エンタングルメントを使わない 量子テレポーテーション
福井大学 工学部 物理工学科
03380340
出口 智美2007
年2
月目 次
第
1
章 量子情報2
1.1
量子情報. . . . 2
1.2
量子ビット−qubit− . . . . 3
1.3
量子エンタングルメント−Quantum entanglement− . . . . 3
1.4
量子テレポーテーション−Quantum teleportation− . . . . 4
1.5
本研究の目的. . . . 5
第
2
章qubit 6 2.1
正規直交基底. . . . 6
2.2
射影測定. . . . 6
2.3 Bloch
球. . . . 7
第
3
章 エンタングル状態を使わない 量子テレポーテーション8 3.1 1 qubit
の場合. . . . 8
第
4
章 複数のqubit 10 4.1
2つ. . . . 10
4.2
3つ. . . . 12
4.3
4つ. . . . 13
第
5
章 結論17 5.1
本研究のまとめ. . . . 17
参考文献
19
謝辞
20
付 録
A qubit
状態の内積21
付 録
B Bloch
球上で平均した各成分の平均22
第 1 章 量子情報
1.1
量子情報私たちが普段接する物理的な現象
(物体の落下など)
は古典力学で説明される。20
世紀に入り、とても小さいスケールのもの(分子、原子、素粒子など)
を扱うことができるよう になった。そのようなミクロの世界は、私たちが普段経験する古典力学的現象からは想像できないよ うな性質を持ち、古典力学とは違った物理法則で成立することが分かった。それが量子力学である。量子力学において対象は波動関数で書け、数々の不思議な性質を示すようになるが、 今日では、量 子力学で説明できる古典力学的直感とは異なった性質を、単にミクロな世界の理論とするのではな く、人間が行う情報処理に積極的に利用しようとする試みがなされている。それが量子情報と呼ばれ る分野である
[1][2][3]。
現在の古典的情報は”bit”と呼ばれる0か1かいずれかの状態をとるのが基本概念である。量子情 報の場合、最も簡単な量子系の状態を”qubit(量子ビット)”と呼び,0と1を同時に含むような「重 ね合わせ状態」をとる。また,複数の
qubit
の量子系では「量子エンタングルメント」と呼ぶ状態が 存在する。特に量子エンタングルメントは量子力学の重要な資源であり、エネルギー、情報、エント ロピーなどの基礎資源と比肩する重要性を持つ。すなわち、自然界の基本資源であると考えられる。これら量子的理論を応用することで、量子情報技術には、例えば、超並列計算を可能にする量子コ ンピュータや、絶対の盗聴不可能な量子暗号などがある。
従来の計算機は
1bit
につき、0か1
の値しか持たない。しかし、量子コンピュータではqubit
に より、1bitにつき0か1の値だけでなく、0と1の重ね合わせた状態を持つことが可能である。このqubit
を複数利用することで、量子コンピュータは従来の計算機では実現し得ない並列性を実現している。また、量子暗号は送信者と受信者の2人の観測者が秘密鍵を前もって共有するために用いる ものである。この分野では送信者を
Alice、受信者を Bob、盗聴者を Eve
と呼ぶのが一般的である。古典力学では対象を観測しても状態を変化させることなく観測できるが、量子力学では観測により、
その状態を壊してしまう。つまり、Eve(盗聴者)の介入が明瞭である。そのときはこの秘密鍵を放棄 して、再度秘密鍵配送を試みればよいのである。また、遠隔地にいる2人の観測者に古典的な情報 を転送することで、qubitの状態を転送することができる量子テレポーテーションなどがある。テレ ポーテーションとは
qubit
が別の場所に瞬間移動するという意味ではなく、エンタングルメントの状態にある
2
つのqubit
のうち一方の状態を観測すると瞬時にもう一方の状態が確定することが由来である。量子テレポーテーションは、受信者と送信者が、エンタングルしている
qubit
対を共有し、古典的通信
(電話等)
が可能な環境であれば、受信者は送信者が持っていたqubit
の状態を忠実に再 生できる。量子テレポーテーションは、最近注目され始めた技術であり、10年程まえに初めて実験 の成功が発表された。ゆえに、量子テレポーテーションにおける興味深い未解決問題や学ばなければ ならない要素はたくさんあり、これから解明して行かなくてはならない。そこで、エンタングルメントを使わない状況では量子テレポーテーションは成り立たないのか、と 考えた。qubitの状態とは非常に壊れやすいものであり、さらに、エンタングルメント状態にある
qubit
対を2人の観測者が共有することは容易ではない。今回はエンタングルメントを使わない場合、送信者が送りたい
qubit
を、受信者がいかに忠実に再生できるかを、忠実度を用いて議論する。1.2
量子ビット−qubit−
qubit
