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少子高齢社会における最適な公的介護保険の規模

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少子高齢社会における最適な公的介護保険の規模

† 安 岡 匡 也‡ 概要  本稿は、少子高齢社会における最適な公的介護保険の規模を考察することを目的とする。具 体的には、現実の経済状況から求めたパラメータを用いて、数値計算を行い、若年世代と老年 世代に対する介護保険のための負担をどの程度に設定することが社会厚生の観点から望ましい のかを考察する。  分析の結果として、次のことが明らかになった。小国開放経済においては、現実的な経済に 基づいたパラメータの下では、老年世代に対する負担を増やして、若年世代に対する負担を減 らすことが社会厚生の観点から望ましいことが明らかとなった。閉鎖経済においても、老年世 代に対する負担の増加によって、社会厚生が増加する。さらに 1 人当たり資本蓄積が増えるの で、賃金所得を増やし、その効果を通じて社会厚生を増加させることが分かった。  以上より、現在の介護保険制度の世代間負担比率を見直すことは社会厚生の観点から妥当で あることが明らかとなった。 キーワード 公的介護保険 最適課税 小国開放経済 閉鎖経済 社会厚生 世代間負担比率 1. はじめに  日本の公的介護保険制度は 2000 年 4 月より施行された。制度をより簡単に説明すれば、保 険料を払うことによって、自己負担 1 割を除いて介護にかかる費用が介護保険から支払われる 制度である。1公的介護保険の財源は公的医療保険や公的年金と同様に保険料の他、税金が投 入されている。これらの公的保険制度は現物や現金といった違いはあるものの、本質的には所 得再分配の要素が大きい。2所得再分配のために税・保険料負担を課すことによって、課され 本稿は日本応用経済学会 2011 年度春季大会で報告を行い、森田圭亮講師(京都学園大学)、坂上智哉教授 (熊本学園大学)、中村保教授(神戸大学)、焼田党教授(名古屋市立大学)より有益なコメントを頂きました。 記して感謝致します。また、この論文は科学技術研究費補助金若手研究 B(課題番号:23730283)の補助 を受けて作成されたものです。なお、有り得べき誤謬は全て筆者の責に帰すものです。 ‡ 北九州市立大学経済学部 〒 802-8577 福岡県北九州市小倉南区北方 4-2-1 tel:093-964-4318 e-mail:yasuoka@ kitakyu-u.ac.jp 1 公的介護保険制度については安岡 (2011) あるいは厚生労働省 (2010) にて詳しい説明が行われている。 2 Miyazawa (2010) では、現物給付と現金給付のどちらが望ましいのかを社会厚生及び経済成長率の観点か ら考察しており、現物給付によるものの方が、社会厚生及び経済成長率の観点から望ましい事を明らか にした。

