研究プロジェクト 人的資源の活用に基づく地域開 発モデルをアジア各国で探る 人的資源活用による 地域開発の可能性‑‑日本の高齢者雇用の事例紹介と アジア各国への適用を中心課題として
著者 加藤 巌, バンバン ルディアント, 杉本 昌昭, 古
岡 文貴
雑誌名 東西南北
巻 2008
ページ 234‑257
発行年 2008‑03‑15
URL http://id.nii.ac.jp/1073/00001378/
1──
はじめに本稿では岐阜県中津川市の一企業が始めた高齢者雇用の試みを取り上げる。こ の試みに関しては、すでに多くのマスコミで報道されている。
それを今回取り上げるのは、実施から 7 年が経過しようとするいま、高齢者雇 用が始まった前後の事情をあらためて精査し、その当初の「成功要因」と事業が 継続・発展している「持続要因」について考えてみたいと思ったからである。ま た、最近同社に対して行ったインタビューおよびアンケート調査の結果を公表し たい
(1)
。こうした事例紹介は、高齢者雇用とその関連分野に関心を持つ研究者 に、最近の高齢者雇用の進展と照らし合わせて活用していただけるのではないか と考えている。本稿は、上記のようなテーマ設定に沿って行うが、今後の研究の展開について も、あらかじめ触れておきたい。まず、今回の結果およびこれまでの調査結果
(2)
を元にして、先の岐阜県中津川市において2009年に2000人規模で高齢者の意識調 査を実施したいと考えている。したがって、今回の報告は今後に続く研究の端緒 となるものとして捉えている。つぎに、高齢者雇用の先行事例は同様の試みを始
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(1)2007年11月19日に実施した。
(2)2000年に岐阜県中津川市の委託を受けて、同市の高齢者約2000人を対象にした調査を実施した(有 効回答者は1213名)。詳しくは加藤巌「豊かな社会をめざして(1)」および「同(2)」和光大学社会 経済研究所『和光経済』第36巻第1号および2号をご参照いただきたい。
研究プロジェクト:人的資源の活用に基づく地域開発モデルをアジア各国で探る
人的資源活用による地域開発の可能性
日本の高齢者雇用の事例紹介とアジア各国への 適用を中心課題として
加藤 巌
所員/経済経営学部准教授バンバン・ルディアント
所員/経済経営学部准教授杉本昌昭
所員/経済経営学部講師古岡文貴
マレーシア国立サバ大学講師めようとする他社の参考になるのだが、先行事例を学ぶ他社というのは何も日本 国内企業に限らない。すなわち、高齢者雇用の事例紹介は、実は急速に少子高齢 化が進むアジア諸国でも大いに役立つだろうと考えている。こちらに関しては、
2008年にマレーシア国立サバ大学で実施される研究会で高齢者雇用に関する発表 を行い、現地の研究者と情報交換をしたい。その上で、マレーシアを含む複数の 国において関連する調査を実施したいと考えている。
後者の問題意識に関して念のために触れておくと、日本人一般のイメージでは、
東アジア、東南アジア、南アジアの各国とも子沢山で豊富な労働力が無尽蔵に供 給されると捉えられがちだが、実際には多くの国で急速な少子高齢化が進行して いる。例えば、2005年の日本の合計特殊出生率は1
.
26だったが、同時期に韓国と 台湾は1.
1、シンガポールは1.
2、香港は1.
0と、いずれも日本の数値を下回り、中 国やタイでもそれぞれ1.
8と1.
9と、その低下傾向が続いている(3)
。こうした出生 率の低下により、韓国、台湾、香港、タイ、中国ではすでに人口増加率(2005年)が1%を下回る水準となっている
(4)
。アジア各国では出生率の低下が続く一方、寿命の伸びが著しい。食生活の改善、
防疫や衛生手段の進歩、医療施設とサービスの整備、物資輸送手段の発達、保健 制度の充実、衛生概念の普及などを背景にして平均寿命が大幅に伸びており、そ の傾向は今後も続くものと考えられている
(5)
。タイの平均寿命は1950年〜55年 の51歳から2000年〜05年には69歳に、インドネシアでは同期間に38歳から69歳へ、中国では同じく41歳から72歳に伸びている
(6)
。こうしてアジア各国でも、少子 化の傾向と平均寿命の伸長が相まって「少産・少死」型の社会が出来上がりつつ ある。したがって、こうした国々は近い将来、日本と同様の社会問題を抱える可 能性が極めて高い(7)
。しかも、社会保障制度の十分に整わない段階で、少子高 齢化現象が発生しつつあり、この意味でも、アジア各国に日本の高齢者雇用の事 例紹介を行うことは喫緊の課題になっているといえるだろう。以下、本稿では我が国の少子高齢化と高齢者雇用の現状を簡潔に概観した後、
最近先述の企業に対して行ったインタビューを述べていく。あわせて同社で実際 に働く高齢者の方々にご協力いただいたアンケートの結果を取り上げる。ここで は、2000年に筆者らが実施した高齢者の意識調査との比較もしていきたい。そし て、最後に高齢者雇用がもたらす社会的な影響などを議論していく。
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(3)大泉啓一郎『老いてゆくアジア』中央公論新社、2007年、p.29。
(4)同上書、p.27。
(5)同上書、p.34。
(6)同上。
(7)誤解を生まないように補足説明をしておきたい。発展途上国において平均寿命が伸びたことは喜ば しい。本稿で問題視しているのは、それが社会保障制度の十分に整わない内に発生している点であ る。
2──我
が国
の少子高齢化
と高齢者雇用
の現状
総務省が2007年11月21日に発表した推計人口(11月1日付け概算値)によると、
我が国の総人口1億2779万人のうち、15歳未満人口は1740万人(総人口の13
.
6%)、 15〜64歳人口は8337万人(同65.
3%)、65歳以上人口は2682万人(同21.
