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日本臨床麻酔学会 vol.32

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Ⅰ 歴  史1)〜 3)  心臓を電気的に興奮させる試みは 18 世紀頃から 始まった.最初はバッテリーを用いて体表面から刺 激していたようである.  1932 年に Hyman が「artificial pacemaker」と命 名した世界最初の人工ペースメーカーを製造した4) 臨床的にペースメーカーを使用し有用な報告をした のは 1952 年の Zoll が最初である5).彼は体外式ペー スメーカーを用いて心停止の症例を救命した.しか し体表式のため火傷が生じ,痛みを伴うのであまり 広 ま る こ と は な か っ た.1958 年 に は Senning が Elmqvist の開発した植え込み型ペースメーカーを 患者に植え込んだ.1965 年に Lemberg が demand 型(R 波に同期,または自己リズムが出ると抑制)の ペースメーカーを実用化した.1974 年に Cordis 社 が体外からの電磁波を利用することで植え込み後に 設定を変更できるペースメーカーを作製した.  患者の病態に合わせて種々の機能が改良され,そ れに伴いペースメーカーの植え込み適応が拡大され ていった(図 1). Ⅱ ペースメーカーの原理と構造1), 6) 1. 原理  心筋は自己リズムより速い刺激に対して興奮する 性質がある.主に徐脈発作に対して用いられるペー シング治療の原理である.また,ある一定以上の刺 激の強さで収縮し始めるが刺激の強さと収縮力とは 関係ない.  心筋は刺激で興奮すると約 250 ∼ 300msec の間こ の状態が持続し,次の刺激に反応しない.この間を 心筋の絶対不応期という.この後は刺激が強ければ 再び興奮する.これを相対不応期という.  ペースメーカーは刺激閾値を低くすることにより 刺激電流を低減できるため,さまざまな工夫がされ ている. 周術期の危険な不整脈診断のポイントと抗不整脈薬の上手な使い方 日臨麻会誌 Vol.32 No.3, 448 〜 460, 2012

心臓ペースメーカーの原理,適応,モード選択

吉村 学

 国沢卓之

[要旨]ペースメーカーは心臓に接触している電極リードを介して心臓に電気刺激を与える装置で ある.近年ペースメーカーの著しい進歩によりペーシングモードの幅が広がり,また房室順次ペー シングや心拍応答機能によりほぼ生理的心拍動を再現しうるに至っている.ペースメーカー植え込 み手術は毎年 50,000 例を超えている.麻酔科医にとって基本的なペースメーカーの理解は必須 である.また術中の突然の徐脈発作に対して一時ペーシングを必要とする症例も存在する.ペース メーカーの原理,構造,基本的なモードについて言及し,日本循環器学会から発表されているガイ ドライン(2011 年改訂版)に基づきペースメーカー植え込み適応を概説する. キーワード:ペースメーカー,ペースメーカー植え込みの適応,モード選択

[基礎編]

著者連絡先 吉村 学 〒 078-8510 北海道旭川市緑が丘東 2 条 1-1-1 旭川医科大学麻酔・蘇生学講座 *旭川医科大学麻酔・蘇生学講座

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 閾値は相対不応期のときは陽極性刺激の方が低い が,不応期以外では陰極性刺激の方が低くなる.こ のためペースメーカーでは陰極性刺激が用いられて いる.  また,刺激閾値は通電時間を十分に長くした場合, 図 2 のような変化を示す.通電時間を無限大にした 場合の閾値をレオベースという.エネルギーは閾値 がレオベースの 2 倍となる点で最少となることが知 られており,この通電時間をクロナキシーという.  閾値はまた,電極の面積により変化することが知 られている.電流閾値は電極面積に比例して変化す るが電圧閾値はあまり変化しない.電極面積を小さ くすれば電圧閾値はほぼ一定のまま刺激電流を低減 できる. 2. 構造 1)電池  開発当時は水銀亜鉛電池が使用されていたようで あるが,電池寿命が短く消耗が徐々にではなく急激 に起こるため,交換時期の予測が困難であり用いら れなくなった.現在ではリチウムヨード電池が用い られている.電池寿命が 5 ∼ 8 年と長く電池消耗が 予測可能である.プラス極がリチウム,マイナス極 がヨードで間にポリビニルピリジンが入っており完 全密封されている. 図 1  シングルチャンバーペースメーカー(左)とデュアルチャンバーペース メーカー(右) 〔©2011 Medtronic, Inc.〕 図 2 通電時間と刺激閾値の関係 〔文献 6)より引用・改変〕

