( )
( )
論 文
介護保険サービス賃金の上方硬直要因について
田 栄 富1
《要 約》
本稿は介護サービス賃金上方硬直性について,女性非正規労働者の労働供給が弾力的であること,
介護サービス業の短時間労働者の時間当たり賃金が優位性を持つこと,および介護サービスの特徴的 なコスト構造という 3 つの点から検証を試みた。結果として,近年は特に45歳以上の女性非正規労働 者供給が弾力的であり,介護サービスの主な 3 職業の時間当たり賃金は絶対額でも相対額でも一定の 優位性を保っていた。3 点目については,サービスの生産・提供がマンパワーに強く依存するため,資 本投入による生産性の改善が難しい一方,人件費コストが事業収入の7割弱を占めていることから,賃 上げを難しくしている。これらの要因から賃金の上昇が抑制されている可能性が高い。2018年現在,
30~54歳女性の労働力率は既に78%に達し,「M字カーブ」が解消され,これから女性労働力の供給
が大幅に増加することは望めないだろう。今後,小売,飲食等の対人サービス業で資本投入が増え労 働生産の改善が賃上げに繋がる事態が起これば,介護サービス業の賃金も追随する必要に迫られよう。
キーワード
賃金上げ,上方硬直性,労働供給弾力性,相対賃金,コスト構造
はじめに
Ⅰ 介護業界の人手不足と賃金の状況
Ⅱ 介護サービス賃金の上昇を妨げる三つの可能性
Ⅲ 女性労働供給の賃金弾力性についての検証
Ⅳ 相対的な賃金優位性についての検証
Ⅴ 介護サービス業のコスト構造についての検証 むすびにかえて
1 寧波財経学院国際経済貿易学院講師。
89
-20-
はじめに
2018年には日本の完全失業率が2.4%に低下し,有効求人倍率は1.62倍に上昇した。さまざまな業界 が人手不足に直面している。特に労働集約なサービス業界おいては,人手不足の問題は更に深刻である。
一方で,全体的な労働者が不足しているのに顕著な賃金の上昇が観察されていない。この現象について,
玄田(2017),尾崎,玄田(2019)は賃金の上方硬直性が影響していると指摘している。賃金上方硬直 性とは景気が良くて労働力も不足気味だが,賃金があまり上がらない現象を指す。
事実,2018年には介護業界の平均有効求人倍率が3.95倍となり,人手不足が一層顕著になっているに もかかわらず,周知のように介護サービス業は低賃金で,2018年の介護職員の給与月額は全産業平均よ り約10万円も低く,人手が不足しているのに大幅な賃上げが観察されていない。このように介護職員が 不足しているのになぜ賃上げ幅が抑制されているか。
加藤(2017)はきまっている現金給与データを使用して検証を行い,不況のとき賃金が下がりにくく,
景気が上向いたとき逆に上がりにくいという実証結果を明らかにしている。この結果は賃金の下方硬直 性と上方硬直性の存在を示唆している。なお,景気が良いとき,企業が大幅な賃上げの変わりにボーナ スで調整するではないかという視点からの検証を尾崎,玄田(2019)が行っており,そこでも賃金の上 方硬直性を示唆する結果が得られている。山本,黒田(2016)は不況期に賃下げができず人件費調整に 苦慮した経験を持つ企業ほど,将来の不況時に再び問題に直面することを考え,景気が回復しても賃上 げに慎重になる「賃上げの不可逆性」が賃上げを抑制する原因の1つになっていると指摘した。
加えて,介護保険サービス業は一般自由市場と異なってさまざまな規制がかかる準市場で(佐橋
(2008),吉田(2013),田,励(2019)),しかも政府が介護サービスごとに価格を決めており,サービ ス価格が引き上げられない限り,賃金を引き上げにくい構造になっている(田,王(2019))。また,介 護サービスは対人サービスなので主なコストを人件費が占め,コスト削減に際しても人件費が優先され やすく(鈴木(2017)),さらに,対人サービスでは労働生産性の大幅の上昇が望めないことから,低賃 金のまま上がりにくい(森川(2016),田,王(2019))といった指摘がある。
確かに上述の要因が介護サービス業の賃上げに影響しているかもしれないが,ほかになにか別の要因 はないのか。本稿では,3つの要因,即ち,①現時点で賃金上昇に対し女性労働者の労働供給が弾力的 であること,②介護サービス業がほかの対人サービス業に対して相対的な賃金の優位性を持つこと,③ 介護サービス業特有のコスト構造と労働生産,以上の3点が賃上げを抑制している可能性を検証する。
まず介護業界の人手不足と賃金の状況を確認した上で,3つの要因についてそれぞれ検証する。最後
-21-
-20-
( )
( )
2 2017年度からアンケートの選択肢が変わったため単純に比較できない。
に分析した結果を簡単にまとめる。なお,本稿で分析する介護サービスはすべて介護保険制度下の介護 保険サービスを指している。
Ⅰ. 介護業界の人手不足と賃金の状況
1.1 介護業界の人手不足の状況
少子高齢化の深刻化により労働力不足が全産業において顕著になっている。特に労働集約なサービス 業界における人手不足の問題はより深刻である。このような現状は統計データにも如実に現れている。
2010年以降,日本の完全失業率は下がり続けており,2018年には2.4%に低下し,一方,有効求人倍率 は1.61倍まで上昇した(図1)。人手不足の代表的業界である介護サービス業の有効求人倍率は3.95倍 まで上がっている。
(財)介護労働安定センターが毎年実行している「介護労働実態調査」のデータによると,介護施設・
事業所の従業員「過不足」について「不足感」の数値が年々上昇している(図 2 )。その中,訪問介護 員の「不足感」が特に顕著である。最大要因は採用困難であり,さらに採用困難について,上位に挙が るのは「賃金が低い」,「同業他社との人材獲得競争が厳しい」となっている2(図 3 )。
3
上の
3
点が賃上げを抑制している可能性を検証する。まず介護業界の人手不足と賃金の状況を確認した上で,
3
つの要因についてそれぞれ検 証する。最後に分析した結果を簡単にまとめる。なお,本稿で分析する介護サービスはす べて介護保険制度下の介護保険サービスを指している。Ⅰ. 介護業界の人手不足と賃金の状況
