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I. はじめに運動失調によるバランス能力障害を改善するためには, 補助のない立位で全身運動を使ったダイナミックなバランストレーニング 1) や歩行練習 2,3) を, 一日に 2 時間以上, 週 4 回以上行う 3-5) 必要がある. しかし, これらの集中的な運動療法の効果を検証

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(1)

Core stability training

により運動失調および

バランス障害が改善した重度小脳性および

感覚性運動失調の

1

症例

Core Stability Training Improved Ataxia and Balance of a Patient

with Severe Cerebellar and Afferent Ataxia: A Case Study

阪本 誠

1)

  松木 明好

2)

  谷 恵介

3)

  木村 大輔

4)

Makoto SAKAMOTO, MS, RPT1), Akiyoshi MATSUGI, PhD, RPT2), Keisuke TANI, MS, RPT3),

Daisuke KIMURA, PhD, RPT4)

1) Yamato Visiting Nursing and Rehabilitation Station: 154-59 Kihara-cho, Kashihara-shi, Nara 634-0004, Japan

TEL +81 744-24-8600 E-mail: sincere.dandelion@gmail.com

2) Faculty of Rehabilitation, Shijonawate Gakuen University

3) Graduate School of Human and Environmental Studies, Kyoto University

4) Department of Rehabilitation, Faculty of Health Science and Technology, Kawasaki University of Medical Welfare

Rigakuryoho Kagaku 32(3): 459–464, 2017. Submitted Jan. 27, 2017. Accepted Feb. 24, 2017.

ABSTRACT: [Purpose] We aimed to investigate the effects of core stability training (CST) on ataxia and balance

disturbance. [Subjects and Methods] A man in his fifties who was at 3 years past the onset of pontine hemorrhage and had severe cerebellar and afferent ataxias, and balance and gait disorders was included in this study. In the first 4 weeks (phase A), a physical therapist visited him at his home and conducted physical therapy, which included muscle strengthening, sit-ups, and transfer training, for 60 minutes per week. After phase A, CST was added to the program for 4 weeks (phase B). [Results] Only in phase B were the scale for the assessment and rating of ataxia and Berg balance scale improved. [Conclusion] CST for patients with severe cerebellar ataxia due to stroke can improve cerebellar and afferent ataxias, and balance.

Key words: core stability training, cerebellar ataxia, balance

要旨:〔目的〕Core stability training(CST)が運動失調とバランス能力に及ぼす影響について検討した.〔対象と方 法〕発症から3年経過した橋出血後の50歳代男性.運動麻痺はなく四肢体幹に重度運動失調,バランス障害,歩行 障害を呈していた.週1回60分,理学療法士が自宅訪問し介入した.介入開始から4週間(A期)は,筋力増強練 習,寝返り,移乗の練習を行った.その後の4週間(B期)は,それらにCSTを付加した.〔結果〕B期においての み,scale for the assessment and rating of ataxiaのスコアが3.5点,Berg balance scaleのスコアが2点改善した.〔結語〕 CSTは重度運動失調症例の運動失調とバランス能力を改善する可能性がある.

キーワード:Core stability training,運動失調,バランス

1) リハビリ訪問看護ステーションやまと:奈良県橿原市木原町 154-59(〒 634-0004)TEL 0744-24-8600 2) 四條畷学園大学 リハビリテーション学部

3) 京都大学大学院 人間・環境学研究科

4) 川崎医療福祉大学 医療技術学部リハビリテーション学科

(2)

I.はじめに

運動失調によるバランス能力障害を改善するためには, 補助のない立位で全身運動を使ったダイナミックなバラ ンストレーニング1)や歩行練習2,3)を,一日に2時間以 上,週4回以上行う3-5)必要がある.しかし,これらの 集 中 的 な 運 動 療 法 の 効 果 を 検 証 し たRandomized controlled trial(以下,RCT)では運動失調の重症度を

