1.は じ め に
上昇を続けていた 25歳未満の若者の完全失業率 は 2003年にはついに年平均で 10%を超えた。2004 年にはやや下がったものの,依然として高水準で推 移している(総務省統計局 労働力調査 )。この高 い失業率に長引く不況が大きく影響していることは 間違いないとしても,同じ時期にいわゆる ニート や若者の離職率の高さが問題になっていることを考 え合わせれば,経済状況だけが原因ではないことも,
また明らかだといえよう。
こうした状況のなか,大学のもつ 教育と職業を つなぐ役割 に対する期待はますます高まっている。
大学の本質的な存在意義は職業人の養成だけではな いが, 大学で専門知識を得て,それを活かした仕事 に就く という考え方は,社会的にはきわめて一般 的だと思われる。
一方,大学での専門教育が将来の仕事につながっ ていないことに対する批判もある。もちろん個々の 学生が,専門として学んだ分野以外の領域に職を求 めることを批判する理由はないが,少なからぬ国費 を投入されている大学という組織にとって,これは 無視できる問題ではあるまい。このことは,実学的 要素が強く,後継者不足が大きな問題となっている 農学分野にも顕著にあてはまる。日本農業の振興に 対して,教育機関としての大学農学系学部・学科に 責任の一端があるとすれば,農業に興味をもって進 学してきた学生を,適性に応じて農業分野に送り出 すという人材供給が,それにあたるだろう。
しかし,どのような要因が学生を農業に向かわせ,
またどのような要因が農業から遠ざけているのだろ うか。後継者不足に悩む農業分野において,若者が 農業に向かわない本質的な理由は何か。大学による 適切な支援や情報提供のためには,学生の 職業観 を把握することが重要だと考えられる。そこで本論 では,酪農学園大学酪農学科(北海道江別市)の学 生を対象とした 評価グリッド法 の適用によって,
学生の職業観,特に なぜその職業に就きたいか という根源的欲求を探り,学生から見た職業として の農業の魅力や,大学での経験等が職業選択に与え ている影響を分析する。
2.方法と対象
⑴ 方法の検討
意識構造やニーズを調査する方法は,事前に設定 した調査項目を用いるアンケート調査と,直接回答 者と対面し回答を引き出すインタビュー調査にわか れる。基本的に定量的調査であるアンケート調査は,
調査仮説が明確である場合の検証手法としては有効 であり,数量データが得られることから統計学的な 分析もおこないやすい。一方のインタビュー調査は 定性調査であり,回答者と直接対面して情報収集す ることによって新たな仮説を発見することを目的と する。よって 学生の職業意識構造の把握 という 本論の目的においては,後者のインタビュー調査が より適切であると考えられる。ただし,インタビュー 手法では,記録したデータの集約・分析などのまと めが難しい点などが問題点となる。そこで本論では,
株式会社シンコー・サイエンス・コーポレーション
〒 544‑0012 大阪市生野区巽西 1‑10‑16
SHINKO Science Corporation, 1‑10‑16 Tatuminishi Ikunoku, Osaka, 544‑0012, Japan (2004年度酪農学園大学酪農学部酪農学科卒業)
酪農学園大学酪農学部酪農学科酪農経営学研究室
〒 069‑8501 江別市文京台緑町 582
Department of Dairy Science, Dairy management, Rakuno Gakuen University, Ebetsu, Hokkaido, 069‑8501, Japan
Mariko MOCHIZUKI and Kazuo SATO
(October 2005)
An Analysis of Agricultural StudentsʼAttitudes toward Career Selection Using Evaluation Grid Method
望 月 真理子 ・佐 藤 和 夫
評価グリッド法による農学系学生の職業意識構造分析
インタビュー調査のなかでも,ニーズを構造的にと らえることができ,回答者自身の言葉により評価項 目を抽出することが可能である 評価グリッド法 を用いることとする。
⑵ 評価グリッド法
以下では,讃井[2],讃井・丸山[5],神田[1]
をもとに,本論の分析手法である 評価グリッド法 について説明する。
評価グリッド法は,讃井らが 1980年代半ばに開発 し,発展させてきた個別インタビュー手法であり,
ニーズの構造的な把握を目的としている。臨床心理 学分野で開発された レパートリーグリッド法 を ベースとしていることから,初期には レパートリー グリッド発展手法 と呼ばれていたが,1997年に関 係者の申し合わせにより現在の名称に統一された。
初期の適用事例は建築分野が中心であったが,近年 ではマーケティング・製品開発に応用されるほか,
合意形成手法としても注目され,実務ベースで用い られている。
評価グリッド法は,ベースであるレパートリーグ リッド法と同じく,パーソナル・コンストラクト理 論に基づくコンストラクト・システム(認知構造)
と呼ばれる情報メカニズムを仮定し,これを調査の 基本枠組みとする点を特徴とする。パーソナル・コ ンストラクト理論とは,G.A.Kellyが提唱したもの で, 人間は経験を通じて構築されたコンストラク ト・システムと呼ばれる各人に固有の認知構造をも ち,その認知構造によって環境およびそこでの様々 なできごとを理解し,またその結果を予測しようと 努めている (讃井[3])という人間の行動を一種 の情報処理の結果ととらえる考え方である。
