為替 レー トと不完全競争下の貿易
目
次
I.序
Ⅱ.為替 レー トとクールノー型貿易モデル
Ⅲ 。モデルの拡張:流通業者 を介 した競争
Ⅳ 。モデルの拡張:垂直的取引のある競争
V。
結びI.序
近年の急激 な円高 は,我が国の市場 にも様々な影響 を及ぼ している。為替相 場 の理論的分析 は,主としてマクロ経済学の領域で進 め られているが,本稿で
は,産業 レベル,市場 レベルでの為替相場 の影響 について考察 を行いたい。
次節以降では,為替相場が国内の市場価格 に与 える影響 に焦点 をあてたモデ ル を示す。モデルでは,不完全競争市場 を仮定す る。 もしも,市場が完全競争 であるな らば,企業 は国際価格 に対 してプライス・ テイカー として行動するこ
ととな り,為替 レー トの変化 は価格 よ りも取引量 に影響 を及 ぼすだけであると 考 え られ る。企業間の戦略的相互依存 関係 が同質財 の「二方向の貿易」 (two
―way trade)を導 くことを最初 に示 したのは,Brander[2]で あ り,それは Brander and Kruran[3]で「相互 ダンピング (reciprOcal山田ping)・ モ デル」へ と拡張 された。寡 占モデルを用いた一連の貿易理論の発展 を基礎 とし て,本稿で もモデル分析 を展開す る。
第2節では,二方向の貿易 に対す る為替 レー トの影響 についての考察 をす る。
第3節以降では,流通経路 あるいは企業間の垂直的取引 を考慮 した分析 を進め る。
隆 之 下 山
(584) 49
法経研究 4号 (1996年)
Π.為替 レー トとクール ノー型貿易モデル
内外の企業が自国 と外国を区別 して販売行動 をとる国際的なクールノー型寡 占の もとでは,同一財 に関 して,二方向の貿易が行われ る。簡単のため,自国,
外国にそれぞれひ とつずつ この財 を生産す る企業が存在す ると仮定する。 自国 市場での価格 を夕,外国市場での価格 を夕
*と
す る。市場 における為替 レー トの イ ンパ ク トに焦点 を合わせ るため,為替 レー トが ι=手「=1のときに,自国 と 外国の市場条件 は同一かつ対称 的な もの と仮定す る。 したがって,逆需要関数として
夕 =α 一 ι(″十 ノ) α>0,ι >0
夕*=α 一b(が+ノ ) α>0,ι >0 に
)
υ) を考える1ヽ *印は,外国の変数を表わす。各企業の単位当た り限界費用を 定値)とする。自国企業(H)の利潤は次のように表わせる。 ̀(一
π〃=(タ ーθ
)″
十(ィオーσ)″ * (3)
同様に外国企業(F)の利潤関数は
πF=(夕* θ
)ノ
*十(夕/ι
一θ)ノ (4)
のように表わせる。複占均衡における反応関数はそれぞれ,自国で
2″+ノ
=午
り2ノ+″
=7 o
となる。
(5)式
からわかるように;為替 レー トの変動は自国市場に供給する自国 企業の反応関数にはなんら影響をもたない。 しかし,外国市場にあっては,たとえば ιの減少
(自
国通貨高)は自国企業の輸出の限界費用を高める。対称的 なことが外国企業についていえる。結局,国内においては,
D 線形 の逆需要関数の仮定 は,比較静学 の条件 の吟味 も含 め,分析 を簡略化 す るために採用 した。
(7)
とな り, ιの減少
(自
国通貨高)は,輸入 の増大 と市場全体 の供給の増大,自国市場 の価格 を引 き下 げる。他方,外国市場 にあっては,
″
=ノ
=ρ=α +θ (1+θ)
ノ =
ノ*=ヱ三型⊆
1争ザ L上ニヱ主
ρ*=
となる。
(9)式
と0式から命題1を得る。n〃 Au
命題 1.ナッシュ均衡 において,国内の市場価格 は外国の市場価格 との間 には乖離が生 じる。 ι>1の とき国内の市場価格 は外国の市場価格 よ りも 高 くな り
,ι
<1のとき国内の市場価格 は外国の市場価格 よ りも低 くなる。Brander and Km♂nan[3]のモデルでは,企業のダ ンピング行動 は国際輸 送費用の存在 に起因 していた。 また,B∝山em[1]の中間財 を考慮 したモデ ルでは,生産 の限界費用の差 に起因 していた。本稿 のモデルでは,為替 レー ト の変動が相互 ダンピングを誘発することとなる。