とは、量子状態の最も簡単な系であり、qubitはスピンを使って説明できる。qubitの2つの状態を
| 0 i、| 1 i
と表そう。上向きのスピンを| 0 i、下向きのスピンを | 1 i
と表すと、斜め向きのスピ ンが存在するように、qubitは| 0 i、| 1 i
の状態だけでなく、次の「重ね合わせの状態」が存在する。| ψ i = α| 0 i + β | 1 i (1.1)
ここで
α
とβ
は複素数であるが、多くの場合、実数の考えることができる。この重ね合わせの状 態を測定すると、結果1は|α|
2の確率で、結果0は|β|
2の確率で得ることがでる。全確率の和は1 なので、|α|
2+ |β |
2= 1 (1.2)
となることは明らかである。また、これは
qubit
の状態が長さ1に正規化される条件でもある。した がって、一般にqubit
の状態は2次元複素ベクトル空間の単位ベクトルを表している。重ね合わせ状態の
qubit
は測定後その状態は壊れ、|0 i、と | 1 i
の重ね合わせの状態から測定結果 に対応した、特定の状態に収縮する。式(1.1)
の状態を測定した結果が0であれば測定後のqubit
の 状態は| 0 i
となり、結果が1であれば測定後のqubit
の状態は| 1 i
となる。このような振る舞いは量子力学の基本公理
(fundamental postulate)
の1つであり、なぜこのよう な収縮が起こるのかは誰も知らない[4]。さらに、1回の測定では qubit
の情報は1bit
しか得られな い。つまり無限に多くの同等のqubit
を測定すると式(1.1)
で与えられるα
とβ
を決定することがで きる。1.3
量子エンタングルメント−Quantum entanglement−
qubit
の2つの状態を| 0 i、| 1 i
と表したとする。エンタングルメント状態である2つのqubit
があ る場合を考えたとき、1つ目のqubit
の状態が| 0 i、2つ目の qubit
の状態が| 1 i
にあるとき、全系 の状態は| 01 i
と表される。したがって、|0 i
と| 1 i
の2つのqubit
の量子系は| 00 i、| 01 i、| 10 i、
| 11 i
の4つの状態を持ち、さらにこれら4つの状態を重ね合わせた状態、| φ i = α
00| 00 i + α
01| 01 i + α
10| 10 i + α
11| 11 i (1.3)
も存在する。この場合の規格化条件は、|α
00|
2+ |α
01|
2+ |α
10|
2+ |α
11|
2= 1 (1.4)
である。重ね合わせの状態の
qubit
を2つ用いた場合、2つの測定結果が絡み合っているという重要な状 態がある。このような状態をエンタングルした状態(EPR pair)
という[1]。ここで、EPR
とは、A.Einstein、B.Podolsky、N.Rosen
の3人の頭文字を取ったものであり、3人の思考実験をEPR
実 験と呼んだことに由来する。ここで、つぎの重ね合わせの状態を考えてみる。
| φ i = 1
√ 2 (| 00 i + | 11 i) (1.5)
式
(1.5)
の状態は、それぞれ確率 12で| 00 i
と| 11 i
が測定できることを表している。この2つのqubit
の片方ずつをAlice
とBob
に持たせた場合、Aliceが1つ目のqubit
を測定し結果が1ならば、Bob
が2つ目のqubit
を測定すると結果は必ず1となる。また、Aliceの1つ目のqubit
の測定結果 が0ならば、Bobが2つ目のqubit
を測定すると必ず0となる。つまり、2つのqubit
がエンタング ルした状態ならば、片方のqubit
を測定するともう片方のqubit
の状態が瞬時に決まる。エンタングルしている2つの
qubit
の間に相互作用は存在しない。つまり、エンタングルしたqubit
対がはるか離れたところに存在しても測定は成立するのである。1.4
量子テレポーテーション−Quantum teleportation−
量子テレポーテーションは
C.H.Bennett、 G.Brassard、 C.Cr´ epeau、 R.Jozsa、 A.Peres、 W.Wooters
らにより発見された[7]。
Alice(送信者)
とBob(受信者)
という2人の観測者が離れて暮らしていたとしよう。Alice
は1つの 重ね合わせの状態のqubit| ● i
を持っており、いま| ● i
を遠く離れたBob
に送りたかったとする。2人の間の通信手段は古典的通信手段
(電話等)
だけであり、|● i
そのものを送ることは物理的に不 可能であるとしよう。Alice
とBob
が前もって2つのエンタングルした| Φ i
のqubit
対の片方ずつを共有していたとす ると、Aliceは自分の持っている| Φ i
のqubit
と| ● i
にある測定をし、その結果を電話でBob
に伝 える。Bobは電話の内容に応じ自分の持っている| Φ i
