• 検索結果がありません。

グローバリゼーション下の中国経済と労働問題

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "グローバリゼーション下の中国経済と労働問題"

Copied!
12
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

ー 1 0 9‑

(特集) グローバ リゼー ションは世界 に何 をもた らすか

グローバ リゼーション下の中国経済 と労働問題

‑ 「 転換点」の到来 と 「 人口学的ボーナス 」 の鮮恵一

m 抗 E B ] 也

目次 は じめに

第1章 「民工荒」 の出現 と 「転換点」 の到来 第2章 「人 口学的 ボーナス」 の恩恵 とその終鳶 第

3

華 中国経済 の行方

おわ りに

は じめに

本稿 は

,2 0 0 8

1 0

1

1日に実施 された神奈川大学経済貿易研究所主催 の生涯 学習 エ クステ ンシ ョン 講座 「グローバ リゼ ーシ ョンは世界 に何 をもた らすか」 の第

3

回講座 の前半 にあた る 「グローバル化す る

中国経済 と労働 問題」 の報告 内容 をま とめた ものである。

報告 の基本 内容 は

,2 0 0 6

1 2

月に発表 した拙稿1)に基づいてお り,本稿 の論 旨は,当 日に会場か ら提 起 された質 問 にたいす る回答 としてつ け加 え られた部分 を除 くと,当然 で あるが 旧稿 と共通 してい る。

ただ し,本稿 で用 い る資料 は,最新 の ものに差 し替 えた。 また,経済開発 に及 ぼす家族計画 プ ログ ラム (hmi

l

y

pl a nni ngpr o gr a m)

の影響 は,時間の関係上講座 で は触 れ なか ったために,本稿 で も言及 してい ない。 この論点は, 旧稿 を参照 していただ きたい。

第1章 「民工荒」 の出現 と 「転換点」 の到来

中国東南部沿岸省 の広東省 に立地 す る企業 の一部 は

,2 0 0 4

年近辺 か ら 「民工荒」 と呼 ばれ る農村 出身 の出稼 ぎ労働者が不足す る現実 に直面す る ようにな った。 中国は,周知 の ように,低賃金労働 の大量供給 に支 えられて経済 の高成長 を続 けて きた。おそ ら く熟練工 を中心 とす るであろ う「(農)民工」 の不足 は, 中国経済 の成長 モデルに否応 な しに変更 を迫 る。 しか し,研究者や関係者 の多 くは,当初,「民工荒」 は, 農業 ・農村改革 に よって農民 の離農速度 が減速 した ことに加 え,成長 セ ンターが広東省 を中心 とす る華南 地域 か ら上海市 を中心 とす る華東地域 に移転 したために生 じた季節的 あるい は地域 的現象にす ぎず, 中国 経済 は, マ クロ経済的 には依然 として低賃金労働 の大量供給 が継続 してい る とい う結論 を くだ した。

ところが

,

「民工荒」 は

,2 0 0 5

年以 降

,

「民工」 の供給源 で ある中部 内陸省 の河南省 で も観察 され る よ うにな った2)。 ここに至 る と,研究者 の一部 は,労働 がマ クロ経済的 には供給過剰 にあ る とい う従来 まで

1) 柳揮和也 「高人 口圧力下 の後発 国 にお け る開発 と貧 困再考 一 輸 出志 向工業化政策 の限界 と 『所得貧 困』 の存続 」神 奈 川大学経済学会 『商経論叢』第

4 2

巻第3

,2 0 0 6

1 2

,3 7‑7 5

2 )

林蒐 「民工荒 向内地蔓延 労働力結構 性短軟将経 常 出現

『瞭望新 聞週刊

』2 0 0 6

5

2 2

日。

(2)

110 ‑ グローバリゼーション下の中国経済と労働問題

の常識 を疑 うようにな った。察妨率い る中国社会科学院人 口 ・労働経済研究所 は, この疑問に適切 な解答 を与 えるた めに,全 国17省 ・自治 区 の20地殻 市, 57県級 市, 166郷鐘,2749村 (西部地 区839村, 中 部地 区759村,東部地 区1151村)で農村 労働力調 査 を実施 した。察 坊 は,2007年5月10日, その結果 を 「中国の就業増加 と構造変化」 と題 す る中国社会科学院創立30周年記念講座 で以下 の よ うに報告 した

う 3)0

①2749村 の74.3% (東部地 区71.6%, 中部地 区76.0%,西部地 区76.4%) は,村外 に出稼 ぎに行 け る青 壮年 を残 してい ない。

②農村 の労働 力 の3分 の1に相 当す る1億人か ら1億5000万人 は,従来,余剰労働力で あ る と考 え られ て きたが,農村 におけ る40歳未満 の余剰労働力 は,実際 には5212万人 にす ぎない。

