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動詞的動名詞の歴史的発達について

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(1)

動詞的動名詞の歴史的発達について

著者 大村 光弘

雑誌名 人文論集

48

1

ページ A325‑A343

発行年 1997‑07‑31

出版者 静岡大学人文学部

URL http://doi.org/10.14945/00001101

(2)

動詞的動名詞の歴史的発達 について*

0。 は じめに

本稿の目的は、英語史 において特異な発達 を遂 げて きた動詞的動名詞 につい て、その発達過程 を記述すると共 に、生成文法 に基づ く説明を与 えることであ る。中心的主張 は、以下 に示 した とお りである。

(1)動名詞 は、英語の歴史のなかで、IPの表わす事態 (state Of affairS)を 指示で きるようになった。この変化 は、機能範疇DがNP補部 だけでな

く、IP補部 もしたが えるようになった ことを意味 している。

1節では、ヘルシンキコーパ スに基づ く調査か ら、動詞的動名詞の歴史的発 達 を記述す る。2節では、生成文法の見地か ら動詞的動名詞の発達 に説明を与

える。3節では、動詞的動名詞の主語 について考察 を試みる。

1.動詞的動名詞の発達

1.1.動名詞の もつ文的特徴

古英語期 の一ung/―ing接辞 は、動詞 か ら女性名詞 を派生す る派生接辞 (der̲

ational affix)で あ り、 この接辞が付 いた動名詞 は純然たる名詞であった。中 英語期 に入 ると、一ung形態 は消失 し、一ing形態 は一般化の傾向を強める。さら に、中英語期か ら近代英語期 にかけて、動名詞の中に文の持つ様々な特徴 を持 つ ものが現われ るようになる。なぜ動名詞が文の持つ特徴 を獲得す るに至 った のか については後の節で述べ ることにして、1節で は、動名詞が文の持つ特徴 を獲得 していった歴史的過程 を詳 しく記述す る。以下 に示す表1から表6は

‑325‑―

(3)

(a)副詞 と共起する、(b)前置詞ofを介することな く目的語名詞句をとる、(C)叙 構造 (be+述)をなす、(d)否定辞 nOtを ともなう、(e)受動形をなす、(f)完 形をなす といった6項目について、ヘルシンキコーパスに基づ く独 自の調査結 果をまとめたものである1。

副詞 と共起する動名詞 年代区分 1000語 当た りの発生率 1250‑1350

1350‑1420 1420‑1500

1500…1570 1570‑1640 1640‑1710

0.03 0.05 0.08

0。18 0.27 0.45

目的語名詞句 を直接 したがえる 動名詞

叙述構造 をなす動名詞 年代区分 1000語 当た りの発生率 1420‑1500

1500‑1570 1570‑1640 1640‑1710

0.005 0.026 0.095 0.199 否定辞nOtをともなう動名詞

年代 区分 1000語 当た りの発生率 1570‑1640

1640‑1710

0.016 0.076 受動態動名詞

年代区分 1000語 当た りの発生率 1570‑1640

1640‑1710

0.026

0。170 完了形動名詞

年代 区分 1000語 当た りの発生率 1570‑1640

1640‑1710

0.01 0.07

これ らの調査結果が示す事柄 をまとめてみよう。動名詞 は、中英語期のかな り早 い時期か ら副詞 と共起 した り、目的語名詞句 を直接 したがえるようになる。

また、表中の発生率の上昇具合か ら分かるように、 これ らの動詞的特徴 をもつ 動名詞 は、16世紀頃か ら急速 に発達 してい く2。 この時期 を境 に動名詞の動詞的 性格が著 し く高 まった ことは、(3)に示 した ように、二重 目的語 をとる動詞が動 名詞 として用 い られている例 や、(4)に示 した ように、不変化詞移動 (particle

movement)に関わ る動名詞の例が、17世紀 に入 ってか ら現われ始 めることか 年代区分 1000語 当た りの発生率

1250‑1350 1350‑1420 1420‑1500 1500‑1570 1570‑1640 1640‑1710

0.01 0.03

0。18 0.37 0.85 2.19

‑326‑

(4)