Ⅲ。モデルの拡張 :流通業者 を介 した競争
現実の市場 では,生産者 は,流通機構 を通 して,商品を消費者 に販売す る。
近年の我が国の内外価格差の問題 において も流通機構 との関連が指摘 されてい る。前節のモデル を拡張 し,流通 を考慮 したモデル分析 を試みる。
自国市場 に小売業者が存在す ると仮定する。生産者 は,小売業者 を介 して, 財 を消費者 に販売する単純 な流通経路 を想定する。小売業者 は,生産者が決定
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法経研究 4号 (1996年)
した出荷価格 を所与 として,自らの利潤 を最大化す るように行動す る。 このよ うな小売業者の行動 を考慮 しつつ,生産者 は自らの利潤 を最大 にす るように出 荷価格 を決定す る。 この両者 の垂直的取引関係 は,下流業者(D)である小売業
者が,上流業者(U)である生産者に追健する2段階のゲームの枠組みで捉える
ことがで きる。
単純化のため, 2人の小売業者が存在 し,各々がいずれか一方の生産者が提 供す る財 のみを販売 しているもの とす る。出荷価格 (仕入価格)を ″, グ とす
れば,小売業者の利潤 は,
πβ=(タ ー″
)″
π′=(ρ 一γ*)ノ
で与えられる。市場の逆需要関数は,(1)式 と
(2)式
で与えられている。利潤最大 化問題を解いて,財の出荷に関する逆需要関数を求めることができる。O m
9 0 0 0
″ =α ‑2レー妙
グ =α ‑2の一レ
生産者の利潤最大化問題 は次のようになる。
π μ
=(″一θ )″ +(ψ*一 σ
)が
π
y=(夕*̲ε)ノ
*十
(″
*/θ 一
̀)ノ
したが って,第1段階 にお け るサ ブ・ ゲーム完全 ナ ッシュ均衡 は,
″=3α一 σ(4‑ι)
とな り,均衡出荷価格 を求めることがで きる。
″ =
6α+2σ+7 ιθ
ノ=
α71
1181
091
1201
12D
γ*= 1221
15
ID式と1221式を比較すれば,次の命題 を得る。
命題2.ナッシュ均衡 において,自国の生産者の出荷価格 と外国の生産者 の出荷価格 との間には差が生 じる。 ι>1のとき自国の生産者の出荷価格 は外国の生産者の出荷価格 よりも安 くな り
,θ
<1のときはこの逆 となる。原材料の輸入や外国人労働者の雇用な どの生産の費用格差 を考慮か ら外 して いる本稿 のモデルで も,企業間の戦略的相互依存関係 と為替 レー トの調整か ら,
出荷価格 に差がみ られ るのである。
Ⅳ.モデルの拡張 :垂 直的取引のある競争
同一の財 を国内外のライバル企業 に供給す る生産者がいる。OEM(original equipment marlufacturing)に み られ るように,自社 も含 めた複数の流通チャ ネルあるいはブラン ドを通 じて供給 され る財がある。 この問題の,国際貿易の 局面での研究 には,Spencer and Jones[6]が ある。本節では,その研究 を参 考 としなが ら,為替 レー トを導入 し,上述 の問題 を検討す る。
簡単のため,自国の市場 に自国企業(H)と外国企業(F)がひ とつずつ存在す る と仮定する。 自国企業 は,生産 した財 を国内の消費者 に販売す るの と同時 に 外国企業(F)へと出荷す るもの とする。外国企業 は,仕入れた分 と自社で生産
した分 を含 めて,自社 の商品 として,その財 を自国に向けて輸出 しているもの とす る。出荷価格 を ″,生産 の限界費用 をそれぞれ
̀″
,争とすれば,各企業の 利潤 は,π″=(ターσ〃
)χ
+(ι″一σ″)Z 1231
πF=厖
=ノ
ク 争力
120
で与 えられ る。ここで,Zは自国企業か ら外国企業への出荷数量,ノ。は外国企 業の自社生産量 とする。ノ=Z+ノ。である。市場の逆需要関数 は,(1)式と0)式 で与 えられている。利潤最大化問題 を解いてナ ッシュ均衡解,
″
=ノ
= 1261(580)"
法経研究 4号 (1996年)
を得 る。 また,市場全体では,
″+ノ =2α一π―
̀〃 1271
