高温ガス炉の概要
1 .高温ガス炉とは 1 .1 高温ガス炉 高温ガス炉は、セラミックス(炭素や炭化ケイ素)で被覆した粒子状燃料を用い、冷却材と して不活性なヘリウムガスを、減速材として黒鉛を使用することにより、900℃以上の高温の熱 エネルギーを取り出すことのできる原子炉である。 高温ガス炉の代表例として、日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)により開発・ 建設された高温工学試験研究炉 HTTR(High Temperature Engineering Test Reactor)があ る。HTTR はピン・イン・ブロック型と呼ばれる炉心型式を採用しており、黒鉛及び金属の炉 心支持構造物に燃料集合体を内包している。原子炉構造には、燃料や炉心支持構造のほかそ の他の炉内構造物および反応度制御設備を鋼製の原子炉圧力容器内に納められている。冷却 系については、通常運転時に原子炉を冷却する原子炉冷却設備の他に、HTTR には異常な過 渡変化に伴う原子炉スクラム時と強制循環による炉心冷却が可能な事故時に原子炉から残留 熱を除去する補助冷却設備、および強制循環による炉心冷却ができない事故時に原子炉を冷 却する炉容器冷却設備が設置されている。冷却材は前述の通りヘリウムを用いており、冷却材 出口温度は 850~950℃である。原子炉冷却設備を含む1 次冷却設備を構成する機器は二重 胴構造および二重管構造にして耐熱部と耐圧部の機能を分けており、耐圧部での使用温度は 約 400℃以下にしている。 1 .2 軽水炉との違い (1)燃料 軽水炉は金属被覆燃料を使用するのに対し、高温ガス炉はセラミックスで被覆した被覆 燃料粒子を用いる。燃料要素は燃料核(ウランの酸化物など)を熱分解炭素および炭化 ケイ素で4 重に被覆した直径約 1mm の球状粒子である。これらの被覆は燃料の核分裂に よって生じる核分裂生成物を閉じ込める。高温ガス炉で使用する被覆燃料粒子は耐熱性が 優れ、1,600℃の高温状態においても被覆材の閉じ込め機能は損なわれないことが実験的 に証明されている。燃料体の形式には、被覆燃料粒子を黒鉛粉末と混合して焼結した燃料 コンパクトを、あるいはその燃料コンパクトを黒鉛スリーブに入れた燃料棒を黒鉛ブロック 内に挿入するブロック型と、被覆燃料粒子を球形に焼結しその表面を黒鉛層で包んだ球状 燃料のペブル型の2 種類がある。それらの燃料体を用いた高温ガス炉をそれぞれ、ブロ ック型高温ガス炉、ペブルベッド型高温ガス炉と呼称する。 HTTR は上述の分類のブロック型炉であるが、そのブロック型炉の中でも燃料コンパクト を黒鉛スリーブに入れ、更にそれら燃料棒を六角柱黒鉛ブロックに挿入した形態で、ピン・ イン・ブロック型と呼ばれる。後者のペブル型原子炉の最近の代表例には、PBMR があ る。(2)冷却材 高温ガス炉では、冷却材に 10MPa 以下に加圧したヘリウムガスを用いる。ヘリウムガス は、化学的に不活性であり、高温でも燃料や構造材と化学反応を起こすことはない。また、 運転温度範囲では相変化がなく、冷却材としての除熱特性変化が少ない等、高温の熱輸 送に適した冷却材である。更に、ヘリウムガスは、核的な効果(中性子の減速や吸収など) をほとんど持たないため、炉心の核反応にも影響を与えない。 (3)減速材 高温ガス炉では、減速材に黒鉛を用いている。黒鉛は中性子の吸収が少なく、放射線 に強く、耐熱性に優れ(昇華温度約 3,000℃)、熱を良く伝えるなど炉心構造材としても極 めて優れた性質を持っている。一方、減速能が水に比べて低いため大きな体積を必要とす る。高温ガス炉は、この黒鉛減速材が炉心構造材の機能も兼ねているため炉心寸法が大 きくなり、その分出力密度は低下する。従って、炉心が大型化し、そのため結果的に高温 ガス炉の炉心は大きな熱容量を持つこととなる。 (4)出口温度 高温ガス炉は、冷却材として気体のヘリウムガスを、また被覆材には耐熱温度の高いセ ラミックスを用い、更に同様の特長と持つ黒鉛によって炉心を構成するため、極めて高温の 熱源を原子炉からとり出すことができる。軽水炉では冷却材出口温度が凡そ 290~340℃ であるが、高温ガス炉では 750~950℃である。 (5)熱効率 原子炉出口冷却材温度は、軽水炉で 290~340℃であるのに対し、高温ガス炉は 950℃ の実績を持つ。このような高温の熱供給が可能なため、発電への活用において軽水炉や ナトリウム冷却高速増殖炉の発電プラントより高い熱効率が得られる。軽水炉の蒸気タービ ンによる発電による熱効率が 35%弱であるのに対し、高温ガス炉で供給する 850℃以上の 高温ヘリウムガスによってガスタービンを直接駆動する直接サイクルガスタービンシステム 発電プラントでは、45% を超える熱効率の実現が可能となる。 1 .3 高温ガス炉の安全性 高温ガス炉は原子炉の構成要素の特徴から、次のような固有の安全特性を備えている。 ①燃料の耐熱温度が高い。500 時間を超える長時間において約 1,600℃の高温状態にさらさ れても燃料被覆の健全性は損なわれない。短時間であれば、2,000℃を超えても FP の保 持機能が損なわれることはない。 ②炉心構造物(黒鉛)の耐熱温度が同様に高く、炉心溶融の恐れがない。 ③黒鉛ブロックで構成される炉心は熱容量が大きく、異常時、事故時の温度挙動が緩慢で ある。
④冷却材ヘリウムの漏洩等により冷却機能喪失が生じた場合にも、熱容量の大きい黒鉛減速 材が熱溜めとなるため、それらの事故時においても燃料温度の急激な上昇がない。 ⑤炉心は全運転範囲において大きな負の反応度温度係数を持つ。これにより、炉心温度が 上昇した場合、反応度温度フィードバックにより自然炉停止特性、出力自己制御性が得ら れる。 これらの固有の安全特性を活用することにより、飛躍的に高い安全性を持つ原子炉を実現するこ とが可能となる。一般に、異常時、事故時の原子炉の安全を確保するためには、3 つの基本的 な機能、止める(原子炉の核反応を停止する事)、冷やす(原炉心の崩壊熱を除去する事)、閉 じ込める(放射性物質を原子炉施設内に閉じ込める事)が必要とされる。比較的小型の高温ガ ス炉においては、原子炉の固有の安全特性を活用し、原子炉が人的操作なく自然に「止まり」、 「冷え」、放射性物質は燃料に「閉じ込める」という安全性を実現できる。 (1)原子炉停止:止まる 冷却材ヘリウムの漏洩等によって炉心冷却機能喪失事故が発生した場合、炉心は除熱低 下に伴って温度が上昇するが、その後反応度温度フィードバック効果により核反応は自然に 停止する。この時、小型高温ガス炉では、次項に記述するように燃料温度は 1,600℃以下 に維持され、燃料被覆機能の健全性が損なわれることはない。すなわち、このような事故 時においても、原子炉を緊急停止する必要は生せず、原子炉が自然に停止し、安全が保 たれるという特性が得られる。 (2)崩壊熱除去:冷える 炉心寸法・形状と出力密度のバランスを適切(一般には炉心寸法の小型化、小出力化、 いわゆる小型モジュール型炉)に選択する事により原子炉からの自然放熱(伝導、放射、 自然対流)のみの崩壊熱除去により、事故時の燃料最高温度を 1,600℃以下に保つことが 出来、被覆燃料の健全性を維持する事が出来る。その場合、崩壊熱は、炉心の黒鉛構造 物に吸収されるとともに、炉心円周外側部の反射体から伝導・放射効果を介し原子炉圧力 容器へ伝わり、最終的には原子炉圧力容器の廻りに設置された冷却パネル方式等の原子 炉室冷却系へ放射することにより冷却される。この原子炉室冷却系の冷却方式には、大気 の自然循環、冷却水の自然循環、冷却水の強制循環など、種々の方式の採用が検討さ れているが、人的操作を必要としない自然循環方式でも冷却が可能である。一方原子炉 室冷却系の機能喪失を想定した場合にも、原子炉建家コンクリートを通した大気、地下土 壌への放熱で、燃料の最高温度を 1,600℃以下に維持することが可能である。 (3)閉じ込める:出ない 原子炉停止特性、崩壊熱除去特性および燃料被覆の耐熱性により、自然の物理現象、 材料の化学・物理特性のみによって燃料被覆の健全性が維持される。このため、事故時 においても、上述の(1)と(2)の効果もあり核分裂生成物を燃料中に閉じ込めておく事
が可能である。 1 .4 開発経緯 高温ガス炉の基本概念、被覆粒子燃料、黒鉛減速材及びガス冷却を採用した原子炉の歴史は 古く、1942 年に臨界となった世界で最初の原子炉、CP1(米国)は黒鉛減速である。また、1956 年に英国で初期に開発され運転が開始された原子力発電所は炭酸ガス冷却黒鉛減速炉である。 この 1956 年に被覆粒子燃料が発明され、その後の基盤技術となる原子炉の概念が確立した。 この概念を採用した試験炉の DRAGON 炉が 1964 年に初臨界を達成した。1960~80 年にかけ て、欧州、米国において試験炉、原型炉が開発、設計、建設され、今日の高温ガス炉の基本技 術が構築された。試験炉として Dragon 炉、AVR(ドイツ)、Peach Bottom(米国)があり、原 型炉として THTR-300(ドイツ)、Fort Saint Vrain(米国)等が登場し、発電炉としての基本性能 が実証された。しかしながら、これらの原子炉は運転開始後トラブルに遭遇し、結局発電炉とし ての高温ガス炉の実現へ貢献できなかった。さらに、米国の TMI 事故や旧ロシアのチェルノブイ リ事故により原子力開発全体に影響があり開発が中断から衰退状態に陥った。その一方で、1990 年代以降、日本や中国においては高温ガス炉の将来性が期待され、試験炉が建設され運転中で ある。 TMI 事故を契機として小型モジュール炉を基本概念として採用し、固有の安全性を志向した新 概念を具備した高温ガス炉の設計が 1980 年代前半にドイツ、米国で相次いで発表された。当該 概念を採用する事で高温ガス炉の安全特性上の特長を活用することが可能となり、異常時や事 故時にも運転員の操作、動的設備の作動機能に依存しなくても、炉心溶融の恐れがなく、核分裂 生成物の放出の恐れのない安全性の高い所謂 SBO(全電源喪失)にも対処可能な原子炉シス テムを実現できる。高温ガス炉以外の原子炉では、冷却材喪失事故時などには炉心冷却などの 炉心安全性確保のためには強制的に冷却する方式が一般的であり、そのための安全設備が多重 に装備されている。しかし、高温ガス炉の場合の冷却材が喪失する減圧事故時のなどの場合、 炉心の安全確保のために動的な設備の設置が必ずしも必要とされず、当該関連設備が大幅に簡 素化できる。これにより、安全システムの簡素化が可能となり関連設備の物量を低減でき、経済 性の向上にも寄与出来る。また、2000 年以降は高効率発電と水素製造の両方が可能である熱 電併給型高温ガス炉の実用化を目指した研究開発が活発化した。更に、2000 年から米国の主 唱で国際協力の下に第四世代原子力システム(Generation IV Nuclear Energy Systems)の検討 を進めることを目的に第四世代原子力システム国際フォーラム(Generation IV International Forum, GIF)が組織され、2001 年 7 月には、GIF の憲章が制定された。その中で、超高温ガ ス炉が第四世代原子力システムの概念の一つとして選定され、システムを実用化するために必要 な研究開発内容が纏められている。現在、開発が進められている小型モジュール炉の代表的な ものとして、NGNP(米)、GT-MHR(米、露)、GTHTR300、HTR50S、MHR-50/100(日本) などがある。 1 .5 各国の状況 高温ガス炉は、システム構成、安全性、高温熱利用性などのユニークな特徴があり、それら
を活かすべく、また世界の新しい時代要請に応えるべく、現在、米国、ロシア、欧州連合(EU)、 フランス、中国、韓国、カザフスタン、ならびに日本で開発が行われている。 日本と中国では試験炉・研究炉が運転中であり、中国、米国、カザフスタンでは実用化に向 けたプラント実証プログラムが進行中であり、また各国で多くの関連研究開発が進行している。 以下に、代表的な高温ガス炉開発国での開発の経緯や計画の概要を示す。 (1)米国 米国は、発電用実験炉の Peach Bottom を 1966 年に初めて臨界させ、1974 年にはそ の運転を終了させた。次に、原型炉の Fort Saint Vrain 炉は 1974 年に初臨界に達したが、 ガス循環機軸受けからの炉内への水浸入トラブルなどに見舞われ、1989 年には運転を終 了している。それらの状況により、後続の同型発電炉の建設計画は、結局全てキャンセル された。1980 年代前半に蒸気サイクルの小型モジュール炉の概念設計が完了したが、 1990 年代に入り、さらに安全性、経済性の向上を目指した GT-MHR(Gas Turbine Modular Helium Reactor)の設計概念が開始された。この GT-MHR は、600MWt の熱出力を直接 サイクルガスタービンで発電する、高い発電効率(約 45~50% )を目指した高温ガス炉 の概念である。その後 1995 年にはロシアの核兵器解体プルトニウムの燃焼処分のための GT-MHR プロジェクトとしてロシア原子力省(MINATOM)との間で共同開発として開発が 継続されたが、その概念設計は 1997 年 10 月に終了している。これと並行し、米国エネ ルギー省 DOE は、化石エネルギーの枯渇、自動車の排ガス対策の一環として、水素エ ネルギーの開発の必要性を唱え、水素の製造、貯蔵、輸送、水素自動車への利用等の本 格的な検討に着手した。更に、「原子力 2010(NP‐2010)」、次世代原子力プラント(NGNP) プロジェクトを含む「第 4 世代炉(GenⅣ)」、「原子力水素イニシアティブ(NHI)」等のプ ログラムを矢継ぎ早に発表し、原子力開発の復活、並びに水素製造開発の具体計画に取り 組み始めた。 (2)南アフリカ 南アフリカは、ドイツで開発された技術をベースに、ペブルベッド型炉心、ガスタービン を用いたモジュラー型高温ガス炉 PBMR(Pebble Bed Modular Reactor、熱出力 400MW、 電気出力 165~185MW、出口温度 900~950℃)を建設のための開発・設計を推進して いた。PBMR は、1993 年に検討を開始し、1995 年にはその計画が公表された。1999 年 にこのプロジェクト推進の専門会社である PBMR 社が発足した。しかし、この建設計画は 度々変更・延期され、2009 年以降経済的な理由によりプロジェクトは大幅に縮小された。 (3)中国 中国では、清華大学がドイツの協力を得てペブルベッド型の熱出力 10MW 試験炉 HTR - 10 の開発をすすめ、2000 年 12 月に初臨界、2003 年 1 月に定格運転を達成させた。 現在までに、蒸気サイクル発電と安全性実証試験を実施してきた。また、次の実証炉 HTR-PM(熱出力 250MW×2、電気出力 200MW、出口温度 750℃)に関し、建設地を山
東省威海市栄成石島湾に決定し、2008 年着工、2014 年運転開始を目指して開発が進め られている。 (4)日本 日本においては、昭和 40 年代から当時の日本原子力研究所を中心に高温ガス炉の調査 研究が開始された。1969 年(昭和 44 年)には、発電用のみならず製鉄化学工業分野等 の熱源として、高温ガス炉の活用が取り上げられた。この関連要素技術の開発として、日 本原子力研究所において、HENDLEL(大型構造機器実証試験ループ)、VHTRC(高温 ガス炉臨界実験装置)、OGL-1(大洗ガスループ)等の施設が設置され、大型構造機器 の健全性、炉物理、耐熱材料、高温機器等に高温ガス炉に関する研究開発が進められた。 その後、1991 年度に、我が国初の高温ガス炉である高温工学試験研究炉 HTTR の建設 が開始され、1998 年 11 月 10 日に初臨界を達成した。引き続き出力上昇試験を実施し、 2001 年 12 月 7 日に原子炉出口ヘリウムガス温度 850℃での全出力運転(30MW)を達成 した。その後、2004 年 4 月 19 日には、原子炉出口ヘリウムガス温度 950℃での全出力運 転に成功した。2002 年度からは、このような優れた安全性を実証するための安全性実証 試験を実施している。一方、核熱利用システム技術の開発は、原子炉の熱エネルギーを クリーンエネルギー媒体である水素の製造や閉サイクルガスタービンによる高温発電に利 用して地球環境保全に貢献しようとするものである。原子力研究開発機構では、水を原料 として水素を製造する技術開発が継続的に進められ、今後 HTTR を活用しての大規模な実 証試験も計画されている。原子力機構で推進中の熱化学法は、IS プロセスと呼称され、 原料である水(H2O)をヨウ素(I2)及び二酸化硫黄(SO2)と反応させて硫酸(H2SO4) とヨウ化水素(HI)とし、これらの物質の熱分解により、各々、酸素(O2)と水素(H2) を製造する。上述のように、わが国においても、HTTR の実験炉としての運転実績を積み ながら、将来の高温ガス炉の広範囲な熱利用を視野に、IS プロセス、高温ガス炉ガスタ ービン発電システムの開発が進められている。 2 .固有の安全性について 2 .1 安全性に関わる原子炉の特徴 軽水炉が金属被覆の燃料を使用するのに対し、高温ガス炉は炭化ケイ素や熱分解炭素等の セラミックスで被覆した直径約 1mm の被覆燃料粒子を用いる。この被覆が核分裂によって生 まれる放射性物質を閉じ込める役割を果たす。この被覆燃料粒子は耐熱性に優れ、金属製被 覆燃料では保持できない 1,000℃を超える高温で長期運転しても、また、事故時に制限温度の 1,600℃という超高温になっても被覆の健全性を損なわず、確実に放射性物質を燃料内に閉じ 込めることができる。燃料内で発生した熱を原子炉外へ取り出すための冷却材には、4~8MPa 程度に加圧したヘリウムガスを用いる。ヘリウムは、相変化も起こさず、化学的に不活性で高温 でも燃料や構造材と化学反応を起こすことはなく、また核的にも不活性なため、1 次冷却系配 管等の破損により系統内のヘリウムが減圧する、いわゆる減圧事故(軽水炉の場合の冷却材 喪失事故に相当)が起きても、極端な特性の変化が起きることはなく、炉心の反応度へ影響
を与えることもない。また化学的に不活性であることから、構造物の腐食の問題や腐食生成物 の放射化の問題もない。一方で、水に比べると冷却性能が低いため、炉心の出力密度は軽水 炉よりも低くする必要がある。原子炉の核分裂連鎖反応を効果的に維持するためには、核分裂 で発生した高速の中性子を減速させる必要がある。軽水炉では、冷却材でもある軽水を減速 材として用いるが、高温ガス炉では、中性子の吸収が少なく、放射線に強く、耐熱性に優れ、 熱伝導性の良い黒鉛を用いる。この黒鉛は炉心構造材としての機能も兼ねている。ただし、黒 鉛は水に比べると減速能が低いので、相対的に大きな質量、すなわち大きな体積を必要とす る。このため、上述のヘリウムを冷却材として用いることとあいまって、軽水炉よりも出力密度 を低くすることが必要になるが、これは逆に炉心出力に対する熱容量を大きくすることになるの で、事故時の急激な温度上昇を抑える効果を与えることになる。また、黒鉛は耐熱性に優れ(昇 華温度約 3,000℃)、高温でも炉心構造材としての健全性を保つことが可能である。 2 .2 高温ガス炉一般の固有安全特性 前項で述べたような原子炉の基本的特徴から導かれる高温ガス炉特有の安全特性をまとめ ると、次の通りである。 ①燃料の耐熱温度が高く、1,600℃を超える高温に長時間さらされても被覆の健全性が損な われることはない。短時間で FP 保持機能が失われるのは、2,000℃を超えるような超高 温状態である。 ②炉心の熱容量が出力に対して相対的に大きいため、異常・事故時の温度挙動が緩慢であ る。 ③1 次系の冷却機能喪失時(減圧事故や強制冷却喪失時など)にも、急激な徐熱能力の変 化がないので、炉心の大熱容量とあいまって、燃料温度の急激な上昇がない。 ④燃料がセラミック被覆であり、炉心構造も黒鉛で構成されているため、炉心溶融の恐れが ない。 2 .3 小型モジュール高温ガス炉の固有安全特性 原子炉の寸法と出力密度をある程度以下に限定することにより、前項に示した高温ガス炉の 安全上の特性を徹底的に活用することができ、万一の事故時にも原子炉が自然に止まり、自然 に冷え、周辺公衆の退避を必要とするような大量の放射性物質を放出する恐れのない原子炉 を造り出すことができる。それが、小型モジュール高温ガス炉であり、原子炉の熱出力は最大 でも 60 万 kWt(電気出力約 30 万 kWe)程度としている。この概念は、スケールメリットによ る経済性向上を狙って最近は 170 万 kWe レベルにまで到達している軽水炉の大型化路線とは 一線を画するものであり、原子炉の安全性を高めて事故時に必要な設備などの簡素化をするこ とにより、原子炉出力を下げても経済性を確保しようというものである。小型モジュール高温ガ ス炉の安全上の特徴を、異常・事故時の 3 原則である、止める、冷やす、閉じ込めるに応じ て、以下に示す。 ①事故時に自動的に原子炉停止 一般に、低濃縮ウランを燃料とした原子炉では、炉心の温度が上昇すると負の反応度フ
