有害ですらある。それゆえ,現在原価は,所有資産の取 引に関するすでに行われた意思決定を評価する尺度とはなりえず,その意味で も,測定基準として採用されえない。 これに対して,後者は,現在の売却による便益をあらわす売却価値によって, つぎのように試みられる。 (18) R R St己r1ing,op.正il,p. 118 (19) Ibid括弧内,筆者。 (20) R R Sterling, 0)うじil,p 119. (21) Ibid 括弧内,筆者。

(14)

465 売却価値に関する一考察 121ー (D-C)十(C-A)

=

G この第l項 (D-C)は,期待される将来利得であり,第2項(C-A)は,過去の 価値利得として特徴づけられる。第1項は,企業にとって,もし D < Cならば, 当該資産を売却するという意思決定をするであろうから,少なくとも売却価値 は,売却や否やの意思決定に必要であろう。当該資産は所有され,売却や否や の意思決定を行わなければならないからには,売却価値は測定基準として採用 されるべきである。

L

かも,第

2

項(C-A)は,現在における現金残高の増加分 を示しているので,売却価値は,所有資産の取引に関するすでに行われた意思 決定を評価する尺度となっており,やはり,測定基準として採用されるべきこ とUこなる。 以上,財務諸表において資産および利益を報告するための測定基準として, 売却価値の採用を提唱するスターリングの揺ぎなき道筋を辿ってきた。このよ うな提唱に対して,これまで,継続企業の前提の下で,売却処分を前提とする ことの妥当性や,市場性ある有価証券のような場合を除く多くの資産について, 売却価値を把握することの可能性といった問題点が指摘されてきたが,われわ (23) れはさらに, ノウブスによって呈されている疑義をみ過ごすことはできなし、。 ノウフスの疑義は,測定基準の選択のための基準として採られた目的適合性 の基準に関してである。スターリングにあっては,財務諸表において報告され るべき所有資産に関し,売却するか否かの意思決定が問題であり,そのために 必要とされる適合的な価値として売却価値が採用されることになったが,その 場合,意思決定者は,資産所有者と考えられていることになる。しかし,そも そもスターリングの課題は,財務諸表において報告するための測定基準を求め ることであってみれば,意思決定者は,財務諸表の受け手であって,送り手で (22) 既述のように,価値利得とは,便益差異と概念づけられ,売却価値の変動による差額と して求められるものであってみれば,ここに,スターリングが(C-A)を価値利得と特徴 づけていることに疑義を抱かざるをえなL。、(C-A)は,スターリングによれば,購入損 益プラス価値利得であろう。

(23) C

w

.

.

Nobes,“Costs v Exit Values: A Comment,"ABACUS VoL 19, N 0 1,

(15)

-122- 第58巻 第2号 466 はなく,財務諸表の利用者であって,作成者ではないので,資産所有者と考え られていることが問題であるとノウブスはいうのである。財務諸表は,資産所 有者によって提供されるのであって,資産所有者のために提供されるのでない からである。 あらためていえば,資産所有者にとって,当該資産を売却するか否かという 意思決定が問題であり,それゆえ,売却価値が適合的な価値であって,原価は 不適合であるが,他方財務諸表の利用者にとっては,当該資産を売却するか否 かという意思決定をなしえないのである。このような問題に関して,スターリ ングはつぎのように考えることによって解決しようとしている。すなわち r私 は,….. (財務諸表の〉利用者が,いかなる情報を望みまた理解するか,ある いはそうでないかについて悩むかわりに,彼らが意思決定に加わることを求め るものである」と。しかしながら,いうまでもなく,財務諸表の利用者が,ス ターリングの想定する意思決定に加わることは,一般的ではないと思われる。 スターリングは,資産所有者とは異なる財務諸表の利用者の意思決定に適合的 な価値を求めるべきであったにもかかわらず,それがなされていないのである。 その結果 r彼は,売却価値が,財務報告のためにもっとも適合的であるとも, 逆に現在原価が不適合であるとも論証していなし、」と論断されるに至る。 いわば,売却価値の採用を提唱するスターリングの揺ぎなき道筋に r誰が意 思決定者であるのか」というきわめて簡単な聞いを投げかけたとき,揺ぎがみ られることになるのである。 V 売却価値の併用 そうであれば,あらためて,測定基準として現在原価か売却価値か,いずれ が採用されるべきか選択しなければならないであろう。だが, このことこそ, これまで測定基準をめぐる論議にあって,さまざまな観点から検討されてきた (24) R R Sterling, ot cit, P 100括弧内,筆者。 (25) C W Nobes.ot.cil, p.77 (26) C W Nobes, cp.cit, p 76