示すScale for the Assessment and Rating of Ataxia(以下,

SARA)が平均で12点程度3,5)と軽度~中程度の運動失 調を呈した症例を対象としており,重度の運動失調を呈 する症例は含まれていなかった.さらに,Marquerら2) による運動失調に対する理学療法効果に関するシステマ ティックレビューにおいても,立位保持が難しい重度の 運動失調を呈する症例のバランス障害を改善させる有効 なバランストレーニング方法に関する報告は含まれてい ない.つまり,支えの無い立位や片脚立ち,ステップ動 作を含むダイナミックなバランストレーニングが行えな い重度の運動失調を呈する症例に対する効果的な運動療 法は確立していない. 他方,背臥位などの安定した姿勢で行えて,バランス 能力を改善する可能性のある介入方法として,Core stability training(以下,CST)6-8)がある.このCST 体幹と四肢の協調的な運動を獲得することにより,バラ ンス能力を改善すると考えられており,すでに脳血管障 害による片麻痺患者や健常者における体幹機能の改善, さらにバランスや下肢の運動機能が改善したことが報告 されている6,7).体幹の安定性は日常の機能的活動のた めのバランスや四肢の協調的な運動に欠かせない要素で あり9),このような体幹の安定性向上を目標とした理学 療法プログラムが四肢の協調的な運動,歩行とバランス 能力を改善させると考えられる10) 今回,橋出血による重度の運動失調により,ダイナ ミックなバランストレーニングが行えなかった症例に対 し,背臥位で行えるブリッジ動作を中心としたCSTか ら,つかまり立ちによるCSTまで段階的に実施した結 果,上下肢の運動失調,立位バランス能力,着座能力の 改善がみられたため,その経過,介入方法に考察を加え て報告する.

II.対象と方法

1.対象 対象は脳幹出血(橋右背側,第4~両側側脳室)の発 症後約3年が経過した50代男性である.図1は筆者ら が訪問リハビリテーション(以下,訪問リハ)を開始し た時の頭部MRIであり,橋(図1-左)から中脳(図 1-右)にかけて,右背側に脳出血による脳損傷を認める. 発症直後から約6ヵ月間,回復期リハビリテーション病 院にて理学療法,作業療法,言語療法が適用された.退 院から2ヵ月経過した後より,要介護4の認定を受け, 週2回のデイサービス,週1回の訪問リハの利用を開始 した.デイサービスでは理学療法士の介助下での歩行器 歩行練習を20分実施し,訪問リハでは理学療法士が対 象者宅に訪問し,起居練習,移乗動作練習を60分実施 していた.約2年のデイサービスと訪問リハの理学療法 を継続したが,機能の向上および低下は認められなかっ た.その後,訪問リハの担当者が筆者に変更され,筆者 による訪問リハが開始された. 本症例研究は,治療方法や個人 情報の保護に関する 充分な説明を行い,患者本人から書面にて同意を得た上 実施した. 2.症例研究デザイン A-BデザインでCSTの効果を検討した.筆者らが症 例の担当者になってからの最初の4週間をA期とし, 筋力増強運動と日常生活動作練習,すなわち起居,起立 動作,移乗動作を中心としたプログラムを行ったが, CSTは行わなかった.A期が終了した翌週からの4週 間をB期とし,CSTを付加した理学療法を実施した. A期の初期と最終時期,およびB期の最終時期に理学 療法評価を実施し,A期の初期と最終時期の評価結果の 差異,およびA期の最終とB期の最終時期の評価結果 の差異をそれぞれの期間の介入効果と判断した. 3.理学療法評価 脳卒中後の上下肢運動機能の定量的評価のために

Fugl-Meyer Assessment(以下,FMA)の運動項目(A

~F,100点満点),錐体路徴候の有無を確認するため

に深部腱反射,病的反射を計測した.また,感覚障害の 有無を確認するために感覚検査を実施した.この他,立 位,座位でのバランス機能に特に関与する体幹屈曲と両 下肢の筋力を測定するためにManual muscle testing (以