(参第11期5ヵ年計 画期 (2006‑ 2010年), よ り正確 にい えば,おそ ら く2009年, 中国全 土 で労働力 の 不足が普遍的 にみ られ るよ うにな る。す なわち,W .ル イス (Le wi s,W illiam Arthur)のい う 「転換点」

( t ur ni ngpo i nt ) 4 )

が到来す る。

察 坊は,上述 の講座 の よ うには断言 してい ないが, 中国社会科学院人 口 ・労働経済研究所 が毎年刊行 し てい る 『人 口 ・労働 白書』 の2007年版 で も記念講座 の内容 と部分 的 に重 な る叙述 を してい る5)。上篇特 定 テーマ2篇,下篇12章 か らなる同自書 は,「ルイスの転換点 とその政策的挑戦」 とい う副題 を掲げてお り,察坊 自身 は,下篇 の章構成 で

4

分 の 1に相 当す る第

3

章,第

6

章,第12章 (最終章) の執筆 を担 当 してい る。章題 は,順 に 「農村余剰労働 力 の人 口学的分析」,「中国経済発展 におけ るノレイスの転換点」,

「いかに して中国経済 の競争力 を維持す るか」,で ある。

薬 坊 の一連 の発言 は, 中国社会 に大 きな波紋 を呼ぶ と同時 に数 々の反論 を招いた。「沿海地 区経済発展 戦略」で知 られ る中国 マ クロ経済学会秘書長 の王建 の反論 は,その典型 ともい えよ う6)。王建 は,葬坊 の見 解 は,今後 あ りうるべ き農業 の労働生産性 の上昇 をい っさい考慮 してい ない と指摘す る。農村 の余剰労働 力 は,農業 の労働生産性 を今後 も一定で ある とみなせ ば,葉坊が指摘 してい るよ うに数千万人 にす ぎない か もしれないが,工業部門か ら提供 された農業投 資財が農業 の労働生産性 を不断 に引 き上げてい くとみな せば,王建 がい うよ うに就業人 口に占める農業就業人 口比率が先進 国並みの数 %程度 に達す るまで創 出 さ れ るこ とにな る。余剰 労働力 を1億人 か ら1億5000万人 とみなす見解 は,後者 の思考枠組 みに基づいて 提起 されてい る。王建 は,まさにル イスが 「労働 の無制 限供給」(unlimitedsuppliesoflabo

u r )

7・8)と「転換

点」 とい う用語 で構築 した発展途上国の動態的工業化 モデルに忠実 に則 って察坊に反論 を加 えたのである。

筆者 は,王建 の反論 は,ル イスに忠実で あ り, その理論的整合性 には十分納得 してい る。 しか し,筆者 は,工業労働者 の年齢層 が主 として10歳代後半 と20歳代前半で構成 されてい る現実 を企業訪問調査 を通 じて知悉 してい るために,今後生 じる新規 の労働需要 を賄 う農村 出身 の労働力 は,ル イスが想定 した よう に農村 に現存 してい る労働力で はな く, 中等教育 を終 えて今後新 たに生 まれ る労働力 に限定 され ざるをえ ない と考 える。現存 の労働力 は,農業 の労働生産性 の上昇 に よって次第 に余剰労働力 と化 してい った とし て も,今後発生す る新規 の労働需要 には年齢 や教育水準 な どの点で十分 に応 え られない に相違 ない9)。 そ

3)李徴数 「老人太多2009後労働力開始短軟?」『成都商報』2007年512日。

以下で引用 ・要約している中国社会科学院創立30周年記念講座における察坊の発言は,『成都商報』の記事によっているC 4) Lewis,WiuiamArthur,"UnlimitedI,abour:FurtherNotes"in771eManchesterSchoolofEconomicsandSocialStudies,Vol.

26No.1,January1958,pp.1‑32.

5)察妨編 『人口与労働緑皮審 (2007)‑ 中国人口与労働問題報告No.8劉易斯転折点及其政策挑戦』社会科学文献出版社, 2007年。

6)無署名 「中国労働力市場真実現状 人口紅利運是人口負債」『21世紀経済報道』2007年811日。

7) Lewis,William Arthur,"EconomicDevelopmentwithUnlimitedSuppliesoflabour''in77wManchesterSchoolofEconomics andSocialSEudies,Vol.22No.3,May1954,pp.1391191.

