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「健康寿命」の伸長には若い頃からの健康改善が重要~2012年「健康寿命」の公表について考える

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本年5月から6月にかけて、厚生労働省から2つの「寿命」が公表された。一つはいわゆる「寿命」で、国勢 調査による完全生命表と、人口動態調査による簡易生命表をもとに、毎年公表されている。今回は 2010 年の 国勢調査をもとに作成された第 21 回完全生命表が公表され、平均寿命は男性が 79.55 歳、女性が 86.30 歳 と、引き続き長寿化が進んでいることを示している。 そして、もう一つは「健康寿命」である。これは、人が健康に生きていられる期間をあらわしており、男性が 70.42 歳、女性が 73.62 歳と公表された。厚生労働省が「健康寿命」の具体的数値を公表したのは初めてのこ とで、「二十一世紀における第二次国民健康づくり運動(以下、「健康日本 21(第二次)」とする。)」の基本方 針となる「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針(改正案)1」の中で示している。 本稿では、「健康寿命」について解説した上で、今回厚生労働省が公表した意味について考えてみたい。 1――「健康寿命」は古くから使われているが、認知は低い 厚生労働省が具体的な推計値を公表したのは今回が初めてであるが、「健康寿命」という言葉や概念は、 古くから一般的に使われている。 たとえば、1974~1985 年の「国民健康調査」(厚生労働省)を使って、「健康寿命」と「就床寿命」の計算が 行われた2。また、2000 年には、WHO が「健康寿命」を提唱し、その後数回にわたって、各国の推計結果を公 表している3。さらに、2006 年の「国民生活白書」(内閣府)では、「健康寿命」を採りあげ、65 歳時の健康余命 (「無障害余命」という表現が使われている。)の伸長状況を示している。 しかし、「健康寿命」は、まだあまり知られていないようだ(図表-1)。2010 年の「国民健康・栄養調査」(厚生 労働省)によれば、高齢ほど言葉や意味を知っている割合は高い傾向にあるものの、70 歳以上でも約半数が 「言葉も意味も知らなかった」と答えている。全体で「言葉も意味も知っていた」は、2~3割と低い。 1 2012 年6月1日 厚生労働省地域保健健康増進栄養部会資料。 2 1995 年9月 22 日「日本経済新聞」による。「国民健康調査」は、1986 年以降「国民生活基礎調査」に切り替わった。「就 床寿命」は、寝たきりになるまでの期間とされている。

3 計算方法の詳細は公表されていない。直近の”World Health Statistics 2010”では、日本の健康寿命は、男性が 73 歳、女性 が78 歳と推計されている。

2012-07-09

保険・年金

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「健康寿命」の伸長には若い頃から

の健康改善が重要

~2012 年「健康寿命」の公表について考える

保険研究部門 研究員 村松 容子 e-mail: yoko@nli-research.co.jp ニッセイ基礎研究所

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[図表-1] 健康寿命の認知状況 (資料) 厚生労働省「国民健康・栄養調査」(2010年) 20.2 13.0 10.2 15.1 17.8 23.8 32.4 14.6 10.2 13.5 12.2 12.1 19.3 16.2 65.2 76.8 76.3 72.7 70.0 56.9 51.3 0% 20% 40% 60% 80% 100% 総数 20~ 29歳 30~ 39歳 40~ 49歳 50~ 59歳 60~ 69歳 70歳 以上 言葉も意味も知らなかった 言葉は知っていたが、意味は知らなかった 言葉も意味も知っていた 【男性】 25.8 19.4 13.5 18.3 27.0 32.4 33.5 13.8 11.7 10.6 10.4 13.5 19.1 14.2 60.4 68.9 75.8 71.4 59.5 48.5 52.3 0% 20% 40% 60% 80% 100% 総数 20~ 29歳 30~ 39歳 40~ 49歳 50~ 59歳 60~ 69歳 70歳 以上 言葉も意味も知らなかった 言葉は知っていたが、意味は知らなかった 言葉も意味も知っていた 【女性】 2――今回の健康寿命の計算方法は、主観的な健康に着目 1|今回の「健康寿命」の計算方法と「健康」の基準 今回、厚生労働省が行った「健康寿命」の推計は、2011~2012 年度厚生労働科学研究(循環器疾患・糖 尿病等生活習慣病対策総合研究事業)「健康寿命における将来予測と生活習慣病対策の費用対効果に関 する研究」による算出方法をベースに行っている。この研究での算出方法は、説明書から引用すると以下のと おりである4 算出に使用されている「国民生活基礎調査」は、厚生労働省が毎年実施している。該当の質問は3年に1 度尋ねており、1989 年調査以降、3年おきに時系列で取得することができる5。また、性・年齢階級別、都道府 県別に集計できる点が特徴的である。この質問に出てくる「日常生活」とは、たとえば「日常生活の動作(起床、 衣服着脱、食事、入浴など)」、「外出(時間や作業量などが制限される)」、「仕事、家事、学業(時間や作業 4 http://toukei.umin.jp/kenkoujyumyou/(厚生労働研究 健康寿命のページ)から引用した。 5 2001 年から調査対象が変わったため、時系列での比較には注意が必要。 国民生活基礎調査における質問の「あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何か影響がありま すか」に対する「ない」の回答を日常生活に制限なしと定め、性・年齢階級別の日常生活に制限のな い者の割合を得る。生命表から定常人口と生存数を得る。性・年齢階級ごとに、定常人口に日常生 活に制限のない者の割合を乗じることにより、日常生活に制限のない定常人口を求め、次いで、その 年齢階級の合計を生存数で除すことにより、「日常生活に制限のない期間の平均」を得る。