下,MMT),小脳性運動失調の程度を評価するために

SARA2)を計測した.主に体幹を使った基本的動作能力

の評価のためにTrunk Control Test(以下,TCT)11),体

幹協調機能を評価するためにTrunk ataxic test(以下,

TAT)12),バランス能力を評価するためにBerg balance

図1 訪問リハビリテーション開始時頭部MRI画像(DWI:拡散強調画像)

図1 訪問リハビリテーション開始時頭部MRI画像(DWI: 拡散強調画像)

(3)

scale(以下,BBS)2)を計測した.Activities of daily

living(以下,ADL)における自立度を評価するために

Functional independence measure(以下,FIM)13)を計

測した.いずれの評価も,筆者らによる訪問リハ開始時, 介入開始から4週目(CST介入前),介入開始から8週 目(CST介入後)に計測した(表1). 4.介入方法 筆者らが訪問リハで介入した期間は8週間であった. 訪問による理学療法介入の頻度は週1回,実施時間は 60分であった.介入期間の前半4週間(A期)にて, 筋力増強運動と日常生活動作練習,すなわち,セラピス ト介助下での寝返り,起居,起立動作,移乗動作を中心 としたプログラムを実施したが,運動失調,バランス能 力,ADLに改善が認められなかった.そのため,その 後の4週間(B期)はこれまでのプログラムにCSTを 追加した. CSTは先行研究8)に倣い,バランス障害が重度でも 実施可能なものを選択した.1つ目は,背臥位にて膝関 節を70ºから90º屈曲位に保持し,骨盤の後傾を促した 表1 理学療法評価 介入前(0週) ADL訓練後(4週) CST後(8週) FIM 61 61 61 TCT 48 48 48 TAT IV IV IV SARA 29 29 25.5*  歩行 6 6 6  立位 5 5 4*  座位 3 3 3  言語 6 6 6  指追い試験(右 / 左) 2 / 3(平均2.5) 2 / 3(平均2.5) 2 / 2*(平均2.0)  指鼻指試験(右 / 左) 2 / 3(平均2.5) 2 / 3(平均2.5) 2 / 2*(平均2.0)  回内外試験(右 / 左) 1 / 3(平均2.0) 1 / 3(平均2.0) 1 / 2*(平均1.5)  踵膝試験(右 / 左) 3 / 3(平均3.0) 3 / 3(平均3.0) 2* / 2*(平均2.0) BBS 6 6 8* FMA  上肢 右 43 / 66 43 / 66 43 / 66     左 40 / 66 40 / 66 40 / 66  下肢 右 28 / 34 28 / 34 28 / 34     左 28 / 34 28 / 34 28 / 34 MMT 体幹屈曲 4 4 4  股関節屈曲 4 4 4  股関節伸展 4 4 4  膝関節屈曲 4 4 4  膝関節伸展 4 4 4  足関節背屈 4 4 4  足関節底屈 4 4 4 表在感覚  上肢 右 軽度鈍麻 軽度鈍麻 軽度鈍麻     左 重度鈍麻 重度鈍麻 重度鈍麻  下肢 右 軽度鈍麻 軽度鈍麻 軽度鈍麻     左 重度鈍麻 重度鈍麻 重度鈍麻 位置覚  上肢 右 軽度鈍麻 軽度鈍麻 軽度鈍麻     左 重度鈍麻 重度鈍麻 重度鈍麻  下肢 右 軽度鈍麻 軽度鈍麻 軽度鈍麻     左 重度鈍麻 重度鈍麻 重度鈍麻

FIM:Functional independence measure,TCT:Trunk control test,TAT:Trunk ataxic test, SARA:Scale for the Assessment and Rating of Ataxia,BBS:Berg balance scale,FMA: Fugl-Meyer Assessment,MMT:Manual muscle testing.*:変化した項目(vs 4週目).

