8 ─ 208 ラミニン 332 (LN332) は,上皮細胞と接着,移動を促進する細胞外マトリックスである.本タンパク質のチタン表面への 結合は上皮─インプラント界面の生物学的封鎖の亢進に寄与するものと考えられることから,LN332 のチタンインプラント への反応解析や応用は注目を集めつつある.一方,超親水性処理はタンパク質のチタンへの吸着を促進することが報告され ている.したがって,本研究はチタンへの超親水性処理がラミニン 332 の吸着に及ぼす影響を明らかにすることを目的とし た.同時に,超親水性処理がラミニン 332 の吸着を促進する機序を表面分析によって考察した. 水晶発振子マイクロバランス(QCM-D)用のチタンセンサーに,超親水性処理として大気圧プラズマ処理(Ti-Plasma), 紫外線照射処理(Ti-UV)を施した.コントロールとして,未処理の Au センサー(Au-Air)および Ti センサー(Ti-Air) を用いた.QCM-D 法によりラミニン 332 の吸着特性を評価するとともに,光電子分光分析および走査電顕観察によりラミ ニン 332 の吸着状態を検討した.
その結果,ラミニン 332 の吸着量は Au-Air より Ti-Air 上で増加した.また,すべての超親水性処理群(Ti-Plasma,Ti-UV)は無処理チタン(Ti-Air)よりラミニン 332 の特異的吸着量が増加した.ラミニン 332 が吸着した表面を分析した結果, Ti-Plasma,Ti-UV 表面では炭素(C)および窒素(N)量が増加し,また,カルボニル基,カルボキシ基およびペプチド結 合に関与する官能基の増加が認められ,超親水性処理されたチタンへのラミニン 332 の特異的吸着にはペプチド結合が関与 していることが推察された. 以上の結果より,チタンへの超親水性処理はラミニン 332 の吸着を増進させることが示唆された. キーワード:チタンインプラント,超親水性処理,タンパク質吸着,ラミニン 332
チタンの超親水性処理がラミニン 332 の吸着特性に及ぼす影響
緒 言
インプラント周囲軟組織は天然歯と比べ,上皮接着能, 上皮のターンオ-バー,血管の走行,コラーゲン線維の 走行などに劣り,生物学的封鎖は脆弱である1,2). 天然歯の表面には上皮細胞接着因子が存在し,これを 介して歯肉上皮細胞はヘミデスモソーム(半接着斑)を 形成し,天然歯のエナメル質に能動接着(接合上皮付 着)している.上皮細胞の接着には,細胞と細胞外基質 の結合に関与する細胞接着分子インテグリンと特異的に 結合するラミニン 332(Laminin332,旧名称:ラミニン 5)が関与していることが知られている.ラミニン 332 は,上皮と結合組織の界面に存在し,上皮細胞の接着 (インテグリン b4 と結合)や遊走(インテグリン a3 と 結合)に関係する細胞外基質である3). 一方,チタンインプラントと周囲上皮の界面におい て,インプラント下部では天然歯に似た接着構造物にラ ミニン 332 が観察されるが,上部になるにつれラミニ ン 332 の沈着がなくなることが報告されている4,5).ま た,表面組成(材料)の違いがラミニン 332 の吸着と 細胞の初期付着に与える影響を調査した報告では,チタ ンはガラスおよびポリスチレン(培養用容器)より劣り, 表面改質の必要性が指摘されている6). ラミニン 332 の応用に関して,ラミニン 332 を塗布 した純チタン上で上皮細胞を培養した結果,細胞接着や 伸展が亢進し,またチタン上にヘミデスモソーム形成し て接着していることが報告されている7~9).しかしなが ら,このようなタンパク質は,抗原性,変質,価格等の 問題があり,その直接利用には制限がある. したがって,チタンインプラントの表面改質により, 上皮と結合組織の界面に存在するラミニン 332 のイン 1) (社)日本歯科先端技術研究所(所長:簗瀬武史) 2) 東京歯科大学口腔科学研究センター 2018 年 4 月 20 日受付柴垣 博一
1)野本 秀材
1)野村 智義
1)老川 秀紀
1)吉成 正雄