8) Lewisl1958]. 9)浮 〔2006年)0

(3)

グローバ リゼ ーション下 の中国経済 と労働問題 ‑ lil‑

の さい, 中国社会 は,高失業率 と労働力不足 の併存 とい う一見 しただけでは考 えに くい現実 に直面す るこ とになるだ ろ う。ル イスの動態的工業化 モデルは, あ くまで抽象的 モデルにす ぎず,労働供給 の担い手 の 属性 を捨象す るこ とで成立 してい る。論争 は,察坊が王建 の反論 を部分的に受 け容れた こ とで沈静化 した ようであ るが,労働需給バ ランスに変化 の兆 しがみ える とい う事実 は,次第 に露 わにな ってい くと予想 さ れ る。

2

章 「人口学的ボーナス」 の恩恵 とその終蔦

D.ブル ーム (Bloom,DavidE.) とJ.ウィ リアムソ ン (William son,JefferyG.)に よって提唱 された

「人 口学的 ボーナス」 (demographicbonus/demographicgift/demographicdividend)10,ll,12)は,中国経済 の高成長 と労働需給バ ランスの行方 を占 ううえで きわめて有効 な分析手 段 であ る。「人 口学的 ボ ーナス」

とは,生産年齢人 口 (15歳以上65歳未満人 口)増加率が合計特殊 出生率 の低下 に起 因 して減少 した人 口 増加率 を上 回 るこ とで創 出 され る潜在的 な労働 と資本 の大量供給 をい う。相対的に比率 を高 めた生産年齢 人 口は,従来 出産 と育児 に要 していた時間 を労働 に振 り替 えるこ とで労働 の大量供給 に途 を開 き, また従 来 出産 と育児 に支出 していた費用 を貯蓄 に振 り替 えるこ とで資本 の大量供給 に も途 を開 く.

筆者 は, 旧稿 で1980年 か ら2003年 まで の23年 間 の実質製造業生産成長率 お よび実質GDP成長率 の いずれ もあ るい はい ずれかが年率平均4%以上 を記録 した22ヵ国の2003年 の1人 あた りGNIと 「人 口 学的 ボーナス」 の創 出状況 の関連性 を分析 した。筆者 は, とりわけ1人 あた りGNIが2000ドル以上 に達

した10ヵ国の事例 に基づいて,経済 の高成長期 と 「人 口学的 ボ ーナス」 の創 出期 は,ほぼ一致す る とい う認識 に至 った。 図1は,上記22ヵ国の うち1人 あた りGNIを少 な くとも2000ドル まで引 き上 げた ボ ツワナ, コスタ リカ,韓 国, マ レーシア, モ ー リシャス, オマ ーン, シ ンガポール, タイ, チ ュニ ジア, T)レコに参考 として 日本 を加 えた11ヵ国の 「人 口学的 ボーナス」の創 出状況,図2は,残 る中国,イ ン ド, ラオス, ウガ ンダ,ベ トナム,バ ングラデ ィシュ, イ ン ドネ シア, ミャンマ ー, ネパ ール,パ キスタン, ス リランカ, ス ワジラン ドの12ヵ国の 「人 口学的 ボーナス」 の創 出状況 を提示 した ものであ る。 日本 を 除 く前群 の 「人 口学的 ボーナス」創 出期数 の平均 は,10期 中

6 . 8

期,生産年齢人 口増加率が人 口増加率 を 5ポイ ン ト以上上 回 る 「人 口学的 ボーナス」大規模創 出期数 の平均 は,10期 中2.4期,後群 の 「人 口学的 ボーナス」創 出期数 の平均 は,10期 中5.3期,生産年齢人 口増加率が人 口増加率 を5ポイ ン ト以上上 回 る

「人 口学的 ボ ーナス」大規模創 出期数 の平均 は

,1

0期 中0.3期 であ った.読者 は,経済 の高成長 が 「人 口 学的 ボーナス」期 の長短 と規模, とりわけ後者 と強 く相 関 してい る事実 を理解 で きよ う。筆者 は,「人 口 学的 ボ ーナス」 の創 出は,1人 あた りGNIの上昇 を ともな う経済 の高成長 の必要条件 で あ る とみな して い る。 なお, 中国は,工業化初期 の1人 あた りGNIが相対的 に低 か ったために2003年 の1人 あた りGNI は2000ドルに達 せず後群 に分類 されたが,「人 口学 的 ボ ーナス」 の創 出状況 は,前群 に引 け を とらなか

た 。

「人 口学的 ボ ーナス」 を採用 した分析 は, 中国経済 の高成長 が生 じるぺ くして生 じた現象で あるこ とを示 す と同時 に,「人 口学的 ボ ーナス」 の恩恵 に与 った中国の高成長 が終蔦 を迎 えつつ あ るこ とをも教 える。

中国は,国際連合経済社会情報 ・政策分析局人 口部 の将来人 口推計 に よれば

,2 0 1 5

年前後 に 「人 口学的 ボーナス」 の消失 を迎 える。正確 を期 す る と,「人 口学的 ボーナス」 は, 中位予測値 と高位 予測値 に基づ

10) Bloom,DavidE.andJefferyG.Williamson,"DemographicTransitionsandEconomicMiraclesinEmergingAsia", NadonalBureauofEconomicResearch(NBER)WorkingPaper,No.6286,November1997.

