ーJ3β−−
経済発展と転換点問題
稲 毛 満 春
はじめに
世紀を越え.た経済発展の長期過程が,景気変動問題を別としても,決して んたんとした直線的違約拡大の過程に.と.どまることなく,転換点となづけう
ような,質的変化をともなったいくつかの大きな屈折をもつものである は,よく知られた事実である。最初の大きな転換点は,もうすまでもなく
的経済がいかにして自己促進的な規則的成長経済に転換しうるかという問
あり,最近の低開発諸国の発展という政策的課題と関連して多くの人の関心 あつめている。とく転.,経済史家のW.W.Rostowが,このような転換点
「蘭陸」となづけ,各国の資本主義的発展の歴史から離陸のための諸条件を 出しようとした努力は.,その後の研究を一層刺激することとなった。
Rostowは,自己促進的な規則的成長にむかっての離陸とは.,つぎのよう
(1)
3つの基本的特徴を備えていなければならないと定義した。
(1)生産的投資率が国民所得もしくほ.国民純生産の5パーセントないしは 以下から10パ・−セント以上に・上昇すること。
(2)十分な力を持った1つないしそれ以上の製造業部門が高い成長率をもっ 発展すること。
(3蘭代即弓紅おける拡張への衝動と離陸のもつ潜在的外部経済効果とを別 して,成長紅前進由性格を与えるような政治的・社会的・制度的枠組がすで 存在しているか,あるいほ急嵐に・出現しつつあるこ・と。
てのような離陸点ないし離陸期のメカニズムを分析的に解明することは経
成長論の基本課題の1つと考えられるが,最近エ−ル大学のGustavRanis
(1)W.WRostow.T加5fαgβ50./−β∽㈲鋸扇−c G7・の〟ん」佑川−C卯玖朋畝扇■5=肋東西
1960,p.39;木村健康,久保まち子,村上泰亮共訳『経済成長の諸投階止53ぺ、−ア
経済発犀と転換点問題 −1j39−
.H.Fei教授は2つの共同論文, A Theory of Economic Develop−
AmeribanEconomic Revieu),September1961,およぴHInnovation,
italAccumlationandEconomicDevelopment ,09・Ciil,June1968,
いてRostowとほ異なった観点から転換点を特徴づけ,そのメカニ・ズム
にした。前述の、ユ.),(2)および(3)からわかるように,Rostowの離陸基 ほ資本蓄積率の急激な上昇すなわら資本蓄殻率の加速化である。
は基本的に
れた対して,Ranis=Feiほそのような観点は分析的にあいまいなものをふ でいると考える。そして彼らは,自己促進的成長への転換の慈恵的でない 牢として,A・Lewisのいわゆる「無制限労働供給」(unlimited supplies
(2)
1aboI)の消滅,あるいは彼らの場合ほ通じことなのだが,農業部門の「偽 発」(disguisedunemployment)の消滅,という基準を採鳳するのである。
かしながら,資本蓄積率の加速化というRostow基準と無制限労働供給 消滅というRanis=Fei基準とは2者択一・的なものであろうか。それとも相 補完的なものであろうか0われわれは,少なくともわが国の明治以来の経済 長過程における転換点問題を解明しようとするかぎり,両者を相互補完的な のと考え,より−−・般的な転換点理論を展開しなければならないと思う。
2L下,まず最初の2つの節において,Ranis=Feiの転換点理論の概要を述
、。欝8節では,Ⅰ,eibensteinの企業者機能論とJ.Robinsonの資本蓄積 手掛りとして,Rostow的資本蓄積屈準をあいまいさを残さないような形
析的に定式化する。最後に彿′4節では,両者を綜合することによって,一
⊥般的な転換点理論を展開したい。
IRa‡lisニ;Feiの転換点論
.1.Lew主sの転換点 Lewisほ低開発国における産業部門へ・の労働供給 泉ほ第1図の∫∫′曲線のような形をしていると考えた。いわゆる無制限男 時給とほ,図の水平部分すなわち∫才′部分であって,所与の賃金率05 に
Atthuz Lewis, Deve王opment with Unlimited Supp‖esof Labour, Manchester
C加oJoノEcク〟0朋査c5α机ブぶ粥 仇J5領別封β.ざ,May1955,pp.153−・60
・−J4♂−・−
おいて索郎艮に・弾力的な労働供給量を意味している。戯曲線群ほ産業部門の 働需要曲線群であって二,資本蓄積の進行にともなって右方ヘンプトナる。し がって,産業部門の労働需要曲線をd′d′のところまでシフトさせるに十分 資本蓄積が遂行されれば,無制限労働供給は消滅し,それを越える資本蓄積
やがて賃金率を上昇せしめるであろう。
Lewisの転換点とは,このような無制限労働供給の消滅点才′であるが,
れほつぎの2つの要因によって決定される。
(1)産業労働者の増大によって食糧需要はしだい紅増加するが,やがて農業 門の提供可能な余剰食糧を超過するにいたる。食糧価格ほ相対的に.騰貴レ,
楽部門の農業部門紅対する交易条件ほ悪化する。そのため,食糧で測った賃 率は不変であっても,産業生産物で測った賃金率ほ.上昇するにいたる。
(2)農業部門の余剰労働力(1aborsurplus)が消滅し,一層高い賃金率を支 わなければ農業部門から労働力を獲得できなくなる。
かくして,Lewisの転換点の意味を明瞭にするためには農業部門のあり方 一層研究しなければならないわけである。
1・2・過剰労働力と偽装失業 農業部門の生産関数ほ.第2図の曲線0
で表わされるものとしよう。労働力が0ヱ)の範囲内であれは,雇用増加匿
っで産出高は増加する。すなわち,労働の限界生産力はプラスである。しか
経済発展と転換点問題 第2図
がら,産出高にほ上限Cβが存在し,0ヱ)を越えて雇用量をふやしても産出 増加しない。すなわち,労働の限界生産力ほゼロである。このような限界 産カゼロの労働力部分をRanisニFeiは「過剰労働力」(redundaritlabor)