2)プラントへの吸着を促進させれば,インプラントへの上 皮接着が増進し,ひいてはインプラントの生物学的封鎖 に寄与できると考えられる. 表面改質法の一つに超親水性処理がある.チタン表面 への超親水性処理として,化学薬品を使用しない物理的 処理法と,化学薬品を使用する化学的処理法が提案され ている.物理的処理法には,低温プラズマ法と紫外線 (UV)処理法があり,表面形状を変化させない処理法と して利用されている.これらの物理処理は表面の炭化水 素の分解と水酸基の導入により超親水を発揮するといわ れている10~12). チタンへの超親水処理に関しては多くの研究報告があ り13,14),本学会誌でも間葉系幹細胞や骨芽細胞前駆細胞 を誘導するとされるケモカイン CXCL12 の吸着に影響, 骨 芽 細 胞 の 動 態 に 及 ぼ す 影 響 な ど が 報 告 さ れ て い る15,16). 一方,線維芽細胞,上皮細胞の初期接着に関して,超 親水性処理により線維芽細胞の初期接着が向上したこと が報告され17),また,プラズマ処理による親水化処理表 面でケラチノサイト(HaCaT cell)の増殖,UV 照射に よりヒト歯根膜線維芽細胞 (HPLFs)の増殖が促進され たことが報告されている18).また,ジルコニアに対する 超親水化処理がヒト口腔ケラチノサイトの初期接着に及 ぼす影響を調べた研究では,上皮細胞の接着構造である ヘミデスモゾームの構成タンパクである lamininc2 と integrinb4 の mRNA の発現,細胞の接着および伸展, 細胞骨格の発達程度ともプラズマ処理群で高いことが報 告されている19).さらに,in vivo 試験では,超親水性イ ンプラントは良好な軟組織接着性を示し,その効果は表 面形状の違いより大きかったことが報告されている20). 超親水性処理には,表面形状を変化させない物理的処 理法と表面形状を変化させる化学的処理法がある1).イ ンプラントの軟組織接着部位が粗面化することを避ける ためには,表面形状を変化させない物理的処理法が適切 であると考えられる.しかしながら,物理的超親水性処 理が上皮接着性タンパク質ラミニン 332 の吸着特性に 言及した報告はない. 以上より本研究は,上皮と結合組織の界面に存在する ラミニン 332 の吸着を促進するための基礎研究として, チタンの超親水性処理が上皮接着性タンパク質ラミニン 332 の吸着特性に及ぼす影響を明らかにすることを目的 とした.また,表面分析によりラミニンの吸着機構を考 察した.
材料および方法
1. 材料 本研究で使用したタンパク質は,上皮接着性タンパク 質 Laminin-332(略号 LN332,Human Recombinant,分 子量=619 kD,ゼータ電位=-6.9 mV,REPROCELL, MD,USA) で あ る.LN332 を PBS(- )( 和 光 純 薬, 大阪)に溶解し 1 ppm(pH=7.4)に調製した溶液を実 験に供した. また,タンパク質吸着実験や表面物性の測定には,水 晶発振子マイクロバランス(QCM-D)測定に用いられ ている金(Au)センサーとチタン(Ti)センサー(Q-Sense AB,Göteborg,Sweden)を用いた.これらのセ ンサーは直径 14 mm の水晶振動子に Ti と Au をスパッ タコーティング(厚さ 300 nm)したものである. 2. 表面処理 上記センサーに表 1 に示す物理的処理(大気圧プラズ マ処理,紫外線処理)を施した.また,コントロールと して,大気中保存の Au センサーおよび Ti センサーを 用いた.これらのコントロールセンサーは,下記の紫外 線処理を施した後,乾燥デシケータ内で 2 週間以上保存 した後に測定に供した. 大気圧プラズマ処理には大気圧プラズマ装置(NJZ-2820,長野日本無線,長野)を用いた.本装置の出力 周波数は 2,450 MHz,出力電力は 150 W,プラズマ噴出 直径は 4 mm,供給ガスは清浄乾燥空気(Clean Dry Air, CDA)である.なお,処理にあたっては,プラズマ噴出 直径がセンサー直径より小さいことから,センサーを等 速で移動させることにより,5 秒間でセンサー全体が照 射されるようにした.紫 外 線 処 理 は,UV ozone cleaner (PC440,Bioforce Nanosciences,Sweden)を用い,出力 19 mW/cm2の条 件で行った.本装置は,紫外線のタイプ A に相当する 365 nm(UVA)とタイプ C に相当する 254 nm(UVC) の励起波長を出力することができる. なお以前の研究において,これらの表面の算術平均粗 さ(Ra) は 処 理 前 で 0.12±0.03 nm(Au-Air),0.10± 0.04 nm(Ti-Air),処理後で 0.13±0.05 nm(Ti-Plasma) 表 1 表面処理法 センサー基材 表面処理法 処理時間 略号 Au Ti Ti Ti 処理なし(大気中保存) 処理なし(大気中保存) 大気圧プラズマ処理 紫外線処理 ─ ─ 5 秒 60 分 Au-Air Ti-Air Ti-Plasma Ti-UV
