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小学校における体験的活動と学力との相関に関する研究 [ PDF

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小学校における体験的活動と学力との相関に関する研究

キーワード:体験的活動 学力 教科学力 自己教育力 教員の体験的活動に対する意識 所属 教育システム専攻 氏名 本郷 成太郎 1.論文構成 第1章 研究の目的と方法 第1節 研究の目的 第2節 研究の方法 第2章 体験的活動と学力に関する概念規定 第1節 体験的活動 第2節 学力 第3章 体験的活動と学力の実態分析 第1節 体験的活動に関する実態分析 第2節 学力に関する実態分析 第4章 体験的活動と学力との相関 第1節 体験的活動と「目に見える学力(教科学力)」 との相関 第2節 体験的活動と「目に見えにくい学力(自己教 育力)」との相関 第3節 体験的活動と学力との相関についての考察 第5章 教員の体験的活動に対する意識と、体験的活動 や学力との相関 第1節 教員の体験的活動に対する意識と、体験的活 動との相関 第2節 教員の体験的活動に対する意識と、「目に見 える学力(教科学力)」との相関 第3節 教員の体験的活動に対する意識と、「目に見 えにくい学力(自己教育力)」との相関 第4節 教員の体験的活動に対する意識と、体験的活 動や学力との相関についての考察 第6章 研究の成果と今後の課題 第1節 研究の成果 第2節 今後の課題と試行的調査の結果 2.概要 第1章 研究の目的と方法 本研究は、体験的活動と学力との相関関係を検証する ことによって、体験的活動の有効性について明らかにす ることを目的としている。 現在、我が国の教育は、2006年12月に教育基本 法が約60年ぶりに改正されるなど、大きな転換期を迎 えている。そういった中で、小学校では、2011年度 から完全実施される学習指導要領の改訂が行われ、「生 きる力」を育てるため、教育内容の主な改善事項として、 言語活動の充実や理数教育の充実、伝統や文化に関する 教育の充実、道徳教育の充実などとともに、体験活動の 充実の必要性が示された。 また、筆者は、現場の教師として、1999年から2 年間「自力解決力を育てる総合的な学習~多々良川に働 きかけるテーマ学習を通して~」に取り組み、2003 年から4年間「自力解決力を育てる生活科学習指導~地 域環境に働きかける共感的活動を通して~」に取り組ん だ。現場の教師としての一実践であったが、コミュニケ ーション力や記述力などの表現力の向上や自己教育力の 向上を通して、体験的活動の有効性について実感するこ とができた。 ただ、一方で、ベネッセ教育研究開発センターが実施 した教員の学習指導に対する意識調査によれば、200 2年の調査と2007年の調査を比較して、小学校教員 の場合、「体験することを取り入れた授業」「表現活動を 取り入れた授業」「自分で調べることを取り入れた授業」 「グループ活動を取り入れた授業」を心がける教員の割 合が減少し、「教科書に沿った授業」を心がける教員の 割合が増加していることがわかった。ここ数年の教育変 革による多忙化の中で、体験的活動を心がける教員の割 合が減少し、教科書に沿った授業を心がける教員の割合 が増加しているのである。 こういった状況の中で、体験的活動の有効性について 検証することは、体験的活動に対する教員の意識を変化 させる上でも意義深いと考える。 また、本研究は、F県の公立小学校A校の全児童約7 00名と教員を研究対象としている。A校において、次 の2つの調査を行い、実態分析と相関関係を検証した。 一つは、2008年7月と2009年3月に、全児童を 対象に実施した体験的活動と自己教育力に関する質問紙 調査である。その際、A校で2008年1月と2009 年1月に、全児童を対象に実施された算数のCRTテス

