博 士 ( 獣 医 学 ) 佐 藤 千 秋
学 位 論 文 題 名
Genetic analysis of two genes from an avian strain of Chlamydia psittaci
(オ ウム病 クラミジ ア烏類 由来株の
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っの遺伝子の遺伝学的解析)学位論文内容の要旨
ク ラミ ジア 属(genus Chlamydia)は 細胞 内偏性寄生性の病原微生物 であって,現在cl psittaci(c.p.),cltrachomatis(c.£.)とC.pneumoniae(c.pn.)の3っの種に分類 されている。これらのうちC.p.は鳥類から罹患するヒトのオウム病の病原体として知られ,こ れまで感染,増殖,免疫や病原性などに関して多くの報告がなされている。しかし,クラミジア の遺伝学的研究は甚だ乏しく,クラミジアの構造や感染防御と密接に関連する多様な抗原蛋白と それらをコードする遺伝子の関係には不明な点が多い。本研究ではこれらの問題点を解明する目 的 で ,遺 伝子 工学 的手 法 によ ルク ラミ ジア の遺伝子をクローニングし て検討を加えた。
本研究は3章より構成されるが,第1章ではc.p.ドバト由来株のクラミジア蛋白をコードす る2っの遺伝子フラグメントをク 口ーニングして,これらのDNAフラグメントと発現蛋白の 性状 を解析した。第2章では,こ れらのうち,No.17と命名されたDNAフラグメントの塩基配 列 を 決定 して ,他 の生 物 のDNAと 相同 性を 調べるとともに抗原決定基を コ―ドするDNA塩 基配 列の位置を推定した。第3章 ではNo.13と命名されたDNAフラグメントの塩基配列を決定 し , 各 種 生 物 の DNAと の 相 同 性 を 比 較 し た 。 成 績 は 以 下 の ご と く で あ る 。 1. クラミジアの抗原蛋白をコー ドする遺伝子を得るためにドバト由来のC.p.P―1041株の DNAをプラスミドpUC19を用いて ク口ーニングし,発現蛋白を ホモの抗クラミジア血清でス クリ一二ングしたところ,強陽性反応を示す2っのりコンビナントプラスミドが得られた。これ らのDNAフラグメントの長さは約1,300base pair (bp)と1,700bpであり,それぞれをN013 およ びNo.17と命名した。まず,他のクラミジア株DNAとの相同性を知るためにこれらのフラ グメントをプ口ーブに用いて,サザンハイブリダイゼーションを行った。c.p.の10株とc.え.
の3株から抽出されたDNAはいず れも両プロープと強くハイブリダイスすることが判明した。
c.p.とC.C.の間のDNA相同性 は約10%と報告されていることから,これら2っのフラグメ ントはクラミジア属に広く保存され,クラミジアにとって基本的かつ重要な機能を担う蛋白を
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コー ドする 遺伝 子であ ると推 定され た。
次 に2っ のDNAフ ラ グ メ ン 卜 に よっ て 発 現 さ れた 蛋 白 を ウ エ スタ ン ブ 口 ッ テイ ン グ 法 で 調 べた ところ ,No.13は約25kilodalton(KD), またNo.17は約42KDの分 子量 のローガラクトシダー ゼ 融 合 蛋白 を 発 現 す るこ とが判 明し た。さ らにこ れらの 蛋白 の抗原 性を詳 細に解 析する ため に c・p. の10株 とc. と .の2株 に対す るそ れぞれ の抗血 清を用 いてdot―ELISAを 行った 。そ の結 果,No.13の 発現す るクラ ミジ ア蛋白は,使用されたすべての抗血清と反応し,クラミジア属共通 の抗 原決定 基を 持っこ とが明 らかに なった 。一 方,N017の発現 する蛋 白はc.p,のセキセイイン コ 由 来1z awa株 に 対 す る抗血 清と弱 く反 応した のみで 他のヘ テ口 の抗血 清とは 全く反 応せず , 株特 異的な 抗原 決定基 を持っ と推定 された 。
2.フラ グメン トNo.17の塩基 配列を ダイ デオキ シ法により解析したところ,このフラグメントは 約1,200bpの 塩 基 か ら な り, こ の 中 に 不完 全 ナ ょopen reading frame(ORF)がコ ードさ れて いる ことが 判明 した。 遺伝子 デ一夕 ベース 検索 システ ムを用 いた検 索で は,この塩基配列がクラ ミ ジ ア のstress‑response protein gene (hyp gene)と高 い 相 同 性 を示 し て い た 。hyp gene は ク ラ ミジ ア の 抗 原 性, 特に過 敏症 に密接 に関連 した57KDの抗原 をコー ドし ている ことが 最近 報 告され たが, フラグ メン 卜No.17はこれ までに 報告さ れた2っの クラミ ジアhyp geneとそ れぞ れ, 塩基配 列で80%以上 ,また アミ ノ酸配 列では90%以 上の相 同性を 示した。さらに,このフラ グ メ ン トは 大 腸 菌 な どの 細 菌 や 広 く高 等 植 物 に も見 い だ さ れ て いるchaperonin gene family とも 高い相 同性 を示し た。