0%)となっ ている。とくに65歳以上人口の中でも75歳以上の高齢者(後期高齢者)は1276万 人となり、総人口に占める割合が約 1 割に達している。1950年に始まった総務省 の調査で、この比率が約 1 割に達したのは初めてのことである(8)
。上記のデータを2000年と比べてみると、15歳未満人口は107万人、15〜64歳人 口は285万人、それぞれ減っている。その減少率は5
.
8%と3.
3%に達している。一 方、65歳以上人口は481万人増えて、増加率は21.
9%となっている。同様に、総 人口に占める割合は、15歳未満人口が1.
0ポイント低下したのに対して、65歳以 上人口は3.
7ポイント上昇している。昨年(2006年10月)の調査と比べてみても、15歳未満人口と15〜64歳人口がそ れぞれ減っている。とくに15歳未満人口については、 1 年間で15万人も減少して いる。一方、65歳以上人口は93万人増加している。こうして子供の数が減少を続 けており、総人口に占める高齢者の比率がほぼ一貫して上昇を続けている。確実 に我が国の人口構造は少子高齢型へと移行している。
こうした中、高齢者の就業者数は増加し続けている。高齢者のうち就業してい る人は2006年に初めて500 万人を上回り、2007年10月 時点で557万人に達してい る。前述のように65歳以上 人口は2682万人であるから、
高齢者の約21%、 5 人に 1 人が就業していることにな る。全国の就業者6424万人
(2007年)に占める割合も 8
.
7%となり、これは近い 将来10%超に達することも 予測され(9)
、そうなると、全国の就業者の10人に 1 人
──────────────────
(8)日本経済新聞2007年11月22日「75歳以上人口初の1割台に」。
(9)厚生労働省が2007年11月28日にまとめた推計を基に日本経済新聞社が将来の労働力不足を高齢者雇 用の促進で賄うように提言している。この提言によると、現在よりも高齢就業者数を300万人増やす ことが計画されている。日本経済新聞2007年11月29日「働く仕組み変革必要に」。
図表01 65歳以上の就業者数の推移(2003〜2007年)
出所:総務省統計局『労働力調査』2007年と『労働力調査(速報)』
2007年10月分より作成。
は65歳以上の高齢者という時代が到来することになる(図表01)。
高齢就業者(2006年の総数510万人)を産業別にみると「農林業」が115万人(高 齢就業者全体の22
.
5%)と 2 割強を占め最も多く、このほか、「卸売・小売業」(87 万人、同17.
1%)
、「サービス業」(86万人、同16.
9%)
、「製造業」(66万人、同12.
9%)で 1 割以上となっている
(10)
。高齢者が働く産業の推移を2003年から2006年でみると、「農林業」が25
.
8%か ら22.
5%に低下する一方、建物サービス業などの「その他の事業サービス業」の 増加により、「サービス業」の割合が14.
9%から16.
9%へと拡大している(11)
(図表02)。最後に高齢就業者が働く企業の規模を記しておこう(図表03)。高齢就業者の
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(10)総務省統計局『統計からみた我が国の高齢者』2007年9月16日を参照。
(11)同上。
企業規模 雇用者数(万人) 従業者規模総数に占める割合(%)
(従業員数) 2003年 2004年 2005年 2006年 2003年 2004年 2005年 2006年 1 〜29人 125 123 130 140 62.5 62.4 61.3 60.9 30〜499人 60 59 65 71 30.0 29.9 30.7 30.9 500人以上 15 15 17 19 7.5 7.6 8.0 8.3 計 200 197 212 230 100.0 100.0 100.0 100.0 注 :非農林業雇用者は「官公」を除く。
出所:総務省統計局『労働力調査』2007年より作成。
図表03 企業規模別に見た高齢者雇用の数および割合
30%
25%
20%
15%
10%
5%
0%
図表02 高齢者が働く産業の推移(2003〜2006年)
農林業
建設業
製造業
運輸業
2003年 2004年 2005年 2006年
卸売・小売業
不動産業
飲食店・宿泊業
医療・福祉 サービス業
その他
出所:総務省統計局『労働力調査』2007年より作成。
うち非農林業雇用者について、企業の従業者規模別(官公を除く)に見ると、1
〜29人規模の企業が140万人(非農林業雇用者の60.9%)、30〜499人規模が71万人
(同30
.
9%)、500人以上規模が19万人(同8.
3%)と、1 〜29人規模で約 6 割を占め ている一方、2003年からの推移をみると、30〜499人規模と500人以上規模で拡大 傾向を示している(12)
。すなわち、現状では 1 〜29人規模の企業で高齢就業者の 6 割が働いていることとなる。3──
(株
)加藤製作所・加藤景司社長
へのインタビュー2007年11月19日、岐阜県中津川市に株式会社(株)加藤製作所を訪れた。同社 は自動車や家電などの部品を製造する中堅部品メーカーである。主力商品は三菱 自動車のパジェロの車体部品、高速道路上の防音設備、ファンヒーターのタンク、
さらに金型製作などである。また、エレベータの保守点検を主力事業とするグル ープ企業を持っている。その歴史は古く、江戸時代の刀鍛冶にまでさかのぼる。
この伝統から、いまでも正月明け最初の事業日には、鉾をうち、神棚に祭ってい る。鉾の形は毎年少しずつ異なったものという。
現在の同社は高齢者雇用のパイオニア企業としても有名である。2001年4月に 始まった高齢者雇用は同社専務加藤景司氏(現在は代表取締役社長)が社内にプロ ジェクトチームを立ち上げて実施にこぎつけた。その加藤社長にインタビューを 行った。以下はインタビューの内容(一部、以前に行ったものも含む)を再現した ものである。
[高齢者雇用の始まりときっかけ]
現在の社員数は96名です。うちシルバーさんは40名です。シルバー(高齢 者)雇用を始めたきっかけは、如何にして売り上げを伸ばすかを熟考した末 に、そうだ、土曜と日曜にも工場を稼働させようと思いいたったことです。