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た個人の効用は低下するものの、その財源のおかげで介護、医療といった現物または年金といっ た現金で受けられる違いに関わらず、給付として受けられる個人の効用は増加する。仮に社会 厚生がこれらの個人の効用の合計で定義するとすれば、最適な所得再分配の程度として最適な 税・保険料負担の大きさを導出することができる。これは最適課税問題としても考えることが できる。  Tabata (2005) や Mizushima (2009) では、消費だけでなく健康状態も含んだ個人の効用関数 を仮定し、介護財・サービスに対する補助金としての公的介護給付を考慮したモデルを考察し た。Tabata (2005) では介護保険のための税(保険料)負担によって、経済成長率が低下し、効 用については現在世代の効用を引き上げることができたとしても将来世代の効用を引き下げる ことを示している。Mizushima (2009) は、定常状態の社会厚生関数を最大化する税(保険料) 負担の大きさを導出している。3これらの研究は、最適な公的介護保険の規模について考察を 行ったもので、個人の効用水準や所得水準に介護保険がどのような影響を与えるのかを明らか にしている。4  また、別の観点から公的介護保険が存在した方が良いということを主張した研究も多く存在 する。Pauly (1990) は私的に運営された介護保険は成立しないために公的介護保険制度の必要 性を主張しており、Miyazawa, Moudoukoutas and Yagi (2000) は介護保険の存在によって健康 への投資が過少となるモラルハザードの問題が発生し効率性が損なわれるものの、公的に介護 保険を運営することによってその問題を改善することを示している。しかしながら、公的介 護保険制度でもモラルハザードによる非効率性の問題が存在することを Richter and Ritzberger (1995) が主張している。自己負担の存在しない公的介護保険制度の下では要介護状態にならな いために努力をするというインセンティブが損なわれ、その結果として必要となる介護費用が 公的介護保険制度の導入前に比べて増加するためである。介護保険制度によって、税・保険料 負担による可処分所得の低下により消費が減少し、国内総生産及び経済厚生を低下させること を吉田 (2001) は示している。逆に、公的介護保険によって、介護状態に陥ったとしても公的 介護保険からの給付のおかげで、将来の不測の事態に備えるための予備的貯蓄を行う必要がな いため、それを消費に配分することにより、国内総生産を引き上げることを、大守・田坂・宇野・ 一瀬 (1998) が主張した。田近・林 (1997) も同様に、介護保険によって予備的貯蓄がなくなり、 それにより消費が増えて、効用が増えることを示している。  将来の不確実性が貯蓄を増加させることを示した研究としては、Leland (1968)、Caballero (1991)、Liljas (1998)、Picone, Uribe and Wilson (1998)、Hemmi, Tabata and Futagami (2007) が 挙げられる。将来の不確実性による予備的貯蓄を減らすことにより現在の消費を引き上げ、そ れが個人の効用を増やす。介護保険のおかげで介護状態になった者だけ効用が上がるというこ とではなく、結果的に介護状態にならなかったとしても、もしもの時の備えをする必要がない 3 ある時点で生存している個人の効用を合計し、時間を通じて、資本ストックの水準が一定となる定常状 態のみを考慮している。 4 市場で購入する介護サービスと家庭で介護を提供することができるモデルで、介護サービスに対する最

