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中学生の血中脂質について

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(1)

中学生の血中脂質について

著者 山本 章

雑誌名 静岡大学教育学部研究報告. 自然科学篇

巻 33

ページ 65‑70

発行年 1983‑03‑22

出版者 静岡大学教育学部

URL http://doi.org/10.14945/00008367

(2)

         中学生の血中脂質について

AStudy on Serum Lipids in Students of Junior High School

山 本

Akira YAMAMOTO

(昭和57年10月4日受理)

       緒  言

 欧米先進国では虚血性心疾患の多発が大きな社会問題となり,小児期からの動脈硬化の予防 についての研究が早くからなされている1)一一5)。

 我が国においては,最近まで小児期からの動脈硬化の予防についての研究はなされていな

かったが,昭和25年(1950)には人口10万対9.9であった虚血性心疾患の死亡率が,55年(1980)

には41.6と約4倍強に増加した6)ことにより,大国(1979)7)(1980)8),林(1979)9),保崎(1980)1°)

らにより,若年者についての研究が報告されるようになった。そして,動脈硬化の発生はすで に10才前後に始まり,次第にその程度と範囲を拡大し,多くは40才後半をすぎて臨床症状を呈 するので,動脈硬化の予防やその進展の阻止には,できるだけ早期からの対策が必要であると指

摘されている。また,動脈硬化の危険因子は,中村と立川(1978) 1)により,高血圧,低比重リ ボ蛋白(LDL)の増加または超低比重リボ蛋白(VLDL)の増加,喫煙,肥満,糖尿病,

痛風運動不足,A型性格,ストレス,高比重リボ蛋白(HDL)コレステロールの低下,ヘ

マトクリットの増加,その他に整理されると報告されている。

 そこで今回は,中学生を対象に,肥満,運動の実施状況,運動能力と血清脂質との関係を調 査,検討し,若干の成績をえたので報告する。

       対象および方法

 対象は,静岡県東部の農村地区にある某中学校の健康な生徒で,男子98名,女子101名であっ

た。

 検査項目は,形態,運動の実施状況,運動能力,そして血清脂質であり,形態値として,身 長,体重,胸囲,上腕背部および肩甲骨下部の皮下脂肪厚を計測した。身長,体重,胸囲は中 学校で実施計測した値を借用し,皮下脂肪厚は栄研式皮厚計を用いて計測した。運動の実施状 況はアンケート調査を実施し,運動能力は文部省のスポーツテスト(踏み台昇降運動を除く11

項目)を実施して測定した。以上は3年次の生徒について実施した。血清脂質は,総コレステ

ロール(T−chol)とトリグリセライド(TG)を,1年次より3年次まで, HDLコレステロー

ル(HDL−chol)を,2年次と3年次に酵素法により測定した。採血はいずれの場合も,昼食

前の空腹時に実施した。血清脂質の分析は静岡県衛生検査協会にお願いした。

(3)

66

山  本

       結  果

 1)1年次より3年次にかけての血清脂質値の変化

 いずれも縦断的に測定したものであるが,T−chol値は,男子では学年進行にともなって増加

する傾向にあり,1年次より2年次にかけては有意に(P〈0.01)増加した。一方,女子では

2年次に高値を示し,1年次および3年次より,いずれも有意に(P<0.001,P<0.05)高値

であった。

 TG値は,男子ではT−chol値とは逆に,学年進行にともなって減少し,1年次より2年次,

2年次より3年次で有意に(P<0.001)低値を示した。女子では1年次より2年次で有意に

(P〈0.001)減少したが,2年次と3年次の間に有意差は認められなかった。

 HDL−chol値は,2年次と3年次に測定し,男女共,2年次より3年次で有意に(P〈0.001)

減少した。

 T−chol値が200㎎/d1以上の出現率は,1年次,2年次,3年次でそれぞれ,男子が2,4,

6%,女子が8,10,8%であった。

       表1 各年次における血清脂質値

年次 T−choL

TG HDL−chol.

