論
説
カ ン ボ ジ ア 王 国 の 納 税 者 権 利 憲 章
山 下
学 は
じ め に 早
い も の で
︑カ ン ボ ジ ア王 国 へ の 二
〇一
〇 年 度 在外 研 修 を 終 え︑ 帰 国 し ても う 数 ヶ 月 が経 っ た
︒ 発展 途 上 国 の 税 法の 生 成 と 現 状の 調 査 の 対象 に カ ン ボ ジア 王 国 を 選び
︑ 同 国 の 首都 プ ノ ン ペン に 滞 在 し
︑カ ン ボ ジ ア王 立 法 科 経 済 大 学 の 客 員 研 究 員 と な っ て︑ 一 年 間 の 調 査・ 研 究 を 行 っ た が
︑王 立 法 科 経 済 大 学 で の 研 究 や 講 義 よ り も
︑ G D T
︵General Department of Taxation
︑ 租税 総 局
︑日 本 の 国税 庁 に 相 当︶ で の
︑ 調査 や 研 修 に 時間 を 取 ら れて し ま っ た
︒ また
︑ カ ン ボ ジア の 二 四 州︑ プ ノ ン ペ ン特 別 市 及 びシ ア ヌ ー ク ビル 特 別 市 の九 税 務 署 を 訪問
︑ 税 務 実務 の 聴 き 取 り を行 っ た が
︑ カン ボ ジ ア の税 務 署 が 税 務執 行 機 関 とし て 体 を な して い な い こと を 実 感 し た︒ と い う の は
︑後 述 の と おり
︑ カ ン ボ ジア は 人 口 約一
︑ 五
〇
〇 万人 の 国 で ある が
︑ 税 務 職員 が 一
︑ 四三 九 人 し か い ない
︒ 日 本 の 人口 が 一 億 二︑
〇
〇
〇 万 人に 対 し
︑ 約五 六
︑
〇
〇
〇人 の 税 務 職員 が い る こ とを 考 え る と︑ あ と 五
︑
〇
〇〇 人 近 く 税 務職 員 が 欲 しい と こ ろ で ある
︒ 実 際
︑国 家 歳 入 で 見 る と
︑ 三 分 の 一 強 の 税 収
︵ 残 り は 外 国 か ら の 支 援
︶ があ る が
︑ 税 収の 七 割 は 関税 で あ り
︑ 内国 税 は 三 割で し か な い
︒さ ら に
︑ その う ち 七 割 はカ ジ ノ か らの 税 収 で あ る︒ また
︑ 地 方 分 権が な さ れ てい な い の で
︑当 然 地 方 税も な い
︒ で は
︑﹁ 税 法﹂ は な い の かと い う と
︑あ る
︒ こ れ が 悩 ま し い こ と に︑ 二
〇
〇 六 年 に 最 新 の 税 法 は 制 定 さ れ た が
︑ 看板 税
︑ 漁 業 税な ど
︑ 約 六〇 年 前 に 制 定さ れ た 税 目は こ の 税 法 に規 定 さ れ てお ら ず︑
﹁
P ra k a s
﹂ と い う 政 令 の よ う なも の で 規 定 され て い る
︒で は
︑ 二
〇
〇六 年 税 法 で何 が 規 定 さ れて い る か とい う と
︑
① 営利 税
︵Profit Tax
︶︑
② ミ ニ マ ム 税︵Minimum Tax
売 上 に 対 し て 業 種 別 に 一 定 税 率 で 課 税︶
︑③ 源 泉 徴 収 税︵Withholding Tax
︑︶
④ 給 与 税
︵Tax on Salary
︶︑
⑤ 付 加 価 値 税︵Value Added Tax:VAT
︶︑
⑥特 定 商 品
・サ ー ビ ス Merchandise and Services 税︵Specific Tax on Certain
︑︶
⑦ 資産 譲 渡 税
︵Property Transfer Tax
︑︶
⑧ 遊 休土 地 税
︵Tax on Unused Land
︑︶
⑨ 登 録税
︵Patent Tax
