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原田

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香 川 大 学 経 済 論 叢

75巻 第4 20033 29‑92

編集企業の戦略原理

創発連鎖による組織革新一~

原 田

は じ め に

元来,どんな企業形態であっても,企業はある種の事業目的を実現するた めに組織化されたものである。それゆえ,必要な資源や機能を自社に蓄積する ことで競争優位性を獲得することが当然の戦略対応であると考えられていた。

その結果,わが国の多くの大企業においては垂直分業による全機能,全資源囲 い込み型の事業構造が採用されたのである。そして,この垂直分業を指向する

クローズドな事業構造に特徴を見出される日本型経営は現在では危機に瀕して いる。

そこで,このような危機から脱却すべき企業形態として期待されるのが本 稿で提言される編集企業である。これは,欧米型の水平分業に依拠したグロー バルなオープンシステムの企業形態とはいささか異なるモデルとして捉えられ る。それは,この関係企業は垂直分業であろうと水平分業であろうと,この差 異などにはまったく関係ないオープンネットワークを確立している企業形態だ からである。

ここでは,企業といういわば器としての組織が先にありきなのではなく,

たとえば諸ソースがそれぞれ価値の創造に阿けて自在にネットワーキングが指 向されている。そして,結果として組織が確立することになる自己増殖型の組 織化方法論に依拠した,いわば関係こそが組織そのものであるというようなモ デルが提示される。すなわち,本稿で提言される編集企業は,関係を編集する ことで新たな組織が形成されるようなダイナミックな組織概念として示され

(2)

る。このような組織においては,関係こそが場の形成を誘発することになり,

また,それが実はテンポラリーな存在であると考えられる。

ここで特に大切なことは自在なネットワーキングが望ましい方向に沿って 行われる方法論であり, したがってそのための仕組みの確立が不可欠になるわ

けである。これこそがすなわち,前述した関係の増幅が結果として場を形成し,

それがまた結果的に組織になるという考え方を反映した組織化なのである。そ れゆえ,特に関係の増幅が望ましい組織へと転換するための仕掛けが大事であ り,そのために関係を編集する能力,すなわち関係編集能力の形成が期待され るのである。

ここで課題になるのは,結果として組織されるような場の設定に至る道筋 の効果的な探索である。このことは,ある種のインプロビゼーション (improvi sation : 即興)能力やシンクロナイゼーション (synchronization: 同期)能 カの発揮が期待されることであり,これはすなわち,創発的な価値創造へ向け た感応能力の形成がきわめて大事であることを意味しているといえる。これこ そが,実は編集企業に期待される最も基本的な能力であるし,また効果的なリ

ソース結合を可能にするためのエクパティーズであるとも考えてよい。

そうなると,ある種の偶発的な結果としての場を形成するための因子,こ れを著者は関係子と呼んでいるのだが,この単位としての関係子と,これを全 体へと絹み上げていく編集能力の双方が,まさに価値の創造に多大な影響を与 えていると考えることができる。言い換えれば,たとえばリソースのモジュー ル化とその価値創造へ向けた関係編集が創造的な場を実現しうるような手法の 確立が不可欠になっているといえる。なお,これこそが実は新たな価値の創造

に向けて編集企業に対して期待されている役割であろうと考えられる。

このような関係企業は,いわばテンポラリーで常に流動している軟体動物 的な組織であると考えられるが,それでもある種の境界をもった内部組織を もった組織として存在している。このような仮想的な存在であり, しかしなが ら外部に向かって無限に拡散していこうとする遠心力を保持していることが編 集企業の特徴であるともいえる。そこで,本稿においては,このような特徴を

(3)

879  絹集企業の戦略原理 ‑JI‑

もった編集企栗の本質を解き明かすべく,以下においてその理論化を試みると ともに,併せて,これで説明しうる先進的な事例についての紹介を行っていく。

仮想組織化を指向する編集企業

IT (information technology)革命が組織戦略に及ぼした最大の影響は,個 別企業を超えた仮想組織 (virtual organization)においても事業活動や企業 経営が展開される場の形成が充分可能なことを教えてくれたことである。そし て,この仮想組織の登場によって,われわれは伝統的な企業観からの根本的な 脱却が行えたのである。それは,もしも何かを成しうるには,そのための器で ある法人としての企業というリアルな組織の存在が前提になるという常識を覆 すものであった。

それは,もしも何かをなそうと考えるにあたり,たとえば新たに企業の設 立を行ったり,また新たな組織を用意しなければならないという,いわば従来 型の組織発想からの転換を示唆しているともいえる。このことは,言い換えれ ば,何よりも場ありきという場の形成がコンテキストを創造するという伝統的 な組織観から,むしろ関係の編集こそが新たなコンテキストを創造するという 新たな組織観へと転換すべきことを意味している(原田, 2000)

このような考え方は,関係編集による組織の無限の増殖活動が新たな組織 を形成するという,まさにダイナミックな組織論への期待が大きいことを示し ている。なお,これについては,組織活動とは境界を隙合して無限に増殖する 活動であるという考え方の台頭であるとも考えられる。また,それゆえ,ここ で提言される編集企業を考察するにあたっては,組織が事業活動が行われる器 であるという伝統的な観点よりは,むしろ組織化という行為が事業を形成する