および 0.11±0.04 nm(Ti-UV)であり,これらの Ra 値 には有意差がなかった15).また,純水の接触角は,処理 前で 84±4°(Au-Air),79±6°(Ti-Air)であったのに 対し,処理後では 3±1°(Ti-Plasma)および 2±1°(Ti-UV)と接触角が 5°未満の超親水性を示した15). 3. タンパク質の吸着測定 タンパク質(LN332)の吸着特性の評価は水晶発振子 マ イ ク ロ バ ラ ン ス 装 置(Quartz Crystal Microbalance with Dissipation monitoring,QCM-D,QCM-D300,Q-Sense AB,Göteborg,Sweden)を用いて行った(図 1). 測定は各表面処理直後(5 分以内)に開始した.測定 時の温度は 25℃(±0.05℃)とし,解析は水晶振動子 の基本振動数を 14.8 MHz で行い,振動数の変化(DF) とディシペーションの変化(DD)を求めた.測定例を 図 2 に示す.図 2 において,振動数の変化(DF)は吸 着物質の質量(Dm)と相関し,振動数が少なくなれば 吸着物質の質量が増大したことを意味し,本条件におい ては振動数 1 Hz の減少は吸着物質の質量が 5.98 ng/cm2 増加したことに相当する21).また,ディシペーション(エ ネルギー損失)はセンサーに付着した薄膜の構造情報を 含んでおり,ディシペーションの変化(DD)が増加す ると,吸着した膜は水分子を多く結合した軟らかい膜で あることを意味する22).本研究では,各種処理面に対す る LN332 吸着測定開始 1 時間後の DD/DF 値を求め, 吸着膜の構造特性を評価した. QCM-D を用いたセンサーへの LN332 の吸着測定に際 し,先ず,ブロッキング剤を使用しない非特異的吸着を 求めた.各溶液 0.5 mL を以下の順序でセンサーセルに 注入して,経時的に周波数を測定し,最終行程(③ PBS10 分)後の周波数の変化を吸着物質の質量に換算 して表記した. ① PBS 10 分→② LN332 を PBS に溶解した溶液 40 分 →③ PBS 10 分 次に,ブロッキング剤を使用した特異的吸着を求め た.非特異的吸着をブロッキング(防止)するために界 面活性剤(Tween 20:polyoxyetylene sorbitan monolau-rate,Polysorbate 20,和光純薬,大阪)を PBS に溶解 した溶液(PBS-T,濃度 0.1vol%)を用いた.なお,本 溶液の使用はアルブミンを使用するよりブロッキング効 果が高いことが報告されている23).測定は以下の順序で 行い,非特異的吸着と同様に吸着物質の質量を求めた. ① PBS-T 10 分→② LN332 を PBS-T に溶解した溶液 40 分→③ PBS-T 10 分 なお,上記のブロッキングの効果を確認するために, Ti-Air への Lysozyme (Lys,和光純薬,100 ppm in PBS-T)の吸着特性を評価した結果,ブロッキングなしでは 一定量の周波数(DF)の減少があり Lys の非特異的吸 着が認められたが,ブロッキングありでは周波数(DF) の減少がなく Lys の特異的吸着がほとんど認められな かったことから,本実験で用いたブロッキング剤の有効 性が確認されている15).Lysozyme は正に荷電した親水 性球状タンパク質であり,ブロッキングを施した Ti セ ンサーへはほとんど吸着しないことが報告されている24). 4. 表面分析 LN332 吸着試験(ブロッキングあり)後の試料を用 いてエックス線光電子分光(XPS)分析を行った.XPS 分析装置(XPS,AXIS-ULTRA,Kratos Analytical,GBR) を用い,エックス線源を Al-Ka(モノクロメーター), 15 kV,10 mA の条件で表面分析を行った.本装置は, 表面からの深さ約 5 nm と最表層からの情報を得ること ができる表面分析装置である.なお,各元素のスペクト ルは炭化水素の結合エネルギーを C1s=285.0 eV として 図 1 水晶発振子マイクロバランス(QCM)装置の 概念図 a:全体像,b:センサーセルの構造 センサーセル センサー IN OUT a) b) 図 2 水晶発振子マイクロバランス法(QCM-D)に よる振動数の変化(DF)とディシペーション の変化(DD)の測定例 −100 −150 0 15 30 Time(minutes) 45 60 0 0.5 1.0 1.5 −50 0 D F(Hz) D F(10 −6 ) DF DD