11) UnitedNationsPopulationFund,TheStateofTVorldPopulation1998:TheNewGenerlations,UnitedNationsPopulahon Fund,1998,pp.7‑22(国連人口基金 『世界人口白書1998‑ 新 しい世代』ジョイセ7,1998年,7‑22頁).

12) Bloom,DavidE.,DavidCannhgandJaypeeSevilla,TheDemographicDividend:ANewPersJ)ectiveonikeEconomic ConsequencesofPopulationChange,Rand,2003.

(4)

‑ 1 1 2‑

グローバ リゼ ーシ ョン下 の中国経済 と労働問題

図1 「人口学的ボーナス」の創 出期数 と創出規模の比較 【1】

(5)

グ ロ‑バ リゼ ーシ ョン下 の 中国経 済 と労働 問題

図1 「人口学的ボーナス」 の創 出期数 と創 出規模 の比較 【1】 (続 き)

‑ 113‑

資料 国際連合経済社会情報 ・政策分析局人 口部編 『世界人 口予測

1 9 5 0 ‑2 0 5 0 』〔 2 0 0 6

年改訂版〕(Ⅰ分冊)(磨 書房編集部訳)原書房

,2 0 0 8

,1 5 0 ,1 9 0 ,2 8 6 ,3 1 8 ,3 3 0 ,3 7 0 ,3 9 2 ,4 1 8 ,4 4 8 ,4 6 0 ,4 6 2

頁。

(6)

‑ 114‑ グローバ リゼ ーシ ョン下 の中国経済 と労働 問題

2

「人口学的ボーナス」 の創 出期数 と創出規模の比較

【2】

(7)

グ ローバ リゼ ー シ ョン下 の 中国経 済 と労働 問題

図2 「人口学的 ボーナ ス」 の創 出期数 と創 出規模 の比較 【2】 (続 き)

‑ 115 一

資料 国際連合経済社会情報 ・政策分析局人 口部編

〔 2 0 0 8

年〕

,1 3 2 ,1 7 8,2 7 0,2 7 2 ,2 9 8,3 4 6 ,3 5 0 ,3 7 2

,

4 3 2 ,4 3 8,4 6 6 ,4 8 8

頁。

(8)

116 グローバ リゼーション下の中EEl経済 と労働問題

くと2011年か ら2015年 にか けてのいずれかの年 に,低位予測値 に基づ くと2016年か ら2020年 にか けて のいずれかの年 に消失す る と予測 され る。国際連合経済社会情報 ・政策分析局人 口部 の将来人 口推計 は, 察 妨率い る中国社会科学院人 口 ・労働経済研究所 が農村労働力調査 の結果導 きだ した第11期5ヵ年計画 期 (2006‑ 2010年) に中国全土 で労働力 の不足 が普遍的 にみ られ る ようにな る とい う結論 を支持 してい るように筆者 には思 えて な らない。低賃金労働 の大量供給 に支 え られた輸 出志 向工業化政策 は,農業戸籍 保有,高齢,非漠族 とい う属性 をもつ国民 を中心 とす る貧困層 を残 した まま限界 に達す るのである。

3

章 中国経済 の行方

低賃金労働 の大量供給 に支 え られた輸 出志 向工業化政策 の限界 は, アメ リカのサ ブプライム ・ローンの 破綻 を発端 とす る金融危機 の影響 で 「人 口学的 ボ ーナス」が消失す る2015年前後 を待 たず して訪 れた。

与件 で あ った アメ リカを中心 とす る外需が,大 き く減少 したので ある。 中国 をは じめ とす る新興 国の高成 長が アメ リカで落 ち込んだ消費 の穴埋 め をす る とい うデカ ップ リング

( d e c o u p l i n g

/非連動)論 は,民間 の シンクタンクに属す るエ コノ ミス トを中心 に して支持 されて きたが,労働集約的製品の多 くをアメ リカ

‑輸 出す るこ とに よって成長 して きた中国 を研究す る専門家 の 目か らみれば, あま りに も楽観的す ぎた。

表1は, 中国経済 の輸 出依存度 (GDPに占め る輸 出額 の比率),表 2は, 中国の相手 国 ・地域別輸 出額 を 示 してい る。2006年 の中国経済 の輸 出依存度 は,36.6%,同年 の対 アメ リカ輸 出額 は,輸 出額合計 の21.0 0/Oに も達 した。