1.1 介護業界の人手不足の状況
少子高齢化の深刻化により労働力不足が全産業において顕著になっている。特に労働集 約なサービス業界における人手不足の問題はより深刻である。このような現状は統計デー タにも如実に現れている。
2010
年以降,日本の完全失業率は下がり続けており,2018
年 には2.4
%に低下し,一方,有効求人倍率は1.62
倍まで上昇した(図1)。人手不足の代 表的業界である介護サービス業の有効求人倍率は3.95
倍まで上がっている。図
1 完全失業率と有効求人倍率の推移
出所:厚生労働省「職業安定業務統計」,総務省「労働力調査」。
2.4
0.47
1.61 1.31
3.95
0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0
2004 2006 2008 2010 2012 2014 2016 2018
年完全失業率(%) 全産業有効求人倍率(倍)
介護有効求人倍率(倍)
出所:厚生労働省「職業安定業務統計」,総務省「労働力調査」。 図 1 完全失業率と有効求人倍率の推移
90 91
-22-
( )
日本では,生産年齢人口が2000年の8638万人から2018年の7545万人まで12.7%減少し,年少人口(0
~14歳)は1853.1万人から1542.6万人へ16.8%もの激減となっている。一方,この期間に65歳以上の高
齢者人口は60.9%増の3553万人となり,そのうち75歳以上の人口も894.3万人,99.2%の増加となってい る。少子化による将来の生産年齢人口の減少と高齢化による介護需要の増加を考慮すると,介護業界の 人手不足は益々深刻になるものと予想される。
4
図 2 介護施設・事業所従業員「過不足」の状況(%)
出所:(財)介護労働安定センター「介護労働実態調査」。
(
財)
介護労働安定センターが毎年実行している「介護労働実態調査」のデータによると,介護施設・事業所の従業員「過不足」について「不足感」の数値が年々上昇している(図
2
)。その中,訪問介護員の「不足感」が特に顕著である。最大要因は採用困難であり,さ らに採用困難について,上位に挙がるのは「賃金が低い」,「同業他社との人材獲得競争が 厳しい」となっている2(図3
)。
図 3 介護従業員「過不足」における「不足感」と「採用困難」の要因 出所:(財)介護労働安定センター「介護労働実態調査」。
2 2017年度からアンケートの選択肢が変わったため単純に比較できない。
67.2 69.2 82.1
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90
2013 2014 2015 2016 2017 2018
年全体 介護職員 訪問介護員
10 0 20 30 40 50 60 70 80 90 100
「
「過過不不足足」」のの最最大大要要因因はは採採用用困困難難
50 52 54 56 58 60
62
a.賃金が低い 採採用用困困難難のの最最大大要要因因
b.
同 業 他 社 と の 人 材 獲 得 競 争 が 厳しい出所:(財)介護労働安定センター「介護労働実態調査」。
出所:(財)介護労働安定センター「介護労働実態調査」。
図 2 介護施設・事業所従業員「過不足」の状況(%)
図 3 介護従業員「過不足」における「不足感」と「採用困難」の要因
4
図 2 介護施設・事業所従業員「過不足」の状況(%)
出所:(財)介護労働安定センター「介護労働実態調査」。
(財)介護労働安定センターが毎年実行している「介護労働実態調査」のデータによると,
介護施設・事業所の従業員「過不足」について「不足感」の数値が年々上昇している(図 2)。その中,訪問介護員の「不足感」が特に顕著である。最大要因は採用困難であり,さ らに採用困難について,上位に挙がるのは「賃金が低い」,「同業他社との人材獲得競争が 厳しい」となっている2(図3)。
図 3 介護従業員「過不足」における「不足感」と「採用困難」の要因 出所:(財)介護労働安定センター「介護労働実態調査」。
2 2017年度からアンケートの選択肢が変わったため単純に比較できない。
67.2 69.282.1
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90
2013 2014 2015 2016 2017 2018年
全体 介護職員 訪問介護員
100 2030 4050 6070 8090 100
「
「過過不不足足」」のの最最大大要要因因はは採採用用困困難難
50 52 54 56 58 60
62 a.賃金が低い 採
採用用困困難難のの最最大大要要因因
b.同 業 他 社 と の 人 材 獲 得 競 争 が 厳しい
92
-23-
-22-
( )
( )
1.2 介護業界の賃金水準
図 4 は介護サービスにおける主な 3 職種の「現金給与額」の推移を示している。2018年ケアマネー ジャーの現金給与額は月平均269.2千円,2002年の281.5千円より4.4%下回っている。ホームヘルパー(訪 問介護員)と福祉施設介護員の月平均現金給与額はそれぞれ241.1千円 と239.7千円で,2002年から3.2%
と14.2%の上昇となり,近年の人手不足を反映して,上昇ペースはやや上がっている。全産業労働者の 平均現金給与額は2002年の329.2 千円から2018年の336.7千円まで小幅の上昇にとどまったが,なおホー ムヘルパー,福祉施設介護員と比べると約10万円高くなっている。就業時間の差を考慮しても,介護職 員の平均収入は宿泊,飲食,生活関連サービス業,娯楽業等の対人サービス業よりも劣る(表 1 )。因 みに,3 職種の就業者数は介護サービス就業総数の 7 割強を占めており,その給与水準は概ね介護業界 の賃金を反映している3。
3 (財)介護労働安定センター「平成30年度介護労働実態調査」の調査データによると、3 職種の就業者人数は 全体の75.9%占めている。