校正した.測定に際しては,先ず,ワイドスキャン(結 合エネルギー 1,000 eV~0 eV)により吸着物質の同定を 行った後,表面組成(at%)を算出した.次に,炭素 C1s スペクトルの波形分離を行い,各官能基の割合(面 積比)を算出した.また,Ti-plasma に LN332 を吸着 (ブロッキングあり)した試料の窒素 N1s スペクトルを 求め官能基を同定した. 5. 走査型電子顕微鏡(SEM)観察 LN332 吸着試験(ブロッキングあり)後の各表面を 電界放射走査電子顕微鏡(FE-SEM,SU6600,日立ハ イテク,日立)を用い高倍率(100,000 倍)で観察し た.なお,観察前にカーボンコーター(VC-100S,真空 デバイス,水戸)を用いカーボン蒸着を施した.本カー ボン蒸着は,高倍率でも蒸着物質の影響の少ない超微粒 子のコーティングが可能である. 6. 統計処理 上記試験の繰り返し数は各々の条件で 3 とし,結果は 平均±標準偏差で表記した.統計処理は一元配置分散分 析を行った後 Tukey の多重比較を行った.なお,有意 水準は a=0.05 とした.
結 果
1. タンパク質(LN332)の吸着特性 各種処理面に対する LN332 の吸着量を図 3 に示す. ブロッキングなし(w/o blocking,非特異的吸着)では, い ず れ の Ti セ ン サ ー(Ti-Air,Ti-Plasma,Ti-UV) も Au センサー(Au-Air)の 1.5 倍程度の吸着量を示したが, Ti センサー間では有意差が認められなかった. ブロッキングあり(w/ blocking,特異的吸着)では, Au-Air への吸着量はわずかであった.Ti-Air への吸着は, ブロッキングなし(w/o blocking)と比較し 1/3 程度に 減少したものの,Au-Air よりは多くの吸着量が認めら れた.Ti-Plasma,Ti-UV では,いずれも Ti-Air と比較 し 2 倍以上の LN332 の吸着量を示したが,超親水性処 理群間では有意差を示さなかった. 図 4 に各種処理面に対する LN332 吸着測定開始 1 時 間後の DD/DF(ディシペーションの変化/振動数の変 化)を示す.Au-Air はブロッキングなし,ありとも DD/ DF 値が小さかった.Ti-Air,Ti-Plasma,Ti-UV の DD/ DF 値は,ブロッキングなしでは Au-Air より増加した が,3 試料間では差を示さなかった.一方,ブロッキン グありでは Ti-Plasma,Ti-UV の DD/DF 値が Ti-Air よ り増加した. 2. XPS 表面分析 図 5 に LN332 吸着試験(ブロッキングあり)後の XPS ワイドスキャンの例を示す.チタン(Ti),酸素 (O),炭素(C)以外に,窒素(N)の存在が確認された. LN332 吸着試験(ブロッキングあり)後の表面組成 を表 2 に示す.Au-Air 表面では Au が 78.4±3.1 at%で 最も多く,C が 13.3±1.2 at%,O が 7.8±0.6 at%であっ たが,N 量はわずかであった.一方,Ti-Air は O,C,N がそれぞれ 57.6±3.5 at%,22.4±1.9 at%,1.6±0.2 at% と Au-Air と比較して多く,Ti 量は O および C 量より少 なかった.Ti-Plasma,Ti-UV は,Ti-Air と比較して Ti および O 量の減少,C および N 量の増加が認められた.図 6-a に Ti-Ar 試料における LN332 吸着試験(ブロッ 図 3 各種処理面に対する LN332 の吸着量
w/o blocking:ブロッキングなし,w/ blocking: ブロッキングあり (異なるアルファベットは有意差を示す) 図 4 各種処理面に対する LN332 吸着 1 時間後の DD/DF(ディシペーションの変化/振動数の変 化) w/o blocking:ブロッキングなし,w/blocking: ブロッキングあり (異なるアルファベットは有意差を示す) 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5
Au-Air Ti-Air Ti-Plasma Ti-UV
