血液値の関係
菅原正志・中村 正
(昭和50年9月29日受理)
Relationship between Physique Index, Body Composition and Blood Values in the Young Adult Males
Masashi SUGAHARA and Masashi NAKAMURA
Abstract
Fifty male students of 19 to 27 years of age were investigated on their physique, skinfold thickness and hemoglobin.
The following results were obtained.
1. The correlation of physique index to total skinfold thickness of triceps, scapula and abdomen ( 3 parts) was higher than to that of triceps and scapula.
Hemoglobin concentration had high and curviliniear correlation to 3 parts skinfold thickness and to body fat % respectively.
2. The increase rate of hemoglobin parallel with skinfold thickness was lower in higher range of the value corresponding to above 30mm of thickness value, than in lower range. Concerned body fat, the increase rate of hemoglobin lowered in higher range corresponding to above 11
% of body fat.
Hemoglobin value corresponding to 30mm of thickness was estimated as 15g / dl and coincided with the value corresponding to 11 % of body fat, this value is the lower limit of normal value in healthy adult male.
From the above facts, 30mm of 3 parts skinfold thickness and 11 % of body fat are regarded to be lower limit for maintenance of physical function and nutrition and to have important meaning for prevention and treatment of obesity.
3. From the regression equation obtained in the correlative distribution of actual values of body fat % and 3 parts skinfold thickness, skinfold thickness corresponded to 11 % of body fat was calculated as 30mm, coinciding the figure obtained in relation to hemoglobin.
*第9回長崎県総合公衆衛生研究会に於て発表(1975)
**長崎大学教養部保健体育学教室.
***長崎大学医学部衛生学教室
2 菅原正志・中村正
4. To determine the grade of muscle volume, muscle volume index ( MVI, authors) was cal‑
culated from the following formula:
{(upper arm girth / π ‑ triceps skinfold thickness) / 2}2× π × height
This index correlated to lean body mass with high coefficient by 0.807 (p<0.001)).
I.はじめに
肥満は現代の社会的を問題となりつつあり,肥満に関する研究も盛んである.その中で体九
1)‑6
身体機能と肥満の関係についての研究も少なくない.
肥満の程度すなわち肥満度を評価する尺度として,以前より身長,体重を主として各種体型 指数が提唱されており,その大小をもって肥満が判定されて来た.しかし日本人の体位は,支 部省の学校保健統計,厚生省の国民栄養調査を見ても明らかなように,年々少しづつの伸びを 示しており,したがってその指数の日本人基準値も数年ごとに訂正さるべきものであろう.
体指肪量からの肥満度の評価が,近年盛んに取り上げられている.体脂肪評量の方法の一つ として,皮下脂肪厚からの体脂肪推定法はKeys and Brozek,その他によって研究され
89)
て来た.我国でも長嶺によって,体脂肪の対体重比(以下体脂肪率とする)の判定基準が設け られ広く活用されている.
一般に血液値は,栄養状態を反映するものであり肥満状態との関係が言われているが,健康 人一般について,これを明らかにした研究は未だ少ない.そこで著者らは,肥満度の指標とし ての各体型指数及びBody Compositionと,血液値との関係を若年層男子について測定する機 会を得たので,その結果を報告する.
Ⅱ.方法
1.被験者および測定時期:大学生男子50名でその平均年令は, 21. 3才であった.測定時 期は,血液値が季節によりまた食事により変動するので,測定時期を6月上旬に連続する3日 間にとり,毎日午前10時〜11時に測定を行なった.
2.測定項目及び方法:
a.身長:マルチンの身長計測計 ち.体重:ヘルスメーター
C.上腕囲:伸位の上腕二頭筋の最も膨隆した位置.
d.皮下脂肪厚:栄研式皮厚計を用い,上腕部(右上腕の背部三頭月専筋上において肩峰突 起と肘頭突起との中間点) ,背部(右側肩肘骨尖端角の直下) ,腹部(肪右横)の3ヶ 所を測定し体脂肪率,活性組織畳Lean Body Mass)を算出した.
10)
e.血液値:耳柔より得た血液について,次の項目の測定を行なった.
①血色素量(Hb) :シャンメトヘモグロビン法,ヘモグロビノメーター使用.
②ヘマトクリット値Ht) :毛細管法,高速遠心器11000回転5分.
③血清蛋白量:ヘマトクリット遠心後分離した血清,屈折計による.
