老齢厚生年金の在職支給停止について
櫻井 望恵
総務部 厚生課 (〒950-8801 新潟市中央区美咲町1-1-1 ) . 現在の日本社会において年金だけで老後の生活を送ることは難しいといわれている中で、年 金を受給しながら働く人が増えている。ただ、この場合、年金の一部または全部が支給停止さ れる、いわゆる在職支給停止の制度があることに気をつける必要がある。 本稿では現在の年金制度、老齢厚生年金、在職支給停止の仕組みについて整理し、在職支給 停止を始め年金制度について理解を深めていただくための取り組み等について報告する。 なお、本稿の内容は平成29(2017)年4月1日現在の年金制度による。 キーワード 公的年金制度,被用者年金一元化,老齢厚生年金,在職支給停止1. 年金制度の概要
(1) 公的年金制度の仕組み 現在の公的年金制度は、「国民年金(基礎年金制度)」 と国民年金の上乗せ部分としての「厚生年金(被用者年 金制度)」で構成されている。 なお、厚生年金(被用者年金制度)は、平成27(2015) 年10月から被用者年金一元化により、それまで共済年金 に加入していた公務員等も厚生年金に加入することとな り、厚生年金制度に統一された。(図-1) a) 国民年金の基本事項 国民年金には20歳以上60歳未満の全ての国民が加入す ることになっており、被保険者は第1号から第3号まで の3つの種別に分けられている。 保険料の納付については、第1号被保険者は本人が納 付することになっているが、第2号及び第3号被保険者 は、第2号被保険者が加入している各年金制度から納付 されている。(図-2) 国家公務員は第2号被保険者に区分され、保険料は厚 生年金保険料から納付されている。 b) 厚生年金の基本事項 厚生年金には公務員や民間の会社員などのうち、週20 時間以上働く70歳未満の者が加入することになっており、 被保険者は第1号から第4号までの4つの種別に分けら れている。 年金の決定手続きや支給事務は、それぞれの種別に応 じた実施機関が行うこととされている。(図-3) 国家公務員は第2号厚生年金被保険者に区分され、国 家公務員共済組合及び国家公務員共済組合連合会が実施 機関となる。 図-1 公的年金制度 図-2 国民年金(被保険者の種別及び保険料の納付) 図-3 厚生年金(被保険者の種別及び実施機関)(2) 共済組合員の年金給付の仕組み(3階建て構造) 年金制度は3階建ての構造となっている。共済組合員 の場合、従来は1階部分が「老齢基礎年金」、2階部分 が「退職共済年金」、3階部分が共済年金独自に加算さ れる「職域加算額」となっていた。これが、平成 27(2015)年10月の被用者年金一元化により変更となり、 現在は、1階部分が「老齢基礎年金」、2階部分が「老 齢厚生年金」、3階部分の職域加算額が廃止され、新た な3階部分として「退職等年金給付」制度が実施されて いる。(図-4) ただし、平成27(2015)年10月1日より前に共済組合の 加入期間がある場合は、経過措置として平成27(2015)年 9月30日までの共済組合期間に応じた「職域加算額」 (経過的職域加算額)と、平成27(2015)年10月1日以降、 退職するまでの加入期間に基づく「退職等年金給付」が 支給されることとなる。(図-5)
2. 老齢厚生年金の概要
老齢厚生年金は本来65歳からの支給となっているが、 当分の間(表-1のとおり)は、生年月日に応じて65歳前 から支給される。65歳前から支給される老齢厚生年金を 「特別支給の老齢厚生年金」、65歳から支給される老齢 厚生年金を「本来支給の老齢厚生年金」と呼んでいる。 a) 特別支給の老齢厚生年金 ○受給要件:昭和36(1961)年4月1日以前に生まれた者 で、以下の条件を全て満たしていること ・支給開始年齢に達していること ・公的年金の保険料納付済期間等が25年以上であること (平成29(2017)年8月1日から「10年以上」に改正される。) ・厚生年金保険の被保険者期間が1年以上あること 支給開始年齢について、昭和28(1953)年4月1日以前 に生まれた者は60歳とされていたが、昭和28(1953)年4 月2日から昭和36(1961)年4月1日までの間に生まれた 者は、生年月日に応じて支給開始年齢が段階的に引き上 げられている。(図-6) ○年金額:年金額は基本的に報酬(賃金)と厚生年金保 険加入期間に応じて支給される「報酬比例部分」で構成 されている。 