目 次
比較一覧表 ・・・・・・・・・・・・・ 1
[1]構造概要 ・・・・・・・・・・・・・ 2
[2]適用床版支間と床版厚 ・・・・・・・・・・・・・ 4
[3]床版設計曲げモーメント ・・・・・・・・・・・・・ 7
[4]橋軸方向の継手構造 ・・・・・・・・・・・・・ 9
[5]品質と耐久性 ・・・・・・・・・・・・・ 11
[6]疲労耐久性 ・・・・・・・・・・・・・ 12
[7]施工性 ・・・・・・・・・・・・・ 14
[8]維持管理 ・・・・・・・・・・・・・ 15
[9]規格化 ・・・・・・・・・・・・・ 15
[10]経済性 ・・・・・・・・・・・・・ 15
[11]これまでの施工実績 ・・・・・・・・・・・・・ 16
[12]参考資料一覧 ・・・・・・・・・・・・・ 17
比較一覧表
評価)◎:最良,○:優れる,△:やや劣るプレキャストPC床版 鋼・コンクリート合成床版 評価項目
評価内容 評
価 評価内容 評
価 適用床版支間と
床版厚
適用基準:道路橋示方書に準拠 適用支間最大6m
床版厚は比較的大(単純版の場合)
○
適用基準:道路橋示方書の適用外 適用支間4~8m
床版厚はRC床版規定より小
△ 床版設計曲げモー
メント
道路橋示方書準拠
最大 20%大きい設計断面力、大きな 耐力有する。
○
鋼構造物設計指針(土木学会)準拠
(一般には6mまで道示式準用)
支間が大きいほど設計が有利 ○
RCループ継手 ○
橋軸方向継手構造
PC構造 ◎
鉄筋継手あるいは底版パネルどう しの高力ボルト接合継手 ○ (1)プレキャストPC床版は工場製作
で安定した高品質・高耐久性製品。
間詰部は場所打ち施工。 ○
(1)鋼パネルは工場製品で均一な 品質。
コンクリートは現場施工で天候など 現場条件の影響を受ける
△ 品質と耐久性
(2)過載荷重等によるひび割れの変 状を全周面に亘って直接目視確認 ができ、品質確認が容易。 ○
(2)底鋼板で覆われているため、過 載荷重等による床版コンクリート下 面のひび割れ等の変状を直接確 認できない。
△
(1)プレストレス量 50%のPC床版と
同等以上を要件。 △
疲労耐久性 高い疲労耐久性を有するPC構造。
◎ (2)床版上面の負曲げ領域はRC構 造でひび割れを許容している。 △ (1)搬送重量大。
パネル設置後の現場作業は大幅 軽減。
△
(1)型枠の合理化、搬送重量小。
コンクリート等の現場施工が比 較的多い。
△ (2)コンクリート打設面で管理が容
易。 ○ (2)コンクリートの充填性等確実な
施工が要件。 △
(3)現場工期短縮。
○ (3)現場工期比較でPC床版の約 2
倍。 △
現場施工性
(4)現場コンクリート打設量小。
騒音・振動の発生小。
施工時の環境負荷小。
○
(4)現場コンクリート打設量大。
騒音・振動の発生大。
施工時の環境負荷大。
△ 維持管理 直接目視による点検可能。
○ 直接目視確認が不可能。点検手 法の難易度も高く、費用も大。 △ 規格化 JIS 規格により統一化。
○ 各社タイプ。
メーカー保証。 △
経済性 プレキャスト化による高品質の確保 と現場工期短縮、JIS 規格化による 省力化。
○
パネル・補強材等の工場組立、型 枠兼用による現場施工の合理化。 ○ 施工実績 古くからの多くの実績があり。
長期の高耐久性を実証。 ◎ 近年多くの採用あり。
長期耐久性保証はまだ不明。 ○
[1]構造概要
1)PC床版
鋼およびPCげた橋のコンクリート床版で、プレキャストPC床版と場所打ちPC床版がある。こ こでは鋼げた橋のプレキャストPC床版に限定して記述する。
プレキャストPC床版は、橋軸直角方向にプレストレスを与えたプレキャストPC床版を主げた上 に設置した後、橋軸方向を一体化させた床版である(図 1.1)。
橋軸方向の接合には、図 1.2 に示すようにループ継手によるRC構造、RC+軸力構造(PRC構 造)、PC構造があり、環境条件、施工性および経済性を考慮して、床版の機能と耐久性レベルが選 択でき、設計手法の自由度がある。
図 1.1 プレキャストPC床版の全体構造概要図(橋軸方向RC構造)
RC構造の例 RC+軸力構造(PRC構造)の例 PC構造の例
図 1.2 橋軸方向の継手構造
【出典】「PC床版設計・施工マニュアル(案)」(H11.5)PC建協