ら も明 らか で あ る。

(3)a.17c,ιι滋 浴 12月,2

1 thanke you for sending me word

̀I thank you for sending Fne WOrd'

b.17c,ルθ Nヽ6,44。 Cl

from giuing hirn cause

̀from gi宙ng him cause'

(4)a.17c,P滋%″ 勁 ″ 」s′勿ισκθ%s,129

without cutting them off

b.17c,動物ι七月味わηa/ル(カ

,Part l,I,173

He had such an extravagant vanity in setting hiinself out,that it was very《 五sagreeable。

つぎに、表3から表 6の 調査結果に目を向けてみよう。叙述構造をなす動名 詞は中英語期から生起 し始めるが、中英語期ではまだ稀で、近代英語期に入っ てから徐々に発達 している。否定辞 nOtを 伴 う動名詞や、完了形や受動形の形 式をとる動名詞は、中英語期には見 られず、16世 紀後半から生起 し始める3。 りわけ、完了形や受動形をとる動名詞の出現は、 この頃から文に似た内部構造 をもつ動名詞が出現するようになったことを意味 している。

1.2.動詞的特徴を持つ動名詞の発生要因

1.2節では、おもにVisserの観察に基づいて、動詞的特徴 を持つ動名詞の出 現要因を考察する。はじめに、現在分詞 と動名詞の間の音韻的・ 形態的交差を とりあげてみよう。中英語期に、南部地方・ 中部地方で一般的に用いられてい た現在分詞語尾inde(/indO/)は 、形態素末の/o/が消失 したことに加 えて、し ばしば/d/が発音されないことがあり、/in/と発音 されていた。一方で、動名詞語 尾であった一ingの形態素末の/0/は発音 されない傾向にあり、結果 として、現在 分詞の場合同様に/in/と発音されていた。発音におけるこの類似性は、(5)に示 し た脚韻の例から知 ることができる4。

‑327‑―

(5)

(5)a.1375,助οム店″ιり ι%ゐ,6,85

bynd̀bind'一kingèking'/thryngèpressing'

b。 1400,ι滋 乱 ス揚 拡,63

tydinggètidings'一 ――――liggyndèlying'

C. α¢2., 145

sekynd̀seeking'一――――tyding̀tidings'

さ らに、(6)か(8)に挙 げた 同一語 に関す る異綴 りか らも、動名詞語尾 と現在分 詞語尾が音声的 に類似 していた ことがわか る5。

(6)a。 1250,̀ι πι ια″% Iレ,99 furberningèburning up' b. j滋π。,lo8

furberninde

(7)a.1349,動ι Cοπ%α%グ%ιπ′,95 owtkastyng̀throwing out' b. αι′π。,120

castand owt

(8)a.1425,C滋 %励σtt Gπ πtt Cカ グ協″ θ,9 Drieng̀drying'

b. αι′%.,45 drland

この ような音韻 的・ 形態 的交差 によって、現在分詞 は もともとの形態 (す わ ち、一inde)を失 な いつ つ、動名 詞 か ら一ing形態 を も らう こ とにな る。 中尾

(1972:164)に よれ ば、 この変化 は15世紀 頃 まで に完 了す る。

つ ぎに、動名詞 と不定詞 との間 の音韻 的・ 形態的交差 に目を向 けてみ よう。

古英語期 に与格不定詞(dative infinitive)語 尾 で あ った一emeは、中英語期 に形 態素末 の/お よびその前 の/n/が消失 し、結果 として、/in/と 発音 され るように な る。既 にふれた ように、動名詞 も同様 に/in/と 発音 され ていたので、ここで も 動名詞 との間 に音声的類似性 が生 じていた こ とにな る。実際の ところ、(9)か0

(6)

の例 が示 す よ うに、この不 定 詞 語 尾 はing語尾 に置 換 され る こ とが あ っ た6。

(9)1250,Zの B%′ B,16042

3an 3inge 3at     me beo3 to comende the things which to me are to come

̀the things which will happen tO me'(cf。 1205,ι の B%′4,to curnen)

L382,

Wycli,f

, tr. Exod., Luke, 7,

2

he was to dyingehe he was to die 'he was dying'