中 国経 済 の高 い 輸 出依 存 度 と高 い ア メ リカ依 存 度 は, 中 国経 済 が ア メ リカ経 済 とカ ップ リング

( c o u p l i n g

/連動) してい る現実 を突 きつ ける。2007年末 か ら目立 ちは じめた中国企業 と外資企業 の工場 閉鎖 や倒産, あるい は新規投 資計画 の撤 回 は,金融危機 が深刻 の度合い を強 めてい くに連 れて増加 し, 2008年後半 には 日本 の主要紙 に も相次いで取 りあげ られた13,14)。ル イスの 「転換点」 の到来 は,金融危機 に よって先送 りされたが,外需 に依存す る とい う輸 出志 向工業化政策 が李む もうひ とつの限界 が,労働 の 供給不足 が一般 に認識 され るまえに露呈 されたので ある。

外需 を期待で きな くな った中国経済 は,理論上 は内需へ の依存度 を高 める以外 にない。問題 は, その実 現性 にあ る。表3は, 中国のGDE (名 目),表4は, 日本 のGDE (名 目) を示 してい る。2006年 の中国 のGDEに占める民 間最終消費支 出,政府最終消費支出,総資本形成,純輸 出の比率 は,それぞれ36.2%, 13.7%,42.5%,7.5%, 同年 の 日本 のGDE (名 目) に 占め る民 間最終 消費支 出,政府最終 消費支 出,袷 資本形成,純輸 出の比率 は, それ ぞれ56.9%,17.6%,24.1%,1.4%で あ った。 中国のGDEの内訳 は, 日本 に比較 して民間最終消費支 出 と政府最終消費支出がそれぞれ20.7ポイ ン トと3.9ポイ ン ト低 く,総資 本形成 と純輸 出が それ ぞれ18.4ポイ ン トと6.1ポイ ン ト高 か った。 中国は,1990年代以降,総 資本形成 と純輸 出の増加 に よって経済成長 を実現 して きた とい える。 さらに,民 間最終消費支 出,政府最終消費支 出,総資本形成,純輸 出の伸 び率 に着 目す る と,純輸 出の突 出が, とりわけ近年顕著で ある。輸 出は, ま さに経済 の高成長 を持続 してい くためのエ ンジ ンとしての地位 を固めたばか りであ った。

それで は, 内需 の大半 に相当すべ き民間最終消費支 出は,純輸 出に代 わ って 「成長 のエ ンジ ン」 にな り うるだ ろ うか。民間最終消費支 出比率 の上昇 は, 中間層

1

5)の拡大 を欠いては実現 しない。

李春玲 は, 自らが属す る中国社会科学院社会学研究所 が実施 した社会階層調査 の結果16・17)をふ まえで,

13)無署名 「(金融危機 世界 同時不況) しぼむ 中国景気,需要減 雇用 に波及」『朝 日新 聞』20081021日。

14)阿部将樹 「中国経済 の羅針盤,『世界 の工場』広東 に試練,産業構造変 革半 ば (NewsEdge)」『日経産業新 聞』2008 1118

15) 本稿は,中間層を富裕層を含めた概念として用いる

16)陸学芸編 『当代 中国社会階層研究報告』社会科学文献 出版社,2002年。

17) 陸学芸編 『当代 中国社会流動一 中国社会階層研究報告之二』社会科学文献 出版社,2004年。

(9)

グ ローバ リゼ ーシ ョン下 の中国経済 と労働 問題

表1 中 国 の 輸 出依 存 度

GDP

(億 元) 輸 出額 (億 元 ) 輸 出依 存度

(a) (b) (b/a)

1985 9,016.0 803.2 8.9% 1990 18,667.8 2,969.9 15.9% 1991 21,781.5 3,824.4 17.6% 1992 26,923.5 4,684.1 17.4% 1993 35,333.9 5,286.3 15.0% 1994 48,197.9 10,428.6 21.6% 1995 60,793.7 12,426.3 20二4%

1996 71,176.6 12,554.4 17.6% 1997 78,973.0̲ 15,153.8 19.2% 1998 84,402.3 15,208.7 18.0% 1999 89,677.1 16,134.4 18.0% 2000 99,214.6 20,629.8 20.8% 2001 109,655.2 22,025.1 20.1% 2002 120,332.7 26,949.9 22.4%

2003 135,822.8 36,269.8 26.7% 2004 159,878.3 49,106.3 30.7% 2005 183,867.9 62,420.8 33.9% 2006 210,871.0 77,238.8 36.6% 資料 国家 統計 局 『中国統 計年鑑』 〔2007年 版 〕 中国統計

出版 社,2007年,57,724,726頁。

表2 中 国 の 相 手 国 ・地 域 別 輸 出額

( 2 0 0 6

年 ) 輸 出額 (万 ドル ) 構 成 比 ア ジア地域 45,572,629 47.0%

中国香 港 15,530,907 16.0%

日本 9,162,267 9.5%

韓 国 4,452,221 4.6%

シ ンガ ポール 2,318,529 2.4% 中国 台湾 2,073,308 2.1% イ ン ド 1,458,130 1.5% マ レー シ′ア 1,353,707 1.4%