という新たな観点が求められる。

編集企業における基本概念

このような編集企業の登場によって,境界融合型の新たな組織戦略が認知 されるようになった。しかし,このような企業の壁を越えたテンポラリーな事

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業主体の形成は,伝統的な組織においてもすでに多様に試みられている。これ は,ゴーイングコンサーンを指向する企業が自社以外の組織と一時的なコラボ レーションを形成し,結果的に,自社のみによっては実現できないような事業 成果を実現しようという試みである。

具体的には,たとえば建設業界の固有の組織である経営共同企業体に対し て,著者は形態的には編集企業の原点を見出すことができる。この経営共同企 業をみると,実は企業の目的が存在ではなく行為そのものにあるという発想が 湧き上がってくる。そして,このような発想を通じてこそ,既存のリアルな世 界の企業とは本質的に異なる編集企業の組織的優位性について理解が深まるこ

とになる。

1.  1 経営共同事業体にみる関係編集性

このように外部にリソースを求めて組織化を行うことで単独では実現でき ない成果を上げているビジネスモデルとして,すでに周知であるゼネコンが展

(1) 

開している共同企業体(ジョイントベンチャー)を紹介することができる。こ のゼネコンの世界では,長い間の汚職や談合の匂いによってか,この共同企業 体についてはどちらかというと必要悪的な捉え方がなされ,その組織的な優位 性についてもほとんど考慮されることはなかった。

それに,実際には,確かに共同企業体においては,共同することで価値の 増大を実現するというポジティブな組織化というよりは,むしろ利益の配分を 行うための分配システムであるとの意味合いが前面にでていた。しかし,この 共同企業体は,たとえライバル企業間においてさえ,期間限定であるがそれぞ れのプロジェクト単位で共同組織を構築できることを示している。

このジョイントベンチャーを定義すれば,複数の建設業者が共同で工事を (1)  共同企業体:公共工事を対象とするジョイントベンチャーという観点で捉えると,橋

や空港に代表される特定共同企業体と中小総合工事業者の育成を目的とした経営共同企 業体に分類することができる。また,施工方式によって分類すれば,業者がそれぞれ材 料費,労務費,人材,技術などを収集して共同で施工にあたる甲型共同事業体と,共同 の出資によることなく,工区別や業種別に会社別に分担する乙型共同企業体に分けられ

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881  編集企業の戦略原理 ‑33‑

受注し,施工,完成するために編成された共同企業体ということになる。なお,

このジョイントベンチャーにおける代表業者を幹事会社またはスポンサーとい い,また発注者や下請業者などとの交渉ごとは幹事会社が担うというような仕 組みが確立されている。なお,このジョイントベンチャーにおいて問題視され ているのが,特に大型公共工事に構成される特定共同企業体なのである。しか し,これは本稿で参考にしようとする特定共同企業体とはまったく異なる組織 である経営共同企業体である(外池, 1996)

さて,著者が本稿において建設業の共同企業体に学ぶべきとして取り上げ るのは,実はこの経営共同企業体なのである。すなわち,企業の壁を越えた融 合により個別企業では実現しえないような競争力を獲得する共同企業体とは,

実は特定共同企業体ではなく経営共同企業体を示しているのである。しかし,

この経営共同事業体としてのジョイントベンチャーについては未だそれほどの 成果を上げえていないこともあってなのか,この経営共同事業に対する組織研 究者の関心はきわめて低いし,また他の産業においてもこのような組織を導入 して事業を展開している事例を見出すことはきわめて困難であることも事実で ある。

しかし,著者においては,この経営共同企業体を中小の企業を経営共同に よって競争力をもった組織形態へと転換させるためのポジティブな概念として 捉えており,これこそが編集企業の原点ともいうべき基本的な特性をもってい ると考えている。それゆえ,著者が提言する編集企業のルーツを,一般的には 建設業界における悪しき慣行として見なされている経営共同企業体に見出そう

という考えでもある。

1. 経営共同企業体と編集企業

このように複数の企業の共同によって経営組織をテンポラリーに編成する ことには多くのリスクが感じられるのであるが,それでも個別企業の限界を超 えて大きな仕事を担えるメリットや事業活動の平準化の実現に向けては大いに 貢献している。そこで,この経営共同体のメリットを追求しながらも, しかし

(6)

三=

図ー 1 経営共同企業体と編集企業との比較

階層型組織

弱者救済

閉鎖的経営

......  

- ~ (

; 

ネットワーク型 組織

¥ 

強者同盟

開放的経営

................................ •·· .¥•. .  ノ・•.··

=三

建設業界の談合などに見出される悪しき問題点を回避した組織概念として,す なわち経営共同企業体の進化形態として編集企業という組織概念を位置付ける ことにする (図― 1)

したがって,編集企業においては多くの企業が共同して事業を営むことに ついては経営共同企業体と同様なのだけれども, しかしその共同の目的や共同 の形態が根本的に異なっていると考えられる。その意味において,編集企業と は経営共同企業体と外見的にはかなり類似しているようにみえるのだが,内面 的にはまったく異なる組織であると考えるべきである。