1400,

Tale of Beri,n,347 This nydte gat is to comlmg

this night that is to come 'this night that is coming'

l121 1470‑1485,ZグИ 。,1,面,v;

He will put his owlle child to he will put his Own child to

̀he will leave his own child to 38

nourisshynge to another woman

nourish to another woman nourish to another woman'

尚、与格不定詞語尾―emeは 1500年頃 までに消失 し、代わってto十原型不定詞 の形式が確立する (中 (1972:260)参)。

以上、英語の歴史のなかで動名詞 と現在分詞 または不定詞の間に、形態的・

音韻的交差が存在 した ことが示 された。 ここで、次のような結論が導かれ る。

(純然た る名詞であった)動名詞 と、現在分詞や与格不定詞 といった動詞範疇 の間に形態的・音韻的交差が生 じた結果、前節で観察 したような統語的特徴(た

とえば、副詞 との共起や前置詞of無しで 目的語名詞句 をとるな ど)をもつ動名 詞が現われ るようになった。 この ことは、当時の英語話者が現在分詞や与格不 定詞か らの類推 によって、(純然たる名詞であった)動名詞 を動詞的 に解釈する ようになった ことを意味 している。次節では、生成文法の見地か ら、1.1節 観察 した史実 に説明を与 える。

‑329‑

(7)

2. 

2.1.名詞句の構造

はじめに、動詞的動名詞の歴史的発達 を説明するうえで用いる基本的仮定 を 明 らかにしてお く。第1に、名詞句の一般的構造 は、0に示 したDP構造 である

と仮定す る。

CD 名詞句の基本構造7:[DP…D[NP・ N.… ]]

031において、NPはその指示物(referent)の 特性 を表わ し、機能範疇Dはこの 指示物 を実世界 を含 めた何 らかの可能世界 に写像す る機能 を果たす。 また、現 代英語の場合、NPの指示物が何 らかの可能世界 に存在する方法(たとえば、定 (definiteness)、 数量化 (quantification)な )がDと して語彙的に顕在 化す る場合がある。例 えば、αりに結けるNPは、その指示物である犬 とい うも のが持つ一般的特性 を表わす。 また、素性 [十definite]を内在的 に含 む定冠詞 は、 この大が何 らかの可能世界 に存在す る特定の大であ りうる資格 を与 える。

一方、素性 [―definite]を 内在的 に含 む不定冠詞 は、 この ような指示効果 を持 たない。結果 として、NPの指示物 は、何 らかの可能世界 に存在するある1匹 犬であるか また は、大 とい う団体概念 その もの となる。

Cり a・ [DP[D the(十 definite)][NP dOg]]

b・ [DP[Da( definite)][NP dOg]]

名詞句 の定性が決定詞の内在的素性 によって決 まらない場合 もある。例 えば、

CDにおいて、名詞句全体の定性 は、所有格名詞句 と機能範疇Dとの指定辞主要 部関係 (Spec―head relation)│こ よって決定 されている。

CD a・ [DP[DP J01m][D'[D'S(十 definite)][NP dOg]]]

b・ [DP[DP SOmeone][D'[D'S( definite)][NP dOg]]]

つまり、定名詞句Johnを DP指定辞に持つ(15a)に対 しては、Johnと いう人物 が飼っている特定の大を指示する解釈が与えられる。一方、不定名詞句some‐

‑330‑

(8)

oneをDP指定辞 に持 つ (15b)に 対 しては、誰かが飼 っている不特定 の犬 を指 示す る解釈が与 えられ る。

名詞句構造 に関わ る第2の仮定 は、機能範疇Dが格 を付与で きるとい うもの である。 とりわけ、機能範疇Dは、指定辞主要部関係 によって名詞旬 に構造的 属格 (structural genitive Case)を 付与す る (大 (1995)参)。

00 [DP DP [D'D[NP… N.… ]]]

tcase」

2.2.:Pを選択 するD

l.2節で示唆 したように、動名詞 と現在分詞および動名詞 と不定詞 との間の 音韻的・ 形態的交差の結果、動名詞の名詞主要部が動詞的である (そ して更 に は、動詞である)と感 じられることがあった と考 えるのは信憑′陛に欠 けるもの ではない。 ここで、 これ までの議論 を整理する目的で、現在分詞や与格不定詞 といった動詞的範疇 と動名詞 との音韻的・ 形態的交差 と、動名詞が獲得 した動 詞的特徴 との関係 をまとめてみ よう。1.1節で観察 した動名詞の統語的特徴