出所:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」。
図 4 主な 3 職種のきまって支給する現金給与額の推移(月額,単位:千円)
5
し,年少人口(
0
~14
歳)は1853.1
万人から1542.6
万人へ16.8
%もの激減となっている。一方,この期間に
65
歳以上の高齢者人口は60.9
%増の3553
万人となり,そのうち75
歳 以上の人口も894.3
万人,99.2
%の増加となっている。少子化による将来の生産年齢人口 の減少と高齢化による介護需要の増加を考慮すると,介護業界の人手不足は益々深刻にな るものと予想される。1.2 介護業界の賃金水準
図
4
は介護サービスにおける主な3
職種の「現金給与額」の推移を示している。2018
年ケアマネージャーの現金給与額は月平均269.2
千円,2002
年の281.5
千円より4.4%
下 回っている。ホームヘルパー(訪問介護員)と福祉施設介護員の月平均現金給与額はそれ ぞれ241.1
千円 と239.7
千円で,2002
年から3.2%
と14.2
%の上昇となり,近年の人手不 足を反映して,上昇ペースはやや上がっている。全産業労働者の平均現金給与額は2002
年の
329.2
千円から2018
年の336.7
千円まで小幅の上昇にとどまったが,なおホームヘルパー,福祉施設介護員と比べると約
10
万円高くなっている。就業時間の差を考慮して も,介護職員の平均収入は宿泊,飲食,生活関連サービス業,娯楽業等の対人サービス業 よりも劣る(表1
)。因みに,3
職種の就業者数は介護サービス就業総数の7
割強を占めて おり,その給与水準は概ね介護業界の賃金を反映している3。図 4 主な 3 職種のきまって支給する現金
給与額の推移(
月額,単位:千円)
出所:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」。
表 1 他の業界との賃金比較(2018 年月平均)
年齢 勤続 所定内 超過実 きまって 年間賞与
3 (財)介護労働安定センター「平成30年度介護労働実態調査」の調査データによると、3職種の就 業者人数は全体の75.9%占めている。
269.2
千円241.1
千円239.7
千円190 210 230 250 270
290 ケアマネージャー ホームヘルパー 福祉施設介護員
92 93
-24-
表 1 他の業界との賃金比較(2018年月平均)
年齢 勤続
年数
所定内実労 働時間数
超過実労働 時間数
きまって 支給する現
金給与額
年間賞与 その他特別
給与額
歳 年 時間 時間 千円 千円
産業計 42.9 12.4 164 13 336.7 931.6
製造業 42.6 14.7 165 18 337.1 1055.7
小売業 41.3 12.2 168 12 292.2 648.4
宿泊業 41.7 9 170 11 262.1 413.7
飲食店
生活関連サービス 39.9 8.5 174 18 286.1 330.1 業,娯楽業 40.6 9.7 167 9 279.8 459.4 医療・福祉 42 8.9 162 6 303.4 708.4 社会保険・社会
福祉・介護事業 43 8.1 165 5 255.5 607.8 出所:厚生労働省「平成30賃金構造基本統計調査」。
Ⅱ. 介護サービス賃金の上昇を妨げる三つの可能性
現在,労働力の不足は日本全産業の問題となりつつある。一方で,尾崎,玄田(2019)が指摘してい るように,労働力が不足しているのに賃金が上がらないという現象も併存している。これは介護保険サー ビス業に限らず,一般的に存在する現象でもある。介護保険サービス業に関しては,公定価格である介 護報酬が 3 年に 1 度しか改訂されず,労働市場の動向をすぐには反映しにくいという指摘もある(鈴木
(2017))が,その他にも何か賃金の上昇を妨げる要因があるではないか。これについて幾つかの可能性 を探ってみよう。
2.1 可能性(一):女性の労働供給が賃金に対し弾力的である
図 5 が示しているように,介護価格(P)は公定価格で,しかも 3 年間は固定されているため,短期 的には介護サービスの需要曲線は水平となる。そこで,すべてのサービス需要は供給で満たされると仮 定しよう。即ち,介護サービス需要が増えればその需要を満たすに必要なサービスが供給されるとする。
ただし,Yは介護サービスの生産量(または供給量)であり,その大きさは需要によって決定される。
因みに各事業者の生産コストがそれぞれ違うため,介護サービスの供給曲線は右上がりの曲線となる。
( )
( )
議論を簡略化するため,ここで新規労働者1名を雇用する人件費コストを限界コスト(MC)とし,
その労働を生産に投入して得られる収益を限界収益と定義する。図 5 の(2)では,事業者は限界コスト
(MC)と限界収益(MR)が等しいところまで生産を行うとする。一定期間において介護サービスの価 格が固定されており,またはMR=Pなので,MR曲線もP曲線と重なり水平の曲線となる。もし,労働 力供給が賃金に対し弾力的であれば,賃金が1%上昇すると労働供給は賃上げ幅以上に増える。つまり,
事業者が新規労働者1名を雇うときの限界コストはあまり上昇しない。図 5 の(2)が示しているとおり,
限界費用曲線MC 2 傾きがMC1より緩やかであることは,労働供給の賃金弾力性が高いことを意味する。
従って,限界費用曲線の傾きは労働供給曲線の傾きに影響し,賃金(W)の上昇幅(W1W)が同 じでも労働供給弾力の大きさによって労働供給量が変わっていく。詳しく言うと,介護サービス供給増 加に伴う労働需要曲線Dを右へシフトし,賃金が上昇する。しかし,労働供給S 2 の賃金弾力性が高いた め,少しの賃上げでも労働供給が大幅に増える(図 5 の(3))。この場合,労働需要が増えても賃金への 影響は小さい。
