日本海域研究所報告,第29号,1~12頁,1998
「ナホトカ」号重油流出による環境汚染と生物浄化:
重油炭化水素分解細菌の検出と分離
板垣英治 (金沢大学理学部化学科)
(1997年8月10日受理,ReceivedAugustlO,1997)
EnvironmentalpollutionsbyheavyoilspilledfromaRussianoiltanker“Nak‐
hodka,,andbioremediation・Isolationandcharacterizationofmarinebacteria
degradinglongchainhydrocarbonsofheavyoil.
一〃興皐厚鐘酎酎』|』...、
EijilTAGAKI
DepartmentofChenlistry,FacultyofScience,KanazawaUniversity,
Kakumamachi,Kanazawa,920-1192,Japan
1.はじめに
荒天の曰本海を航行していたロシアタンカー「ナホトカ」は平成9年1月2日深夜,15mに及ぶ 大波のために船体を破損し,積載していたC重油5000klが海面に流出した。重油は1月7日から8
曰に曰本海側府県の沿岸に漂着し始め,重大な環境汚染となった。海上での漂流油の回収も冬の荒 れた天候に阻まれ思う様にはいかず,海流の影響を受け,福井県釘石川県沿岸に大量に漂着し,各 方面に深刻な問題を与えた。漂着した重油の回収に数万人があたったが,これも限度があり,一部 は自然に生息する微生物による生物浄化にたよらねばならなかった。「ナホトカ」号より流出し,漂 着したC重油は粘度137.46センチストークス(50℃),沸点91℃の暖房燃料用油であり,その化学 組成は炭素数20を中心とする直鎖状高級炭化水素類(n-アルカン)で,一般的な重油の化学組成 であった。(1)この高い粘度のために,回収に用いられた機器も十分に機能しなかった。この重油 に含まれる高級炭化水素類の微生物による分解(資化)については,すでに多くの研究があり,多 種の細菌,酵母,カビ類がその能力を持つことが知られている。(2)さらに汚染重油成分の分解は,
Pseudomonas属やAcinetobacter属など多種の海洋性細菌類によって行なわれているという報告 もある。(3),(4)わが国でのこれまでの汚染油の生物浄化に関する研究は局地的に限られたもので あり(3),(5),(6),曰本海域での重油炭化水素分解細菌の分布に関する微生物学的調査の資料は皆無 であった。一般には沿岸部海水中には101~105個/100mlの重油炭化水素分解細菌が生息すると 報告されているが(6),本県の沿岸の海水については明らかではなかった。本研究では,加賀市塩 屋海岸,金沢市の4つの海岸,および内灘町の海岸で採取した油塊試料より重油炭化水素分解細菌
(
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-1
の分離を行い,その純粋培養を行った。炭化水素化合物を含む液体培地で分離菌株の培養実験を行 い,この菌株による直鎖状高級炭化水素の分解についての知見を得た。また,油塊中の重油の細菌 による分解の過程を観察するために,それに付着生息する細菌数を調べ,生物浄化の進行状況を評
価した。
2.実験方法
(1)試料採取
平成9年2月2曰,石川県加賀市塩屋海岸(大聖寺川河口東側付近)で漂着重油および汚染海藻,
海砂など5種類を採取した。また,3月12日,金沢市金石海岸(犀川河口東側付近),大野川河口
付近,および河北郡内灘町海岸で海水,海砂,海藻,油塊を,さらに3月16曰に再度内灘海岸で油塊の採取を行った。5月,6月7月に金沢市金石海岸,大野海岸,専光寺海岸,打木海岸で油塊鮭
を採取した。各試料は4°Cで保存した。
(2)重油炭化水素分解細菌の分離と培養
培養実験に用いた基本無機塩類溶液は文献(3)に従って作成した。この塩類溶液50mlに塩屋海岸 で採取した漂着重油(約109/L)を加え,500m1-フラスコで滅菌後,使用した。採取試料のうち
重油付着海藻,海砂,ごみ,油塊等は少量(約19)を直接この液体培地に加えて培養した。c14-C2o炭化水素を炭素源とする場合には無機塩類溶液50mlに炭化水素を0.25ml加えた。培養は振
とう培養機(130回/分)を用い,28°Cで行った。
寒天平板培地は3%寒天を含む重油一無機塩類培地,炭化水素(n-テトラデカン)一無機塩類培