w/o blocking w/ blocking
a b b b A B C C D D /D F(10 −8 /Hz) 0 50 100 150 200 250 300
Au-Air Ti-Air Ti-Plasma Ti-UV
w/o blocking w/ blocking
a b b b A B C C A m ou nt s of LN332(n g /cm 2 )
キングあり)後の C1s スペクトルの波形分離の例を示 す.C1 スペクトルは炭化水素に由来する C─C,CHx 基, カルボニル基に関係する C=O 基,ペプチド結合に由来 する N─C=O 基,およびカルボキシ基に関係する COOH
基に分離できることから25),それらの官能基の割合を算
出して図 6-b に示す.Ti-Plasma および Ti-UV は Ti-Air
と比較して,カルボニル基,アミド結合(あるいはペプ チド結合由来),およびカルボキシ基が増加し,炭化水 素に由来する C─C,CHx 基が減少した.なお,N1s ス ペクトルでは,ペプチド結合由来の C─NH2基が確認さ れた(図 6-c). 表 2 LN332 吸着試験(ブロッキングあり)後の表面組成(at%) (O,C,N において,異なるアルファベットは有意差を示す) Au Ti O C N Au-Air Ti-Air Ti-Plasma Ti-UV 78.4±3.1 ─ ─ ─ ─ 18.4±1.2 13.8±0.8 13.2±0.7 7.8±0.6a 57.6±3.5c 48.9±1.6b 49.8±1.9b 13.3±1.2a 22.4±1.9b 32.0±1.3c 32.9±1.5c 0.5±0.1a 1.6±0.2b 5.3±0.8c 4.1±0.8c 図 5 LN332 吸着試験後の XPS ワイドスキャン(Ti-Plasma,ブロッキングあり) Binding energy(eV) 1,000 800 600 400 200 0 N1s C1s O1s Ti2p O KLL Intensity( a.u. ) 図 6 LN332 吸着試験(ブロッキングあり)後の C1s スペクトル a:C1s スペクトルの波形分離,b:C1s スペクトルにおける官能基の割合(面積比) c:N1s スペクトルの例(Ti-Plasma, 上:エッチングなし,下:エッチング 10s) Binding energy(eV) 292 290 288 286 284 282 C-C,CHx C=O N-C=O COOH a) C1s c) N1s 408 404 400 396 392 Binding energy(eV) C-NH2 Intensity(a.u.) Intensity(a.u.)
C-C,CHx C=O N-C=O COOH
78.1±8.2b 8.9±0.8a 6.6±1.3a 6.4±0.8a 57.3±5.3a 15.1±2.3b17.2±3.5b 10.4±1.9b 60.7±4.8a 13.2±2.1b15.8±2.8b 10.3±1.4b b) Ti-UV Ti-Plasma Ti-Air (各々の官能基について,異なるアルファベットは有意差を示す)
3. 走査型電子顕微鏡(SEM)観察
LN332 吸着試験(ブロッキングあり)後の各試料の SEM 像(100,000 倍)の SEM 像を図 7 に示す.Au-Air および Ti-Air では,Au と Ti をスパッタコーティングの 粒子あるいは微量のタンパク質吸着によるとみられる微 細な凹凸が観察された.一方,Ti-Plasma および Ti-UV では,Au-Air,Ti-Air と比較し,タンパク質が厚く吸着 したとみられる塊状様物質が観察された(矢印).
考 察
本研究は,チタンの超親水性処理が上皮接着性タンパ ク質ラミニン 332 の吸着特性に及ぼす影響を明らかに することを目的とした.その結果,ラミニン 332 の吸 着量は,Au より Ti 上で増加し,また,すべての超親水 性処理群は無処理チタンより特異的吸着量が増加した. また,以前の研究における表面分析の結果,超親水性 を示した処理群ではコントロール群と比較して,顕著な 炭素量の減少と水酸基の増加が認められたことから11), 超親水性は表面に吸着した疎水性有機物(ハイドロカー ボン)が分解される効果と,酸化チタン表面に水酸基が 導入される効果が相まって発揮されたと考えられる26). 本研究の結果,Au-Air 表面では Ti-Ar と比較し LN332 の吸着量が少なく,特に特異的吸着はほとんど認められ なかった.