のqubit
に適当な操作をすることで、|● i
を100
%忠実に再生することができる。Alice
BobEntanglement
図1 エンタングルメント状態での量子テレポーテーション
量子テレポーテーションでは、Aliceと
Bob
は前もって、エンタングルした状態| Φ i
を共有してい たとすると、Aliceは2bit
の古典情報をBob
に送るだけで状態| ● i
をBob
に送ることができる。すなわち、この場合に忠実度は1となる。忠実度は、Aliceの送るべき状態
| ● i
と、Bobの再生し た状態| ◯ i
の内積の絶対値2乗で定義される。いまの場合の忠実度は、|h ● | ◯ i|
2= 1 (1.6)
となる。
さらに量子テレポーテーションでは、Aliceは状態
| ● i
について全く知らなくてもよいのである。また、重ね合わせの状態の
qubit
は測定するとその状態が壊れてしまう。つまりAlice
が測定した時 点で状態| ● i
は壊れる。1.5
本研究の目的量子テレポーテーションは、送りたい状態そのものを送るのではないので実体が盗まれることは なく、また測定すると状態は壊れてしまうので、安全な通信手段だといえる。
エンタングルメントしている量子テレポーテーションでは、観測者が離れたところにいてもエン タングルしている
qubit
対を共有していると、送りたい状態を2bit
の情報を送るだけで、100%忠 実に得ることができる。しかし、qubitは状態が壊れやすく、さらにエンタングルしているqubit
対 を共有することは容易ではない。また、qubitを測定すると、結果には測定誤差が生じてしまう。そこでエンタングルメントの状態を共有していない場合、いかに忠実に状態
| ● i
をつくることが できるか議論することが本研究の目的である。•
2人がエンタングルしているqubit
を共有していない環境で、送りたい
qubit| ● i
の状態はどれくらい忠実に送ることができるのか。•
送りたいqubit| ● i
が、1つ、2つ、3つ· · ·
と複数与えられたときの、忠実度
< F >
はどのように変化するのか。ただし、Aliceと
Bob
の間では、電話等の古典的な通信手段が使えるものとする。Alice
Bob?
図2 エンタングルメント状態でない場合の量子テレポーテーション
第 2 章 qubit
2.1
正規直交基底qubit
状態は2次元複素ベクトル空間のベクトルであり、状態| 0 i
と状態| 1 i
のような特定の状態 は、このベクトル空間の正規直交基底を構成する。いま、下式のような2つのqubit
の状態があった としよう。2つの状態をそれぞれ次のように内積を定義する。| φ
ni = α
n| 0 i + β
n| 1 i (2.1)
| φ
mi = α
m| 0 i + β
m| 1 i (2.2)
( h φ
n| φ
mi = 0
h φ
m| φ
ni = 0 (2.3)
( h φ
n| φ
ni = 1
h φ
m| φ
mi = 1 (2.4)
式
(2.3)
が成立するとき| φ
ni
と| φ
mi
は直交しているといい、式(2.4)
が成立するとき| φ
ni
と| φ
mi
は規格化されているという。つまり| φ
ni
は常に次式が成立する。h φ
n| φ
mi = δ
nm(2.5)
また、式
(2.5)
を満たす| φ
ni
の集合{| φ
ni}
は正規直交系と呼ばれる[4][5]。
2.2
射影測定ここでは、量子力学での射影測定について議論する。次のような
d
次元空間の量子系の状態があ るとする。| φ i = α
1| φ
1i + α
2| φ
2i + · · · + α
d| φ
di (2.6) {| φ
ki}
が正規直交基底の場合、測定結果が| φ
ki
である確率|α
k|
2は、|α
k|
2= |h φ
k| φ i|
2(2.7)
となり、測定後の量子系の状態は
| φ
ki
となる。2.3 Bloch
球式
(1.1)
で与えられる規格化されたqubit
の状態は次のように書き換えることができる。| ψ i = cos θ
2 | 0 i + e
iφsin θ
2 | 1 i (2.8)
(0 ≤ θ ≤ π , 0 ≤ φ ≤ 2π) (2.9)
θ
とφ
は図のような3次元単位球上の点を定義する。この球をBloch
球と呼び、Bloch球を利用する ことで、単一qubit
の状態を視覚化できるようになる。さらに、単一qubit
の多くの操作はBloch
球 上で定義される。Bloch
球上を指すベクトルをBloch
ベクトル− → n
という。Blochベクトル− → n
に対応するqubit
の状 態が| − → n i
と表されるので、すなわち、| ψ i = | − → n i (2.10)
と表すことができる。
|0>
|1> Bloch sphere
y z
x
|n>
|-n>
図3
Bloch