地に生育促進のために酵母エキス(0.03%)を加えたものである。(6)重油炭化水素分解細菌の分離のための培養実験操作は次の様に行った。
(1)重油が付着した海藻,海砂,ごみなどの試料(約19)を,重油一無機塩類液体培地(50ml)
に加え,28°Cで7曰間振とう培養した。(2)この培養液0.5mlを新しい重油一無機塩類液体培地
(50m!)に移植し,同様に28℃で7日間振とう培養した。(3)細菌の生育した培養液より釣菌し,鐙
重油一無機塩類寒天平板培地に移植し,28℃で7曰間培養した。(4)寒天培地上に生育した細菌 のコロニーより釣菌し,新しい重油一無機塩類寒天平板培地に移植し,同様に28°Cで7曰間培養 した。(5)生育した細菌のコロニーより釣菌し保存培地(栄養培地及びテトラデカンー無機塩類 寒天培地を使用した。)に移植し,生育後,4°Cで保存した。
栄養培地はダイゴSCD培地をNaCl濃度を3%に調整し,寒天平板培地として使用した。細菌の
生育状態は液体培地では濁度,平板培地ではコロニー形成の観察によった。また光学顕微鏡での観 察も行った。分離した菌株は栄養寒天斜面培地およびテトラデカンー無機塩類平板培地で生育,保存した。
重油塊に生息する炭化水素分解細菌の検出は,n-テトラデカンー無機塩類寒天平板培地を用いて
行った。重油塊より少量の試料をスパーテルで取り,寒天培地面に塗布し,28°Cで培養した。
-2
(3)菌数の測定
海砂19を試験管にとり,滅菌した3%NaC11mlを加え,音波洗浄機で約30秒間処理し,上澄 み液を原液として使用した。海藻も同様にして試料原液を調整した。海水は直接使用した。油塊の 場合は,その重量を測定した後,100-200mgをかき取り試験管に入れ重量を測定した。これに3%
NaCllmlを加え,微温湯中で加温後,音波処理と遠心を行い,上澄み液を試料原液とした。各試 料原液は10倍希釈法により処理し,、-テトラデカンー無機塩類寒天平板培地で28°Cで培養した。7
日後に細菌のコロニー数を求めた。
(4)検鏡
分離した細菌はガラス板上に固定後,Pt-Pdコーティングし,走査電子顕微鏡(曰立S-2250N)
で菌体像を観察した。また,クールステージを装着した走査電子顕微鏡(曰立S-3200N)を用い て,チルドSEM法による直接観察も行った。
(5)炭化水素の分析
n-テトラデカンを炭素源として細菌を培養後,培養液中の残存炭化水素を酢酸エチルで抽出,濃 縮後,ガスクロマトグラフイ(OV-17カラム,3m)により分析した。また,油塊より炭化水素を n-へキサンで抽出し,ガスクロマトグラフイ(OV-1カラム,3m)による分析も行った。
(6)分離細菌の分類同定
分離した重油炭化水素分解細菌の分類学的同定は,清水による「海水環境から分離される従属栄 養細菌の同定図式」に基づいて行った。(7)細胞形態はn-テトラデカンー無機塩類液体培地および ダイゴSCD(3%NaClを含む)寒天培地で培養した菌体を用いて観察した。
3.結果
((1)重油炭化水素分解細菌の分離
重油またはn-テトラデカンを唯一の炭素源とする液体培地,寒天平板培地での逐次培養操作によ り各採取試料より多数の重油炭化水素分解細菌の菌株を得た。図1は3月12曰に金石海岸で採取し
た油塊の一部を培地に塗布したものであり,多数の細菌のコロニーの形成がみられる。2月2曰に塩屋海岸で採取した試料より単離した菌株(SY102)を重油一無機塩類寒天平板培地に培養したも
のを図2に示す。この菌株が重油を炭素源,エネルギー源として生育することが出来ることが分か る。さらに,5月から7月に金沢市大野,金石,専光寺,打木海岸で採取した油塊試料からも多種の菌株を単離した。いずれもn-テトラデカンー無機塩類寒天培地で生育する能力をもつ菌株であ
る。代表的なもの4株を図3に示す。
(2)分離菌株の形態
SY102菌株はフェノールーフクシン染色液で染色され,光学顕微鏡により矩形の菌体が観察され
-3-
重油を炭素源,エネルギー源として生 育する菌株
平成9年2月2日に加賀市塩屋海岸で採 取した試料より分離したSY102菌株を重 油一無機塩類寒天平板培地に移植し,7日 間28゜Cで培養した。
図1油塊に付着生息する重油炭化水素分解 図2
細菌 平成9年3月12日に金沢市金石海岸で採 取した油塊の一部をn-テトラデカンー無 機塩類寒天平板培地に塗布し,7日間28°C
で培鍵した。
鰯
2.
q
■ロロ○一
3. 4.