当時、取引先からはコストダウンを厳しく要求されていました。毎日、どう やって機械設備の稼働率を上げ無駄を省き、利益率を向上させていくのかを 考えていたわけです。
それでは土曜と日曜の工場をいったい、だれに動かしてもらうか。それを 考えていた時、地元高齢者の意識調査の結果を教えていただき、中津川市に は、働きたいけれど、働く場がない高齢者の方が大勢いると知りました。こ れだと思って早速、社内で検討に入り、2001年春にシルバーさんの募集に取 り掛かりました。
──────────────────
(12)同上。
[高齢者の募集方法について]
ご存じのように、地元の広告プランナーに依頼してカラー刷りのチラシを 作りました。チラシの写真(田んぼで農作業の合間におばあちゃんがにっこりと ほほ笑む写真)は、うちの社員が撮ったものです。チラシのキャッチコピー は「土曜、日曜は、わしらのウィークデイ」としました。チラシに掲載した 募集条件は「意欲のある人求めます。ただし、年齢制限あり。60歳以上の方」
と「時給800円以上。勤務日は土・日曜、祝日」です。きちんと作成した、
このチラシが大きなインパクトを持っていました。当初の募集人数は10人程 度を考えていました。
[応募状況について]
作ったチラシを新聞の折り込み広告に使ったその日(折り込み広告が入った 日)は、朝 7 時過ぎから会社の電話がジャンジャン鳴り始めて大変でした。
最終的に100名を超える応募があって、ひとりひとり面接しようと思ってい た予定が崩れました。結局、応募してくださった皆さんに集まっていただき、
求人説明会みたいなものを開きました。
[採用について]
応募していただいた全員の方とお話をさせていただきました。社内でも 色々と考えて最終的に60歳から80歳までの男女15名の方を採用しました。決 して「即戦力」といった観点から人選したわけではありません。それよりも、
個々の方の事情、そして職場への適性とか適応能力に重点を置いて採用した つもりです。
それぞれの方の経歴はそれこそ千差万別で、ご主人に先立たれて一人暮ら しをしている女性の方で手に職のない方もいれば、一方で、昔の国鉄で技術 職だった方もいるといった感じです。職歴だけでいえば、工場で働いた経験 者は多くはなかったです。例えば、魚屋さんとか大工さん、元証券マンもい ました。
[最高齢80歳代の女性について]
採用時に最高齢79歳の女性は元気な方で、バイクに乗って会社にいらっし ゃいました。この方には、週末のシルバーさんの昼食の配ぜんやお茶だしを 担当してもらうことにしました。
結果として、最高齢の方が他のシルバーさん達のお世話をすることは良か ったと思います。彼女の存在は、他のシルバーさん達の励みになったようで すし、その方の性格もあるのかも知れませんが、週末の食堂の雰囲気が随分 と明るくなったように思います。もし、若い社員や外部業者に週末の食堂運
営を任せていたら、こうはならなかったと思います。高齢者の方どうしの話 題や悩み事相談などもあったと思います。
シルバーさんのことはシルバーさん自身が一番知っているわけですから、
高齢者の方のお世話は、高齢者の方がするのが最適なわけです。若い世代が 高齢者を支えるという考え方からは、逆転の発想と言えるかも知れません。
[休日も稼働している「コンビニ工場」となった経営上の利点について]
年商が当初の15億円から、現在は20億円近くまで増えてきました。土曜と 日曜、祝日を合わせると 1 年間に110日間も休日があります。これまで休日 は工場を休止していたのですから、もったいないことでした。いまは365日 間を通じてほぼ休みなく工場を動かしているわけですから、稼働日は単純に 言って 3 割程度増えたことになります。
実際は、工場の稼働日が 3 割増えて売り上げが 3 割増えたというシンプル な話ではないのですが、シルバー雇用がその大きな原動力であることは間違 いありません。
当初、シルバーさんには土曜と日曜に限って働いてもらっていましたが、
現在は全日、普通の社員と同じように働いてもらっています。このこともあ り、4 年後には年商30億円を目指しています。
[高齢者を受け入れるには何が大事か]
高齢者を生産の現場で受け入れるには、工場内のバリアフリー化など技術 的なことはもちろんですが、高齢者の受け皿企業として最も大事なものは、
その社風だと思います。まず、企業は高齢者を単なる安価な労働力として見 てはいけません。企業側が献身的でなければなりません。その企業で長く勤 めていただく土壌を作っていかなければならないのです。その企業で働くこ とが、高齢者の方のいきがいとなる必要があると思います。
ある女性シルバーさんが市内の他社さんの求人に応募したそうです。仕事 の中身はお客さんの利用するトイレを掃除することだったそうです。地元の お店ですから、友達なんかもやって来るわけで、かなり抵抗感があったので はないかと思います。しかも、その仕事も毎日あるわけではなく、他の高齢 者の方と分担していて、週のうち 2 回ぐらいしか回ってこないそうです。
高齢者の方が誇りを持って働ける企業内の雰囲気がとても大事だと考えて います。
[高齢者雇用のモデル企業とされることに関して]
我が社は随分とマスコミでも取り上げていただき、高齢者雇用のモデル企 業と目されるようになりました。その結果、岐阜県からの委託で、働く意欲
を持つ高齢者の方々を我が社が受け入れ(高齢者雇用を実体験してもらう)事 業を始めています。
つい最近も(株)加藤製作所で 2 ヶ月間の研修を受けた高齢者の方が他社 に就職していきました。いわば、高齢者大学企業版といったものではないで しょうか。
一方で、中津川市役所からも公務員の方を 1 ヶ月間程度受け入れて、高齢 者雇用の実際を見ていただくことなども始まりました。
こうした高齢者雇用についてのモデル企業が県内に複数あれば良いと思い ます。そうすれば、モデル企業で現場を実地に学んだシルバーさんであれば、
他の企業に行っても働き始めやすいですよね。そのシルバーさんが移った先
(新たに入社した企業)で、高齢者雇用のノウハウをその会社の経営者に伝え ることもできますから。つまり、シルバーさんが「シルバー雇用をする企業 経営者」を育てることにもつながります。