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トで得られたデータも加えて分析を行った。もう一つは、 2009年3月に、A校の教員を対象に実施した体験的 活動に関する質問紙調査である。 第2章 体験的活動と学力に関する概念規定 奈須正裕(2009)は、大人でさえ、社会生活の中 で知識や技能を身につけ、ことの本質に気づいていく際 には、直接体験を基盤としていることの方が圧倒的に多 い。直接体験による学習が特殊的な位置づけに甘んじて いるのは、学校という人為的にしつらえられた学習空間 だけかもしれないと指摘し、学校における直接体験の必 要性を強調している。また、奈須は、その際の教師の役 割として、①子どもたちの生活現実や関心事の延長にあ る、ただ暮らしているだけではしっかりと向かい合えな いような教育的に価値ある体験との出会いをコーディネ ートすること。②ただ、体験を提供するだけでなく、事 後に子どもたちがゆっくりとその意味を抽出しその妥協 性を吟味できるような場を保障すること。③各自が体験 を噛みしめ、稚拙でもいいから、その子なりの意味を抽 出する機会を十分に保障した上で、仲間との交流の場を 設定することが重要であるとしている。佐藤真(200 7)や山口満(2007)も同様の指摘をしている。 筆者も、3者同様、日常の学習活動の中に、いかに体 験活動的要素を取り入れるかが重要だと考える。そこで、 本研究では、「日常の学習活動の中にある体験活動的要 素を持つ活動」を「体験的活動」と定義する。具体的に 言えば、身近な動植物へのかかわりを通した体験的理解、 読む力を体験的に身に付ける音読や朗読、算数での操作 的活動による規則性の発見、理科での現象の本質にせま る観察や実験等である。 志水宏吉(2005)は、知識や技能からなるA学力 を生い茂る「葉」に、思考力・判断力・表現力からなる B学力をすっくと伸びた「幹」に、意欲・関心・態度か らなるC学力を大地をとらえる「根」に相当するものだ とし、3者が渾然一体となって成長し、「学力の樹」を 形づくっていくとした。 A学力である「葉」については、子どもたちが学びと る個々の知識や技能が、一枚一枚の葉っぱであり、生い 茂った葉っぱが総体として大きな力を発揮するように、 子どもの成長にとって不可欠な要素であるとした。また、 葉っぱが四季のサイクルの中で枯れたり、生えかわった りするように、必要に応じて知識を更新したり、新しい ジャンルの知識を付け加えたりしていくことが大切だと している。 C学力である「根」については、葉っぱと違って、通 常は目に見えない、地中の隠れたところにあるが、その 樹の存在自体を支えるという重要な役割があるとし、近 年の教育改革の中で重視されている意欲・関心・態度を 子どもの成長にとって根源的な部分であるとした。 そして、両者をつなぐ「幹」や「枝」に相当するのが、 思考力・判断力・表現力からなるB学力だとした。樹は、 葉から根へ、あるいは根から葉へと、水分や栄養分が受 け渡していく中で、徐々に幹や枝を太らせていく。これ は、子どもたちが、学校で学ぶ具体的な知識や技能を、 自らの生活や生き方との関連で使いこなしていく過程を 通じて、しっかりとした思考力や判断力や表現力を育ん でいくという事態と照応しているとした。筆者は、この 志水の「学力の樹」の理論に賛同する。 また、落合幸子・築地久子(1994)も「太い幹が 出来てしまえば、あとは葉をちょこちょこと付け加える だけ」として、「学習者を木に喩えて、幹にあたる、夢 や強い願いや見通しからなる『志』を持たせたり、根に あたる『自己原因性の感覚』を身につけさせたりするこ とが大事だ」としている。さらに、それらの実態をとら えるため、学び方、生き方、学習意欲の3観点からなる 自己教育力テストを実施している。この部分は、通知表 や指導要録で点数化しにくい部分でもあり、志水の「学 力の樹」の理論のB学力の一部やC学力と重なる部分が 多いと言える。 そこで、志水の「学力の樹」の理論の中のA学力と、 B学力の中で通知表や指導要録で点数化しやすい部分を (1)知識・理解(2)技能・表現(3)思考・判断の 3観点からなる「目に見える学力」=「教科学力」とし、 B学力の中で点数化しにくい部分とC学力を落合幸子・ 築地久子が実施した調査を参考に、(1)学び方(2) 生き方(3)学習意欲の3観点からなる「目に見えにく い学力」=「自己教育力」とする。本研究では、「学力」 をこの「目に見える学力(教科学力)」と「目に見えに くい学力(自己教育力)」の二つの力からなるものと定 義する。 第3章 体験的活動と学力の実態分析 まず、体験的活動については、観点1の直接体験に関 する児童の意識や観点2の授業中の体験的活動に関する 児童の意識について肯定的に回答している割合が高かっ た。特に、学習内容に体験的活動を多く含む総合的な学 習や生活科の学習に対して肯定的に回答している割合が 9割近くに達していた。ただ、観点3の現在の体験的活