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ので予備的貯蓄が減少し、消費を引き上げ、それが個人の効用を引き上げることになり、その 者の効用も引き上げる。このように各個人が個別に直面する介護リスクを社会全体でプールす ることにより社会厚生が引き上げられるといった効果をリスクプール効果という。Smith and Witter (2004) で、公的介護保険のリスクプール効果について、要介護者への富の移転によって リスクプール効果は保障されることを示した。  しかしながら、予備的貯蓄がなくなることにより、資本蓄積が少なくなり、生産能力の低下 から国内総生産が低下することが考えられる。あるいは、資本蓄積が少なくなることにより労 働生産性が低下し、賃金率が下がってしまい、所得が下がってしまうことが考えられる。その 結果として、この所得減少効果は消費を減少させることを通じて、個人の効用の低下により社 会厚生を低下させる。安岡・中村 (2012) では、この効果が大きいために、介護保険制度の導 入は導入当初の老年世代及び若年世代の効用を引き上げるが、後の将来世代については、資本 蓄積の減少による効用の低下がリスクプール効果による効用の上昇よりも大きいことを明らか にした。この結果は、動学的一般均衡で考えた上で公的介護保険制度の規模を考えなければな らないことを示している。5  本稿は、社会厚生を最大にする公的介護保険の規模を導出することを目的とする。具体的に は、要介護状態に陥った家計に対して、介護給付を行い、その財源を若年世代と老年世代から 税 ( 保険料 ) として徴収するが、その税(保険料)の最適な大きさを導出する。Mizushima (2009) でも行われているが、老年世代から税(保険料)を徴収していない。また、少子高齢社会では 人口成長率が低く、あるいはマイナスであり、また寿命は延びている。そういった変化が最適 な介護保険の規模にどのような影響を与えるのか、また、若年世代と老年世代の負担比率はど うあるべきかについては、これまでの介護保険の分析では考察されていない。これらの問題は 非常に重要であると考えられるため、是非取り組むべき課題と考える。  分析の結果は次の通りである。小国開放経済においては、現実的な経済パラメータの下では、 老年世代に対する負担を増やして、若年世代に対する負担を減らすことが社会厚生の観点から 望ましいことが明らかとなった。閉鎖経済においては、老年世代に対する負担の増加によって、 1 人当たり資本蓄積が増えるので、賃金所得を増やすことになる。従って、閉鎖経済の場合は、 この効果により厚生が増える。また、資本蓄積を通じた所得の上昇によって、追加的な税負担 の増加による追加的な効用の低下が小さくなるので、同時に若年世代に対する負担も増やした 方が社会厚生の観点から明らかとなった。以上の結果から、現在の介護保険制度の世代間負担 比率を見直すことは社会厚生の観点から妥当であることが明らかとなった。  本稿の構成は次の通りである。2 節はモデル設定の説明を行い、3 節では小国開放経済の場 合の最適な介護保険のための税 ( 保険料 ) 負担の大きさを求める。4 節では閉鎖経済の場合の 5 友田・青木・照井 (2004) は、まったく別の観点から、公的介護保険では全ての家計の効用を引き上げる ことは不可能であることを示した。彼らは、現在の日本の介護施設に対する超過需要市場を想定している。 公的介護保険では介護報酬が決められており、自由な価格設定ができないために市場の需給が調節する ような価格調整メカニズムが働かない。その場合、介護保険料の引き上げや自己負担の引き上げにより 超過需要を解消することができるが、その場合に全ての家計の効用を引き上げることが不可能であるこ とを示し、公的介護保険制度が社会厚生を引き上げる役割を果たさないことを明らかにした。

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最適な介護保険のための税 ( 保険料 ) 負担の大きさを求める。5 節はまとめである。 2. モデル設定  本稿におけるモデル経済には家計、企業、政府の 3 つの主体が存在する。 2.1 家計  各家計における個人は、若年期と老年期の 2 期間生存する。なお、若年世代の内、p の割合 が老年世代でも生存することができる。このとき、1–p の割合は老年期に生存することができ ず、若年期のみ生存して一生を終える。p は生存率であり、0<p<1 の範囲の値をとる。高齢社 会により、平均寿命が上昇している社会では p は上昇していると考えることができる。  また、人口成長率を n とする。すなわち、t 期における若年世代の人口を Nt、t–1 期におけ る若年世代の人口を Nt-1とすると、Nt=nNt-1である。n>1 の時は人口が増え続ける場合であり、 n<1 の時は人口が減り続ける場合である。2010 年の日本の合計特殊出生率は 1.39 であるので、 n<1 の場合が当てはまる。  個人の効用は、若年期の消費、老年期の消費、老年期における自分の健康状態、親の健康状 態によって決まる効用関数を仮定する。効用関数は次のような対数効用関数を仮定する。 (1 ) ( (1 ) ) ln ln ln ln ln ut=a c1t+ -a zti+pb c2 1t+ +p q nzf tg+1+ -q nztb+1 (1)  c1tは若年期の消費、c2t+1は老年期の消費である。α、β は 0 と 1 の間の値をとるパラメータ である。ztiは健康状態を示す。etを介護財(医療財)の消費とする。6i=g を健康状態の良い場 合、i=b を要介護状態の場合とする。このとき、ztiと etの関係は次の通りと仮定する。 ztg=et (2a) , 0 1 ztb=cet < <c (2b)  健康状態(z の大きさ)は、投入される介護財の大きさによって決まる。介護財の投入が同 じ下で、要介護状態(タイプ b)の場合は健康状態の良い場合に比べて、健康状態の大きさは 小さくなる。要介護状態の場合は、より多くの介護財を投入しなければ、健康状態の良い個人 の健康状態と同じ大きさにならない。  老年世代の内、q の割合は健康状態が良く、1–q の割合は要介護状態になると仮定する。各 個人の健康状態 ztiは、その子どもから投入される介護財の大きさによって決まる。各家計に おける子どもの数は n で、各子どもから等しく介護財の供給を受けると仮定する。この時、若 年期の個人は次の通り、3 つのタイプに分けられる。 ①健康状態の良い親を持つ ②要介護状態の親を持つ 6 本稿のモデル経済は 1 財モデルであり、最終財は消費財、投資財、介護財に使われる。Hashimoto and Tabata (2010) のように介護財・サービスは消費財とは異なる技術で生産されるという仮定もある。

