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商業高校の英語教育の必要とされる分野についての若干の考察

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Academic year: 2021

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商業高校の英語教育の必要とされる分野についての若干の考察

Consideration of Essential factors for English Education in

Business High Schools

Ichiro YOSHIDA

吉 田 一 郎

【研究ノート】

 本年(2020年)は、コロナウィルスの感染が拡大したため、外国人の訪日は激減したものの、一昨年、 2018年には3千万人を超えた。訪日外国人観光客は、2003年にはわずか、521万人であったが、12年 には1千万人を超え1,036万人になり15年には、1,974万人、翌16年には、2,404万人と2千万人を超 えている(1)。近年、急速に訪日外国人の数が激増しているのである。  政府は、2013年に観光立国推進閣僚会議を開催し、2030年に訪日外国人の数を3千万人とすると いう目標を掲げた(2)。しかし、わずか5年後には達成してしまった。  コロナウィルスの感染が終息した後は、また、多くの訪日外国人が日本を訪れるであろう。来年 は、延期されていた東京オリンピックが開催され、2025年には大阪万博の開催が決定している。また、 札幌市が2030年の冬季オリンピック開催地の有力候補にもなっている。かつて高度経済成長期に、 1964年東京オリンピック、1970年大阪万博、1972年札幌オリンピックが開催され経済大国日本を世 界に印象付けた。これから我が国で開催されるオリンピックや万博は世界中の人々を我が国に招き 入れることになるであろう。現在は、訪日外国人は近隣のアジア諸国(中国、韓国)などが多いが、 オリンピックや万博のような国際的なイベントが開催されると、世界中の人々が我が国を訪れ、更 に訪日外国人の数は増加する可能性が高い。  多くの外国人が我が国を訪れる状況の中で英語教育の重要性は、更に深まると思う。文部科学省は、 本年度から小学校に英語を教科として導入したように初期教育も重視されてきている。膨大な数の 外国人が我が国を訪れるため、多くの国民が外国人に接する機会が日常的になるのではないかと思 う。このため、英語を話す能力を持つことが益々望まれる社会となることが予想される。今までは、 外国人と会話する機会は限られていたようであるが、1億2千万の人口しかない我が国で、述べ人 数で人口の4分の1の3千万人が訪日しており、その人数は、今後増加することが予想されるので、 日本国内において英語のような世界共通語は、ある程度は身に付けておく必要が生じる社会となる ことが予想される。これまでとは、異なる状況に社会が変革していく可能性もあり、小学校から英 語を学ぶことも重要であるが、国民の英語力の水準を上昇させる必要に迫られており、まさに我が 国は言語教育の転換点に立っていると言えるであろう。

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バイリンガル教育はともするとエリート教育のようにも考えられることもある。しかし、我が国と は対照的にヨーロッパでは母国語以外の言語を使用できる人が多く存在する。また、カナダのケベッ ク州では、フランス語と英語が共通語であり、バイリンガル教育がおこなわれることもある。世界 では単一言語、モノリンガルであることが常識でない地域が存在しているのである(4)

 こうしたヨーロッパでの言語教育の成果などを踏まえてCLIC(Content and Language Integrated Leaning)統語的な言語学習方法が取り入れられている(5)  日本のような島国ではなく、ヨーロッパのような陸続きの国々では、バイリンガルが日常化している。 二つ以上の言語を日常的に使いこなしている人々も多く存在する(6)。せっかく学校で英語を学んで も使用する機会が限られている環境にいる日本人とは異なる環境に暮らす人々も多く存在する。  CLICは、従来おこなっていた言語の学習だけではなく、内容についても学習していく学習方法で ある。言語を学ぶことに重点が置かれていた学習方法とは異なることに特徴がある。最近、我が国 でも注目されている。教科科目の内容と言語の学習等を統合学習する方法である。CLICの指導のス トラテジーの基本は、指導の手段として生徒の母国語でない言語を使用することである。様々な科 目に対して学習対象と関連した言語で学ぶことである。教師は通常のカリキュラムを教えることに 加えて、生徒が科目の内容を理解するのに必要な言葉を指導していくのである(7)。英語の教授法な どもCLILによって新たに考察されようとしている。母国語以外の他言語を用いて授業をおこなうこ とで、多言語教育が必要なヨーロッパ諸国やカナダのケベック州のように英語を母国語とするカナ ダ人に対してフランス語の教育が必要とされる場合、有効的な教育方法となっている。生徒の教科 への理解のみならず語学学習の上達にもなっている。また、外国語で学習することは、母国語で学 習することよりも困難であるという先入観を持つことなく学習を進めていくことの重要性が提起さ れている。内容と言語と学習スキルとが重視された新しい指導方法である(8)  また、CLILの学習例では、外国語の教員でない教員が母国語以外の外国語で授業を担当した(9)り、 語学の教員とティーム・ティチングをおこなったりしている。語学の教員でない教員は、言語上の 多少のミスを気にすることなく授業を展開するのである。また、語学の授業ではないので、生徒が 母国語で質問したり、グループ討論の際に母国語で討論することなどは禁止されず、理解の助けに なるのであれば母国語で説明したりすることはむしろ積極的におこなわれている。母国語の使用を 制限しようとする語学の学習とは異なった指導法が用いられている。学習者の興味を引き出すこと に重点が置かれている(10)  小学校・中学・高校の英語の授業では、日本人の教師と外国人のネーチブスピーカーであるALT (Assistant Language Teacher)とがティーム・ティチングすることはあるが、それとは異なり、 語学を専門としない教員が授業をおこなうことで、生徒の語学に対する興味を引き起こさせること も目的とした指導法でもある。しかし、我が国では今のところほとんどこうした学習方法は、取り