     1 男  子  2

(98名)  3

149.7±23.6

     **

157.2±23.8 159.5±26.8

111.6±37.8

     ***

93.1±28.0

     ***

79.3±32.6 55.3±11.1

    ***

50.0土10.7

     1

女  子  2

(101名)  3

152.7±25.7

     ***

163.6土25.2

     **

156.8±25.5

106.6±35.4

     ***

85.7土23.3

86.7±34.4

56.9±12.8

    ***

52.3±10.3

       値はMean±SD, mg/dl

       **P<0.01,  ***P<0.001

 2)形態値と血清脂質値との関係

 表2に示したように,男子ではTG値とローレル指数,皮下脂肪厚との間, HDL−chol値と

体重,胸囲,ローレル指数,皮下脂肪厚との間で,それぞれ,正と負の有意な相関が認められ た。女子ではT−chol値と体重,胸囲との間で有意な負の相関が認められたが,それ以外の項目 間では有意な相関は認められなかった。

 また,血清脂質問の相関は,男子ではT−chol値とTG値との間で正の, T G値とH D L−chol

値との間で負の有意な相関が認められた。女子ではTG値とHDL−chol値との間で男子と同

様,有意な負の相関が認められた。

      表2 形態値と血清脂質値との相関

身 長 体 重 胸 囲  ローレル指数 皮下脂肪厚

     T−chol.

男  子  TG

(98名)

     HDL−chol.

一〇.099

−0.048

−0.082

一〇.036       −0.002  0.114       0.077

−0.267**    −0.276胡…*

 0.054 0.209*

−0.245*

 0.003  0.247*

−0.340***

     T−choL

女  子  TG

(101名)

     HDL−chol.

一〇.136

 0.018

−O.005

一〇.253**    −O.287**

−0.009       −0.009

−0.083      −0.141

一〇.135

−0.008

−0.085

一〇.161

 0.047

−0.073

*P<0.05,  **P<O.Ol,  ***P<0.001

(4)

 3)運動の実施状況と血清脂質値

 週6日以上運動部に所属して活動している群(運動群)と学校での体育の授業ならびに必修

の運動クラブ活動以外には特に運動をしていない群(対照群)は,男子ではそれぞれ,88名,

10名,女子では同じく80名,21名であった。

 男子では,運動群は対照群に比べ,T−chol値とHDL−chol値は高く,TG値は低い傾向にあ

り,女子では,T−chol値とHDL−chol値はほぼ同じレベルで, T G値は高い傾向にあった。し かし,いずれの項目においても有意差は認められなかった。

      表3 運動群と対照群の血清脂質値

T−chol.

TG HDL−chol.

   運動群(88名)

男 子

   対照群(10名)

160.1±27.1 154.4±23.7

78.3±32.3 87.9±35.2

50.2±11.0

48.5± 7.4

   運動群(80名)

女 子

   対照群(21名)

156.8±25.3 156.5±29.3

87.3±35.3 81.2±22.1

52.5:ヒ10.2 52.3土 9.7

      値はMean±SD, mg/dl

 4)スポーツテストの成績と血清脂質値との関係

 男子では,T−chol値とスポーツテストの項目との間にはいずれも有意な相関が認められな かったが,TG値と背筋力,50m走タイム,持久走タイムとの間には有意な相関が認められ,

TG値の高い者はスポーツテストの成績が劣る傾向にあった。一方, HDL−chol値と50m走タ

イム,走り幅とびとの間には有意な相関が認められ,HDL−chol値の高い者はスポーツテスト

の成績が優れる傾向にあった。

 女子では,T−chol値と垂直とび, T G値と垂直とび,50m走タイム, H D L−chol値と持久走 タイムとの間で有意な相関が認められた。男子と同様,TG値が高い者はスポーツテストの成

績が劣り,HD L−chol値が高い者はスポーッテストの成績が優れる傾向にあった。

表4 スポーツテストの成績と血清脂質との相関

橿と聴背筋力握力難編舞脇魏こ感  持久走

 タイム

  T−choL 男子 TG

  HDL−chol.

一〇.051 −O.019−0.123−O.069−0.072−0.064  0.128−0.090−0.034  0.022−0,060

        *       **      *

      0.214

−0.015 −0.081 −0.202 −0.073 −0.061 −0.005   0.281 −0.151 −0.099 −0.115

      *    **0.153  0,144  0.025  0.078−O.094  0.039−0.205  0.287−0.069  0、167−O.186

  T−choL 女子 TG

  HDL−chol.

    ** 0.015−0.313−0.065−0.015−0.092  0.011  0.082−0.116−0.082−0.021−0.003

    **      *

−O.078−O.257  0.010  0.119−0.029−0.007  0.237−O.141 −O.042−0.096  0.144

      ホ0.090  0.141  0.018−0.031 −0.043−0.120 −0.084  0.149  0,080  0.120−O.239

*P<O.05,  **P<0.01

       考  察

 Lauerら(1975)1)は,6〜18才の48929例のうち血清T−chol値が200㎎/dl以上の者が24%

を占めたと報告している。しかし,我が国では,林(1979)9)が6〜17才の9066例のうち,血清 T−chol値が200㎎/dl以上の者は欧米のそれより低く,小・中学校男子では2〜6%程度,女子 では8〜12%程度であったと報告している。今回の成績は林(1979)9)の報告とほぼ一致してい