2)鋼・コンクリート合成床版
鋼・コンクリート合成床版は、鋼板や形鋼等の鋼部材とコンクリートが一体となって荷重に抵抗す るよう合成構造として設計される床版である。鋼少主げた向けに長期耐久性を確保する床版として開 発されてきた。
合成床版の底鋼板は、リブ等のジベル材により、コンクリートと一体化された構造(下図の例)で あり、各メーカータイプにより合成構造が異なる。
合成床版の底鋼板は主鉄筋と配力鉄筋,リブが配力鉄筋の役割を兼ね、主げた作用に対しては,現 段階の設計においては底鋼板を無視して設計されている。
図 1.3 合成床版の構造概要図(トラス型ジベル合成床版の例)
例 1.帯鋼を波形に折り曲げ加工したタイプ
(トラス型ジベル)
例 2.スタッドを鋼板に溶接したタイプ (スタッド型ジベル)
例 3.孔明き鋼板を鋼板に溶接したタイプ (孔明き鋼板リブ型)
図 1.4 合成床版の各種タイプ(例)
・合成床版は、鉄筋、コンクリートのほか、構成材料である底鋼板厚、横リブ間隔、横リブ高さ、横 リブ板厚等の鋼材寸法の構造細目をそれぞれメーカー各社タイプごとに定めている。
【出典】「標準合成床版資料」H17.3 改訂第3版 橋建協 3)評価
・PC床版はプレストレスを導入することにより、ひび割れを大幅に抑えられた高耐久な床版である。
合成床版は型枠面で現場施工の合理化が図られたものであるが、その反面、現場での十分な施工、管 理が要求される床版構造である。
・PC床版は、JIS A 5373 プレキャストプレストレスコンクリート製品の中で「道路橋用プレキャ スト床版」として規定されその性能が保証されている。一方、鋼合成床版は、各メーカーによりその 合成構造が異なっており保有性能を一律に評価し難い面がある。
[2]適用床版支間と床版厚
1)PC床版
・PC床版の設計では、道路橋示方書に準拠し最小床版厚を規定している。
・ 最小厚: 単純版 (40L+110)×0.9 mm,連続版 (30L+110)×0.9 mm ここに,L:床版支間(m) ,最小厚≧160mm
【出典】道路橋示方書Ⅲコンクリート橋編 H14 年
・ なお、3,4 主げたの場合連続版として扱い床版厚を薄くしているが、2 主げたの場合は単純版と して扱い床版厚を厚くし耐久性を向上させている。
・下表は、JIS で規格化されたプレキャストPC床版の種類一覧表である。
【出典】「JIS A 5373 推奨仕様 2-4 道路橋用プレキャスト床版」 H16.3
床版の 主げた 標準
長さ 間隔 張出し長
mm mm mm 支間 支点
(H1) (H2)
PDS2-7.9 7 900 4 000 1 950 250 350
PDS2-8.9 8 900 4 100 2 400 250 350
PDS2-9.4 9 400 4 400 2 500 260 360
PDS2-9.9 9 900 4 700 2 600 270 370
PDS2-10.4 10 400 5 000 2 700 280 380
PDS2-11.2 11 200 5 600 2 800 310 410
PDS2-11.7 11 700 6 000 2 850 320 420
PDS3-12.2 12 200 4 700 1 400 240 340
PDS3-12.7 12 700 4 900 1 450 240 340
PDS3-13.2 13 200 5 100 1 500 240 340
PDS3-13.5 13 500 5 200 1 550 240 340
PDS3-13.7 13 700 5 300 1 550 250 350
PDS3-14.0 14 000 5 400 1 600 250 350
PDS3-14.5 14 500 5 600 1 650 260 360
PDS3-14.7 14 700 5 700 1 650 260 360
PDS3-15.0 15 000 5 800 1 700 260 360
PDS3-15.2 15 200 5 900 1 700 260 360
PDS3-15.5 15 500 6 000 1 750 270 370
PDS4-16.0 16 000 4 400 1 400 240 340
PDS4-16.5 16 500 4 500 1 500 240 340