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 電池消耗により交換時期に近づくと,例えばデュ アルチャンバーのあるものでは VVI 65/ 分と設定 が自動的に交換指標へ変化する機種もある. 2)ペーシングリード  リードには抵抗が少なく腐食しにくい合金(プラ チナ,イリジウム,ニッケル)が用いられている. リードは電流が心筋に接している先端以外は,漏れ ないように組織親和性がよく柔らかいポリウレタン やシリコンラバーの絶縁体で覆われている. 3)電極  心筋を刺激興奮させる方法として単極刺激と双極 刺激の 2 種類がある.刺激の性能はどちらも遜色な い.単極刺激は先端電極がマイナス極,ペースメー カー本体がプラス極となる.双極刺激は先端が 2 つ の電極から形成されている.心電図記録から両者の 鑑別ができ,電気シグナルは双極刺激で小さく,単 極刺激で大きい.  刺激の面では電極面積が小さい方が有利であり, リードの先端にあるペーシング電極は最近では 8 ∼ 12mm2となっている.電極と心筋との接触状態が 重要なのでさまざまな形の電極が考案されている (図 3).  通常の電極では装着 2 ∼ 4 週間後に閾値が上昇 し,その後低下して安定する.このため閾値上昇を 抑える目的でステロイドを塗布したリードが用いら れている. 4)回路7)  ペースメーカー回路は入力部,出力部,制御部(論 理制御),テレメトリー部,基準タイミング発生部, 電源部に大別される.  センシングされた心臓の電気信号は増幅,整形さ れて論理制御回路へ送られる.ここでは基準信号発 生回路から動作タイミングの周期を得て各種タイマ ーに送るとともに,入力信号をもとに必要な動作を 行う.テレメトリー回路はプログラマーからの指令 を解読し論理制御部へ送るとともに,命令に応じて 内部情報を符号化して送り出す.電源回路には監視 回路が付属しており残留容量に応じて警告信号を論 理制御部へ送り出すしくみとなっている(図 4). Ⅲ ペースメーカーの適応 1. 一時ペーシングの場合8)  AHA 心肺蘇生ガイドライン 2010 の徐脈アルゴリ ズムに準じて治療を開始する9).虚血性心疾患に合 併する重症洞不全症候群,高度房室ブロック,失神 など重篤な症状を示す場合,薬物を投与しつつ,体 外式ペーシングや一時的経静脈ペーシングを準備す べきである. 1)経皮ペーシング  Mobitz Ⅱ型 2 度房室ブロックや 3 度房室ブロック に対して優先される治療となる.体外式ぺーシング 中,患者はかなりの苦痛を伴うためバイタルが安定 した時点で鎮静を行う.また,有効な心室刺激が得 られているか動脈圧モニターやパルスチェックで確 図 3 心筋電極 〔©2011 Medtronic, Inc.〕

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認すべきである. 2)経静脈ペーシング  VVI 型が主に使用されている.内頸静脈,または 大腿静脈にシースを挿入し,そこからペーシングカ テーテルを右心室に留置する.透視下で行うのが確 実である. 3)心外膜ペーシング  心臓手術後の徐脈に対して施行される.電極は目 的に応じて心房,心室,または両方に固定される. 4)テンポラリーペースメーカーの設定  設定は主にレート(rate),刺激(stimulate),感度 (sensitivity)の 3 つである.はじめにペーシング閾 値,センシング閾値を測定する.  出力を高い状態にし,ペースメーカーを作動させ 徐々に出力を下げていく.ペーシング波に続く心電 図波形が出なくなる直前をペーシング閾値とする.  低い電圧に感度を設定しておき徐々に電圧設定を 上げていく.正常心電図が生じたときに抑制されて いたペーシング波が正常心電図出現に関係なく生じ る直前の値をセンシング閾値とする.  安全域を確保して,出力をペーシング閾値の 3 倍 程度,感度をセンシング閾値の 1/3 程度に設定する. 2. 植え込み型ペースメーカーの場合10)  ペースメーカー植え込みの適応の基本は徐脈によ る脳虚血症状や失神,運動耐容能の低下,心不全症 状などである.症状と徐脈の因果関係があり,ペー シングによって症状が改善されることが明らかであ ればペースメーカー植え込みの適応となる.  各疾患のペースメーカー植え込みの適応について は ACC/AHA によりガイドラインが示され,2002 年に改訂されている11).日本の医療事情に合わせた ガイドラインは日本循環器学会合同研究班により作 成されており,2011 年に改訂されている12)  このガイドラインは適応を大きく 3 段階に分けて おり, Class Ⅰ: 有益であるという根拠があり,適応であ ることが一般に同意されている Class Ⅱ a:有益であるという意見が多いもの Class Ⅱ b:有益であるという意見が少ないもの Class Ⅲ: 有益でないまたは有害であり,適応でな いことで意見が一致している  Class Ⅰは絶対適応と考えられるが Class Ⅱは患 者,家族,医師で医学的社会的要素を鑑みて適応を 決めているのが現状である.以下に日本循環器学会 のガイドラインに基づいて疾患別にペースメーカー の適応を検討する. 1)房室ブロック(表 1)  ブロックに伴う徐脈による症状があることが最も 図 4 ペースメーカーの基本構造 〔文献 7)より引用・改変〕