は、時期的 に次のように大 き く三分化で きる。

071a.初期中英語期 に、動名詞 と現在分詞及び動名詞 と不定詞 との間 に音韻 的・形態的交差が生 じ始 め、動名詞が動詞的に感 じられ るようになる。

この結果、副詞 に修飾 される動名詞や前置詞無 しに目的語名詞句 をし たが える動名詞な どが出現す る。

b。 後期 中英語期 に、叙述構造 を とる動名詞が出現す る。

C.後期 中英語期か ら初期近代英語期 にかけて、副詞 に修飾 される動名詞 や前置詞無 しに目的語名詞句 を とる動名詞 の発生率が著 し く上昇す る。同時期 に、受動態動名詞、否定辞nOtを含 む動名詞、完了形動名 詞 な どが現われ始 める。

節の基本構造aOを踏 まえた うえで、αつを再考 してみ よう。

CD 節の基本構造 :[IP Infl[NegP Neg[vP V.… ]]]8

‑331‑―

(9)

叙述形式 をなす動名詞が出現す る段階 において、動名詞 は出来事 (event)だ け でな くbe十述語形式が表わす状態(state)も表わす ようになる。叙述形式 をな す動名詞の出現 に伴 って、形式上類似 している受動態動名詞が出現する。 ここ までの統語的特徴 は、VP内に限 られている。これに対 して、否定辞nOtを含む 動名詞や完了形動名詞の出現 は、VPの外側 に現われ る機能範疇 と密接 に結 び ついている要素が、動名詞の中にも現われるようになった ことを示 している(完 了相 とIn■ の関係 については、Ohnura(1997)参)。 この ことは、「動詞的に 解釈 される」段階か ら「文的に解釈 され る」段階に進 んだ動名詞が、出現する ようになった こと(言い換 えればく(19b)の 構造 を持つ動詞的動名詞が出現す る ようになった こと)を意味 している9'1°

C9a.15世紀か ら16世紀頃 に、機能範疇DはNP補部 だけでな く、UGに

よって構築 され る一般的節構造 (すなわち、IP補)も選択で きるよ うに再解釈 され始 めた。

b.動詞的動名詞の基本構造 :

[DP D[IP[I― ing][NegP Neg[vP V.… ]]]]

2.1節で述べたように、機能範疇Dは、補部の指示物 を実世界 を含めた何 らか の可能世界に写像する機能 を果たす。実際、00の動詞的動名詞 (内部構造OD) において、機能範疇DはIP補部の表わす事態を現実世界に写像 している。

1201  %グ 五ン.a/ ″。,CaxtOn,91

1 erryd in httyng and dyffamyng his book in dyuerce places l erred in hu」ting and defanling his book in diverse places

̀I erred in hurting and defaming hiS book in diverse places'

12D [DP D [IP PRO Infl[vP hurtyng and dyffamyng his book in

dyuerce palces]]]

非定形IPが現実世界の事態を指示できない(Ohnura(1997))こ とを考えると、

00において動詞的動名詞の表わす事態を現実世界に位置づけているのは、機能 範疇Dであると推論 される。

‑332‑

(10)

2.3.動詞的動名詞の分布

動詞的動名詞が(19b)の構造をなす とすると、動詞的動名詞が動詞的特性 と 名詞的特性 を合わせ持つことが説明される。つまり、動詞的動名詞は、(19b)の 内部構造 を持つことから1.1節で観察 した節的統語特性をもつ とともに、全体 の範疇がDPであることか ら名詞句の分布 を示す。1221か0に示 した現代英語 の事実は、 この仮定を支持 している。

第 1に 、節 と異なり、動詞的動名詞は前置詞の目的語になる。

1221a,   I learned about John's smOking stOgies, b.   I learned about John smoking stogies.