PDS4-17.0 17 000 4 600 1 600 240 340
PDS4-17.5 17 500 4 700 1 700 240 340
PDS4-18.5 18 500 5 000 1 750 240 340
床版の厚さ mm
4 3 種類
2 主げた数
4.0 4.5 5.0 5.5 6.0 6.5 7.0 7.5 8.0 160
140 240 220 200 180 320 300 280 260
床版支間 L(m)
床版厚(㎜)
2)鋼・コンクリート合成床版
・合成床版の最小厚については道路橋示方書の規定がなく、鋼構造物設計指針に準拠し最小床版厚を 定めている。RC床版の最小床版厚規定に対し、薄く設定されている。
・ 最小厚:hmin = 25L+100 mm
ここに,L:床版支間(m) ,最小厚≧150mm
【出典】鋼構造物設計指針 PART B 合成構造物, H9 年 土木学会
・設計床版厚は、最小厚hmin に「底鋼板 6mm+余裕」を考慮した、hmin+10 mm としている。
下表は、支間~床版厚関係の標準を示したものである。
【出典】「標準合成床版資料」H17.3 改訂第 3 版 橋建協
3)比較
[床版厚の支間別比較]
両者の算出式による床版厚を支間別に求めると次表のとおり算出される。
[単純版] (単位:mm) [連続版] (単位:mm)
床版支間(m) PC床版 合成床版 床版支間(m) PC床版 合成床版
4.0 250 210 4.0 210 210
5.0 280 240 5.0 240 240
6.0 320 260 6.0 270 260
・上記床版厚の比較結果より、連続版ではほぼ同じ厚さとなるが、単純版の場合はPC床版の方が 10~60 ㎜程厚く、せん断耐力が大きいということがいえる(○)。
なお、同一厚さの場合でも単位重量の差(PC床版 24.5kN/㎥、合成床版 27.5 kN/㎥)により床版 重量は異なってくる。
[適用支間割の同一幅員比較]
・PC床版は、片持床版のT荷重に対する支間の適用範囲は 3mまで OK であるが、一方の合成床版の 上面は、RC構造であり負曲げモーメントが発生する片持床版のT荷重に対する支間の適用範囲は 1.5mまでに制限するのが妥当と考える。合成床版ではこの 1.5m 規定を上回る張出支間も適用できる としている。
ここでは、同じ幅員で両者の支間割を行ってみる。
図 2.1 の左図は、幅員 11.5mのケースでPC床版を適用した場合を示したものである。この場合、
中間床版支間は適用支間最大の 6m、張出長は支持げた中心より 2.75mとなり、道路橋示方書の適用 支間規定を満足するものとなる。このとき、床版厚は 320mm、床版重量が 7.84kN/㎡。
図 2.1 適用支間例(2主げた橋の例)
中間支間6mで鋼・コンクリート床版を適用すると、この片持部張出長の場合、
T荷重に対する床版の支間は、
2.75 - 0.25(荷重作用位置)-0.5(地覆幅)-0.25(フランジ突出幅)/2=1.88m >1.5m となり、道路橋示方書の片持版支間(RC構造)規定を満足できない。
ここで、この片持部支間を 1.5m 未満とした合成床版の支間割りの結果を示すと次のようになる。
・適用支間: 中間 6.80m、片持 1.48m⇒ 床版厚 280mm、床版重量が 7.70kN/㎡ <
・適用支間: 中間 7.00m、片持 1.38m⇒ 床版厚 285mm、床版重量が 7.84kN/㎡ =
・適用支間: 中間 8.00m、片持 0.89m⇒ 床版厚 310mm、床版重量が 8.53kN/㎡ > このうち、中間支間最大8mについて示したのが図 2.1 の右図である。
以上より、床版重量は ほぼ同じとなるが、PC 床版適用の場合には張出 長が大きくとれ、下部工 幅を小さくすることがで き経済的に優位となる。
一方、図 2.2 のように
「標準合成床版資料」に よれば、同じ2主げたの ケースで張出長 2.5mと している例も示されてお り、合成床版では 1.5m を超える大きな張出長も 適用できるとしている。
図 2.2 適用支間例(2主げた橋合成床版)
4)評価