ここでいうコンストラクトとは,人間が目や鼻な ど感覚器を通じて得た外界からの情報を意味のある 世界として理解する際の認知の単位(認知項目)で 窓が大きい−小さい 室内が明るい−暗い といっ た形容詞的性格をもつ一対の対立概念のことであ る。また,コンストラクト間には 窓が大きいと室 内が明るい といった因果関係が存在しており,こ うした因果関係が構成する認知構造全体をコンスト ラクト・システムと呼んでいる。
コンストラクト・システム,すなわち認知構造は 天井が高い−低い といった客観的かつ具体的な理 解の単位を下位(下位概念・価値観)に, 開放感が ある−ない といった感覚的理解を中位(中位概念・
評価項目)に,さらに 快適な生活が送れる−送れ ない といったより抽象的な価値判断を上位(上位
概念・具体的内容)にもつ,階層的な構造となって いる。
評価グリッド法では,この構造のうち評価に関与 する部分のみを選択的に抽出し,その構成単位(評 価項目)とその構造(評価構造)を回答者自身の言 葉によって明らかにすることを狙いとしている。そ のため,レパートリーグリッド法では,提示された 評価対象間の類似点・相違点を尋ね認知構造を言語 化し抽出するのに対し,評価グリッド法では,評価 対象間の選好判断を先に行い,その判断理由を尋ね るという方法をとる。
評価グリッド法による調査の特徴は,比較対象物 を用意して回答者に比較評価させ,その判断理由を 尋ねるという形式により,評価項目を回答者自身の 言葉によって抽出する点にある。この形式を採用す ることにより,直接的な質問をするのに比べ,回答 者は容易に自身の評価項目を言語化することが可能 となる。加えて,評価に関わる項目だけを選択的に 取り出すことで,調査の効率化と結果の冗長性回避 が実現できる。
讃井[4]によれば,評価グリッド法の実務適用 事例には,住宅に関する定性調査,高額所得者の住 要求,ビデオテープパッケージデザイン評価,オフィ ス環境評価,設計業務従事者のオフィス環境評価,
自動車商品企画のための調査などがある。一方,学 術調査では分析者の主観に基づく大胆な項目の集約 が問題視される可能性もあるが,作り手,使い手,
クライアントの三者間のコミュニケーションとし て,使いやすさ,わかりやすさを優先した評価グリッ ド法のバリエーションも存在し,大きな成果を挙げ ている(讃井・丸山[5])。学術調査の事例として は,バニラカップアイスの購買構造分析をおこなっ た真柳[7],市販牛乳の 買いたさ の構造につい て扱った真柳[8],水族館来訪動機の評価構造を 探った丸山[10],市販レトルトカレーを対象にパッ ケージ情報から魅力を分析した芳賀・佐藤[6],病 院の施設利用者評価をおこなった丸山[11]などが ある。
筆者らの知る限り,既存研究で評価グリッド法を 職業意識構造に適用した例は見当たらない。しかし,
比較評価→その理由 という評価グリッド法の形式 は,職業意識を探るという目的に十分適用可能であ る。学生にとって就職先の決定は重大な意思決定で あって,選好行動が感覚的判断で行われるとは考え にくいことも,評価グリッド法が仮定しているパー ソナル・コントラクトシステムとの親和性を示唆し ているように思える。また,讃井[3]にあるよう
に 評価判断が一種の言質として機能するため,通 常のインタビュー調査では抽出しづらい,たとえば お金持ちに見られたい や 女の子にもてたい と いった,回答者の本音も引き出しやすい という性 質は,職業意識を探るという目的にふさわしいとい えるだろう。
⑶ 対象
調査の対象は,筆者らが所属する北海道江別市の 酪農学園大学酪農学部酪農学科の学生である。酪農 学園大学は,わが国唯一の酪農専門教育を担う大学 として,1960年に開設された。2005年 10月1日現 在,在学生は 726名,卒業生は約 8,000名にのぼる。
酪農学科は,酪農の科学と実際とを教育することを 教育目的とし,実学教育の実践を通じて,酪農人,
指導者,技術者および研究者の育成を目指している。
2003年度の業種別就職決定状況によると,酪農学科 は製造業 7.9%,金融・保険業 1.3%,卸・小売業 28.9%,飲食店・宿泊業 1.3%,サービス業 27.6%,
公 務 員 1.3%,そ の 他 31.7%(酪 農 5.3%,畜 産 14.7%,教育 5.3%,その他 6.8%)となっており,
当然のことではあるが,酪農・農業と異なる業種に 職を求める学生も多い。本学科の業種別就職決定状 況における業種の分散は,酪農学科の特徴とともに 構成している学生の背景の違いといった本学科の多 様性に起因していると考えられる。しかし,公表さ れている就職に関するデータでは,統計的な結果に とどまり,学生がなぜその職業を選択したのかと いった職業観,職業に対する意識を計り知ることは できない。
酪農学園大学での職業に関する意識調査として柳 村[9]がある。このアンケート調査は,農家出身 学生の就農意識を把握することを目的とし,酪農学 科・農業経済学科の3年と4年,および北海道文理 科短期大学の酪農科・経営情報学科の2年の学生を 対象に実施されたものである。柳村[9]では,卒 業後ないし将来に就農を予定している者に就農の理 由を尋ねており, 小さい時から接していたので,身 近で入りやすい職業 58.2%, 独力で仕事ができる 自営業としての魅力がある 47.8%, 後継ぎとして 当然のこと 40.3%という結果が示されている。ま た,就農する予定がない者からの回答では, 農業以 外にやりたい仕事がある が第1位となっている。
本論でも柳村[9]を踏襲して,農業後継者・非 農業後継者の両者にインタビュー調査をおこない,
比較考察する。なお,讃井[3]は,インタビュー 調査におけるサンプリングは,数字を扱い議論する