(4)

状態でゆっくりと股関節を0ºまで伸展するブリッジ動 作を行い,その姿勢を5~10秒保持させ,ゆっくりと 元の姿勢に戻すようにさせた(図2-A).2つ目は,まず, 図のように両手で手すりを把持させ,膝関節屈曲45º, 股関節屈曲45º程度のハーフスクワットの姿勢を保持さ せた.その姿勢が保持できたら,約10º程度の膝屈伸運 動を5秒程度かけて行わせた(図2-B).なお,筆者ら が介入する前にCSTは行われておらず,A・B期とも にCSTを含めた理学療法介入時間を60分に統一した.

III.結 果

FMA,MMT,TCT,TAT,感覚検査,FIMは,開始時,

4週目,8週目で変化は認められなかった(表1).FMA では協調性の項目は左右ともに0点であったが,上下肢 の運動機能は右71/100点,左68/100点であった.また, 深部腱反射の亢進,病的反射は認められなかった.体幹 屈曲と左右の下肢のMMTは4レベルであった.TCT では両側ともに寝返り,起き上がりは上肢を使用する, もしくは非定型的な運動パターンを用いていた.座位保 持に関しては両上肢を空間に挙上した状態で保持はでき るが,体幹の動揺が強い状態であった. SARAとBBSは,開始時と4週目に差はなかったが, 8週目に変化が認められた.SARAは歩行,座位では改 善がみられなかったものの,立位は5から4に,指追い 試験は平均2.5から2.0に,指鼻指試験は平均2.5から2.0 に,回内外試験は平均2.0から1.5に,踵膝試験は平均 3.0から2.0に改善し,合計点は29.0から25.5へと改 善がみられた.BBSは初期評価時には,立ち上がり, 着座動作,トランスファーがそれぞれ1点,座位保持が 3点,その他の項目は全て0点であったが,CST実施後 には着座動作が3点へと改善した.

IV.考 察

本研究では,橋出血発症後に重度の運動失調によるバ ランス障害を呈した患者に対しCSTを実施し,運動失 調やバランス能力,日常生活動作に対するその効果を検 証した.基本動作練習を中心とした介入期間では運動失 調,バランス能力,ADL能力を反映する各検査結果に 変化は認められなかったが,CSTを追加した介入期間 後,SARAスコアに反映される立位バランス能力と上 下肢の運動失調,BBSに反映される立位からの着座能 力が改善した.以上のことから,重度の運動失調症例に 対するCSTは,上下肢の運動失調や立位バランス能力, 着座能力を改善する可能性があると考えられた. 初期評価において,上下肢の運動機能評価について, FMAの協調性項目は0点であったが,右が71点,左 が68点であったこと,下肢のMMTが4であったこと, 腱反射は正常で,病的反射は出現しなかったことから, 本症例の運動機能障害は運動麻痺ではなく,運動失調に 起因することが示唆される.運動失調の重症度を反映す るSARAは無症状では0点,最重症では40点となり, 脊髄小脳変性症の最重症ステージにある症例のSARA の中央値は30であったことが報告されている14).本症 例は初期評価時においてSARAスコアが29.5点であっ たことから,介入前には重度の運動失調を呈していたと 考えられる. また,脳卒中による橋背側部の損傷により小脳性の運 動失調が出現する15).小脳性運動失調の場合,予測的 な運動制御が障害されるため,予測可能な標的を追従す る指追い試験で追跡誤差が大きくなり,さらに運動分解 や企図振戦が確認される.よって,本症例は小脳性の運 動失調である可能性が高いと考えられた.その一方,感 覚障害も有していたため,体性感覚障害が運動失調の要 因の一つになっている可能性は否定できなかった.した がって,本症例の運動失調は小脳性,および感覚性であ ると考え,介入を検討した. 運動失調によるバランス能力障害を改善するための集 中的な運動療法の効果を検証したRCTでは,介入直後 に運動失調の重症度を反映するSARAスコアが平均で 約2点改善し,介入から12週まで1点の有意な改善が 保持されたことが報告されている3).本症例研究では SARAスコアが3.5点の変化があったため,先行研究を 基に,運動失調に改善があったと解釈した.SARAの 下位項目でみてみると,立位の項目が5点から4点に変 化していたが,このことは立位保持能力が改善したこと を意味する.また,左上肢の指追い試験,指鼻指試験, 前腕の回内外試験の点数が3点から2点に変化したこと は,左上肢の運動失調が改善したことを示唆する.両下 肢の踵膝試験の点数が3点から2点に変化していたこと は,両下肢の運動失調が軽減したことを示唆する.BBS 図2 Core stability training A B

