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重要伝統的建造物群保存地区制度の効果の検証 政策研究大学院大学

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重要伝統的建造物群保存地区制度の効果の検証

政策研究大学院大学 まちづくりプログラム MJU15613 中村 朋繁

1 はじめに

重要伝統的建造物群保存地区制度は、高度経済成 長期(1954~1973)における歴史的街並みの消失を 教訓に、1975 年に文化財保護法・建築基準法の改 正により創設された。近年は外国人観光客増加と団 塊世代引退による観光市場拡大・地方新幹線開業に よる交通整備などの外部環境の変化も激しく、我が 国でも景観論が熟成してきた。

伝建地区制度の根拠法である文化財保護法第 1 条にある法の目的は、文化財の『保存』と『活用』

であり、必ずしも文化的価値の高い歴史的な街並み を凍結的に保存するだけが目的ではなく、観光資源 の活用の側面も包含しており、地方自治体による地 域活性化の手段としても期待されている。しかし、

景観保全政策は一般的に土地利用規制を伴い建築 計画の自由度を小さくすることから、必ずしも資産 価値の向上に寄与するものではなく、伝建地区選定 への十分条件である住民合意が、困難な要因にもな っている。

また、近年は2005年の耐震偽装事件の影響で、

建基法の適法性が建築業界全体で重要視されるだ けでなく、社会問題として一般に広く認識されるよ うになり、今後益々その適法性が資産価値に反映さ れる状況が推測できる。

そこで、本研究の目的は、商業系用途の伝統的建 造物群を保全しつつ、文化的な価値を活用したまち づくりを行っている京都市、金沢市、川越市では、

伝建地区選定とこれに関する総合的な施策を講ず ることにより概ね資産価値の向上に寄与している ことを実証することで、地域住民の合意形成に貢献 できることを期待したい。

また、建基法の緩和条例を活用している京都市で

は、本質的な街並みの保全に貢献した上で、資産価 値の向上にも寄与することを実証する。同様の状況 にある自治体でも、伝建地区制度における法的根拠 の確立された緩和条例を十分に活用することによ り、地域住民の理解を得ながら、歴史的な街並み保 全のためにより一層貢献できることを提言したい。

2 伝統的建造物群保存地区制度の概要 2-1 伝建地区の推移

重伝建地区は、1976年の7地区が初めて選定さ れた。バブル景気(1982~1991)における新たな選 定地区数の低調時期を経て、以後順調にほぼ全国的 に選定地区数を増やし、2016年1月現在、43道府 県90市町村に110地区選定されるまでに定着して きた。また、近年は文化財保護を目的とする文化庁 と、観光資源として期待する地方自治体の目的が一 致してきたことが背景にあると推測できる。

文化庁統計よりグラフ作成 2-2 伝建地区制度と建築確認制度の関係 伝建地区の建築物は、原則外観部分の現状変更行 為を行う場合、文化財保護法に基づく許可申請が必 要である。また、伝建地区における建築物は、原則 建基法が適用される。昭和25年以前の建築物は、

現行法規上は既存不適格と扱われ、建築確認申請を 伴う工事は既存不適格部分の解消は困難な場合が

(2)

2 多く、建築確認申請の不要な範囲の改修工事に留ま る場合が多い。

保存条例における許可基準は、街並みの個性に応 じた詳細な基準を設けている。対照的に建基法にお ける建築確認申請は、全国画一の規定であるが故に、

伝建地区の個性を著しく消失させてしまう場合が ある。両者は、どちらが上位という概念はないが、

両者適用となる場合は両者を遵守する必要がある。

しかし、建築物が既存不適格である場合は、建築確 認申請の不要な改修工事に留める傾向があり、文化 財保護法に基づく許可申請については、修景工事に 伴う経費補助がインセンティブとなるため文化財 保護法に基づく許可申請のみで済む外観の修景工 事のみが促進される制度上の歪みがある。

3 伝統的建造物群保存制度と他法令の関係 3-1 法及び条例における規制緩和

日本国憲法94条や地方自治法14条に定める通り、

法律の範囲内でしか自治体は条例を制定できない。

そこで、伝建地区制度は、建基法85条の3に条例 で緩和できる規定を明らかにしてその範囲内で自 治体が緩和条例を制定している。

文化庁統計よりグラフ作成

3-2 街並み保全の他の関係法令など

伝建地区制度の創設された1975年以前は、歴史 的な街並み保存のために京都市が1972年に全国初 の『景観条例』を制定させ、同年に高山市などの自 治体が続くことにより全国的な伝建地区制度に発 展していく。1989 年に金沢市や川越市は、景観条