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重要となる.高度または第 3 度房室ブロックでは投 与不可欠の薬剤によるものや手術,アブレーション 後で不可逆的なもの,徐脈や心停止(心室拍数 40/ 分以下の徐脈や 3 秒以上の心室停止が参考値とな る)のあるものが適応となる.  周術期の高度房室ブロックへの移行も報告されて おり13)術前から心電図変化に注意が必要である.  また,左脚ブロックを有する患者で肺動脈カテー テル挿入の際に完全房室ブロックに移行する可能性 があるので,経皮ペーシングを準備し慎重に挿入す べきである14) 2)2 枝および 3 枝ブロック(表 2)  高度ブロックに移行するかどうかの判断が重要で あり His-Purkinje 系伝導能の評価が重要となる. 電 気 生 理 検 査 に よ り 著 明 な HV 間 隔 の 延 長 (> 100msec),心房ペーシング(150/ 分以下)によ る His 束内または His 束下ブロックの誘発,Ⅰ a 群 抗不整脈薬静注による His 束または His 束下ブロッ クの誘発があれば適応となる.  周術期の 2 枝および 3 枝ブロック症例の一時ペー シング挿入の報告は散見するが15), 16),その適応はガ イドラインに準じる.  無症状の 2 枝および 3 枝ブロックに積極的に電気 生理検査が行われていることはまれである17).無症 候性であっても高度房室ブロックに対応できるよう にしておく. 3)洞機能不全症候群(表 3)  洞機能不全症候群はペースメーカー植え込みの適 応に関し,特に症状が重視される.失神発作や息切 れ,易疲労感などの症状が確認された場合は適応と なる.  種々の麻酔薬は副交感神経系を優位にするため潜 在性の洞不全症候群が顕在化することがあるので麻 表 1 房室ブロック Class Ⅰ:  1. 徐脈による明らかな臨床症状を有する第 2 度,高度 または第 3 度房室ブロック  2. 高度または第 3 度房室ブロックで以下のいずれかを 伴う場合 (1) 投与不可欠な薬剤によるもの (2) 改善の予測が不可能な術後房室ブロック (3) 房室接合部のカテーテルアブレーション後 (4) 進行性の神経筋疾患に伴う房室ブロック (5) 覚醒時に著明な徐脈や長時間の心室停止を示すもの Class Ⅱ a:  1. 症状のない持続性の第 3 度房室ブロック  2. 症状のない第 2 度または高度房室ブロックで,以下 のいずれかを伴う場合 (1) ブロック部位が His 束内または His 束下のもの (2) 徐脈による進行性の心拡大を伴うもの (3) 運動または硫酸アトロピン負荷で伝導が不変もしく は悪化するもの  3. 徐脈によると思われる症状があり,他に原因のない 第 1 度房室ブロックで,ブロック部位が His 束内ま たは His 束下のもの Class Ⅱ b:  1. 至適房室間隔設定により血行動態の改善が期待でき る心不全を伴う第 1 度房室ブロック 〔文献 12)より引用〕 表 2 2 枝および 3 枝ブロック Class Ⅰ:  1. 慢性の 2 枝または 3 枝ブロックがあり,第 2 度 Mobitz Ⅱ型,高度もしくは第 3 度房室ブロックの既往のあ る場合  2. 慢性の 2 枝または 3 枝ブロックがあり,投与不可欠 な薬剤の使用が房室ブロックを誘発する可能性の高 い場合  3. 慢性の 2 枝または 3 枝ブロックと Wenckebach 型第 2 度房室ブロックを認め,失神発作の原因として高 度の房室ブロック発現が疑われる場合 Class Ⅱ a:  1. 慢性の 2 枝または 3 枝ブロックがあり,失神発作を 伴うが原因が明らかでないもの  2. 慢性の 2 枝または 3 枝ブロックがあり,器質的心疾 患を有し,電気生理検査により His 束以下での伝導 遅延・途絶が証明された場合 Class Ⅱ b:  1. 慢性の 2 枝または 3 枝ブロックがあり,電気生理検 査で His 束以下での伝導遅延・途絶の所見を認める が,器質的心疾患のないもの 〔文献 12)より引用〕

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酔導入時には注意を要する18) 4)徐脈性心房細動(表 4)  高度徐脈や心停止を伴い脳虚血症状や心不全,運 動耐容能の低下を認める場合に適応となる.症状と の関連がなくても覚醒時心室拍数 40/ 分以下,心室 停止 3 秒以上はペースメーカーの適応となるが,ホ ルター心電図などを用いて症状との関連を追及すべ きである.  その他植え込み型ペースメーカーの適応を示す. ・過敏性頸動脈洞症候群と反射性失神(表 5) ・閉塞性肥大型心筋症(表 6) ・小児および先天性心疾患患者(表 7)  ぺースメーカー植え込みの適応に関してはホルタ ー心電図,運動・薬物負荷試験,電気生理検査によ る術前検査を十分に行い検討する必要がある.麻酔 科医としてはペースメーカー植え込み患者の麻酔管 理を行う場合はペースメーカー植え込みのもととな る基礎疾患を把握しておくべきである. Ⅳ ペースメーカーのモード選択1), 19), 20) 1. モード選択  ペースメーカーの進化とともに機能も複雑化して いったため,トラブルに対処し明確化するようモー ドがコード化されている.今日では NASPE(the North American Society of Pacing and Electro- physiology)/BPEG(the British Pacing and Electro-表 3 洞機能不全症候群 Class Ⅰ:  1. 失神,痙攣,眼前暗黒感,めまい,息切れ,易疲労 感等の症状あるいは心不全があり,それが洞結節機 能低下に基づく徐脈,洞房ブロック,洞停止あるい は運動時の心拍応答不全によることが確認された場 合.それが長期間の必要不可欠な薬剤投与による場 合を含む Class Ⅱ a:  1. 上記の症状があり,徐脈や心室停止を認めるが,両 者の関連が明確でない場合  2. 徐脈頻脈症候群で,頻脈に対して必要不可欠な薬剤 により徐脈を来たす場合 Class Ⅱ b:  1. 症状のない洞房ブロックや洞停止 〔文献 12)より引用〕 表 4 徐脈性心房細動 Class Ⅰ:  1. 失神,痙攣,眼前暗黒感,めまい,息切れ,易疲労 感等の症状あるいは心不全があり,それが徐脈や心 室停止によるものであることが確認された場合.そ れが長期間の必要不可欠な薬剤投与による場合を含 む Class Ⅱ a:  1. 上記の症状があり,徐脈や心室停止を認めるが,両 者の関連が明確でない場合 〔文献 12)より引用〕 表 5 過敏性頸動脈洞症候群・反射性失神 Class Ⅰ:  1. 過敏性頸動脈洞症候群で,心拍抑制による反復する 失神発作を認める場合  2. 反射性失神で,心電図で心拍抑制が記録され,反復 する失神発作を認める場合 Class Ⅱ a:  1. 反射性失神で,反復する失神発作があり,head︲up tilt 試験により心拍抑制反応が認められる場合 Class Ⅲ:  1. head︲up tilt 試験により心拍抑制反応が認められな い過敏性頸動脈症候群・反射性失神 〔文献 12)より引用〕 表 6 閉塞性肥大型心筋症 Class Ⅰ:  1. 有意な流出路圧較差があり,圧較差に基づく症状に より QOL 低下を来たす閉塞性肥大型心筋症で,他 にペースメーカ植込みの適応となる理由を有する場 合(薬剤による徐脈を含む). Class Ⅱ a:  1. 有意な圧較差があり,圧較差に基づく症状により QOL 低下を来たす閉塞性肥大型心筋症で,症状と 圧較差が関連しており,薬物治療が無効か副作用の ため使用不能か,他の方法が不適当な場合 Class Ⅲ:  1. 圧較差がなく,徐脈による植込み適応もない場合. 〔文献 12)より引用〕