b) 本来支給の老齢厚生年金 ○受給要件:以下の条件を全て満たしていること ・65歳に達していること ・公的年金の保険料納付済期間等が25年以上であること (平成29(2017)年8月1日から「10年以上」に改正される。) ・厚生年金保険の被保険者期間が1月以上であること ○年金額:年金額は「報酬比例部分」及び「加給年金額」 等で構成されている。「加給年金額」とは、一定の要件 を満たす配偶者や子がいる場合に、原則65歳から加算さ れるものである。 図-4 共済組合員の年金給付の仕組み 図-5 職域加算額の扱い 表-1 特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢 図-6 老齢厚生年金の生年月日別概念図1)3. 老齢厚生年金の在職支給停止
(1) 制度の概要 老齢厚生年金の在職支給停止とは、老齢厚生年金を受 けている者が厚生年金に加入しながら働いているとき、 年金の一部または全部が支給停止される制度で、支給停 止される額は「賃金月額」と「年金月額」の合計額に応 じて決められる。また、この期間に加入していた厚生年 金にかかる年金額は、退職時に、追加して再計算が行わ れる。 「賃金月額」とは、毎月の賃金(標準報酬月額)と、 過去1年間の賞与(標準賞与額)の総額を12で割った額 との合計額のことである。 「年金月額」とは老齢厚生年金(報酬比例部分のみ) の年額を12で割った額のことである。 なお、支給停止の対象となるのは老齢厚生年金のみで、 老齢基礎年金や障害給付(障害基礎年金や障害厚生年金) は、在職中であっても全額受給できることとなっている。 (2) 在職支給停止額の計算方法 支給停止額の計算方法は、65歳未満と65歳以上とで異 なっている。 a) 65歳未満の場合 賃金月額と年金月額の合計額が28万円を超える場合に、 賃金月額と年金月額の区分に応じた計算式により算出さ れた金額が支給停止される。(表-2) b) 65歳以上の場合 65歳以上の場合は支給停止の基準が緩和され、賃金月 額と年金月額の合計額が46万円を超える場合に支給停止 の対象となる。(表-3) なお、在職支給停止の基準額(28万円及び46万円)は、 賃金や物価の変動に応じて毎年見直しが行われている。 (3) 在職支給停止の計算例 賃金月額を24万円、年金月額を10万円と仮定した場合 a) 65歳未満の場合 表-2に当てはめていくと、賃金月額と年金月額の合計 額が28万円超、賃金月額が46万円以下、年金月額が28万 円以下の区分となり、太枠で囲んだ計算式により算出す る。(表-2) ( 賃金月額 + 年金月額 - 28万円 )× 1/2 =( 24万円 + 10万円 - 28万円 )× 1/2 = 3万円 よって、実際に支給される年金月額は、10万円-3万 円で7万円となる。(表-4) b) 65歳以上の場合 表-3に当てはめていくと、賃金月額と年金月額の合計 額が46万円以下の区分となり、太枠で囲んだ箇所のとお り支給停止額はなしとなる。(表-3) よって、実際に支給される年金月額は、10万円全額と なる。(表-5) 在職支給停止を考慮した年金月額は、次の早見表でも 確認することができる。(3)の計算例の結果については、 a) 65歳未満の場合、表-4の太枠で囲んだ箇所、b) 65歳 以上の場合、表-5の太枠で囲んだ箇所となる。(表-4、 表-5) 表-2 在職支給停止額の計算方法(65歳未満の場合) 表-3 在職支給停止額の計算方法(65歳以上の場合) 表-4 在職支給停止を考慮した年金月額の早見表 (65歳未満の場合) 表-5 在職支給停止を考慮した年金月額の早見表 (65歳以上の場合) 賃金月額 24 万円 年金月額 10 万円 ⇒3万円支給停止 され、年金は月額 7万円支給される。 賃金月額 24 万円 年金月額 10 万円 ⇒支給停止額なし。 年金は月額 10 万円 支給される。4. 年金制度について理解を深めていただくための
取り組み