UA E 1,140,478 1.2%

ア フ リカ地域 2,668,788 2.8% ヨー ロ ッパ 地域 21,536,973 22.2%

ドイ ツ 4,031,460 4.2%

オ ラ ンダ 3,086,114 3.2% イ ギ リス 2,416,321 2.5% イ タ リア 1,597,198 1.6%

ロシア 1,583,249 1.6%

フ ラ ンス 1,391,066 1.4% スペ イ ン 1,148,882 1.2% 南 ア メ リカ地域 3,602,795 3.7% 北 ア メ リカ地域 21,911,386 22.6% ア メ リカ 20,344,842 21.0% カナ ダ 1,551,672 i.6% オセ ア ニ ア地域 1,600,926 1.7% lオー ス トラ リア 1,362,488 1,4% 資料 国家 統計 局 『中国統計年鑑』 〔2007年版 〕 中国統計

出版 社,2007年,730‑733頁。

117

(10)

118 グ ローバ リゼ ーション下 の中国経済 と労働問題

3

中国の国 内総支 出 (名 目)

実 額 ( 億 元 ) 民間最終

消費支出 政府最終消費支 出 総資本形成 純輸 出 1978 3,605.6 1,759̀1 480.0 1,377.9 ‑ll.4 1980 4,592.9 2,331.2 676.7 1,599.7 ‑14.7 1985 9,076.7 4,687.4 1,298.9 3,457.5 ‑367.1 1990 19,347.8 9,450.9 2,639.6 6,747.0 510.3 1995 63,216.9 28,369.7 8,378.5 25,470.1 998.6 2000 98,749.0 45,854.6 15,661.4 34,842.8 2,390.2 2001 108,972.4 49,213.2 17,665.1 39,769.4 2,324.7 2002 120,350.3 52,571.3 19,119.9 45,565.0 3,094.1 2003 136,398.8 56,834.4 20,615.1 55,963.0 2,986.3 2004 160,280.4. 63,833.5 23,199.4 69,168.4 4,079.1 2005 188,692.1 71,217.5 26,605.2 80,646.3 10,223.1 2006 221,170.5 80,120.5 30,292.7 94,103.2 16,654.1

構 成 比

民間最終

消費支出 政府最終消費支 出 総資本形成 純輸出 1978 100.0% 48.8% 13.3% 38.2% ‑0.3% 1980 100.0% 50.8% 14.7% 34.8% ‑0.3% 1985 100.0% 51.6% 14.3% 38.1% ‑4.0% 1990 100,0% 48.8% 13.6% 34.9% 2.6% 1995 100.0% 44.9% 13.3% 40.3% 1.6% 2000 100.0% 46.4% 15.9% 35.3% 2.4% 2001 100.0% 45.2% 16.2% 36.5% 2.1% 2002 100.0% 43.7% 15.9% 37.9% 2.6% 2003 100.0% 41.7% 15.1% 41.0% 2.2% 2004 100.0% 39.8% 14.5% 43.2% 2.5% 2005 100.0% 37.7% 14.1% 42.7% 5.4% 2006 100.0% 36.2% 13.7% 42.5% 7.5%

民間最終

消費支出 政府最終消費支出 総資本形成 純輸 出 2001 10.4% 7.3% 12.8% 14.1% ‑2.7% 2002 10.4% 6.8% 8.2% 14.6% 33.1% 2003 13.3% 8.1% 7.8% 22.8% ‑3.5% 2004 17.5% 12.3% 12.5% 23.6% 36.6% 2005 17.7% ll.6% 14.7% 16.6% 150.6% 資料 中華人民共和国国家統計局編 『中国統計年鑑』 〔2007年版〕 中国統計出版社,

2007年,72‑73頁。

(11)

グローバ リゼーション下の中国経済と労働問題

4

日本 の 国 内 総 支 出 (名 目)

実 額 ( 10億 円 ) 民 間 最 終

消 費 支 出 政 府 最 終消 費 支 出 総 資 本 形 成 純 輸 出 2003 493,748 282,563 88,613 113,376 9,195 2004 498,491 284,173 89,785 115,604 8,929 2005 503,845 287,556 90,577 119,210 6,502 2006 511,877 291,375 89,912 123,457 7,134

構 成

民 間 最 終

消 費 支 出 政 府 最 終消 費 支 出 総 資 本 形 成 純 輸 出 2003 100.0% 57.2% 17.9% 23.0% 1.9% 2004 100.0% 57.0% 18.0% 23.2% 1.8% 2005 100.0% 57.1% 18.0% 23.7% 1.3% 2006 100.0% 56.9% 17.6% 24.1% 1.4%