(16)

467 売却価値に関する一考察 -123-ことであり,われわれが直ちに行うことは到底できない。そこで,われわれは, 現在原価か売却価値のいずれかを選択し,択一的に採用するのではなく,両者 を併用することを,一つの粗雑な試みとして考えてみたい。 そこで,現在原価と売却価値を併用すると,その双方によって資産が測定さ れるのだから,原価の変動による保有利得と売却価値の変動による価値利得の 双方が把握されることになるであろう。現在原価の採用によって,保有利得が 把握され,他方売却価値の採用によって,価値利得が把握されるのは,既述の とおりだからである。 そのように併用すると,具体的には, どのような利益の把握がなされるかに ついて,スターリングによる株式売買取引の例示を借りると,つぎのように考 えられる。すなわち, 1月31日の決算日に報告される利益は 1月1日の原価 1,100 ドルから 1月 31日の原価 1,150ドルになったことによる保有利得 50 ド ルと, 1月 l臼の売却価値 900ドルから 1月 31日の売却価値 950 ドルになった ことによる価値利得50 ドルを合わせた 100ドルてずあり,そして 2月28日の決 算日に報告されるのは 1月1日の売却価値 900ドルと 2月 l日の原価1,150 ドルの差額である売却損失250ドルである。 このような現在原価と売却価値の双方による利益の把握を,既述の歴史的原 価,現在原価,および売却価値のそれぞれによる利益の把握と対比して表で示 すと,表3のようである。 この表をみると,いずれの価値にもとづくかによって,各期間の利益が異な るが, しかし,全体期間の利益は同一になることが明らかである。このうち, 歴史的原価,現在原価,および売却価値による利益の把握については, これま で多くの検討がなされてきており,本稿でもスターリングに沿ってみてきたと ころであるが,現在原価と売却価値の双方による把握については,一層の考察 が加えられる必要があろう。 その考察のために,スターリングの道筋と同様に,きわめて簡単な,一般的 な取引を想定することにしよう。いま,ある資産の購入日における歴史的原価 を

0

,歴史的売却価値を

P

,そしてその資産の売却日における現在原価をQ,

(17)

468 ドノレ〉 第2号 表3 歴史的原価 現在原価 売却価値 売現却在原価価値 l月31日 利得O 保有利得50 購入損失200 保有利得50 (1月の =純利益0 (1,150-1,100) (900-1,100)

0

,150 -1,100) 報告利 =純利益50 +価値利得50 +価値利得50 益〕 (950-900> (950-900) =純損失150 =純利益100 2月28日 売却損失150 売却損失200 価値利得O 売却損失250 (2月の (950 -1,100) (950 -1,150) =純利益O (900 -1,150) 報告利 =純損失150 =純損失200 =純損失250 益) 全体期間 売却損失150 保有利得50 購入損失200 保有利得50 の報告利 =純損失150 +売却損失200+価値利得50 +価値利得50 ナJ.ll七L =純損失150 =純損失150 十売却損失250 =純損失150 〔単位 第58巻 124-この取引による利益をGとして,売却日現在にお (現在〉売却価値をRとし,

1

いて,利益の把握をすることにする。 図 R 売却価値

P

Q

売却日

O

購入日 原価 歴史的原価による利益の把握についてみてみる この場合,順序としてまず, いうまでもなく, と,

(18)

469 売却価値に関する一考察 -125ー R - O

=

G となり,スターリングの用語に倣うと ,(R-0)は売却利益である。また,現在 原価によるそれは, (Q-O)+(R-Q)