・PC床版は、道路橋示方書に準拠(○)する限り、合成床版に比べて片持床版支間を大きくとれる ので、バランスの良い中間床版支間(最大 6m)を採用することが可能である(○)。
・一方、道路橋示方書の適用外となれば、合成床版は適用支間を 8mとしているため、広幅員でも支 間割り可能となり、床版厚も薄く重量が軽くなるケースもあり得ることになる(○)。
・同一幅員条件で両者の下部工幅を考えると、張出長を大きくとれるPC床版の方が経済的となる(○)。 PC床版重量 7.84kN/㎡(6m)
115 00 11 500
500 105 00 50 0 500 10 500 5 00
鋼 ・ コ ン ク リ ー ト 合 成 床 版 プ レ キ ャ スト P C 床版
2750 6000 2750 17 50 8000 1750
下部 工 幅 小 張 出 長 小 下部 工 幅 大 張出 長 小
張 出長 大 張 出 長大
[3]床版設計曲げモーメント
1)PC床版
・中間床版適用支間は、道路橋示方書Ⅲコンクリート橋編により一応 6mまでを標準としている。
・6mを越える場合は安全側となる道示式を準用してもよいとされているが、立体 FEM 解析によって適 切な断面力を算出している。
【出典】「PC床版設計・施工マニュアル(案)」H11.5,PC建協
2)鋼・コンクリート合成床版
・中間床版適用支間は、土木学会鋼構造物設計指針により一応 8mまでを標準としている。
片持ち床版支間は、上記指針では 1.5mとなっているが橋建協資料によれば 2.5~3mが適用範囲の 最大値と考えている様である。
【出典】「鋼構造物設計指針」H9,土木学会
3)比較
[設計曲げモーメント算出式の比較]
・次に示す表は、RC、PCは「道路橋示方書」算出式、合成床版は「鋼構造物設計指針」の算出式 である。
版の区分 種類 構造 適用支間(m) 橋軸直角方向 橋軸方向
R C 0<L ≦4 P C 0<L ≦6
合成床版 0<L ≦8 (0.114L+0.144)P (0.095L+0.098)P R C 0<L ≦4
P C 0<L ≦6 合成床版 0<L ≦8 R C 0<L ≦4 0<L ≦4 4<L ≦6 合成床版 0<L ≦8 R C 0<L ≦1.5
0<L ≦1.5
1.5<L ≦3 -(0.6L-0.22)P 合成床版 0<L ≦1.5 -PL/(1.3L+0.25)
R C 0<L ≦1.5 P C 0<L ≦3.0 合成床版 0<L ≦1.5 支間曲げモーメント
単純版
支間曲げモーメント
連続版
支点曲げモーメント
先端付近 片持版
― (0.15L+0.13)P 支 点
-PL/(1.3L+0.25)
P C ―
(0.12L+0.07)P (0.10L+0.04)P
+(単純版の80%)
―
+(単純版の80%)
P C
-(0.15L+0.125)P
-(単純版の80%)
ここに、L:T荷重に対する床版の支間(m)
P:T荷重の片側荷重(100kN)
*上記PC床版、合成床版の数値はそれぞれ前頁で示した算出式により算出した。
*PC床版の 7m,8mの値は道示算出式の延長によって求めた数値である。
図 3.1 支間曲げモーメント(単純版)の比較
4)評価
・PC床版の場合、道示に準拠して算出する橋軸直角方向の支間設計曲げモーメントは、合成床版の 鋼構造物設計指針による算出結果に比べて最大約 20%上回る値となっており、同一支間ではより大き な耐力を有していることがわかる(○)。
・反面、合成床版は支間が大きいほど設計上には有利である(○)。
単純版の支間曲げモーメント(kNm/m)
【PC床版】
(B活割増後) 【合成床版】 合成/PC 【PC床版】 【合成床版】 合成/PC
4 62.2 60.0 0.97 44.0 47.8 1.09
5 77.7 71.4 0.92 54.0 57.3 1.06
6 94.8 82.8 0.87 64.0 66.8 1.04
7 112.8 94.2 0.83 74.0 76.3 1.03
8 131.8 105.6 0.80 84.0 85.8 1.02
床版支間 橋軸方向 L(m)
橋軸直角方向
支間曲げモーメント(単純版)の比較
0 20 40 60 80 100 120 140
4 5 6 7 8
床版支間 (m)
曲げモーメント (kNm/m)