[社内・社員への影響]
高齢者雇用を始めてから、「会社が社会に貢献している」「世間が自分たち を見ていてくれる」という意識が従業員の中で芽生えていったように思いま す。ある意味で、若い従業員の誇りになっていると言って良いかも知れませ ん。
(株)加藤製作所ではこれまで三菱自動車のパジェロの車体部品を作って きました。私たち(社員)は、例えば、街中でパジェロが走っている姿を見 て、自分達はその部品を作っているんだぞと誇りに思っていましたが、道行 く人の誰も気が付いてくれないわけです。製造業としての自分達の仕事は誰 にも知られていません。下請けの寂しいところです。大袈裟かも知れません が、自らの仕事や会社の社会的存在意義を実感しにくかったといえます。と ころが、シルバーさんに働いてもらうようになってからは、直接、高齢者の 方々にも感謝されるし、地元でも好意的に取り上げられるしで、何やら社会 貢献しているという実感が持てるようになりました。そして、世間の方が我 が社の高齢者雇用に関心を持つ時は、たいがい会社で作っている製品にも関 心を払ってもらえるわけです。元々、技術には自信がありますので、その技 術水準の高さも語る機会を持てたということです。
この直接の影響とは言いませんが、最近、ボーイング社から新型機「ボー イング787」の燃料タンクに使用される約100種類の部品の受注に成功しまし た。今後数年間は継続する仕事です。恐らく岐阜県内の企業では唯一ではな いかと思います。そこで、さまざまな意味合いで、高齢者は企業に誇りと元 気を与えてくれる主役に成り得るといえるかも知れません。
[高齢者の(技術)顧問団について]
シルバーさんには製造ラインで働いていただくだけではありません。(株)
加藤製作所には 8 人からなる顧問団があります。この 8 人は、安全管理、製 造技術、会計などの専門家です。全員が高齢者です。私たちの考え方は、社 内に無いものは、高齢者から教えてもらおう、補っていただこうというもの です。来年からはトヨタ自動車を退職する方からトヨタ生産方式を教えてい ただきたいと考えています。近い将来、同社の生産方式を社内に導入する予 定です。
[雇用形態の多様化について]
いまは、高齢者雇用に世間の耳目が集まっていますが、今後、企業の雇用 形態は益々多様化していくのではないでしょうか。地方にある企業こそ、そ の先端を走っていくべきではないかと考えています。現在、(株)加藤製作 所では中国からの研修生 3 名を受け入れています。これからは高齢者雇用を 軸としつつ、外国人研修生、女性の活用なども考える必要があると思います。
同時に、工場内の自動化、産業用ロボットの導入なども、いま以上のスピー ドで取り組んでいかなければなりません。
[高齢者活用の広がりについて]
誰にでも「人の役に立ちたい」「社会に貢献したい」という欲求があるの ではないでしょうか。現在の世の中は、精神構造の二極化が問題となってい るように感じます。規律なき資本主義が行き過ぎた利己主義を生み出してい るようです。多くの人が持つ利他主義を生かす機会と場が必要で、その一つ が高齢者雇用の現場ではないかと思います。
4──高齢者雇用
が始
まる前年
の調査
について(株)加藤製作所における高齢者雇用は2001年に始まった。前記の加藤社長い わく、その際にきっかけを与えてくれたのは、中津川市から委託を受けて筆者ら が実施した地元高齢者に関する意識調査の結果であった。ここにその概略を述べ ておきたい。
調査は、中津川市の委託を受けた中京学院大学東濃地域総合研究所(以下、東 濃総研)が行った。調査期間は、2000年 8 月30日から同年 9 月30日であった。
調査対象としては、中津川市在住の60歳から75歳を中心とした高齢者2155人を 住民基本台帳より無作為抽出した。年齢階層を60歳から75歳を中心に絞り込んだ のは、その後の10年から25年間にかけて急速に進む高齢化社会へ直接影響をもた らす人々の生活意識、行動様式、社会観などを探ろうとしたからである。
また、調査対象者数を2155人としたのは、中津川市在住の同年齢階層(約 1 万人)
のおよそ 2 割に相当するからである。
こうして無作為抽出された2155人に対しては、東濃総研から無記名式アンケー ト調査票を郵送した。その結果1226通の回答を得、うち有効回答数は1213通であ った。従って、有効回答率は56
.
3%となった。調査の正式名称は『中津川市の高齢者の「生きがい」と地域活動・生涯教育の あり方についてのアンケート調査』で、アンケート調査の分析結果を通じて、中 津川市在住の高齢者ひとりひとりがゆとりを持って生き生きと暮らせる、豊かな 地域社会の実現に寄与することを目的としていた。
中津川市における高齢者の年金について
有効回答者のうち、年金を受け取っていると答えたのは全体の86
.
1%に相当す る1013人であった。逆に受け取っていないと答えたのは、164人(13.9%)であっ た。上記回答者の年金受給額をみると、0 円(受け取っていない)から30万円以上ま で幅広く回答が分かれてお
り、その個人差が大きい。
図表04のごとく、「5万円未 満 」 の 受 給 者 は 1 4 6 人
(12.4%)である。つづいて、
「5〜10万円未満」の受給者 が269人(22
.
9%)、「10〜20 万円未満」が274人(23.
3%)、「20〜30万円未満」が285人
(24.2%)、「30万円以上」が 39人(3
.
3%)となっている。四階層・二極分化している年金受給
中津川市における上記の回答を概観すると、おおよそ、60歳以上の住民100人 のうち、26人が 5 万円未満の年金、および22人が10万円未満の年金である一方、
23人が10万円を超える年金、24人が20万円を超える年金、さらに 3 人が30万円を 超える年金を受取っていることとなる。年金受給の少ない方から、26人(無受給 を含む)、22人、23人、27人(30万超を含む)といった割合で四階層に分かれてい ることがわかる(図表05)。
また、四階層を上下二つに分類すると、10万円という年金額を境にして回答者 数を579人と598人に分けることができる。年金受給額が明らかな回答者は1177人 なので、その構成比でみると、10万円未満の年金受給者は49
.