呼ぶ。現存の農業総労働人口をOAとすれば,か4が過剰労働力である0 出発点では,農業産出高A方はすべて農業労働人口OAによって消費され
l やるものと仮定すれば,実質賃金はA考OAであり,対角線0ズの傾斜に
って表わされる。限界生産力がゼロであるにもかかわらず,プラスの賃金を るのであるから,こ.の賃金は労働市場の需給関係匪・よって決定される競争的 金ではなくて,最低生活を保障するいわば制度的賃金(institutionalwage)
ある。
つぎに,この制度賃金率が限界生産力に一激する点を求めてみよう。第2図 皮点がそれである。そうすると,総労働人口のうち且4部分は,その限界 慮力が所与の制度賃金率よりも低いことがわかる。Ranis=Feiはt.のよう
雇用箪PAを偽装失業(disguisedunemployment)と呼んだ。過剰労働力
偽装失業の1部分であって全部でほない。前者は生産関数の技術的性質によ
て決められる技術概念であるのに対し,後者は制度賃金率との関係によって
第37巻 第2・3号
−ヱ42−
定義される経済概念である。
1.5.、商業化点と食橙不足点 産業部門の雇用増大による農業労働人口 減退によって,このような偽装失業が消滅した点,すなわち第2図の 忍点 いしP点が,いわゆる農業の「商業化点」(commercialization point)と はれる点である。
解3図ほ農業男働の限界生産力曲線Aか〔/yを用いて,これな・一層明確に たものである。過剰労働力が存在するAD区間でほ限界生産力はゼロであモ β点以 ̄ ̄F■に労働人口が減退すると限界生産力ほプラスとなる。そして,ぞ におい七ほ′じめて所与の制度賃金率A∫と等しくなる。すなわち,P点嶽 業化点である。
それでは,このような偽装失果の消滅過程において,食糧余剰鼠ほどの 紅変化するであろうか。給食糧余剰とは総生産遠から農業内消費鼠を差し引 た部分であるから,第2図のOj?Cズ曲線と対角線0ズとの垂直距離であ
この総余剰星を産業労働者敬すなわち農業労働人口の減退数で割ったもの 均余剰食糧である。したがって,過剰労働力が存在する問は,明らかに.平
く−一農業労働人口
経済発展と転換点問題 岬ム紹−−
は所与の制度賃金率紅等しい0しかしながら,過剰労働力が消滅してし それ以上の農業労働人口の減退は若干ずつではあるが生産議を減少さ したがって,第3図のか点より右の区間でほ,平均余剰食糧ほ制度賃 よりも小さくなっていく0第3図のぶyZ曲線ほこのような平均余剰食糧 である◇
ゝく∴して′,∂点よりも右に移行すると,産業部門では食糧不足が発生し,食 格ほ騰貫する0産業生産物の価格ほ相対的に低下し,産業生産物そ測った
資金率は上昇しほじめるであろう0第1図のモ′eWisの転換点才′とは・まさ あような点である。Ranis=Feiほこノのi′点,あるいは同じことだが第3
Y点ないD点を「食糧不足点」(shortage point)となづける。
述のように,Lewisはかれの転換点を決定する要因として2つをあげた 解lの要因は才′点を食糧:不足点とみなすことを意味する。また,欝2の
である「 余剰労働力」の消滅を「過剰労働力」の消滅と解釈すれば,結局 の要因を裏側からみたものであって,同じことを意味する。しかしながら 余剰労働力」の消滅を「偽装失業」の消滅と解釈すれば,そ・れほRanis=
i:▲め「商業化点」のごとであって,食糧不足点よりも一腰に・おくれて到来す のと考えなければならない。すなわち,産業部門の雇用増加匿つれて,ま 糧不足点に・到達すると,食糧価格の騰貴のためにそれまで不変であった藤
率が上昇しほじめ,さら紅商業化点に.到達すると今後ほ農業労働者の労 供給価格の上昇に・よって賃金率の上昇が加速化されるのである。Ranis=Fei
,らのような3段階のステップを区別し,食糧不足点まで(第3図のAか 間)を第1局面,金程不足点から商業化点まで(第3図の丑P区間)を第 局面,そして商業化点以後を第3局面となづけている。
.4.転換点または離陸点 RaIlis=Feiの転換点理論の基本的特徴は,上
ような食糧木足点と商業化点との区別に」もとづいて,離陸の基本的特質を
不足による産業部門の賃金率の上昇開始紅でほなく,商業化点の到達すな
偽装糞業の消滅に二求めた点陀」ある。偽装失業の消滅した後は,実質賃金率
むしろ農業労働者の労働供給価格の上昇のために二所与の制度賃金率を越えて
欝37巻 寛2・3号
−−九日−−
上昇しはじめることになるのである。
しかしながら,食糧不足に.よる産業部 門の賃金率の上昇は産業部門の雇用 加を抑制し,離陸すなわち商業化点への到達を困難に.するであろう。そこ 話されるものが,まさに農業部門の技術進歩である。
農業技術進歩は2つの効果を持っている。1つは食糧供給を増大させて 不足点を延期させる。他方において,そ・れほ農業労働の限界生産力曲線を に㌢フトきせることによって,商業化点の到達を早める。したがって,もし 農業技術進歩が十分に行なわれるならば,両者ほつい軋「・致するに至るであ
う。このような−・致点こそ,Ranis=Feiの転換点であり離陸点なのであ したがって,Ranis=Feiの意味で離陸が起るためにほ,離陸過程 食糧不足が発生しないだけの十分な農業技術進歩が,産業部門の雇用 行して行なわれなけれはならない。この意味で,Ranis;=Feiの場合
に 増 に あ
はり産業部門と農業部門のバランスド・グロ−スが離陸の先行条件
(3)
えるこ.とができる。
で
1.5・転換点の経済的意義 さて−,このような転換点は経済全体に.ど うな質的変化をもたらすであろうか。Ranis=Feiほ転換点の経済的意義 ぎの4点に.要約している。
(1)転換点以後ほ.,全体としての経済に・おける資本蓄蔵の資金源を支酉 ルー・ルが変わる。すなわち,無制限労働供給が存在する局面においては,