④平均赤血球血色素濃度:次式によるHb /Ht X 100
f.ローレル指数,箕輪の身長別標準体重比,比体重:得られた身長,体重値より.ll)
Ⅲ.測定成績
1.体位,皮下脂肪厚,体型指数,血液値
Table 1 Physical characteristics of subjects.
* A: Upper arm girth
‑‑「訂一一一一Triceps skin fold
・*B:π×(普)2
***C:BXHeight
・***M.C.H.C.=4J‑‑‑XlOO Ht
50名の平均値をそれぞれTablelに示した.この身長,体重値を昭和46年度国民栄養調査成
12)績値と比較すると,身長で3.2cm上まわり,体重はほぼ一致した.
次にローレル指数,身長別標準体重比(箕輪),比体重をそれぞれ標準値(昭和47年度学校
l3)保健統計より算出)と比べると,ローレル指数,比体重ともにやや下まわるが,身長別標準体
重比は101%であり,体重は標準なみであった.
N=5 0 N=5 0
Me a n S .D Mea n S .D Ag e ( Ye ar )
Hei e ht ( c m) We i g ht ( kg )
Ro hr e ri n d e x
Pe rc e nt a get ost an d ar d B.W. (%) Sp ec i f i cb od ywe i g ht Ski n f ol dt hi ck n es s( mm) : ( 1 ) Tr i c e ps
( 2) Sc a pu l a ( 3 Ab d ome n
( l ) +( 2) ( l ) 十 ( 2) +( 3)
2 1. 3± 2. 1 1 6 8. 2 7 ± 5. 0 1
5 8. 2 6 ± 5. 8 2 1 2 2. 3 5 ± 1 1. 0 8
1 0 1. 0 6 ± 8. 4 8
3 4. 6 0 ± 3. 0 1
7. 7 4 ± 3. 0 9 l l. !± 4. 1 9 1 3. 9 4 ± 7. 5 7 1 9. 5 4± 6. 7 0 3 3. 4 8士 1 3. 5 4
Bo dy f at (% o fwt . ) Le a nb o dymas s ( k g)
A: Up pe ra r m di ame t e r( c m)*
B: Up pe ra r m cr o s s‑ s ec t i o nal ar e a( c m)
C: Mus cl ev ol u me i n de x ( × 1 0ー 3)軸 *.
Bl o odval u e:
He mogl o bi n( Hbg /dl ) He ma t o c ri t ( Ht %)
Se r u m p r ot e i n ( g′ dl ) Me a nco r p us c ul ahe mo gl o bi n co n c e nt r at i o n( M. C. H. C)* * * *
l l. 8 4± 2.
51. 3 0± 4.
7. 5 6+ 0. 6 6 4 5.1 6± 7. 9 3
7. 61 ± 1. 4 3
1 4. 7 8± 1. 2 6
4 6. 3 8± 3. 0 9
4 菅原正志・中村正
皮下脂肪厚においては,やはり腹部に脂肪が多く沈着しており, 3部位の合併である全皮厚
4)
値の平均は33.48± 13.54mmであった.沼尻らにより報告されている,身体機能に最も適した 全皮厚値20mm前後より多かった.また(上腕+背部)皮厚値平均は19.54mmで,それより算出
した体脂肪率は11.84%であった.
以上の通りで,彼らはローレル指数,身長別標準体重比,比体重そして(上腕+背部)皮厚 値より算出される体脂肪率から見て,肥満状態ではなかった.
3)
さらに上腕園と上腕部皮厚より算出される上腕部筋直径の平均値7.56士0.66cmは,長嶺らに よって測定された,非運動群(6.74cm)と運動群のそれ(7.64cm)と比較すると,後者とほぼ 同じであった.
さらにまた血液値は,血色素量,ヘマトクリット値,血清蛋白量,平均赤血球血色素濃度値
lO)
ともに正常範囲内にあり,彼らの栄養状態は良好であったといえる.
2.皮下脂肪厚と各体型指数との関係
Table 2 Coefficient of correlation between physique index and skin fold thickness
and body fat %. ( N‑50)
S k in fo ld th ickn ess (mm)
B ody fat (%
T ricep s (1) S capu la (2 ) A bdo m en (3 (D ‑H 2 ) (1)‑H 2)‑H 3)
R oh rer ind ex n .494 *** 0 .648 *** 0 .696 *** 0 .634 *** 0 .702 *** 0 .631 ***
P e rcen ta ge to s ta nda rd B .W . (% )
0 .449 *** 0 .6(泊 *** 0 .685 *** 0 .582 *** 0 .670 *** 0 .580 ***
S p ecific b od y w e igh t 0 .243 N .S 0 .486 *** 0 .598 *** 0 .466 *** 0 .565 *** 0 .465 ***
T ricep s + S ca pu la + A bdo m e n sk in fo ld
(mm)
0 .799 *** 0 .917 *** 0 .955 *** 0 .947 *♯ * ‑ 0 .943 ***
N.S no significant difference *** P< 0.001
Table2は,皮下脂肪厚と各体型指数の関係を示す.ローレル指数,身長別標準体重比,比 体重ともに各部位別皮厚値及び体脂肪率との相関は高い.