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③親が既に死亡している  家計の予算制約式は、親の健康状態によって次の 3 つが考えられる。 健康状態の良い親を持つ場合の予算制約式 ct cR e w T RT t t t t t 1 1 2 1 1 1 2 + + = + + + - - (3a) 要介護状態の親を持つ場合の予算制約式 (1 ) ct cR e w T RT t t t t t t 1 1 2 1 1 1 2 + + i = + + + - - - (3b) 親が既に死亡している場合の予算制約式 ct cR w T RT t t t t 1 1 2 1 1 1 2 + = + + + - - (3c) 各個人は老年期の親に対して介護財 etを供給する。ただし、親が要介護状態の場合は、その 親に対する介護財を供給する個人に対して、介護保険を運営する政府より介護財の支出に対す る補助が与えられる。補助率は θt (0<θt<1) である。この補助率が大きいほど、要介護状態の親 に対する介護の補助が大きく、個人の負担はより軽くなる。その介護保険を運営するための財 源として、若年世代から T1を徴収し、老年世代から T2を徴収する。労働は若年期にのみ行い、 1 単位の時間を非弾力的に供給する。wtは賃金率である。また、Rt+1は貯蓄の利子率である。 なお、経済の利子率は 1+rt+1である。若年期の貯蓄を stとする。この時、若年世代の全ての者 が老年期にも生存する場合、老年期には、(1+rt+1)stを受け取ることができる。しかしながら、 実際は若年世代の内、p の割合だけが老年期に生存することができる。老年期に生存できなかっ た者の貯蓄元本及び利子は生存者の中で平等に分配されるような年金保険を考える。すなわち、 Rt+1= +1 prt+1 が成立する。  (1) と (3a) より健康状態の良い親を持つ場合の個人(タイプ g の個人)の最適配分は次の通 りである。 1 ct p wt T RT t 1 1 1 2 + ba = + - - a k (4a) 1 ct R pt p wt T RT t 2 1 1 1 1 2 + b b = + + + a - - k (4b) 1 etg 1 p wt T RT t 1 1 2 = + ba + - a - - k (4c)  (1) と (3b) より要介護状態の親を持つ場合の個人(タイプ b の個人)の最適配分は、タイプ g の個人と介護財に対する需要だけが異なり、etは次の通りである。 1 etb 11 1 p w T RT t t 1 t 1 2 = + i b a + - - a - - k (5)  (1) と (3c) より親が既に死亡している場合の個人(タイプ d の個人)の最適配分は、次の通 りである。