部門の偽装失巣ほいわば「かくされた」投資資金源であり,産業部門に.移動 産業労働者として吸収される過程において放出される。転換点以後は,農 門から労働力を移動させるためにほより高い賃金を支払わなければならな であるから,投資資金の確保のためには.まさに.・その経済の貯蓄を増大させ ればならないという正統的なルール紅斬らなけれげならなくなる、。
(3)以上がRanis=Feiの第1論文紅ふくまれる彼らの転換点の概要である。彼らは に.,人b増加率と転換点ないし離陸点にいたるまでの期間とのいくつかの組合せを
して∴それぞれの場合産業部門の年平均雇用増加率ほ少くともどれだけでなければ ないかを計算して言いる。それらの詳細およびわれわれの批判的展開把.ついでは,
「低開発国の離陸過程と農温」,『ア汐ア経剤,1964年8月号,な参照せよ。
経済発展と転換点問題 ーヱ45−
∵転換点以後は,農業部門は完全に商業的農業となる0転換点以前におい 産業労働者はその限界生産力が賃金率に等しいところまで雇用されると ように,競争均衡の仮定が妥当するものと考えてよい0その意味で,産業 弓柊転換点以前においですでに商業化されている。転換点以後ほ農業部門に
ても限界生産力が賃金率に等しくなるのであるから,まさに資本主義的市
と.ができる。そ・の原 の作用が全経済にわたって貫徹するにいたったというこ
,
いうまでもなく,無御限労働供給の消滅による男働力の稀少化である0 レてこのことは,とくに農業部門紅とっては一,それまで受.配していた家族的
、し共同体中心的諸関係が崩鼓し,非個人的ないし市場中心的諸関係にとっ かわられることを意味している0農業部門においてもいまや利潤極大化原理
となり,一層の農業発展が誘発される。そして\完全な成熟経済へむか
宅・の連続的な成長がもたらされるであろう。
)転換点以後,農業部門の偽装失菜が消滅し,もはや「産業予備軍」とし の役割を果さなくなるにつれて−,一・般的実質賃金水準が上昇しはじめる。そ ため,生活水準が一・般に上昇し,消費のパタ−ンが変化する。すなわち,エ
ルの法則によれば,所得水準が上昇するに.つれて,消費の重点は農産物か しだい紅産業生産物に移動するのである。転換点以後においても,農莫部門
\ ら産業部門への労働再配分の圧力がひきつづき存在するのは,まさたこ.のよ
消費者需要構造の変化が起るためである。転換点以前における労働の再配 原動力が,と.のような生産物需要面ではなく,後述のように・むしろ産業部 弓め雇用吸収率が人Ⅰコ増加率よりも大きいという労働需給関係であったのとは
照的である。
4)さらに,転換点以後の実質賃金率の上昇ほ,人口増加率の減退をもたら であろう。生活水準が上昇し,工業化にともなう都市化が進行するためであ
。しかしながら,これ以外にも,前述の全経済が資本主義化するにいたった
まさにそのことが人口増加率に影響するかもしれない。なぜならば,そ
家族中心的な伝統的なものの考え方から一・屑合理的で個人中心的な経済割
移行することを意味しているからである。
−ヱ46− 滞37巻 算2・3号
‡王 転換点と資本労働比率
これまでの説明から明らかなように,Ranis=Feiの意味での転換点が…
に二起りつつあるかどうかの観察可能な特徴ほ.,基本的にほそれまではば不 たもたれていた実質賃金率が−・・般的な上昇を開始すること.である。しかし ら,経済がそ・のような転換点紅到達するためには.,農業の偽装失業を消滅 るに十分なだけの雇用増加が産業部門において起らなければならない。藤 門紅おける強力な雇用増加こそ転換点軋達するための蒸本的原動力であ
口増加ほ.農業の偽装失業を増大せしめる。したがって,産業部門の雇用掛 担が少なくとも人1二l増加率gよりも大でなければ,転換点ほ起りえな∨、
ろうbすなわち
gく野上
(1
Ranis=Feiはこの条件を「臨界的最小努力基準」(criticalminim Criterion,略してCMEC)となづけた。彼らの第2論文は主として:この 部門の雇用増加率恥の決定要因の分析にあてられているが,これをつ 明らか紅せられたことは,産軍部門紅おける資本・労働比率の変動バク√−
変化をもって転換点発生の第3の観察可能な特徴とみなすことができると ことであった。すなわち,転換点をさかいに.して,資本・労働比率は低 から上昇傾向KF転換する。いいかえれば資本浅化(Capitals?allowing)
資本深化(capitaldeepning)への転換が起るというのゼある。以下,こ 換の必然性を明らかにするために,まず産業部門の雇用増加率の決定要 考察しよう。
2.1.生産関数の諸性質 産業部門の生産関数をつぎのように表わ y=ノー(g,エ.≠)
yは.産出高,∬は資本,エは労働,また≠ほ時間である。そして,
が与えられると,この関数ほ.規模にかんする収穫不変の条件をみたす,
ち−?欠同次関数であると仮定しよう。また,通常のやり方にしたがゥ
生産要素にかんしては収穫逓減の法則が妥当する,すなわち。打と与匿
経済発展と転換点問題 ーヱ47−
慮屈曲線は原点に対して■凸であると仮定しよう0そうすると,われわれ のようないくつかの弾力性がすべて正であると想定することができる。
gとエにかんサーるyの弾力性
毎年/k布/y>・0;¢ム≡ノ云エ/y>0
エとgにかんする労働の物的限界生産力朗PP上の弾力性
どムエ=一差止/ん>0;どム∬≡ノ云訂町ノ云>・0
∬とエ陀二かんする資本の物的限界生産力凡才PPgの弾力性
ど払が…−ノ五戒・凡′ノk>・0;どgム苧/kェエ/ノk>・0
(3)
(4)
(5)
読または.どだ∬は労働または資本紅かんする収穫逓減法別の強さをほか 皮であっで,それが大きいということほ労働または資本の限界生産力曲線 傾斜しており,急激に限界生産力が逓減することを意味している0
方,ノ生産関数が1次同次であるということから,オ■イラ・−・の定理によって ぎの関係が成立する○
y=ノ長方+んエ
(31と(61式からつぎの関係が成立する。
¢.訂+¢ム=1
(6)
(7)
(6)式の両辺を茸およぴエでそれぞれ微分すればぁかるようにりつぎの も成認する。
即五g十エ′土足=耳/立上十エ./云エ=0 (8)
に.,これからつぎの2式が成立する。