球図3で分かるように
| 0 i
と| 1 i
は直交しているので、|0 i
と| 1 i
の内積h 0 | 1 i
はh 0 | 1 i = 0 (2.11)
となる。同様に、| −
→ n i
と| − − → n i
も直交していることがわかる。先に
qubit
は重ね合わせの状態をとることができると述べたように、多くの単一qubit
の状態はこの
Bloch
球上のどの状態もとることができるので、これから扱うqubit
もBloch
球を用いることとし、Aliceが送りたい
qubit| ● i
の状態を、| ● i = | − → n i (2.12)
と表して、議論する。
第 3 章 エンタングル状態を使わない 量子テレポーテーション
本研究ではエンタングルメント状態を使わない場合の量子テレポーテーションについて議論する。
まず、ここでは送りたい
qubit | − → n i
の状態が1つ与えられた場合について考察する。| − → n i = cos θ
2 | 0 i + e
iφsin θ
2 | 1 i (3.1)
3.1 1 qubit
の場合Alice
の測定Alice
は与えられた| − → n i
に対し、正規直交基底{| − → m i, | − − → m i}
で測定するとしよう。すなわち
| − → m i
と| −− → m i
を区別する測定をする。|m>
|-m>
z
x y
|n>
図4 1qubitの測定
測定結果が
| − → m i
である確率をP
+とし、| − − → m i
である確率とP
−とすると、P+とP
−は次のよ うに与えられる。P
+= |h − → m | − → n i|
2= 1
2 (1 + − → m · − → n ) (3.2)
P
−= |h −− → m | − → n i|
2= 1
2 (1 − − → m · − → n ) (3.3)
ここで、qubit状態の内積に関する公式
(A.8)
を用いた。次に、Aliceは
Bob
に測定結果を古典的情報(電話など)
として伝える。この場合、結果が| − → m i
な ら’+’、| − −→ m i
なら’ー’と伝えると前もって約束しておく必要がある。Bob
の操作Bob
は、Aliceから伝えられた古典的情報(+またはー)
に応じて状態| − → m i
または状態| − − → m i
にあ るqubit
を準備するとする。すると、Aliceの測定結果が’+’であるときの忠実度F
+、’ー’である ときの忠実度F
−は以下のようになる。F
+= |h − → n | − → m i|
2= 1
2 (1 + − → n · − → m) (3.4)
F
−= |h − → n | −−→ −m i|
2= 1
2 (1 − − → n · − → m) (3.5)
したがって、平均の忠実度
F
は式(3.2),(3.3),(3.4),(3.5)
を使って、F = P
mF
m+ P
−mF
−m= |h − → n | − → m i|
4+ |h − → n | − − → m i|
4= 1
2 {1 + ( − → m · − → n )
2} (3.6)
のようになることが分かる。上の忠実度
F
はある与えられた状態| − → n i
に関するものである。しかし、| −
→ n i
はBloch
球上のどの点もとることができるので、ここでは、| − → n i
がBloch
球上で一 様に分布していると仮定してBloch
球上で平均した忠実度<F
>を求める。式(3.6)
に式(B.6)
を利 用すれば、< F >は次のように求められる。< F > = R
02π
R
0π
F(θ, φ) sin θdθdφ R
02π
R
0π
sin θdθdφ
= < 1
2 {1 + ( − → m · − → n )
2} >
= 1
2 (1 + m
2x< n
2x> +m
2y< n
2y> +m
2z< n
2z>
+2m
xm
y< n
xn
y> +2m
xm
z< n
xn
z> +2m
ym
z< n
yn
z>)
= 1 2 {1 + 1
3 (m
2x+ m
2y+ m
2z)}
= 2
3 (3.7)
このように、Bloch球上に一様に分布する
qubit | − → n i
が1つ与えられた場合は、Aliceが送りたい 状態| − → n i
を、Bobが状態| − → n i
を再現する忠実度は 23となることが分かる。また忠実度は
Alice
の用いる測定のための基底{| − → m i, | − − → m i}
によらない。第 4 章 複数の qubit
ここでは、送りたい
qubit | − → n i
の状態が複数与えられた場合について、忠実度<F
>の変化を議 論する。この場合も1つのqubit | − → n i
が与えられときと同様に、Aliceは正規直交基底において測定 すると考える。4.1
2つAlice
の測定1つ目の
| − → n i
に対し、| −→m