1の共同目的の差異は,前者の経営共同企業体があくまでも弱者救済が 第一義的に考えられるのに対して,後者の編集企業については複合化によるシ ナジー効果の拡大が第一義的に考えられていることである。また,保護政策の 受け皿として期待されるのが経営競争企業であり,

戦略として位置付けられるのが編集企業である。

むしろ競争戦略を担うべき

2の共同形態の差異は, 前 者 の 経 営 共 同 企 業 体 が 親 子 関 係 に 類 似 し た 垂 直関係の組織間関係であるのに対して,後者の編集企業においてはパートナー

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883  絹集企業の戦略原理 ‑35‑

シップによるコラボレーションを大事にした水平関係の組織間関係であること である。したがって,共同体の組織編成の方法論が両者ではまったく正反対で あるといっても過言ではない。すなわち,前者の経営共同企業体ではヒエラル キー的な組織編成が,後者の関係企業においてはネットワーク的な組織編成が 採用されていると考えてよい。

このように,まさに共同することでパワーの増幅を図ろうとする点におい ては,経営共同企業体も編集企業と同様であるが, しかしその本質においては 両者がまったく異なる特徴を備えていると考えられる。だからこそ,ネットワ ーク型の組織編成を特徴にした ITを活用して成立するような戦略的アライア ンスなどについては,著者の提唱する絹集企業というコンテキストによって語 られるほうがより適切であるとも思われる。

,. 3 編集企業における競争優位性

このように編集企業の概念は,建設業における経営共同企業体から触発さ れたものであるが,この経営共同という行為こそがIT時代の境界融合組織で ある連鎖組織の本質を指し示す概念である。すなわち,編集企業とは,複数の 企業がそれぞれの企業の存在を犯すことなく,すなわちそれぞれのリアルな個 別企業はそのまま残しながらも, しかし共同を推進することによって新たな企 業組織として編成された企業である(図ー 2)。

なお,この連鎖組織である編集企業においては,個別企業のコアコンピタ ンスの連鎖組織として現出していることに,その最大の特徴を見出せるのであ る。言い換えれば,編集企業とは,仮想的なコアコンピタンスの連鎖を確立す る組織であると定義できる。そうなると,当然ながら,編集企業への参加企業 においては何らかの競争優位性を保持した独創的なリソースの保持者であるこ とが要請されてくる。

そして,このようにコアコンピタンスの連鎖組織の形成能力そのものが,

実は編集企業としての競争優位性を示していると考えられる。その意味におい て,関係企業は価値の最大化を可能にする何らかのリソースを統合コンセプト

(8)

図ー2 編集企業化による価値連鎖の創造

コアコンピタンス

編集企業化

価値連鎖企業

コアコンピタンス の連鎖

に向けて関係づける関係編集能力に秀でた組織であるといえる。言い換えれ ば,ベストリソースの連鎖をいかに最適オーダーで配置していくかが,まさに 編 集 企 業 に 問 わ れ る 最 大 の 力 量 で あ る と 考 え て も さ し つ か え な い ( 原 2000)

したがって,本稿では,今までの議論を踏まえて,編集企業とは複数の組 織がそれぞれのコアコンピタンスであると考えられる何らかのリソースを提供 し,それらから価値の最大化を可能にするために関係づけるという,すなわち 関係編集を行っていくような組織であると定義することができる。これは,参 加したそれぞれのコアコンピタンスリソースは,原則としてそれぞれの個別企 業のリソースとして担保されていることが前提である。

言い換えれば,競争優位性を獲得するために, M & Aなどによる経営統合 による同一化を指向することなく,むしろ仮想的な一過性の組織連携を行おう という戦略を,編集企業によって現出したわけである。したがって,この編集 企業とは,実は特定の目的指向型の組織形態であると考えるべきものであり,

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885  編集企業の戦略原理 ‑37‑

たとえば利益の獲得を指向したとしてもそれらの組織的な蓄積はまったく指向 しないような組織像を想起させる。そうなると,当然ながら,利益の配分はリ ソースの提供者である個別企業に帰すことになり,資本蓄積などについては まったく考慮しなくてよいような組織であると考えてよい。

編集企業の仮想企業との類似性

それでは,編集企業の代表的なモデルとしての仮想企業の戦略的特徴につ

(2) 

いて, MA (merger  and  acquisition) との比較において考察を試みる。

両者の戦略については,自社に存在していないリソースを広く外部に求めるこ とで結果として組織としての競争力を獲得しようという狙いから追求されてい ることは,実はまった<類似したものであるとも考えられる。

しかし,それでも,両者の間には根本的な差異が存在していることに気が つくはずである。それは,前者がリソースを外部に求めてもけっして内部化し

ないのに対し,後者はリソースの内部化が直接的な目的になっていることであ る。それは,他社とのアライアンスの狙いの差異であるともいえる。また,こ の編集企業が成立した後も,すなわち一旦アライアンスを締結したあとも引き 続き,編集企業への参加企業はそれぞれ自立的な企業として存在している。そ れゆえ,編集企業とは自立的な企業が特定の目的に限定することで,創発連鎖 が可能な一時的な共同組織体を構築するという試みの結果現出した組織形態で あると考えられる。

2. 1 M &Aによる組織統合の課題

さて,昨今では定着した戦略になっている M & Aとは,他の企業のリソー スを内部化することでパワー増大を追求する方法なのであるが,それゆえ企業 の間に横たわる境界を完全に喪失させてしまうことになる。言い換えれば, M