凡/エ=−\/云g/ノk∬㍍−./云ム/ノkム (9)
どム訂こどムム;g∬ム=ど好だ (1q)
とLに,(8)と(9)式より,つぎの諸関係が成立する。
ど∬好/どムム=どgg/どェ及=ど点上/ど山こど∬ム/どムg=¢ム/¢∬ (11)
・2・技術進歩の強さと偏より 上述の生産関数の諸性質は,時間才の存 無視した静学的生産関数のもつ諸性質である。(2式のように,時間才を陽 勺紅あらわしたわれわれの動学的生産関数の場合にほ,つぎのような技術遷
かんする諸性質を考慮しなければならない。
第37巻 欝2・3号
−・ヱ4β−
いま,∬とエを所与として,(6)式の両辺を時間才で微分すると,次 られる。
差=ノ定一.打+ノムエ (12)
ただし,差=∂㌢/釦,/立方=∂ノ妄/釦,およびん才=∂ん/釦である。この両 yで割ると,
差/y=.差紬軋/y+差止/y 113)
さらに,生産弾力性に.かんする(3J式を代入すると,(131式はつぎのように変 れる。
カ/y=転ノ五亡/ノk+¢み/云亡/ノ云 咽
この式の左辺のf;/Yは技術進歩の強さ(theintensity ofinnovation)
わすものであって,./で表わす。また,メ■だJ//這およびんr/メ云はそれぞれ
す わ 表 で
仇 と労働の限界生産力の増加率を表わすものであって,耳だと
にする。すなわち,
/…弟/y二>0 (技術進歩の強さ)
月五…・ノkJ/ノ g(朋刑㌔の増加率)
仇…ノ云亡/ん (脚㌔の増加率)
かくして,(用式はつぎのように.変形される。
J=¢g月妄+¢ェ茸乙
すなわち,技術進歩の強さとは,資本と労働の各限界生産力の増加率を,
と労働の各生産弾力性をク・エイトとして加墓平均したものである。
したがって−,技術進歩の強さが−・定であって.−も,鮎と耳ムとの組合せ いろいろのものがあり得る。これがHicksによって一定義された
ゆる特定の生産要素への技術進歩の偏より(the factor bias of の問題である。
基本的にほつぎの3つのケースが考えられる。
ガム=月五の場合⇒中立的(neut拍1)技術進歩
HL>HKの場合⇒労働使用的(labor using)技術進歩
HL<HKの場合⇒資本使用的(capitalusing)技術進歩
経済発展七転換点問題 −・ユ49−
匹,′あとの2つの場合の極端なケ・−スとして−,骸あるいは凪が負にな 害えられる。
HK<0の場合⇒強力な資本節約約(verypcapitalsaving)技術進歩
哀<0の場合⇒強力な労働節約的(verylaborsaving)技術進歩 題として,「労働節約的」と「資本使用的」とは同義語である。
、て,技術進歩の強さとその偏よりとの区別を一層明確に・するためには,技 歩の偏よりの程度を表わす2つの指標を導入するのが便利である。
βム≡ガムー\J(労働使用的偏向皮)
β∬…肢−./(資本使用的偏向皮)
よう額偏よりの度合をしめす指標を用いると,(15)式はつぎのよう紅変形さ ることになる。
.J=¢g(βgヰ′)+¢ェ(βム十/) 仕6)
訃と√16式の意味ほつぎのように整理できるであろう。( if andonlyif を にパiaoi で表わす。)
&蓑0∠α0∠仇≒邑/ね♂∠■ガ窮乏′ゐ壷■跳善0如か&雲0喜跳パ甜
ガム≒蔓/室‰
)仇<0ぬ扇■βム+ノと0(強力な労働節約)
C)駄・く0左αク∠β∬十′く0(強力な資本節約)
/を所与とすれば,βムとβ∬ほ技術進歩の偏よりをしめサニ者択一・的 法である。すなわち,㈹式から明らかなように,つぎのような相互依存関 が存在するのである。
β必¢∬十βム¢ェ=0 βム/月k=−¢∬/如
uⅥ
・5・産業部門の雇用増加率の決定要因 産業部門ほ転換点以前において でに資太主義化しているものと想定されているから,もうすまでもなく,労
は実質賃金率と労働の物的限界生産力との均等式によって与えら る。すなわち,実質賃金率を紺で表わすと,
紗=ん (18)
算37巻 算2・3替
ー・J5♂一−−
である。この両辺を時間‖こかんレこ微分し,実質賃金率の増加率(ゐ/亘ざ)
をマ勅雇用増加率(此/d才)/エを?ム,また資本蓄積率(d∬/離)/釘を甲∬
表わすこ
一干/云£+ん忍一怖
り岬=野ム+?∬+
芯−G山マム十Gェg?∬十仇
したがって,前述のように(1α式によ.って6ムム=Gムだであり,また定義に・よ て仇=βム十Jであることを考慮すれば,次式がえられる。
マム=甑卜ー ユ (19)
この(19)式が,まさに産業部門の雇用増加率の決定に・かんするRanis=Fei 基本方程式である。すなわち,産業部門の雇用増加率は,(1)資本蓄積率宛 大き小はど,(2)技術進歩率一Jが大きいはど,(3)またそ・の技術進歩が労働侶 ヽ
ま て
し
そ
的であるほど,(4)労働限界生産力逓減の度合6ムエが小さいはど,
(5)実質賃金率の上昇率?ぴが小さいはど,大きいのである。
転換点以前において:は,無制限労働供給め存在のため紅実質賃金率ほ不 ある。したがって,次式が成立する。
βム+′
6カム
マム=マ∬寸
かくして,(20)式を(1)式に代入するこ.とによって−,低開発国の離陸の 策的課題は明白であろう。C几4EC,すなわち臨界的最小努力基準はいまや のように書き改められる。
gく?∬+ 絆
すなわら,離陸のための基本的方策ほ,(1)資本蓄積率を高めること,(2)技手
歩の一・・般的速度を早めるだけでなく一層労働使用的な新技術を採用するこ
(3)人口増加率を抑制すること,これである。
2.4.資本浅化から資本深化への転化の必然性 前述のように・,Ranl
経済発展と転換点問題 ーJ5ヱー
転換点の発生をしめす観察可儲な特徴として,資本・労働比率が低下傾
、ら上昇傾向へ転化することを指摘した。いま,資本・労働比率灯エをg わし,またその変化率をヤクで表わせば,いうまでもなく,
翫㍉司k−・?上
る。したがって,(19)式から一腰に次式をえる。
り研 βム十′
T じ= ̄ トJ Gムム
換点以前においては?抄=0であるから,次式が成り立つ。
β五十′
(22)
(23)
肌)
甲ダ;ニ・ ̄