例を制定させることにより、街並み保存と共に伝建 地区選定のために不可欠な住民合意形成への努力 を行ってきた。

『景観法』については、『国立市マンション訴訟

(2006)と福山市鞆の浦訴訟(2009)で正反対の判 決が出た見解が、『法根拠による景観利益』の存在 の有無であったことと、地方都市の中心市街地が疲 弊し観光資源である歴史的街並みの価値観が相対 的に上昇してきた時期と重なったことにより、景観 行政団体は2015年3月現在612市区町村で全国市 区町村の約35%まで増加した。東京都23区のうち で19区と歴史的な街並みよりもより広範囲の概念 での現代的な『景観』をも評価したものであること が分かる。ゆえに景観法は、『伝建地区』の及ばない 地域を補完するものとして機能している。

『地域における歴史的風致の維持及び向上に関す る法律』については、『文化財』としてよりも『まち づくり』としての意義が主体である。認定市町村は、

2015年8月現在49市町であり、その内伝建地区は 17市町である。『伝建地区』の外周部を補完するも のとして機能し始めていると言える。

3-3 建築基準法の緩和の実例

伝建地区制度における創設当時からの特徴の一 つが、建基法85条の3に定める17か条の緩和規 定である。単体規定では、法22条、集団規定では、

法44条、法53条、法56条1項1号などが多い。

建築基準法第85条の3にある緩和規定と適用地区数

文化庁統計より表作成

緩和規定 制限の概要 適用地区数

法21条 大規模建築物規制 1

法22条 屋根葺材の不燃化 4

法23条 外壁の不燃化 2

法24条 木造特殊建築物規制 1

法25条 大規模木造建築物規制 3

法28条 採光・換気 3

法43条 接道 3

法44条 道路内の建築制限 27

法52条 容積率 4

法53条 建蔽率 19

法55条 一低・二低の高さ制限 0 法56条 高さ制限(道路・隣地・北側) 16

法61条 防火地域内規制 0

法62条 準防火地域内規制 4

法63条 準防火地域の屋根規制 0 法64条 準防火地域の開口部規制 6 法67条の2 特定防災街区整備区域規制 0 単体規定

集団規定

(3)

3 3-4 建築基準法の緩和条例の必要性

各自治体が街並み保全と建基法適用についての 問題意識をどの程度認識しているのか、また緩和条 例制定についてどの程度検討を行っているのかを 把握するために、商業系用途の伝建地区のうち、緩 和条例をまだ制定していない17自治体にヒアリン グを行った。

『既存不適格建築物の建て替えにおいて、街並み 保全と建基法適用で問題意識はあるか?』に対して、

約88%の15自治体は問題意識を持っており、『緩 和条例制定を検討しているか?』に対して、半数以 上の自治体において程度の差はあれども緩和条例 の検討を行っていることが分かった。※自治体担当 者の見解であり、自治体の総意を示すものではない。

4 伝統的建造物群保存地区の効果の検証 4-1 仮説

商業系用途の伝建地区で伝統的建造物群を保全 しつつ、文化的な価値を活用したまちづくりを行っ ている京都市・金沢市・川越市では、土地資産価値 の向上に寄与する場合がある。

4-2 ・分析方法

伝建地区と非伝建地区の路線価を被説明変数と し、伝建地区選定実施前後3年の年度ダミーなどを 説明変数としたパネルデ-タによるDID分析によ り、実証する。

推計式 LogLandprice=β0+β1(YD)+β2(PDD)

+ β3(Interaction term)+ β4(Road width)+ β

5(Floor ratio)+ε

※比較対象の非伝建地区は、①京都市田の字地区、

②・③金沢市の上近江町付近街区、④川越市の川越 駅北側街区の商業系用途の近傍中心市街地

4-3 分析結果と考察

①京都市産寧坂地区/伝建地区選定により、路線価

は2.1%下落することが、有意水準5%で分かった。

歴史的街並みに対する観光資源としての認識も社 会一般に薄い時期だったのではないかと推測する。

②金沢市東山ひがし地区/伝建地区選定により、路

線価は26.6%上昇することが、有意水準1%で分か

った。緩和条例により、既存不適格部分解消によっ ても路線価の相対的な上昇に寄与しているものと 考える。

③金沢市主計町地区/伝建地区選定により、路線価

は6.2%上昇することが、有意水準1%で分かった。

近傍東山ひがし地区により観光客の増加に相乗効 果が影響していると推測する。

④川越市 川越地区/伝建地区選定により、路線価

は24.5%上昇することが、有意水準1%で分かった。

伝建地区選定時には伝統的建造物が連続する都市 計画道路について幅員 11.0mを現状の約 9.0mに 都市計画変更することで、事実上の既存不適格部分 解消を行うことで、蔵造の街並みの担保性を確保し、

資産価値の向上に寄与したと考える。

被説明変数

 Floor ratio   容積率

 説明変数

LogLandprice  路線価(千円)(対数)