(2)  M&A: 企業の合併・買収のことである。一般的には,グローバル戦略を推進してい くための戦略として有効であると考えられている。 M & Aのメリットとしては,新し い事業分野へ短期間のうちに進出できること,既存事業の強化と新規事業の開発機会の 探求,組織的資産の蓄積,規模の経済の獲得などがあげられる。

(10)

& Aとは買収する企業の価値観に被買収企業の価値観を適合させていくこと で同化を実現しようという戦略なのである。しかし,短期間に被買収企業を買 収企業のシステムや制度で運営していくには,十分なアフター M & Aの戦略 対応が不可欠になっている。それゆえ,このように M & Aによるリソース結 合を成功させるためには十分な M & Aのマネジメント能力が必要とされてい

それでは,以下において, M & Aによる成長戦略の問題点いついて概観す ることを試みる。昨今,世界的な ITバブルの崩壊やエンロンやワールドコム の破綻によって,コンプライアンスを怠ったりガバナンスを不透明にすること で企業を成長させたり,短期間で企業価値を増大させたりすることへの反省が 急務になっている。すなわち,リーズナブルな成長と社会の公器としての責任 の双方が企業に対して強く求められ始めている。

実際,多くの M & Aの案件で統合後の企業価値が統合前の両者の合計を上 回るような水準を実現した事例を見出すことは困難なことである。また,多く M & Aの成功企業の CEOも多くの克服すべき課題があることを認識して いるようである(ケアリー他, 2001)。なお,このことは時間を買うというメ

リットとの比較において議論すべき戦略課題であるともいえる。

それは,たとえば企業を買収することで被買収企業のコアコンピタンスは 本当に内部化できるか,企業文化の差異を乗り越えることが可能なのか,とい う課題を議論することでもある(ケアリー他, 2001)。もちろん,そのための 処方箋も今では多数開発されているのだが,それでも結局は課題を完全に克服 できるとは言い切れない状況にあることはまちがいない。

そのため, M & Aを効果的に推進していくためには,たとえば企業統合の プロセスマネジメントの観点からのレビューシステムの整備や,早期のマネジ メント体制の確立に向けた責任の範囲の設定とその所在を明白にすることが,

戦略的に重点課題となっているわけである。また,一般的には,企業の多くの コアコンピタンスはそれぞれの企業の従業員に体化されている場合が多いた め,有能な従業員の流出を避けなければならないことも確かなことではある。

(11)

887  編集企業の戦略原理 ‑39‑

さらに,企業にとって,収入とは顧客があってはじめて実現するのだから,顧 客との信頼関係の確立にも十分に意を払うことも,また大切な課題であるとも いえる。このように, M & Aに外部リソースの獲得に対しては多くの固難な 課題の克服が成功のための前提条件になっている。

2. 2 編集企業による境界融合

これに対して,編集企業においてはあくまでも企業の独立が前提のアライ アンスであり,それゆえコアコンピタンスのアライアンスを行ったとしても,

そのコアコンピタンスが他社に完全に帰属するわけではないし,契約によって 流 用 を 避 け る こ と も 十 分 に 可 能 に な る 複 数 企 業 に よ る 関 係 形 態 で あ る と い え る。なお,この編集企業は一種の仮想企業であると考えられるため,編集企業 には仮想企業に見出される多くの特徴を内在させていると考えることができ る。そこで,以下において,仮想企業に見出される代表的な特徴について若干 の紹介を行うことにする。

(1997) に よ れ ば , 仮 想 企 業 と は 複 数 の 企 業 が 機 能 を 分 担 し , 事 業 を 共 同で進める仮想企業体であると定義することができる。また,この仮想企業に ついては,情報関連業などの創造指向が強い企業に適した組織コンセプトであ り,逆に規制が多く変化が乏しい業界にとっては馴染みにくいものと思われ る。なお,この仮想企業の基本コンセプトについては,概ね「脱自前主義」と

「壁の除去」の 2つに見出すことができる(以下,程, 1997)

前 者 の 自 前 主 義 か ら の 脱 却 と い う コ ン セ プ ト の 背 景 に は , 製 品 が 高 度 化 し 顧客ニーズが多様化するなかにおいて,どの企業も自社だけで裁量の製品をタ イムリーに生み出すことが困難になってきたことがあげられる。それゆえ,こ れからは従来型のアライアンスの枠にとどまらない,より深く踏み込んだコラ ボレーションが期待されることになるわけである。

た と え ば , 新 し い グ ロ ー バ ル 事 業 を 展 開 す る 場 合 に は , た と え ば 製 品 の 開 発において複数の国家のライバル企業や顧客企業とパートナーシップを組み,

また生産,販売の段階では地域ごとに別の企業とパートナーシップを締結する

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というような大胆な発想が大切になってくる。

後者の壁の除去が可能になったという状況の背景には,情報ネットワーク のグローバルな整備によって,技術的には空間,組織,人脈,時間などの制約 から開放されたことを読み取ることができる。それゆえ,必要なスキルやノウ ハウを必要な時,必要な場所へ自由自在に投入することが可能になった。この ことについては,あたかも内部にあるように利用できるコンピュータの記憶装 置の外付けシステムのようなものを考えれば,よく理解できるはずである。ま た,このことは,実はリソースの獲得を外部に求めることで,内部に求めるよ