6カム
がらて., 資本・労働比率の変化の方向は,β五十./の正負に依存すること る。βム+.声二0の場合,すなわち無制限労働供給が存在するにもかかわら 強力な労働節約的技術進歩が起ること.は,少なくともC掴老Cを満足しつ くる経済に・おいてほ,稀れであろうd、なぜなら,(21)式から明らかなように,
β云+∫く0であれば,資本蓄積率が非常に大きくならなければ,CれダガC 足することができないからである。したがって,資本不足紅悩む低開発国
(瑚官Cをみたし,離陸過程にあるとすれば,−・般紅β五十′>0であると考 ければならない。またしたがって,、一・般に資本・労働比率は低下する,す ち資本浅化が起るものといわなければならない。
れでは,このような資本浅化が,なぜ転換点に.到達するとき資本深化,す ち資本・労働比率の上昇,に転化するのであろうか。Ranis=Feiほその な転化の必然性をつぎの3点にもとめている。
)まず第1に,CMECを満たしながら発展サーる低開発経済は,しだいに 貯蓄能力を増大させ,やがて資本蓄積率を高めるであろう。さらに,所与 本蓄積率にふくまれている技術革新活動は,そ・の強さ(.刀にかんして−も,
そ・の労働使用的偏よりの度合(βム)にかんしても,ともに.減退する軋ちが
い。なぜならば,Veblenもかつて指摘したよう紅,国際的にみて新参者
る低開発経済ほ,先進諸国が多年にわたって蓄積してきた多数の技術的可
ミをそっくり借用することができる。はじめは,強さの面でも労働使用的偏
算37巻 算2・3号
−・J52−
よりの面でも,最も有利なものから採用されて−いくであろう。しかしながら その国が新参者としての地位から脱却して:いくにつれて,そのような技術のず 用の可能性は少なくなって−いく。いいかえれは,先進諸国からの技術の借用 収穫逓減法別に・したがうのである。このことほ,とくに労働使用的技術進歩 あてはまる。なぜなら,生産過程の配置がえや組織がえに.よる改善には明ら に・物理的限界があるからである。かくして,甲∬が増大していくにつれて,一J βムとほしだいに減少していくのである。そして■,開式から明らかなように;
他の条件に.して−一億であるかぎり,このことはワグの値を増大させるのである
(2)翠2紅,前述のよう軋,経済の発展がC几ダガCを満 やがて農業部門の偽装失業は消滅し,虚業労働者の産業部 価格が上昇しはじめる転換点がやって.くる。り紺ほ正の値を
これも他の条件を一足とすれば,ヤクを増大させるであろう。
(3)第3に,実質賃金率がしだいに上昇し,また将来も一・層上昇しつづけ ことが予期されるようになると,技術進歩の型はますます労働節約的なもの なるにちがいない。これも明らかにマタを増大させる要因となるのである。
かくして,転換点をさかいにして,資本浅化は資本深化に転化せざるをネ い。転換点とは,まさ紅労働使用的技術進歩の収穫逓減傾向が,無制限労働 給局面の終了と重り合ったときに起る。これがRanis=Feiの転換点論の 的な考え方である。
ⅠⅠⅠ資本蓄積率と転換点
Ranis…ニFeiの転換点論は.それ自体きわめて明快なものである。 し い カ カ し 匹 ら,その最大の欠点は資本蓄積率?∬がいかにして決定され,ま た するかという基本問題に・ついて何ら十分な理論を持っていないことである占
らのモデルにおいてほ,乳打は所与であって,わずかに,前節の最後にふ
ように,Cル彷C基準を満たして発展する低開発経済ほしだいに国内貯蓄酵 をまし,ワgを増大させていく,という記述的説明を与えているにすぎなレ
また転換点の経済的意義が説明された際にも,資本蓄積面については,肇
経済発展と転換点問題 ・−・J53−・
の資金源を支配する/レールが,無制限労働供給にもとづぐ収奪から正統的な 蓄増加⇒投資増加というルールに転換すると述べるだけであって,分析的努 ほ何ら行っていない。そこで,われわれは資本蓄積率の決定と変動のメカニ ズムを明らかにすることによって,Ranis=Feiの転換点理論を一一層展開する
と忙したい。
貸本蓄秩の問題をとくに転換点問題に関連して論じ5に当っては,およそつ
・の3点に注目しなければならないと思う。(1)投資と企業者能力の関係。(2)投 と貯蓄の関係。t3)投資と技術進歩の関係。Ranis=Feiは,(3)の問題に・明快 分析を与えたわけだが,これは最初の2っの問題にかんするモデルといか軋 合することができるであろうか。
5.1.投資と企業者能力 先進国と低開発国払おける投資問題の特徴の板 未的差異を最もはっきり指摘したのはA・0・Hirshmanであろう。すなわち,
(境進的)資本主義経済はいかなるときでも常に十分な量の企発着を保有して る・。彼らは,経済機会を感知し嘆ぎつける技術軋とりわけすぐれており,−・
切の利用可能な経済機会をその収益性の大小によって順位づける術をわきまえ いる。また彼らほ適当な条件で「 金融」がつきさえすれば,計画の実現に必 なすべてのことを遂行し,それを成就しうる人間である。このように.,投資
とは,何か新しい投資機会が出現すると直ち紅それ紅飛びっきむさぼり食
,飢えた連中として描かれるのである。したがって.,資本主義が不安定な体 りであって−,あるときには投資機会の一・時的枯渇に.よるデフレーージョンに悩
,また別のとき粧・ほ投資機会の過剰によるインフレー㌢ヨンの幻撃を被るの
(4)
決して不思議でほない。』
このように,先進国紅おける投資の変動は,基本的に.は投資機会の変動に依 する。これに対して\訂低開発国ほ,いながらにして巨大な技術進歩の蓄積 値面し,それをこれから先の長い歳月にわたって定馴勺に利用できるといっ いわば「恵まれた」状態に・ある。しかしその反面,低開発国ほ,先進国で
)AlbertO Hirshman,TheStrateg.yofEconomicDevelobmeni,1958,p34;麻
田四郎訳『経済発展の戦略』61ぺ川ジ。
第37巻 節2・3号
ー−J54−・−
ほはとんど当然とされる過程,すなわち,投資機会の感知ならびに・それを