わけではないので,アンケート調査の場合のように 正確である必要はないとしている。しかし,対象者 を限定する必要性はあり,ターゲットとする集団に おいて,共通性の高い特性をコメントの出現頻度か ら推定できる程度まで対象者を絞り込まねばならな い。そのため,事前に手持ちの定量データを使って のターゲットユーザーの特定,その識別のためのス クリーニング項目の検討などをおこなうことが推奨 されている。本論では,調査対象者を1学科に限定 しているため,これ以上の対象者の絞り込みはおこ なわなくても良いと判断した。
3.インタビュー調査
⑴ 調査概要と対象者の設定
インタビュー調査は,2004年 12月 13日(月)か ら 12月 18日(土)の6日間にわたり実施した。調 査時間・場所は回答者の都合にあわせた任意の時間 帯・場所とした。インタビュー,結果のとりまとめ,
分析等の一連の作業はすべて望月が1人でおこなっ た。従って,インタビュアーの違いに起因するバイ アス,インタビューと集約作業との間でのニュアン スの差による表現のずれなどは生じていない。
回答者は,酪農学園大学酪農学部酪農学科,酪農 学園大学短期大学部酪農学科,および酪農学園大学 酪農学研究科大学院生(酪農学科卒業生)からなる 計 26名である。構成は,男性 16名,女性 14名であ り,農業後継者・非後継者という区分では,前者が 7名,後者が 19名である。26名という回答者数につ いては,統計分析のサンプルサイズと比較すると少 ない印象を与えるかもしれない。しかし,評価グリッ ド法は回答者の潜在的なニーズ探索を主目的とする 定性調査であって,統計的に処理し検証・分析する 定量調査ではないため,それほど多くの調査人数を 必要としない。神田ら[4]は,回答者 10人と 20人 では結果に大きな差はなく,調査に必要な回答者は 最小限 10人,多くて 20人程度としている。また,
讃井・丸山[5]は経験的に 15名,できれば 20名 以上の回答者が必要としている。本論の 26名という 回答者数は,両者の推薦回答者数を満たしており,
評価構造図の作成において問題はないものと考え る。
インタビュー調査では,職業を書いた 19種類の カードを比較対象物とし,1対1(回答者:インタ ビュアー)の面接インタビューによるラダーリング を用いた聞き取り方式を採用した。評価グリッド法 の基本的な作業手順に沿い,はじめに回答者にカー ドを全種類提示したうえで,回答者自身の総合的選
好判断に基づき5群に分類してもらい,2群ごと全 10通りを比較,評価項目を抽出した。次に,ラダー リングにより上位概念・下位概念をそれぞれ導出,
その後,インタビューで得られた記録をもとに個人 の評価構造図をまとめ,それらを統合し全体の職業 評価構造図を作成,分析するという手順を踏んだ。
⑵ 提示した比較対象物
本論の比較対象物は 職業 である。比較対象物 のアイテム数については,数が多いほど評価の視点 が多様になり偏りを回避できるが,回答者の負担が 大きくなるといった弊害が出てくることから,多く ても 30以下が望ましいとされている(讃井・丸山
[5])。
対象とする職業の選定は,本学科で配布されてい る 就職支援ブック の産業分類表と 就職四季報 2005年度版 から,酪農学科の特殊性,本論の目的 を考慮し,酪農業に関連のある職業を中心に,農林 畜産業,その他の分野の職業を抽出した。さらに,
実際に本学科に求人のある職業や 2003年度の業種 別就職先を参考に,比較対象として本学科で比較的 人気が薄いと思われる職業も含めた。以上の手順で リストアップした職業リストをもとに,事前のプレ インタビューの結果を踏まえて,最終的に表1に示 した 19種類の職種に絞り込み,その 19種類につい
てカードを作成した。カードは,職業名の下にその 職業のイメージ図を添えたものを用いた(図1,調 査時にはカラーの図を使用)。
⑶ インタビュー調査の手順
インタビュー調査は讃井・丸山[5]を参考に,
以下の手順に則って実施した。回答者がより自然な 状態で発言できるよう録音は控え,インタビュアー が筆記で記録する方法を採用した。質問文は下記の ようにあらかじめ用意したものを用い,標準化をは かった。ただし,回答者の回答状況により多少の変 化が必要となる場面もあった。
① グループへの分類
本調査では前述の手順で選択した 19種類の職業 カードを用いる。提示したすべての職種について一 対比較をおこなうことは物理的に不可だが,提示す る職業の種類を減らせば,回答者の希望する職種を 網羅できない可能性が高くなってしまう。そこで,
通常は総合的選好判断に基づいて4〜5グループ に分類させ,グループ間の評価の差異が生じた理由 を聞き出すという便法を取ることが多い という讃 井[3]の記述に従って,19種類の比較対象物を回 答者に提示し,これらを好ましさ・就きたさという 観点(総合的選好判断)に基づいて,5群に分類し
表 1 比較対象物一覧:職業(19種類)
1 酪農経営 11 公務員
2 酪農ヘルパー 12 金融
3 飼料関連企業 13 放送・新聞
4 稲作農家 14 食品メーカー
5 路地野菜 15 スーパー
6 肉用牛 16 外食・中食産業
7 養豚家 17 電気・情報機器
8 養鶏家 18 製薬・医療品メーカー
9 人工授精師 19 農林・水産
10 農協職員
図 1 インタビューに用いた職業カード(例)
てもらうという手順をとる。そして,グループ間比 較をおこなうことで評価の差異が生じた理由を聞き 出すという形をとることとした(図2)。グループへ の分類で用いた質問文は以下である。