2%、10万円以上の1ヶ月の受給金額 人数 構成比
0円
(受給していない)
164 13.9%5万円未満 146 12.4%
5〜10万円未満 269 22.9%
10〜20万円未満 274 23.3%
20〜30万円未満 285 24.2%
30万円以上 39 3.3%
総計 1177 100.0%
図表04 中津川市の高齢者(60歳以上)の年金受給額
(2000年)
出所:『中津川市の高齢者の「生きがい」と地域活動・生涯教育のあ り方についてのアンケート調査』2001年より作成。
年金受給者が50
.
8%となる。こうしたことから、本調査 の回答者については、年金 受給額が四階層・二極分化 していると言える。
ついで、年金の受給額と 高齢者の就労希望の関係を 見ておこう(図表06)。回答 者のうち、無職の高齢者は 645人で、うち就労を希望す る高齢者は111人(17
.
2%)で ある。これを年金受給階層 別に見ると、年金額にかか わらず、どの階層でもほぼ 15%以上が就労を希望して いる。月額30万円以上の受 給者の場合、経済上の理由 ではなく、なにか「生きが い」を求めての就労希望で あろう。しかし、とりわけ「年金無 受給」者で21
.
8%、また「 5〜10万円未満」層で21
.
0%が 就 労 を 希 望 し て い る の は 、 ある程度生活上の理由から であることが推測される。ここでも年金受給額による高齢者の二極分化が見てと れよう。比較的高い就業率
就業状況では、年齢階層別で大きな違いが見られる。すなわち、60歳〜64歳の 年齢階層では仕事をしている割合は54
.
9%であるが、年齢階層が上がるにつれて 割合が小さくなり、75歳以上では26.
0%になっている。ここで、回答者の年齢階 層を大きく二つに分けて60歳〜64歳の年齢階層と65歳以上の年齢階層に分類し再 計算すると、先述のように60歳〜64歳の年齢階層では仕事をしている割合は 55.
1%であり、65歳以上の年齢階層のそれは36.
0%となる。また、男女別でみる と、男性は60歳〜64歳で就業している割合は71.
8%、65歳以上では49.
5%となっ ている。女性は60歳〜64歳で就業している割合は40.
6%、65歳以上では23.
9%と1ヶ月の受給金額 就労希望者 階層内の比率
0円
(受給していない)
12 21.8%5万円未満 13 14.9%
5〜10万円未満 30 21.0%
10〜20万円未満 29 17.5%
20〜30万円未満 24 14.6%
30万円以上 3 15.8%
総計 111 9.2%
図表06 無職高齢者の就労希望(年金受給階層別)
出所:『中津川市の高齢者の「生きがい」と地域活動・生涯教育のあ り方についてのアンケート調査』2001年より作成。
50 100 150 200 250 300 人
出所:『中津川市の高齢者の「生きがい」と地域活動・生涯教育のあ り方についてのアンケート調査』2001年より作成。
0円 5万円未満 5〜10万円未満 10〜20万円未満 20〜30万円未満 30万円以上
第4階層
27.5%
第3階層
23.3%
第2階層
22.9%
第1階層
26.3%
10万 円未 満 57 9人
10万 円以 上 59 8人
図表05 中津川市の高齢者(60歳以上)の年金受給額
(有効回答数1177人:岐阜県中津川市2000年)
なっている(図表07)。
これらを全国的な数値と比較してみる。まず、60歳〜64歳の年齢階層中に占め る就業者(1998年度の総務庁統計局データ:以下同じ)の割合はおよそ52
.
7%となる。中でもこの年齢階層の男性で仕事をしている割合は67
.
3%となっている。ついで、65歳以上の就業者の割合は23
.
2%で、男女別では、男性の就業率が 34.
6%、女性の就業率が15.
0%になっている。2000年調査分の結果は調査対象者の75歳以上サンプル数が少なく注意を要する が、それぞれの数値を全国平均と比べると高い値を示している。すなわち、中津 川市では年齢階層、男女別の両方で高齢者の就業率が全国平均よりも 2 ポイント から10ポイント強ほど高くなっている。
就業していない高齢者の高い就業希望意欲
調査では「就業していない」高齢者は645人であった。このうち「就業を希望 する」割合は17
.
2%(111人)であった。一方で、大多数を占める73.
0%(471人)は「就業を希望しない」と回答している。なお、この設問では無回答者の割合も 9
.
8%(63人)と比較的高い比率となっている(図表08)。では、上記の結果をもって、中津川市における高齢者の就業希望意識は低いと 言えるのか。
性 別 男 女
年 齢 回答者 就業者 就業率 回答者 就業者 就業率
中津川市 60〜64 195 140 71.8% 224 91 40.6%
65以上 374 185 49.5% 414 99 23.9%
計 325 190
全 国 60〜64 373 251 67.3% 398 155 38.9%
65以上 856 296 34.6% 1199 180 15.0%
計 547 335
図表07 高齢者の就業率(中津川市と全国)
注:中津川市は、上記以外に性別不明者が6名いた。中津川市の回答者は60歳から75歳を中心としている。
注:全国の調査対象は60歳以上の高齢者全体。全国は、総務庁統計局編『日本の統計』より作成。
73.0%
希望しない
17.2%
希望する
9.8%
無回答
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100%
図表08 無職高齢者(645人)の就労希望
出所:『中津川市の高齢者の「生きがい」と地域活動・生涯教育のあり方についてのアンケート調査』
2001年より作成。
実は、全国規模のデータと比較対照してみると全く逆の結果が見えてくる。す なわち、中津川市における高齢者の労働力人口比率は全国平均を上回り、また、
その就業希望も強いことがわかってくる。
高い労働力人口比率と強い就業意欲
総務省が行う『労働力調査』の定義では、就業者数と完全失業者数を合わせた ものを「労働力人口」と呼んでいる。そして、この労働力人口に対する完全失業 者(就業を希望しているが職のない人=就業希望者)の割合を完全失業率としている。
この定義に従って、今回の調査から労働力人口をもとめると、先の就業者519 人に就業希望者111人を足した630人となる。そして、有効回答者数1213人を母数 とする中津川市の「労働力人口比率」を計算すると51
.