(5ノ
の投資に・転ずる過程紅,彼らの難点をもっているのである。』すなわち,低開 発国では,投資機会ほ十分あるのに企業者能力が不尽しているため軋経済が 滞化する。経済の停滞化が,企業者能力ほ十分あるのに,投資機会が不足す ために起る先進諸国の場合と.ほ,ちょうど逆の立場紅あるのである。
Hirshmanは,このような企巣者能力の不足を,r投資実行力」(the toinvest)の不足となづける。そして披によれば,投資実行力とは主とし 実践に・よって獲得され増大されうるものである。そして,そ・の実践の大 は,事実上,近代的経済部門の大きさに依存する。すなわち,『いっそうの 展紅必要な能力と.か技摘または態度といったものは,すでにそのような能力 要求されており,またそのような態度が十分身に・ついている経済部門〔■すな
ち近代的部門〕の大きさと大体比例して,〔低開発国の〕経済内に.隠され るのである。たとえば,1,000個の工場をもつ経済には,新しい経営的,技 的任務を担当しうる経営者,技術者が,100偶のエ場をもつ経済よりも約10 多く存在していると期待してよいのである。いっそう無形的な要因,たと ば企業を新設したりそのために協力関係をつくり上げたりする能力,新し 投資機会を感知して実行する能力なども,穿=次接近としては,前と同じよ に・,をれらの能力を実際紅育成する基盤〔近代的経済部門〕吟結びついてい
「6)
と考えて.よい。』のである。
投資実行力の獲得過程をこのように考えてくると,いうまでもなく,われ れは,投資実行力をつくり出すには近代的経済部門が必要であり,近代的経 部門の発展にほ投資実行力が必要である,といった悪循環に直面すること匿 る。Hirshmanほ∴H.A.Simonの「学習模型」(learningmodel)を援用 て,この藩循環からの脱却の迫を探発して−いるが,必ずしも成功し壬いると 思えない。むしろ,われわれほ,この種の問題を少くとも分析的軋説明しよ
(5)A・0′′Hiェ虚man,ゆ.c紘,p35ノ邦訳,62ぺ−・・汐。
(6)A.01HiIShman,0オ(葎.,p.36;・邦訳,64−5ぺ−・ジ。
経済発展と転換点問題
(7)
Leibensteinの努力に注目しなけれほならないであろう。
一−J55−
eibenSteinほ企業者機能鱒決定要因として,3っの要因をあげて.いる。(ユ)
者群の大きさ,(2Jl人あたり所得水準,(3)1人あたり所得の成長率。まず 1匿,社会にほすでに大なり小なり成功した企業者群と潜在的企業者群とが
。 成功した企業者群が大きくなるにつれて,企業者群の構成員と潜在的企 との接触の範囲や親近感が増大する。また企業者群が大きくなってくる
,彼らの社会全体における重要さと威光が増大する。Leibensteinほ企業者 増大が潜在的企業者の顕在化を刺激する効果を「雷同効果」(血andwagon fecf)と名づけている。つぎに,1人あたり所得水準の上昇紘,潜在的企業
なるのに必要な技能を獲得するための時間的経済的余裕をもたらし,潜在 企業者の供給を増大させるであろう。しかしながら,企業者機能の成長な決 する最も歪要な要因ほ】人あたり所得の成長率である。なぜならば,『企業 および潜在的企業者の期待を決定するものは,所得の成長を経験するという 舞だからである0成長しつつあるi人当り所得ほ・,未経験の発着でも報いら
,初期の誤りが埋めつくされるに十分な大きさの利ざやを可能とするように われる。所得成長の状態の持続ほ,未経験者をレこ経験者とならし吟,経 者をして彼らの領域でこれをつづけしめ,かつ認知力と技術とを増大せし
;しかも企業者機能が有利で魅力的となる状態を創出する傾向をもつ。さら
,企業者機能の有利性が持続するに従って,企業者群ほ力と威光とを増大す
(8)
ようにみえ.る。§のである。
このように,最初の2っの要因,すなわち初期の企業者群の大きさと初期の 人あたり所得水準とを与えられたものとすれば,企業者機能を誘発し企業者 動を活発にするものほ,まさに_予想された1人あたり所得成長率である。さ た,Leibensteinは,このような刺激によって増大した企業者機能が,実際
)HLeibenstein,Economic BackwaYdnes.S and Economic Growth 1957.矢野勇訳
『経済的後進性と経贋成長岬経済発展理論の研升−』,1960年,とくに第九葦「成長 誘因,動因,および最小努力の命題」を参照せよ。
)『前掛凱176⊥7ぺ−ジ。
ー・お6− 第37巻 籍2て3号
紅どれだけ1人あたり所得の増大をもたらすかを問題にする。実際の1 り所得成長率ほ.,所与の予想成長率紅対してどれだけの企業者機能が増 か,そして・またこの増大んた企業者機能にもとづく投資活動が実際にどれだ の生産力効果をもつか,という2っの要因の合成効果として−あらわれる。そ て,Leibensteinの企業者機能成長論の特徴は,これらの予想成長率と現実 長率との間に相互依存的作用を認めようとするととろにある。
つぎの畠っの図表ほこのメカニズムを説明したものである。第4図におい 縦軸ほ予想された1人あたり所得の成長率を,また横軸は1人あたり所得め 長でほふられた企業者機能の拡大率,すなわち企業者機能の拡大がもたらす 際の1人あたり所得の成長率である。曲線エGほイ企業者機能拡大曲線」と ばれるものであって,所与の予想された所得成長率軋対して−,企業者機能が か粧拡大し,その結果実際の1人あたり所得成長率がどのぐらいになるかと う関係を表わしている。
企菜者機能拡大曲線ほ∂っの部分からなって いることに.注意されたい。
ず,エ〟区間では実際の成長率が予想成長率よりも小さい。反対に,〟Ⅳ区搾
でほ実際の成長率が予想成長率よりも大である。さらに.,ⅣP区間茫は,ふ
経済轟展と転換点問題 −ヱ57−
罪障の成長率が予想成長率よりも小さい。凡才点とⅣ点ほ予想成長率が実 長率に等しいという意味で;企業者の均衡をあらわす成長率である0企 たちほ,つねに結果が予想どおりになっていくのであるから,つねに自分 ったことに満足しているであろう0 しか′し,Ⅳ点が安定均衡点であるの し,〟点は不安定均衡点である○すなわち,予想成長率が下位均衡点〟