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1 ct p wt T RT t 1 1 1 2 + ba = + - - a k (6a) 1 ct R pt p wt T RT t 2 1 1 1 1 2 + b b = + + + a - - k (6b) 2.2 企業  企業は、資本 Ktと労働 Ntを用いて最終財 Ytを生産する。生産関数は次のようなコブダグ ラス型の生産関数を仮定する。 0 1 Y K N1 < < t= th th h (7) 完全競争市場においては、賃金率 wtと利子率 1+rtは次のように示される。 (1 ) wt= -h kth (8a) 1 r+ =ht kth-1 (8b) ただし、kt NK t t = であり、資本ストックは 1 期で完全に減耗するものとする。 2.3 政府  政府は若年世代から T1、老年世代から T2を徴収し、要介護状態の親を持つ個人に対して、 θtetの介護給付を与える介護保険制度を運営する。均衡財政で運営する場合、介護給付は次の 式を満たすように決まる。 (1 ) T N1 t+pT N2 t-1=pq e Nit tb t-1 (9)  ここで、T2=τT1とする (0≤τ)。τ は若年世代の負担に対して、老年世代がどの程度の負担の 大きさなのかの度合いを示すものである。τ が大きくなればなるほど、老年世代の負担の程度 が大きくなる。この時、(9) 式は次のようになる。 ( ) e pn1 pq T t tb= 1 + i x (10) この時、要介護状態の親を持つ場合の介護財の需要 (5) は、(10) を用いて次のように表すこと ができる。 ( ) etb 11 p wt pn 1 pq 11 p 1 R T t 1 1 = + + + + + b a x b a x + - - - - ` d jn (11) 3. 小国開放経済における最適な介護保険の規模 本節では、数値計算を用いて小国開放経済における最適な介護保険の規模を求める。具体的 には、最適な T1を求める。uiをタイプ i の効用水準とする時、社会厚生関数を次のように設 定する。

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( ) ( ) W pqu pt= tg+ 1-q utb+1-p utd (12)  t 期における t 期世代(t 期に若年世代)の個人の効用の合計である。以下では、(12) で示さ れる社会厚生関数を最大化する T1が最適な介護保険の規模と考える。 3.1 パラメータの設定  数値計算を用いて、(12) で示される社会厚生関数を最大化する T1を求めるが、その際に用 いるパラメータを次のように設定する。 α 0.91 1+r 1.348 β 0.299 w 0.368 ε 1 R 1.423 p 0.947 γ 0.75 q 0.84 n 0.7 η 0.3 表 1:パラメータ  α は、若年期の消費 c1tと介護保険がない場合の親に対する介護支出 etの支出比率が 0.1、す なわち若年期の消費支出に対する親への介護支出を 10% として α=0.91 とする。これは恣意的 な仮定なので、数値計算では α が大きくなった場合についても加えて考察している。β は割引 因子である。De la Croix and Doepke (2003) では、数値計算を行う際に同様に β を算出している。 四半期における割引因子は 0.99 であり、1 年で 0.96、世代重複モデルの 1 期間を 30 年とする と、0.99120=0.299 となる。ε は自分の老年期の健康状態に対する効用のウエイトを示すパラメー タであるが ε = 1 とする。これも恣意的な仮定であるので α と同様に ε の値を変えた数値計 算も行う。生存率については、小葉・三宅・安岡 (2012) で計算が行われており、それを用い る。彼らの論文では、厚生労働省の完全生命表を用いて、現在 20 歳の者が 35 年間生きるこ とができる確率が 0.947 である。本稿では、この結果を用いて p=0.947 とする。2010 年の日 本の高齢化率(総人口に占める 65 歳以上の人口が占める割合)は、23.1%である一方で要介 護者数は 469 万人(2009 年)である。7従って、老年世代人口に占める要介護者数の割合より q=0.84 とした。η は近年の日本の労働分配率が 0.7 であることから η=0.3 とする。利子率 1+r は近年の日本の長期金利(10年物国債)は1%程度である。30年複利計算で考えると1.0130=1.348 となる。この数字及び (8a) と (8b) を用いて賃金率を w=0.368 と設定する。小国開放経済では 世界利子率によって、国内利子率が決められ、その国内利子率を一定として扱う。ここでは世 界利子率の値を用いず、上記のように計算された国内利子率が一定の下で考察する。国内貯蓄 が変化したとしても国内利子率には何ら影響を与えないのが、小国開放経済の特徴であり、資 本蓄積を通じた効果を除いた結果が得られる。要介護者の健康状態に対して、介護財の供給が 7 高齢化率については内閣府 (2011)『子ども・子育て白書』、要介護者の人数については、厚生労働省 (2010) 『介護保険制度の概要』を参照。