ィードバックが働き、自然に核反応が抑制されるという特性を持たせることができる。高温 ガス炉の通常運転時の燃料温度は、事故時の制限温度に対し十分な余裕を持っているた め、事故時に制御棒による緊急停止動作などを行わなくても、原子炉はこの負の反応度フ ィードバック特性により自動的に停止する。この特性は、ドイツの実験炉 AV で実証されて いる。この試験は、定格運転中に 1 次系のガス循環機を停止し、制御棒の操作は行わず に原子炉を放置したものである。原子炉は、負の温度フィードバック反応により直ちに停止 し、その後は毒物であるキセノンの蓄積効果も加わって未臨界が維持されたのちに、キセ ノンの崩壊と炉心温度の低下により約 15 時間後に再臨界となり、ゆるやかな出力振動の 後、定格出力の 1%以下で整定している。これにより、1 次系の冷却機能喪失時に原子炉 をスクラムすることなく放置しても、原子炉は自然に停止し、一定時間後に再臨界にはなる ものの燃料の健全性が損なわれることなく安定するという特性が確認された。また。同様 の試験はわが国の HTTR でも、2010 年 12 月から開始されている。 ②事故時の自然冷却 小型モジュール高温ガス炉は原子炉を小さくすることにより、事故時にも自然放熱で原 子炉を十分に冷やすことができるようにしていることから、原子炉容器外側に設置した冷却 パネルによって事故時の崩壊熱除去が可能である。GT-MHR を対象にした事故時の炉心 温度挙動解析の例では、崩壊熱は、熱伝導およびふく射によって、炉心周囲の構造物や 原子炉圧力容器を伝わり最終的に炉室冷却パネル(RCCS)により除去されるが、その挙 動は緩慢であり、燃料温度がピークに達するのは事故発生から数日後である。また、仮に 炉室冷却パネルの機能喪失を想定した場合でも、原子炉周囲の建物から土壌、大気など への自然放熱によって、原子炉は十分に冷却でき、燃料が健全性を維持できる温度(制 限温度)以下に保持される。 ③事故時に放射性物質を燃料中に閉じ込め 前述のように、万一の事故時に、運転員が何もしなくても、また安全設備が何も機能し なくても、自然界の物理現象のみで燃料の健全性を維持することが可能である。そのため 炉心内に蓄積した放射性物質は燃料中に確実に閉じ込められるので、軽水炉における耐 圧・気密の格納容器の設置は技術的には不要ということができる。 2 .4 シビアアクシデントへの対応 前項に示したように、小型モジュール高温ガス炉では異常事故時に炉心を「止める」、「冷や す」という安全機能が原子炉自身の持つ物理特性によって行われるため、シビアアクシデント として、例えば軽水炉で代表的な設計基盤事故(DBE)として想定されている冷却材喪失事 故(LOCA)に相当する減圧事故等の発生時に、制御棒による原子炉スクラムの失敗や、動的 機器を用いた冷却機能の喪失、あるいは福島第一原子力発電所の事故で経験したような全電 源喪失の同時発生を仮定したような場合でも、原子炉の安全性が損なわれることはない。具 体的な事象推移をまとめると以下の通りである。 ①減圧事故+ スクラム失敗 : 固有特性により原子炉が停止し、炉外の間接冷却系により 崩壊熱除去が行われる。
②減圧事故+ 強制冷却および間接冷却喪失 : 原子炉スクラム後の崩壊熱は、原子炉建 屋や大地への放熱により除去が行われる。 ③減圧事故+全電源喪失 : ②のシーケンスと同様。 2 .5 高温ガス炉特有の事象 高温ガス炉では、燃料や炉内構造物に黒鉛材料を使用しているが、黒鉛は空気(酸素)や水 と下記のような酸化反応を起こす性質があるため、異常事故時の原子炉内への空気もしくは水 の侵入現象に対して注意が必要である。
空気(酸素)による酸化反応 C + O2 → xCO2 + yCO (CO2と CO の発生割合は、黒鉛温度や酸素濃度に依存する。)
水による酸化反応 C + H2O → CO + H2 空気侵入の原因となりうる事故事象としては配管等の 1 次系バウンダリの破損が、水侵入の 原因となりうる事故事象としては、蒸気発生器の伝熱管破損等が考えられる。黒鉛の酸化に関 連して安全上問題となる事項としては、燃料ブロックや黒鉛構造物の酸化による健全性低下、 燃料粒子の FP 保持機能への影響の懸念、CO や H2といった可燃性ガスの生成と爆発の可能 性などがある。なお、高温ガス炉に使われる原子炉級黒鉛は、空気もしくは水の供給が確保 され、かつ温度が高温に維持されない限り酸化反応は維持されないので、黒鉛の持続燃焼、 いわゆる火災を起こす恐れはない。 ここでは、空気侵入事故を対象にして、原因となる事故事象、事故進展のシナリオ、安全対 策等についてまとめる。高温ガス炉では、主冷却系の配管や熱交換器容器を二重として、外側 は低温(原子炉入口側)の冷却材を、内側には高温(原子炉出口側)の冷却材を流すことに より、外側の圧力バウンダリを高温条件としない方式を採用する場合がほとんどである。この 方式の場合、例えば原子炉ノズル近傍の二重管配管のギロチン破断を想定すると、破断箇所 近傍の外気から高温の炉心部、低温の炉心側部流路を経由して外気に戻るパスが形成され、 自然循環が発生する可能性がある。この場合、配管が破断し 1 次系内ヘリウムの炉外への放 出が終了した時点では原子炉内は大気圧近傍のヘリウムで満たされた状態であり、空気濃度 が低すぎて浮力による自然循環は生じないが、分子拡散および微小な自然循環による外部空 気の侵入が続くことにより、炉内の空気濃度はゆっくり上昇し、しきい値を超えた時点で突然自 然循環が開始し、その後は自然循環による空気侵入とそれによる炉内黒鉛の酸化が継続され ることになる。本事象に対する対策として、ドイツや米国の設計例では、原子炉容器と熱交換 器容器の間を接続する部材を配管ではなく容器として設計・製作する方式、いわゆるスリーベ ッセル概念が導入されている。これは、1 次系全体を原子炉容器、熱交換器容器および接続 容器の 3 種の容器(ベッセル)で構成することにより、接続容器の大破断を DBE としては想 定除外するものである。DBE としては、小口径の接続配管の破断のみを想定すれば良いので 大量の空気侵入は生じないこととなる。なお、この場合でも接続容器のギロチン破断を想定外 事象(BDBE)としては評価していて、挙動が緩慢かつ限定的であり、必要であれば運転員対 応による事故収束も可能であるとしている。 わが国の HTTR や GTHTR300 の設計例では、スリーベッセル概念は採用せず一次系二重管のギロチン破断を DBE として想定しているが、前者の場合には鋼製格納容器の採用により、 後者の場合には原子炉建屋のリーク率を限定することにより、いずれも酸化に寄与する空気総 量を制限するという考え方を採用している。