となる。為替 レー トの変化 は,自国企業 と外国企業の供給量 にはそれぞれ逆の 効果 をもつ ことがわかる。
ところで,為替 レー トの変化が 自国企業の利潤 にどう働 くかは,次のように して知 ることがで きる。垂直的な出荷 は,同時 に再帰的な外国企業か らの輸入 の増大 による影響 を受 けるのであるか ら,利潤 の増分 は,
等
=一レ 十 ι″一 ι″
の符号 に依存 してい る。 これ と
(5)式
か ら,aπ
〃̲α ―の‑3σ″+2θ″aり 2 とな る。 よって,
傷 =″ >0
が得られる。1251式,00式,1271式,00式 から,次の命題を得る。
1291
ハ ψ わ υ
命題3.外国企業 との垂直的取引関係 を流通チャネルに加 えた均衡 におい て,為替 レー トιの上昇
(自
国通貨安)は ,自国企業の国内向け供給量 を 増加 させ,外国企業の供給量 を減少 させ る。市場全体では供給量 は減少す る。この とき,自国企業の利潤 にはプラス となる。為替 レー トιの下落(自
国通貨高)は,この逆の効果 をもた らす。
V.結び
以上,不完全競争の簡単な ミクロ・ モデルを用いなが ら,為替相場が市場 に 及 ぼす影響 を考察 した。為替 レー トの調整的な変動が,市場価格や出荷価格 の 内外価格差 を生起することをみた。近年,国際経済学の分野で戦略的貿易モデ ルが展開 されて きたが,為替相場 の変動 を考慮 す る ものは,Brown[4]や Dombush[5]な どまだ少ない。垂直的取引関係への考察 もB田血ofen[1]
やSpencer and Jones[6]など僅かである。昨今,貿易摩擦 に関連 して,日
本の流通市場が国内外か ら注 目を浴びているが,流通市場 を国際貿易の視点か ら取 り上 げて検討す る必要があるであろう。機会があれば,なお一層の考察 を 加 えてみたい。
また,マクロ経済的には, Jカーブ効果のように,為替相場 と輸出入の動 き の間 にはタイム・ ラグが存在 している。マクロ的問題 は ミクロ的な問題 と結び 付 いていると考 えられ るか ら,この点 について もいずれ検討 してみたい と考 え ている。
(1995年
11月 30日)参考文献
Bornhofen,DoM., Price lDumping in lntemediate Good Markets,"
工
)%η
ttα′グ 」物″″zαπθ%α′Era%ο%グ
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Brander,J.A.,
Intra―
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Intemational Trade,".ル %解α′げ 物厖脅多α滅)πα′Era%ο
%グ
ιs,Vol.15,Nov.1983,pp.313‑21.
[4]Brown,D.K.,̀̀Market Stnlcture,the Exchange Rate,and Pricing Behavior by Firms:Some E宙 dence from Computable General Equilibriurn Trade Models,"ラ%′初 グ幻思cり
"cL6 4π
λ勿,Bd.
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[5]Dombusch,R., Exchange Rates and Prices,"4%ι% π
Eσ
οπο%″′ιυttω,V01.77 No.1,Mar.1987,pp.93‑106.
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"a/Eco%οπ″S効磁ιs,Vol.58(1) No.193,Jan。 1991,pp.153‑170。
[7]小島清「 日本経済の輸入行動一低 い輸入依存度の謎一」『駿河台経済論 集』第5巻第1号,1995年9月,55‑108ページ。
[8]成生達彦著 『流通の経済理論―情報・ 系列・ 戦略―』名古屋大学出版 会,1994年。
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