ここに様々な職業があります。これらを より好 ましい・就職したい から より好ましくない・就 職したくない の順に5段階に分類して下さい。ま た,就職ということで,ここでは長く続けるもの,
一生のものとして考えて下さい
② 評価項目の抽出
異なった評価をされた2つの職業群を指し,以下 のような教示を与え,そこで述べられた理由をオリ ジナル評価項目(回答者自身が自発的に使用した評 価項目)として記録する。
これらのグループは,こちらのグループよりも好 ましいということですが,そう判断された理由(の うち,あなたにとって重要なもの)をどんなことで も構いませんので,思いつくまま,ひとつずつ順番 にお知らせ下さい。なお,必ずしもグループ全体に あてはまる理由である必要はなく,特定の職業にの みあてはまる理由でも結構です
回答者が新しい評価項目を思いつかなくなった時 点で,次の組み合わせに移行する。ここでは,自発 的な回答を促すことが重要であり,俗にいう水を向 ける質問などにより,インタビュアーが勝手に評価 項目を誘導することは厳禁とされる(讃井・丸山
[9])。
③ 評価項目の補完
全通りの組み合わせが終了した時点で, このグ ループが最も就きたい職業群ということでしたが,
何か不満な点などはありますか という質問をし,
最高評価のグループの対象物について不満を聴取す ることで,評価項目の補完をおこなった。
④ ラダーリング(上位・下位概念の導出)
ラダーリングのラダーとは 梯子 という意味で あり,梯子を昇り降りするように,評価項目の上位・
下位項目など関連評価項目を導き出す質問技法であ る。ラダーアップによって,より抽象化した価値観 を誘導し,ラダーダウンによって,より具体化した 現実手段,方策など具体的要求を誘導する。ラダー リングについては,回答者を疲弊させるといった弊 害が生じることから,深追いしないよう注意する必 要がある。
ラダーアップ(上位概念の誘導)では, ○○だと 良い(就職したい)ということでしたが,あなたに とって○○であることにはどんな良い点があるので すか。その理由をいくつでも,ひとつずつ順番に教 えて下さい という質問,ラダーダウン(下位概念 の誘導)では, ○○だと良い(就職したい)という ことでしたが,あなたは,○○であるためには具体 的に何がどうなっていることが必要だとお考えです か? ○○であるための条件をいくつでも,ひとつ ずつ順番に教えて下さい ,または ○○といえる条 件はどのようなものがありますか。より具体的な条 件をお答え下さい という質問文を用いた。また,
不完全回答の補強として,このグループがどうなっ ていると,あなたは就職したくなるのですか? と いう質問を適宜おこなった。
比較判断の理由として,好ましい理由ではなく好 ましくない理由が出てきた場合,讃井・丸山[5]
の推奨に従い ○○だから好ましくない を ○○
ではないから好ましい と解釈し,否定表現を付け 加えた ○○ではない をもって評価項目とする方 法をとった。
4.結果と考察
⑴ インタビュー結果の概要
この節では,評価グリッド法で得られた構造図以 外の結果をもとに,酪農学科の職業意識について概 観する。職業意識に関する評価構造図については,
次節で検討する。
図 2 インタビューのイメージ
① 選好評価順による分類
インタビュー調査で得られた職業分類の結果を表 2に示した。全体は選好上位業種により3タイプに 分類することができた。それぞれ,選好第1位に酪 農経営を挙げたタイプを 酪農タイプ ,選好上位に 企業を挙げたタイプを 企業タイプ ,最上位に酪農 以外の畜産等を挙げたタイプを その他 とした。
分布としては,酪農タイプが8名であり,うち酪農 後継者6名,非後継者2名,企業タイプは 14名と最 も多く,酪農後継者1名,非後継者 13名であった。
また,その他は4名であった。
全体とそれぞれのタイプにおける,各職業への評 価を表3に示した。はじめに, 酪農タイプ だが,
このタイプの特徴としては,他の2グループよりも 人工授精師を上位に選択した者が多く,逆に金融・
放送・スーパーを敬遠する傾向が見られた点が挙げ られる。構成は,酪農後継者7名中6名と後継者の 大部分がこのタイプに入った。また,非後継者が2 名となっており,いずれも女性で動物生産科学コー
スに属する研究室に所属していた。ただし,新規参 入という形で自らが経営主になるというわけではな く,家族経営の一員として,またヘルパーや人工授 精師という形で酪農に関わりたいというものであっ た。
次に, 企業タイプ は,食品・公務員などを中心 とした企業が上位を占める一方,酪農など動物を扱 う職業への評価が一様に低いことが大きな特徴とい える。このタイプに分類された多くが,植物生産科 学・環境情報科学系の研究室に所属する学生であり,
現場よりも企業で働きたいとする傾向が見られた。
企業タイプが全体の人数に対し多くなった理由とし て,動物生産科学コースの研究室に所属している回 答者が少なかったことが考えられる。ここで,酪農 後継者が1名いるが,この回答者は後継しないこと が決定しているということであった。
最後の その他 については,家業である職業(酪 農以外の畜産業・稲作など)が上位,家業と企業が 上位,家業を中心にその他の農業・畜産業が上位で あるといった者を分類したグループである。このタ
26 25 24 23 22 21 20 19 18 17 16 15 14 13 12 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1
D D D D D D D C C C C C C C C C C C C B B B A A A A
78 52 55 70 45 55 55 53 53 n.a.