図 5 の(4)のように賃金弾力性が高ければルイスの転換点(ターニングポイント)を迎えるのは遅く なり,賃金上昇ペースも緩やかである。ルイスの転換点を超えてから,賃金上昇が加速する。現時点で は女性労働供給が賃金に対し弾力的であり,ターニングポイントを超える前に賃金上昇を抑制する可能 性がある。
6
金の上昇を妨げる要因があるではないか。これについて幾つかの可能性を探ってみよう。
2.1 可能性(一):女性の労働供給が賃金に対し弾力的である
図5が示しているように,介護価格(P)は公定価格で,しかも3年間は固定されてい るため,短期的には介護サービスの需要曲線は水平となる。そこで,すべてのサービス需 要は供給で満たされると仮定しよう。即ち,介護サービス需要が増えればその需要を満た すに必要なサービスが供給されるとする。もし,労働力供給が賃金に対し弾力的であれば,
サービス生産に伴う労働需要が増えても賃金に対する影響は小さい。従って,限界費用曲 線は図(2)のMC2部分となる。限界費用曲線の傾きは労働供給曲線の傾きに影響し,賃 金の上昇幅(W1W)が同じでも労働供給弾力の大きさによって労働供給量が変わってい く。図(4)のようにルイスの転換点(ターニングポイント)を迎えるのは遅くなり,賃 金上昇ペースも緩やかである。ルイスの転換点を超えてから,賃金上昇が加速する。現時 点では女性労働供給が賃金に対し弾力的であり,ターニングポイントを超える前に賃金上 昇を抑制する可能性がある。
図 5 介護サービス市場賃金の決定
2.2 可能性(二):その他の対人サービス業に対し相対的賃金の優位性がある 2017年,非正規雇用率の全国平均は38.1%(総務省「就業構造基本調査」)で,対人サ ービス業等については,宿泊業・飲食サービス業が74.3%,生活関連サービス業・娯楽業 が57.2%,小売・卸売が50.1%,医療・福祉が39.2%,介護サービスが42%(2018年数 値)となっており,対人サービス業の非正規雇用率は明らかに高い。
加えて,非正規雇用の中には短時間労働者が多く含まれている。厚生労働省「賃金構造 W1
MC P
MC1 MC2
限界収益 MR 限界費用 MC
S1
MR=P
MC W
L
S
B2
B B1
MC L1
D2
S1 S2
E D
E2
E1
MC D1
(4) (2) (3)
(1)
賃金W
W W1
MCB
MC
サ
� ビ ス 価 格
MC 介護サービス
MC 介護サービス
賃金上昇の スピードは 労働供給弾 力性によっ て変わって いく
本
本格格本格的な賃金 の上昇はルイ スの転換点を 超えてから MC L2
MC L1 MC 雇用
MC MC L MC L2 雇用 MC Y2
P
Y1
Y Y2
Y Y1
D S2
A2
A1
A
MC ルイス S1 の転換点
S2
図 5 介護サービス市場賃金の決定
94 95
-26-
2.2 可能性(二):その他の対人サービス業に対し相対的賃金の優位性がある
2017年,非正規雇用率の全国平均は38.1%(総務省「就業構造基本調査」)で,対人サービス業等に ついては,宿泊業・飲食サービス業が74.3%,生活関連サービス業・娯楽業が57.2%,小売・卸売が 50.1%,医療・福祉が39.2%,介護サービスが42%(2018年数値)となっており,対人サービス業の非 正規雇用率は明らかに高い。
加えて,非正規雇用の中には短時間労働者が多く含まれている。厚生労働省「賃金構造基本統計調査」
(企業規模10人以上)のデータによると,2018年の対人サービス業の主な10職種の短時間労働者数は 290.7万人であり,そのうち販売店員が109.6万人,給仕従事者57.9万人,介護3職43.29万人となっている。
即ち,対人サービス業は多くの非正規・短時間労働者を雇用しており,お互いに競合相手でもある。も し,介護サービス業の短時間労働者の賃金がほかの対人サービス業に対して一定の優位性を持っていれ ば,相手側の賃金が大幅に上昇しない限り,介護サービス業の賃金の上昇テンポも緩やかになるだろう。
そうであれば介護サービス業賃金の上昇は抑制される。
2.3 可能性(三):介護サービス業のコスト構造問題
労働 L と資本 K を投入して生産量 Y を生産すると仮定する。図 6 の(1)のように資本と労働が相 互に代替できるため,同じ生産量Yを生産する場合,Aで生産を行うと労働L1 と資本K1 ,Bでは労働L2
と資本K2を投入して生産できる。Bの場合,資本投入を増やして労働を減らすことによって,労働生産 性を引き上げることが可能である。
しかし,介護サービスはマンパワーに依存するため,資本で代替しにくい構造となっている。現在の 技術水準において,資本で代替できる部分が限られているとか,代替コストが高すぎるなどの理由から,
労働者一人あたり資本装備率を引き上げて生産性の上昇を促進することが難しい。図 6 の(2)のよう にY1 を生産するために労働L1と資本K1 は一定比率で投入する必要があり,資本投入を増やしても労働 L1を減らせない。サービスの生産量を拡大する度に一定の資本-労働比率で生産要素を増やす必要があ る。つまり,介護サービスの生産関数は図 6 の(2)のような生産関数に近い。即ち,介護サービス業 は人件費を中心とするコスト構造で,しかも生産性を引き上げにくいため,雇用主が賃上げには消極的 にならざるを得ず,結果的に賃金上昇のスピードが抑制されている。
もちろん,賃金に影響する要因はほかにもあるかもしれないが,本稿では上述の三つの可能性につい て検証する。
( )
( )
Ⅲ. 女性労働供給の賃金弾力性についての検証
3.1 介護サービスの需要構造
介護保険制度が導入されて以降,介護認定者数と受給者数が大幅に増加しているのは周知の事実であ る。 し か し, 高 齢 者 人 口 の 特 徴 的 な 構 造 は 介 護 認 定 と 受 給 者 数 の 構 造 に も 影 響 し て い る。2017 年 3 月 1 日,厚生労働省が公表した『第22回生命表』によると,男性平均寿命は80.75歳,女性は6.99 歳となり,女性は男性より6.24歳も寿命が長い。2001年には,65歳以上の女性人口は男性より363.5万 人も多く,2018年10月現在その値は467万人となっている。男性高齢者人口を女性高齢者人口で割った 男女比については,女性100人に対し男性が76人(2018年)であり,近年上昇しているものの,依然と して高齢者男女の人口差が拡大している(図 7 )。このような高齢者の人口特徴は必然的に要介護(支援)