この 株 特 異 的 な抗 原 決 定 基 を コー ド す るDNA領 域 を 確定 す る た め に ,制 限 酵 素 を 用い て フ ラ グ メ ント を 細 分 化 し, 各 々 の 発 現す る 蛋 白 の 抗原 性 を 検 討 し た。 その 結果,ORFの5 末端 か ら 約800bpを含 む フ ラグ メン トが抗 原性を 持つ蛋 白を 発現し ,それ より150bpを 欠くフ ラグメ ント ではも はや 抗原蛋 白を発 現できなかった。すなわち,フラグメントNo.17では5 末端から800 bpまで の 塩 基 配 列が ク ラ ミジア の株特 異的な 抗原蛋 白を 発現す るのに 必要な コー ド領域 である と判 断され た。 また, この領 域を詳 しく解 析す るため に,こ のフラ グメ ントとすでに報告されて い る 他 の2種 類 の ク ラミ ジ ア 株 のhyp geneと の アミ ノ 酸 配 列 を 比較 し た。こ れら3っの 遺伝子 間で はアミ ノ酸 配列も 非常に 良く保 存され てい たが, アミノ 酸残基 の集 中的に変化している領域 も2力 所 観 察 さ れ た 。 こ れ ら の 可 変 領 域 の う ち の1っ は 抗原 蛋 白 を 発 現し な いDNAフ ラ グ メ ント の欠失 した 部分で あった ことか ら,こ の領 域には 株特異 的な抗 原決 定基,あるいは抗原蛋白 の 高 次 構 造 を 形 成 す る た め に 必 要 な 部 分 が コ ― ド さ れ て い る と 推 定 さ れ た 。 3.次に フラグ メントNo.13の発現 するク ラミジ ア抗 原蛋白 をより 詳細に 解析するために,このフ
ラ グ メ ン卜 の 塩 基 配 列 を決 定 し た と ころ , こ こ に は2っ の 不 完 全なORFが 含ま れてい るこ とが 判 明 し た 。 こ れ ら2っ のORF間 のnon‑coding regionは 約130bpで あ り , 終 止 コ ドン の 下 流 に 予 想 さ れ るtermination structureや2番 目 のORFに 先行 し て 存 在 す ると 推 定 さ れ るプ 口 モ ー タ ー部 位 が 見 ら れ なか っ た 。 従 って , こ れ ら のORFは オペロ ンと して機 能して いると 推定 さ れ た 。さ ら に フ ラ グ メン トNo.13をそ れぞ れのORFが含 まれる ように 制限 酵素で 切断し ,クラ ミ ジ ア 蛋白 の 発 現 を 試 みた と こ ろ , この 発 現 蛋 白 は2番 目ORFに コ ー ド さ れて いるこ とが 判明 し た 。 そ こ で この 抗 原 蛋 白 をコ ー ド す る 塩 基配 列 を 他 の 生物 のDNAと 比 較 し た と ころ , こ れ に 相 同 性 を 持 つ遺 伝 子 は 全 く見 ら れ な か っ た。 す な わ ち ,こ のDNAフ ラ グ メ ン 卜N013は これ ま で に 報 告 さ れ た ク ラ ミ ジ ア 属 特 異 的 な抗 原 物 質 で あ るMOMP,LPSあ るいt1J57KD hypな ど をコ ード する遺 伝子と は全く 相同 性を示 さなか った。
以 上の ご とく, 本研究 により 烏類 由来ク ラミジ ア株の2っ の遺伝 子の 塩基配 列が解 析され ,さ ら に こ れら の 遺 伝 子 に よっ て 発 現 さ れた 抗 原 蛋 白 の性 状が 明らか とな った。 その結 果,DNAフ ラグ メン トNo.17はクラ ミジア のめ′pgeneの一部 である と判断された。しかし,その発現蛋白は こ れ ま で報 告 さ れ て い るク ラ ミ ジ ア のめ ´pやchaperonin protienと も異な ってい て属特 異的 な 抗 原 性の 代 わ り に 株 特異 的 な 抗原決 定基を 含ん でいた 。また ,DNAフラグ メン トNo.13は,供 試し た全 ての抗 クラミ ジア血 清と 反応す ること からこ れは属 特異 的抗原 を担う 遺伝子のひとっで ある と考 えられ た。こ れらの 成果 はクラ ミジアの研究に遺伝子レベルの情報を提供するばかりでな く, クラ ミジア 属菌の 分類や クラ ミジア 感染症の診断などへの応用を可能にするものと思われる。
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 助教授
橋本 清水 小沼 高島
信 夫 悠 紀 臣 操 郁 夫
Chlamydia psittaci(c.p.)は 鳥類か ら罹患 するヒ トの オウム 病の病 原体と して 知られ , こ れまで 感染, 増殖, 構造や 抗原 性など に関し て多く の報 告がな されて いる。しかし,その遺伝 学 的 研 究 は甚 だ 乏 し く,ク ラミ ジアの 構造や 感染と 密接に 関連 する多 様な抗 原蛋白 とそ れらを