1i
または| − −→ m
1i
を区別する測定をする。2つ目の
| − → n i
に対し、| −→m
2i
または| − −→ m
2i
を区別する測定をする。つまり、測定結果は、| −→
m
1i| −→ m
2i、| − −→ m
1i| −→ m
2i、| −→ m
1i| − −→ m
2i、
| − −→ m
1i| − −→ m
2i
の4通りあると分かる。z
x y
|m >
|-m >
|-m >
|m >
|n>
図5 2qubitでの測定 測定結果が
| −→ m
1i| −→ m
2i
である確率をP
++とし、| − −→ m
1i| −→ m
2i
である確率をP
−+とし、| −→ m
1i| − −→ m
2i
である確率をP
+−、| − −→m
1i| − −→ m
2i
である確率をP
−−とする。確率P
++、P−+、P
+−、P−−をまとめて、’+’または’ー’を文字st
と書き換え確率P
stとした場合、確率P
stは、P
st= |h − → n | s −→ m
1i|
2|h − → n | t −→ m
2i|
2= 1
4 (1 + s −→ m
1· − → n )(1 + t −→ m
2· − → n ) (4.1)
となる。送りたいqubit| − → n i
の状態を2つ与えられたとき、測定結果は4通りあることから、送る古 典的情報は2bit
である。Bob
の測定Bob
は、Aliceから伝えられた古典的情報に応じて、あるqubit
を準備するとする。いま、− → n
st( − → n
++or − → n
+−or − → n
−+or − → n
−−)
を準備すると仮定して、− → n
stの場合の忠実度F
stを求めると、以下のよ うになる。F
st= |h − → n | − → n
sti|
2= 1
2 (1 + − → n · − → n
st) (4.2)
平均の忠実度
F
は、式(4.1)、(4.2)
を使って、F = P
++F
+++ P
−+F
−++ P
+−F
+−+ P
−−F
−−= X
±st
P
stF
st(4.3)
となることが分かる。
| − → n i
がBloch
球上で一様に分布していると仮定して、Bloch球上で平均した忠実度< F >
を求め る。式(4.3)
に式(B.7)、式 (B.9)
を利用すると、< F >は、< F > = 1 8
X
±st
< (1 + s −→ m
1· − → n )(1 + t −→ m
2· − → n )(1 + − → n
st· − → n ) >
= 1 2 + 1
24 X
±st
{−→ n
st· (s −→ m
1+ t −→ m
2)} (4.4)
となり、| −→ n i
はBloch
球上で一様に分布していると仮定しているので、− → n
stは単位ベクトルである ことが分かる。よって、式(4.4)
に次の不等式−
→ n · − → a ≤ |− → a | (4.5)
( − → n :単位ベクトル)
を利用すると< F >
は、< F > ≤ 1 2 + 1
24 X
±st
|s −→ m
1+ t −→ m
2| (4.6)
= 1 2 +
√ 2 24
X
±st
p 1 + st −→ m
1· −→ m
2(4.7)
となり、さらに、式
(4.6)
に次の不等式を利用すると、√ 1 + x ≤ 1
2 x + 1 (4.8)
となる。よって、< F >は、
< F > ≤ 1 2 +
√ 2 24
X
±st
(1 + 1
2 st −→ m
1· −→ m
2) (4.9)
= 1 2 +
√ 2
6 (4.10)
と求められる。
いま、忠実度
< F >
が最大値をとる場合は、式(4.6)、(4.9)
が最大になる場合を求めればよいの で、不等式(4.6)
が等号で成立する場合は、−→ n
st= s −→ m
1+ t −→ m
2|s −→ m
1+ t −→ m
2| (4.11)
となり、不等式
(4.9)
が最大になる場合は、−→ m
1· −→ m
2= 0 (4.12)
と求められる。
qubit | − → n i
を2
つ与えられた場合式
(4.10)
より、Aliceが−→ m
1と−→ m
2を直交するように測定し、Bob
が、Aliceから伝えられた古典的情報に応じ、−→ n
stを式(4.9)
のように準備すると最大になる。このときの忠実度
< F >
は最大で12+
√62をとる。z
y x
|m >
|m >
図6 < F >が最大になる場合の測定
4.2
3つここでは、qubit| −
→ n i
が3つ与えられた場合について先ほどと同様な計算方法を用いて議論する。Alice
は3つの与えられた| − → n i
に対して、1つ目の| − → n i
に対し、| −→m
1i
または| − −→ m
1i
を区別す る測定をする。2つ目の| − → n i
に対し、| −→m
2i
または| − −→ m