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physiology Group)コードが一般的に用いられて いる21)  ペースメーカーのモードは 3 ∼ 5 桁のアルファベ ットで表わされている.それぞれ 1. 刺激部位(cham-ber paced),2. 心電位検出部位(chamber sensed), 3. 制御方法(response to sensing),4. 心拍応答機能 (rate response)の有無,5. 抗頻拍作用(antiarrhyth-mic function)の有無を示している.通常,心拍応 答機能や抗頻拍作用がなければ 3 桁で表わされる.  選択されるぺーシングモードとして,心房(AAI) または心室(VVI)のいずれかでペーシングを行うシ ングルチャンバーペーシングと心房および心室で順 次ペーシング(DDD)を行うデュアルチャンバーペ ーシングがある.心房は感知のみで心室ペーシング を行う VDD モードも選択されることがあるが,使 用頻度は少なくなってきている.  現在主に使用されている AAI,VVI モードと DDD モードを中心に概説する. 1)AAI モードについて  心房電極を介してペーシングとセンシングを行 う.房室伝導障害がなく,心房細動の既往のない洞 不全症候群がよい適応となる.メリットとして,シ ングルチャンバーペースメーカーなのでペースメー カー自体が小型で電極が 1 本で済み,電池消耗も少 ない.心房,心室の生理的順次性が保てるので心拍 出量の低下が少ない.デメリットとしては植え込み 後に房室ブロックや心房細動が起こった場合には対 応しにくいことがあげられる. 2)VVI モードについて  心室電極を介してペーシングとセンシングを行 う.VVI モードはすべての徐脈性不整脈に適応があ る.メリットとして,VVI モードは AAI モードと 同じくシングルチャンバーペースメーカーなのでペ ースメーカー自体が小型で電極が 1 本で済む.また 電池消耗も少ない.デメリットとして,心房収縮と 心室収縮の生理的順次性が保たれないため DDD モ ードに比べ心拍出量は約 20%低下するといわれて いる.また,ペーシングによる心室興奮が逆行性に 心房に伝えられ心拍出量に悪影響を与え,疲労感, 表 7  小児および先天性心疾患患者のペースメーカ植 込みの適応 Class Ⅰ:  1. 症候性徐脈,心機能不全,低心拍出を伴う高度もし くは完全房室ブロック  2. 年齢に不相応な徐脈に伴う症候性洞機能不全(徐脈の 定義は年齢と期待心拍数により異なる)  3. 術後少なくとも 7 日経っても回復しない高度もしく は完全房室ブロック  4. 幅広い QRS の補充収縮,心室期外収縮,心機能不 全を伴う先天性完全房室ブロック  5. 乳児の先天性完全房室ブロックで,心室レートが 55 拍 / 分未満,もしくは先天性心疾患があり心室 レートが 70 拍 / 分未満のもの Class Ⅱ a:  1. 先天性心疾患に洞機能不全を合併し,心房内リエン トリー頻拍が反復する場合(洞機能不全は抗不整脈 薬によるものも含む)  2. 先天性完全房室ブロックで,1 歳を過ぎても平均心 拍数が 50 拍 / 分以下のもの,基本周期の 2 から 3 倍の心停止を伴うもの,もしくは症候性徐脈を伴う もの  3. 複雑心奇形に伴う洞徐脈で,安静時心拍数が 40 拍 / 分以下,もしくは 3 秒以上の心停止を伴うもの  4. 先天性心疾患に伴う洞徐脈もしくは房室同期不全に より血行動態が悪化するもの  5. 先天性心疾患術後に一過性房室ブロックがあり,脚ブ ロックを認め,原因不明の失神を伴うもの Class Ⅱ b:  1. 先天性心疾患術後の一過性完全房室ブロックで 2 枝 ブロックを伴うもの  2. 無症状で,年齢相応の心拍数であり,QRS の延 長がなく,心機能の正常な先天性完全房室ブロッ ク Class Ⅲ:  1. 無症状の先天性心疾患術後の一過性房室ブロック で,正常房室伝導に戻ったもの  2. 第 1 度房室ブロックを伴う,もしくは伴わない先天 性心疾患術後の 2 枝ブロックで,完全房室ブロック の既往がないもの  3. 無症状の Wenckebach 型第 2 度房室ブロック  4. 無症状の洞徐脈で,RR 間隔が 3 秒未満,かつ最低 心拍数が 40 拍 / 分以上のもの 〔文献 12)より引用〕