りはリソースの外部拡大性の可能性が増大することを表している。

2. 3 水平分業による仮想企業の形成

このように,今や時代は仮想企業に多大な優位性を与えているように感じ とることができる。この仮想企業には実は垂直分業型と水平分業型の 2つのモ デルを想定することができる。もちろん,眼下の IT時代においては,よりグ ローバルなモデルである水平分業型のモデルの方が,日本的経営に散見できる 垂直分業型モデルに対して比較優位性を見せていることはすでに周知の事実で ある。

それでは,以下において仮想的な水平分業モデルについて,その特徴につ いて概観を行うことにする。これは,いわば対等な分業体制の確立を意味して いると考えられ,伝統的な垂直統合モデルとは根本的に異なるモデルであると いえる。また,一方の垂直分業のアライアンスが統合モデルであるとすれば,

他方の水平分業のアライアンスは融合モデルであるともいえる。

たとえばIT産業の場合,山本 (2001) によれば,伝統的なビジネスモデル に基づ<,PC (パソコン)メーカーの A B C D社における垂直 統合モデルは,マーケティング専門企業,開発受託企業, OEM企業,物流企 業,量販企業など,ビジネスモデルの価値連鎖の一要素を水平に統合して専門 化する企業の登場によって垂直統合の必然性が低下することになった(図一

3)

(13)

889  編集企業の戦略原理

図ー3 垂直分業と水平分業との比較

‑4]‑

••••••……二......

.. 

親会社

mu   子会社

&  系列会社

........................... •·

 

そして,このような消費財市場における水平分業体制の確立によって, PC メーカーは下流のみならず上流の業務プロセスまでもアウトソースすることが 可能になったわけである。マーケティングや開発機能までもアウトソースでき るようになると,メーカーの存立基盤はブランド価値のみになってしまう。こ のことは,理論的には業務プロセスで構成されていた価値連鎖がブランド価値

という価値連鎖に集約されることを意味している。

こ の ブ ラ ン ド 価 値 と は , 実 は 統 合 的 に 製 品 品 質 を 保 証 で き る 責 任 能 力 を 示 している。すなわち,メーカーは各業務プロセスを外注した後も,外注先企業 を統合的に管理する能力を確保することが不可欠である。一方,水平分業専門 企業においては,その契約先の垂直統合メーカーの要求を高信頼性を維持しな がら遂行する能力が養成される。こうなると,アライアンスによって成立した 水平分業のネットワークは 1つの仮想的に統合された企業であるといえる。

こ の よ う な 特 徴 は , 実 は す べ て が 著 者 の 提 言 す る 編 集 企 業 を 捉 え た リ ソ ー ス結合戦略に対しても有効に作動している。その意味において,著者は,編集 企業という組織形態は,リアルな実態的企業よりは,むしろ仮想的な組織とし

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ての存在がふさわしい組織形態であるとも考えている。

関係編集による組織融合

このように垂直構造と水平構造のビジネスモデルには根本的な差異が見出 されるが,それは組織と組織,リソースとリソース,機能と機能などの連携方 法,言い換えれば,企業間におけるアライアンスの形成についての理念の相違

に起因している。そこで,以下において,融合概念について考察を行いながら,

その上でこれを実現すべくパワーとして関係編集能力についての理解を深めて

この関係編集能力こそが,実は関係企業における競争優位の最大の要因で あり,また関係企業とは,外部企業との多彩なアライアンスと対象企業との良 好なパートナーシップ形成においてエクスパティーズを保持している企業であ る。そして,この関係企業においては関係自体を戦略的に変化させていくこと が最大の経営戦略になるため,組織的には常にダイナミックな編集企業になる ことが避けられないことになる。もちろん,この編集企業において誰が一体イ ニシアチブを獲得するかは,そこに参画している複数の企業の編集企業に対す る戦略の差異によると考えられる。

3. 1 融合概念の戦略的アナロジ一

それでは,関係企業の最大のエクスパティーズである融合能力について考 察を深めることにする。この融合概念については佐堀 (2001)が核融合のアナ ロジーを利用しながら説明を行っているので,まずその紹介を行っておく。核 融合とは,実は複数の原子核が結合し一体化することにより別の原子核を形成 することを意味している。

具体的には,複数の水素の原子核が一体化しヘリウムの原子核が形成され る場合が代表的な事例である。このように,融合とは本来このような原子核同 士が結合する現象を意味しているのである。さて,この核融合が注目される理 由として融合現象に伴う膨大なエネルギーの創出があげられる。そして,この

(15)

891  編集企業の戦略原理 ‑43‑

エネルギーの創出が経営戦略へのアナロジーとして価値が見出される要素なの である(佐堀, 2001)

たとえば,以下において,水素の同位体である璽水素 (D)と三重水素 (T) による DT核融合反応の場合を取り上げることにする。このとき,反応後に 形成されるヘリウム原子核と中性子の質量の差分はエネルギーとして反応過程 において放出される。わずかな質量が膨大なエネルギーと質鍼の相異なる複数 の主体が混じりあい,その反応に伴い膨大なエネルギーを創出されるのである