えて第1図のたとゑぼ4パ・−セントに上昇したとしよう○そこでほ,実際 成長率がAβだけ予想成長率をうわ廻っている0こ・のような,好実績に刺
されて企業者たちの予想も改善され,1人あたり所得成長率の予想はβC Aβ)だけ引き上げられるであろう。そこ・でもふたたび実績が予想よりも
だけ大きく,ふたたび予想成長率はββだけ引き上げられる1ゼあろ・う。
のような累積的上昇過程は∴Ⅳ点に達するまで続く。反対に,〃点から下へ 求長率が落ちると,実際成長率ほ予想よりも小さくなり,累積的下降過程 るのである。
5・図ほこのような累積過程の途中において,企業者低能拡大曲線が右方へ フ、卜する可絶性を表わしている。すなわち,上方へ・の累践過程においてほ,
曲線の導出にあたって一所与と考ええられていた1人あたり所得 準や企業者群の規模が上昇ないし拡大していくからである。そのため,累積 程は,第5図のA→β→C→β→β→∫と.いうように,−∴闇そ・の規模を大き
し,また速度を早めることに・なる。しかしながら,このような曲線のレフト は限界がある。なぜならば,企業者群の増大に・よる雷同効果や1人あたり所 水準上昇による潜在的企業者の供給増大潮異にほおのずから限界があるから
ある。そのため,この場合も第4図のⅣ点のような何らかの安定的長期均 成長点が上方に/存在するであろう。
述のようなLeibensteinの議論ほ,低開発国における投資と企業者機
恵循環からの脱却の途について:,2、つの条件をわれわれに・暗示しているよう 思える。まず第1は,企業者機能拡大曲線が与えられている場合,企業者た
をして少くとも下位均衡点〟.以上の所得成長率を予想させうるような環境
カ刺激なりが与えられなければならないということである。・それが与えられ
夢37巻 碍2・3号 第5図
GIC2G3
1人当り所得の 成長紅対する寄 与ではかられた
第6図
経済発展と転換点問題 −J59−
めで,感循環ほ好循環紅転換しうる・であろう。欝2は,そ・も・そも企業者 大曲線が少くとも450線との交点を持つような環境なり刺激なりが与え ければならぬということである。なぜならば,最初の企業者群があまり 模であり,また所得水準が低くて教育水準も非常に低く,潜在的企業者 いとしよう。さらに,産業間の補完関係や外弥縫済の利益も非常に小さ
投蔚の生産力効果も小さいとしよう0そのとせ,企業者機能拡大曲線ほ,
えば鐸6図の∫1曲線のごときものであるかもしれない0現実の所得成長 予想成長率よりも小さく,企業者機能の拡大に.もとづく自己促進的 長ほ決しで起りえないであろう。したがって−,企業者機能拡大曲線は,少
戯曲線の位置よりも右へシフトしなければならないのである。こ.れ 条件こそ・,Leibensteinのいわゆる臨界的最初努力(criticalminimum rt)論の企業者機能面にかんする命題である。
て,このようなtJeibensteinの企業者機能の成長にかんする分析モデル
,rわれわれの転換点問題の分析にとっ・てどのような意義をもつであろうか。
ほ臨界的最′ト努力問題に主として関心をよせているために,下位不安定均衡
・〃とそ・れからの垂離が生むと,こ.ろの累積過程匿注意を集中している。しか がら,われわれの転換点問題の観点からは,上位安定均衡点Ⅳ,とくに 5図で説明したような企業者機能拡大曲線の右方へのレフトを考慮した長期 な上位安定均衡点Ⅳ*が重要である。なぜならば,企業者群の増大と1入 牢り所得水準の上昇による曲線の右方へのシフトは,非可逆的な歴史的な過 である。そして−,そのレフトが限界に達した点というのは,まさ軋1つの賀 な転換を意味するからである。すなわち,長期均衡点Ⅳ*の到達ほ,まさ
Hirshmanの区別を用いていえは,企業者能力の不足,すなわち投資実行 の不足が投資を・制約して.いたような低開発経済が,企業者能力ほ十分にある もかかわらず,投資機会の拡大ないて減退紅よって投跨が左右されるような 代的経済に.転換することを意味しているのである。
S・2・利潤率と資本蓄積率 しかしながら,1,eibenstein モデルが転換点
分析に1っの新しい観点を暗示して.いるとほいっても,彼のモデルがわれわ
−・ヱ6∂− 第37巻 第2・3号
れの目的のために十分なものであるとは決していえないであろう。まず に二,Leibensteinの企業者機能拡大崩線紅ふくま−/れる諸関係,すなわち企 の予想した1人あたり所得成長率と実現された1人あたり所砲成長率とを つゆる諸関係は非常に複合的なものであって−あいまいである。それほ少な も2っの基本関係,すなわち予想成長率に対していか紅投資が反応す・る う関係とその投資がいかに・実際の成長率を決定するかという関係に分解 それらの問の相互依存的作用が明らかにされるべき性質のものである。
は,企業者が予想と実績とを比較し,遂行した投資が適切であ
判断する基準となるものは,直接には利潤率であって, 人 た あ hソ 所 成 得 ほそ■れが利潤率の動きと何らかの平行関係を持つ場合にかぎり間接的な指讃 して採用されうる紅すぎないのである。このようなあいまいさを取除くたき ほ,われわれは利潤率を基本変数としてふくむような資本蓄積モデルをつく 必要があるであろう。
このような利潤率を基本変数としてふくむ皐うな蓄積モデルは,さいわレ
(9)
J・Robinsonによって展開されつつある。以下,まずJ.Robinsonモデル弓 式的に定式化し,このモデルがいかにわれわれの転換点問題の分析に適舟さ
うるかを考えてみることに.しよう。 /
簡単のために,経済ほ企業名と,株主をもふくめた広義の金利生活者,き び賃金稼得者の3つの階級からなるものと考える。企業者は利潤率を基水 棲として蓄積率を決定し,獲得した利潤ほすべて金利生活者に支払う,す