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めまい,動悸などのいわゆるペースメーカー症候群 が起こることがある. 3)DDD モードについて  心房と心室に各 1 本ずつの電極を埋め込み,心房 電極と心室電極両方を介してペーシングとセンシン グを行う.P 波を認識できない場合は心房ペーシン グが行われ,R 波を認識できない場合は心室ペーシ ングが行われる.心房収縮と心室収縮の生理的順次 性を保つことができる.洞不全症候群,房室ブロッ ク,また合併例にも適応できる.デメリットとして は,心房心室に 2 本の電極を留置しなければならな い,電池寿命が短いことがあげられる.まれに pacemaker mediated tachycardia と呼ばれる特殊 な頻拍が発生することがある. 4)心拍応答機能について  過去のペースメーカーは運動時の酸素需要に十分 対応できなかったが,現在ではより生理的なペーシ ングに近づけるために身体の活動や生理的需要を反 映する指標を計測してレートを制御する心拍応答型 ペースメーカーが幅広く普及している.モードとし ては 4 桁目の R で表わされ 60 ∼ 120 と変更可能な心 拍数の範囲が示されている.レートコントロールの 指標として体動に伴う振動,呼吸数,QT 間隔,血 液温があるが体動感知型の機種が最も多い.  明確な適応基準はないようであるが,若年者や活 動性の高い患者で生理的な心拍出量の増加が望まれ るような場合,持続性洞性徐脈症例などが適応と なる. 2. 近年の新しいぺースメーカー機能 1)MPV(minimization of pacing in the ventricles)8)  MPV(AAI DDD)という新しいペーシングモー ドが開発されている.どんなに PQ 間隔が長くても QRS 波形が欠落するまでは AAI のまま作動し,直 近の 4 つの心房 - 心房間隔において 2 回 QRS 波が欠 落した場合にのみ AAI から DDD モードに切り替わ るというペーシング方法である.さらに規定された 周期で房室伝導能をチェックし,P 波に続く QRS 波の欠落がなければ再び AAI となり,不必要な心 室ペーシングを軽減し生理的な房室順次性を保つこ とが可能になっている.ESC ガイドライン 2007 で は洞不全症候群に対する MPV 機能付きペースメー カー導入が明確に推奨されている22) 2)AMS(automatic mode switching)23)  発作性心房細動を認識すると非生理的に速い心房 レートに追従しないように DDD モードから VDI も しくは DDI に変更する機能を持っている.しかし 症状を改善することはできても心房細動を抑制する わけではない. 3. ペーシングモード選択に際し参考にすべき大規模臨 床試験24)~ 32)  ペースメーカーを選択するにあたり代表的な大規 模臨床試験を表 8 に示した.

4. 心臓再同期療法(Cardiac Resynchronization Therapy: CRT)について33)~ 36)  心不全患者では心室内伝導の延長により壁運動の 非同期性をもたらし,収縮能を低下させると同時に 心筋代謝の悪化,僧帽弁逆流を起こす.  CRT は右室および左室ペーシングによって心臓 内の電気的非同期を是正し,心臓壁運動の同期不全 を修正して血行動態の改善を図る治療法である.基 本的には従来の DDD モードに左室ペーシングを追 加したものである.左室ペーシングは冠静脈洞から 左室側壁への分枝に電極リードを留置しペーシング を行う.植え込み後は心エコーによって心拍出量が 最大で僧帽弁逆流が最小となる最適な A-V delay, V-V delay の設定を行う.  日本循環器学会のガイドライン12)によると絶対適 応(classⅠ)は最適の薬物療法でも NYHA class Ⅲま たは通院可能な程度の class Ⅳの慢性心不全を呈し, 左室駆出率 35%以下,心電図上 QRS 幅 120msec 以 上で洞調律の場合である.  CRT の植え込み基準を満たす患者の多くは同時 に ICD 植え込み基準も満たすため,両室ペーシン グ機能付き植え込み型除細動器(CRT-D)の植え込