PC床版【橋軸直角方向】
合成床版【橋軸直角方向】
PC床版【橋軸方向】
合成床版【橋軸方向】
[4]橋軸方向の継手構造
1)PC床版
・橋軸方向にプレストレスを導入してひび割れを許容しないPC構造(等方性版)、プレストレス導 入量によりひび割れを許容するPRC構造、およびプレストレスを導入しないRC構造(異方性版)
があり、施工性や経済性を考慮してそれぞれの設計手法を選択することが可能である。
・PC構造による接合方法には、床版目地に無収縮モルタルを充填する方法や、床版目地部をマッチ キャストとする方法がとられている。
・プレキャスト床版の場合は、図 4.1 に示すようなRCループ継手による継手方法を標準とし、JIS 化されている。
図 4.1 RCループ継手の例
・RCループ継手部の疲労耐久性については、輪荷重走行試験により継手のない版との遜色ない十分 な疲労耐久性を有していることが確認されている。
【出典】第 1 回鋼橋床版シンポジウム論文集(H10)、土木学会第 53 回年次学術講演会(H10)
2)鋼・コンクリート合成床版
・鉄筋継手方式と高力ボルト継手方式がある。
前者は、下図(図 4.1)に示すように床版の上下に配力筋を配置し、力を伝達させる継手である。
この継手方式は鉄筋のみ有効としたもので、使用鉄筋には上下D22ctc125mm を配置し、底鋼板どうし はプレートを用いてスタッドボルトで連結している。
鉄筋継手方式 高力ボルト継手方式(摩擦接合の場合)
図 4.1 底鋼板パネルの継手
後者には底鋼板を高力ボルトにより引張接合するタイプと摩擦接合するタイプがあり(図 4.2)、
ボルト本数に応じて等価となる底鋼板を有効とする設計とし、一般に下側鉄筋を配置しない構造とし ている。また、橋軸方向に連結することで、橋軸方向曲げモーメントに対しても底鋼板の断面を有効 としている。
膨張コンクリート
シールスポンジ 打継目処理
補強鉄筋
鉄筋 スタッドボルト 高力ボルト
引張接合タイプ 摩擦接合タイプ
図 4.2 高力ボルトによる接合継手
・ 底鋼板の継手部も含めた輪荷重走行試験により、継手部の変形、溶接部の損傷も無く、十分な疲 労耐久性を有することが確認されている。ただし、長支間適用についての検討も実施されているが、
床版支間最大 6mまでが適用可能であると報告されている。
また、代表的なタイプでの実験報告であり、全タイプについては不明である。
【出典】第 1 回鋼橋床版シンポジウム論文集(H10)、土研、土研センター、橋建協による共同研究(H11~13)
3)評価
・PC床版は、経済性の観点からRCループ継手構造(○)とすることが多いが、二方向PC構造(◎)
とすることで橋軸方向についてもより高い耐久性を確保することが可能である。
・合成床版の高力ボルト接合継手の場合、腐食や疲労によりボルトの脱落も想定され(△)、高機能 橋面防水が望まれる。
・PC床版および合成床版の継手部は、過去に実施した輪荷重走行試験によりそれぞれ高い耐久性が 検証されている(○)。
[5]品質と耐久性
1)PC床版
・プレキャストPC床版は、工場で製作されることから安定した品質の製品が得られる。また、製品 全周面にわたって直接目視が可能であることから表面品質の確認が容易である。
・PC床版上面には、コンクリート床版の耐久性能を十分に発揮させるために全面に橋面防水層を設 けるものとする。
・高強度コンクリートプレキャスト製品(50N/mm2)は、塩分浸透性の面でも非常に耐久性が高く、高 品質・高耐久な製品であると考えられる。
・現場施工となる間詰め部は、プレキャストPC床版と同等以上の強度の膨張コンクリートを使用す ることを標準としている。
【出典】「PC床版設計・施工マニュアル(案)」H11.5,PC建協)
・間詰め部のハンチ(アゴ部分)は無筋となるため、前出の図 4.1 のようにループ鉄筋の下方かぶり 部分に D10 格子状鉄筋を配し補強することを標準としている。そのほか、角欠け防止、第三者被害防 止のための剥落防止対策を予め製品に施すなどの二重対策も必要に応じて施されている。
2)鋼・コンクリート合成床版
・合成床版は、現場でのコンクリート打設が必要とされ天候など現場条件の影響を受けるので品質確 保の面で注意が必要である。