対 前 年

民 間 最 終

消 費 支 出 政 府 最 終消 費 支 出 総 資 本 形 成 純 輸 出 2004 1.0% 0.6% 1.3% 2.0% ‑2.9% 2005 1.1% 1.2% 0.9% 3.1% ‑27.2%

119 ‑

注 会 計 年 度 に基 づ く。

資 料 総 務 省 統 計 局 研 修 所 『日本 の 統 計 』 〔2008年 版 〕 日本 統 計 協 会,2008年 , 32‑33頁。

中 間 層 の比 率 を推 計 して い る

1

8)。 李 は, 中 間 層 の比 率 は, 職 業19)を条 件 とす る分 類 で は15.9%,所 得20)

を条 件 とす る分 類 で は24.6%, 消 費21)を条 件 とす る分 類 で は350/0, 主 観 (自 己認 識)22)を条 件 とす る分 類 で は46.8%に な るが,4基 準 をす べ て 満 た す 本 来 の意 味 で の 中間層 は,4.1%にす ぎな か った とい う。

また , 李 は, 社 会 階層 の流 動 性 に焦 点 をあ て た 中国社 会 科 学 院 社 会 学 研 究 所 の

2

冊 目の報 告 書 で は社 会 階 層 の 固定 (「封閉」)化 が 進 展 して い る事 実 を指 摘 して い る23)o 社 会 階層 の 固 定 化 の進 展 は, 民 間最 終 消 費 が純 輸 出 に代 わ って 「成 長 の エ ンジ ン」 に な り うるほ どの規 模 で拡 大 す る見 通 しが現 行 の条 件 下 で は き わ め て低 い こ とを示 唆 す る。 筆 者 は, 経 済 成 長 率 の鈍 化 が避 け られ ない 以 上 , これ まで の経 済 成 長 に よ っ て 悪 化 した所 得 分 布 が さ らな る経 済 成 長 に よ って改 善 に む か うこ とな く固 定 化 す る事 態 の招 来 を予 期 せ ざ る を え ない。S.ク ズ ネ ッツ (Kuznets,SimonSmi th)の 「逆U字」(InvertedU)仮説

2

4)に 引 きつ けて い え ば, 中 国社 会 は, 図3に示 した よ うに,「逆U字 」 の右 半 分 を描 く機 会 を当 面 の あい だ 与 え られ ない 可 能

18)李春玲 「中産階層‑ 中国社会値得関注的人群」汝信 ・陸学芸 ・李培林編 『中国社会形勢分析与預測』〔2004年版〕社 会科学文献出版社,2004年,51‑63頁。

19)李は,職業による分類では,(∋中国共産党 ・政府役人 (1.1%),(参国有企業管理職従事者 (1.6%),③私営企業家 (1.0

%),④専門技術者 (4.2%),⑤事務員 (8.0%),⑥ 自営業 (ll.1%),(むサービス従業員 (ll.5%),⑧工業労働者 (13.2%), (勤農業労働者 (43.2%),⑲無職 ・失業 ・半失業者 (5.1%)の10職業に区分 した選択肢か ら前5者のいずれかにマークし た回答者 を中間層 とみな してい る。

20)李は,所得 による分類では,所得水準が地域 ごとに大 きく異なる事実 を考慮 し,回答者 を出身地の所得水準に合わせ て(丑発展 した都市区域,(参比較的発展 した都市区域,③発展 していない都市区域,④発展 した農村区域,⑤比較的発展 し た農村区域,⑥発展 していない農村区域の6区域に区分 して月収額が各区域の平均 を超 える回答者 を中間層 とみな してい る。

21) 李は,消費に よる分類では,19種類の耐久消費財 をその性格に応 じて指数化 し (た とえば,カラーテ レビ,冷蔵庫, 洗濯機 な どの必需品は,1台あた り1点, コンピュータ, ピアノ,オー トバイ,自動車な どの資沢晶は,前3着が1台あ た り4点,後1着が1台あた り12点である),所有す る耐久消費財指数の合計が6点以上になる回答者 を中間層 とみな し てい る。

22)李は,主観 (自己認識)による分類では,①上流層 (1.3%),② 中流上層 (7.1%),③ 中流 (中)層 (38.40/.),④ 中流 下層 (23.2%),G)下流層 (20.8%)の5階層に区分 した選択肢か ら前3着のいずれかにマークした回答者 を中間層 とみな

している。なあ 回答者の一部は,不明 (1.4%)にマークするかあるいは無回答(7.8%)であった。

23)李春玲 「十大社会階層的来源与流向」陸学芸編 〔2004年〕,138‑179頁。

24)Kuznets,SimonSmith,"EconomicGrowthandIncomeInequality"inAm ericanEconomicAs sociation,American EconomicReview,Vol.45No,1,March1955,pp.i‑28,

(12)