認定および介護サービス受給者数の性別差異に影響している。
日本内閣府が公表した『平成29年高齢社会白書』によれば,男性の不健康な期間,即ち,平均寿命と 健康寿命との乖離は9.02年,女性は12.4年となっている。つまり,女性の要介護期間は男性より長く,
かつ,平均寿命そのものが男より長いため,要介護(支援)認定率は男性の1.7倍強となり,認定者数 は第 1 号被保険者認定者総数の 7 割弱に達している。2018年のデータでは,65歳以上男女人口の比率 76.8:100に対して,要介護認定者数の比率は44.9:100で性差が顕著であり,要介護認定者数は圧倒的 に女性が多い(表 2 )。
図 6 介護サービスの投入構造
96 97
-28-
表 2 第 1 号被保険者要介護認定者数と認定率
男 性 女 性 認定格差
年度 認定者数
(万人)
認定率 (%)
認定者数
(万人)
認定率
(%)
女性-男性
(万人)
認定倍数
(女性/男性)
2015 183.5 12.5 420.1 21.9 236.6 1.75
2016 188.4 12.6 427.8 21.8 239.4 1.74
2017 193.5 12.7 434.9 21.9 241.4 1.72
2018 199.1 12.9 443.6 22.0 244.5 1.71
出所:厚生労働省「介護保険事業状況報告月報(暫定版)」。 注:認定者数は各年度10月の要介護(支援)認定数値。男女認定率は 男女の認定者数をそれぞれの65歳以上の人口で割った。
男女の要介護認定の格差が大きれば介護サービス受給者数も大きく開くはずである。事実,表 3 に示 しているように,介護サービスの女性受給者数は男性より圧倒的に多い。認定者数で割って得られる受 給率①についても,女性の方が男性より高く,男女65歳以上の人口で割って求めた受給率②についても 男女の違いが歴然としている。要するに介護サービスの利用者は主に女性であることがわかる。
要介護 3 ~5 の重度認定者についても,サービス受給者数と受給率に関する男女の差ははっきりして いる(表 4 )。今後,男女の平均寿命の差が劇的に縮小しなければ,介護サービスの利用者が主に女性 であることは変わらないだろう。即ち,介護サービスの需要は女性中心という特徴が顕著である。
介護サービスは典型的な対人サービスであり,サービス利用者の日常生活を支えるために着替え・洗 顔・排泄・食事・服薬・入浴・就寝などさまざまな介助サービスを提供している。受給者の要介護度に もよるが,受給者の身体と接するケアが多いため,同性によるサービスケアの提供が好まれるものと思
9 3.1 介護サービスの需要構造
介護保険制度が導入されて以降,介護認定者数と受給者数が大幅に増加しているのは周 知の事実である。しかし,高齢者人口の特徴的な構造は介護認定と受給者数の構造にも影 響している。
2017
年3
月1
日,厚生労働省が公表した『第22
回生命表』によると,男性 平均寿命は80.75
歳,女性は6.99
歳となり,女性は男性より6.24
歳も寿命が長い。2001
年には,65
歳以上の女性人口は男性より363.5
万人も多く,2018
年10
月現在その値は467
万人となっている。男性高齢者人口を女性高齢者人口で割った男女比については,女性100
人に対し男性が76
人(2018
年)であり,近年上昇しているものの,依然として高齢 者男女の人口差が拡大している(図7
)。このような高齢者の人口特徴は必然的に要介護(支援)認定および介護サービス受給者数の性別差異に影響している。
図 7 男女 65 歳以上の人口差及び男女比率
出所:総務省統計局「統計が語る平成のあゆみ」。 注:男女の人口差は65歳以上の女性人口-65歳以上の男性人口表 2 第 1 号被保険者要介護認定者数と認定率
男性 女性 認定格差
年度 認定者数 (万人)
認定率 (%)
認定者数 (万人)
認定率 (%)
女性-男性 (万人)
認定倍数
(女性/男性)
2015 183.5 12.5 420.1 21.9 236.6 1.75 2016 188.4 12.6 427.8 21.8 239.4 1.74 2017 193.5 12.7 434.9 21.9 241.4 1.72 2018 199.1 12.9 443.6 22.0 244.5 1.71
出所:厚生労働省「介護保険事業状況報告月報(暫定版)」。 70 71 72 73 74 75 76 77 78
0 100 200 300 400
500 女性人口-男性人口(万人) 男女比率(女性=100)
図 7 男女65歳以上の人口差及び男女比率 出所:総務省統計局「統計が語る平成のあゆみ」。
注:男女の人口差は65歳以上の女性人口-65歳以上の男性人口
( )
( )
われる。2018年には,介護サービスの女性受給者数は男性受給者数の2.32倍,重度要介護の受給者数は 2.46倍となっている。即ち,女性中心とした介護サービスの需要構造が介護業界の就業構造に影響する 可能性がある。
表 3 男女介護サービスの受給者数と受給率 受給者数 男女比率
女性=100
受給率①(%) 受給率②(%) 男性
(万人)
女性
(万人) 男性 女性 男性 女性
2015 150.0 357.2 42.0 81.7 85.0 10.2 18.6
2016 151.2 359.3 42.1 80.2 84.0 10.1 18.3
2017 148.1 347.3 42.7 76.5 79.9 9.7 17.5
2018 149.6 347.2 43.1 75.2 78.3 9.7 17.2
出所:厚生労働省「介護保険事業状況報告月報(暫定版)」