86 70 57 65 70 40 50 n.a.
n.a.
55 62 71 60 60 55 80
企業 企業 企業 酪農 酪農 企業 企業 企業 企業 その他
企業 企業 企業 その他
企業 企業 肉牛 農業 企業 酪農 酪農 企業 酪農 酪農 酪農 酪農
5 1 3 1 1 5 4 4 3 4 4 3 5 2 5 3 3 1 4 1 1 3 1 1 1 1
5 5 2 2 2 4 5 2 5 5 4 4 5 4 5 3 3 2 5 2 5 4 2 2 2 5
5 1 3 4 3 2 3 2 3 5 2 2 1 3 3 1 4 3 2 2 3 2 3 4 3 2
5 4 4 3 5 5 2 4 2 1 4 5 5 4 3 3 2 1 3 4 2 5 4 4 4 5
4 3 2 2 3 4 3 3 3 2 3 4 2 3 4 1 2 1 3 4 2 5 5 4 4 2
5 4 4 1 2 5 3 4 5 4 4 4 5 1 5 1 1 1 4 4 1 4 2 2 5 2
5 2 5 2 5 5 5 4 5 5 4 5 5 3 5 4 5 3 5 5 5 5 5 5 5 3
5 4 5 2 5 5 5 4 5 5 4 5 5 3 5 4 5 3 5 5 5 5 5 5 5 5
3 2 4 3 1 2 5 2 4 5 5 2 3 5 3 4 5 5 5 2 3 3 1 3 2 2
2 4 2 3 2 2 4 1 2 5 2 1 4 2 3 2 4 5 4 2 4 3 4 3 4 3
1 3 2 5 1 1 1 2 2 1 2 1 5 5 3 2 5 4 5 2 4 1 1 5 4 4
2 5 5 5 5 5 3 4 4 3 5 3 1 2 3 5 5 2 2 5 5 2 4 5 5 5
1 5 4 5 5 5 3 5 1 3 3 4 2 5 1 4 5 2 1 5 3 2 5 5 5 5
3 1 1 3 2 3 1 2 2 2 1 3 3 2 2 1 5 4 3 3 3 2 4 3 4 3
2 5 1 4 4 4 2 2 3 2 1 5 5 3 2 4 4 4 3 5 4 5 3 5 5 5
2 5 3 4 4 3 2 2 4 2 1 5 4 4 2 5 5 3 1 5 5 5 4 5 5 5
5 5 3 4 5 5 4 5 1 1 5 2 3 5 3 5 4 4 1 5 5 4 5 5 5 2
1 1 5 4 4 1 1 5 3 4 5 2 3 5 1 2 5 5 2 5 3 1 3 4 5 4
4 3 4 3 3 1 3 1 3 4 3 3 4 4 3 2 2 3 4 5 2 5 3 5 5 3 19 18 17 16 15 14 13 12 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2
※分類 A:酪農後継者・男性…4名 B:酪農後継者・女性…3名 C:非後継者・男性…12名 D:非後継者・女性…7名
※所要時間の n.a.:手違い等で時間計測をおこなえなかった
※タイプ 好ましいと判断・選択した職業の傾向
※職業選好分類について…最も好ましいを 1 とし,
好ましくないを 5 とした5段階評価 1:酪農経営
2:酪農ヘルパー 3:飼料関連企業 4:稲作農家 5:路地野菜 6:肉用牛 7:養豚家
8:養鶏家 9:人工授精師 10:農協職員 11:公務員 12:金融 13:放送・新聞 14:食品メーカー
15:スーパー 16:外食・中食産業 17:電気・情報機器 18:製薬・医療品メーカー 19:農林・水産
※1
※タイプ 所要時間(分)
※分類 対象者
表 2 インタビューによる職業分類結果
イプは人数が少ないため一概にはいえないものの,
稲作・路地野菜など農業に対する評価がおおむね高 く,それに対し製薬・農協・公務員などを敬遠する 特徴がある。
以下においては,この3タイプに注目し分析をお こなう。
② インタビュー所要時間
インタビュー所要時間とは,インタビュアーが調 査開始を宣言した時間から,すべてのインタビュー 作業が終了するまでの時間を計測したものである
(3名については,正確な時間が計測できなかった)。
1人あたりのインタビュー平均所要時間は 61分で あり,最長で 86分,最短で 40分であった(表2)。
学年やタイプ別による差は,ほとんど見られなかっ た。所要時間の長短は,評価項目数とほぼ比例して おり,所要時間が長いほど評価項目数も多く複雑な 構造を示し,短いほど項目が少なく構造図も簡素な ものになる傾向が見られた。ただ,全体として,積 極的に考え発言する傾向が強く,時間以上に早く感 じた という感想も多く聞かれた。こうしたインタ ビュー後の感想などからも,回答者の負担は要した 時間ほど大きくなかったと判断できる。
③ 職業選好ランキング