C.   I learned about JOhn's weakness for stOgies.

d. *I learned about that JOhn smoke(s)stogies.

e. *I learned abOut(fOr John)to smOke stogies.

第 2に 、節 と異なり、動詞的動名詞 は主語助動詞倒置 (SubieCt―Auxiliary lnversion)を │き起 こす。

1231 a o   wOuld John's smOking stOgies bother yOuP b o  PWould JOhn smOking stOgies bother youP C. Does John's weakness fOr stOgies bother you' d.*Does that JOhn smOkes stOgies bother youP e. *Would (for JOhn)to smoke stogies bOther youP

第 3に 、節 と異なり、動詞的動名詞は埋め込み節の主語になる。

1241a.   I believe that John's smOking stogies wOuld bother you.

b.  PI beHeve that John smOking stOgies would bOther you.

C.   I believe that J9hn's weakness fOr stOgies bothers yOu.

d. *I believe that that John smOkes stogies bothers you.

e. *I beHё ve that(for JOhn)tO smOke stOgies wOuld bOther you.

4に、節 と異な り、動詞的動名詞 は文の先頭 にある副詞に後続する。

‑333‑

(11)

1251a.  Perhaps John'S SmOking stogies would bother you.

b.   Perhaps John smoking stogies would bother you.

C.  Perhaps John's weakness for stogies bothers you.

d. ??Perhaps that John smokes stogies bothers you.

e. PPPerhaps(for you)to smOke stogies would bother you.

5に、節 と異な り、動詞的動名詞 は話題化 (topicalization)を受 ける。

1261a.  JOhn's slrloking stogies l can't abide.

b o PJolm smOking stogies l can't abide.

C.   John's weakness for stogies l can't abide。

d. *「Fhat John smOkes stogies l can't abide.

e. *For John to Smoke stogies l won't pemit.

最後 に、節 と異な り、動詞的動名詞 は分裂文の焦点 (focus)の 位置 に生起す る。

1271a.   It's John'S Smoking stogies that l can't abide.

b.   It's John SmOking stogies that l can't abide.

C.   It's John's Weakness for stogies that l can't abide.

d. *It's that John SmOkes stogies that l can't believe.

e. *It's fOr John to smOke stogies that l won't pennit.

(An the examples in 1221‑1271 are taken from Abney 1987:Chapter 3)

3.動詞的動名詞の主語

現代英語 において、動詞的動名詞の主語 は属格 (genitive Case)で標示 され るか、 または、対格 (accusat市e Case)で標示 され る。3節では、動詞的動名 詞の属格主語および対格主語 について、歴史的考察 を試みる。 また、 これ ら2 種類の主語が どの ように認可 され るか を論 じる。

3.1.属格主語

大村 (1995)は、英語の歴史 の中で名詞句 内の属格付与 は、概ね00に示 した

‑334‑

(12)

変化 を経た と主張 している。

1281a.古 英語期 において、N主要部 は内在的属格付与子 (inherent genitive Case assigner)で あった。 また、機能範疇Dは格付与 に関 して不活性 であった。

b。 中英語期 において、N主要部 による内在的属格付与 とD主要部 による 構造的属格付与 (structural genitive Case assi̲ent)の両方が存 在 していた。

C。 近代英語期 において、N主要部 による内在的属格付与 は消失 した。

この主張 は とりわけ、後期 中英語期以降生起するようになった動詞的動名詞に おける属格付与 に対 して重要な意味 をもつ。た とえば、古英語期以来属格付与 子であったN主要部 を欠 く動詞的動名詞 において、主語 に属格 を付与 している のは機能範疇Dである と推論で きるか らである。例 えば、1291における属格付与 は、00と して表わ され る。

00 P1400,Dastt g%り ,13766‑一Taiima(1985:82)

his prOkuryng prestly al the pure′ rroiens his prOcuring quickly all the pure Troians

̀his procuring all the ptre Troians quickly'

13111 [DP [IP Inn[vP′ prok̲g prestly all the pure

Troiёns]]]]