注:受給者数は各年度10月の数値。受給率①は男女の受給者数をそれぞれの認定者数で割ったもの,受給率②は 男女の受給者数を各自の65歳以上の人口で割って求めた。
表 4 重度要介護認定者の受給者数と受給率
重度認定者(万人) 受給者数(万人) 受給率①(%) 受給率②(%)
男性 女性 男性 女性 男性 女性 男性 女性
2015 62.3 148.0 56.9 139.7 91.3 94.4 3.9 7.3
2016 63.5 150.9 57.8 142.7 91.0 94.6 3.9 7.3
2017 64.9 154.0 59.2 145.8 91.1 94.6 3.9 7.3
2018 66.1 156.7 60.6 149.3 91.8 95.3 3.9 7.4
出所:厚生労働省「介護保険事業状況報告月報(暫定版)」
注:重度要介護認定者は要介護 3 ~要介護 5 の要介護認定者を指す。受給者数は各年度10月の数値。受給率①は 男女の受給者数をそれぞれの認定者数で割ったもの,受給率②は男女の受給者数を各自の65歳以上の人口で 割って求めた。
3.2 介護業界の雇用形態と就業者性別
介護保険実施によって,介護サービスの需要が高まり,介護事業に従事する従業員も急激に増えてい る。厚生労働省の「介護サービス施設・事業所調査」によると,介護職員数は介護保険制度施行当初の
54.9万人から2017年度には187.3万人まで増加した。公益財団法人介護労働安定センター「平成30年度
介護労働実態調査」によれば,回答のあった事業所の全従業員数は合計 272,527 人で,全従業員の就業 形態をみると,「正規職員」が 57.5%,「非正規職員」が 42.4%となっている。そのうち,介護サ-ビ スに従事する従業員数(以下「介護サ-ビス従事者」という)を合計すると215,377 人で,就業形態では「正 規職員」が 56.9%,「非正規職員」が 43.0%であった。因みに,2018年全国平均の正規職員・従業員の 雇用率は62.1%で,非正規雇用率は37.2%となっている。
98 99
-30-
介護サ-ビス従事者については,「訪問介護員」「サ-ビス提供責任者」「介護職員」「看護職員」「生活 相談員」「PT・OT・ST等」及び「介護支援専門員」の 7 職種の総人数は 201,251 人であった。職種別にみ ると,全体では,「介護職員」が 49.4%で最も高く,次いで「訪問介護員」が 20.5%で,合わせると直 接介護にあたる介護職は 69.9%であった。7 職種の総人数は回答のあった事業所の全従業員数の73.8%
を占めている。
表 5 介護業界の雇用形態と就業者性別
7職種人数(人) 職種別割合 性別割合 雇用形態割合
2018年 男性 女性 正規職員 非正規職員
総数 201,251 100% 21.4% 78.5% 57.9% 42.0%
訪問介護員 41,158 20.5% 11.1% 88.9% 29.0% 71.0%
サービス提供責任者 6,322 3.1% 15.3% 84.7% 86.2% 13.8%
介護職員 99,431 49.4% 25.7% 74.1% 61.2% 38.7%
看護職員 25,762 12.8% 6.5% 93.5% 57.5% 42.3%
生活相談員 8,541 4.2% 38.4% 61.5% 86.9% 13.0%
PT・OT・ST等 8,023 4.0% 50.7% 48.9% 73.2% 26.4%
介護支援専門員 12,014 6.0% 23.9% 74.5% 83.7% 14.7%
2008年
総数 177,748 100% 15.7% 84.3% 44.9% 55.1%
訪問介護員 50,973 28.7% 4.5% 95.5% 9.6% 90.5%
サービス提供責任者 7,859 4.4% 9.2% 90.8% 65.6% 34.4%
介護職員 78,279 44.0% 22.3% 77.7% 54.0% 45.9%
看護職員 19,110 10.8% 5.2% 94.8% 57.7% 42.3%
生活相談員 6,877 3.9% 42.9% 57.1% 80.8% 19.2%
PT・OT・ST等 2,997 1.7% 46.3% 53.7% 68.3% 31.7%
介護支援専門員 11,653 6.6% 19.4% 80.6% 75.0% 25.0%
出所:(財)介護労働安定センター「平成30年度介護労働実態調査」「平成20年度介護労働実態調査」
注:無回答があるため,合計は100%にならない。2008年のデータについて性別不明と就業形態不明の値 を除外した。PT・OT・ST:PT(理学療法士),OT(作業療法士),ST(言語聴覚士)
7 職種就業者の性別を確認すると,全体では男性が21.4%,女性が78.5%であったが,正規職員(57.9%)
では男性が29.9%,女性が70.1%であり,男性の正規雇用率80.9%は女性の51.7%よりかなり高い。全国 の男性の正規雇用率は77.8%,女性は43.9%となっている。また,非正規職員(42.0%)について男性が 9.7%,女性が90.3%となっており,非正規雇用の大半が女性である。因みに,2018年の全国非正規雇用 のうち,男性は31.6%,女性は68.4%であって,介護サービスの非正規雇用に占める女性の比率は明ら かに高い。7 職種のうち,「訪問介護員」「介護職員」および「看護職員」について女性就業者が多く,「正 規職員」の比率が低く,「非正規職員」率が高いという特徴がある(表 5 )。2008年の同じ調査では,男 性が15.7%,女性が84.3%であった。景気動向やサンプル数などの要因もあるため,単純に比較できない
( )
( )
が,2008年の調査結果より性別割合や非正規雇用の比率が改善されているものの,依然として女性就業 者が中心であり,非正規雇用が多い業界といえる。
3.3 労働者雇用形態と婚姻および生計との関係