‑ 1 2 0‑

グローバリゼーション下の中国経済と労働問題

図3 クズネ ッツの逆 U字仮説の末実現

/ 一

、‑、 、 、理

1人 あた り国民総生産 筆者作成。

性 が高い とい える。

おわ りに

中国共産 党 ・政府 が低 賃 金 労働 の大量供 給 に支 え られた輸 出志 向工業化 政策 の限界 を明確 に認 識 してい る事 実 は

,2 0 0 8

年 に立 て続 けに施 行 され た

3

つ の法律 か ら窺 え る。 第‑ は

,1

月に施 行 された労働 者 の権 利 の強化 を 目的 と した労働 契約 法 (「労働 合 同法」)で あ る25)。第 二 は, や は り1月 に施 行 され た外 資企 業 の優 遇 税 率 を廃 止 した法人 税 法

(

「企 業 所得 税 法 」) で あ る。第 三 は

,8

月に施 行 され た重 点企 業 と著名 ブ ラ ン ドの買収 に さい す る商 務 省 の審 査 を義務 づ けた独 占禁止 法

(

「反 塾 断法」)で あ る

。3

つ の法律 は,外 資 と輸 出 に主 導 され た 中国経 済 の構 造 転 換 を促 進 してい く意 図 の も とに制 定 され た とみ られ る

。2 0 0 8

年 は,俊 子 中毒事 件 , チベ ッ ト(「西戎」)武力弾圧 , 四川 大地 震 ,北京 五輪 開催 に話 題 を掠 われて しま った が, 中国経 済 に とって節 目の年 で あ った。

筆 者 は,現 在 , 中国経 済 の高 成 長 が終 わ りを迎 え,構 造 転 換 が容 易 にす す まない局 面 の到 来 を予 想 し てい る。所 得格差 は,縮 小 せ ず,社 会不 安 は,い っそ う深刻 に な るだ ろ う。 中国 は, こ うした諸 問題 を解 決 す る糸 口が一 党独裁 の放 棄 に よる所 得再 分配機 能 の強化 と教育 をは じめ とす る機 会 の平等化 以 外 に ない こ とを否 が応 で も知 る こ とに な るに相 違 ない。李 のい う4基 準 をすべ て満 た した 中間層 の比 率 で あ る4.1

% と総 人 口に 占め る中国共 産 党 員 の比 率 で あ る5‑ 6%との近似 は,政 治 資本 ・経 済 資本 ・文化 資本所 有 者 の相 互 浸透 がす す み, 中国共産 党 ・政府 が最 も警 戒 すべ き経 済 ・社 会 が 「ク ローニ ー資本 主義

」( c r o ny c a pi t a l is m)

化 しつ つ あ る事 実 を何 よ りも雄 弁 に物語 ってい る。

25) 筆者は,労働契約法は,労働者の権利の強化 とい う立法意図を超えて,無期雇用者 と有期雇用者の二極化を促す と認 識 している。企業は,第14条第2項を逆手にとって,無期雇用契約への切 り替えを義務づけられる連続10年以上勤務 し ている労働者 と勤続年数が連続10年未満であっても企業経営の中核を担 う労働者 とは無期雇用契約を結ぶが,企業経営の 周縁を担 うにすぎない勤続年数が連続10年未満の労働者 とやはり無期雇用契約への切 り替えを義務づけられる有期雇用契 約の更新が連続で3回目になる労働者 とは雇用契約を延長 しない と思われる。この結果,労働者の企業への定着率は,企 業経営の中核を担 う労働者については上昇するが,企業経営の周縁を担 う労働者についてはいっそう低下すると考えられ る。

図 1 「 人口学的ボーナス」の創 出期数 と創出規模の比較 【1】
図 1 「 人口学的ボーナス」 の創 出期数 と創 出規模 の比較 【1 】 ( 続 き)
図 2 「 人口学的 ボーナ ス」 の創 出期数 と創 出規模 の比較 【 2 】 ( 続 き)

参照

関連したドキュメント

理系の人の発想はなかなかするどいです。「建築

ところで,労働者派遣契約のもとで派遣料金と引き換えに派遣元が派遣先に販売するものは何だ

ただし、このBGHの基準には、たとえば、 「[判例がいう : 筆者補足]事実的

だけでなく, 「家賃だけでなくいろいろな面 に気をつけることが大切」など「生活全体を 考えて住居を選ぶ」ということに気づいた生

この国民の保護に関する業務計画(以下「この計画」という。

非正社員の正社員化については、 いずれの就業形態でも 「考えていない」 とする事業所が最も多い。 一 方、 「契約社員」

本事業を進める中で、

○事業者 今回のアセスの図書の中で、現況並みに風環境を抑えるということを目標に、ま ずは、 この 80 番の青山の、国道 246 号沿いの風環境を