(佐堀, 2001)

さらに,融合という概念とは反応前の物質が溶けあって 1つになることを 意味している。つまり,前述した核融合のように,異質のものが結合あるいは 溶け合うことにより,新しいものへと転換することが,実は融合の本質である と想定できる。言い換えれば,融合とは変化を誘発するトリガーの創出である と考えられるのである(佐堀, 2001)

それゆえ,融合の論理が経営戦略に応用できるわけで,ここでは変化誘発 のトリガーとして融合を定義づけることができる。たんなる結合ではなく,境 界が跡形もなく見えないほどに融合現象を現出させるためには,そのような化 学反応を可能にする仕掛けが不可欠になる。それが,融合促進を可能にする仕 掛けであるといえ,これこそがまさに仮想企業である関係企業の役割といえ る。言い換えれば,編集企業とは融合を行うために設定された戦略的な組織で あると考えてよい。

3.2  コラボレーションの進化形態

融合が新たな価値を創造するような形態で実現するには編集企業への参加 企業の間でコラボレーションが高度な形態で行われることが前提条件になる。

実際に,昨今のインターネットの登場は高度なコラボレーションの実現を可能 にしている。このような高度なコラボレーションによって実現される境界融合 型のビジネスモデルに山崎 (2001) の主張する eコラボレーションが上げら れる。仮想企業であり,そこにはコラボレーションが徹底的に追求され望まし

(16)

い形態でパートナーシップが形成されている。それでは,以下において山崎の いう eコラボレーション型のビジネスモデルについて考察を加えてみる(以 下,山崎, 2001)

山崎のいう eコラボレーションとは,同一業界の複数の企業がネット上の 共同体を結成し,ネット上で共同事業を行うものである。その意味では水平分 業を行いながら異質な機能を担う企業がバリューチェーンを形成するというモ デルとは異なっている。このモデルでは同一業態であってもコラボレーション は可能であるし,またバーチャルなネットワーク形成が可能であることを示し ている。

この共同事業には,コラボレーション企業による,共同研究,共同購買,

共同受注,さらには顧客向けの情報提供などがある。顧客参画指向の情報提供 では,ネットワークを運営するコーデイネーターが携わる場合が多くなってお り,まだ情報提供元から収益を得るシステムになっているのが一般的であると いえる。この代表的な事例としては,たとえばソニーコミュニケーション・ネッ

トワーク(ソネット)をあげることができる。

このソネットが運営する代表的なものとしては,たとえばメデイカル・プ ロフェッショナルというサイトがあげられる。これは医療関係者向けホームペ ー ジ で あ る が , 国 内 の 医 師 の 1割 程 度 が 登 録 し て お り , 登 録 会 員 は す で に 25,000人にものぼっている。ここにおいては,医師のみならず看護士や学生 も加わって,医療業界のコラボレーションが実現している。ここには,また医 療機器メーカー,製薬メーカー,医学関連出版社も参加しており,それらの融 合による仮想組織が編集型組織として実現している。

3. 3 知識シナジー指向のコラボレーション

さて,コラボレーションによる組織融合によってバーチャルコーポレーショ ンが現出するのだが,その狙いは個別企業が相互に自身では保持できないコア コンピタンスを獲得できるからである。すなわち,コアコンピタンスのシナジ ー効果が実現するからであるといえる。これらのシナジー効果のなかから,以

(17)

893  編 集 企 業 の 戦 略 原 理 ‑45‑

下において,特に大事なものとして知識シナジーについて言及していく。

こ の 知 識 シ ナ ジ ー も , 従 来 型 の 全 体 最 適 を 指 向 す る だ け で は 新 た な 価 値 の 創出は行えない。しかし,組織融合によった新たな価値創造が行えなければ,

それはコラボレーションを行う意味が乏しいことを示している。そこで,ここ においては,特にシナジーによって新たな価値を創造するためのコンセプトと して共進化を提示することにし,これを利用することでシナジー創造について 考察を加えることにする。

ア イ ゼ ン ハ ー ト と ゴ ル ニ ッ ク (2001) に よ る な ら ば , シ ナ ジ ー 効 果 は コ ラ ボレーションを共進化に進化させることで実現する。しかし,共進化を実践す るためには,事業と事業,企業と企業の結びつきを一時的なものとして捉える ことが大事になる。すなわち,必要ならばいつでもその相手を変えればよいと いうような考え方が主流なのである。これは,自在に境界融合的に組織連携し ながらもそれを必ずしも固定的なものとせず,むしろ絶えず最適な相手も探し ながら完全な融合を指向することが望ましいことを表している(図ー 4)。

図ー4 コラボレーションと共進化との比較

I

特定の事業部(企業)と 長期にわたって協力

事業効率の向上,

範囲の経済の実現

協調

Iコラボレーションの中身

さまざまな相手と 適宜手を組み直す

協調と競争

コラボレーションの中身,

コラボレーションの相手の数

コラボレーションに ふさわしい環境の整備

キャサリン M.,アイゼンハート, D.,シャルル・ゴルニック「共進化のシナジー創造戦略」

HarvardBusiness Review2001 8月号より,著者が抜粋

(18)