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8   試 験 開 催 国 , 施 設 , 年 デ ザ イ ン 対 象 疾 患 モ ー ド 比 較 平 均 観 察 期 間 結 果 < D an is h S tu dy > 2 4 ), 2 5 ) デ ン マ ー ク 1 9 9 4 , 1 9 9 7 無 作 為 割 付 け 洞 不 全 症 候 群 A A I群 ( 1 1 0 例 )と V V I群 ( 1 1 5 例 ) 4 0 ヵ 月 と 5 .5 年 観 察 項 目 は 心 房 細 動 , 血 栓 塞 栓 発 症 率 , 心 不 全 , 生 存 率 , 房 室 ブ ロ ッ ク 発 症 率 で 結 果 は い ず れ も A A I群 が V V I群 に 比 べ て 優 れ て い た . 房 室 ブ ロ ッ ク は A A I群 で 年 間 0 .6 % の 発 症 率 で あ っ た . 洞 不 全 症 候 群 は A A Iを 選 択 す べ き で あ る . < C T O P P >( C an ad ia n T ria l o f P hy si ol og ic P ac in g) 2 6 ) カ ナ ダ 3 2 施 設 , 2 0 0 0 無 作 為 割 付 け , 多 施 設 , IT T 解 析 心 房 細 動 の な い 症 候 性 徐 脈 V V I( 1 4 7 4 例 )と 生 理 的 ペ ー ス メ ー カ ー ( A A Iも し く は D D D ) ( 1 0 9 4 例 ) 3 年 脳 梗 塞 , ま た は 心 血 管 死 の 発 生 率 は V V I群 5 .5 % , 生 理 的 ペ ー ス メ ー カ ー 群 4 .9 % で 差 は な か っ た . 心 房 細 動 発 生 率 は V V I群 6 .6 % , 生 理 的 ペ ー ス メ ー カ ー 群 5 .3 % で 有 意 に 少 な か っ た . 生 理 的 ペ ー ス メ ー カ ー は V V Iに 比 較 し て 心 房 細 動 発 症 を 抑 制 す る も の の 脳 梗 塞 や 心 血 管 死 に よ る 死 亡 の 抑 制 に は 効 果 が な か っ た . < D A V ID >( D ua l C ha m be r an d V V I I m pl an ta bl e D efi br ill at or ) 2 7 ) 米 国 3 7 施 設 , 2 0 0 2 無 作 為 割 付 け , 単 一 盲 検 , 多 施 設 , IT T 解 析 徐 脈 , 心 房 性 不 整 脈 の な い IC D 埋 め 込 み 患 者 ( 左 室 駆 出 率 4 0 % 以 下 ) 4 0 拍 / 分 の V V Iバ ッ ク ア ッ プ ペ ー シ ン グ 群( 2 5 6 例 )と 7 0 拍 / 分 の D D D R ペ ー シ ン グ 群( 2 5 0 例 ) 8 .4 ヵ 月 死 亡 ま で の 期 間 と う っ 血 性 心 不 全 に よ る 入 院 ま で の 期 間 を 観 察 し た . イ ベ ン ト の な い 1 年 間 の 死 亡 率 は V V Iバ ッ ク ア ッ プ ペ ー シ ン グ 群 で 8 3 .9 % で あ っ た の に 対 し , D D D R ペ ー シ ン グ 群 は 7 3 .3 % で あ っ た . 心 不 全 に よ る 入 院 も V V Iバ ッ ク ア ッ プ ペ ー シ ン グ で 良 好 で あ っ た . IC D 植 え 込 み 患 者 に お い て 左 室 駆 出 率 4 0 % 以 下 で あ れ ば D D D R ペ ー シ ン グ は V V Iバ ッ ク ア ッ プ ペ ー シ ン グ に 比 べ メ リ ッ ト は な く 死 亡 率 や 心 不 全 に よ る 入 院 を 増 加 さ せ る . < M O S T >( M od e S el ec tio n T ria l i n S in us -N od e D ys fu nc tio n) 2 8 ) 米 国 9 1 施 設 , 2 0 0 2 無 作 為 割 付 け , 多 施 設 , IT T 解 析 洞 不 全 症 候 群 生 理 的 ペ ー シ ン グ 群 ( 1 0 1 4 例 )と V V I群 ( 9 9 6 例 ) 3 3 ヵ 月 一 次 エ ン ド ポ イ ン ト は 全 死 亡 ま た は 非 致 死 的 脳 梗 塞 , 二 次 エ ン ド ポ イ ン ト は 死 亡 , 脳 梗 塞 , 心 不 全 に よ る 入 院 の い ず れ か , 心 房 細 動 , ペ ー ス メ ー カ ー 症 候 群 , Q O L で あ っ た . 結 果 は 一 次 エ ン ド ポ イ ン ト で は 差 は な か っ た . 二 次 エ ン ド ポ イ ン ト で は 生 理 的 ペ ー シ ン グ 群 で 心 房 細 動 発 症 率 が 有 意 に 少 な く , ま た 心 不 全 ス コ ア も 良 好 で あ っ た . 生 理 的 ペ ー シ ン グ は V V Iに 比 べ 生 存 率 を 改 善 し な い が 心 房 細 動 発 症 を 抑 制 し 心 不 全 症 状 を 軽 減 す る . < P A C E >( P ac em ak er S el ec tio n in t he E ld er ly T ria l) 2 9 ) 米 国 2 9 施 設 , 1 9 9 8 無 作 為 割 付 け , 二 重 盲 検 , 多 施 設 , IT T 解 析 6 5 歳 以 上 の 心 房 細 動 の な い 症 候 性 徐 脈 V V I群 ( 2 0 4 例 )と D D D 群( 2 0 3 例 ) 5 5 0 日 全 例 で Q O L は 改 善 し た . 二 群 間 で Q O L や 心 血 管 事 故 に 差 は な か っ た . し か し V V I群 の 2 6 % が ペ ー ス メ ー カ ー 症 候 群 の た め D D D ペ ー シ ン グ に 変 更 さ れ た . 洞 不 全 症 候 群 で D D D が V V Iに 比 べ Q O L と 心 血 管 機 能 を 改 善 し た . D D D に よ る Q O L の 改 善 は 主 に 洞 不 全 症 候 群 に お い て 認 め ら れ る . < U K P A C E >( U ni te d K in gd om P ac in g an d C ar di ov as cu la r E ve nt s T ria l) 3 0 ) 英 国 4 6 施 設 , 2 0 0 5 無 作 為 割 付 け , 多 施 設 , IT T 解 析 7 0 歳 以 上 の 高 度 房 室 ブ ロ ッ ク 生 理 的 ペ ー シ ン グ 群 ( 1 0 1 2 例 )と V V I群 ( 1 0 0 9 例 ) 4 .6 年 平 均 年 間 死 亡 率 は 生 理 的 ペ ー シ ン グ 群 が 7 .4 % , V V I群 が 7 .2 % で 差 は 認 め ら れ な か っ た . 心 房 細 動 , 心 不 全 , 脳 梗 塞 で も 差 は 認 め な か っ た . 高 齢 者 の 高 度 房 室 ブ ロ ッ ク に お い て ペ ー シ ン グ モ ー ド は 死 亡 や 心 血 管 イ ベ ン ト に 影 響 を 与 え な い . < A D O P T >( A tr ia l D yn am ic O ve rd riv e P ac in g T ria l) 3 1 ) 米 国 多 施 設 , 2 0 0 3 無 作 為 割 付 け , 単 盲 検 , 多 施 設 洞 不 全 症 候 群 で D D D R ペ ー シ ン グ し て い る 患 者 心 房 細 動 抑 制 ア ル ゴ リ ズ ム を on に し た 群( 1 3 0 例 )と off に し た 群( 1 5 8 例 ) 6 ヵ 月 心 房 細 動 発 生 頻 度 に お い て on 群 が off 群 よ り 2 5 % 減 少 し た . 洞 不 全 症 候 群 お よ び 心 房 細 動 を 有 す る 患 者 に お い て 心 房 細 動 抑 制 ア ル ゴ リ ズ ム に よ る オ ー バ ー ド ラ イ ブ 心 房 ペ ー シ ン グ は 症 候 性 心 房 細 動 持 続 率 を 相 対 的 に 低 下 さ せ た . < S A V E P A C e T ria l> ( S ea rc h A V E xt en si on a nd M an ag ed V en tr ic ul ar P ac in g fo r P ro m ot in g A tr io ve nt ric ul ar C on du ct io n T ria l) 3 2 ) 米 国 , カ ナ ダ 7 2 施 設 , 2 0 0 7 無 作 為 割 付 け , 単 盲 検 , 多 施 設 , IT T 解 析 洞 不 全 症 候 群 M P V ( A A IR ⇔ D D D R ) 群( 5 3 0 例 )と 従 来 D D D R 群( 5 3 5 例 ) 1 .7 年 死 亡 率 , 心 不 全 に よ る 入 院 ま で の 期 間 は 差 が な か っ た . し か し 従 来 型 D D D R 群 に 比 べ M P V 群 は 洞 不 全 症 候 群 患 者 で 心 室 ペ ー シ ン グ を 9 0 % 減 少 さ せ た . 持 続 性 心 房 細 動 発 症 率 の 相 対 リ ス ク を 4 0 % 減 少 さ せ た . 洞 不 全 症 候 群 患 者 に お い て 不 必 要 な 心 室 ペ ー シ ン グ を 抑 制 す る こ と で 持 続 性 心 房 細 動 発 症 率 を 抑 え る こ と が で き る .