(5)

の着座項目が1点から3点に変化したことは,手すりを 用いるか,人が介助しなければ安全に着座できなかった のが,自己にて安全に着座できるようになったことを示 している.以上のことより,CST実施後に,左上肢と 両下肢の運動失調,立位バランス,着座能力が改善した と考えられた. 立位バランス能力,着座動作には,姿勢制御筋である 下肢筋の協調的な働きが不可欠であることから,CST による下肢の運動失調の改善が,立位バランスと着座動 作の改善に寄与した主な要因であると考えられる.また, 他の要因として,体幹の安定性向上がバランス能力,着 座能力の向上に寄与した可能性が考えられる.先行研究 によると,CSTによって体幹の安定性が向上すること で,バランス能力が向上する可能性が示されている6,7) CSTに使用されるブリッジ姿位では,腹横筋,腹直筋, 脊柱起立筋に筋活動が生じることが報告されており16) 本症例においても同様のブリッジ姿位が保持できていた ことから,体幹の安定性に強く関与する腹横筋,腹直筋, 脊柱起立筋の同時収縮が生じていたと考えられる.これ らの筋の協調的活動能力の向上が体幹の安定性を向上さ せ,立位バランス能力,着座能力を向上させた可能性が 考えられる.しかし,体幹機能の一部,および一側面を 反映する,MMT,TCT,TATに変化は認められなかっ た.体幹屈曲のMMTでは他の筋との協調的な働きは評 価できないため,体幹の安定性に寄与する機能の変化は 反映されなかったと考えられる.TCTは寝返り,起き 上がり,座位保持ができるか否かを点数化したものであ り,本症例の体幹の安定性の変化を反映できなかった可 能性がある.TATは両上肢を胸で組み,両大腿後面を 座面から上げて姿勢保持ができなければⅣと判定され, その姿勢を中等度の揺れを伴いながらでも保持できれば Ⅲと判定される.TATがⅣであった本症例では端座位 の安定性が向上してもTATの試験姿勢の保持が難し かったため,検査結果に反映されなかった可能性があ る.以上のことから,CST後の立位バランス能力,着 座能力の改善には,下肢の運動失調の改善とMMT, TAT,TCTに反映されない体幹の安定性向上が関与し た可能性があると考えた. 介入前にも体幹をよく使う寝返り,起き上がり,移乗 の動作練習は行っていたが,運動失調,バランス能力, およびADLの改善にはつながらなかった.それらの動 作練習に比べCSTは緩徐な運動である.このような緩 徐な運動は,早い運動の際に生じやすい慣性を減らし, 運動の難易度を下げ,エラーを小さくする効果がある. 重度の運動失調を呈する患者では運動時に起こるエラー が大きい場合には運動を学習しにくいが,小さいエラー の場合には運動を学習しやすいことが先行研究によって 示されている17).そのため,本症例においても,緩徐 な運動を行うことで下肢筋,および体幹筋の協調的な運 動が学習された可能性があると考えた. また,CSTによる介入後,左上肢の運動失調の改善 もみられた.この理由の一つとして,立位での課題の際 に両上肢を支持として用いたことが上肢の協調性トレー ニングになったことが一因として考えられる.肘関節の 屈曲伸展運動は生じないものの,膝関節屈曲伸展運動を, 手すりを保持した状態で行うことにより,体幹と肩関節 周囲筋の同時活動が得られたため,ブリッジ動作と同様 の学習効果が得られたのではないかと考えられた.一方, 前腕の回内外運動はこの運動に含まれていないため,こ の改善は肩関節・体幹の協調的な活動から影響を受けた 可能性も考えられる.Miyakeら18)は,小脳性運動失調 を呈する症例に対する体幹トレーニングによる体幹の安 定性向上により,上肢の運動失調が軽減したことを報告 している.これは体幹の安定性向上により,上肢運動の 動揺が減少したためと考えられる.今回の症例も同様に, 体幹の安定性向上により上肢機能が改善した可能性があ ると考えられる. 本症例は,CSTを行わなかったA期の前後では,計 測した全てのパラメータにおいて変化が認められず, CSTを行ったB期の前後においてのみSARAとBBS のスコアに変化が認められた.このことから,本症例の 機能改善はB期で行った介入により生じた可能性が高 いと言える.この機能改善には,疾患本来の自然回復に よる可能性も考えられるが,本症例は発症から3年経過 していることから,疾患の自然回復の可能性は低いと考 えられる.よって,この本症例のB期の改善は,疾患 の自然回復とは考えにくい.以上のことから,A期とB 期の改善の差はA期とB期の介入の差,すなわちCST の有無によるものであると考えられる. 本研究の限界点として,体幹機能が向上したことを三 次元動作解析装置や筋電図を用いて検証できていないこ とがある.CSTによって体幹機能がどのように変化した かを評価することができなかったため,これらの機器を 用いた運動解析が必要と考えられる.また本研究では, 上下肢の運動失調,立位バランス能力の改善はみられた が,ADL動作の改善にまでは至らなかった.これは,4 週間の短期間の介入だったからである可能性がある.脊 髄小脳変性症などの変性疾患症例を対象に行われた RCT1,3,4)では,歩行が可能で軽度から中等度の小脳性運 動失調を呈する症例に対する集中的なリハビリテーショ ンの効果は4週間以上の介入が行われ,その効果が実証 されている.よって,本症例のような重度症例に対しては, より長期に介入することでADLに汎化される程度の効果 が得られるかもしれない.また,介入頻度が週1回であり, 先行研究1,3,4)で行われた週4回よりもかなり少なかった 点が影響した可能性が考えられる.よって,重度小脳性 運動失調症例に対するCSTのより長期間,および高頻度 の介入を行う症例研究が,今後必要と考えられる.