GTHTR300 における空気侵入事故時の酸化による 燃料粒子の破損挙動の評価例では、被覆燃料粒子の SiC 被覆の酸化の可能性も考慮した上 で同図に示したような評価を行い、炉心全体で見た場合の燃料の破損割合は 0.02%以下であ るという結論が得られているが、SiC の空気による酸化特性については今後さらに実験データ の取得・拡充が望まれるところである。また、配管破断後の自然循環の開始には炉内の空気 濃度の上昇が必要となることに着目して、微小流量のヘリウムを炉内へパッシブに注入すること により自然循環の発生そのものの防止を目指す、SCAD(Sustained Counter-Air Diffusion)概 念という提案も行われている。 高温ガス炉の原子炉容器上部には、制御棒駆動機構を収めたスタンドパイプが設置される 場合が多いが、このスタンドパイプの破断を想定する場合にも、減圧挙動および制御棒の浮き 上がりもしくは飛び出しによる反応度添加とともに、空気侵入による黒鉛酸化が起こりうる。こ の場合、破断直後に炉内のヘリウムは空気に置換され自然循環も開始するが、空気侵入挙動 は炉心の内側の高温の燃料チャンネルと外側で低温の燃料チャンネル間の温度差が浮力の要 因となることから、炉心部の自然循環流量は前述の 1 次系配管のギロチン破断に比べると小さ くなるが、酸化による影響の評価が必要なことは変わらない。なお、ペブル燃料炉心の場合 には制御棒駆動機構そのものを原子炉圧力容器内に収納することでスタンドパイプそのものを 設置しない方式も可能である。これに対しブロック燃料炉心の場合、スタンドパイプは燃料交 換時に使用するという制限があるため単純に設置をやめる方式は採用できないものの、スタン ドパイプ全体を原子炉容器内に収納してしまい、アクセス時に使用するクロージャの破損は想定 除外にするという考えなども提案されている。 3 .各国の開発状況の詳細について この章については、ホームページの2 .高温ガス炉関連情報の6 .及び7 .も参照してく ださい。 3 .1 米国 米国では、試験炉、原型炉の建設、運転を経験している。現在、それらを踏まえて、かつ、 固有安全性(Inherent Safety)、核不拡散性(Nuclear Non-Proliferation)、クリーンエネルギ ーである水素(Hydrogen)の大量・高効率製造性、物的防護性(Physical Protection)など の新しい時代要請に応えるべく、国が産業界と一緒になって、次世代原子力プラント(Next Generation Nuclear Plant=N G N P )として高温ガス炉プラントの実証プログラムを進めてい る。
3 .1 .1 試験炉、原型炉の建設と運転
米国では、1960~1980 年代に、先ず試験炉として Peach Bottom 炉(115MWt/40MWe) が、次いでより大型の原型炉として Fort Saint Vrain 炉(842MWt/330MWe)が建設され、運
転された。しかし、それらのプラントでは、基本的なシステム実証を行い、発電実績を積んだ が、その後、技術的なトラブルを経験し、その後の経済性見通しが立たないとして、補修、 運転は終結された。そして後続していた多数の同型実用発電所の建設計画も、相次いでキャン セルされた。 3 .1 .2 固有安全炉など新概念の原子炉開発へ 1970 年代後半から 2000 年代にかけて、世界で様々な事故、事件が発生し、原子炉プラン トへの要件も大きく変化して行った。先ず、1970 年代後半~1980 年代半ばにかけてスリーマ イル島(TMI)原発(米国)やチェルノビル原発(旧ソ連)で炉心溶融を伴う「過酷事故(Severe Accident)」が発生し、以来、冷却材喪失などの過酷な事故条件下でも炉心の反応が自動的 あるいは受動的に収束するような、「固有安全炉、本質安全炉(Inherent Safe Reactor)」や 「超安全炉(Super Safe Reactor)」の概念が提案された。次いで 1990 年代後半以降、地球 環境問題への対応の一環として「水素エネルギー社会(Hydrogen Energy Society)」への移 行が指向され、原子力で大量の水素を製造する「原子力水素(Nuclear Hydrogen)」開発プ ログラムなどが生まれた。また米国とソ連(現ロシア)の間で核軍縮交渉が行われ、余剰の 核兵器の解体から出てくるプルトニウム(W-Pu)の処理の必要性が生じた。その対策の一つ として、米国(エネルギー省 DOE、GA、ORNL)はロシア(Minatom(現 Rosatom)、OKBM) と共同で、その余剰 Pu の焼却処理、ならびにその燃焼熱を積極的に利用した高効率発電を 目的とする「ガスタービン・モジュール・ヘリウムガス冷却炉(GT-MHR)」(600MWt/280MWe) の開発の取組みを開始した。また、2001 年 9 月 11 日には航空機が高層ビルや原子力施設を その標的として襲うという世界同時多発テロ事件が起き、以来、原子力施設等における建屋壁 の厚肉設計や主要部分の地下設置設計など、「物的防護(Physical Protection)」の強化の必 要性が叫ばれた。 米国は、DOE が中心となって、上記のような世界の社会や経済の大きな流れや次世代のエ ネルギー開発に向けた新しい諸要件を全てうまく取込む原子炉システムとして、「第 4 世代炉 (GenⅣ Reactor)」国際開発プログラムを開始した。これは、現在の原子力発電の主流であ る大型軽水炉などの「第 3 世代炉」に比べて、下記を要件とする新しい原子力プラントシステ ムの開発であり、これには欧州(EU、フランス、スイス)、アジア(日本、韓国、中国)、カナ ダ、南アも参加している。
「安全性」、「経済性」、「持続性」
「核不拡散性」、「物的防護性」、「水素製造性」、「海水淡水化性」、「開発の国際性」 その具体的な国際開発対象として、下記の計 6 炉型が選定されたが、中でも「安全性」 や「水素製造性」などの観点から「VHTR」が最も高く位置付けられた。この VHTR の開発は後述の「次世代原子力プラント(NGNP)実証プログラム」につながっていっ た。
「超高温ガス炉(VHTR)」
「ナトリウム冷却高速炉(SFR)」、「鉛冷却高速炉(LFR)」、「ガス冷却高速炉(GFR)」
「超臨界圧軽水炉(SCLWR)」、「溶融塩炉(MSR)」3 .1 .3 次世代原子力プラントとしての高温ガス炉プラントの実証開発