古英語期 よ り、名詞の主語 は一般 に属格 で標示 されていた。 この意味で、動詞 的動名詞 における属格主語 は、中英語期 に現われた新 しい形式ではない。 この ことか ら、動詞的動名詞が属格主語 を伴 うようになったのは、古英語期か ら存 在 していた一般的形式 を、類推 によって動詞的動名詞 に拡張 した結果だ と思わ れ る。

ヘルシンキコーパスを用いて、 自動詞 を基体(r00t)に もち且つ副詞 と共起 し ている動名詞や 目的語名詞句 を直接 したがえている動名詞が、属格主語 を伴 う 例の数 を調べてみ ると表7に示 した結果が得 られた。

‑335‑―

(13)

年代区分 1000語当た りの発生率 1350‑1420

1420‑1500 1500‑1570 1570‑1640 1640‑1710

0.027 0.061 0.089

0。142 0.421

通格主語

Periods

Non-pronominal

Pronominal 1200‑1250

1250‑1300 1300‑1350 1350‑1400 1400‑1450 1450‑1500

Taiima(1985:122)

表 7 2.2節で、(19b)の 構造 は、15世紀か 16世紀 頃 に生起 し始 めた と主張 し た。 また、既 に00で述べた ように、機 能範疇Dは中英語期 か ら格付与子 と

して再解釈 され始 めていた。 この こと は、機能範疇Dが動名詞の主語名詞句 に構造的属格 を付与することで、 これ を形式的に認可す ることが可能であっ た ことを意味す る。 さらに、動詞的動名詞が拡張す るにしたがって、主語名詞 句が属格で標示 され る形式 も拡張 していつた ことが推測 され るが、実際の とこ

ろ表7の調査結果 は、16世紀頃か ら属格主語 を伴 う(動詞的)動名詞の数が非 常 に増加 していることを示 している11。

3.2.対格主語

つ ぎに、動詞的動名詞 の対格 主語 に目を向 けてみ よう。Visser(1966)や Taiima(1985)の 調査が示す ように、いわゆる通格 (common case)で標示 さ れ る名詞句が動名詞の主語 になっている例 は、13世紀初 めか ら現われ始 める。

ここで注意 しな く てはならないのは、

ODのように、動名詞 の主語がいわゆる通 格で標示 されていた として も、す ぐさま この主 語 に抽 象 格 (abstract Case)と しての対格が付与 さ れていたと貝断できないことである。

001225,κηr」2,847‑― Visser(1966:1176) At 3e sonne rysyng

at the sun  rising

̀at the time of the surl's rising'

‑336‑

(14)

何故な ら、中英語期 に抽象格 としての属格 を付与 されていた名詞句が、顕在的 な属格語尾 を伴ってぃなかった可能性があるか らである。 これは、中英語期の 名詞が屈折の水平化 によって、古英語期 には豊かであった屈折語尾 を失 う過程 にあったか らである。実際、古英語期 の suFmèSun'の 属格単数形 はsunnanで あったが、00で属格 を付与 されている中英語期のsomèsun'は無屈折である。

さらに、表8が示すように、動名詞の対格主語 は、普通名詞 と代名詞 とでは生 起 し始めた時期 にかな りの差がある。代名詞 は、普通名詞 とは異な り、付与 さ れている抽象格の種類 に関 して形態的曖昧性がないので、動名詞の主語 に対格 が付与 され始 めた時期 は、対格代名詞主語が生起 し始めた15世紀頃であると考 えるのが妥当であると思われ る。

動詞的動名詞 に属格主語が現われ るようになったのは、名詞句一般 について 見 られ る形式 (つまり、主語 を属格で標示す ること)を動詞的動名詞 に適用 し た結果であると提案 したが、対格主語の出現 に関わる主要要因は如何なるもの であろう。本稿では、動詞的動名詞が対格主語 を伴 うようになった主要要因は、

現在分詞か らの類推 にあった と提案す る。以下、 この ことを支持すると思われ る幾つかの証拠 を提示す る。第1に、名詞 を後置修飾す る現在分詞の例か ら始 めよう。 この形式 は、古英語期か ら見 られる。

1321 aE晟.五,47‑― Visser(1966:1071) candele berninde

torches buming

̀burning torches'