9%となる。また、ここか ら完全失業率は17.
6%に達していることがわかる。全国の60歳以上の高齢者を対象とした調査(総務省調べ:1998年)では、その労 働力人口は924万人で、労働力人口比率は32
.
6%となっている。同じ年、全国平 均で60歳以上の完全失業率は約4.
7%であった。この調査では75歳以上のサンプル数が少ないが、その点を考慮に入れてもなお、
当市の労働力人口比率は全国平均のそれを大きく上回っている。一方で、中津川 市では全国平均よりも3
.
7倍も高い60歳以上高齢者の完全失業者を抱えているこ とも見て取れる。以上から指摘されるのは、当市では、高い労働参加意識を持つ高齢者が比較的 多いのに、それに見合う高齢者向け労働市場が育っておらず、潜在的な(高齢者)
労働力が放置されている現状である。
さらに、総務省の全国調査(1997年)によれば、仕事の無い65歳以上の無業
(無職)高齢者のうち、就業を希望する人の割合は9
.
2%で、残りの90.
8%の人々 は就業を希望していなかった。調査対象者の年齢に違いがあるとはいえ、調査か ら出てきた中津川市の高齢者の就業希望率は17.
2%であり、全国平均を大きく上 回っている。現在の生きがい(楽しみ)について
現在の生きがい(楽しみ)を聞いたところ、最も多かったのは「園芸」であり 396人(回答率32
.
6%であった)(図表09)。これは、回答者の 3 人に 1 人が選択して いる。次いで「旅行」という回答が多く、366人(30.2%)となっている。こちら も回答率が30%を上回っている。その後は「テレビを見たり、ラジオを聞くこと」が314人(25
.
9%)、「家族との 団欒や家族の面倒を見ること」が279人(23.
0%)となっている。これら上位 4 項 目のみが20%を超える回答率となっている。残りの項目に対する回答は、「近場 の温泉や名所巡り」の18.
4%から「シルバー人材センターの活動」の0.
3%まで幅広い。
多様化する高齢者の生きがい
上記の設問に対しては、多くの項目に対して回答が幅広く配分されている。確 かに上位四つの項目に関しては回答率が20%を超えており、高齢者の生きがい
(楽しみ)は、ある程度の偏りを見せている。しかし、上位四項目が他の項目と どのように組み合わされ選択されているのかを調べてみると、高齢者の興味が個 別化していることがわかる。組合せで最も多かったのは「園芸」と「旅行」の組 合せで103人(8.5%)である。ついで多い組合せとなったのは、「園芸」と「家族 との団欒や家族の面倒を見ること」の組合せで90人(7.4%)となっている。これ 以降の組合せは、高い回答率を持つものが見当たらない。回答率自体も低水準で あり、個々の高齢者は多様な楽しみの組合せを生み出している。
すなわち、おおむね人 気のある最上位四項目の 内どれかを選択する高齢 者が多いのだが、それに 組み合わせる次の「楽し み」と、さらにその次の
「楽しみ」の選択が多様 となっているのである。
例えば、「旅行」を生き がい(楽しみ)として選 択した回答者は、それに 組み合わせるものとして
「近場の温泉や名所巡り」
86人(7
.
1%)が多くある 一方で、単独では低い回 答率の「宗教・政治活動」や「シルバー人材センタ ーの活動」との組合せに も一定水準の選択が寄せ られている。こうしたこ とからは、幅広い興味を 持つ高齢者の姿が浮かん でくる。
一方、年金受給額が全 国平均を下回る人が多い
計 回答率
園芸 396 32.6%
旅行 366 30.2%
テレビを見たり、ラジオを聞くこと 314 25.9%
家族との団欒や家族の面倒を見ること 279 23.0%
近場の温泉や名所巡り 223 18.4%
仕事(収入を伴うもの) 219 18.1%
家事(料理などを含む) 140 11.5%
散歩 133 11.0%
俳句・書道・絵画などの創作活動 122 10.1%
読書 112 9.2%
稽古事や習い事 112 9.2%
ゴルフ・釣り・ゲートボールなど 111 9.2%
町内会や老人会などの付き合い 104 8.6%
手芸・工芸・染色 101 8.3%
カラオケ 87 7.2%
ボランティア活動や地域活動 82 6.8%
スポーツを見ること 81 6.7%
サークル活動 72 5.9%
ペットの飼育 57 4.7%
特に楽しみはない 48 4.0%
その他 44 3.6%
社会人向け公開講座や講演を聞くこと 39 3.2%
食べ歩き 38 3.1%
パチンコやゲームなど 37 3.1%
パソコンやインターネット 35 2.9%
宗教・政治活動 35 2.9%
映画や演劇 26 2.1%
シルバー人材センターの活動 4 0.3%
複数回答 総計 3417
図表09 高齢者(60歳以上)の現在のいきがい(楽しみ)
注 :回答は1人3つまで選択可能な複数回答形式。
出所:『中津川市の高齢者の「生きがい」と地域活動・生涯教育のあり方 についてのアンケート調査』2001年より作成。
中、18
.
1%の回答率を持つ「生きがい」が「仕事(収入を伴うもの)」となってい ることにも目がいく。今後学んでいきたいこと
今後学んでいきたいと考えている項目は「健康管理」が、他の項目を大きく引 き離している(図表10)。最も多い回答は「健康管理」で、回答率は64
.
9%であっ た。ついで、「趣味の稽古事、習い事」(回答率 34.7%)、「インターネッ ト な ど パ ソ コ ン 関 係 」
(26
.
8%)、「一般的な教養」(22.6%)、「郷土の歴史や 文化」(18.5%)、「環境問 題」(14.0%)、「生活技術」
(9
.