︶︑
⑩ 家 屋・ 土 地 賃 貸税
︵Tax on House and Land Rent
︶︑
輸 入 税︵Import Duty
︶︑
輸 出 税
︵Export Duty
︶ であ る
︒ 登 録 税 と い う の は
︑ や や こ し い 話 し だ が
︑ 納 税 す る た め に 事 業 者 登 録 を す る た め に 支 払 う税 金 で あ り
︑つ ま り
︑ 税金 を 支 払 う ため に は 税 金を 支 払 わ な いと 納 税 が でき な い と い う︑ お か し な構 成 で あ る
︒ ま た
︑ 後 述 する が
︑﹁ 申 告納 税 制 度︵Real regime:
実 態 管 理様 式
﹂︶ も あ るに は あ る が︑ 申 告 納 税 して い る の は 外 資系 大 企 業
・ 外資 系 中 企 業が 採 用 し て いる く ら い で︑ ほ と ん ど の商 工 業 者 は﹁ 簡 易 管 理 様式
︵Simplified regime
︶
:
簡易 課 税 の 意﹂か
︑﹁ 推 計 管理 様 式
︵Estimated Regime
︶
:
推 計 課 税 の意﹂ が 使 われ て い る
︒ この 課 税 様 式 は 二
〇
〇 六年 税 法 の 第 四条 で 定 め られ
︑ 対 象 企 業の 規 模 は
P ra k a s
で定 め ら れ てい る
︒ そ し て︑ 農 民 の 所 得 に 関 す る 税 は 定 めら れ て い な い︒ つ ま り
︑農 業 所 得 に つい て は
﹁ 免税
﹂︑
﹁ 非 課 税﹂ を う ん ぬん す る 以 前 に︑ 課 税 す る税 法 が な い の であ る
︒
そ の よ う な 国︑ カ ン ボ ジア に
︑ 日 本 の﹁ 平 成 二 三年 度 税 制 改 正﹂ で 実 現 しな か っ た
﹁ 納税 者 権 利 憲章
﹂ の よ う な もの が あ っ た ので
︑ こ の
﹁納 税 者 の 権 利と 義 務
﹂ とい う 小 冊 子 を 邦 文 訳︵ 仮 訳
︶ し て み た
︒ カ ン ボ ジ ア 王 国 の 概 要 と共 に
︑ 紹 介 して み た い
︒ 1
カ ン ボ ジア の 概 要 カ ン ボ ジ ア の正 式 名 称 は︑ カ ン ボ ジ ア王 国 で
︑ 立憲 君 主 国 家 であ る
︒ 東 南ア ジ ア に 属 し︑ 東 は ベ トナ ム
︑ 西 か ら 北の 西 半 分 は タイ
︑ 北 の 東半 分 は ラ オ スに 接 し︑ 南 は 太 平 洋 の タ イ 湾
︵シ ャ ム 湾
︶ に 面 し た 地 域 に あ り︑ 面 積 は 一 八万 一
〇 三 五
㎢で 日 本 の 国土 の 二 分 の 一弱 で あ る
︒モ ン ス ー ン 帯に 属 し
︑ 乾季
︵ 一 一月
〜 五 月︶ と 雨 季
︵ 六 月
〜一
〇 月
︶ の 季 節 があ り
︑ 年 間平 均 気 温 は 二七
・ 六 度 であ る が
︑ 三 月〜 五 月 は 四〇 度 を 超 え る酷 暑 期 が あ る︒ 国 土 は 北 緯 一〇 度
〜 一 五 度︑ 東 経 一
〇二 度
〜 一
〇 八度 の 亜 熱 帯圏 に 属 す る
︒国 土 の 中 央部 を メ コ ン 川が 南 北 に 流れ
︑ 中 央 南 部 にあ る 東 南 ア ジア 最 大 の 湖ト ン レ サ ッ プ湖 か ら 西 北に サ ッ プ 川 が流 れ
︑ プ ノン ペ ン で 両 川は 合 流 し
︑ベ ト ナ ム か ら 南シ ナ 海 に 至 る︒ 平 野 部 が国 土 の 約 四
〇% の 森 の 国で あ る が
︑ 平野 部 に 人 口の 八 七
% が 集住 す る