た。

(5)

68

山  本

 肥満と血清脂質との関係については,徳永と石川(1981) 2)が報告したように,一般に,肥満

者はTG値が高く, HDL−chol値が低いことが知られており,山本と石川(1978)13)は肥満中

学生のTG値は明らかに高かったと報告し,保崎(1980)1°)は肥満中学生のH D L −chol値が低

かったと報告している。また,Garrisonら(1980)14)は肥満によりHDL℃hol値が低下し,虚 血性心疾患の危険が増すと報告している。今回,男子では,肥満の程度を示すと考えられてい

るローレル指数や皮下脂肪厚の値が高いと,TG値は高く,HDL−chol値は低いことが確認さ

れたが,女子では,同様の傾向を認めることができなかった。今後さらに検討を加える必要が

あろう。また,TG値とHDL−chol値との間に,男女とも,有意な負の相関が認められたが,

これは葛谷(1981)15)の報告と一致した。

 次に,運動と血清脂質との関係をみると,T−chol値は,運動やトレーニングによって大きく

は変化しないことが,CarlsonとMossfeldt(1964)16), Holloszyら(1964)17), Lehtonenと Viikari(1978)18)らにより報告されている。一方, T G値は,持久性運動種目の選手では一般 健康人より低く,運動やトレーニングによって低下することが,Holloszyら(1964)17), Goode

ら(「966)19)・L・pez−sら(1974)2°), L・mpmanら(1977)21・, V。d。kら(1980)22・, L。ht。nen

とViikari(1980)23}らにより報告されている。運動群と対照群を比べたところ,男子では運動

群で対照群よりTG値が低い傾向を示したが,女子ではむしろ逆の傾向を示した。しかし,日 常の身体活動の状況をある程度反映していると考えられるスポーッテストの成績とTG値との

関係をみると,男女とも,スポーツテストの成績の優れている者の方がTG値が低い傾向にあっ た。今回,運動群が全体の約80%も占めていたことを考えあわせると,運動群と対照群に分け ることが無理なのかもしれない。また,HDL−chol値は, TG値とは逆に,持久性運動種目の 選手では一般健康人に比べて高く,運動やトレーニングによって増加することが,Lopez−sら

(1974)2°),Engerら(1977)24), Nikkilaら(1978)25), Vodakら(1980)22)により報告さ れている。スポーツテストの成績とHDL−chol値との関係をみると,男女とも,スポーツテス

トの成績が優れている者の方がHDL−chol値が高い傾向にあった。従って,中学生においても,

運動によりTG値は低下し, H D L−cho1値は増加する可能性が示唆された。また, Carlsonと

Bdttiger(1972)26)は虚血性心疾患とTG値との間に密接な関係があっと報告し, Carew ら

(1976)27),Gordonら(1977)28),五島ら(1979)29)は, H D L−chol値が抗動脈硬化作用と

密接な関係にあることを指摘している。従って,中学生においても,運動は虚血性心疾患の予 防として効果を有する可能性が示唆される。

      要  約

 本研究は,静岡県東部地区の農村にある某中学校の生徒,男子98名,女子101名について,縦

断的に1年次より3年次の血清脂質値を測定し,3年次における血清脂質値と形態値ならびに

運動との関係を調べたものである。

結果は以下の通りである。

 1.T−chol値が200㎎/dl以上の出現率は,1年次,2年次,3年次で,それぞれ,男子では 2,4,6%,女子では8,10,8%であった。

 2.男子では肥満度を反映する皮下脂肪厚とTG値との間に正の, H D L−chol値との間に負 の有意な相関が認められたが,女子では皮下脂肪厚と血清脂質値との間に有意な相関は認めら

れなかった。

(6)

 3.運動群と対照群との間で,男女とも,血清脂質値には有意差が認められなかった。しか し,スポーツテストの成績との関係では,男子では,TG値と背筋力,50m走タイム,持久走

タイムとの間,H D L−chol値と50m走タイム,走り幅とびとの間に有意な相関が認められた。

女子では,T−cho1値と垂直とび, TG値と垂直とび,50m走タイム, H D L−chol値と持久走タ

イムとの間に有意な相関が認められた。

 以上の結果から,中学生においても,肥満や運動が血清脂質値に影響を与え,虚血性心疾患 の発症に関係する可能性が示唆される。

      謝  辞

 本研究にあたり,ご協力いただいた中学校,および静岡県衛生検査協会に厚く御礼を申し上 げます。また,御校閲をいただいた伊藤二郎教授に深謝の意を表します。

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