=

G で,同様に,(Q-0)は保有利得,(R-Q)は売却利益である。さらに,売却価 値によるそれは, (P-O)+(R-P)

=

G であって,同じく ,(P-0)は購入利益,(R-P)は価値利得と称される。これ に対して,現在原価と売却価値の双方による把握について考えてみると, (Q-O)+(P-Q)+(R-P)

=

G となり ,(Q-0)は保有利得,(P-Q)は売却利益,(R-P)は価値利得というこ とになるであろう。 すでに明らかなように,当該取引によって生じる利益を,歴史的原価による と,

0

R

の過程で捉えているのに対し,現在原価では,

0

→Q →

R

の過程 で,また売却価値では, 0→P→Rの過程で,さらに現在原価と売却価値の双 方によれば, 0→Q → P→ Rの過程で把握しているわけである。その結果, 当該取引によって生じる利益として,歴史的原価により把握される利益は,現 在原価によると,そのうちの原価変動による保有利得が分離把握され,また, 売却価値によると,売却価値変動による価値利得が分離把握されることはさき ほどみたとおりである。さらにいま現在原価と売却価値の双方によると,原価 、変動による保有利得と売却価値変動による価値利得の双方が分離されて把握さ れることになるのである。その意味で,現在原価による利益把握の考え方を利 益二分化,より正確には現在原価一利益二分化というのであれば,売却価値に よるそれは,売却価値 利益二分化であり,双方によるものは,利益三分化と 特徴づけられるであろう。

V

I

利益三分化試考 このように,現在原価と売却価値を併用すると,利益三分化という,きわめ

(19)

-126- 第58巻 第2号 470 て,特徴ある利益の把握がなされることになった。そこで,利益三分化の考え 方を浮き彫りにするため,歴史的原価,現在原価,売却価値,および現在原価 と売却価値の双方による利益の把握について,それぞれ図示してみよう。 R 購入日 売却利益(総操業利益〕 O 図 3 ¥ ノ 溢 得 刻 一 利

期 る 当 ょ ん い 駄 阿 波 + 古 田 山

R

、 売

Q

原 売却臼 購入日 R 売却価値変動による価値利得 購入利益

o

r

:

-

:

-

-

-

'

.

'

"

購入臼 売却日

(20)

471 売却価値に関するーー考察 -127-R 売却価値変動による価値利得

Q

売却利益(純操業利益) 原価変動による保有利得 購入日 局 斗 売 却 日 表

P > O

O く

Q-

PくR

R > Q

R

Q

P

;

;

;

R R > Q

R

Q

O

;

;

;

Q P < R R > Q

⑤ R壬

Q

(不能〕

P

;

;

;

R R > Q

⑥ R 三五

Q

P

玉O

O < Q P < R R > Q

⑧ R~玉 Q ⑨

P

;

;

;

R R > Q

(不能〉

R

~玉 Q ⑬

O

;

;

;

Q P < R R > Q

⑪ R 三五

Q

P

;

;

;

R R > Q

⑬ R 三五

Q

⑬ (なお,不能とあるのは,実際上ありえないケースであ る。〕

(21)

128- 第58巻 第2号 472 なお, こ の よ う な 図 示 お よ び 前 節 の 利 益 の 把 握 に つ い て の 考 察 に あ っ て , ひ と ま ず