ち内部貯蓄ほ.しないものと仮定する。また,技術選択に.あたってほ利潤率 化の原則にしたがうものと考えよう。他方,金利生活者ほ人格的にほ企巣 重複するものがあって−も差しつかえないが,いちおう企業者とほ別個の決 体であると考え,その所得の1部分を消費し他の部分を貯蓄するものと仮
る。最後に,賃金稼得者についてはその様得所得をすべて消費するものと
(9)J・Rbinson,TheAccumlaiion¢fCaPiial,1956杉山清訳『資本蓄積論』195 および,J‖Robinson助s卯S友一〝〃i♂Tカβ∂7γ〃ノ■ガα偶の扇■cG′・β抄紙1962.山田
訳『−経済成長論』1963年。
経済発展と転換点問題 ーヱ6J−
,傘利生活者の貯蓄関数を次式で表わそう。
∫ごβ月 (25)
だし,∫は貯蓄,点ほ利潤,またβほ彼らの限界貯蓄性向である。つぎ 貯蓄の均衡条件は
J=∫
\二lう1
るから,(25)を(26粧代入し,利潤属∵について解けば次式がえられる0
月=(1/β)′
(27)
式の意味するところがKalecki流の投資貯蓄の利潤決定論であり,投資 論の1変啓であることはいうまでもない。一すなわら,所与の投資は乗数 レβ)倍の利潤を生み出し,所与の投資をまかなうのに必要な資金すなわち
宗をつくり出すのである。(27、式の両辺を資本ストック∬で割ると次式がえ
忍 】 ∫
g β ∬ ヨ夢監
は所与の資本蓄積率(′/g)がいかに利潤率(虎/茸)を決定するかをしめ であって,まさ妃資本蓄積率とそれ紅よって.実現された利潤率との関係を サ基本方程式である。
れでほ資本蓄積率そのものはいかに決定されるであろうか。J・Robinson
(10)
JM.Keynesがいわゆる長期期待論に.おいで指摘した「血気」という要因 ケインズほ投資の決定に.おける「血気」の作用についでつぎのように述べている。召 将 兵い期間にわたって:その完全な総菜が引き出されるような何ごとかを騎極的に.なそう するわれわれの決意の,おそらく,大部分は,血気−】不活動よりはむしろ活動を欲 るおのずからなる衝動−の結果として.のみなされうるのであって1数還的な確率を じて得られた数量的利益の加墾平均の所産として.なされるのではない。企菜は,企業
の目論見書の叙述が如何に包みかくしのない畏聾なものであって.も,主として.それ よって働機づけられるということはなく,ただそのように装うに過ぎない。それが将 の利益の正確な計静を基礎とするものでないことほ,南極探検の場合とはとんど選ぶ 与ろがない。したがって.,もし血気がにぶったり,自生的な楽観がよろめくように・な 障りして1数学的期待値以外紅われわれのたよるべきものがなくなれほ,企業ほ衰
,・死滅するに.至るであろう。塑丁.M Keynes,Gβ乃β㌢αJTカβ07γp.162,邦訳180←−1ぺ
汐。
欝37巻 欝2・3号
−J62−
を重視し,血気原理とでもよびうるような資本蓄積率の決定関係を想定する
′・である。すなわち,Fそれ〔血気〕は,人間性の生れつきの特徴の問題で ばかりでなく,社会によって認められる種類の行動の問題でもある。贋本主 ほ競争心を発展させる。成長への競争的な衝動がなけれぼ,近代的な経営 本主義ほ繁栄できなかった。同時に,成長をある限度内に.とどめておく な,成長に.付随する費用と1危険が存在している。蓄積性向を高めたり低めた するものを説明しようとするためにほ,経済の歴史的,政治的,心理的特徴 璃査しなければならない。しかしながら,経済の−−・般的特徴な与えられ ものとすれば,高い蓄積率を維持するためにほより高い水準の利潤を必要と るということほ十分・ありそうに思われる。なぜなら,高利潤は賭けにおけ より有利な日であると同時に,資金をいっそう手に入れやすくするから る。それゆえ,われわれのモデルの目的にとって,企業の「血一気」は,期 潤水準に生産的資本ストックの望ましい成長率を関連づける関数として∴表現
(11)
ることができる。jのである。
かくして,われわれほRobinson型の資本蓄廣関数としてつざのような 係式を想定することができるであろう。
意=G(意) 醐
そして,これは(2訃式とともに二・,利潤率と資本蓄蔵率との問の相互依存関係 明するのに.役立つ。欝7図ほこれを図解した・ものである。
図に.おいて,直線05tは所与の蓄積率に対して実現される利潤率の大 をあらわしている。したがって,その傾斜ほ.(1/β)であり,金利生活者 苔性向が大となるはど傾斜ほゆるくなる。曲線凡打ほ閉式虹対応するも あって,所与の蓄積率に対して期待される利潤率の大きさをあらわしてい挙 血気が強ければ強いはど曲線は右方にシフトするであろう。血気が強け昨 いはど所与の期待利潤率に対してより大きい蓄積率が対応するからであるム
(11).丁Robinson,且s5αγS哀〝才力gTカ♂07γ0/ガ化明の扁c・G′の現場,pp.37−8,邦訳
−こ
−∫6∂一岬
γ点は,期待利潤率と実現利潤率とをユ徹させる蓄積率であるという意
おいて,均衡的な資本蓄積率である 。そ・して,Robinsonほこ.のような均 を「望ましい蓄積率」となづけた。しかしながら,y点が安定均衡点 るの紅対して−,び点は不安定均衡点である。すなわち,初期の蓄積率が,
lように・,び点とy点のしめす均衡蓄積率た′と烏′′との中間に・あれば,
率の期待値と実現値のギャップは企業者をして ますますゑ′を離れさせ,
むかわしめる過程をひきおこすかちである。初期蓄積率が烏′′以上であ あ′′に復帰し,また々′以下であればますますゑ′から離れることはいうま
くして,われわれはLeibensteinのモデルをいっそ・う堅実な基礎のう.k_
構成するこ とができる。すなわら,もしも企業者の血気が全般的匿弱く,
の∬′茸′曲線のごときものであったとすれば,その経済ほ.決して成長
いであろう。いかなる初期蓄積率が一与えられたとしても,実現される利潤
?ねに期待値以下であって∴累積的な蓄積率の低下が起るであろうからで
0
OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
第37巻 簡2・3号
欝8図
〟/