「平成30年度介護労働実態調査」において,有効回答のあった 22,183 人の労働実態に関して以下の情 報が確認された。被調査者の配偶関係をみると,全体では「既婚」が 57.6%,「未婚」が21.3%,「離死 別」が13.5%であった(表 6 )。主な職種別でみると,看護職員は67.1%で,訪問介護員は57.9%,介護 職員は53.5%が「既婚」で,他の職種に比べて高かった。雇用形態別でみると,「既婚」は正規職員が 53.1%,非正規職員が 68.0%となっている。
表 6 被調査労働者の結婚状況と生計維持者(%)
既婚 未婚 死離別 無回答
全体 57.6 21.3 13.5 7.6
男性 58.2 37.1 4.4 0.3
女性 63.1 19 17.5 0.4
正規職員 53.1 26.2 13.5 7.2
非正規職員 68 11.1 13 8
生計維持(本人) 36 32.1 31.4 0.4 生計維持(本人)以外 81.5 16.6 1.7 0.2 生計費は折半等 79.6 15.5 4.7 0.2 出所:(財)介護労働安定センター「平成30年度介護労働実態調査」。
同調査では,被調査対象の生計維持者に関して,男女合わせて生計維持者が「自分(本人)」を選択 した者は 38.9%,「自分(本人)以外」の被調査者は 40.8%,「生計費は折半等」が 12.8%であった。
また,生計維持者の結婚状況からは,生計維持者が「自分(本人)」を選択した被調査者の中で,既婚 者は36%であり,「自分(本人)以外」を選んだ調査者については既婚者が81.5%であった(表 6 )。 即ち,被調査者のうち,訪問介護員と介護職員に既婚者が多く,生計維持者は「自分(本人)以外」
が多い。この 2 職種については,女性就業者が中心であり,非正規雇用の比率が高いことがすでに確認 されている。これを考慮すると,介護業界では「既婚」で生計維持が「本人以外」の女性が多く就労し ていることが推測される。
要するに,介護サービスの需要は女性中心となっており,今後もこの構図は変わらない一方で,サー ビスの供給側も女性を中心としている。また,非正規雇用の比率が産業平均より高く,しかも非正規雇 用の 9 割が女性であり,さらにその中には既婚かつ生計維持が配偶者であるものが多い。つまり,主婦 のパート労働という側面が強く,家事などを考えると就労の地理的範囲が限られ,できるだけ通勤時間
100 101
-32-
( )
が短い勤務先や短時間労働に強い動機を持つと考えられる。次節では,このような就業構造が介護サー ビス業の賃金にどう影響するかを考える。
3.4 非正規雇用を選択する理由と収入
2018年の総務省統計局「労働力調査」のデータによると,女性労働者が非正規雇用を選ぶ理由につい ては「自分の都合のよい時間に働きたいから」とするものが427万人,30.9%でもっとも多く,2013年 以降,一貫して増え続けている(図 8 )。次いで「家計の補助・学費等を得たいから」とする者が312 万人,22.5%となっている。
さらに,2018年の同じ調査において,2018年の女性の非正規職員・従業員の年間収入は100万円未満 が全体の44.1%でもっとも多く,次の100~199万円39.1%と合わせて81.2%を占めている(図 9 )。こ の割合は2014年からほぼ変わらず,非正規雇用の多くは短時間労働と思われる。つまり,収入の多いさ よりも短時間で自分の都合のよい時間に働きたいときに,対人サービス業あるいは介護サービス業が一 つの選択肢となっている。因みに,2018年宿泊・飲食サービス業の就業者人数が25万人増(男性 6 万人,
女性19万人),医療・福祉が17万人の増加(男性2万人,女性15万人)となっている。
14 3.5 非正規雇用を選択する理由と収入
2018年の総務省統計局「労働力調査」のデータによると,女性労働者が非正規雇用を選ぶ 理由については「自分の都合のよい時間に働きたいから」とするものが 427 万人,30.9%で もっとも多く,2013年以降,一貫して増え続けている(図8)。次いで「家計の補助・学費等 を得たいから」とする者が312 万人,22.5%となっている。
図 8 女性労働者が非正規雇用を選ぶ主な理由人数の推移 出所:総務省統計局「労働力調査」。
さらに,2018年の同じ調査において,2018年の女性の非正規職員・従業員の年間収入 は100万円未満が全体の44.1%でもっとも多く,次の100~199万円39.1%と合わせて 81.2%を占めている(図9)。この割合は2014年からほぼ変わらず,非正規雇用の多くは 短時間労働と思われる。つまり,収入の多いさよりも短時間で自分の都合のよい時間に働 きたいときに,対人サービス業あるいは介護サービス業が一つの選択肢となっている。因 みに,2018年宿泊・飲食サービス業の就業者人数が25万人増(男性6万人,女性19万 人),医療・福祉が17万人の増加(男性2万人,女性15万人)となっている。
312
332
354 367
383
427
328
322
317
328 330
312 300
320 340 360 380 400 420 440
2013 2014 2015 2016 2017 2018年
自分の都合のよい時間に働きたいから(万人)
家計の補助・学費等を得たいから(万人)
図 8 女性労働者が非正規雇用を選ぶ主な理由人数の推移 出所:総務省統計局「労働力調査」。
102
( )
( )
3.5 女性非正規雇用の労働者供給と賃金抑制
総務省統計局「労働力調査」のデータによると,2018年の雇用者数は5,596万人,前年に比べ136万人 の増加となった。このうち正規の職員・従業員は3,476万人で,53万人の増加であり,非正規の職員・
従業員は2120万人,84万人の増加であった。後者について男女別にみると,男性の669万人,22万人の 増加に対して,女性は1,451万人,62万人の増加となった。
2018年の新規雇用者数は135万人,そのうち84万人が非正規雇用であり,女性が73.8%,45歳以上の 女性に限定すると53.6%となっている(表 7 )。育児が一段落した女性や定年退職した女性が労働市場 へ進出しており,特に,65歳以上の高齢女性の比重が増えている。