これらを背景に、米国では 2005 年に「エネルギー政策法(EPACT-2005)」が成立し、そ の中で明記されている「次世代原子力プラント(Next Generation Nuclear Plant = NGNP)プ ログラム」が開始された。これは「発電」と「水素製造」ができる原子力プラントの開発と実 証を目的として、DOE とアイダホ国立研究所(INL)が中心となって、産業界からの協力、参 加も得ながら推進している。実証すべき原子炉の主対象は、上述の「超高温ガス炉(VHTR)」 (950℃以上)またはやや低温の「高温ガス炉(HTGR)」(750~850℃)であるが、それと 並行して、~700℃以上の高温熱エネルギーの供給が期待できる「原子力ハイブリッド炉 (Nuclear Hybrid Reactor)」(高温ガス炉と化石燃料発電や再生可能エネルギー発電を掛合せ たプラントなど)や「溶融塩炉(MSR)」のプラント概念なども検討されている。 2011 年現在、「フェーズ 1(プラント概念設計検討;2005~2010 年)」の作業がほぼ終了 し、「ペブルベッド型」と「ブロック型」の高温ガス炉について設計評価、各種の原子力水素 製造技術の開発と絞込み、ならびに米国で製造した VHTR 向けの被覆粒子燃料(UCO)や 構造用黒鉛の製造、照射試験等が行われた。具体的に提案、検討された原子炉プラント概念 は下記の通りである。「実証プラント」向け設計、「実用プラント」向け設計、石炭液化(CTL)、 オイルサンド回収など代表的な熱利用に向けた設計などが含まれている。なお途中、NGNP プログラム側で下記のような開発目的や設計要件の変更が行われたために、それぞれの提案 内容も途中で変更、修正が行われている。 < 目的変更とその背景>
「発電と水素製造」⇒「発電とプロセス熱利用」
高温機器システム技術の早期開発の困難性、具体的な需要見積りの変化 < 要件変更>
冷却材(ヘリウムガス)炉心出口温度:「950℃~(VHTR 相当)」 ⇒「当面 700~800℃程度(HTGR 相当)」(中~長期:950℃~) < プラント概念設計提案> (1)WH から「ペブルベッド・モジュール・ヘリウム冷却炉(PBMR)」ベースの提案;
WH と南アフリカ PBMR 起源の PBMR-USA の共同提案であり、元々は「ガスター ビン直接サイクル PBMR」だったが、NGNP の要件変更等に伴って、「蒸気タービ ン・サイクル PBMR」に変更された。ペブルベッド型。 (2)GA から「ガスタービン・モジュール・ヘリウム冷却炉(GT-MHR)」ベースの提案;
元々は GA/DOE/ORNL(米国)と MINATOM/OKBM(ロシア)共同による「ガス タービン・モジュール・ヘリウム冷却炉(GT-MHR)」だったが、その後の NGNP の要件変更等に伴って「水素製造向けモジュール・ヘリウム冷却炉(H2-MHR)」、 「超高燃焼度型モジュール・ヘリウム冷却炉(DB-MHR)」、そして「蒸気サイクル・ モジュール・ヘリウム冷却炉(SC-MHR)」へと変遷している。ブロック型。(3)AREVA-USA から「AREVA エネルギー供給用新型ガス冷却炉技術(ANTARES)」ベ ースの提案;
元々は上出の米国・ロシア共同開発の GT-MHR を起源とするが、それにフランス AREVA が独自の内容を組込んだ間接サイクルのガス冷却炉(ANTARES)」。ブロ ック型。しかしながら、「フェーズ 1」がほぼ終了する 2010~2011 年の時点で、 「フェーズ 2(2011~2021 年;プラント詳細設計、許認可、建設、運転実証)」 への移行に際して、産業側がそのまま継続的に参加できない状況に至った。 すなわち、EPACT-2005 法に明記されていて DOE から改めて提示された産業側の資金負担 率増に追従して行くのは困難として、WH と AREVA-USA が NGNP プログラムからの撤退を表 明した。その WH 撤退、ならびにその開発母体である南アの PBMR プログラム自体も開発の 遅延や費用膨張、それに世界を襲ったリーマン・ショックの影響を受けた南ア政府と ESKOM の財政難などが重なって、開発が中止されるに至った。 一方の GA も、DOE との契約次第として、実質的に継続してフェーズ 2 にも参加する姿勢を 見せていたが、下記のように NGNP プログラム自体の継続が危うい状況を迎えていて、撤退に 近い状況になっている。 NGNP プログラムでは、「フェーズ 2」に移行するには、下記の点でまだ不十分と評価され た。
実証プラントを実際に設計し建設するベンダー、所有者、運転者ならびに最終顧客が、 まだ見つかっていない。
官と民の連携強化が必要(フェーズ 2 では、実用化展開に向けた権益入手との引換え に、民間側の大幅な資金負担が求められている)。
これまで予備的な許認可評価を行ってきた原子力規制委員会(NRC)が今後も継続的 に関与していくことが必須。
設計の 1 本化がまだできていない。 実際に建設し実証する原子炉プラントは当面 1 基との想定で、その設計を「ペブ ルベッド型」か「ブロック型」かのいずれかに絞る必要があるが、設計採用候補 として残っていた WH 提案の PBMR(ペブルベッド型)か GA 提案の SC-MHR(ブ ロック型)かの絞込みがまだできていない。 前出のように、WH の PBMR は 2010 年に NGNP プログラムから撤退し、また南 ア PBMR プログラム自体も消滅してしまった。 一方、GA の SC-MHR も、フェーズ 2 に入るにはまだ課題が残っている。
設置サイトの変更の可能性 産業側の積極的な参加、関与を促すためには、EPACT-2005 法で規定されている アイダホ国立研究所(INL)敷地から、プラントが完成し実証運転した後も、その まま商業運転向けに転用できるように、実際の熱利用需要のある産業地域へ変更 すべき、との声が強く挙がっている。現在のところ、フェーズ 2 にそのまま移行はできず、また 2012 年秋の米国大統領選挙の行 方次第という状況もある。今後、概念設計の仕上げ検討や長期を要する被覆粒子燃料や高温 材料の照射試験などに内容を縮小して、「研究開発プログラム」の形で継続される模様である。 技術や資金などの面で、日本(JAEA、原子力メーカーなど)の一層の協力、貢献が望まれ ている。 なお、この NGNP プログラムに対しては、上述の WH/PBMR-USA、AREVA-USA、GA の ように、プラントの概念設計を通じて直接的に参加した機関の他、日本の東芝、富士電機、三 菱重工のように公募参加機関への協力メンバーとして参加する機関、さらに、下記のように、 米国の電力、原子力メーカー、水素関連など潜在的な熱利用企業が「NGNP 産業連携(NGNP Industry Alliance)」を組んで、NGNP に対し顧客側の諸要件をまとめて提示したり潜在市場の 評価を行うなど、間接的に参加する機関もある。 < NGNP 産業連携(Industry Alliance)グループ>
(電力)Entergy、電力研究所(EPRI)
(原子力メーカー)WH、AREVA-USA、Shaw