・底鋼板にはモニタリング用の孔(径 25mm 程度)を設けることを原則とされている(「複合構造物の 性能照査指針(案)」H14.10,土木学会)が、直接目視によりコンクリート充填が確認出来ないので慎 重な施工が要求される。
・合成床版は型枠を兼用した底版を有しているため、コンクリートとの剥離が生じると上面からの水 の浸透によりその部分に滞水しやすくなり、底版が腐食する可能性が大きく耐久性を著しく低下させ る要因となり得る。このことから、鋼板の防食処理がほどこされていたとしても、コンクリート上面 には、適切な防水層を設ける必要がある(「複合構造物の性能照査指針(案)」H14.10,土木学会)。
・疲労によるボルト破断などの変状が起きた場合、床版の耐久性に大きく影響を与えるとともに、破 断したボルトが落下し第三者災害を引き起こす危険性があり得る。
3)評価
・PC床版は、接合部を除き、品質管理の行き届いた工場製品であり、低水セメント比のコンクリー トの使用により高い耐久性と高強度が確保されている(○)。
一方、合成床版は型枠の合理化の反面、現場施工による場所打ちコンクリートの充填不良等直接目 視確認が出来ないので品質確保のため慎重な施工が必要となる(△)。
[6]疲労耐久性
1)PC床版
・PC床版は、プレストレスを導入することでひび割れ発生を大幅に抑制できるため、十分な疲労耐 久性のあることがすでに検証されている。
・下図は、RCループ継手の有り、無しの違いによる輪荷重走行試験を実施した試験結果を示したも のであり、継ぎ手なし一体版と何ら遜色ない性状を有していることがわかる。
なお、この結果は通常のフルプレストレスの 75%として設計されたPC床版で実施したものである。
2)鋼・コンクリート合成床版
・合成床版の疲労耐久性は、輪荷重走行試験機を用いた荷重漸増載荷による試験方法により、プレス トレス量 50%のPC床版(道示規定によりフルプレストレスで設計されたPC鋼材量を 50%に減らし たPC床版をいい、以下PRC50%と称す)との相対比較から同等以上の疲労耐久性があることを要 件としている。
・次に示すグラフは、前述のPRC50%と合成床版の一例について輪荷重走行試験を実施した時のそれ ぞれの床版のたわみ量を示したものである。
図に示されるように、床版の残留たわみと弾性たわみに着目し、たわみの進展とPRC50%のPC 床版のたわみ量以下であることを相対比較している。
なお、RC8 は平成 8 年道示に準じて製作されたRC床版の結果である。
・土研・土研センター・橋建協による「道路橋床版の輪荷重走行試験機における疲労耐久性評価手法の開 発に関する共同研究」(H11~H13)にて各種タイプの検証結果が報告されている。
3)比較
・通常、PC構造としては道示によるフルプレストレスと NEXCO 設計要領によるPRC構造(活荷重 時曲げひび割れ許容)の設計しか認められない。そのため、これら輪荷重走行試験で用いたPRC50%
と合成床版、さらには通常設計で用いているフルプレストレスPC床版(PRC100%)の部材の有 している曲げ耐力比較を行ってみた。
結果は、PRC50% : PRC100% : 合成床版 = 1.0 : 1.4 : 3.0 の耐力の差があった。
4)評価
・合成床版の疲労耐久性は、上記PRC50%のPC床版と同等以上の疲労耐久性を有することを必要条 件としており、図で示されている合成床版のたわみ図では確かにPRC50%と同等の耐力のあること が示されている。
しかし、このPRC50%床版の曲げ耐力はPC構造の 1/1.4 で、合成床版と比べると 1/3 しかな く、実際には使われていないプレ導入量の低いPC床版との相対比較となっている(△)。
また、合成床版上面の負曲げ領域はRC構造であることから、実際の構造ではその疲労耐久性はこ の実験結果より劣ることも考えられる(△:疲労試験は単純版で行われているため、上面に引張領域 がある場合の疲労耐久性は不明である)。
・以上を総合して、疲労耐久性の面ではひび割れを大幅に抑えられるPC床版の方が優れている(◎)
といえる。
[7]施工性
1)PC床版
[現場施工性]
・ 搬送計画の際には、寸法や重量を考慮し、パネル割りを行なうことが可能である。
・ 床版工の現地施工は、PC版の架設および継手部施工のみである。