漂着油塊より分離した重油炭化水素分解菌菌株4種。
n-テトラデカンー無機塩類寒天平板培地に培養。
1K103株(短桿菌)(金沢市金石海岸の油塊より分離(3月))
2.UT103株(短桿菌)(河北郡内灘町内灘海岸の油塊より分離(3月))
3.s105株(榿色桿菌)(金沢市専光寺海岸の油塊より分離(5月))
4.0105株(球菌)(金沢市大野海岸の油塊より分離(5月))
図3
-4-
る。走査電子顕微鏡により,生育菌は体長約1/f、,体幅0.4〃mの短桿菌として,また,低温で保 存した静止菌は径約0.5浬mの球状の菌体として観察された。(図4-1,2)
図1のコロニーより分離した菌株(K103)も短桿菌(図5-1)であり,SY102株と同様に生 育菌と静止菌での形態変化が観察された。UT103株も同様の性質を持っていた。図3-3のS105 株は榿色色素を生成する桿菌(図5-3)である。図3-4の0105株は小型の球菌である。(図5-
4)細菌の表面構造の様子を知るために,チルドーSEM法で観察したSY102株の写真を図4-3 に示した。今回,加賀地方の海岸に漂着した油塊より重油炭化水素分解細菌として桿菌2種,短桿 菌7種,球菌3種を分離した。採取地の違い,気温の変化などにより,重油に生息する細菌の種類 に違いが観察された。
2.
1.
(
3.
SY102株の走査電子顕微鏡像
1.生育菌(拡大率8000倍),2.静止菌(拡大率8000倍)
3.生育菌のチルドSEM像(拡大率5000倍)
図4
-5-
●
2
ロロロロニ
●
3. 4.
4種の重油炭化水素分解細菌の菌株の走査電子顕微鏡像 1.K103株,2.UT103株,3.s105株,4.0105株 1.2.3.は拡大率8000倍,4.は5000倍で観察した。
図5
(3)分離菌株の炭化水素分解能
今回流出したc重油はCIOからc麺におよぶ長鎖炭化水素を主成分とすることから(1),分離菌株●
がこれらの炭化水素を生育のために利用する事が出来るかを調べるために,無機塩類溶液に炭素源 としてn-テトラデカン(n-C14H3o),n-へキサデカン(n-C16H34),n-オクタデカン(n-C18H38),
n-エイコサン(n-C2oH42)のいずれかを加えた培地にそれぞれの菌株を接種し,28°Cで振盤培養を 7曰間行った。(図6-1,2)n-へキサデカン,n-オクタデカン,n-エイコサンを炭素源とする と生育速度は遅くはなるが,菌の生育が培地の濁度の増加,検鏡による菌体の観察等により確認さ れた。この結果はこれらの菌株が今回漂着したC重油の炭化水素の少なくとも50%以上は確実に分
解,資化出来ることを示すものである。
菌株の生育にともなう炭化水素の消費は培地中に残存する炭化水素の定量により知ることも可能 である。SY102株,S105株をテトラデカンー無機塩類培地で1週間培養後,残存している炭化水 素を抽出し,ガスクロマトグラフイで分析したところ,図7-1,2に示すように細菌が生育した 培地中には,n-テトラデカンはほとんど検出されない(SY102株)か,1/3に減少している(S105
-6-
1. 2
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(
図6 C14-C2o炭化水素を炭素源として生育した菌株2種
LSY102株,2.s105株
炭化水素一無機塩類液体培地で7日間培養した。
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図7
重油炭化水素分解細菌の生育による、-テトラデカンの消費LSY102株
(1)n-テトラデカン,(2)菌株を移植しなかった培地,(3)菌株を移植し,7日間
振瀬培擬した培地 2.s105株
(1)菌株を移植しなかった培地,(2)菌株を移植し,7日間培焚した培地。
細菌の培養後,残存するn-テトラデカンを酢酸エチルで抽出し,ガスクロマトグ
ラフィにより分析した◎
-7-
株)。この結果は培地に加えたlmmolのn-テトラデカンが細菌の生育のために消費され,エネル
ギー源となり,また菌体生合成のための原料となっていることを示している。
分離した菌株はどれも栄養培地では,1夜(15時間)で十分に生育し,従属栄養細菌であること を示している。SY102株,K103株,UT103株を栄養培地で継代培養を繰り返すと,n-テトラデカ ンー培地では生育出来なくなる。これは炭化水素を代謝するに必要な酵素系(αル遺伝子群)の発現 が抑制されるからと考えられる。(8)この菌株を重油を含む培地に接種すると,生育する様になる
ことから,重油にはこの遺伝子の発現を促進する物質が含まれていると考えられる。
(4)分離した菌株の細菌学的性質