2i
を区別する測定をし、3つ目の| − → n i
に 対し、| −→m
3i
または| − −→ m
3i
を区別する測定をする。つまり、測定結果は8通り存在し、それぞれの場合の確率を
P
stuと総称したとすると、確率P
stuは、
P
stu= |h − → n | s −→ m
1i|
2|h − → n | t −→ m
1i|
2|h − → n | u −→ m
1i|
2= 1
8 (1 + s −→ m
1· − → n )(1 + t −→ m
2· − → n )(1 + u −→ m
3· − → n ) (4.13)
と求められる。この場合、測定結果が8通り存在するので送る古典的情報は3
bit
である。Bob
は、Alice
から伝えられた古典的情報に応じて、あるqubit
を準備するとする。いま、− → n
stuを 準備すると仮定して、その場合の忠実度F
stuを求めると以下のようになる。F
stu= |h − → n | − → n
stui|
2= 1
2 (1 + − → n · − → n
stu) (4.14)
式
(4.13)、(4.14)
を利用し平均の忠実度F
を求めると、F =
X
±stu
P
stuF
stu(4.15)
となる。
式
(4.15)
に、先と同様に、不等式(4.5)、不等式 (4.8)
を用いてBloch
球上で平均した忠実度< F >
を求める。
< F > = <
X
±stu
P
stuF
stu>
= 1
16 X
±stu
< (1 + s −→ m
1· − → n )(1 + t −→ m
2· − → n )
(1 + u −→ m
3· − → n )(1 + − → n · − → n
stu) >
= 1 2 + 1
48 X
±stu
{− → n
stu· (s −→ m
1+ t −→ m
2+ u −→ m
3)}
+ 1
5 stu{−→ m
1· ( −→ m
2· −→ m
3) + −→ m
2· ( −→ m
1· −→ m
3) + −→ m
3· ( −→ m
1· −→ m
2))}
(4.16)
≤ 1 2 + 1
48 X
±stu
|(s −→ m
1+ t −→ m
2+ u −→ m
3)
+ 1
5 stu{−→ m
1· ( −→ m
2· −→ m
3) + −→ m
2· ( −→ m
1· −→ m
3) + −→ m
3· ( −→ m
1· −→ m
2)}|
(4.17)
ここで、式(B.8)、式 (B.10)
を利用した。さらに、
−→ m
1· −→ m
2= X
3, −→ m
1· −→ m
3= X
2, −→ m
2· −→ m
3= X
1とおくと、式(4.17)
から忠実度< F >
は、
< F > ≤ 1 2 +
√ 3
24 · {4 + 2
5 (X
1+ X
2+ X
3) + 2
5 (−X
1+ X
2− X
3) + 2
5 (−X
1− X
2+ X
3) + 2
5 (X
1− X
2− X
3)} (4.18)
= 1 2 +
√ 3
6 (4.19)
と求められる。
ここで、忠実度
< F >
を最大値を得るために、不等式(4.17)、(4.18)
で等号が成立する場合を求 める。不等式(4.17)
が等号で成立する場合は、−
→ n
stu= (s −→ m
1+ t −→ m
2+ u −→ m
3) +
15stu{−→ m
1· ( −→ m
2· −→ m
3) + −→ m
2· ( −→ m
1· −→ m
3) + −→ m
3· ( −→ m
1· −→ m
2)}
|(s −→ m
1+ t −→ m
2+ u −→ m
3) +
15stu{−→ m
1· ( −→ m
2· −→ m
3) + −→ m
2· ( −→ m
1· −→ m
3) + −→ m
3· ( −→ m
1· −→ m
2)}| (4.20)
となり、不等式(4.18)
が等号で成立する場合は、X
1= X
2= X
3= 0
すなわち、−→ m
1· −→ m
2= −→ m
1· −→ m
3= −→ m
2· −→ m
3= 0 (4.21)
と求められる。
qubit | − → n i
を3つ与えられた場合式
(4.18)
より、Aliceが−→ m
1、−→ m
2、−→ m
3を、それぞれ直交するように測定し、Aliceから伝えられた 古典的情報に応じて、式(4.19)
をみたす− → n
stuをBob
がつくるとき、忠実度
< F >
は最大で12+
√63をとる。z
y x
|m >
|m >
|m >
図7 < F >が最大になる場合の測定
4.3
4つここでは、qubit
| − → n i
が4つ与えられた場合について議論する。Alice
は4つの与えられた| − → n i
に対して、それぞれに正規直交基底を構成する状態{| −→ m
1i, | − −→ m
1i}、
{| −→ m
2i, | − −→ m
2i}、{| −→ m