・ 床版工に施工不良があった場合にはその場で目視確認が可能なので、架設前の対応が可能であり、
施工管理が容易である。
[現場工期]
・ 下記モデル事例での現場工期日数は 38 日(合成床版の現場工期の約 1/2)。
【3 径間連続けた(3@60m=180m),主げた間隔 6m,地覆・壁高欄を除く床版工事】
なお、上記の工程はプレキャスト床版、橋軸方向RCループ継手構造とした場合を示したもので、
「PC床版標準積算要領」(H11,PC建協)を基に算定した標準的な工程である。
[施工時環境負荷低減]
・ プレキャスト化により、現場工期の短縮、現場での騒音、振動の発生を抑えることができ、環境 負荷を低減することができる。
2)鋼・コンクリート合成床版
[現場施工性]
・補強材が設置された底鋼板付の形で現場納入されるため、軽量で搬送性に優れるが、コンクリート の打設、仕上げ、養生が通常の場所打ち床版と同様に広範囲となり天候等の環境の影響を受けやすい。
・合成床版内はスタッドや鋼板パネルの鋼材および鉄筋などが錯綜しているので、コンクリート打設 にあたっては、十分な充填性の確認が必要である。特に充填状況の目視確認が出来ないので、事前の 施工試験等で確認されている施工方法で実際の施工を行うことが重要である。
[現場工期]
・ 下記モデル事例での現場工期日数は 70 日(プレキャストPC床版の現場工期に対し、約 2 倍)
【3 径間連続けた(3@60m=180m),主げた間隔 6m,地覆・壁高欄を除く床版工事】
【出典】「新しい鋼橋の誕生Ⅱ改訂版」橋建協カタログ
[施工時環境負荷低減]
・床版全体のコンクリート打設作業に伴う、騒音、振動が発生し、施工時の環境負荷が大きい。
3)評価
・現場施工性、床版コンクリートの品質確保の観点では、プレキャスト床版の方が優位である(○)。
・現場工期比較では、プレキャストPC床版は合成床版の工期の約 1/2 と有利であり、施工規模が大 きくなるほどその差は大きくなる(○)。
・現場でのコンクリート打設に伴う騒音、振動の面では、合成床版の方が周辺環境への負荷が大きい
(△)。
工 種 (日)
プレキャスト床版設置 調整モルタルの施工 継手部の施工
桁端部場所打ち部の施工
50 60 70 10 20 30 40
*1日当り10枚架設。
工 種
(日)パネル設置 鉄筋配置
コンクリート打設養生
10 20 30 40 50 60 70
[8]維持管理
1)PC床版
・コンクリートの劣化状況が直接目視で観察することが可能であり、点検等の維持管理が容易である。
2)鋼・コンクリート合成床版
・合成床版は底鋼板に覆われており、床版下面のコンクリートのひび割れ等の変状を直接目視するこ とができないので,モニタリング孔の設置が必要とされている。
しかし、モニタリング孔で確認できるのは漏水や遊離石灰等の発生等に限られるので、損傷状態の把 握には不安が残るなど維持管理上大きな課題である。
3)評価
・合成床版の方は、直接目視点検が難しいなどコンクリートの劣化変状把握の難しさ、鋼材の腐食対 策等維持管理面に大きな課題を残しているといえる(△)。
[9]規格化
1)PC床版
・プレキャストPC床版は、平成 16 年に JIS で規格化されている。
・JIS 規格では、床版の長さ、主げた本数により計 23 種類が規格化されている(前述 p.5 表)。
【出典】JIS A 5373 の附属書2,橋りょう類Ⅰ類の道路橋用プレキャスト床版 推奨仕様 2-4
2)鋼・コンクリート合成床版
・合成床版は、各タイプそれぞれ鋼板パネルに特徴があり、どのタイプを使用しても一定水準以上の 性能が検証されていることになっている。
しかし、各タイプでズレ止めや補強材形状、底鋼板との溶接継手等が異なり明らかに性能に差がある と思われるので、タイプ選定にあたっては十分留意が必要である。
・標準合成床版として、登録床版 11 タイプ(①トラス型ジベル合成床版、②SC デッキ、③パワース ラブ、④TRC 床版、⑤MESLAB、⑥Uリブ合成床版、⑦QSSlab、⑧チャンネルビーム合成 床版、⑨パイプスラブ、⑩リバーデッキ、⑪ダイヤスラブ)など多数の各社タイプがある。
【出典】「標準合成床版資料」改訂第 3 版 H17.3 橋建協資料 3)評価