Fig. 1は,ローレル指数と皮下脂肪厚の関係を示す.相関係数は(上腕+背部)皮厚値で, 0.634 (P (0.001) ,腹部皮厚を加えた全皮厚値で0.702 (P (0.001)であり,後者がやや大
きい.両関係とも曲線的であり皮厚が増しても,ローレル指数はさほど大き射曽加を示さなか った.相関比では, (上腕+背部)皮厚の方は7‑0.680,全皮厚の方はク‑ 0.792となり,い づれもrより高くて分布の曲線性を物語っている.そして全皮厚の場合のクが高く,この方が
(上腕+背部)皮厚よりもロー‑しル指数との関係も密接である.
Fig. 1 Correlation of rohrer index to skin fold thickness
of triceps + scapula and that of triceps + scapula +abdomen.
Table 3 Coefficient of correlation of hemoglobin to physique index, skin fold thickness
and body fat %. N‑50)
R o hre r in dex
P e rcentag e to standa rd B . W . % )
S pe cific body w e ight
S k info ld th ick ne ss (mm )
B ody fat (%
T r icep s + S cap u la
T r icep s + S cap ula
+ A bdo m en
H em o glob in (8 ′ d l) 0 .675 *** 0 .66 3 *** 0 .573 *** 0 .774 *** 0 .809 *** 0 .774 ***
*** ‑....p (0.(泊1
3.血液値(血色素量) ,各体型指数,皮下脂肪厚,体脂肪率との関係 Table 3は,血色素量と各体型指数,皮下脂肪厚,体脂肪率との関係である.
相関係数は比体重とが量も小さく0.573 (P(0.001)で,次いで身長別標準体重比の0.663
6 菅原正志・中村正 (p (0.001),ローレル指数の0.675(P (0.001)である.
また(上腕+背部)皮厚及び体脂肪率と血色素量の相関係数は,ともに0.774 (P (0.001) であるが,腹部皮厚を加えた全皮厚との相関はr‑0.809 (P (0.001)と最高である.血色素 量の高さと,体型指数や体脂肪沈着度とが密接に関係する事が明らかである.
このような密接な関係は,他の血液値(ヘマトクリット値,血清蛋白量)についても,検討 してみた結果は同様であった.
Fig. 2 Correlation between skin fold thickness(triceps + scapula + abdomen)
and hemoglobin.
Fig. 2は,全皮厚と血色素量の関係であり,相関比は0.820 (P (0.001)で,相関係数0.809 よりもやや大きく,分布の曲線性をうらづけている.全皮厚30mmあたりから分布の勾配がゆる やかで,しかもこのあたりが血色素量で15g/dlあたりに相当しており,このレベル以上に皮 厚は増えても血色素量は余り増加せず,いわゆる正常濃度の範囲を保っているように見うけら れる.したがって逆に考えれば,男の全皮厚は30mmぐらいはあるべきであり,また運動家など
Fig. 3 Correlation between body fat % and hemoglobin.
にとってはこれくらいの皮厚にとどめた方が,血液値は正常レベルを保ちながら,脂肪の余計 な体重負荷もなくて好適であろう,という事も示唆している.
体脂肪率と血色素量の関係( Fig. 3も,相関係数0.774 (P (0.001)に対し相関比は, 0.788でやや上まわっていて曲線性を示しており,体脂肪11%あたりが血色素量正常水準の15
5.6) 14)
g/dlに相当している.このあたりの数値は,小野ら,中村らが得た結果とほぼ一致しておV) 好適な体脂肪量の下限を示唆してくれる成績である.
Fig. 4 Correlation between skin fold thickness (triceps + scapula + abdomen) and body fat %.
Fig. 4は,全皮厚と体脂肪率との関係である.血色素量正常水準に相当する全皮厚30mmで の体脂肪率を回帰より求めると11.1%であり,血色素量正常水準での体脂肪率11%と一致した.
