2 遊星機構の分類 前節図 1.1-3 において基本遊星機構を組み合わせることによって別の遊星機構が構成さ れることを示した。基本遊星機構の組み合わせ方はこのほかにまだ幾通りもの形があるが、 一つのユニットとしての遊星機構の自由度は2である。そのためこの機構を決定機構とする ために入力軸、出力軸のほかに、機構全体の運動を規制するための軸が必要となる。この軸 を補助軸と呼ぶ。図 1.2-1 では固定した軸がそれに相当する。つまり補助軸の運動状態を 外からの条件できめれば(例えば固定すれば)、入 力と出力の運動は一義的に定まる。これら3個の軸 (入力軸、出力軸、補助軸)を総称して基本軸と呼 ぶ。ここでこれら3個の軸のうちのどれが入力軸で、 どれを出力軸とするかは遊星機構を設計するときに 定まることである。 このように遊星機構では構成要素として大陽車、 遊星車およびキャリアがあり、一つのユニットとし て基本軸を備えている遊星機構を考える。このユニ ットの中では大陽車、遊星車、キャリア等の要素と基本軸の組合せにより様々な形態を考え ることができる。そしてそれらの形態ごとに運動状態も異なるので、何らかの分類をしない と整理がつかない。その分類法には種々の方法が試みられたが、旧ソ連で考えられた方法1 は合理的であり、日本でもこの方法がよく使われるようになった。ここでは最低限の要素の 組合せで、ユニットとしての遊星機構においてどの要素が上述の基本軸になるかということ によって、次に述べるように2K-H、3K、K-H-Vの3種類に分類している。これら の機構は基本軸で構成される遊星機構の最低限の条件を満たした機構と言える。なおここで Kは太陽車(内接車、外接車の両方を指す)、Hはキャリア、Vは遊星車を示す2。 入 力 軸 出 力 軸 補 助 軸 図 1.2-1 基本軸の構成 2.1 2K-H型 図1.2-1は太陽車2個 (2K)の軸とキャリアHの軸が基本軸を構成する機構を示す。遊星 機構としては最も一般的な機構である。その他この型に属する遊星機構の例を図1.2-2 に示 す。この例において(a)、(b)は円筒型太陽車に外接車と内接車を用いたもの、(c)は円すい車 を用いたものである。また(d)は外接車2個、(e)は内接車2個を用いている。さらに(f)は(e) から派生したもので、遊星車の半径がキャリアの軸間距離よりも大きい場合に、太陽車とし て外接車と内接車を用いた場合の例である。 1 В.Н.Кудрявцев, Планетарные Передачи, Машинострение. Москва, 1966 2 Kはロシア語のколесо(車の意味)からきたのは容易に想像がつくが、Hは多分英語のholder からきていると思 われる。しかしVはもともとロシア語にない文字で、なぜこれを遊星車を示す記号としたかについてはよくわからない。
(a) (b) (c) (d) (e) (f) H K K K H K K K H H K K H K K K K H 図 1.2-2 2K-H 型遊星機構の例 (1) 具体的事例1 ここで図1.2-2(a)の型に属する遊星歯車機構は減速機として、あるいは増速機として、い ろいろなタイプが製作されている。その容量も最近ではモジュール 0.1以下のものから数 万KWのものまで非常に多彩である。トラクションドライブを使ったこの型の減速機もよく 使われる。 出力軸 キャリア 遊星車 太陽車 リング 入力軸 図 1.2-3 2K-H型無段変速機の例-13 図 1.2-2((b)の型は(a)型の変形であるが、遊星車が2段になっていて、それぞれの遊星車 は外接車か、内接車のいずれか一方に接触しているものである。トラクションドライブ式無 段変速機にはこの例が多い。図 1.2-3、図 1.2-4はその例であるがいずれも遊星車の内接 車と外接車との接触半径が別個にとれることからこの方式が用いられる。 3 椿本チェーンカタログ
図 1.2-4 2K-H型無段変速機の例4-2
(2) 具体的事例2