(化学工業など熱利用企業)Chevron、Dow、・・ この連携グループは、米国(カナダも含む)の NGNP(=実際上 HTGR または VHTR)の 潜在市場規模は、600MWt/基換算で数 100~1,000 基程度と評価しており、NGNP 実証プログ ラムの国(DOE)主体による継続、推進を強く希望している。 3 .1 .4 小型モジュール原子炉(SMR)の開発 一方、2010 年頃以降、米国 DOE は、エネルギーセキュリティ、地球環境(CO2等の低減) の視点に加えて、途上国への大量輸出、国内製造業の再生などが見込める出力 300MWe 級 以下の原子炉「小型モジュール原子炉(Small Modular Reactor = SMR)」の開発に力を入れ ている。 当該小型高温ガス炉も、軽水炉、高速炉、溶融塩炉などと並んで、その有力対象にされて おり、NGNP プログラムの行方とともに、注目されている。 3 .2 ロシア 1990 年代に、米国とロシアが共同で、核兵器解体 Pu の焼却処理と高効率発電を目的とす る「ガスタービン・モジュール・ヘリウム冷却炉(GT-MHR)」の開発に着手した。現在も米国 との共同研究は継続しているが、その後、ロシアはその GT-MHR をベースに、ロシア進展型 の高温ガス炉を開発し、ヘリウム・ガスタービンなどの主要機器や被覆粒子燃料の自前の製 造技術の開発、実証などを行っている。さらに 2000 年代に入って、水素製造と発電を目指し た「電熱併給用高温ガス炉(MHR-T)」を開発中である。高温ガス炉につき OKBM は、ロシ ア内に 600MWt/基換算で数 100 基程度の潜在市場があると評価している。3 .3 欧州連合(EU) 高温ガス炉につき欧州は、経済開発協力機構(OECD)加盟国として、1960~1980 年代に かけて、先ず英国に共同実験炉「Dragon」(20MWt)を設計、建設し、その基本技術を実証 した。次いでドイツは先ず原型炉「AVR」(46MWt/15MWe)を建設し、蒸気サイクル発電と 安全性を実証、次いで「トリウム高温試験炉(THTR)」(750MWt/300MWe)により、300MWe 級の高温ガス炉の技術、プラントシステム、安全性を実証した。更に、固有安全性を確実化す るために出力密度を一定値以下に抑制した「小型モジュール炉」の概念を初めて取入れた「高 温炉モジュール(HTR-M)」を設計し、安全当局からの設計認証を取得するまで進めた。2000 年頃以降、欧州連合(EU)は、原子力を含むエネルギーの開発について、加盟国が共同か つ戦略的に、研究開発や調査検討を進めている。フランスを実質的なリーダーとして、英国、 チェコ、ポーランドなどが参加しているが、原子力開発から撤退を表明しているドイツ、イタリ アなども、加盟国の一員として、これに参加し、貢献している。EU は、今後の欧州の原子力 は下記の 3 本柱で開発、推進するとしている。 ①軽水炉(LWR)(次世代軽水炉) ②高速炉(FBR)(& 閉じた燃料サイクル) ③高温炉(HTR)(水素製造、プロセス熱利用) この内の③については、下記のプログラムを順次、あるいは並行的に推進している。
「欧州持続的原子力技術プラットフォーム(SNETP)」
「プロセス熱利用・水素・発電統合プロジェクト(RAPHAEL)」
「原子力プロセス熱利用顧客要件評価(EUROPAIRS)」 現在、それらの成果をベースに、更に下記のプログラムを推進している。
「電熱併給産業イニシアティブ(NC21)」
「電熱併給 R&D 向け高温ガス炉(ARCHER)」 EU としては、欧州での過去の実績を踏まえて、かつ次世代の要件を満たすべく、高温ガス 炉の実証炉(または実験炉)プラントを域内に建設し、運転・実証して、その実用化で世界を リードしたいとしている。なお、上出ドイツの「高温炉モジュール(HTR-M)」の設計とその基 本技術は、後に中国の「高温試験炉(HTR-10)」、「高温炉ペブルベッド・モジュール(HTR-PM)」、 ならびに南アの「ペブルベッド・モジュール・ヘリウム冷却炉(PBMR)」に引き継がれ、さら にその PBMR は米国の「次世代原子力プラント(NGNP)」プログラムにおける有力な採用候 補炉の 1 つとして参照されるなど、世界に大きな影響を与えている。3 .4 フランス フランスは前述したように、EU 加盟国の共同開発のリーダーであるが、フランス単独として も 1990 年代以降、高温ガス炉開発に取組んでいる。旧フラマトム(Framatomme)とフランス 原子力・新エネルギー庁(CEA)から成る AREVA が中心となって、以前に参加していた米国・ ロシア共同開発「GT-MHR」プログラムの内容をベースにした進展型「AREVA エネルギー供 給用新型ガス冷却炉新技術(ANTARES)」を開発している。現在は、その活動主体を米国に 移し AREVA-USA として、米国 NGNP プログラムに直接的に、あるいは NGNP Industry Alliance を通じて間接的に、関与している。 3 .5 南アフリカ 南アは、エネルギー、地球環境、輸出性、雇用拡大、より安全で、需要状況に柔軟に対応 できる原子力システムの開発との視点から、国家戦略として、1990 年代以降、ドイツの「高温 ガス炉モジュール(HTR-M)」を参照炉として、「ペブルベッド・モジュール・ヘリウム冷却炉 (PBMR)」の実用化開発に鋭意、取組んできた。このプロジェクトは、2000 年代に入って一 大国際プロジェクト化するまでに至ったが、2010 年に国家の財政事情が悪化し、中止となった。 しかしその技術、許認可、市場評価などの経験は、米国の「次世代原子力プラント(NGNP)」 プログラム、「第 4 世代原子炉(GenⅣ Nuclear Reactor)」、「小型モジュール炉(SMR)」等 の開発に大きく影響を与えた。 3 .5 .1 ペブルベッド・モジュール・ヘリウム冷却炉(PBMR)の開発 1993 年以降南アでは、上記のように国家エネルギー戦略として、高温ガス炉の実用化に向 けた開発が鋭意行われた。先ず南ア国営電力(ESKOM)が、途中からは政府自身がその中 心となって、ドイツ国内で設計認証済でプラント建設の実績は無い「高温炉モジュール (HTR-M)」(200MWt/75MWe)をベースとした「(南ア版)ペブルベッド型高温ガス炉 (PBMR-SA または PBMR)」の実用化開発に取組んだ。これは世界初の「直接サイクル・ ガスタービン発電システム」の開発であり、ESKOM は専業会社 PBMR 社を設立し、設計、 開発、経済性評価、市場性評価等を行った。この開発プログラムには、その起源となるペブ ルベッド炉技術を保有するドイツ(Siemens)、南アに軽水炉を提供した実績があり途中ドイツ Siemens の原子力部門を一時吸収(後に分離)したフランス(& ドイツ)(AREVA-Siemens)、 被覆粒子燃料の製造やヘリウム・ガスタービン設計などの開発で世界最先端を走っている日本 (原燃工、三菱重工)、南アのエネルギー市場でビジネス展開を図りたい米国(ペンシルベニ ア電力(PECO、後に Exelon)、WH、原子力規制委員会 NRC)、さらには WH の原子力部門 を一時吸収した英国(& 米国)(BNFL-WH)などが、資本拠出や技術提供の形で協力、参加 して、ピーク時には参加者総数が 900 名を超す「一大国際開発プロジェクト」に発展した。そ の技術性、安全性、核不拡散性、許認可性について、国際的あるいは中立的な立場から、国 際原子力機関(IAEA)、米国の DOE、NRC などもそれぞれの評価に参加し、協力した。一 方、TMI やチェルノビルの原子炉過酷事故が相次いだ後、新しい要件に基づいて世界で提案 され開発が始まった「固有の安全炉」、「小型モジュール炉」、あるいは「第 4 世代炉」(PBMR