9%)、「財産運用・相 続問題」(7.9%)、「自分 史 な ど の 文 章 を 書 く 」(7.5%)、「外国語」(5.3%)、
「各種資格を取ること」
(0.9%)などと続いてい る。
将来の最大関心事は「健康管理」だが、「インターネットやパソコン」にも興味 この設問に対する回答で顕著な点は、「健康管理」が他の項目を引き離して高 い回答率であったことである。
前問の「現在の生きがい(楽しみ)」では回答項目に対する選好にばらつきが 見えたが、ここでは第一位の項目「健康管理」が圧倒的である。ちょうど、中津 川市における「住みやすい」理由で「住み慣れているから」という回答が他項目 を大幅に上回る回答率(78.7%)を見せたことと回答傾向が似通っている。実は、
複数回答項目で、第一位の回答率とそれ以外の回答率が大きく乖離したのは、こ の「住み慣れているから」と、「健康管理」の二つのみであった。
両者の関連から考えられる高齢者像を描き出してみると、長年住み慣れた土地 で住居を持ち、周りには家族や友人・知人がおり、現在、それなりの生きがいや 楽しみを持って落ち着いて暮らしている。そこで、新たな楽しみを見つけるより も、どちらかというと身近な事柄に関心が向かう傾向にあるといった高齢者の姿 が浮かんでくる。
さらに、この高齢者像を補足するのは、回答の中で二番目に高い回答率であっ
計 回答率
健康管理 702 64.9%
趣味の稽古事、習い事 375 34.7%
インターネットなどパソコン関係 290 26.8%
一般的な教養 245 22.6%
特に学びたいことはない 208 19.2%
郷土の歴史や文化 200 18.5%
環境問題 151 14.0%
生活技術 107 9.9%
財産運用・相続問題 86 7.9%
自分史などの文章を書く 81 7.5%
外国語 57 5.3%
その他 15 1.4%
各種資格を取ること 10 0.9%
複数回答 総計 2527
図表10 高齢者(60歳以上)が今後学びたいこと
注 :回答は1人3つまでの選択可能な複数回答。
出所:『中津川市の高齢者の「生きがい」と地域活動・生涯教育のあり方 についてのアンケート調査』2001年より作成。
た「趣味の稽古事、習い事」である。これは新たな楽しみというよりも、現在の 楽しみを継続していこうという意思の表れと考えられるからである。
また、回答を回避した人が132人(全体の10
.
9%)いた点と、これから(新しく)「特に学びたいことはない」という回答が208人(回答率19
.
2%)あった点にも目を 向けたい。両者の合計は340人であり、これはアンケート回答者全体(1213人)の 28%に相当している。つまり、今回調査で全体の28%の高齢者は、「将来学びた い事柄」の選択に対して明らかに興味を示していないのである。このことは、「現状」に満足している高齢者が多いことを想起させる。
結局、高齢者の定住率が高い(居住年数が長い)地域社会においては、高齢期 を迎えた人々の将来にわたる最大の関心事が「健康管理」など自分自身の内向き の対象に向かうことは、ある程度当然の帰結とも言えるだろう。
ただし、上記のような高齢者像が想起される中で、選択肢中の「インターネッ トなどパソコン関係」に一定の回答率が集まったことは注目に値する。前問で尋 ねた「現在の楽しみ」では、「パソコンやインターネット」と回答したのは35人
(回答率2
.
9%)であったが、「将来学びたい事柄」では「インターネットなどパソ コン関係」に280人(回答率26.8%)の回答があった。ここまで述べてきたように、高齢者の回答傾向からは、新しい興味を積極的に見つけていくという姿勢はほと んど見られないのだが、「インターネットなどパソコン関係」だけは例外となっ ている。
この例外を生み出しているのは、高齢者が「
I T
時代」に乗り遅れないように したいと考えているのか、もっと積極的に学びたいという意識があるのか、本調 査からは判然としないが、今後大いに興味深いものになるであろう。現状では、行政をはじめ、地域の教育機関などは「インターネットなどパソコ ン関係」の分野で、高齢者が今後の大きな潜在的な市場であることを認識し、そ の対応を早急にとることが求められる。単に、高齢者向けパソコン講座などを開 催するだけではなく、この分野で高齢者が求めるものを事前調査することや、高 齢者の日常生活の中でどのように利用していくのかといったことを提案すること が大切であろう。
高齢者の考える高齢化社会のあり方
高齢者自身が考える高齢化社会で望ましいものは、「先端文化に触れられなか ったり、刺激はないけれど、静かで落ち着いた社会が望ましい」という答えが最 も多く、全体の48
.
3%(586人)となっている(図表11)。反対に、「競争があり、せわしいけれど、刺激があって活動的な社会が望ましい」という回答も20
.
8%(252人)あった。さらには、「どちらとも言えない」という答えが26
.
1%(316人)あった。なお、無回答者は4
.
9%(59人)であった。男女を問わず高齢者の半分が「落ち着いた社会」を希望する一方、
男性の25%、女性の16%は「活動的な社会」を希望
男女別に、望ましい高齢化社会の回答を分類すると、「競争があり、せわしい けれど、刺激があって活動的な社会が望ましい」を選択したのは、男性(569人)
のうち25
.
5%(145人)、女性(638人)のうち16.
5%(105人)に達している(図表12)。 男女別で 9 ポイント程度の開きが出ている。男性では 4 人に 1 人が、この回答を 選択している。ついで、「先端文化に触れられなかったり、刺激はないけれど、静かで落ち着 いた社会が望ましい」を選択したのは、男性の46
.
0%(262人)、女性の50.
5%(322人)となっている。こちらは女性の方が4ポイントほど高い比率を示している。
また、「どちらとも言えない」では、男性の24
.
3%(138人)、女性の27.