これこそが共進化であって,これを効果的に推進することがニューエコノ ミ一時代の競争戦略には不可欠になる。これは,またコラボレーション相手を 頻繁に変更することを意味している。アイゼンハートとゴルニックによれば,

臨 機 応 変 の コ ラ ボ レ ー シ ョ ン に 卓 越 し て い る 企 業 と し て , GEキ ャ ピ タ ル

(GECS)があげられている。なお,この GECSにおけるゼネラル・エレクト リック (GE)社の B2C事業(消費者向け家電事業)を支援する事業から B 2B事業向けの金融サービスヘと転換する過程が,まさに臨機応変のコラボレ

ーションたる共進化が積極的に展開された事例として理解すべきものであるら しい(アイゼンハート,ゴルニック, 2001)

すなわち,製品と現代財務手法を組み合わせることで, GEGECSは事業 を共同して拡大していったそうである。そして,やがて GECSの内部におい ても,特殊保険やクレジットカードといった関連しあう事業が,顧客の獲得,

維持プロセスを統一してウェブを形成するようになったわけである。このよう に,コラボレーションの内容と相手を変容させていくことで, GEGECS 通常のコラボレーションを越えたシナジー効果を獲得することに成功したのだ ということである(アイゼンハート,ゴルニック, 2001)。そこで,これらの 事例から知識シナジーの実現が,編集企業に見出される特徴の 1つであると考

えることが可能になるわけである。

I

I  関係企業にみる共進化の戦略手法

前 述 し た よ う に コ ラ ボ レ ー シ ョ ン が 進 化 す る こ と で 共 進 化 が 可 能 に な る の だが,それでは一体どのようにしたら共進化が現出するのだろうか。この共進 化 と は , 実 は コ ラ ボ レ ー シ ョ ン の 参 画 者 に よ る 共 進 化 の 実 践 に よ っ て 実 現 す る。それは,たとえば事業を起こす際にそのビジネスゲームに参加しているメ

ンバーの相互作用によって触発されるというようなものである。言い換えれ ば,この場合には,インタラクションによって価値の増大が実現することが関 係編集の成果であるといえる。

そこで,以下において,関係編集によって新たな価値を創出する関係企業

(19)

895  編集企業の戦略原理 ‑47‑

に見出されるエクスパティーズについての考察を深めてみる。このことは複数 の主体が存在することが前提条件であり, しかもそれらの主体が相互に関係を 求めて積極的な仕掛けを模索することが期待されている。これが,著者のいう

ところの関係企業において特徴的に見出される境界融合現象を可能にする戦略 手法である。

この境界融合の理解を深めるべく,ここにおいては境界融合という新たな 概念を導出することになった周辺概念についての理解を深めていく。具体的に は,第 1に共進化モデルについて,特にモジュール活用によるダイナミズムの 理解,第2にシンクロマネジメントの重要性からのシンクロナイゼーションヘ の理解,第 3に仮想組織における英知結集の仕組みによる知創型組織の理解,

という 3点についての考察である。

共進化モデルとしての境界融合モデル

それでは,関係企業を成立させるための条件であるその担い手たる主体に よる境界融合の方法論についての考察を行うことにする。これは,実は仮想企 業への全参加者の間で相互に浸透し合うことを指向したインタラクションが自 在に行われているようなモデルヘの言及である。その意味において,ここで述 べる編集企業については共進化を可能にするためのビジネスモデルであると考

えてよい。

そこで,このような観点に立脚しながら共進化モデルの特徴について述べ るとともに,これを可能にする組織論としてモジュール発想,また主体が融合 へ向けて積極的に繰り広げる主体融合を指向するインプロビゼーションについ て,それぞれ著者の考え方を提示することを試みる。なお,これらについては

(3) 

いずれも複雑系の考え方から導出されたものであることを申し添えておく。

(3)  複雑系:要素還元主義が通じない系である。すなわち,要素間の,あるいは要素とそ の相互作用により,個々の要素の特性からは導き出せないような特性を系全体として指 し示すような対象を複雑系という。言い換えれば,複雑系とは,その系の構成要素の特 性が個々の要素をその系から分離して単独で分析することによって解明されえないよう

な系である。

(20)

,.  1 共進化する相互浸透モデル

さて,ここで述べる共進化とは,実は寺本と中西 (2000)が主張する相互 浸透モデルと同様な概念として捉えることができる。そこで,ここでは彼らが いうところの相互浸透モデルについての紹介を試みることにする。この相互浸 透モデルが形成されるということは,仮想企業たる関係企業がネットワークと

して現出することを意味している。このネットワークは人や情報を通じて形成 されるのだが,この人や情報のネットワークは知識のネットワーク形成の源に もなっている。また,この人と情報によって創り出される知識は,多重利用性,

移 転 可 能 性 , 文 脈 依 存 性 , 脆 弱 性 と い う 特 徴 を も 備 え て い る ( 寺 本 , 中 西 2000)

この知識とは傑出した個人の閃きと孤独によって創り出されるというより も,むしろ多くの人々による協同的な行為に,すなわちコラボレーションによっ て創造されるものなのである。人々の志やビジョンや価値,既存の知識を相互 に連結して新たな知識を生み出すのは多様なネットワークであると考えられ る。われわれは,知識がネットワークを通じて獲得され,創造され,そして蓄 積される社会,すなわち知識ネットワーク社会に生きているのである(寺本,