︒ 一 九 世 紀 後 半か ら フ ラ ンス の 植 民 地 とし て 統 治 され
︑ 一 九 五 三年 に 独 立 する が
︑ 一 九 七〇 年 代 の クー デ タ ー に よ り︑ 軍 事 政 権
︑一 九 七 五 年〜 一 九 七 九 年の ポ ル
・ ポ ト 政 権
︵共 産 主 義
︶︑ 親 ベ ト ナ ム 軍 事 政 権 下 の 内 戦 時 代 を 経 て︑ 一九 九 一 年 一
〇月 二 三 日 にパ リ 和 平 協 定 を 締 結
︑一 九 九 二 年 に 国 連 カ ン ボ ジ ア 暫 定 統 治 機 構
︵UNTAC
︶ の 管 理 下 にお い て 立 憲 選挙 が 行 わ れ︑ 一 九 九 三 年九 月 二 四 日に 憲 法 が 制 定さ れ
︑ 現 在に 至 っ て い る︒ 国 家 元 首は ノ ロ ド ム
・ シハ モ ニ 国 王︵ 二
〇
〇四 年 一
〇月 二 九 日即 位
︒ 前国 王 は シハ ヌ ー ク 殿下
︒︶
︑首 相 は フ ン
・セ ン 首 相 であ る︒ 国 会 は 国 民 議会
︵ 下 院︶ と 上 院 の 二院 制 で あ る︒ 選 挙 権 は 一八 歳 以 上 の選 挙 人 登 録 を し た 者
︑被 選 挙 権 は 国 民 議 会 が 二 五 歳 以
上︑ 上 院 が 四
〇歳 以 上 と され て い る
︒ 人 口 は 二
〇
〇八 年 の 政 府統 計 で は 一 三七
〇 万 人 であ る が
︑ 人 口増 加 率 が 一・ 五 四 で あ るこ と か ら
︑現 在 は 一 五
〇
〇万 人 弱 く ら いで あ ろ う
︒ 首 都 は プ ノ ンペ ン で
︑ 特別 行 政 地 区 とな っ て い る︒ カ ン ボ ジ アで は 二 四 州と プ ノ ン ペ ンと シ ア ヌ ーク ビ ル の 二 特 別市 に 地 方 を 分割 し て い るが
︑ 地 方 自 治は さ れ て いな く
︑ 中 央 集権 で あ り
︑し た が っ て 国税 と 地 方 税の 区 分 は な い︒ 民 族 構 成 は
︑ク メ ー ル 民族
︵ モ ン・ ク メ ール 語 族
︶ が九
〇
% を 占 め︑ 他 に チ ャ ム 族︵ マ ラ ヨ
・ ポ リ ネ シ ア 語 族︶
︑ 漢 民族
︑ ベ ト ナ ム族
︑ ラ オ 族が あ る
︒ 言 語は ク メ ー ル語 で
︑ 南 イ ンド の グ ラ ンタ 文 字 に 由 来す る 独 自 の表 音 文 字 で 表 記 す る
︒宗 教 は 南 方 上 座 部 派 の 仏 教 徒 が 約 九 五
% を 占 め る が
︑ チ ャ ム 族 は イ ス ラ ム 教 を 信 仰
︵約 二
%︶
︑先 住 民 に 精霊 信 仰 が 残 り︑ キ リ ス ト教 も ベ ト ナ ム人 を 中 心 に信 仰 さ れ て いる
︵ 約 二%
︒︶ 主 な 産 業 は 農業 で あ り
︑農 業 従 事 者 が人 口 比 約 八〇
% を 占 め る︒ ま た
︑ 内戦 時 代 の 軍 人の 雇 用 対 策か ら 公 務 員 が 多く
︑ 人 口 比 約一
〇
% で ある
︒ 第 二 次 及び 第 三 次 産業 の い わ ゆ る会 社 員 が 約五
%
︑ そ の 他︑ 水 産 業
︑林 業 な ど が あ る︒ 教 育 制 度 は
︑小 学 校 六 年︑ 中 学 校 三 年︑ 高 等 学 校三 年 と 日 本 と同 じ で あ る︒ 大 学 や 専 門学 校 は 四
〜六 年 制 と な っ てい る
︒ た だ し︑ 農 村 部 では 学 校 が な かっ た り
︑ あっ て も 寺 院 の奉 仕 範 囲 内で の 校 舎 や 設備 で あ っ たり
︑ ま た