公的年金制度は複雑で制度改正が多いことに加え、年 金の支給開始年齢が段階的に引き上げられていることも あり、退職後の生活設計に不安を感じる方も多いといわ れており、現在、私的年金のひとつである「個人型確定 拠出年金(愛称:iDeCo)」に加入する等の自助努力を 行うことで、より豊かな生活を送るための準備を進めて いるケースも見受けられる。 老後の生活設計を考えるうえで、年金は不可欠な中心 的収入であり、年金制度を理解することは何よりも大切 である。 被用者年金一元化後は、「ねんきん定期便」が毎年1 回、誕生月に送付され、ご本人が年金加入期間や年金見 込額等を把握することも可能になっているが、北陸地方 整備局では、老齢厚生年金の在職支給停止を始め年金制 度について、より理解を深めていただけるよう対象者に 応じて以下の取り組みを行っている。 (1) 定年退職者等に対して a) 年金説明会の実施 毎年、定年退職予定者を対象に年金説明会を行ってい る。年金制度が複雑であるため、説明会においては、年 金額の計算方法、年金の特例及び在職支給停止等につい て、丁寧な説明を心がけている。 また、対象者から質問が多い制度については、よりわ かりやすい説明に努めており、例えば、年金の「繰上請 求」の制度については、繰上請求をした場合としない場 合の支給額比較表、繰上請求の時期毎による支給額一覧 表及び繰上請求した場合の損益分岐点等を示し、説明し ている。(表-6) そのほか、説明会の際には、それぞれの個人に応じた 年金試算や、個別に相談がある場合はその対応も行って いる。 なお、定年退職予定者以外の退職者についても、同様 に年金制度等についての説明、年金試算を行っている。 b) 可処分所得額を試算 定年退職予定者及び再任用者に対して、翌年度に再任 用を選択した場合の実際に受け取る給与及び年金の合計 額(可処分所得額)を試算している。可処分所得額の試 算にあたっては、前提となる条件が多い中での試算では あるが、老後の生活設計に資するため、老齢厚生年金の 在職支給停止を考慮して行っている。 また、用語の解説や資料の見方も作成するとともに、 複雑な在職支給停止制度についてもわかりやすい説明に 努めている。 (2) 若年層に対して 若年層は年金について、受け取るのがまだ先というこ ともあり、関心が低い、身近に感じることができないと いう方が多いため、新規採用職員を対象とした研修や若 手職員を対象とした勉強会等で年金に関わる話をする場 合、定年退職者等への説明と内容を変え、以下の点に留 意している。 a) 年金への関心を高める 平均寿命の推移、高齢者の割合及び年金給付の見込み 等のデータや、老後の蓄えはどのくらい必要かといった 調査結果をもとに、老後に向けた資産形成の必要性につ いて考えてもらう。 ここでは、将来に待ち受けていることを少し見ておく ことで、年金に関心を持ってもらえるよう努めている。 b) 厚生年金保険料について理解を深める 厚生年金の保険料や給付額等の算定基礎となっている 標準報酬や、保険料率について説明を行う。また、事例 演習として保険料の算定をしてもらう。 ここでは、毎月納めている保険料がどのようなものか を理解することで、自分が年金制度に加入していること や保険料と年金給付のつながりを感じてもらえるよう努 めている。 表-6 「繰上請求」制度の説明資料イメージ(繰上請求の時期 毎による支給額一覧表)5. まとめ
年金を受給しながら働く人が増えている中で、年金制 度の中でも、今、関心が高いと思われる在職支給停止の 制度を中心に取り上げた。これまで説明した内容により、 従来よりも在職支給停止の制度等についてイメージいた だけたのではないかと思う。 今後の取り組みとしては、厚生課のホームページ等で 在職支給停止の制度を始め、年金制度についてよりわか りやすく紹介していきたいと考えている。 年金制度は、年金財政を取り巻く環境の変化に伴って 制度改正されることが多い。また、平成27(2015)年10月 の被用者年金一元化に加え、ここ数年は特別支給の老齢 厚生年金の支給開始年齢が段階的に引き上げられている こと等もあり過渡期ともいえる。国家公務員の年金の決定や支給事務は全て国家公務員 共済組合連合会が行っているが、今後もさらに制度が変 わっていくことも想定される中で、その時々の制度に応 じて説明の内容や方法を工夫しながら、今後も年金制度 について理解を深めていただくための取り組みを行って いきたい。 謝辞:本稿の執筆にあたりご指導いただいた皆様に感謝 申し上げます。 参考文献 1) 一般社団法人共済組合連盟発行・工藤哲史著:よくわかる国 家公務員の医療・年金ガイドブック(平成29年度版)