社自身は、PBMR は既にドイツで実績があることから基本的に「第 3 世代」炉でありながら、 後で出された「第 4 世代」炉の諸要件をも既に満しているとして「第 3 世代+ 」炉と主張)な どの中で世界最先行の炉開発プログラム、あるいは最新の「原子力開発モデル」として注目 を浴びた。 3 .5 .2 PBMR の設計変更と開発中止 PBMR は、その開発過程で、保守・補修性や経済性の改善、あるいは想定需要の変化な どにより、下記のような一連の設計見直しや変更が行われた。
プログラム名称: 「PBMR」⇒「PBMR(ガスタービン発電用)」+ 「プロセス熱 PBMR(PHP)(熱 利用)」⇒「PBMR(蒸気タービン発電用)」
タービン、発電機などターボマシンの配置設計: 「垂直式」⇒「水平式」
想定需要: 「ガスタービン発電」⇒「水素製造、高温熱利用(石炭ガス化(CTG)・液化(CTL)、・・)」 ⇒「蒸気タービン発電、中温熱利用」
システム構成: 「ガスサイクル」⇒「蒸気サイクル」
モジュール出力: 「268MWt」⇒「300MWt/120MWe」⇒「400MWt/165MWe」⇒「200MWt/80MWe」 また実証炉プラントの設置サイトを Capetown 市近郊の Koeberg 地区に定めて、実際に被覆 粒子燃料製造やヘリウムガス流動試験など、実証炉プラントの建設に先立つ一連のサブ・シス テム実証試験装置の設置、確証試験が開始され、さらに原子炉圧力容器の製造まで進んだが、 残念ながら、それまでの計画の遅延、設計変更、費用膨張に加えて、2009 年のリーマン・シ ョックの影響が重なり、南ア政府、ESKOM が財政破綻に陥ってしまい、2010 年に PBMR プ ログラムは「大幅縮小」され、そして「中止」に追い込まれた。しかしながら、そこで得られ た技術、許認可、市場性評価、国際的な開発取組み体系等の情報、経験は、現在別途進行 中の中国「HTR-PM」や米国「NGNP」プログラム、さらに国際的に進められている「第 4 世 代原子炉(GenⅣ Nuclear Reactor)」や「小型モジュール炉(SMR)」の開発、流れ等に多 大な影響を与えた。3 .6 中国
高温ガス炉は、現在、発電ならびに多様な原子力熱利用の観点から、大型軽水炉と並んで、 国家エネルギー開発計画の重要項目の 1 つとして位置付けられており、試験炉、実証炉・実 用炉の開発プログラムが進められている。
3 .6 .1 高温試験炉(HTR-10)プログラム 1990 年代より、清華大学が中心となって、発電、電熱併給(コジェネ)、石炭ガス化・液化 (CTG、CTL)、重油改質、地域熱供給など多様な原子力熱利用の実現を目指して、「高温ガ ス炉試験炉(HTR-10)」(北京市郊外、10MWt/2.6MWe)プログラムを進めている。当初はそ の「フェーズ1 」として、蒸気タービン・サイクルのシステム構成「HTR-10ST」により発電と 熱利用の技術試験、安全性実証試験、ならびに関連の研究開発を行ってきた。現在は、炉心 構成はそのまま据え置きだが、「フェーズ 2」として将来のガスタービン・サイクルのシステム 構成「HTR-10GT」に改造・移行すべく、関連の機器開発等を行っている。 3 .6 .2 実証炉・実用炉(HTR-PM)プログラム 一方、上記 HTR-10 の成果に基づいて、実用化を目指す「高温炉ペブルベッド・モジュー ル(HTR-PM)」(250MWt×2/210MWe)プログラムを鋭意推進中。その「原型・実証炉プラ ント」につき、設計、許認可を経て、山東省石島湾地区で設置サイトの準備工事を進めていた が、「全機器国内製造」の方針の下で直面した圧力容器の製造トラブル(鍛造に失敗して再製 造? )、ならびに被覆粒子燃料の製造実証試験、蒸気発生器実証試験の実施等により、当初 2009 年頃の着工予定が数年ずれ込んでいる。2012 年頃の着工、2015 年頃の運転開始が見 込まれている。なお 2020 年頃以降、上記の石島湾サイトに実用炉モジュール計 18 基を設置 し、さらにその後は沿海部と並んで内陸部にも順次進出し、本格的な実用化展開を図る計画で ある。 3 .7 韓国 韓国は、「水素エネルギー」を将来の重要エネルギーの1 つと位置付けており、それを大量 かつ高効率で製造できる原子力技術と結び付けて、原子力研究所(KAERI)、先進科学技術 研究院(KAIST)、エネルギー技術研究院(KIER)が中心となって、2000 年頃から高温ガス 炉(200MWt)と水素製造施設から成る「原子力水素開発& 実証(NHD&D)」プログラムを 開始し、2025 年頃の実証プラントの運開、実証、2030 年頃からの実用化を目指している。日 本が開発している原子力水素製造技術(IS 法)や米国の NGNP プログラムを追跡、フォロー 中である。なお、鉄鋼大手 POSCO が「原子力製鉄(水素還元製鉄)」に興味を示しており、 上記プログラムに参加している。 3 .8 カザフスタン カザフスタンは、新興国であり、また石炭、ウラン、希土類元素(レアアース)等を内蔵す る世界有数の資源国でもある。現在、国家戦略として、それらの資源を外国に売って、代わり に外国から将来自国に根付いていくような形で有用な技術を導入したいと考えている。その一 環で、現在、軽水炉ならびに高温ガス炉の導入を検討している。後者について 2011 年に制定 した国家エネルギー計画に含めており、発電、地域熱供給ならびに水素製造を目指した「カザ フスタン高温ガス炉(KHTR)」(50MWt/15MWe)開発・実証プログラムを推進中。2025 年 頃のプラント完成を見込んでいる。日本(JAEA、東芝他)が、その計画立案、プラント設計、
技術、教育などを含め、全面的に協力している。 3 .9 日本 日本は 1970 年代以降、「原子力多目的利用」、「原子力熱利用」を目的として、「高温ガス 炉」、「原子力製鉄」、「ヘリウム・ガスタービン」、「原子力水素製造」等、一連の研究開発に 継続的に取組んでいる。 3 .9 .1 高温工学試験研究炉(HTTR)の建設、運転、実証研究 1990 年代以降、日本原子力研究所(JAERI)(現「日本原子力研究開発機構(JAEA)」) が「高温工学試験研究炉(HTTR)」(30MWt)を設計、建設、運転、ならびに関連研究を実 施しており、現在、下記のような高温ガス炉プラントの枢要な技術の開発で世界の最先端を走 っている。