︑ 児 童・ 生 徒 も 家 事手 伝 い な どで 学 校 に 通 えな い 子 供 も多 い
︒ プ ノ ンペ ン を 含 む大 都 市 部 で も︑ 初 等 教 育は 午 前
・ 午 後 の二 部 教 育 で ある
︒ そ の かわ り
︑ 小 学 校で も 留 年 や中 退 の 後 の 復学 の 制 度 があ り
︑ 政 府 とし て は 文 盲率 を 少 な く し よう と 対 策 を 行っ て い る が︑ 多 く は N PO の 活 動 に頼 っ て い る のが 現 状 で あ る
︵ O D A は 道 路 や 橋 梁
︑発 電 所 の 建 設 な ど イ ンフ ラ 整 備 に充 て ら れて い る
︒︶
︒
イ ン フ ラ は
︑特 に 電 力 が弱 く
︑ 現 在 八〇
% は 隣 国の タ イ
︑ ベ トナ ム か ら 買電 し て い る
︒プ ノ ン ペ ン ポ ス ト 紙
︵英 字 紙
︶ に よ ると
︑ カ ン ボジ ア 政 府 は 二〇 三
〇 年 まで に 全 国 世 帯数 の 七
〇
%に 電 力 供 給 す る こ と を 目 的 と し て い る
︑ とい う 程 度 で ある
︒ 筆 者 もカ ン ボ ジ ア の税 制 実 態 調査 で 地 方 を 回っ た が
︑ 大都 市 以 外 は
︑深 夜 は 本 当に 漆 黒 の 闇 で ある
︵ 夕 食時 過 ぎ まで は
︑ 自家 発 電 やト ラ ッ クの バ ッ テリ ー を 使 った 灯 り やテ レ ビ の光 が あ る家 も あ る︒
︶︒ 道 路 は
︑ O DA で 主 要 国道 は 整 備 さ れつ つ あ る
︒筆 者 が 一 九 九二 年 当 時 に自 家 用 車 で 八時 間 か か った プ ノ ン ペ ン
−
シ ア ヌ ー ク ビル 間 が
︑ 今は 長 距 離 バ スで も 四 時 間で 着 く
︒ た だし
︑ 二 桁 国道 で は 雨 季 はど ろ ど ろ とな り 寸 断 さ れ る場 所 も 多 く
︑乾 季 は デ コボ コ 道 と な る︒ 上 水 道
︑ 下 水道 と も
︑ 大都 市
︑ 州 都 所在 地
︑ 国 境の 町 以 外 に は整 っ て い ない
︒ ま た
︑ 上水 道 の あ る大 都 市 等 で も︑ 水道 水 は 飲 用 水と は な ら ない
︒ 下 水 道 も浄 化 装 置 が完 備 さ れ て おら ず
︑ 河 川や 海 に 垂 れ 流し で あ る
︒筆 者 が 滞 在 し てい る 首 都 プ ノン ペ ン で も︑ 雨 期 に は 低地 で 洪 水
・浸 水 が あ る のだ が
︑ 地 上に 溜 ま っ た 水は 茶 褐 色 で汚 物 も あ ふ れ てい る こ と が 容易 に 想 像 がつ く
︒ 以 上
︑ 簡 単 にカ ン ボ ジ ア王 国 に つ い て紹 介 さ せ てい た だ い た が︑ 人 口 の 半分 以 上 を 二
〇歳 以 下 が 占め る 若 い 国
︑ まさ に 発 展 途 上国 で あ る
︒ 2
カ ン ボ ジア の 税 法 の現 状 カ ン ボ ジ ア 王国 で は
︑ 税法 は 確 立 し た法 律 学 と して 存 在 し て おら ず
︑ カ ンボ ジ ア 王 立 法科 経 済 大 にお け る 筆 者 の ス ー パ ー バ イ ザ ー
︑ レ ン
・ ダ ー 教 授 も 経 済 学 部 の 教 授 で あ り
︑税 法 の 講 座 は あ る も の の
︑そ の 内 容 は ほ と ん ど が
﹁会 計
﹂ で あ り︑ 法 律 学 の視 点 か ら の 講義 は な さ れて い な い
︒ また
︑ 税 法 に関 す る
﹁ 学 会﹂ も な く
︑要 は 学 問 と し