平成 25 年度 パワーアップ研修
保健体育科指導案
授業の視点
思春期になると,自分自身を一つの対象として見つめるようになります。自分を客観的に見つめると,自分のこ
とがわからなくなったり,理想と現実のギャップに悩んだりすることもあります。
また,自分と向かい合うことが苦手な生徒もおり,自分の良さや可能性を見つけだせずにいます。
本授業では
①自分と向き合うこと【自己の対象化】
②自分の長所・短所を受け入れること【自己受容】
③自分の良さを理解し自信を持つこと【自尊感情の向上】
に焦点を当て,望ましい自己形成を図れるような心の変化を期待したい。
さらに,授業形態も参加型学習で行い,級友同士での高めあいや,認め合う心の育成も図りたい。
御指導よろしくお願いします。
いちき串木野市立生冠中学校
教諭 重 森 秀 樹
保健体育科学習指導案
日 時 平成 25 年 10 月 28 日(月)5 校時 場 所 生冠中学校 1年 教室 対象学年 第1学年(男子12名・女子11名 計23名) 指 導 者 生冠中学校 教諭 重森 秀樹 1 単元名 保健「心身の発達と心の健康(自己形成)」(全10時間) 2 単元の考察 (1)単元観 私たちの心と身体は,互いに密接に関連しあって生命活動を営んでいる。そして,それらの調和のある働 きが健康な生活につながっている。特に中学生期は,成長が最も著しく,自己形成が行われる重要な時期で ある。 また,大人への過渡期と言われるこの時期は,大人に依存していた状態から抜け出して,自立へと歩み始 める時期で,精神的に不安定になりやすい。この時期に,心身の変化を科学的に理解した上で,心の健康の 保持や,人とのかかわりについて学習を深めることは,現在はもちろん,将来においても,心身ともに健康 で安全な生活を送るために,また社会においてよりよく生きるために,欠かすことができないものと思われ る。 (2)生徒の実態 (教師の観察から) 保健分野については,各学期に割り振り通年での指導を実施しているが3年間を通しても,48時間程度 とさほど多い回数ではない。1年生は入学して半年が過ぎ,中学校の生活にも慣れ,それぞれの個性が現れ 始めている。全体的には指示や指導にも素直にしたがうことができる学級である。 保健体育に関する学習意欲も比較的高く,明るい雰囲気の中で授業に取り組もうとする様子が感じられる。 しかし,自己表現が苦手な生徒や消極的な面もあるほか,一部の生徒は忘れ物が多く,自主自立ができて いない生徒もいる。授業に臨む姿勢については繰り返し指導しているところである。 (3)指導観 本校の教育目標や保健体育科の指導目標及び保健学習における今日的な課題をふまえ,上記の生徒の実態 を考慮しながら次の4点に留意して指導にあたりたい。 ① 「生涯を通じて自らの健康を適切に管理し,改善していく資質や能力を育てる」の重視 自己形成における課程で必要な「コミュニケーション能力」や「自己の対象化」「自尊感情」のスキル習 得に重点をおき,自ら進んで生涯を通じて自らの健康を適切に管理し,改善していく資質や能力を育成して いきたい。そのために,「自分自身を客観的に見つめる」「自分を受け入れる」「自己肯定感を持つ」とい った参加型の学習展開を図っていきたい。 評価にあたっても思考・判断の観点に重点をおき,生徒個々の取り組みを積極的に評価していきたい。② 学習課題の設定 自己と向き合う時間を重視しながら,他者からの評価を加え,自分自身に気付き受け入れ,「長所や短所」 も含めたありのままの自分を好きになれるような学習過程をとりたい。また,上手に自分と向き合えない生 徒へのアドバイスをすることにより,心の中に芽生えるものを感じさせたい。 ③ 学習形態の工夫 参加型の授業形態をとる。お互いの良いところを確認しあいながら学習させることによって自主的,自発 的な学習への取り組みを進めさせたい。 ④ 授業における生徒指導 「あいさつ」「人の話の聞き方」といった基本的な学習習慣は学校生活にも大きな影響を及ぼす。そこで, 常に授業における生徒指導を意識し,めりはりのある授業展開を図っていく。 (4)系統性 小学校では,体の発育・発達の一般的な現象や個人差,思春期の体つきの変化や初経,精通などを学習し ている。また,心も体と同様に発達し,心と体は相互に影響し合うことなどを学習している。 