7%(177人)が選択をしている。回答の数値からは、比較的男性の方がより「活動的な高齢化 社会」を望んでいると言える。但し、男女の違いを問わず、全体の半分は「静か で落ち着いた社会」を望ましいとしている。
男 女 不明 総計
競争があり、せわしいけれど、刺激があって活動的な 145 105 2 252 社会が望ましい
先端文化に触れられなかったり、刺激はないけれど、 262 322 2 586 静かで落ち着いた社会が望ましい
どちらとも言えない 138 177 1 316
無回答 24 34 1 59
総計 569 638 6 1213
図表12 男女別に見た高齢化社会のあり方
出所:『中津川市の高齢者の「生きがい」と地域活動・生涯教育のあり方についてのアンケート調査』
2001年より作成。
48.3%
先端文化に触れられなかったり、刺激は ないけれど、静かで落ち着いた社会が望 ましい
20.8%
競争があり、せ わしいけれど、
刺激があって活 動的な社会が望 ましい
26.1%
どちらとも言えない 4.9%
無回答
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100%
図表11 高齢者の考える高齢社会のあり方
出所:『中津川市の高齢者の「生きがい」と地域活動・生涯教育のあり方についてのアンケート調査』
2001年より作成。
年金受給額が多いほど「競争があって活動的な社会」を望む
「高齢化社会のあり方」に関する考え方と年金受給額の関係を見ると、年金の 受給額が増えていくと「競争があって活動的な社会」を選ぶ比率が高くなること に気が付く(図表13)。「競争があって活動的な社会」を選ぶのは、月額「30万円 以上」の年金を受取っている回答者(無回答者も含む:以下同じ)では38
.
5%(15 人)、「20万円〜30万円未満」では22.
5%(64人)、「10万円〜20万円未満」で21.
2%(58人)、「5万円〜10万円未満」で17
.
8%(48人)、「5万円未満」で16.
4%(24人)、「年金受給していない」で19
.
0%(31人)となっている。年金額の基礎年金部分以外は、高齢者の現役時代の収入に比例したものである ので、受給する年金額に応じて「競争があって活動的な社会」を選ぶ回答率に増 減が見られるのは、高齢者の現役時代の社会環境が大きく影響しているものと考 えられる。特に30万円以上の年金を受け取っている回答者では、「競争があって 活動的な社会」を選択した人が15人で、「静かで落ち着いた社会が望ましい」と した回答者数13人を上回っている。現役時代の収入が大きかった人の社会観を知 る上で興味深い結果となっている。
こうした一方で、受給している年金額の多寡に拘わらず、ほぼ一定の割合で
「刺激はないけれど、静かで落ち着いた社会が望ましい」は選択されている。「30 万円以上」の年金額を除く、どの年金階層でもほぼ同程度の回答率が得られてい る。すなわち、月額「30万円以上」の年金額を受け取っている回答者では33
.
3%、「20万円〜30万円未満」では49
.
1%、「10万円〜20万円未満」で48.
2%、「5万円〜10万円未満」で49
.
8%、「5万円未満」で54.
1%、「年金受給していない」で46.
6%となっている。
高齢者の考える「社会の平等と格差」
高齢者の考える「社会の平等と格差」では、「老後の生活は、職業の経歴や生 活観が人それぞれなので、格差があっても当然である」という回答が全体の 18
.
6%(226人)あった(図表14)。また、「老後の生活は、できるだけ平等である30万円 20〜30万 10〜20万 5〜10万 5万円 受給して 不明 以上 円未満 円未満 円未満 未満 いない 競争があり、せわしいけれど、 38.5% 22.5% 21.2% 17.8% 16.4% 19.0% 32.4%
刺激があって活動的な社会が 望ましい
先端文化に触れられなかった 33.3% 49.1% 48.2% 49.8% 54.1% 46.6% 32.4%
り、刺激はないけれど、静か で落ち着いた社会が望ましい
どちらとも言えない 23.1% 26.3% 24.8% 25.3% 27.4% 30.1% 18.9%
無回答 5.1% 2.1% 5.8% 7.1% 2.1% 4.3% 16.2%
総計 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0%
図表13 高齢化社会のあり方と年金受給額の関係
出所:『中津川市の高齢者の「生きがい」と地域活動・生涯教育のあり方についてのアンケート調査』
2001年より作成。
ような社会が望ましい」という回答には63
.
9%(775人)の回答が、さらに、「ど ちらとも言えない」には13.
4%(162人)の回答があった。「無回答」は4.
1%(50 人)であった。男女を問わず「できるだけ平等な社会」を希望する一方、
男性の24%、女性の14%は「社会的格差」を容認
男女別に、「社会の平等と格差」についての回答を分類すると、「老後の生活は、
職業の経歴や生活観が人それぞれなので、格差があっても当然である」を選択し たのは、男性のうち23
.
7%、女性のうち14.
1%に達している。先の高齢者自身が 考える望ましい社会の設問と同様に、男女別で 9 ポイント強の開きが出ており、男性では 4 人に 1 人弱が、この回答を選択している。
ついで、「老後の生活は、できるだけ平等であるような社会が望ましい」を選 択したのは、男性の60
.
1%、女性の67.
2%となっている。こちらは女性の方が 7 ポイントほど高い比率を示している。また、「どちらとも言えない」では、男性の12
.
7%、女性の13.
9%が選択をして いる。回答の数値からは、比較的男性の方がより「社会的な格差」に対して寛容 であると言える。但し、男女の違いを問わず、全体の60%強は「できるだけ平等 である社会」を望ましいとしている。この設問に対する回答では、「どちらとも言えない」と「その他」が、先の
「社会のあり方」についての設問よりも少なく、高齢者の意思(考え方)が比較 的明快であることを表している。つまり、「社会のあり方」に関しては、高齢者 の中に多少の迷いが感じられるが、「社会の平等や格差」に関しては、より明確 な考え方を持っていることがわかる。
男性で年金受給額が多いほど「社会的格差」を許容
「社会的平等と格差」に関する考え方と男女別の年金受給額の関係を見ると、
18.6%
老後の生活は、
職業の経歴や 生活観が人そ れぞれなので、
格差があって も当然である
63.9%
老後の生活は、できるだけ平等であるような社会が 望ましい
13.4%
どちらとも言えな い
4.1%
無回答
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100%
図表14 高齢者の社会観
出所:『中津川市の高齢者の「生きがい」と地域活動・生涯教育のあり方についてのアンケート調査』
2001年より作成。