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量などが制限される)」、「運動(スポーツを含む)」、「その他」であり、比較的軽い日常生活への影響も含まれ ている。 ただし、今回の健康寿命の推計にあたって、「健康」の基準にはいくつかの候補があったと考えられる。た とえば、国民生活基礎調査の「あなたの現在の健康状態はいかがですか。」という上記とは別の質問を使う方 法、あるいは、客観的な基準を使って、病院に通っている場合を「健康でない」とする方法や、公的介護保険 制度の要介護2~5を「自立して暮らせない」と考え、平均自立期間を求める方法などが使用されることも多い ようだ6。今回採用されたのは、比較的軽い制限も含む「日常生活に何か影響がありますか。」という質問への 主観的な回答による基準であることから、日常生活に制限がなく、かつ、自分が健康であることを感じることが できる期間に着目していることがうかがえる。 2|平均寿命と健康寿命の推移 前述の厚生労働科学研究では、2001 年以降の健康寿命の推移を計算している(図表-2)。これによれば、 男女とも、この9年間の平均寿命の伸びは 1.5 歳程度だが、健康寿命の伸びは1歳程度にとどまっている。 「健康」でない状態で生きている期間が伸びている計算となり、今後、いかにして健康に生きる期間を伸ばす かが課題となっている。 [図表-2] 平均寿命と健康寿命の推移 (資料) 平均寿命:厚生労働省「簡易生命表」      健康寿命:厚生労働科学研究「健康寿命における将来予測と生活習慣病対策の費用対効果に関する研究」      ※平均寿命は健康寿命の基礎と基礎となるデータを揃えるため、厚生労働省「簡易生命表」を用いた。したがって、本図表による2010年の       平均寿命は冒頭で紹介した完全生命表による平均寿命と数値が異なる。 78.07 78.64 79.19 79.64 69.40 69.47 70.33 70.42 65 70 75 80 85 90 2001 2004 2007 2010年 平均寿命 健康寿命 歳 【男性】 2001年から +1.57歳 2001年から +1.02歳 84.93 85.59 85.99 86.39 72.65 72.69 73.36 73.62 65 70 75 80 85 90 2001 2004 2007 2010年 平均寿命 健康寿命 歳 【女性】 2001年から +1.46歳 2001年から +0.97歳 6 健康日本21評価作業チーム審議会(厚生労働省)の資料「健康寿命の指標」(2011 年7月 14 日)によれば、日本、WHO、 欧州、アメリカ、イギリス等でそれぞれ様々な計算方法による「健康寿命」が算出されているようである。