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与える影響を示す係数 γ を γ=0.75 と設定するが、γ の大きさは最適な介護保険の規模には影響 を与えない。8従って、社会厚生関数の値を変化させることはあるが、最適な T1には影響を 与えないので、γ の大きさは本質的には問題にはならない。2010 年の日本の合計特殊出生率は 1.39 である。その半分として人口成長率 n=0.7 と設定する。 3.2 結果  表1のパラメータの下で数値計算を行い、最適な T1の大きさを導出したものを示したもの である。 標準なケース ε=0.75 のケース α=0.83 のケース τ T1 W T1 W T1 W 0.2 0.017 –4.975 0.014 –4.188 0.014 –4.656 0.5 0.015 –4.964 0.012 –4.180 0.012 –4.647 1 0.012 –4.952 0.010 –4.172 0.010 –4.637 表 2:小国開放経済における最適な T1  標準的なケースとは、表1で与えられるパラメータの下での数値計算を行った結果をしてい る。τ の大きさによって、すなわち、老年世代が多く負担するにつれて、最適な T1の大きさ は小さくなる。また、社会厚生 W の大きさはより大きくなる。すなわち、老年世代の負担を 増やしていくことによって、若年世代の負担を低下させることが社会厚生を最大化させる観点 から望ましく、社会厚生の水準自体も引き上げることが可能である。  標準的なケースでは α=0.91 としていたが、若年世代の消費支出に対して親への介護支出が 20%になる場合として α=0.83 の場合を考察した。この場合でも同様に、老年世代の負担を増 やせば増やすほど若年世代の負担を減らすことが最適となり、社会厚生を引き上げることが分 かった。  標準的なケースでは自分の健康状態に対する効用のウエイトを ε=1 と設定しているが、 ε=0.75 と自分の健康状態に対する効用のウエイトを変化させても、標準的なケースと本質的に は何ら変わりがないことが分かった。 p=1 のケース q=0.7 のケース n=1 のケース 1+r=1.811 のケース τ T1 W T1 W T1 W T1 W 0.2 0.017 –5.180 0.032 –4.153 0.018 –4.606 0.016 –5.144 0.5 0.015 –5.168 0.028 –4.135 0.016 –4.601 0.014 –5.129 1 0.012 –5.156 0.022 –4.117 0.012 –4.596 0.012 –5.112 表 3:小国開放経済における最適な T1 8 対数効用関数を仮定しているためである。