(6)

本研究により,体幹と四肢の協調的な活動を集中的に 促すCSTが重度の失調症患者の立位バランス能力,上 下肢の失調症状を改善する可能性が示唆された.これま で行われてきた四肢の協調運動訓練にCSTを付加する ことで,より高い運動失調軽減効果が得られる可能性が ある.また,重度運動失調により,ダイナミックなバラ ンストレーニングが適用できない場合でも,CSTを実 施することでバランス能力が改善する可能性がある. よって,CSTは運動失調症例に対して,四肢の運動失 調改善,バランス能力改善のために付加することを検討 するべきトレーニング方法であると考えられる. 謝辞 本研究に協力頂いた対象者様とそのご家族に深謝 いたします. 引用文献

1) Ilg W, Brötz D, Burkard S, et al.: Long-term effects of coordinative training in degenerative cerebellar disease. Mov Disord, 2010, 25: 2239-2246.

2) Marquer A, Barbieri G, Pérennou D: The assessment and treatment of postural disorders in cerebellar ataxia: A systematic review. Ann Phys Rehabil Med, 2014, 57: 67-78. 3) Miyai I, Ito M, Hattori N, et al. Cerebellar Ataxia

Rehabilitation Trialists Collaboration: Cerebellar ataxia rehabilitation trial in degenerative cerebellar diseases. Neurorehabil Neural Repair, 2012, 26: 515-522.

4) Ilg W, Synofzik M, Brötz D, et al.: Intensive coordinative training improves motor performance in degenerative cerebellar disease. Neurology, 2009, 73: 1823-1830.

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図 1 訪問リハビリテーション開始時頭部MRI画像(DWI:拡散強調画像)図1 訪問リハビリテーション開始時頭部MRI画像(DWI:
図 2   Core stability training

参照

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