SY102,K103,UT103株はグラム染色で陽性を示し,、過酸化水素を分解して酸素を生成し,カ タラーゼ活性を持つ。さらに前述した様に,生育菌は短桿菌として,また,低温で保存した静止菌
は球状の菌体をし,形態の変換をする。また,これらの菌株は蒸留水に懸濁すると浸透圧のために●
細胞の破壊が観察される。これらの事柄よりこの菌株は海洋性のArthrobacter属の細菌であると
考えられた。(7)他の菌株についての同定は今後に残されている。
(5)重油炭化水素分解細菌の分布と油塊に付着生息する菌体数
漂着重油の生物浄化を評価するために,その漂着地域における重油炭化水素分解菌の生息分布状 況を調べた。金沢市近郊海岸の海水,藻類,海砂,油塊などに生息する重油炭化水素分解細菌と,
その菌体数の調査した。海水中の菌体数を表-1に示す。沿岸海水には約102個の菌が存在し,3月 より6,7月の海水の方がやや増加している。冬期の海水にはこのArthrobacter属が主な細菌で あったが,春から夏にかけて他の種類の細菌(球菌)が目立つ様になっている。さらに,採取場所 による菌種の違いも認められる。この表には輪島市沖の七つ島の群島の一つである荒三子島の海水 中の分解細菌の数も示した。この海水には異常に多くの重油炭化水素分解細菌が生息している。
3月の金石海岸,内灘海岸の海砂には10~103/gの分解細菌が見られた。試料採取3地点を比べ ると,大野川河口付近の海水,海砂,海藻はいずれも他の地点に比べ菌数が多い。油塊に付着生息
する重油炭化水素分解菌を金石海岸,大野海岸,専光寺海岸,打木海岸,および内灘海岸で採取し●
た試料を用いて調べた結果を表-2に示す。3月に内灘海岸で採取した油塊には約105個/gの細 菌が見られたが,5月に採取した試料にはどれも約106-107個/gの細菌が見られ,気温の上昇に 伴って菌数の増加がおきていると考えられる。油塊に生息する細菌の種類にも大きな変化が観察さ れた。3月の試料ではArthrobacter属の細菌がほとんどであったが,5月の試料では,細胞の長い 桿菌(S105),短桿菌(S305,U405など),球菌(0105,U305など)などが目立つ様になってい
る。
(6)重油分解にともなう漂着油塊の状態の変化
金沢市の4つの海岸に漂着した油塊は春から夏にかけて,その数は著しく少なくなり,さらにそ の形状も大きく変化してきた。図8-1に示す3月に内灘海岸で採取した油塊には高い粘度の重油 が多く含まれることがよくわかる。この時期の油塊の重油含量(n-へキサン抽出物量/油塊重量)
-8
表-1海水中の重油炭化水素分解細菌の菌体数 試料海水採取月
6月 7月
4月 5月
採取場所 3月
8.2×102 1.7×103 7.8×102 2.6×102 2.5×103
6.4×102 2.1×102 4.5×102 金石海岸 <102
大野海岸
専光寺海岸打木海岸 内灘海岸
大野川河口荒三子島
10
2.0×102 7.4×102
<’02
~103
2×105
単位:菌数/海水1mI
( 表-2重油塊に付着生息する重油炭化水素分解細菌の菌体数
6月 8月
5月 7月
採取場所3月 4月 金沢市
大野海岸 金石海岸 専光寺海岸
打木海岸
内灘町 内灘海岸
輪島市 荒三子島
2.1×106 2.1×106 3.1×106 21×106
1.6×106 2.4×106
*7.2×
106
2.6×106 4×106 1.8×108 1.9×107
1.9×107 2.0×107
2×1061.2×106 1.6×105
2.8×105
1.2×106
海岸の表層に漂着している油塊の細菌数を分析,菌数/g
*表層から10cm海砂に埋もれていたもの。
はおよそ25%であり,そのガスクロマト分析によりC20を中心とした長鎖炭化水素の存在が確認 出来る。これに対して,5月,6月に採取した油塊の性状は大きく変化し(図8-2),砂粒を接着 している重油が分解を受け,壊れやすい脆い構造になっている。図8-3は6月18曰に大野海岸で 採取した油塊を示す。このものは図8-4に示すように軽い接触により壊れてしまい,砂粒になる。
この油塊は約6x105個/gの細菌,油含型65mg/9(6.5%),推定炭化水素含璽4-5.5mg
/gであり,菌体数の減少,油含堂の減少が認められ,細菌による重油炭化水素の分解浄化をはっ
きりと表している。
(
4.考 察
近年,世界各地でのタンカー事故,石油化学事故等による油流出事故がしばしばおきている。一 般に海洋に流出した油は物理的,化学的な変化を受け,さらに海水中や底土中の微生物による分解 を受けるといわれ,生物浄化は重要な位置を占めている。石油を分解する海洋'i生微生物に関する研
-9
21 1.