P

>

0

0

<

Q

P

<

R

R

>

Q

と い う 条 件 の 下 で な さ れ て い る の で あるが,

0

P

Q

R

の 関 係 は , も ち ろ ん こ れ に 止 ま ら な い 。 そ の 関 係 を 考 え て み る と , 前 ペ ー ジ の 表4のように, 14の ケ ー ス が あ る が , い ず れ の ケ ー ス に あ っ て も , 図 示 に ち が し 、 は 生 じ る で あ ろ う が , 利 益 の 把 握 に つ い て の 考 察 に は 些 か も 変 わ る と こ ろ が な い と 思 わ れ る 。 (27) 全てのケースに金額を入れてみると,下表のようになる。 (単位円〉 O P Q R ① 100 120 110 130 ② 100 110 130 120 ③ 100 130 110 120 ④ 100 130 120 110 ⑤ 100 110 80 120 ⑥ 100 120 80 110 ⑦ 100 110 80 70 ⑧ 100 70 110 120 ⑨ 100 70 110 80 ⑬ 100 80 110 70 ⑫ 100 70 80 110 ⑫ 100 70 90 80 ⑬ 100 90 70 80 ⑬ 100 80 90 70 このうち,例えば,①のケースについて,歴史的原価,現在原価,売却価値, および現在 原価と売却価値の双方による利益の把握をしてみると,それぞれつぎのようになる。 130-100 = 30 (110 -100)+ (130 -110) = 30 (120-100)+ (130-120)= 30 010-100)+ (120-110)+ (130-120)= 30 また,③のケースでみてみても,同様な把渥をすることができる。 120-100 = 20 (110-100)+ (120-110)= 20 (70-100)+ (120-70)= 20 (110 -100)十 (70-110)+(120-70)= 20 さらに,スターリングの株式売買取引の例示と同じケースである⑨についても,同様にな るであろう。 80-100 = -20 010-100)+ (80-110)= -20 (70-100)+ (80-70)= -20 (110-100)十 (70-110)+ (80-70)= -20

(22)

473 売却価値に関する一考察 -129-このようにみてくると,利益三分化という,現在原価と売却価値の双方によ る利益の把握において,売却利益の要素がきわめて特異であることに目を注が なければならないであろう。この特異な売却利益を明らかにすることによって, 利益三分化の考え方は,いま少し鮮やかに浮き彫りにされると思うのである。 これまでの検討にしたがうと, この売却利益は,歴史的原価による売却利益か ら原価変動による保有利得と売却価値変動による価値利得を除いた部分であ り,言い換えると,現在原価による売却利益から売却価値変動による価値利得 を除いた部分であり,また売却価値による購入利益から原価変動による保有利 得を除いた部分である。したがって, これは,資産の購入から売却に至る取引 によって生じる利益のうち,購入市場における価格変動にもとづく利得と売却 市場におけるそれを除いたものといえる。 ここにおし、て,われわれは,購入から売却に至る取引は,企業内部における 購入行為を売却行為に転換する行為と,企業外部における購入市場および売却 市場で、の価格変動の三つに分かつことができることに気づき,利益三分化の考 え方はそれに即した考え方であると特徴づけることができると考える。そうし て,購入から売却に至る取引はいわば企業の操業であり,それによって生じる 利益を総操業利益と称することが許されるとすれば,この総操業利益から購入 市場と売却市場における価格変動にもとづく利得を除いた部分, これすなわち 購入行為を売却行為に転換する行為によって生じる利益は純操業利益であると みなせるであろう。その意味で,われわれは,歴史的原価による売却利益を総 操業利益と称し,これに対して現在原価と売却価値の双方による特異な売却利 益を純操業利益と名づ、けてみたいのである。さらに,現在原価による売却利益 は,売却日現在における購入から売却に至る取引によって生じる利益という意 味で,通常のままに,当期操業利益という名称がふさわしいと考える。 そして,それぞれの操業利益は,つぎのように求められる。すなわち, 総操業利益=売却日売却価値一購入日原価 当期操業利益=売却日売却価値一売却日現在原価 純操業利益=購入日売却価値一売却日現在現価

(23)

-130ー 第58巻 第2号 474 ということになる。この購入日売却価値から売却日現在原価の控除というのは, なるほど特異ではあろうが,購入日にすでに受け取ることのできる現金額から, 売却日に支払われなければならない現金額を控除するというのであるから,そ れによって求められる純操業利益は,まさしく,購入市場における価格変動に もとづく利得および売却市場におけるそれを除いて,購入行為を売却行為に転 換する行為のみによって生じる利益であるとみられるように思うわけである。 こうして,現在原価と売却価値の双方を測定基準として併用してみると,取 引によって生じる利益は,その購入市場における価格変動にもとづく利得,売 却市場における価格変動にもとづく利得,購入行為を売却行為に転換する企業 の行為によって生じる利益と三分されて把握されることが浮き彫りになった。 利益は,保有利得,価値利得,および純操業利益に三分化されて把握されるこ とになったのである。