4.上腕の計測から活性組織量の推定
315)
長嶺らは,上腕囲を計りこれを円とみなしてその直径を算出し,上腕国を計った部位の皮下 脂肪厚を差し引くことにより,筋肉と骨を合せた上腕径として,筋肉発達度を推測しようとし た.
Table 4 Coefficient of correlation of lean body mass to upper arm diameter,
its cross‑sectional area and muscle volume index (authors). ( N‑50)
***・P <0.001
U p p e r a r m d i a m e t e r ( c m ) I
U p p e r a r m c r o s s ‑ s e c t i o n a l a r e a ( c f f l )
M u s c l e v o l u m e i n d e x
L e a n b o d y m a s s ( k g ) 0 . 7 3 0 * * * I
0 . 7 4 3 * * * i
0 . 8 0 7 * * *
I
8 菅原正志・中村正
著者らは,単に筋の径をもって言々するよりも,筋の径に筋の長さを加味した方が筋肉発達 度の指標として合理性が高いと考えた.そこでここに得られた筋径から,その断面積を求める
とともに,上月尊の長さに比例するものとして身長をとり,これを乗じることによって筋肉の体 積,すなわち筋肉量に相当する数値が得られるものと考えてこれを算定した(これを筋量指数 muscle volume indexと称する).そして上腕径,上腕断面積及び筋量指数と(上腕+背部) 皮厚値より算出した活性組織量(LBM)との相関関係を比較したTable 4筋量指数 との相関がr‑0.807 (P (0.001)と最も高かった(Fig.5).
Fig. 5 Correlation between lean body mass ‑nd muscle volume index.
この指数が,上腕部の筋肉の発達状態,さらに全身の筋肉量,ないしは活性組織量を最もよ く表わしてくれる事を示唆している.
Ⅳ.考察
ローレル指数と全皮厚との関係において,全皮厚が増加してもローレル指数140以上におい てさほど増加を認めず,両者の直線関係がうすかった.これは肥満度の最もよい合理的指標は, 体脂肪だとするならば,ローレル指数が示標として余り好適ではない事を物語るものであり,
2 16 17)
すでに生山,鈴木,長嶺らの指摘する所である.
17)
血色素量との関係は,各体型指数よりも皮下脂肪厚や体脂肪率との方が密接であった.長嶺 も12才男子について,皮脂厚(上腕+背部皮厚) ,体脂肪率と血色素量との相関度が高かった
14)
としている.また中村らは,地域住民について,血色素量と皮脂厚(上腕+背部) ,体脂肪率 との有意な関係を説いている.
また(上腕+背部)皮厚よりも全皮厚の方が,血色素との関係が密接である事も留意してお
くべき事である.
著者らの成績で,全皮厚及び体脂肪率と血色素量との各々の相関分布から,著者らは,血色 素量の正常レベルに相当する全皮厚値と体脂肪率値とを別々に推定し,同時にこの両推定値は, 全皮厚と体脂肪率との相関分布にも合致する事を知った.
5)6)14)
著者らが得たこの体脂肪率値は,既報の先人値とほぼ一致しており,将来体脂肪率や全皮厚 の好適レベルを設定するに資する成績である.
tiォl論
大学生男子50名について,血液値と皮下脂肪厚について測定し検討した結果,次の結論を得 た.
1.度厚値と各種体型指数との関係は,部位別では腹部皮厚が他より高かった.
(上腕+背部)皮厚に比べ,全皮厚の方に体型指数との相関度が高い傾向にあった.
2.血色素量と皮厚値との関係は, (上腕+背部)皮厚よりも全皮厚に高かった.また血色 素量と全皮厚とは,併行して上昇する関係にあるが,全皮厚が30mm以上では,血色素量は正常 範囲内で横ばい状態を呈し,この点からみて,血色素レベルを正常に維持するに足る全皮厚値 のminimumは30mm前後であり,またこれが身体機能の保持,しかも肥満を防止するための皮 厚の目安としてよいと思われる.
3.体脂肪率と血色素量との相関分布から,正常な血色素量に相当する体脂肪率11%が得ら れた.この成績は,前項の全皮厚値の正常血色素に相当する30mmの値は,体脂肪率にすると ll.1%であった.
4.上腕囲とその皮厚,そして身長より算出した身体筋肉量(筋量指数)と, (上腕+背部) 皮厚より求めた活性組織量LBM)とは高い相関々係にあり,上腕部よりの筋発達状態を推 測出来ることを示唆した.
Ki^^^m Xi
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