表 7 女性非正規雇用労働者の供給状況 合計
(万人)
男性
(万人)
女性
(万人)
女性非正規雇用年齢階級の増減(万人)
35~44 45~54 55~64 65歳以上 総数
2014 57 20 37 6 10 4 15 35
2015 19 5 15 -4 12 0 17 25
2016 37 15 23 -7 12 2 18 25
2017 13 -4 16 -9 11 10 9 21
2018 84 22 62 1 11 11 23 46
出所:総務省統計局「労働力調査」。
表 8 は(財)介護労働安定センター「介護労働実態調査」によるデータである。介護保険サービスの 女性従事者の年齢階級を見ると,40歳未満の女性労働者の割合が低下する一方,60歳以上が大幅な上昇 となっている。40~49歳と50~60歳の労働者比率は安定的に推移しているが,介護保険サービス全体
15
図 9 女性の非正規の職員・従業員の年間収入階級別人数割合(%)
出所:総務省統計局「労働力調査」。
3.6 女性非正規雇用の労働者供給と賃金抑制
総務省統計局「労働力調査」のデータによると,
2018
年の雇用者数は5,596
万人,前年 に比べ136
万人の増加となった。このうち正規の職員・従業員は3,476
万人で,53
万人の 増加であり,非正規の職員・従業員は2120
万人,84
万人の増加であった。後者について 男女別にみると,男性の669
万人,22
万人の増加に対して,女性は1,451
万人,62
万人 の増加となった。表 7 女性非正規雇用労働者の供給状況 合計
(
万人)
男性
(
万人)
女性
(
万人)
女性非正規雇用年齢階級の増減(万人)
35
~44 45
~54 55
~64 65
歳以上 総数2014 57 20 37 6 10 4 15 35
2015 19 5 15 -4 12 0 17 25
2016 37 15 23 -7 12 2 18 25
2017 13 -4 16 -9 11 10 9 21 2018 84 22 62 1 11 11 23 46
出所:総務省統計局「労働力調査」。
2018
年の新規雇用者数は135
万人,そのうち84
万人が非正規雇用であり,女性が73.8
%,45
歳以上の女性に限定すると53.6
%となっている(表7
)。育児が一段落した女性や定年 退職した女性が労働市場へ進出しており,特に,65
歳以上の高齢女性の比重が増えてい る。表
8
は(財)介護労働安定センター「介護労働実態調査」によるデータである。介護保 険サービスの女性従事者の年齢階級を見ると,40
歳未満の女性労働者の割合が低下する一方,60
歳以上が大幅な上昇となっている。40
~49
歳と50
~60
歳の労働者比率は安定的に推移45.2 44.0 43.8 43.4 43.0
38.1 38.7 38.5 37.9 38.2 83.3 82.7 82.4 81.2 81.2
20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0 80.0 90.0
2014 2015 2016 2017 2018
年100
万円未満100
~199
万円200
万円未満図 9 女性の非正規の職員・従業員の年間収入階級別人数割合(%)
出所:総務省統計局「労働力調査」。
102 103
-34-
の女性従事者が増えたため40歳以上の女性労働者も実数としては増えたはずである。非正規雇用のデー タは男性も含むため単純に比較できないが,介護サービス業では非正規雇用労働者の中に男性労働者が 約 1 割であることを考慮すると,40歳以上の女性非正規雇用労働者が増えていると推測できる。この結 果は表 7 の結論と合致している。
表 8 介護保険サービス労働者の年齢階級性別および就業形態 介護保険サービスの女性従事者(%)
総数(人) 40歳未満 40~49 50~60 60歳以上 無回答 平均年齢
2014 61,250 27.7 25.1 24.9 19.6 2.5 47.3
2015 63,807 26 25.1 24.8 21.3 2.7 47.9
2016 62,128 25.2 25.5 24.7 22.2 2.3 48.3
2017 61,109 24.1 24.8 25.5 23.4 2.1 48.9
2018 63,446 23.2 24.8 24.8 24.2 3 49.3
介護保険サービスの非正規雇用従事者(男女,%)
総数(人) 40歳未満 40~49 50~60 60歳以上 無回答 平均年齢
2014 33,029 21.7 23.2 23.2 29.1 2.8 50.3
2015 35,436 20 22.4 22.8 31.8 2.9 51.1
2016 35,799 19.6 22.5 22.3 33.2 2.5 51.5
2017 34,955 18.6 21.3 22.6 35.2 2.3 52.3
2018 34,758 17.6 21.3 21.5 36.5 3.1 52.7
出所:(財)介護労働安定センター「介護労働実態調査」各年版。
即ち,介護サービス業の就業構造は女性中心であり,非正規雇用率が高いという特徴が顕著で,生計 維持者が本人以外等の既婚の就業者が多いことを考慮すると,45歳以上の女性非正規労働者の供給増加 が介護サービス業賃金の上昇を抑制しているものと考えられる。しかし,総務省統計局のデータによれ ば,2018年現在30~54歳女性の労働力率は既に78%に達し,OECD平均を超え,「M字カーブ」がほぼ 解消され,65歳以上の女性の労働力率も17.6%になっている4。以上のことを勘案すると,45歳以上の 女性労働者の供給増がこれからも長く続くとは思えない。言い換えれば,女性労働供給の賃金弾力性を 低下させ,賃金を抑制する要因はいずれ解消されると考えられる。
4 総務省統計局統計トピックスNo.119「統計が語る平成のあゆみ」https://www.stat.go.jp/data/topics/
pdf/topi119.pdf