・JIS 規格製品であるPC床版(○)とメーカー保証製品である合成床版(△)では、性能保証の面 で大きな違いがある。
[10]経済性
1)PC床版
・JIS 化に伴い工場製作設備、現場架設設備の標準化、作業効率の向上による省力化(○)が期待で き、現場工期の短縮と併せて、トータルとしてコスト縮減を図れる。
2)鋼・コンクリート合成床版
・工場製作で補強材の組み立て、底鋼板による型枠の兼用など現地施工に対する合理化がなされてい る(○)が、コンクリートの品質管理の確保、維持管理の難しさ等の課題が残されている。
3)評価
・床版構造の選定にあたっては、現場施工時の品質管理の確かさ、将来の点検や維持管理費を含めた ライフサイクルコストを考慮することが大切である。したがって、PC床版は、構造部材のプレキャ スト化、品質確保の容易さ、現場工期の短縮も併せ、相対比較では優れているといえる(○)。
[11]これまでの施工実績
1)PC床版
・最近(平成 8 年~16 年)の施工実績の推移を次のグラフで示す。
・初期のプレキャストPC床版施工実績:
新尾形橋(宮城県,単純合成鈑げた橋,5@34.5m)1959 年初めて施工 錦橋(山口県,連続合成2主鈑げた橋)1962 年施工
2)鋼・コンクリート合成床版
・近年、実績が増加しており、PC床版とほぼ同数の施工量に迫っている。
・初期の合成床版の施工実績:
湾岸線南伸Ⅱ期脇浜工区(1991 年)で、現在の形式の原形となるものが初めて適用 田丸大橋(三重県,単純合成鈑げた橋,30m)1998 年施工
【出典】「新しい鋼橋の誕生Ⅱ改訂版」橋建協カタログ
3)評価
・PC床版の最初の実績は約半世紀を経過して問題もなく、長期の高い耐久性が実証されている(◎)。 一方、合成床版は現在のタイプで 8 年程しか経過していないため、実橋での長期耐久性はまだ不明で ある(○)。
合成床版の施工実績
0 100000 200000 300000 400000 500000
8 9 10 11 12 13 14 15 16年度
竣工年度 施
工 橋 面 積(
㎡)
PC床版の施工実績
0 100000 200000 300000 400000 500000
8 9 10 11 12 13 14 15 16上期
竣工年度 施
工 橋 面 積(
㎡)
[12]参考資料一覧
1)PC床版
・平成 6 年 3 月 プレキャスト床版設計施工マニュアル
(社)プレストレスト・コンクリート建設業協会
・平成 10 年 3 月 PC床版 2 主桁橋の最適化に関する技術検討
第二東名・名神 鋼少数主桁橋の設計・施工指針(案)
(財)高速道路技術センター
・平成 11 年 5 月 PC床版設計・施工マニュアル(案)
(社)プレストレスト・コンクリート建設業協会
・平成 15 年 8 月 国土技術政策総合研究資料
鋼道路橋PC床版の施工品質向上策に関する検討(Ⅰ)
PC床版施工マニュアル(案)・施工管理要領(案)プレキャスト PC 床版編 国土交通省 国土技術政策総合研究所
・平成 16 年 3 月 設計・製造便覧
JIS A 5373 プレキャストプレストレストコンクリート製品 附属書 2(規定)橋りょう類
推奨仕様 2-4 道路橋用プレキャスト床版
(社)プレストレスト・コンクリート建設業協会
・平成 16 年 7 月 道路橋用プレキャスト床版設計・製造便覧(JIS A 5373-2004)
(社)プレストレスト・コンクリート建設業協会
・平成 年 PC床版標準積算要領
(社)プレストレスト・コンクリート建設業協会
2)鋼・コンクリート合成床版
・平成 9 年 9 月 鋼構造物設計指針 PART B 合成構造物 (社)土木学会
・平成 17 年 3 月 標準合成床版資料」改訂第 3 版 (社)日本橋梁建設協会
・平成 17 年 3 月 平成 16 年度 鋼コンクリート合成床版施工技術検討会
「設計のガイドライン(案)」 国土交通省 関東地方整備局
・平成 17 年 5 月 合成床版設計・施工の手引き (社)日本橋梁建設協会
・平成 18 年 4 月 鋼・コンクリート合成床版の計画資料(設計例と解説)
(社)日本橋梁建設協会
・平成 18 年 6 月 ’06 デザインデータブック
(社)日本橋梁建設協会
以上