V

I

I

むすびに代えて 以上,われわれは,まず,財務諸表において資産および利益を報告するため の測定基準として,売却価値の〔択一的〕採用を提唱するスターリングの道筋 を辿ってみた。彼は,採用の対象となる,どの資産についてもいつの時点でも 有する6種類の代替的な価値に対して,選択のための基準として目的適合性の 基準を用いることによって,所有していない資産にかかわる購入の意思決定に 適合的な価値は現在原価であり,また所有している資産にかかわる売却の意思 決定に適合的な価値は売却価値であることを明らかにし,財務諸表において報 告される資産は所有しているものであってみれば,売却価値を採用すべきこと になる, と自らの道筋を揺ぎなく進んでいた。 しかしながら,われわれが,そこにみたのは揺ぎであった。財務諸表におい て報告するための測定基準は,報告される財務諸表の利用者の立場にたって検 討されなければならないにもかかわらず,スターリングの道筋は,資産所有者, すなわち財務諸表作成者の立場のうえにつけられたので、ある。その道筋を財務 諸表利用者の立場のうえにつけかえるとすれば,揺ぎが生じるのは当然のこと

(24)

475 売却価値に関する一考察 -131-であり,あらためて現在原価か売却価値か,いずれが採用されるべきか問うて いかなければならないであろう。 われわれには,そのような問いに直ちに答えていくことは到底できず,見方 を変えて,現在原価か売却価値かし、ずれかの択一的な採用ではなく,両者の併 用を試みに考えてみたのである。そして,現在原価と売却価値を併用すると, その双方によって資産が測定されることによって,原価の変動による保有利得 と売却価値の変動による価値利得の双方が把握されるので,利益三分化と特徴 づけられる利益の把握がもたらされることになる。取引によって生じる利益は, 企業外部における購入市場で町の価格変動にもとづく保有利得,売却市場での価 格変動にもとづく価値利得,さらに,企業内部における購入行為を売却行為に 転換する行為によって生じる純操業利益に三分化されて把握されるのである。 ところで, このような利益三分化の考え方が,財務諸表利用者の意思決定に どのように適合的であるか,われわれはただちに審らかにすることはできない が,少なくともつぎの2つ の こ と は い え る で あ ろ う 。 そ の lは,財務諸表利 用者は,利益を志向する者であり,それゆえ,利益に関するより多くの報告を 必要とするとすれば,利益三分化の考え方は彼等にとって,適合的だというこ とである。利益が企業内部の購入行為を売却行為に転換する行為,企業外部の 購入市場における価格変動,あるいは売却市場における価格変動のいずれに, どれほどもとづいて生じたかを知ることは,利益を志向する意思決定に,明ら かに適合的であると思うのである。 その2は,図5から明らかなように,利益三分化の考え方にあって,原価変 動による保有利得と売却価値変動による価値利得の双方が把握されると,価値 利得の方が保有利得より大きくなる傾向にある場合,純操業利益が大きくなる 傾向にあり,逆に,保有利得の方が価値利得より大きくなる傾向にある場合, 純操業利益が小さくなる傾向にあることが分かるということである。純操業利 益の傾向が分かることは,利益を志向する意思決定に,きわめて適合的であろ う。 そうして, このように現在原価と売却価値の併用ならびに利益三分化の考え

(25)

-132ー 第58巻 第2号 476 方が,財務諸表利用者の意思決定に適合的であるのであれば,実は,どうして も検討しなければならない問題が残されている。それは,現在原価と売却価値 の併用によると,利益の認識基準がどのようになるのか,また財務諸表がどの ように作成されるのかということであるが, このことについては,稿をあ似た めることとし,本稿では,その併用について盟問みたことで止めたい。

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