また,LN332 吸着後の各試料の表面組成分 析においても,Ti-Air で相当量の窒素(N)が確認され たのに対して,Au-Air では N の検出はわずかであった (表 2).この理由として,Au 表面には酸化物が形成さ れず,酸化物と水酸基が関与するタンパク質の吸着がほ とんど存在しなかったことが考えられる15). 一方,チタン試料に対する LN332 の吸着に関し,全 体的に特異的吸着量は非特異的吸着量より減少した.ま た,超親水性処理群(Ti-Plasma,Ti-UV)群の特異的吸 着量はコントロール(Ti-Air)より増加した.非特異的 吸着とは,特定の官能基またはリガンドに特異的に結合 する以外の規則に従わない吸着をいい,タンパク質の立 体構造(コンフォメーション)を乱す可能性が考えられ る.一方,特異的吸着は,非特異的吸着を起こすところ にあらかじめ適当な物質を吸着させて,それ以上吸着が 起こらないようにブロッキングすることであり,タンパ ク質の立体構造の乱れを低減しており,生体内で起こる 現象に近いとされる22). また,各種処理面に対する LN332 吸着測定開始 1 時 間後の DD/DF(ディシペーションの変化/振動数の変化) を求めた結果,DD/DF 値はブロッキングありでは Ti-Plasma,Ti-UV は Ti-Air よりが増加した.これらのこ とから吸着した膜は水分子を多く結合した軟らかい膜で あると推察される27).さらに,LN332 吸着試験の SEM 観察においても,超親水性処理表面の Ti-Plasma および Ti-UV においてはタンパク質が厚く吸着したとみられる 塊状様物質が観察された(図 7). 以上の特異的吸着,DD/DF 値の変化,SEM 観察を総 合的に判断すると,チタンに超親水性処理を施すことに より,LN332 は立体構造を乱さず生体内で起こる現象 に近い状態で吸着量が増加するものと考えられる. 本研究において,超親水性処理により LN332 の特異 的吸着量が増加した理由として,超親水性処理により表 面の炭化水素が減少し表面エネルギーが大きくなった, また,水酸基が関与する水素結合が大きくなった可能性 が考えられる. 炭化水素に関しては,XPS 分析において炭化水素に 由来する C-C,CHx 基が減少していることから,超親水 性処理により炭化水素が減少したことは事実であろう. また,前報の XPS 分析によると超親水性処理表面で水 酸基が増加したことから,超親水性処理表面で水酸基が 関与する水素結合が大きくなったことも一因と考えられ る1,15). 本研究における LN332 吸着試験後の XPS による C1 スペクトル分析では,超親水性処理表面の Ti-Plasma お よび Ti-UV は未処理の Ti-Air と比較して,カルボニル 基に関係する C=O 基,カルボキシ基に関係する COOH 基,およびペプチド結合に由来する N─C=O 基が増加し た.また N1s スペクトル分析ではペプチド結合由来の C─NH2基が同定された.これらの官能基はタンパク質 図 7 LN332 吸着試験(ブロッキングあり)後の各試料の SEM 像(100,000 倍) 100 nmに含まれる官能基であることから,超親水性処理により タンパク質 LN332 の吸着量が増加した裏付けになると 考えられる27).また,ペプチド結合に由来する官能基の 増加は,LN332 自身がもつペプチド結合に加えて,チ タン表面と LN332 の間で脱水縮合によるペプチド結合 が生じた可能性も考えられる28,29). チタン表面へのタンパク質の吸着には静電的相互作用 も関与する1).ラミニンのゼータ電位は-6.9 mV であり 中性領域においては若干負(-)に荷電している30).一 方,チタンは未処理の状態では中性領域において負(-) に荷電しているが,プラズマ処理や UV 処理により正 (+)に転ずることが報告されており31),これらの超親 水性処理によりチタン表面と LN332 の静電引力が増加 し,LN332 の吸着量が増加したことも考えられる. しかし,本処理の特異的吸着のメカニズムの解明には さらなる研究が必要であり,今後の検討課題である. 本研究では,軟組織に接するアバットメント処理を考 慮し,表面形状を変化させない物理的な超親水性処理法 である大気圧プラズマ処理と UV 処理を採用した.チェ アサイドで利用するには処理時間が短いほうが有利であ ることを考慮すると,処理時間が短い大気圧プラズマ処 理はより有効であると考えられた.