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コードする遺伝子の関係には不明な点が多い。本論文はこれらの問題点を解明する目的で,遺伝 子工学的にクラミジアの遺伝子をクローニングして遺伝学的検討を加えたものであって,英文63 頁からなり参考論文6編を付している。
申請者はクラミジアの抗原蛋白をコードする遺伝子を得るためにドバト由来のcIp.P―1041 株のDNAをク口ーニングし,発現蛋白をホモの抗クラミジア血清でスクリーニングしたところ,
強陽 性反応 を示す
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っのり コンビ ナント プラスミドを得た。これらのDNAの長さは約1,300base pair (bp)
と1,700bpであり,それぞれをN013およびNo.17と命名した。この2っのDNA クローンをプ口ーブに用い,サザンハイブリダンゼーションを行ったところ,用いた13種類のへ テ口 のクラ ミジアDNA
全てが 両プロ ーブと 強くハイブリダイズした。クラミジア種間のDNA 相同 性は約10
%と報 告され ている ことか ら,これら2っのDNAク口ーンはクラミジア属に広 く保存され,クラミジアにとって基本的かっ重要な機能を担う蛋白をコードする遺伝子であると 推定された。さらにこれらの蛋白の抗原性を詳細に解析するために11種類のヘテ口の抗クラミジ ア血 清を用 いてdot―ELISAを行 った。 その結果,No.13の発現する25kilodalton(KD)のク ラミジア蛋白は,使用したすべての抗血清と反応し,クラミジア属共通の抗原決定基を持っこと が明らかになった。一方,No.17の発現する42KDの蛋白はホモの抗P―1041血清とのみ反応し,株特異的な抗原決定基を持っと推定された。
次に,DNAクローンNa17の塩基配列をダイデオキシ法により決定し,遺伝子データベース検 索システムを用いて検索したところ,この塩基配列はクラミジアの感染による過敏症に密接に関 連した57KDの抗原蛋白をコードしてL、るstress−response protein gene (hyp gene)と高い 相同 性を示 してい た。そこで,制限酵素を用いてこのDNAを切断し,各々の断片の発現する 蛋白の抗原性を検討したところ,No.17では5 末端から約800bpまでの塩基配列がクラミジアの 抗原 蛋白を 発現し た。ま た,こ のDNAク口 ーンとすでに公表されている他の2種類のクラミ ジア株のhyp geneのアミノ酸配列を比較したところ,これら3っの遺伝子間にはアミノ酸残基 の集中的に変化している領域が2力所観察された。これらの可変領域のうちの1っは抗原蛋白を 発現しナょいDNA断片の欠失した部分であったことから,この領域には株特異的な抗原決定基,
あるいは抗原蛋白の高次構造を形成するために必要な部分がコードされていると推定された。
さらに,DNAフラグメントNo.13の塩基配列を決定したところ,2っの不完全なopen read‑
ing frame (ORF)
が含まれていることが判明した。このnon―coding regionには終末構造や プロモーター部位が見られず,これらのORFはオペロンとして機能しているものと推定された。さらにDNAクロ―ンNo.13を制限酵素で切断し,クラミジア蛋白の発現を試みたところ,抗原
蛋白 は2番目のORFにコードされていることが判明した。そこでこの抗原蛋白をコードする塩 基配列を検索したところ,これまでに報告されたクラミジア属特異的な抗原物質であるLPSや 57KDhypな どを コ ード する 遺伝 子,あるいは他の生物 のいかなるDNAとも相同性を 示さな かった。
以上のごとく,本研究では鳥類由来クラミジア株からクローン化された2っの遺伝子(No.17と No.13)の塩基配列を解析するとともに,これらの遺伝子によって発現された抗原蛋白の性状を検 討し た。その結果,DNAク口ーンNo.17はクラミジアのhyp geneの一部であると判断された。
しかし,その発現蛋白はこれまでの報告と異なり,属特異的な抗原性の代わりに株特異的な抗原 決定基を含んでいた。また,DNAクローンNo.13の発現する蛋白は供試したすべての抗クラミジ ア血清と反応することからこれは属特異的抗原を担う遺伝子のひとっであると考えられた。これ らの成果はクラミジアの研究に遺伝子レベルの情報を提供するばかりでなく,クラミジア属菌の 分 類 や ク ラ ミ ジ ア 感 染 症 の 診 断 な ど へ の 応 用 を 可 能 に す る も の と 思 わ れ る 。 よって審査員一同は,申請者佐藤千秋氏が博士(獣医学)の学位を受ける資格を有するものと 認める。
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