1学期は「体の発育・発達」「呼吸循環器の発達」「性機能の成熟」と体の成長に関する項目を実施して きた。2学期の心の成長を受け3学期以降の社会との関わりや安全・傷害に自分自身の身近な問題として捉 えられるようにつなげたい。 3 研究テーマとの関連 ・学校教育目標 「心身ともに健康でたくましく生きる力を備えた,心豊かな生徒の育成」 ・学校研究主題 「全教育活動における,生徒の心に届く指導の推進」 ~自分を知り,他者との関わりを理解し,自分を伸ばしていくために 自主的・自治的に活動する生徒の育成~ 自分を客観的に評価することを通して,無意識の自分を探り,自分を知り,好きになり,大切にすること ができる能力が必要である。自分に対する見方は,人の行動に決定的な影響を及ぼすと考える。自尊感情が 高く,肯定的な自己イメージが強い人は,自分がうまくやれることを想定し,目標に対して積極的に向かっ ていくので,その努力が報われることが多い。反対に,「自分はダメな人間ではないかという不安」など自 己信頼に欠ける人は自尊感情が低められ,自分を疑い,優柔不断であるために,自分の能力を十分に発揮で きない。また「まわりの人達から受容されていないのではないかという不安」をもつ人は,他人が自分をど うみているかということを必要以上に意識するため,他人の影響を受けやすく,時には自分の意志にまった く反した行動をとることさえあると考えられる。 心の健康が損なわれ,不適応行動をとる子どもたちはもとより,まだ不適応行動としては現れていない子 どもたちにおいても,常に心の中には,「まわりの人達から受容されていないのではないかという不安」や 「自分はダメな人間ではないかという不安」が存在しているものと思われる。しかし,自分がおかれている 状況や対象に対して持つこれらの感情や情緒に気づいて,うまく自分の思いを伝えたり,適切に対処したり できることによって,心を健康な状態に保持できるものと考える。
4 単元の目標 (1) 身体には,多くの器官が発達し,それに伴い,さまざまな機能が発達する時期があること,また, 発育・発達の時期やその程度には個人差があることを理解する。 (2) 思春期は,内分泌の働きによって生殖に関わる機能が成熟すること,また,成熟に伴う変化に対応 した適切な行動が必要となることを理解する。 (3) 知的機能,情意機能,社会性などの精神機能は,生活経験などの影響を受けて発達すること,また, 思春期には自己の認識が深まり,自己形成がなされることを理解する。 (4) 精神と身体は,相互に影響を与え,関わっていること,欲求不満やストレスは,心身に影響を与え ることがあること,また,心の健康を保つには,欲求不満やストレスに適切に対処する必要があるこ とを理解する。 5 単元の評価基準(国立教育政策研究所の資料を基に作成) (1)健康・安全への関心・意欲・態度 心身の健康・安全について ① 健康に関する資料を見たり,自分たちの生活を振り返ったりするなどの学習活動に意欲的に取り組も うとしている。 ② 課題の解決に向けての話し合いや意見交換などの学習活動に意欲的に取り組もうとしている。互いに 協力して,計画的に運動しようとしている。 (2)健康・安全についての思考・判断 心身の発達と心の健康について ① 健康に関する資料などで調べたことを基に課題や解決の方法を見つけたり,選んだりするなどして, それらを説明している。 ② 学習したことを自分たちの生活や事例などと比較したり,関係を見つけたりするなどして,筋道を立 ててそれらを説明している。 (3)健康・安全についての知識・理解 以下のことについて,理解したことを言ったり,書き出したりしている。 ① 身体機能の発達 ② 生殖に関わる機能の成熟 ③ 精神機能の発達と自己形成 ④ 欲求不満やストレスへの対処と心の健康