結 論
超親水性処理を施したチタンへの上皮接着性タンパク 質ラミニン 332 の吸着特性を評価するとともに,超親 水性処理が CXCL12 吸着を促進する機序を表面分析に よって検討した結果,以下の結論が得られた. 1.ラミニン 332 の吸着量は,金よりチタン上で増 加した. 2.超親水性処理群(大気圧プラズマ処理,紫外線照 射処理)は無処理チタンよりラミニン 332 の特異的吸 着量が増加した. 3.ラミニン 332 が吸着した表面を分析した結果, 超 親水性処理群では炭素および窒素量が増加し,また,カ ルボニル基,カルボキシ基およびペプチド結合に関与す る官能基の増加が認められ,超親水性処理されたチタン へのラミニン 332 の特異的吸着にはペプチド結合が関 与していることが推察された. 以上の結果より,チタンへの超親水性処理はラミニン 332 の吸着を増進させ,本処理がチタンインプラント表 面への上皮接着能を向上させる可能性があることが示唆 された. 本論文において,開示すべき利益相反状態はない. 文 献 1) 吉成正雄.インプラント材料 Q&A 臨床の疑問に答える─マ テリアル編.第 1 版,東京:医歯薬出版,70─85,96─113, 2017.2) Ikeda H, Shiraiwa M, Yamaza T, et al. Difference in penetra-tion of horseradish peroxidase tracer as a foreign substance into the peri-implant or junctional epithelium of rat gingivae. Clin Oral Implants Res 2002;13:243─251.
3) 下野正基.新編 治癒の病理.第 1 版,東京:医歯薬出版, 336─340,2011.
4) Atsuta I, Yamaza T, Yoshinari M, et al. Changes in the distri-bution of laminin-5 during peri-implant epithelium formation after immediate titanium implantation in rats. Biomaterials 2005;26:1751─1760.
5) Atsuta I, YamazaT, Yoshinari M, et al. Ultrastructural localiza-tion of laminin-5 (c2 chain) in the rat peri-implant oral muco-sa around a titanium-dental implant by immuno-electron mi-croscopy. Biomaterials 2005;26:6280─6287.
6) Shiraiwa M, Goto T, Yoshinari M, et al. A study of the initial attachment and subsequent behavior of rat oral epithelial cells cultured on titanium. J Periodontol 2002;73:852─860. 7) Tamura RN, Oda D, Quaranta V, et al. Coating of titanium alloy
with soluble laminin-5 promotes cell attachment and hemides-mosome assembly in gingival epithelial cells:potential appli-cation to dental implants. J Periodont Res 1997:32:287─294. 8) El-Ghannam A, Starr L, Jones J. Laminin-5 coating enhances
epithelial cell attachment,spreading, and hemidesmosome as-sembly on Ti-6Al-4V implant material in vitro. J Biomed Mater Res 1998;41:30─40.
9) Werner S, Huck O, Frisch B, et al. The effect of microstruc-tured surfaces and laminin-derived peptide coatings on soft tissue interactions with titanium dental implants. Biomaterials 2009;30:2291─2301. 10) 板橋勇人.グロー放電処理を行ったチタン表面への細胞付着 に関する研究.歯材器 1996;15:116─131. 11) 江黒 徹,村田 功,大橋 功,ほか.チタンの親水性に及 ぼす表面形状と表面化学修飾の影響.日口腔インプラント誌 2011;24:215─224. 12) 松﨑紘一,山本英一,柴多浩一,ほか.市販チタンインプラ ントの表面性状に及ぼす大気圧プラズマ処理の効果.日口腔 インプラント誌 2014;27:528─540.
13) Sawase T, Jimbo R, Wennerberg A, et al. A novel characteris-tic of porous titanium oxide implants. Clin Oral Implants Res 2007;18:680─685.
14) Aita H, Hori N, Takeuchi M, et al. The effect of ultraviolet functionalization of titanium on integration with bone. Bioma-terials 2009;30:1015─1025. 15) 三嶋直之,飯田倫太郎,中山尚仁,早川 徹,吉成正雄.超 親水性処理チタンへのケモカイン CXCL12 の吸着特性.日 口腔インプラント誌 2016;29:114─122. 16) 柴多浩一,吉谷正純,上林 毅,ほか.チタンへの超親水処 理後の水中保存が骨芽細胞の動態に及ぼす影響.日口腔イン プラント誌 2017;30:200─209.
17) Wei J, Yoshinari M, Takemoto S, et al. Adhesion of mouse fi-broblasts on hexamethyldisiloxane surfaces with wide range of wettability. J Biomed Mater Res 2007;81B:66─75.
18) García JL, Asadinezhad A, Pacherník J, et al. Cell proliferation of HaCaT keratinocytes on collagen films modified by argon plasma treatment. Molecules 2010;15:2845─2856.
19) Kobune K, Miura T, Sato T, et al. Influence of plasma and ul-traviolet treatment of zirconia on initial attachment of human oral keratinocytes:Expressions of laminin c2 and integrin b4. Dent Mater J 2014;33:696─704.
20) Schwarz F, Ferrari D, Herten M, et al. Effects of surface hy-drophilicity and microtopography on early stages of soft and hard tissue integration at non-submerged titanium implants: an immunohistochemical study in dogs. J Periodontol 2007; 78:2171─2184.