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商業高校の英語教育の必要とされる分野についての若干の考察 入れられていない。今後、こうした指導方法も取り入れていくことが課題とされる。  そこで、商業高校においては、どのようにしてこうした学習方法を導入していくべきなのか若干 考察していくことにしたい。特に、経済学の分野について考えていきたい。  平成30年に文部科学省より学指導要領が公示された。新学習指導要領は、高等学校では、令和4 年度から年次進行で、実施される。現在実施されている「ビジネス基礎」は、新カリュキュラムで も引き続き実施されるが、現行の「ビジネス経済」と「ビジネス応用」は、廃止され新たに「グロー バル経済」が新設される。また、「観光ビジネス」が新たに新設される。グローバル化や観光ビジネ スの進展が意識されたためこうした新しい科目が新設されたのであろう。  「ビジネス基礎」について『高等学校学習指導要領(平成30年公示)解説 商業編』によると 「(内容を取り扱う際の配慮事項) ア  商業教育全般の導入として基礎的な内容を扱うとともに、基本的な用語については、英語表 記に慣れ親しむことができるよう留意して指導すること。  内容を取り扱う際には、商業教育全般の導入として基礎的な内容を扱うこととしている。これは、 この科目が商業に関する学科における原則履修科目として位置付けられていること、商業科に属す る科目を中心に展開する商業教育全般の基礎的科目であることによるものである。  また、基本的な用語については、英語表記に慣れ親しむことができるよう留意して指導すること としている。これは、経済のグローバル化が進展していることによるものであり、ビジネスに関す る基本的な用語の英語表記を適宜取り上げることなど、この趣旨を踏まえて指導することが大切で ある。(11)  と「内容を取り扱う際の配慮事項」にあるように、「ビジネス基礎」は、商業教育全般の基礎的な 科目であると同時に原則履修が求められている。また、英語表記に慣れ親しむことも必要とされる。 多くの外国人が、我が国を訪れ、コロナウィルスの感染が終息後には増加する可能性も高い。用語 の英語表記などにも慣れ親しむような指導をおこなうことが必要であるが、どのようにおこなって いくかについても考えていかなければならないであろう。  また、「ビジネス・コミュニケーション」において、「今回の改定では、ビジネスにおける思考の 方法とコミュニケーションに関する指導項目及び日本と外国との文化の商習慣の違いに関する指導 項目を取り入れるとともに、ビジネス英語に関する指導項目を生徒や地域の実態に応じて適切な外 国語を扱うことができるような改善を図った(12)」として英語によるコミュニケーションを指導項目 としている。  ビジネスと外国語の指導項目は、 「① ビジネスに必要な外国語については実務に即して理解するとともに、関連する技術を身に付け ること。  ② ビジネスの場面を分析し、科学的な根拠に基づいて、場面に応じて外国語を用いてコミュニケー