1321において、現在分詞の意味上の主語 は、 この現在分詞が修飾 している主要部

名詞 と解釈上同一である。動名詞 と現在分詞が音韻的・ 形態的に交差 していた こと(1.2節参照)を考慮す ると、後者か らの類推や両者間の混同が引 き金 と なって、対格主語 を伴 う動詞的動名詞が出現 した と考 えることが可能である12。

2に1331と130に挙 げた独立分詞 も、対格主語 を伴 う動名詞の出現 に貢献 した と考 えられ る。

1331 αИ C,12525‑― 中尾 (1972:326)

And iesus stiH him efter stal,Ioseph and mari vFIWittand and JeSus still hirn after stole Joseph and Mary unwltting

‑337‑―

(15)

̀and Jesus still stole after hiln, wlthout Joseph and Mary noticing that'

00 21,32‑― 中尾 (1972:326)

wlthout th'ad宙s  of my lord of Bedford,him being in lEngland, without the advice of my lord of Bedford hirn being in England and him being out,of my Lord of Gloucestre

and hiln being out of rny Lord of Gloucestre

̀without the advice of rny lord of Bedford,who is in England and out, and of my Lord of Gloucestre'

00と00では、独立分詞の主語が対格で標示されている13。 第 3に 、近代英語期か ら非常に頻繁に現われるようになった09か1371のような構文 も注目に値する。

09 1549,ルη%οπ οπ ttι 2′θ

̀唇

みι,29

1 thynke l se you lysting  and hearkening l think  l see you listening and harkening

̀I think l see you listening and harkening'

00 1611,η%′ 屁 ω Tcs滋%′%′,John,Chapter l,38 1esus turned,and saw thenl fo■ owlng

̀JeSuS turned,and saw them followlng'

13711680,助 2調 ,157

once they heard hilrl praying very devoutly

̀once they heard him praying very devoutly'

現在分詞が母型動詞 の 目的語 を意味上 の主語 に持 つ この ような形式 力ヽ 同様 の 意味 関係 を含 む対格 主語付 き動名詞 の発達 に影響 を与 えた とい う事 は十分考 え

られ る こ とで あ る。

つ ぎに、動詞的動名詞 の主語 に対格 が付与 され る仕組 み について考察 してみ よ う。本稿 の提案 は、(38b)に示 した とお りで あ る。

(16)

00a。 1400,L滅 2レ,6317‑Taiima(1985:126‑127)

he was war    of henl comyng he was cautious of hirn conling

̀he was cautious of hiln corrling'

b・ [DP[hem][D'D[IP Infl[vP′ [v,coming]]]]]

1:case」

(38b)に おいて、機能範疇Dが主語代名詞 に対格 を付与 している14。 この格付与 の仕組 みは英語の動名詞が現在分詞か らの影響 を強 く受 けた結果、英語の文法 に導入 された言語個別的特性であると考 えられ る。 この ことは、動詞的動名詞 の属格主語 と対格主語の発達 を比較す ることか ら導かれ る。た とえば、機能範 Dによる属格付与が普遍文法の一部であるなら、ある条件が揃 えば、それが 自動的 に英語の文法の中で機能すると予測 される。一方、機能範疇Dによる対

格付与が言語個別的規則であ り、少 しづつ英語の文法 に組 み込 まれていった と すれば、それが完全 に確立す るまでにはある程度の期間を要 した と予測 され る。

Visser(1966:1177,1183)は 19世紀 に入 ってか ら対格主語 を伴 う動名詞が 非 常 に頻繁 に現われるようになった ことを報告 している。つ まり、15世紀頃 に 対格主語 を伴 う動名詞が現われ始 めてか ら、 この形式が頻繁に現われ るように なる19世紀 まで、およそ400年の期間 を要 していることになる15。 属格主語 に 対す る対格主語の有標性 は、後者が言語個別的性質 をもつ ことを示唆 している。

4. 