21) Sauerbrey G. Verwendung non Schwingquarzen zur Wägung dünner Schichten und zur Mikrowägung. Z Phys 1959;155: 206─222.
22) 佐野健一,上塚 洋,大西 洋,ほか.AFM と QCM-D を 用いたチタン結合ペプチドのチタン表面への結合の観察.表 面科学 2005;26:428─431.
23) Sano K, Shiba K. A hexapeptide motif that electrostatically binds to the surface of titanium. J Am Chem Soc 2003;125: 14234─14235.
24) Kokubun K, Kashiwagi K, Yoshinari M, et al. Motif-pro-grammed artificial extracellular matrix. Biomacromolecules 2008;9:3098─3105.
25) Marín-Pareja N, Salvagni E, Guillem-Marti J, et al.
Collagen-functionalised titanium surfaces for biological sealing of dental implants:effect of immobilisation process on fibroblasts re-sponse. Colloids Surf B Biointerfaces. 2014;122:601─610. 26) 吉成正雄.超親水性チタンインプラントの表面解析と生体反
応.Jpn J Maxillo Facial Implants 2014;13:233─244. 27) Bhagwat N, Murray RE, Shah SI, et al. Biofunctionalization of
PEDOT films with laminin-derived peptides. Acta Biomater 2016;41:235─246.
28) Kado T, Hidaka T, Aita H, et al. Enhanced compatibility of chemically modified titanium surface with periodontal ligament cells. Appl Surf Sci 2012;262:240─247.
29) Adamczak M, Scisłowska-Czarnecka A, Genet MJ, et al. Sur-face characterization, collagen adsorption and cell behaviour on poly(L-lactide-co-glycolide). Acta Bioeng Biomech 2011; 13:63─75.
30) Fujita H, Kudo T, Kanetaka H, et al. Adsorption of laminin on hydroxyapatite and alumina and the MC3T3-E1 cell response. ACS Biomater Sci Eng 2016;2:1162─1168.
31) Miura T, Miyake N, Tanabe K, et al. Change in zeta potential with physicochemical treatment of surface of anatase-form ti-tania particles. J Oral Tissue Engin 2011;9:64─70.
Effect of Superhydrophilic Treatment on Adsorption of Laminin 332 to Titanium
SHIBAGAKI Hirokazu1), NOMOTO Hideki1), NOMURA Tomoyoshi1),
OIKAWA Hideki1) and YOSHINARI Masao2)
<Original Paper>
1)Japan Institute for Advanced Dentistry(Chief:Dr. YANASE Takeshi) 2)Oral Health Science Center, Tokyo Dental College
Laminin 332 (LN332) is an extracellular matrix that enhances the adhesion and migration of epithelial cells. The specific binding of LN332 on titanium (Ti) surfaces may serve to enhance the biological sealing at the epithelium-implant interface. Accordingly, it is important to analyze the response and application of LN332 on titanium implants. Superhydrophilic surface modification is reported to enhance the adsorption of proteins to titanium. This study aimed to evaluate the binding behavior of LN332 on surface-modified Ti with superhydrophilicity. In addition, the mechanism by which adsorption of LN332 is en-hanced was examined by surface analyses. Atmospheric-pressure plasma treatment (Ti-Plasma) and ultraviolet treatment (Ti-UV) as superhydrophilic treatments were performed on a titanium sensor that was designed for quartz crystal microbalance (QCM-D) apparatus. Untreated gold (Au-Air) or titanium sensor (Ti-Air) was used as a control. Adsorption properties of LN332 were assessed using a QCM-D method. In addition, surface characteristics were examined with X-ray photoelectron spectroscopy (XPS) and SEM observa-tion using LN332-adsorbed specimens. The amount of LN332 adsorption was increased on Ti-Air compared to Au-Air. In addition, the specific binding of LN332 was increased on the superhydrophilic treatment groups (Ti-Plasma and Ti-UV) compared with Ti-Air. Surface analyses of LN332-adsorbed surfaces revealed that carbon (C) and nitrogen (N) contents as well as carbonyl group, carboxyl group and peptide-related group were increased on the Ti-Plasma and Ti-UV specimens. Accordingly, peptide bonds seemed to play an important role on the specific binding of LN332 to surface-modified titanium with superhydrophilicity. These results suggested that the superhydrophilic modifications may promote the adhesion of LN332 to titanium. Key words:titanium implant, superhydrophilic treatment, protein adsorption, laminin 332