職業選好ランキングは,インタビュー調査におけ る総合的選好判断による分類の作業で,各職業が よ り好ましい から 好ましくない の5段階のうち どこに分類されたかをカウントし算出したものであ る。ここでの分類は,回答者本人の総合的選好判断 を基準としておこなったため,全体として 好まし い がどの程度好ましいのかといった具体的な判定 基準は明確には存在していなかった。しかし,得ら
れた結果から,個人差はあるものの,全体としてど の職業に人気が集まっているのかといった大まかな 傾向を把握することは可能である。そこで,本論で は, より好ましい から 好ましくない の5段階 からなる選好評価を, より好ましい を1, 好ま しくない を5とし,1・2・3・4・5の数字で 評価順をつけ,職業選好ランキングとしてまとめる こととした。全体平均・各タイプの平均ともに,そ れぞれ全体の評価を合計し,人数で割るという方法 で算出した。1に近いほど人気が高く,5に近いほ ど人気が低くなる。結果を表4に示した。
職業選好ランキングにおいて,注目すべき職業が 何点かあるので紹介する。
・1位:食品
酪農タイプ・企業タイプともに評価が高かった。
酪農タイプでは,企業のなかでも牛乳を扱うことが でき,酪農に近い職業ということで人気を得た。企 業タイプでは,大学・研究室などで学んだ知識・技 術などを活かせる研究職として高評価であった。両 タイプともに,大学で酪農・食品などについて学び 得た知識・経験を発揮できる職業として,また興味・
関心がもてる職業として評価された。
・2位:酪農経営
酪農タイプで,最上位にきていることが高評価に つながったといえる。しかし,注目すべきは,企業 タイプにおいて他の畜産業が軒並み評価4であるの に対し,評価3を得ている点である。このことは,
動物を扱う職業を敬遠する傾向が見られるなかで,
酪農については,大学などでの経験に基づいて何か しらのアドバンテージを感じていることが理由と考
酪農 企業 その他
全体
11 公務員
12 金融
13 放送
14 食品
15 スーパー
16 外食
17 電気
18 製薬
19 農林 3.3 4.9 4.8 3.1 4.4 4.6 4.5 4.0 3.6 3.1 3.3 3.3 2.4
4.8 3.2 3.6
3.5 3.9 3.1
3.5 3.7 3.1
3.3 3.5 2.0
3.3 2.5 2.9
3.8 3.6 3.5
3.0 3.8 2.2
3.8 2.8 全体
その他 企業
2.7 2.5 3.7
3.6 3.5 4.1
2.7 3.8 2.3
3.6 2.0 3.9
3.0 2.0 3.1
3.2 1.8 4.1
4.4 4.0 4.6
4.6 4.0 4.7
3.2 5.0 3.4
3.0 4.0 2.6 3.1 2.1
4.6 4.4
2.4 3.3
3.9 3.0
2.8 1.0
酪農
10 農協 9
授精師 8
養鶏 7
養豚 6
肉牛 5
路地 4
稲作 3
飼料 2
ヘルパー 1
酪農
表 3 各タイプの職業選好状況
えられる。酪農経営が全体を通して上位にきたこと は,わが国唯一の酪農専門教育を担う本学科におい て,大変意味深いものといえるのではないだろうか。
・6位:路地野菜
農業・畜産業のなかでは,酪農経営に次いで高い 評価を得た。 自分の好きな作物が栽培できる , 稲 作など単一作物を栽培するよりはおもしろそう な どの理由が挙げられており,身近な作物を自身の手 で栽培できることが魅力につながっているようであ る。また,農業のなかでも比較的女性に人気があっ た職業でもある。
・13位:酪農ヘルパー
酪農経営が2位なのに対し,作業的には似た職業 でありながらその評価は低いものとなった。これは,
酪農タイプにおいて,同じ牛を扱う職業ながらも,
自らが経営の中心であることを重視する点,職業と してのヘルパーの大変さを現場で見て痛感している 点,ヘルパーはあくまで通過点であり一生する職業 としては評価されていない点などが要因として挙げ られる。
・18位:養豚家・19位:養鶏家
全体を通して,この2職業は最も特徴的であった。
全タイプに共通して評価が大変低く,どちらも評価 1にはあがらなかった。全タイプともに 知識・経 験が乏しい , 臭いがきつい という理由が大半を 占めた。 知識・経験が乏しい については,酪農に 比べ講義や研修などで触れる機会が圧倒的に少ない ことが影響していると考えられる。また, 臭いがき つい に関しては,企業タイプだけでなく酪農タイ プでも顕著であり,その理由として,牛への臭いの
慣れが逆に酪農以外の家畜の臭いへの抵抗感を生む 要因となったのではないかと考えられる。
以上のように,人気上位の職業は,総じて大学で の経験と関連のあるものであり,逆に人気下位の職 業は触れる機会が少ないものであった。この傾向は,
同じ動物を扱う職業にも関わらず,本学科の専門分 野である酪農が2位なのに対し,講義で触れる機会 がほとんどない家畜を扱う養豚家・養鶏家が下位2 つを占めていることからも指摘できる。こうした結 果から,大学などで得た知識・経験の有無が職業の 評価に大きく影響していることがわかる。