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対
3.
二●
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漂着油塊の生物分解による形状の変化
1.平成9年3月12日内灘海岸で採取した油塊,2.平成9年5月7日大野海
岸で採取した油塊,3.平成9年6月18日大野海岸で採取した油塊,4.3.
の油塊を軽く触れたために潰れたもの。
図8
●
究報告がいくつかあるが,(3-6,9,10)しかし,今回の様な曰本海側沿岸域における重油の分 解をする微生物についての'情報は皆無である。漂着重油の生物浄化についての基礎的データーとし て,この地域の重油炭化水素分解細菌の生息状況の調査をする事は意義のあることである。
今回,過大な重油被害を受けた加賀市塩屋海岸より採取した試料から,重油を唯一の炭素源とし て好気的に生育する短桿菌(SY102)を分離し,純粋培養をすることが出来た。分離した菌株はC14 からC2oの長鎖炭化水素(n-アルカン)を炭素源とする液体培地で生育する事から,重油炭化水素分 解細菌であると認められた。また,この細菌は蒸留水に懸濁すると,容易に細胞膜を破壊する事か ら海洋性細菌であり,河川からの混入したものではない。本菌株と類似の菌株(K103,UT103)が
-10-
金沢市金石海岸,内灘町内灘海岸の漂着油塊,海砂試料からも分離され,「長鎖炭化水素分解能をも つ海洋性従属栄養細菌」として,加賀地方の曰本海沿岸域に広く分布している事が明らかとなった。
特に漂着した油塊には,冬期の低温にもかかわらず,これらの菌株が約105個/gも付着生息し,海 水中,海砂中に比べて非常に多い。このことは,この菌株が盛んに増殖して,重油炭化水素を分解 資化していることを示している。海水温および気温の上昇とともに,より活発な細菌の活動が見ら れ,5月に採取した油塊では,菌体数が10-100倍に増加していることが確認された。それと共に 多様な菌種が見られる様になり,重油炭化水素の分解能を持つ細菌が自然界には豊富に存在するこ と,さらに今回の漂着油塊の分解過程の観察から,冬期,夏期を問わずに盛んに重油の分解を行う ことが明らかとなった。1月8曰に海岸に漂着した油塊が人手による回収と細菌による浄化作用に より分解除去され,汚染された海岸が6か月の問に現状に回復したことは驚くべき事柄である。
単離した菌株の高級炭化水素分解能の生物化学的研究により,その能力をより的確に把握し,こ れらの細菌の重油汚染に対する有効利用をする道が開かれると考えられる。また,重油は非常に複 雑な構成分よりなるものであり,芳香族化合物も含有されている。これらの化合物を分解すること の出来る海洋性細菌のついても研究することが今後の課題として残されている。
(
謝辞
荒三子島の試料の採取にご協力いただいた北国新聞社報道部の方々,走査電子顕微鏡での菌体像 観察にご協力いただいた金沢大学工学部五十嵐心一氏,山戸博晃氏に,またチルドSEMの観察をし ていただいた曰立計測エンジニアリング西村雅子氏に深く感謝の意を表する。
本研究は文部省科学研究費補助金「流出重油処理対策と海洋環境復元に関す研究」(代表石 田啓工学部土木建設工学科教授)の補助を受けて行った。ここに記して感謝の意を表す。
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9.
10.
●
●