3i, | − −→ m
3i}、{| −→ m
4i, | − −→ m
4i}
を用いて測定したとする。つまり、測定結果 は16
通り存在することが分かる。それぞれの場合の確率をP
rstuと総称したとすると、確率P
rstuは、
P
rstu= |h − → n | r −→ m
1i|
2|h − → n | s −→ m
1i|
2|h − → n | t −→ m
1i|
2|h − → n | u −→ m
1i|
2= 1
16 (1 + r −→ m
1· − → n )(1 + s −→ m
1· − → n )(1 + t −→ m
2· − → n )(1 + u −→ m
3· − → n ) (4.22)
となる。この場合、測定結果が
16
通り存在するので、送る古典的情報は4bit
である。Bob
はAlice
から伝えられれた古典的情報に応じて、いまの場合、− → n
rstuを準備すると仮定する。−
→ n
rstuをつくる場合の忠実度F
rstuを求めると、F
rstu= |h − → n | − → n
rstui|
2= 1
2 (1 + − → n · − → n
rstu) (4.23)
となる。式
(4.22)、(4.23)
を利用し平均の忠実度F
を求めると、F =
X
±rstu
P
rstuF
rstu(4.24)
となる。
式
(4.24)
に、不等式(4.5)、不等式 (4.8)
を用いてBloch
球上で平均した忠実度< F >
を求める。< F > = <
X
±rstu
P
rstuF
rstu>
= 1
32 X
±rstu
< (1 + r −→ m
1· − → n )(1 + s −→ m
2· − → n )(1 + t −→ m
3· − → n )
(1 + u −→ m
4· − → n )(1 + − → n · − → n
rstu) >
= 1 2 + 1
96 X
±rstu
−
→ n
rstu· [r −→ m
1+ s −→ m
2+ t −→ m
3+ u −→ m
4+ 1
5 stu{−→ m
2· ( −→ m
3· −→ m
4) + −→ m
3· ( −→ m
2· −→ m
4) + −→ m
4· ( −→ m
2· −→ m
3)}
+ 1
5 rtu{−→ m
1· ( −→ m
3· −→ m
4) + −→ m
3· ( −→ m
1· −→ m
4) + −→ m
4· ( −→ m
1· −→ m
3)}
+ 1
5 rsu{−→ m
1· ( −→ m
2· −→ m
4) + −→ m
2· ( −→ m
1· −→ m
4) + −→ m
4· ( −→ m
1· −→ m
2)}
+ 1
5 rst{−→ m
1· ( −→ m
2· −→ m
3) + −→ m
2· ( −→ m
1· −→ m
3) + −→ m
3· ( −→ m
1· −→ m
2)}] (4.25)
≤ 1 2 + 1
96 X
±rstu
|r −→ m
1+ s −→ m
2+ t −→ m
3+ u −→ m
4+ 1
5 stu{−→ m
2· ( −→ m
3· −→ m
4) + −→ m
3· ( −→ m
2· −→ m
4) + −→ m
4· ( −→ m
2· −→ m
3)}
+ 1
5 rtu{−→ m
1· ( −→ m
3· −→ m
4) + −→ m
3· ( −→ m
1· −→ m
4) + −→ m
4· ( −→ m
1· −→ m
3)}
+ 1
5 rsu{−→ m
1· ( −→ m
2· −→ m
4) + −→ m
2· ( −→ m
1· −→ m
4) + −→ m
4· ( −→ m
1· −→ m
2)}
+ 1
5 rst{−→ m
1· ( −→ m
2· −→ m
3) + −→ m
2· ( −→ m
1· −→ m
3) + −→ m
3· ( −→ m
1· −→ m
2)}| (4.26)
式
(4.26)
で等号が成立する場合は以下のようになる。−
→ n
rstu= r −→ m
1+ s −→ m
2+ t −→ m
3+ u −→ m
4|r −→ m
1+ s −→ m
2+ t −→ m
3+ u −→ m
4+
15stu{−→ m
2· ( −→ m
3· −→ m
4) + −→ m
3· ( −→ m
2· −→ m
4) + −→ m
4· ( −→ m
2· −→ m
3) +
15stu{−→ m
2· ( −→ m
3· −→ m
4) + −→ m
3· ( −→ m
2· −→ m
4) + −→ m
4· ( −→ m
2· −→ m
3)}
+
15rtu{−→ m
1· ( −→ m
3· −→ m
4) + −→ m
3· ( −→ m
1· −→ m
4) + −→ m
4· ( −→ m
1· −→ m
3)}
+
15rtu{−→ m
1· ( −→ m
3· −→ m
4) + −→ m
3· ( −→ m