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動の経験そのものを尋ねた質問項目については、肯定的 に回答している割合が7割程度にとどまっていた。逆に 言えば、3割近くの子どもが、不思議だなと思う体験や みんなに話したくなるような体験を現在していない状況 にあると言える。 次に、教員の体験的活動に対する意識については、観 点1の直接体験に関する教員の意識や観点2の授業中の 体験的活動に関する教員の意識、観点3の体験的活動に 関する教員の支援の3つの観点とも肯定的に回答してい る割合が高かった。ただ、その中で、総合的な学習に関 する質問項目や、振り返り活動や評価活動に関する項目 については、肯定的に回答している割合が5割に達して いなかった。教員は、授業の中に、体験的活動を積極的 に取り入れようとしているが、多忙のあまり、体験的活 動を自ら計画立案しないといけない総合的な学習まで手 がまわっていないのではないかと考えられる。また、体 験的活動後に表現活動や話し合い活動までは積極的に行 っているが、振り返り活動や評価活動までは手がまわっ ていないという実態も明らかになった。 さらに、学力の一方の要素である「目に見える学力(教 科学力)」について、A校で実施された算数のCRTテ ストをもとに分析を行った。その結果、5つの学年で全 国平均並みかそれ以上の得点をとっており、前年度から の伸びも5つの学年で全国平均との差に伸びが見られ た。観点別に分析しても、観点1の「知識・理解」、観 点2の「表現・処理」、観点3の「数学的な考え方」と も大きな伸びが見られ、特に、2つの学年では、5ポイ ント以上の伸びが見られた。A校は、算数の教科学力が 伸びている学校であると言える。 また、学力のもう一方の要素である「目に見えにくい 学力(自己教育力)」については、観点1の学び方につ いてトップボックスの数値が3割程度にとどまってお り、まだ、学び方がきちんと定着していないと言える。 観点2の生き方や観点3の学習意欲については肯定的に 回答している割合が高かった。筆者自身は、学習意欲を 高め、学び方を教える中で、生き方も高まっていくもの だと考えていたが、以外にも、数値だけ見ると、先に「生 き方」が高まっている実態が明らかになった。 最後に、「目に見える学力(教科学力)」と「目に見え にくい学力(自己教育力)」との相関について検証した。 2つの関係の有意確率を見るために、Pearsonの カイ2乗検定を行った結果、1%水準で正の相関が見ら れ、学び方や生き方、学習意欲といった自己教育力を身 につけた子どもほど、教科学力(算数)の伸びや得点が 高いことがわかった。 第4章 体験的活動と学力との相関 体験的活動と学力との相関については、体験的活動 と「目に見える学力(教科学力)」及び「目に見えにく い学力(自己教育力)」との相関という2つの点から検 証を行った。ここでも、2つの関係の有意確率を見るた めに、Pearsonのカイ2乗検定を行った。 まず、体験的活動は、教科学力(算数)の伸びとは5 %水準で相関が見られ、観点によってバラツキがあるも のの、教科学力(算数)の得点とは1%水準で相関が見 られた。「体験的活動」と「目に見える学力(教科学力)」 とは、一定の正の相関関係にあった。また、体験的活動 の3観点の中で相関が強かったのは、直接体験に関する 児童の意識であり、教科学力の3観点との相関について は、観点3の思考・判断にあたる「数学的な考え方」と の相関が一番強かった。 一方、体験的活動は、自己教育力の伸びと自己教育力 の総点のどちらとも1%水準で相関が見られた。「体験 的活動」と「目に見えにくい学力(自己教育力)」とは、 強い正の相関関係にあった。体験的活動の3観点の直接 体験に関する児童の意識、授業中の体験的活動に関する 児童の意識、現在の体験的活動の経験のどれとも相関が 強く、さらに、自己教育力の3観点である学び方、生き 方、学習意欲のどれとも強い相関関係にあった。 以上のことから、体験的活動と学力とは、正の相関関 係にあると言える。 第5章 教員の体験的活動に対する意識と、体験的活動 や学力との相関 ここでも、2つの関係の有意確率を見るために、Pe arsonのカイ2乗検定を行った。その結果、教員の 体験的活動に対する意識は、直接体験に関する児童の意 識や教科学力の伸びや得点、自己教育力の伸びと相関が あった。特に、教科学力や自己教育力の伸びと相関があ り、教員の体験的活動に対する意識は、子どもの学力の 伸びに影響を与えると言える。 ここで、教員の体験的活動に対する意識についての質 問項目の中で、体験的活動や「目に見える学力(教科学 力)」、「目に見えにくい学力(自己教育力)」のどれとも 相関があった質問項目について見ていくことにする。ど れとも相関があった質問項目は、「問15:実験や観察 等では、代表の子どもだけでなく、すべての子どもが関 われるように工夫している」「問16:子どもが主体的 に企画・運営する活動を積極的に取り入れている」「問