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みとなることが多い. 5. 手術時の留意点とモード選択について 1)手術中の設定37), 38)  手術時にペースメーカー設定をどのようにするの か決まった見解はない.  現在はペースメーカーが高性能化したため術野と 対極板の間に電極やペースメーカーが挟まっていな い場合は,影響がほとんどないと考えられている. しかし,術中にプログラムの異常が発生する可能性 はあるのでペースメーカーの取り扱いに慣れた専門 家による正常動作の確認が必要であり,手術操作が ペースメーカーに影響を及ぼさないと考えられる症 例では,術前は動作モードの確認,術後に動作チェ ックを行うことが必要と考えられている.慣例とな っている販売業者の術中立会い・待機は公正取引規 約に則り,有償での立会いが原則となる.もちろん, 手術操作により影響があると考えられる場合は,モ ード変更や設定変更を行える人の立会いが必要と考 えられる.ペースメーカー本体が単極設定であれば, 電気メスによる影響が 6 倍程度あるといわれてお り,併せて理解する必要がある.  モード設定はペースメーカーを装着するに至った 基礎疾患に着目して行うのがよい.ペースメーカー の心拍応答機能はすべて停止しておく.自己脈が十 分にあり,血行動態が落ち着いていれば通常の患者 と同じように麻酔できると考え,設定を VVI とし 心拍を自己脈よりもやや低めにすることで徐脈時の バックアップとして使用できる.しかし VVI が作 動したまま電気メスを多用すると刺激の抑制(false inhibition)が発生することがあるので留意が必要で ある.またプログラムがリセットされる可能性,出 力が VOO のリバージョンになる可能性,電池電圧 低下時に出力停止になる可能性なども併せて理解し ておく必要がある.  逆に自己脈がほとんどない場合は VOO にして確 実な強制ペーシングを行う.このモードでは電気 メスの影響を心配する必要はないが,自己脈が発生 した場合,タイミングによって spike on T から心 室細動を誘発する可能性があるため留意が必要で ある.  ICD では,電気メスによるオーバーセンスが発生 した場合,ペースメーカーと同じリスクだけでなく, 心室細動誤感知による除細動が行われるリスクがあ る.手術時は心室不整脈検出機能を停止する必要が ある.体内植え込みされている機器の判別が行われ ていない場合は,所持している手帳,胸部 X 線写 真などの特徴(サイズが大きい,コイル形状)から, ペースメーカーとの差違を予期する必要がある.  CRT-D は 2006 年に保険適用となったため,すで に CRT-D を植え込まれた患者の手術に関する症例 報告39), 40)はまだ少ない.麻酔管理としてはまず CRT-D の除細動機能を停止し,代わりに体外式除 細動パッドを貼付し心室頻拍や心室細動に備える. ペーシングモードの選択として,CRT でなければ 心機能を保持できないならば術中も CRT(DDD モ ード)とする.しかし電気メスによる干渉で自動的 に DOO モードにリセットされる可能性がある. DOO モードで循環動態が許容範囲内かどうか手術 内容をもとに判断する.術前に DOO モードで血行 動態が保持できるか確認を行う.また電気メスを試 用して干渉の有無を確認し,干渉があればモノポー ラの使用をやめてバイポーラとする. 2)中心静脈カテーテル留置  中心静脈カテーテルは留置の際,リードとガイド ワイヤーやカテーテルが絡む可能性があるので内 頸,鎖骨下静脈への留置は避けることが望ましいと 考えられるが,必要に応じて留置を行う際は,リー ド接触による除細動の誤作動を予防するため除細動 機能は停止しておくことが望ましい36).また,留置 時の X 線透視装置の利用は有効と考えられる.植 え込み半年以内の留置を行う際は,心筋内膜が器 質化していないためペーシングリードの位置移動 (dislodge)による,ペーシング不能,心機能悪化の 可能性があることに留意が必要である.肺動脈カテ

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ーテルはペーシングリードの位置異常を引き起こす 可能性がより高いため,留置を行わないことが望ま しい. 3)術中ペーシング閾値の上昇23)  術中ペーシング閾値が急激に上昇し,術前の設定 出力では心筋が収縮不能となり心停止となることが ある.Ⅰ a 群やⅠ c 群などの抗不整脈薬の使用,ア シドーシスや虚血,電解質異常には注意し,十分な 安全域をとってペーシングを行うべきである. まとめ  ペースメーカーの原理,適応,モード選択につい て概説した.ペースメーカー植え込み患者の病態を 把握し術中のトラブルに速やかに対応できる知識と 技術を身に着けておくべきである. 参考文献 1) 大江透:不整脈.医学書院,東京,2007,135-155 2) Nelson GD:A brief history of cardiac pacing. Tex