1· −→ m
4) + −→ m
4· ( −→ m
1· −→ m
3)}
+
15rsu{−→ m
1· ( −→ m
2· −→ m
4) + −→ m
2· ( −→ m
1· −→ m
4) + −→ m
4· ( −→ m
1· −→ m
2)}
+
15rsu{−→ m
1· ( −→ m
2· −→ m
4) + −→ m
2· ( −→ m
1· −→ m
4) + −→ m
4· ( −→ m
1· −→ m
2)}
+
15rst{−→ m
1· ( −→ m
2· −→ m
3) + −→ m
2· ( −→ m
1· −→ m
3) + −→ m
3· ( −→ m
1· −→ m
2)}
+
15rst{−→ m
1· ( −→ m
2· −→ m
3) + −→ m
2· ( −→ m
1· −→ m
3) + −→ m
3· ( −→ m
1· −→ m
2)}| (4.27)
これまでの計算方法で忠実度< F >
の最大値を求めようとしたが、計算が非常に難しくなってし まったため、これ以上は同様な計算方法で求めることはできなかった。そこで、ここからは式(4.24)
を具体的に(r, s, t, u) = (+, +, +, +)
とし、< F >の算出を試みてみた。< F > = 1 2 + 1
96 |−→ m
1+ −→ m
2+ −→ m
3+ −→ m
4+ 1
5 {−→ m
2· ( −→ m
3· −→ m
4) + −→ m
3· ( −→ m
2· −→ m
4) + −→ m
4· ( −→ m
2· −→ m
3)}
+ 1
5 {−→ m
1· ( −→ m
3· −→ m
4) + −→ m
3· ( −→ m
1· −→ m
4) + −→ m
4· ( −→ m
1· −→ m
3)}
+ 1
5 {−→ m
1· ( −→ m
2· −→ m
4) + −→ m
2· ( −→ m
1· −→ m
4) + −→ m
4· ( −→ m
1· −→ m
2)}
+ 1
5 {−→ m
1· ( −→ m
2· −→ m
3) + −→ m
2· ( −→ m
1· −→ m
3) + −→ m
3· ( −→ m
1· −→ m
2)}| (4.28)
ここで、
a
1= −→ m
2· ( −→ m
3· −→ m
4) + −→ m
3· ( −→ m
2· −→ m
4) + −→ m
4· ( −→ m
2· −→ m
3) a
2= −→ m
1· ( −→ m
3· −→ m
4) + −→ m
3· ( −→ m
1· −→ m
4) + −→ m
4· ( −→ m
1· −→ m
3) a
3= −→ m
1· ( −→ m
2· −→ m
4) + −→ m
2· ( −→ m
1· −→ m
4) + −→ m
4· ( −→ m
1· −→ m
2) a
4= −→ m
1· ( −→ m
2· −→ m
3) + −→ m
2· ( −→ m
1· −→ m
3) + −→ m
3· ( −→ m
1· −→ m
2)
(4.29)
とおくと、式
(4.26)
は、< F > = 1 2 + 1
96 | X
4i=1
m
i+ 1 5
X
4i=1
m
i· a
i|
2= 1 2 + 1
96 | X
4i=1
m
i· (1 + 1 5 a
i)|
2= 1 2 + 1
96 [ X
4i=1
(1 + 1 5 a
i)
2+
X
4i6=j
(1 + 1
5 a
i)(1 + 1
5 a
j)(m
i· m
j)]
= 1 2 + 1
96 X
4i=1
[(1 + 2 5 a
i+ 1
25 a
2i) + X
4i6=j
{1 + 1
5 (a
i+ a
j) + 1
25 a
ia
j}(m
i· m
j)]
= 1 2 + 1
48 {1 + 7 20
X
4i6=j
(m
i· m
j)} + 1 25
X
4i=1
a
2i+ 1 5
X
4i6=j
(a
i+ a
j)(m
i· m
j) + 1 25
X
4i6=j
a
ia
j(m
i· m
j) (4.30)
≤ 1 2 + 1
48 {1 + 7 40
X
4i6=j
(m
i· m
j)} (4.31)
しかし、ここから先の計算も、忠実度
< F >
を得るための適切な計算方法をみつけることが非常 に難しくなってしまい、qubit| − → n i
を4つ与えられた場合の忠実度< F >
を求めることはできな かった。ここで、これまでの忠実度を最大にするための条件を用ることで算出できないか試してみ た。| −→ n i
を−→ m
1、−→ m
2、−→ m
3、−→ m
4を互いに直交するように測定すると仮定し、今まで行ってきた計算 方法で進められると仮定すると、式(4.24)
は、以下のように求めることができた。< F > ≤ 1 2 + 1
96 (2 × 16) (4.32)
= 1 2 + 1
3
= 5
6 (4.33)
しかし、これはあくまでも仮定であり、式