 Year Dummy(YD)   年度ダミー(未選定:0、選定:1)

 Preservation District Dummy(PDD)   伝建地区ダミー(地区外:0、地区内:1)

  Interaction term(=YD×PDD)    交差項(=YD×PDD)

 Road width   道路幅員(m)

被説明変数

伝建地区 ① 産寧坂地区 ② 東山ひがし地区 ③ 主計町地区 ④ 川越地区 -0.604***

(0.076)

‐0.021** 0.266*** 0.062*** 0.245***

(0.009) (0.014) (0.010) (0.015) -0.004 0.000 0.038***

(0.003) (0.002) (0.106) 0.090 (0.061) 5.602*** 5.576*** 4.965*** 5.373***

(0.049) (0.024) (0.014) (0.240)

観測数 372 303 192 312

観測年代 1974~1979 1999~2004 2006~2011 1997~2002

決定係数 0.748 0.948 0.764 0.911

検証モデル 固定効果モデル 固定効果モデル 固定効果モデル 変量効果モデル

*** p<0.01, ** p<0.05, * p<0.1  容積率

 道路幅員

伝建地区と中心市街地における伝建地区選定についてのDID分析  路線価(千円)(対数)

 交差項(=YD×PDD)

 定数項  伝建地区ダミー

(4)

4 5 建築基準法緩和の効果の検証

5-1 仮説

商業系用途の伝建地区で伝統的建造物群を保全 しつつ、文化的な価値を活用している京都市では、

建基法の緩和により、個性的な街並みの保全だけで なく経済的な側面からも、土地資産価値の向上に寄 与している。

5-2 分析方法

商業系用途の伝建地区と非伝建地区の路線価を 被説明変数とし、緩和条例制定前後3年の年度ダミ ーなどを説明変数としたパネルデ-タによる DID 分析により、実証する。

推計式 LogLandprice=β0+β1(YD)+β2(RD)+

β3(Interaction term)+β4(Road width)+ε

5-3 分析結果と考察

①京都市 産寧坂地区/緩和条例の制定により、

路線価は4.4%上昇することが、有意水準5%で

分かった。緩和条例により建築計画の自由度を大 きくしたものであり、資産価値の向上に寄与した と考える。

6 まとめ 6-1 政策提言

本研究においては、商業系用途の伝建地区で文化 的価値を活用したまちづくりを行っている京都市、

金沢市、川越市については、概ね資産価値の向上へ 寄与することが確認できた。その要因としては、伝 建地区選定に至るまでの各自治体による景観を保 全する条例などの成果による質の高い歴史的な街 並み保全と地域住民への合意形成に努力してきた 背景と、伝建地区制度における保存修理事業への経 費補助などの総合的な施策により街並みの質を一 層高め、観光資源として十分に活用していることが 推測できる。

また、京都市においては、建築基準法の緩和条例 を活用することにより、資産価値の向上に寄与する ことが確認できた。その要因としては、建築計画の 自由度を高め、景観の保全を可能にすることで、歴 史的な街並みを本質的に修景することが可能とな り、街並み全体の維持可能性が確保できたことが推 測できる。今後は、同様の状況にある自治体でも伝 建地区制度における法的根拠の確立された緩和条 例を十分に活用することにより、伝建地区制度が、

地域住民の理解を得ながら、本質的な街並みの保全 により一層貢献することが期待できるものと考え る。

6-2 今後の課題

東京都では、伝建地区に選定された実績はない。

しかし、江戸・東京は約400年間日本の政治・経済 の中心地であり続けた歴史性からして、文化財とし ての歴史的な街並み保全が近い将来必ず再評価さ れるはずで、観光などの文化財の『活用』を行うに は、最も有利な立地条件だとも言える。街並みが不 可逆的なものである以上、街並み保全と地域住民の 意識向上に地道に取り組み、将来的に伝建地区にな り得る可能性を持続させる自治体の総合的な政策 が講じられるべきである。

被説明変数 LogLandprice  路線価(千円)(対数)

 Year Dummy(YD)   年度ダミー(未実施:0、実施:1)  Relaxation Dummy(RD)   建基法緩和ダミー(地区外:0、地区内:1)

  Interaction term(=YD×RD)    交差項(=YD×RD)

 Road width   道路幅員(m)

 説明変数

 被説明変数  路線価(千円)(対数)

 伝建地区名 産寧坂地区

-3.451***

(0.341) 0 .0 4 4 * *

(0.018) -0.053***

(0.017) 9.774***

(0.406)

 観測数 372

 観測年代 1994~1999

 決定係数 0.958

 検証モデル 変量効果モデル

*** p<0.01, ** p<0.05, * p<0.1  道路幅員

伝建地区と中心市街地における建基法緩和についてのDID分析

    交差項(=YD×RD)

 定数項  伝建地区ダミー

参照

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