図 1.2-2(c)型を歯車で構成したものは自動車に使われていて、デフの名称でなじみのあ る差動歯車である。トラクションドライブ式無段変速機としては図 1.2-5 に示す形式のも のがあり、いずれも太陽車の接触曲面にトロイダル曲線を使っていることから、トロイダル 式CVT(Continuously Variable Transmission の略称)と呼ばれている。このうち同図 (i)のものをトロイダル全曲面を使っていることからフルトロイダル、(2)のものを 半分のトロイダル曲面で構成されていることよりハーフトロイダルと呼んでいる。 (1) (2) 図 1.2-5 (c)型による無段変速機の例5 (3) 具体的事例3 図1.2-2(d)型および(e)型のものは遊星車が2段になっている。この構成は(b)型と似 ているが、遊星車の両方が外接車または内接車と接触していることが異なる。この例を用い た無段変速機としては図1.2-6 の例がある。同じような構造を歯車で構成することもできる が図1.2-7 のような変形形態もよく使われる。ここでは遊星歯車が2段複合歯車列になって いて、一つのキャリアに支えられている第1の2段遊星歯車の第2段目が第2の遊星歯車と かみ合いこれが、太陽歯車とかみあっているものである。自動車の自動変速機に用いられ 4 シンポ工業カタログ 5 日本機械学会 P-SC62 トラクションドライブ調査研究分科会 成果報告書 (昭和 60.3) p92
ラビニヨー型と呼ばれている。 図1.2-6 (d)型の無段変速機の例6 図 1.2-7 (d)型の変形例 3.3 3K型 図 1.2-8 にその例を示すように、キャリア軸が基本軸とならないでユニットの内部に収ま り、3個の太陽車軸Kによって基本軸が構成される形である。例えば図1.2-8 (A)(B)に示す 機構は3K 型の最も一般的な構造であり、この型をうまく使うと大きな減速比を得ることが できる(このことについては後述する)が、ヨーロッパでは歯車で構成されたこの装置を Wolfram 装置とも呼ばれている。また日本では図の(A)型の段付遊星歯車Z11、Z12の歯数 を同じにして、転位係数を変えることにより2個の内歯車の歯数Z2とZ3を変えたものを 不思議歯車機構と呼んでいる。その場合一般に効率が悪い。それは接線力が太陽歯車で異 常に大きくなることによる。このことはトラクションドライブ方式でこの形式の減速機を構 成すると、大きな接線力を発生するために、その接触点では大きな法線力を要求されること になる。その結果接触点の応力は大きくなり、減速比は材料の強度に依存してきまってくる。 図1.2-8 (a)、(b)は3K型の変形であるが、遊星歯車が多段構造になっているものの、外部 につながれる軸は3個の太陽歯車から構成されているのでこれも3K型に分類される。。 6日本機械学会 P-SC62 トラクションドライブ調査研究分科会 成果報告書 (昭和 60.3) p92-94
z
z
z
11 2 3H
z
12z
1(A)
K
K
K
z
z
z
11 2 3H
z
12z
1(B)
K
K
K
(a)
(b)
K
K
K
K
K
K
図 1.2-8 3K型2.3
K-H-V型
上述の2個の形式(2K-H、3K)はいずれも基本遊星機構の遊星車の運動の伝達を例えば図 1.1-3 に示すように2個の遊星車を結合する方法で解決するものであったが、ここで示すK -H-V型は基本遊星機構に既にある3個の軸、すなわち太陽車、遊星車、キャリアの軸を そのまま基本軸として使う方法である。
H
z
z
1 2(a)
K
V
自在継ぎ手
z
z
1 2H
(b)
K
V
自在継ぎ手
図 1.2-9 K-H-V型 ところで遊星車は公転と自転を同時に行うが、公転はキャリアで取り出しているので、こ こでは自転を取り出すことが問題となる。その方法としては図 1.2-9 に示すように自在継 手を使うのが最も理解しやすい方法であるが、この方法では1個の遊星車の運動しか取り出すことができない。 キャリア 内歯歯車 遊星歯車 Z Z 1 2 ピン V軸 V要素 図 1.2-10 K-H-V型の例7 これを解決する手段として図1.2-10 のような機構がある。これは遊星歯車に複数個のピ ン穴がありこれにV要素に取り付けられたピンがはまっている。このピン穴の半径は遊星歯 車の偏心量に等しい。いま遊星歯車が内歯歯車(太陽歯車)の内面とかみ合って遊星歯車運 動すると、ピンはピン穴の内面に沿って転がり、自転回転をV軸に取り出すことができる(回 転速度の関係は後に述べる)。この構造では遊星歯車が偏心運動するので振動を発生しやす い。そのため遊星歯車を軸方向に複数個並べて動平衡をとる工夫がされる。また内歯歯車と 遊星歯車の歯数は近接しているので、インボリュート歯形を使うと干渉が起こるので内歯を ピンで、遊星歯車の歯形をトロコイド歯形で構成した製品が作られている(図1.2-11)。 ここでは遊星機構として摩擦車(トラクションドライブ)で構成される機構も含めて、そ の分類について述べたが、次節以後は歯車で構成される遊星歯車機構を対象に述べる。 ピン歯車 偏心遊星歯車 偏心カム 偏心量 内ピン (V要素) キャリア軸心 (太陽歯車) (キャリア要素) 図 1.2-11 K-H-V型の具体的事例8 7 Вест. Машиност. 36(1956)2、25 8 住友重機械工業カタログ