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 標準的なケースでは生存率を p=0.947 と設定しているが、生存率がより上昇した場合として、 生存率が p=1 のケースについて分析した。現在の日本では生存率が上昇しており、それが高 齢社会の要因となっている。そのような社会における最適な介護保険の規模のあり方を考える 上で参考になるものと思われる。標準的なケースと同様に、老年世代の負担を増加させた場合、 若年世代の負担を低下させた方が望ましく、また社会厚生を引き上げることが分かった。金 利が年率 2% に上昇した場合でも、標準的なケースと本質的には何ら変わらない結果が得られ た。9  注目すべきケースが 2 つある。1 つは、要介護状態に陥る確率が上昇した場合 q=0.7 のケー スである。標準的なケースに比べて、老年世代人口に対する要介護者に陥る割合が 2 倍に上昇 した場合である。この場合、介護保険の若年世代の負担 T1は標準的なケースのおよそ 2 倍に なる。老年世代の負担を増やすにつれて、若年世代の負担 T1は減少し、社会厚生は引き上げ られる。  この結果についてもう少し検討する。個人の効用関数は (1) で与えられるが、各個人は親へ の介護給付が効用を増やす関数となっている。一方で、自らの健康状態は、自らの子どもから 介護給付を得ることで効用が増加する。自らの選択で自分のための介護支出を増やし、効用を 増やすことができない。介護保険が存在した方が、社会厚生を高められるということは、この 子どもから親への介護給付という形の所得移転を行うことが社会厚生の観点から最適であり、 介護保険は必要であるということが分かる。要介護者が多くなる(q が低下する)場合、結果 的に社会全体で見て介護給付を受けられる者が増えるということであるが、これは、子から親 への介護給付に対する補助を受ける人が増えて、介護給付が増えることによる効用増加の効果 が大きくなることから、より介護保険の規模を大きくした方が良いと言える。  もう 1 つ注目すべきケースがあり、それは人口成長率が増えた場合である。数値計算では n=1、すなわち合計特殊出生率が 2 であり、ほぼ人口置換水準の場合を考えている。仮に日本 の子ども手当などの政策によって、出生率が引き上げられた場合を想定している。このケース でも、老年世代の負担を増やすことによって、若年世代の負担を減らすことが最適となる。 4. 閉鎖経済における最適な介護保険の規模  前節では小国開放経済モデルの下で最適な介護保険の規模を考察した。小国開放経済では、 国内貯蓄の変化が国内利子率や賃金率には何ら影響を与えない。しかしながら、介護保険の負 担の負担によって国内貯蓄が変化し、それが資本ストックを変化させ、利子率と賃金率の変化 を通じて所得を変化させる効果が存在すると考えることができる。その効果を考えた上で最適 な介護保険の規模を考察するのが本稿の目的である。 9 利子率が年率 2% の場合、30 年複利では (1+0.02)30=1.811 となる。

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4.1 資本の動学方程式  各タイプの貯蓄 stiは次の通りである。 タイプ g の貯蓄 stg wt T ct etg wt T 1 1p wt T RT t 1 1 1 1 1 2 = = + b + - - - - - a - - k (13a) タイプ b の貯蓄 sbt w T ct t 1 t etb w Tt 1 1p wt T RT t 1 1 1 1 1 2 = i = + b + - - - -

]

g

- - a - - k (13b) タイプ d の貯蓄 std wt T ct wt T p wt T RT t 1 1 1 1 1 2 = = + a b a + - - - - a - - k (13c) 従って、資本市場の均衡式は次の通りである。 τ k n pqs p q s p s n w T pp pp w T R 1 1 1 1 1 1 t tg tb td t t t 1 1 1 1 1 = + + = + + + b a b a + + - - - - - - - T

]

]

]

]

d a d

g

g g

g

n kn (14) 4.2 結果  小国開放経済での数値計算と同じパラメータの下で、定常状態(資本労働比率が時間を通じ て一定となる状態 kt=kt+1=k)における社会厚生関数 (12) が最大となる T1を求めた。閉鎖経済 では (14) を考慮している点が小国開放経済と異なる点である。結果は次の表の通りである。 標準的なケース ε=0.75 のケース α=0.83 のケース τ T1 W w R T1 W w R T1 W w R 0.2 0.015 –4.990 0.364 1.459 0.012 –4.199 0.365 1.452 0.011 –4.666 0.365 1.446 0.5 0.016 –4.960 0.369 1.414 0.013 –4.178 0.368 1.417 0.013 –4.642 0.369 1.411 1 0.019 –4.917 0.380 1.322 0.015 –4.149 0.377 1.345 0.016 –4.605 0.379 1.329 表 4:閉鎖経済における最適な T1 標準的なケースを見ると、老年世代の負担を増やすとともに、若年世代の負担 T1も増やした 方が望ましいことが分かる。若年世代の負担 T1を増やすと、(13) より、1人当たり資本ストッ ク k は低下する。しかし、老年世代の負担率 τ が増えれば資本ストックは増加する。老年世代 に介護保険の負担をするために若年期にその分貯蓄を増やすためである。標準的なケースが示 す通り、老年世代の負担を増やすことによって、1人当たり資本ストック k が増加し、賃金率 w は増加し、利子率 R は減少している。  ε=0.75 及び α=0.83 のケースも同様に老年世代の負担を増やすことによって、1 人当たり資 本ストックが増加している。これら 3 つのケースは小国開放経済と異なり、最適な若年世代へ の負担 T1が低下することはない。これは、老年世代の負担を増やすことによって、資本蓄積 が増え、賃金所得が増えることによって、税負担を増やすことの限界損失が減少するので、よ

