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第 64 回 東京医科大学循環器研究会
日 時
:
平成28
年5
月21
日(土)午後
2 : 00 〜
場 所
:
東京医科大学病院 新教育研究棟 3階当番世話人
:
鹿島労災病院循環器内科 大久保 信司
1.
Loeys
-Dietz
症候群の1
例(東京医科大学病院 小児科)
千田 理絵、志村 優、羽生 直史 前田 明子、呉 宗憲、森島 靖行 西亦 繁雄、柏木 保代、河島 尚志
Loeys
-Dietz
症候群 (LDS)は、Marfan症候群(MFS)類 似の特徴的顔貌(二分口蓋垂、眼間解離)、大動脈解離など の血管病変、および骨格病変を特徴とする常染色体優性遺 伝性の全身性結合織疾患である。症例は15
歳男児、漏斗胸 のため6
歳時に手術の既往、7歳時には学校検診で心電図異 常を指摘され、前医で精査されたが経過観察されていた。13
歳時に左大腿骨転子下骨折を受傷した際に側弯症を指摘 され、以降増悪認めるため、15歳時に当院紹介となった。水晶体脱臼はなく、眼間解離、幅広い口蓋垂、手首 ・ 親指 兆候、扁平足あり、心エコー/胸部
CT
では大動脈弁輪拡張 と大動脈弁閉鎖不全を認めたためLDS
の診断となった。国 内の調査では、MFS疑い症例の約10%
が遺伝学的にLDS
と診断されている。また本疾患はMFS
と比較し、小児期早 期からの血管病変の発症、重症化が知られており、早期の 確定診断、適切なフォロー、治療介入が重要となる。今回我々 は、Loeys-Dietz
症候群の1
例を経験したので、若干の文献 的考察を加えて報告する。研究会報告
2.
著明な左室機能低下に石灰化を伴う巨大左室内血栓を合 併した虚血性心筋症の一例(東京医科大学病院 心臓血管外科)
加納 正樹、藤吉 俊毅、杉山 佳代 鈴木 隼、丸野 恵大、猪野 崇 高橋 聡、岩崎 徹、岩崎 倫明 神谷健太郎、小泉 信達、松原 忍 西部 俊哉、荻野 均
著明な左室機能低下に石灰化を伴う巨大左室内血栓を合 併した虚血性心筋症の一例を報告する。症例は
38
歳男性、無治療の糖尿病と脂質代謝異常があり、身長
165 cm、体重
90 kg
と肥満体型であった。呼吸困難等の心不全症状を発症し来院。心エコー上、LVDd 76 mm、EF 10%と著明な左室 拡大・低左心機能を認め、また左室内に
8 cm
大の可動性血 栓を認めた。CTでは血栓が接する左室壁の高度石灰化も認 めた。直ちに抗凝固療法を開始し、精査の後、可及的早期 に緊急手術として、左室内血栓摘出、左室形成(SAVE)手 術及び冠動脈バイパス2
枝を施行した。前下行枝の2 cm
側 壁で左室を切開し、内腔の巨大血栓を石灰化も含めて摘出 した。梗塞部を覆うようにパッチ形成を行い、左内胸動脈 を後側壁枝に、大伏在静脈を対角枝に吻合した。術後、急 性肺水腫を認めたため一時的にECMO
による体外補助循環 を要したが早期に離脱できた。その後の経過は良好であり、左室機能は改善し体重も
60 kg
まで低下した。3.
心臓手術後に血管内に迷入した遺残ペーシングリード(東京医科大学病院 心臓血管外科)
猪野 崇、岩橋 徹、鈴木 隼 藤吉 俊毅、高橋 聡、杉山 佳代 松原 忍、小泉 信達、西部 俊哉 荻野 均
背景
:
心臓大血管手術後の一時的心房心室リードを抜去 できないことは時々経験される。その際、途中で断裂して しまうことが少なくないが、残存してリードが問題を起こ すことは稀である。今回、われわれは残存したリードが血 管内に迷入した極めて稀な2
例を経験したので報告する。症例
1 : 66
歳男性。約1
年半前に狭心症に対して冠動脈 バイパス術を施行した術後経過は良好であったが、一時的 に置いた心房リードが完全に抜去できなかった。外来フォ ローアップ中、偶然心房表面にあったリードが右総頸動脈 内に迷入していることが発見された。血栓形成による脳梗 塞の可能性も考慮して、経カテーテル的に抜去する方針と した。右大腿動脈からアプローチし、カテーテルを右総頸 動脈に誘導した。アンプラッツ・グースネックスネアを使 用してリードの先端をキャッチして、リードを全長にわたっ て抵抗なく抜去できた。抜去直後にCT
を施行し、胸腔・縦1
東医大誌 74(4)
: 439
-440, 2016
東 京 医 科 大 学 雑 誌
─
440
─ 第74
巻 第4
号( ) 2
隔内に出血がないことを確認した。症例
2 : 81
歳女性。約1
年前に大動脈狭窄症に対して生 体弁による大動脈弁置換術を施行した。術後経過は良好で あったが、一時的に置いた心房リードが抜去できなかった。外来フォローアップ中、胸部
CT
にて遺残リードが上行大動 脈内に迷入していることが発見された。リードが上行大動 脈内で血管壁に固定されており、血栓形成や移動の可能性 も少ないと判断して、慎重に経過観察している。結語
:
心臓手術後に抜去できなかった一時的ペーシング リードが血管内に迷入した極めて稀な2
例を経験した。1例 は頸動脈内に迷入していたため経カテーテル的に抜去し、もう
1
例は上行大動脈内にとどまっているため慎重に経過 観察している。残存した一時的ペーシングリードが問題を 起こすことは稀であるが、重大な合併症につながりうる血 管内への迷入を来すことがあり、十分な注意が必要である。4.