中西, 2000)

このネットワーク社会の本質とは,個人と個人,個人と組織,組織と組織 など多様な主体がルースに結合されたシステム,すなわちルースカップリング

(4) 

システムによって形成されており,その形成原理としては自己組織性をもって いる,ことなどである。また,主体同士がルースに結合するということは,た とえば主体間の相互の結びつきが緊密なものではな<'むしろゆるやかである ということを示していると考えればよい。言い換えれば,主体間の弱い結びつ きを原則とするネットワーク現象においては,複数の主体が自己組織的にルー スに結合していることを示している(寺本,中西, 2000)

(4)  ルースカップリングシステム.・組織論者のカール・ウェイクによれば,それを構成す る複数のサブシステムが共通の変数をほとんどもたないようなシステムか,あるいはサ ブシステム間の共通の変数が全体に影響を与える他のローカルな変数に比べて弱いシス テムのことである。

(21)

897  編集企業の戦略原理 ‑49‑

なお,寺本と中西 (2000) によれば,複数の主体が)レースに結合されたシ ステムというネットワークの本質を捉えることで,結果としてネットワーク社 会のいくつかの重要な属性が導出できる。この属性こそが,実は著者が唱える 編集企業の特徴を最も適切に表している。なお,それらは以下のような 4点に 要約することができる。

①  ネットワーク社会においては,社会における個の自由度が高くなって いる。言い換えれば,今後においては組織や社会の一員としての各主体 の自律性が強調されるようになる。

②  ネットワーク社会とは,システムの中心が 1つではなくむしろ多数で あるという多中心システム,あるいは中心そのものが存在しない脱中心 のシステムなのである。

③  ネットワーク社会とは,要素の結合,分離,再結合などの組み替えが 柔軟にできる時代のことである。つまり,各主体は多様な形で組織やグ ループの形成を行ったり,解消したり,再結成したりするというような 動きを絶えず繰り返されている。

④  ネットワーク社会においては,そうした組み替えが個々の要素の自発 性によって自己組織的に行われている。それゆえ,各主体は,それぞれ 自律的な判断のもとに相互に結合する相手の選択を行ったり,これまで 属していたシステムからの退出を決定したりすることができる。

さて,このように,これらの属性が備わっている企業がネットワーク社会 において結合優位性を保持できるのだが,これらの優位性を総合的に保持して いる企業として著者の唱える編集企業をあげることができる。

1.2  モジュール化による相互連結

さて,相互進化モデルにおいては,特に主体間のルースなカップリングが その最大の特徴であるといえる。そして,相互進化によって新たな価値を形成 することを指向するならば,その相互進化する主体間の相性などもきわめて重

(22)

要な要素になる。したがって,相互進化を成功させるためには相互のインタラ クションの効果を最大限ならしめる主体選定が大事な条件になる。

そ こ で , 主 体 に 期 待 さ れ る べ き 概 念 と し て , 昨 今 と み に 注 目 度 が 高 ま っ て いるモジュール思想を持ち込むことを試みることにする。これは,あらかじめ 選定されたモジュールのネットワークによって編集企業が現出する価値の最大 化を実現しようという発想である。なお,このモジュールとは,青木 (2002) の 定 義 に よ れ ば 概 ね 以 下 の と お り に 要 約 す る こ と が で き る ( 以 下 , 青 木 , 2002)

モ ジ ュ ー ル は 半 自 律 的 な サ ブ シ ス テ ム で あ っ て , 他 の 同 様 な サ ブ シ ス テ ム と一定のルールに基づいて相互に連結することにより複雑なシステムまたはプ ロセスを構成する。そして, 1つの複雑なシステム,またはプロセスを一定の 連結ルールに基づいて独立に設計される自立的なサブシステムに分解すること がモジュール化であり,ある連結ルールの下で独立に設計されうるサブシステ ム を 統 合 し て 複 雑 な シ ス テ ム , ま た は プ ロ セ ス を 構 成 す る こ と が モ ジ ュ ラ リ ティなのである。

そ れ で は , 今 , な ぜ こ の よ う な モ ジ ュ ー ル 化 が 脚 光 を 浴 び て い る の だ ろ う か。これについても,青木 (2002)の見解,すなわち以下のようなモジュール 化の 3つの可能性を紹介することで疑問への回答にする。

①  複 雑 な シ ス テ ム を 分 解 し て で き る ( あ る い は , 複 雑 な シ ス テ ム を 構 成 する)モジュール自身が複雑なシステムである。

②  モジュールの連結ルールが進化する。

③  い っ た ん モ ジ ュ ー ル 間 の 連 結 ル ー ル , な い し は ボ ー ル ド ウ ィ ン ・ ク ラ ー ク の い う 目 に 見 え る 設 計 ル ー ル が 定 ま る と , 個 々 の モ ジ ュ ー ル の 設 計 や,その改善は他のモジュールの設計やその改善から自立して行われる。

1. 3 モジュール化の基本体系

青 木 (2002) に よ れ ば , モ ジ ュ ー ル 化 に は , 第 1にヒエラルキー的分割,

2に情報同化型連結,第3に情報異化型・進化的連結という 3つの形態に分

参照

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