6 単元の学習内容と全体計画(1年生 1・2学期 全10時間) 時間 学習項目 学習内容 教科書ページ 第1時 体の発育・発達 ・体の各器官は年齢とともに発達するが,器官によって急速に発達する時期に 違いがあること。また,個人差があること。 ・望ましい発育・発達のためには,毎日の生活を健康なものにし,さまざまな 経験を積み重ねることが大切であること。 8~9 第2時 呼吸器・循環器の 発達 ・呼吸器の発達とは,肺胞数の増加や肺容積の増大などによって1回の呼吸量 が増えるということ。循環器の発達とは,心容積の増大や心臓の収縮力の増 強などによって1回の拍出量が増えるということ。 ・思春期は呼吸器・循環器の機能と関わりの深い持久力を高めるのに適した時 期であり,持久力を高める運動によって,呼吸器・循環器の機能が発達する こと。 10~11 第3時 性機能の成熟‐1 ・思春期には,性腺刺激ホルモンの働きによって生殖器の機能が成熟し,女子 では卵子が成熟し,男子では精子が形成されるようになること。 ・女子では,思春期になると月経が見られるようになること。 12~13 第4時 性機能の成熟‐2 ・男子では,思春期になると射精が見られるようになること。 ・排卵や月経・射精が起こるようになったということは,妊娠可能になったと いうことで,大人の体に近づいているしるしであること。 14~15 第5時 性とどう向き合う か ・思春期には,生殖に関わる機能の成熟に伴って,異性への関心などが高まっ たり,性的欲求が強くなったりすること。 ・異性の尊重,性情報への対処など,性に関する適切な態度や行動の選択が必 要となること。 16~17 第6時 心の発達⑴ -知的機能と情意機 能の発達- ・心は知的機能,情意機能,社会性などの働きが関わり合って成り立っており, 心の働きは大脳で営まれていること。 ・知的機能や情意機能は,さまざまな経験や学習によって発達すること。 18~19 第7時 心の発達⑵ -社会性の発達- ・社会性は,人間関係が広がる中で,さまざまな経験によって発達すること。 ・思春期になると,自立へと歩み始めること。 ・思春期になると,親友といった人間関係を望むようになること,友達とのつ きあいの中で,人とのつきあい方を学んでいくこと。 20~21 第8時 欲求不満や ストレスへの 対処‐1 ・心と体は密接に関係していること。 ・中学生の時期には欲求不満やストレスを感じることが多くなりがちである が,心の健康を保つためには心身の調和を保つことが大切であること。 ・人間は欲求を満たそうとして行動するが,欲求は必ずしも満たされるとは限 らず,欲求不満を感じることも多いこと。 ・欲求不満に適切に対処することによって,心の安定が図られること。 24~25 第9時 欲求不満や ストレスへの 対処‐2 ・ストレスには適切に対処することが必要であること。 ・ストレスへの対処には,さまざまな方法があり,自分に合った対処法を身に 付けることが大切であること。 26~27 第10時 本時 自己形成 ・思春期には,自己の認識が高まり,自己形成がなされること。 ・自己形成は,さまざまな場面を経験し,考え,学び,悩み,成功や失敗を繰 り返しながら進んでいくこと。 22~23
時 ① あいさつをする。 ・ ② 自分の長所をひとつだけワークシー トに記入する。 ・ ワークシートに自分の一番の長所を記入さ せる。 ③ 「自己形成」の言葉の意味を考え る。 ・ ・ 質問に対して積極的に意見 を発表しているか。 ④ 教科書から「自己形成」の意味を調 べる。 ・ ⑤ 本時の学習内容と課題を把握する。 ・ ・ 本時の学習課題を把握でき ているか。 ・ 導 入 8 学習活動 指導上の留意点及び支援の工夫 評価項目 学習用具の忘れ物がないか確認し,忘れた 生徒へ指示をする。 「自己形成」とは,どういうことかを考え させる。 教科書から「自己形成」の意味を調べさせ る。 本時の学習課題を説明し,理解させる。 上記の学習課題を探るために,2人組やグ ループでの演習形式を中心に進めることを 説明する。 自 分自身を見つめることには, ど のような意味があるか。 自 己形成のために,どのような こ とが必要か。 7 本時の指導(単元指導計画の第10時間目) (1) 目標 ○精神機能は,生活経験などの影響を受けて発達することを理解させる。 ○思春期においては,自己の認識が深まり,自己形成がなされることを理解させる。 ○自尊感情を高め,よりよい人間関係をつくり維持させる。 ○自分を肯定的にとらえ,かけがえのない,ありのままの自分を受け入れ,自尊感情を高める。 (2) 本時の指導にあたって 自己形成については, 思春期になると, 自己を客観的に見つめたり, 他人の立場や考え方を理解できる ようになったりするとともに, 物の考え方や興味・関心を広げ, 次第に自己を認識し自分なりの価値観を もてるようになるなど自己の形成がなされることを理解できるようにする。 その際, 自己は, 様々な経験から学び, 悩んだり, 試行錯誤を繰り返したりしながら社会性の発達と ともに確立していくことにも触れるようにする。 また,自分について,「欠点や短所があっても,見方を変えればこんな長所になる」や「こんな自分が好 き」など,自分をより肯定的に受け止められるような視点を与えるとともに,学習する仲間相互のポジティ ブなはたらきかけを促したい。 (3) 展開
時 ⑥ 教科書P22,1行から5行を音読す る。 ・ ⑦ 2人組で小グループを作る。 ・ ・ 積極的にペアを探そうとし ているか。 ⑧ 教科書P22,6行目から13行目を交 互に音読する。 ・ ・ ⑨ ワークシートの2を記入する。 ・ ・ 課題を自覚し学習に取り組 んでいるか。 ワークシート2については,どちらが よい・悪いというチェックではないこ とに留意させる。 ⑩ 別紙プリントに自分の長所・短所を 記入する。 ・ できるだけ多く記入をさせる。 ・ 自己と向き合い真剣に考え ているか。 ⑪ 2人組で互いに長所と短所を発表す る。 ・ 自己について他に発表でき ているか。 ・ ⑫ 2人組で互いに別紙を交換し,短所 をリフレーミングし,発表する。 ・ ・ 相手を尊重し手法を理解で きているか。 ・ ・ ⑬ 4人グループを作る。 ⑭ 教科書P23,1行目から7行目を交互 に音読する。 ・ ⑮ ワークシート3を記入する。 ・ ワークシート3を記入させる。 ・ 教科書から語句をみつけだ せているか。 ⑯ 教科書P23,8行目から12行目を交 互に音読する。 ・ 教科書P23,8行目から12行目を交互に音読させる。 ・ ⑰ ワークシート4を記入し相互に発表 する。 ・ ・ 自らの体験に自信を持てて いるか。 ⑱ ワークシートをグループ内で相互に 交換し5を記入し返還する。 ・ ・ 友達のよさに真剣に向き 合っているか。 ⑲ 学習カードを記入する ・ ・ 心の変化に気付けている か。 ⑳ あいさつをする。 教科書P22,6行目から13行目を拡大提示し 交互に音読させる。 短所も見方を変えれば長所になることを知 らせる。 学習カードに本時の反省や感じたこと を書かせる。 学習活動 指導上の留意点及び支援の工夫 評価項目 カードを使いジェスチャーのみでペアを探 させ2人組で小グループを作る 資料1と自分たちの状況を説明をする。 ①87% ②87% ③35% ワークシートの2を記入させる。 教科書P22,1行から5行を拡大提示し音読 させる。また,重要語句にラインを引かせ る。 教科書P23,1行目から7行目を交互に音読 させる。 ワークシート4を記入し相互に発表させ る。 ワークシートをグループ内で相互に交換し 5を記入させ返還させる。 名前をふせて,いくつかの発表を全体に伝 える。 短所をリフレーミングする際の具体例を示 す。 机間巡視をし,いくつかの発表を控える。 教科書P23の例「自分で自分の・・」を説 明する。 展 開 終 末 3 39 自己の対象化 コミュニケーション能力 自己受容 自己肯定感 自己肯定感
自己形成 スクリーン デジタル教科書の投影 自分なりの考え方や行動の仕方がつくられていくこと 自 分自身を見つめることには, ど のような意味があるか。 自 己形成のために,どのような こ とが必要か。 (4) 準備・資料 教科書・パソコン・スクリーン・プロジェクター・ワークシート・別紙資料・カード (5) 板書計画 (6) 本時の評価 ①指導者の評価 ・生徒のつまずきを見逃さず,適切に指導することができたか。 ・生徒同士の協力や自発性を尊重し,興味関心を高め,意欲を高めることができたか。 ・生徒が演習を行う際,適切な支援ができたか。 ・生徒の自尊感情の向上を図ることができたか。 ・授業の過程が適切であったか。 ②学習者の評価 ・積極的に自分を見つめることができたか。 ・学習方法がわかり,学習内容を理解して取り組むことができたか。 ・友達の良さを発見しより良い関係を築けたか。 ・自分の存在に価値や自信を持つことができたか