家族歴を有する若年性洞不全症候群の一例(東京医科大学病院 循環器内科)
六本木瑠理、矢崎 義直、小林 紘生 廣瀬 公彦、金山 純二、齋藤友紀雄 臼井 靖博、里見 和浩、五関 善成 山科 章
【主訴】 眼前暗黒感
【現病歴】 30歳代、女性。20歳代より年数回の眼前暗黒 感を認めていたが、経過観察していた。2015年
12
月頃より 症状の頻度が週数回と増加したため近医を受診。ホルター 心電図にて10
秒間の洞停止を認めたため、当科紹介受診し、精査加療目的にて入院となった。
【既往歴】 16歳、甲状腺機能亢進症
【家族歴】 母、49歳で甲状腺機能亢進症、洞不全症候群 のため恒久的ペースメーカ埋込み。
【臨床経過】 入院時モニター心電図にて眼前暗黒感自覚 時に一致した
10
秒近い洞停止を頻回に確認した。心臓超音波、心臓
MRI、冠動脈造影を施行したが、いずれも異常所
見を認めなかった。運動負荷心電図では、負荷終了直後に 変行伝導を伴う頻脈性心房細動を認めた。心臓電気生理学 検査では、洞機能、房室伝導能の低下を認めた。心室性不 整脈は誘発されず、心房期外刺激にて再現性をもって頻脈 性心房細動が誘発された。恒久的ペースメーカ埋込み後、
ピルジカイニド負荷試験を行ったが、陰性であった。
【考察】 母親と同じ臨床経過を辿り、心房細動が再現性 をもって誘発された事から遺伝的素因の関与が強く疑われ た。若年性の洞不全症候群症例は、器質的心疾患の除外だ けでなく、家族歴の聴取も重要と考えられた。
5.
経皮的大動脈弁拡張術が外科的治療へ移行に有効であっ た高度大動脈弁狭窄症の一例(東京医科大学茨城医療センター 循環器内科)
大嶋桜太郎、東谷 迪昭、木村 一貴 阿部 憲弘、小松 靖、柴 千恵 田中 宏和
症例は
80
歳女性。高血圧症と脂質異常症で近医に通院中。2016
年4
月某日夜間に呼吸困難を自覚し救急受診。心エコー 上、収縮能は保たれていたが、大動脈弁に平均圧較差を130 mmHg
認め、大動脈弁狭窄症に伴う急性非代償性心不全と 診断し、ICUに入室の上、NPPV管理とした。しかし第2
病 日、安静時に増悪をきたし、コントロール不能と判断し、第
3
病日に経皮的大動脈弁拡張術を施行した。大動脈弁弁 口面積: 0.3 cm
2、平均大動脈弁圧較差: 98 mmHg
であり、18 mm
のバルーンで拡張。平均大動脈弁圧較差: 57 mmHg、
大動脈弁弁口面積
: 0.63 cm
2まで改善したため手技終了とし た。術後は著明に改善し、外科的治療を行う方針とした。リハビリテーション後、第
18
病日に退院。外科的治療へのブリッジとして有効であった経皮的大動 脈弁拡張術の一症例を経験したため報告する。
6.
奇異性塞栓に伴う下肢動脈急性閉塞を疑った一例(戸田中央総合病院 心臓血管センター内科)
渡邉 暁史、木村 揚、土方 伸浩 中山 雅文、佐藤 秀明、湯原 幹夫 竹中 創、小堀 裕一、内山 隆史
47
歳男性。右脛骨近位端骨折で入院中、第19
病日下肢静 脈エコーにて右ヒラメ静脈内血栓を認めた。既に足関節が 可動となっていた為リハビリテーション勧行とし、第33
病 日の下肢静脈エコーで血栓は消失し第38
病日退院となった。第
57
病日に労作時呼吸苦、翌日より左下肢の痺れと疼痛を 認め第60
病日当院受診し左浅大腿動脈(SFA)、右中葉およ び左上・下葉肺動脈、および右膝窩静脈に血栓像を認めた。同日
SFA
に対し血栓除去術および下大静脈(IVC)フィルター を留置し抗凝固療法を開始した。第68
病日経食道心エコー 検査で、卵円孔開存症(PFO)および右左シャントの存在が 証明され、SFA塞栓はPFO
を介した奇異性塞栓症によるも のと考えられた。PFOを有する奇異性血栓の再発予防とし て外科的、経カテーテル的閉鎖術についても検討したが、現在のところ閉鎖術が優れているという有用なエビデンス はない為、抗凝固療法のみで経過観察とした。