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3――主観的な「健康」でない状態は年齢ご とに異なる 次に、今回の基準で言う「健康」でない状態 についての詳細をみる。 2010 年の「国民生活基礎調査」によると、 「現在、健康上の問題で日常生活に何か影 響がある」と回答する割合は、年齢が高くなる ほど高まる傾向がある(図表-3)。特に、65 歳 以上では影響を感じる割合が高まるペースが 大きく、65~69 歳で 15%程度、85 歳以上で は 35~40%程度となっている。男女差は小さ いが、20~59 歳と 70 歳以上で、女性の方が 男性より影響を感じる割合が高い傾向が見ら れる。 日常生活への影響の具体的な内容を、年 齢階級別7に比較すると、35~44 歳では、「仕事・家事・学業」に影響があると回答する割合が4%弱と、他の 項目と比べて高く、次いで「運動」が2%程度となっている(図表-4)。これに対して、65 歳以上では、「仕事・ 家事・学業」、「日常動作」、「外出」のいずれもが 10%前後で同程度となっており、「運動」よりも高い。さらに、 85 歳以上になると、「日常動作」は 25%強、「外出」は 20%強と、「仕事・家事・学業」の 15%程度や「運動」の 10%程度を大きく上回る。 一般的に考えれば、「日常生活」や「外出」、「仕事・家事・学業」に影響がある人は、「運動」にも影響がある と思われるが、調査の結果からはいずれの年齢階級においても「運動」より、年齢階級別にそれぞれ「仕事・ 家事・学業」や「日常動作」、「外出」といった項目の方が高い。「運動」が他の項目より低かったり、年齢階級 によって影響のある項目が異なるのは、年齢階級別に日常生活の中で重視する項目が異なることによると考 えられる。今回の推計において採用されている主観的な「健康」の基準とは、年齢に応じた「健康」を基準とし ているとも受け取ることができる。 また、それぞれの年齢階級について時系列で比較すると、65 歳以上、あるいは 85 歳以上では、「影響あり 計」、および各項目で割合は徐々に減っており、健康状態の改善が見られる。それに対して、35~44 歳では、 「影響あり計」の割合は低下傾向にあるものの、65 歳以上の高齢層にみられるほどの改善はない。そればかり か、影響の内容別にみると、35~44 歳が重視していると思われる「仕事・家事・学業」を含めて、どちらかと言 えば悪化している。 7 ここでは、全年齢計、35~44 歳、65 歳以上、85 歳以上について示す。 (資料) 厚生労働省「国民生活基礎調査」(2010年) [図表-3] 「あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何か        影響がありますか」に対して「ある」の割合 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 6 ~ 9 歳 1 0 ~ 1 4 1 5 ~ 1 9 2 0 ~ 2 4 2 5 ~ 2 9 3 0 ~ 3 4 3 5 ~ 3 9 4 0 ~ 4 4 4 5 ~ 4 9 5 0 ~ 5 4 5 5 ~ 5 9 6 0 ~ 6 4 6 5 ~ 6 9 7 0 ~ 7 4 7 5 ~ 7 9 8 0 ~ 8 4 8 5 歳 以 上 男性 女性 (%)

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[図表-4] 日常生活に影響ありの割合の推移(影響の内容別:複数回答) (資料) 厚生労働省「国民生活基礎調査」(各年) 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45   影響 あり計 影響の内容別 (%) 【65歳以上】 日常 動作 外出 仕事・家 事・学業 運動 その他 0 5 10 15   影響 あり計 影響の内容別 (%) 【全年齢計】 日常 動作 外出 仕事・家 事・学業 運動 その他 0 5 10 15   影響 あり計 影響の内容別 2001年調査 2004年調査 2007年調査 2010年調査 (%) 【35~44歳】 日常 動作 外出 仕事・家 事・学業 運動 その他 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45   影響 あり計 影響の内容別 (%) 【85歳以上】 日常 動作 外出 仕事・家 事・学業 運動 その他 影響の内容として、以下から複数回答で選択    「日常生活の動作(起床、衣服着脱、食事、入浴など)」、    「外出(時間や作業量などが制限される)」、    「仕事、家事、学業(時間や作業量などが制限される)」、    「運動(スポーツを含む)」、    「その他」 4――「健康寿命」の認知向上と健康増進を期待したい 今回の健康寿命の公表にあたって、厚生労働省は、(1)健康寿命の延伸(平均寿命で世界一のレベルを 保ちつつ、平均寿命の増加分を上回る健康寿命の増加を達成する)と、(2)健康格差の縮小(健康寿命の都 道府県格差8を縮小する)を、今後 10 年間(2013~2022 年度)の目標として掲げ、「健康日本 21(第2次)」の 8 今回の推計で、都道府県格差は男性で 2.79 年、女性で 2.95 年となっている。

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基本方針に盛り込む予定だ。また、この目標実現のために、主要な生活習慣病について、発症予防と重症 化予防のための数値目標設定や、栄養・運動・休養といった生活習慣改善に向けた数値目標の設定、社会 環境の整備の推進を行う。こういった具体的な目標設定を行った点がこれまでと大きく異なる点である。また、 健康寿命の推計に使用しているデータは、性・年齢階級別だけでなく、都道府県別に時系列をさかのぼって 使用できることから、各都道府県での目標設定もしやすいと考えられる。 「健康寿命」と聞くと、高齢者の問題だと捉えがちだが、これまで以上に健康寿命を伸ばすためには、若い 頃からの健康改善も重要となるだろう。しかし、その一方で、図表-4に示すとおり、近年、若い層の「健康」状 態の改善はない。今回の目標設定では、若い層に対しても、検診受診率の向上や運動の推奨、栄養管理な どの形で目標が設定されている。 今回、厚生労働省から「健康寿命」が公表されたことによって、健康寿命に対する認知が高まり、あらゆる 世代でこれまで以上に健康を増進するきっかけとなることを期待したい。

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