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り多くの税負担をしたとしてもそれほど大きな効用の損失にならないためと考えられる。 p=1 なケース q=0.7 のケース n=1 のケース τ T1 W w R T1 W w R T1 W w R 0.2 0.015 –5.172 0.370 1.329 0.026 –4.177 0.361 1.486 0.013 –4.834 0.311 2.099 0.5 0.017 –5.140 0.375 1.285 0.030 –4.127 0.370 1.400 0.013 –4.815 0.314 2.053 1 0.019 –5.095 0.387 1.195 0.037 –4.054 0.394 1.210 0.013 –4.790 0.319 1.979 表 5:閉鎖経済における最適な T1  p=1 及び q=0.7 のケースを見ると、老年世代に対する負担を高めていけばいくほど、若年世 代への負担 T1を高めていった方が社会厚生の観点から望ましいことが数値計算の結果として 明らかになった。老年世代に対する負担を高めることによって、老年期の負担に備えて、貯蓄 を多く行うために、資本蓄積が進み、所得が増加する。その結果、負担を増やすことの追加的 な厚生の損失が少なくなるために、より多くの介護給付を行うために負担を多く行うことが最 適であるという結果がここでも得られている。  n=1 のケースは、小国開放経済の場合と異なり、老年世代に対する負担を増やしたとしても 若年世代に対する負担 T1は変化が見られないことが分かる。 5. まとめ  本稿は、若年世代と老年世代に財源を負担させる介護保険給付のあり方を小国開放経済と閉 鎖経済の下で考察を行った。具体的には、数値計算を用いて、様々なパラメータの下で、社会 厚生を最大化させる介護保険の規模を導出した。  小国開放経済では、現在の出生率の下では、老年世代に対する負担を増やすことによって、 若年世代に対する最適な介護保険の負担は減少し、さらに、社会厚生自体も高められることが 明らかとなった。  閉鎖経済の場合は、介護保険の負担が貯蓄の変化を通じて所得を変化させることを考慮した 上で、最適な介護保険の規模、言い換えれば介護保険の負担を考えなければならない。若年世 代に対する負担は貯蓄を減らす一方で、老年世代に対する負担は貯蓄を増やす。従って、老年 世代に対する負担を増やすことによって、資本蓄積が増えそれが効用を増やすので老年世代へ の負担を増やした方が良いという結論が出やすいことが分かった。また、資本蓄積が増えるお かげで個人の所得が増え、追加的な税負担の増加による追加的な効用の低下が小さくなるので、 若年世代に対する税負担も増やした方が社会厚生の観点から最適となることも分かった。  日本の介護保険制度の財源調達を見ると、税負担は 5 割で保険料負担は 5 割である。65 歳 以上の老年世代が負担する保険料負担の割合は全体の 2 割である。消費税や所得税による老年 世代の負担も考えられるが、老年世代の負担割合は若年世代の負担の程度に比べては小さい。 本稿で得られた結果では、現行の経済を想定したパラメータの下での数値計算では老年世代に 対する負担を高めていくことが社会厚生を高めることが分かった。従って、世代間負担の割合 を見直すことは社会厚生の観点から必要であることが分かる。閉鎖経済の下では、老年世代の 負担を高めれば、1 人当たり資本蓄積を高めることが分かった。今後の日本経済では貯蓄率が

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低下すると言われている。この時、老年世代に対する負担を増やすことによって資本蓄積を増 やすことが可能であるので、貯蓄率を維持したいと考えているのであれば、やはり世代間負担 の割合を考えることは必要ではないかと考える。

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