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21:総合的な学習や生活科によって、今までとは違う 力がついたと思う」「問26:調べたり、考えたりした ことを互いに伝え合うことで、新たな気づきを得たり、 思考を練り上げたりする活動を重視している」「問30 :子ども間の相互評価を通して、自分自身を相対化して 見つめさせる指導を積極的に取り入れている」の5項目 であった。これらの5項目は、これからの教員の在り方 に重要な示唆を与える質問項目だと言える。 第6章 研究の成果と今後の課題 本研究の成果として、まず、「体験的活動と学力との 相関図」を構築できたことをあげたい。図1の相関図が 示しているように、体験的活動が、子どもたちの成長に とって土台となる自己教育力に影響し、さらに、教科学 力にも影響を与えていることを明らかにすることができ た。また、体験的活動が、子どもたちが身に付けるのに 比較的時間がかかる、教科学力の中の思考力にも影響を 与えていることを明らかにすることができた。体験的活 動が、学力の中でも、特に、自己教育力や、教科学力の 中の思考力と相関があることは、体験的活動の有効性を 示す重要なポイントだと言える。 図1 体験的活動と学力との相関図 目に見える学力 一定の (教科学力) 相関 1:知識・理解 体験的活動 2:技能・表現 1:直接体験 3:思考・判断 2:授業中の体験 的活動 強い相関 3:現在の体験的 活動の経験 目に見えにくい学力 (自己教育力) 強い相関 1:学び方 2:生き方 3:学習意欲 また、学校で行われる教育である以上、教員の意識が 何らかの形で児童に影響を与えることは否定できない。 そこで、教員の体験的活動に対する意識と、体験的活動 や学力との相関関係を検証した結果、教員の体験的活動 に対する意識が、児童の直接体験に対する意識に影響を 与えていることや学力の伸びと相関があることを明らか にすることができた。 さらに、「体験的活動を多く取り入れることができる 総合的な学習や生活科に対して肯定的な意識を持ち、子 どもが主体的に企画・運営する活動を積極的に取り入 れ、すべての子どもが関われるように工夫し、子ども間 の相互評価を通して、新たな気づきを得たり、思考を練 り上げたり、自分自身を相対化して見つめさせたりする 活動を重視している教員」のクラスの子どもの方が、体 験的活動に対する意識が高く、教科学力と自己教育力か らなる学力も高いということを明らかにすることができ た。これは、これからの教員の在り方に重要な示唆を与 える一種の教師のモデル像を示したもので、このことも 本研究の成果だと考える。 次に、本研究の限界と今後の課題について述べる。 まず、教科学力を算数科に絞って検証を行っており、 他の教科には言及していない。国語科や理科、社会科等 を含めた教科の全体的な学力との相関を検証することが 必要である。 また、体験的活動と学力との相関については、単年度 の調査で、しかも質問紙調査による数値のみで相関関係 があることを明らかにしたに過ぎない。今後は、研究対 象へのインタビューや授業観察等も含めて、より綿密な 調査を継続的に行うことが必要である。 さらに、教員の体験的活動に対する意識については、 体験的活動や学力との相関を明らかにしたに過ぎず、体 験的活動に対する意識が高い教員とは、どのような教員 なのか、そのような教員が持っているどのような資質が、 体験的活動や学力に影響を与えているのかまでは明らか にできていない。この点についても、今後、調査を続け る必要がある。 3.引用文献・主要参考文献 ・落合幸子・築地久子『自立した子を育てる年間指導』 明治図書出版 1994年 ・佐藤真「今、なぜ『体験』が重視されるのか」佐藤真 編『体験学習・体験活動の効果的な進め方』教育開発 研究所 2007年 ・志水宏吉『学力を育てる』 岩波書店 2005年 ・田上哲「教育における学力とその評価に関する一考察」 『香川大学教育実践総合研究』第11号 2005年 ・奈須正裕「『体験』を基盤とした学びとは」『児童心理』 第63巻第12号 金子書房 2009年 ・山口満「学校教育活動における『体験』の課題」佐藤 真編『体験学習・体験活動の効果的な進め方』 教育 開発研究所 2007年

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