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協働的に取り組むこと。(13) とされ、外国語におけるビジネスコミュニケーションの指導をおこなうことが記されている。  また、日本商工会議所がおこなっている日商ビジネス検定も商業科における英語教育との関わり 合いもあるように感じるので、若干検討してみることにしたい。  日商ビジネス英語検定の公式テキストによると3級では、 「CHERPTER1  英文レターライティング、英文ビジネスEメールの基礎  CHERPTER2  ビジネス英会話の基礎  CHERPTER3  海外取引の基礎(14) となっている。また、2級では、 「CHERPTER1  英語文章の書き方  CHERPTER2  ビジネス英語ミーティングとプレゼンテーション  CHERPTER3  海外取引と貿易書類  CHERPTER4  国際マーケテイング  CHERPTER5  英文契約書(15) となっている。  このように日商ビジネス検定は、ビジネスレターなどが重点的に出題されている。また、先にみ た商業科の「ビジネスコミュニケーション」も外国人と従来おこなっていたビジネスに重点がおか れているといえよう。貿易立国日本を担える人材の育成を考えているのであろう。  しかし、近年、我が国の産業構造は、大きな転換をみせており、我が国は輸出産業が経済を牽引 する産業構造からの変革をみせてきている。こうした状況の中、地方創生の戦略として、冨山和彦(16) 氏は、グローバル企業とローカル企業とを分けて考えるべきであると主張している(17)。冨山氏が考 えるグローバル企業とは東京などの大都市に本社があり、近年まで日本経済を引っ張ってきた日本 人なら誰もが知るような大企業をさす。日本を牽引してきたこうした企業は、最近まで原材料を海 外から調達し、国内で製品を加工して完成品にして世界中に輸出していた。しかし、昨今では、多 くの日本の製造業は、アジアの諸地域に工場を移転させて生産をおこなっている。今日では、日本 の製品、つまりmade in Japanが表記された製品を見つけることが難しいようになってきている。 冨山氏が言うグローバル企業か中小企業でも最先端技術を持った製造業(18)に就職すれば、英語でビ ジネスレターを作成できる能力は必要とされる。しかし、これから地方創生の鍵となるローカル企 業においては、ビジネスレターを作成する能力を重視していく必要があるとは言えないかもしれない。  また、従来、日本を牽引した輸出産業に対して世界中から原材料を調達してきた我が国の総合商 社でも、三菱商事がコンビニエンスストア業界2位のローソンの親会社であり、伊藤忠が同業界3

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商業高校の英語教育の必要とされる分野についての若干の考察 位のファミリーマートの親会社である。最も川上にいた商社が、最も消費者に近い、川下のコンビ ニエンスストアの経営をおこなっているのである。高度経済成長を支えた大手、総合商社がコンビ ニエンスストアの経営をおこなっている昨今の状況は、我が国の産業構造が大きく転換したことを 物語っていると言えよう。  冨山氏が主張するようにローカル経済の進展こそが日本経済を再生させる鍵となり、地方創生に つながると思う。  また、商業教育においても訪日する多くの観光客に対応できるような英語教育も重視していく必 要があると思う。  それには、全商英語検定(全国商業高等学校協会主催)などにも注目していく必要がある。全商 英検では、1級では、ヒアリング試験も多く出題されており、実用的ではあるが、改良の必要性も ある(19)ようだ。  「ビジネス基礎」などの商業科の必修科目などに着眼して、必要な用語などを取り上げ、商業科に おける英語教育を再検討していく必要があるだろう。それには、CLILなどの新しい教育方法も駆使 していく必要もある。また、グローバル社会は進展していくが、我が国の産業構造も昨今、急激に 変化していることも念頭に入れ、高等学校商業科における新しい英語教育を再構築していくことが 必要である。  日本商業教育学会より端野純江氏を研究代表とする令和2年度助成研究「新学習指導要領に基づ いた英語運用能力を高める高等学校商業科目の実践的教育内容の研究」において筆者も共同研究者 として経済教育分野の担当を任されている。(なお、本年は、コロナウィルスの感染が流行したため 同研究は令和3年度まで継続することを日本商業教育学会より承諾をいただいている。)本稿は、こ の共同研究をおこなうための前段階として作成した。 注 1 「年別 訪日外客数、出国日本人数の推移」   (https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/marketingdata_outbound.pdf)より 2 SankeiBiz 「訪日外国人、2030年に3000万人目標 観光立国推進閣僚会議」、2013年6月12日(https//www.sankeibiz. jp/smp/macro/news/130612/mca1306120701010-s.htm)より

3 笹島茂編『CLIL Content and Language Integrated Learning 新しい発想の授業-理科や歴史を外国語で教える!?-』、 三修社、2011年、8頁。 4 同前、11-2頁。 5 以下CLILについては、笹島茂氏編の前掲書(『CLIL 新しい発想の授業』)を参考にした。 6 同前、8頁。 7 同前 13頁。 8 同前、13-6頁。 9 同前、65頁。 10 同前、47頁。53-4頁。132-6頁。 11 文部省『高等学校指導要領(平成30年公示)解説 商業編 平成30年7月』、実教出版、2018年。

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15 日本商工会議所編『改訂版 日商ビジネス英語検定 2級 公式テキスト』、日本能率協会マネージメント、2013年を参照。 16 冨山和彦氏の主張は、冨山和彦『なぜローカル経済から日本は甦るのか-GとLの経済成長戦略』、PHP新書や増田寛也 氏との対談を取り扱った、増田寛也・冨山和彦『地方消滅 創生戦略編、中公新書、2015年』を参照。 17 同前、24-55頁。 18 同前142頁。 19 全商英語に出題される問題が、実用英語検定に近く、商業科の英語教育には、ふさわしくなく改良が必要であるとのご 教示を端野純江氏よりいただいた。

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