⑵ 評価構造図の作成手順
本節では,インタビュー調査から得られた記録を もとに職業意識に関する評価構造図を作成・分析し,
本学科における学生の職業意識について考察する。
はじめに,分析手順を示し,次に全体・酪農タイプ・
企業タイプにおいて特徴的な構造などを説明する。
はじめに,評価グリッド法により抽出した個々の インタビュー記録をとりまとめる作業をおこなっ た。同じ評価項目や重複している発言,個人的な発 言,余計な修飾語などは省いたうえで,複数箇所に 見られる同じ評価項目を,ラダーリングで誘導され た関連項目を含めひとつにまとめた。そして,項目 同士を結ぶ線などの交差を避けつつ全体の配置を調 整した。こうしてできあがったものが,その回答者 の評価構造モデルとなる。
次に,本学科における職業に対する意識の全体像 を把握するため,全回答者を単位とした評価構造図 を作成した。本論では,個々人の評価構造図を1枚 の大きな紙に手書きで集約する方法を採用した。流 れとしては,全回答者の評価構造図を通観し,各評 表 4 職業選好ランキング
順位 職業 評価 順位 職業 評価
1 食品 2.54 11 スーパー 3.54
2 酪農 2.69 12 稲作 3.58
3 飼料 2.73 13 ヘルパー 3.62
4 公務員 2.77 14 放送 3.62
5 農協 2.96 15 外食 3.65
6 路地 3.00 16 金融 3.85
7 肉牛 3.19 17 電気 3.88
8 人工授精師 3.23 18 養豚 4.42
9 製薬 3.23 19 養鶏 4.58
10 農林 3.27
価項目の出現頻度をつかんだうえで,大まかに全体 のイメージ図を作成,このイメージ図を参考にA3 用紙を2枚つなげた大きな紙におよその割付をおこ ない,各回答者の評価項目・項目間の関連を転載し た。このとき,回答者番号を添え,また,類似表現 や項目がすでに転載さていた場合には,回答者番号 のみを記載した。こうして回答者全員の評価構造を 転記・集約した段階で一度コピーし,全体モデルに 採用する評価項目・項目間の関連を色つきペンで チェックした。本論では,1人からしか収録されな かった項目・関連については,全体モデルには収録 しなかった。最後に,チェックした項目・関連を,
線の交差などを整理し全体が見やすいようにしたう えで,各項目や関連を示した人数などの情報を書き 込み,酪農学科における学生の職業意識の構造図と して仕上げた。
以下では,こうして完成した全体の構造図を用い て,特徴的な評価項目・関連や想定外の上位・下位 概念がないかなど様々な角度から学生の就職意識構 造を分析していく。
⑶ 評価構造図
① 評価構造図全体について
図3は,全回答者を単位とする職業意識に関する 定性的評価構造モデルである。図中の四角はインタ ビューで得られた評価項目を,直線は評価項目どう
しの関連を示している。ラダーリングにおいて,3 名以上の回答者が両者を関連させたものを太線で示 した。ここでは,2名以下の項目・関連については 省略した。また,評価項目内の数字は,インタビュー でその評価を使用した人数である。10名以上が使用 した項目を太枠で示した。下位概念のさらに下位に,
具体的な職業を挙げる学生が見られたが,ここでは 全体像の把握を目的とするため記載しなかった。
全体の構造図を見ると,学生は,働くことに対す る要求として 充実感 楽しさ 満足感 安心感 といった上位の要求を頂点とする系列を形成してい ることがわかる。こうした要求の最上位に,広い意 味での 幸せな人生 が存在する。また,各系列の 下位項目ほどより具体的なものとなり,休日や給与 形態,労働条件など働くうえでの諸条件に関するも のとなっていることがわかる。
このように, 充実感 楽しさ などが働くとい う行為に関する上位の概念であり,それが満たされ ることが 幸せな人生 につながると考えられる。
この要望を満たすための重要なものとして,多くの 学生が経済的にも精神的にも余裕のある ゆとりあ る生活 を求めており,その具体的条件に,自らの 成果が認められることによって実現する 評価の向 上・目標の実現 などを挙げている。また,評価向 上のためには やりやすさ・作業効率UP が不可欠 であり,そのためには何らかの 知識・情報がある
図 3 職業意識に関する評価構造図(全回答者)
ことが必要だと考えていることがわかる。
同様に,全体の傾向として,ひとつの仕事を 長 続き させたいという気持ちが強く,そのための条 件として 仕事が楽しい 点を重要視していること,
また, やる気が出る 条件として 興味がある 職 業を求めていることが明らかとなった。