Heart Inst J 20:12-18, 1993 3) 大橋義彦:ペースメーカの最新動向.医機学 81:383-391,2011 4) Hyman AS:Resuscitation of the stopped heart by in- tracardiac therapy. Ⅱ:experimental use of an artifi-cial pacemaker. Arch Intern Med 50:283-305, 1932 5) Zoll PM:Resuscitation of the heart in ventricular

standstill by external electric stimulation. N Engl J Med 247:768-771, 1952 6) 豊島健:ペースメーカの原理と構造.LiSA 10:744-748,2003 7) 杉浦敏文:ペースメーカーのしくみ.Clin Eng 3:535-541,1993 8) 上野亮,加藤貴雄:洞不全症候群と心ブロックの治療. ICU と CCU 33:75-82,2009 9) Neumar RW, Otto CW, Link MS, et al.:Part 8:adult advanced cardiovascular life support:2010 American Heart Association Guidelines for Cardiopulmonary Resus-citation and Emergency Cardiovascular Care. Circulation 122:S729-S767, 2010 10) 戸叶隆司:心臓ペースメーカの適応.LiSA 10:754-758,2003 11) Gregoratos, G, Abrams J, Epstein AE, et al.:ACC/ AHA/NASPE 2002 guideline update for implantation of cardiac pacemakers and antiarrhythmia devices: summary article:a report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines(ACC/AHA/NASPE Committee to Update the 1998 Pacemaker Guidelines). Circulation 106:2145-2161, 2002 12) 日本循環器学会:不整脈の非薬物治療ガイドライン (2011 年改訂版). 13) 加藤梓,小板橋俊哉,加藤崇央ほか:入室時の完全房 室ブロックにより手術を延期し,後日,ペースメーカ 挿入後に人工骨頭置換手術を行った 1 症例.麻酔 60: 706-709,2011 14) 郷原徹,又吉康俊,岡英男ほか:肺動脈カテーテル挿 入時に生じた完全房室ブロック.臨麻 31:1141-1144, 2007 15) Gauss A, Hübner C, Radermacher P, et al.:Periopera- tive risk of bradyarrhythmias in patients with asymp-tomatic chronic bifascicular block or left bundle branch block:does an additional first-degree atrio-ventricular block make any difference? Anesthesiology 88:679-687, 1998

16) O’Malley S, Ashley EM:Is preoperative pacing for bi-fascicular and tri16) O’Malley S, Ashley EM:Is preoperative pacing for bi-fascicular heart block necessary? Hosp Med 65:636, 2004 17) 堀耕太郎,舟尾友晴,田中克明ほか:術中心停止を来 し た 慢 性 3 枝 ブ ロ ッ ク の 1 症 例. 麻 酔 59:206-209, 2010 18) 村川徳昭,石原弘規,松木明知:麻酔導入時に出現し た重症徐脈に対し緊急ペーシングを行った潜在性洞不 全症候群.麻酔 50:65-68,2001 19) 山蔭道明,岩崎創史:心臓ペースメーカのモード. LiSA 10:750-753,2003 20) 田中茂夫,笠貫宏編:ガイドラインに基づいた最新ペ ー ス メ ー カ ー・ICD 植 込 み と 管 理. 南 江 堂, 東 京, 2005 21) Bernstein AD, Daubert JC, Fletcher RD, et al.:The re-vised NASPE/BPEG generic code for antibradycardia, adaptive-rate, and multisite pacing. North American So-ciety of Pacing and Electrophysiology/British Pacing and Electrophysiology Group. Pacing Clin Electrophysiol 25:260-264, 2002 22) Vardas PE, Auricchio A, Blanc JJ, et al.:Guidelines for cardiac pacing and cardiac resynchronization therapy: The Task Force for Cardiac Pacing and Cardiac Resyn- chronization Therapy of the European Society of Cardi-ology. Developed in collaboration with the European Heart Rhythm Association. Eur Heart J 28:2256-2295, 2007 23) 水谷登:心臓ペースメーカーの現状と術中管理.麻酔

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53(増):S91-S101,2004 24) Andersen HR, Thuesen L, Bagger JP, et al.:Prospec- tive randomised trial of atrial versus ventricular pac-ing in sick-sinus syndrome. Lancet 344:1523-1528, 1994 25) Andersen HR, Nielsen JC, Thomsen PE, et al.:Long-term follow-up of patients from a randomised trial of atrial versus ventricular pacing for sick-sinus syndrome. Lancet 350:1210-1216, 1997 26) Connolly SJ, Kerr CR, Gent M, et al.:Effects of physio-logic pacing versus ventricular pacing on the risk of stroke and death due to cardiovascular causes. Canadian Trial of Physiologic Pacing Investigators. N Engl J Med 342:1385-1391, 2000 27) Wilkoff BL, Cook JR, Epstein AE, et al.:Dual-cham-ber pacing or ventricular backup pacing in patients with an implantable defibrillator:the Dual Chamber and VVI Implantable Defibrillator(DAVID)Trial. JAMA 288:3115-3123, 2002 28) Lamas GA, Lee KL, Sweeney MO, et al.:Ventricular pacing or dual-chamber pacing for sinus-node dys-function. N Engl J Med 346:1854-1862, 2002 29) Lamas GA, Orav EJ, Stambler BS, et al.:Quality of life and clinical outcomes in elderly patients treated with ventricular pacing as compared with dual-cham- ber pacing. Pacemaker Selection in the Elderly Inves-tigators. N Engl J Med 338:1097-1104, 1998

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The Principle, Indication, and Mode Selection of Cardiac Pacemakers Manabu YOSHIMURA, Takayuki KUNISAWA Department of Anesthesiology and Critical Care Medicine, Asahikawa Medical University  Cardiac pacemakers are well-established and highly effective electrotherapeutic devices. Increas- ingly more patients undergoing surgery will require an implanted cardiac device. Preoperative evalu-ation should be performed in these patients by anesthesiologists. It is also important to understand the type of implantable device, and programmed settings. Anesthesiologists should be able to effec-tively cope with bradyarrhythmia occurring spontaneously during surgery.  Here we provide an outline of the principle, indication, and mode selection of cardiac pacemakers, and the Guidelines for Non-Pharmacological Therapy of Cardiac Arrhythmias(The Japanese Circula-tion Society 2011). Key Words : Cardiac pacemaker, Indication of implantable pacemaker, Mode selection The Journal of Japan Society for Clinical Anesthesia Vol.32 No.3, 2012

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