学生は,このような様々な上位の要求を満たすた めに 大学等で経験したことがある 分野での就職 を意識していることが考えられる。また,全体を通 して第一次産業への言及も多かった。
② 酪農タイプ
ここからは,全体のなかで酪農タイプと企業タイ プにおいて,それぞれ特徴的な評価項目・関連につ いて述べることとする。
はじめに,酪農タイプである(図4)。特徴的な部 分を青色で示した。このタイプの最大の特徴に,上 位概念の要求を満たす条件として 自ら意思決定で きること を挙げている点,また,その具体的条件 に 自営業 を挙げている点がある。これは,柳村
[9]の結果とも合致する。酪農タイプの大部分が後 継者であることから,幼い頃から家族経営という環 境に馴染んでおり,組織に属するよりも自らの手で 経営をおこなうことに魅力を感じていると考えられ る。
また, 癒し・和み と 動物 自然 の関連性
も,酪農タイプひいては酪農学科の特性を示してい るという意味で興味深い。本学科が主に扱う家畜は 乳牛であるが,動物を扱えることから,畜産・動物 分野に興味をもっている学生,自然が好きな学生は 多い。このような学科全体の背景に加え,大部分の 酪農後継者が自然に囲まれた環境で育っており,酪 農タイプでこの関連性が多く抽出されたと考えられ る。また,酪農後継者が,自らが育った環境に比較 的愛着をもっていることがわかる。
加えて,全体として強く求められていた ゆとり ある生活 の具体的条件についてタイプにより差異 が見られた。酪農タイプでは, ゆとり のとらえ方 が企業タイプとは異なり,金銭面などでの充実より も時間的・精神的余裕を要求する傾向が非常に強い。
このことは,現在多くの酪農経営が抱えている 時 間的なゆとりが実現しないという問題 が影響して いると考えられる。経営をいかによりよいものにし ていくかを考えられる時間を確保し,経営を発展さ せ経済的にも潤った生活を求めていることがわかっ た。具体的条件にある, 一定の収入 や 安定して いる という項目についても,酪農業を主体とした 考えに基づいたものであり,あくまで酪農経営にお ける収入の安定を前提に抽出されたものが多い。
このように,酪農タイプの傾向として,酪農後継 者が多いことから,酪農を基準に職業が考えられて
図 4 職業意識に関する評価構造図(酪農タイプ)
いることが挙げられる。例えば,酪農現場において は休日が少ないことが一般化しているためか,休日 への言及はほとんど見られなかった。また,インタ ビュー全体においても,酪農経営や酪農業周辺分野,
第一次産業への評価項目は比較的多く抽出できた が,その他の分野への具体的な項目は乏しいなどの 傾向があった。
③ 企業タイプ
企業タイプ(図5)で最も顕著だったのは, 安定 している ことへの要求が非常に高く, しっかりし た後ろ盾 , 自然に左右されない といった条件に 関する項目を具体的に挙げている点である。これは,
企業タイプが就職活動などを前提としていることか ら,具体的条件を絞り込んでいたためと考えられる。
また,酪農タイプとは対照的に 休日がある こ とを重視する傾向が大変強く,その条件として 動 物を扱わない という項目を関連させている。この 関連は,企業タイプを特徴づけるものであり,逆に いえば,動物に興味を持ち本学科に入学したにも関 わらず,休日を重要視する学生が現場で生き物を扱 う職業を敬遠し,企業タイプになると考えても良い だろう。休日に趣味などを楽しみ リフレッシュ をはかり,評価の向上につなげようとする姿勢がう かがえた。加えて, 楽である と 肉体労働でない
の関連も企業タイプ特有で,この評価項目と関連は 酪農タイプには見られなかった。
ゆとりある生活 に関しては,酪農タイプが時間 的余裕を求めるのに対し,企業タイプでは,社会的 な基盤がしっかりしているか,職業として安定して いるか,給与面で問題ないかといった点を重要と考 えていることがわかった。
5.お わ り に
本論は,評価グリッド法を用いて,酪農学科の学 生の職業意識構造を探ると同時に,職業としての酪 農の魅力,酪農後継者・非後継者の職業意識構造の 差異を明らかにすることを目的とした。
はじめに,職業としての酪農の魅力については,
酪農タイプの特徴的構造から,自ら意思決定できる など経営のおもしろさが味わえるという 自営業の 魅力 ,自然が身近で精神的安定が得られる環境,酪 農学科においては, イメージのしやすさ や 経験・
知識を最大限に活かせる などの点が挙げられる。
加えて,全体を通して,農業・畜産業のなかでも,
酪農は比較的外部影響を受けにくい安定した職業と して認識されており,これは近年のBSEや鳥イン フルエンザ,台風による被害などの影響を踏まえた うえでの結果と考えられる。
また,企業タイプで 休日の確保 が重要視され ていたことから,酪農においても 休日の確保 ,時
図 5 職業意識に関する評価構造図(企業タイプ)