本発表では、ω英語の動名詞が文の持つ6つの統語的特徴(副詞 と共起する、

前置詞 ofを 介す ることな く目的語名詞句 をとる、叙述構造(be十述語)をなす、

否定辞nOtを伴 う、完了形 をなす、受動形 をなす)を示す ようになった歴史的 過程および、CBl(動詞的)動名詞が属格主語 また は対格主語 を伴 うようになっ た歴史的過程 を記述 し、 これ らの言語変化 に関わる可能 な要因 を特定 した。具 体的には、① の史実 に対 して以下の説明 を与 えた。

09 動名詞 と現在分詞お よび動名詞 と不定詞 との間に形態的・ 音韻的交差が‑339‑―

(17)

生 じた結果、動詞的な特徴 をもつ動名詞が出現 し始 めた。 さらに、動名 詞の動詞化が進む と、文 に近 い構造 をもつ動名詞 も出現 し始 めた(15世 紀か ら16世紀頃)。 この段階 において、機能範疇DはNP補部 だけで

な くIP補部 も選択で きるように再解釈 され始 めた。

また、③ の史実 に対 して以下の説明 を与 えた。

00a.動詞的動名詞 に属格主語が現われ るようになったのは、名詞句一般 に ついて見 られる形式 (つま り、主語 を属格で標示すること)を動詞的 動名詞 に適用 した結果である。属格主語 に格 を与 えているのは機能範 Dである。

b.動詞的動名詞 に対格主語が現われ るようになったのは、現在分詞か ら の類推 による。動詞的動名詞の対格主語 に格 を与 えているの も機能範 Dであるが、この格付与 の仕組みは、言語個別的規則 として発達 し た ものである。

*本校は、近代英語協会第 13回 大会(1996年 5月 24日 、於成曖大学)におい て回頭発表 した原稿の一部に修正を加 えたものである。

以下の議論では、名詞化接辞の一ingが動詞に接辞化 した構造一般について、

動名詞 (ge―d)という用語を用いる。また、動詞的動名詞 (verbal gerund) と言った ときには、 とりわけ、機能範疇 (functional category)の DがIP補 部を選択する構造を意図している。

1ヘルシンキコーパスの各年代区分に含 まれる総語数は、それぞれ以下に示 し た とお りである。

年代 区分 総語数

1150‑1250 1250‑1350 1350‑1420 1420‑1500 1500‑1570 1570‑1640 1640‑1710

113010 97480 184230 213850 190160 189800 171040

2Taiima(1985)は、ヘル シンキコーパ ス中の 中英語文献 の総語数 をはるか に越 える豊富 な データーに基づいて、本稿 と同様 の調査 を行 っ ている。Taiima(1985:Chapters l and 3)は 副詞 と共起する動名詞や 目的語名詞句 を直接 し たが える動名詞 は、15世紀頃か ら数量的 に著 し い増カロの傾向にあった ことを報告 している。 し たがって、 これ らの動詞的特徴 は、本稿の調査

‑340‑

(18)

結果が示す よ りも早い時期か ら発達の傾向にあった と思われ る。

3Taiima(1985:105;114)は 、否定辞nOtをともな う動名詞が14世紀頃か ら、受動形動名詞が15世紀頃か ら生起 し始 めた ことを報告 している。この こと は、 これ らの動名詞が本稿 の調査結果が示す よりも早い時期か ら生起 し始めた ことを意味 している。 しか し、豊富な資料 に基づ くTaiima(1985)の調査 にお いて も、 これ らの形式 は、中英語期の間はご く稀 にしか見 られない。

4(5)に挙 げた例 は、Visser(1966:§ 1027)よ り引用 した ものである。

5(6)か (8)に示 した例 は、Visser(1966:§ 1028)よ り引用 した ものである。

6(9)か 0に示 した例 は、Visser(1966:§ 1031)よ り引用 した ものである。

7名詞旬の構造が単なるNPではな く、DP―NPとい う二重構造である根拠 に 関 しては、Abney(1987)を参照。

8本校では、議論 に関係 して こない分裂Infl仮 (split lnfl hypothesis;Pol‐

lock(1989),Chomsky(1991),etc。 )について言及 しない。

9‑ingは Infl主要部 に含 まれ る名詞的要素であ り、PFにおいてV主要部 に

接辞化す ると仮定する。

動詞的動名詞の発達段階 を、DP―VP構造→DP―NegP―VP構造→DP―IP―

NegP―VP構造 といった構造変化 として捉 えるこ,とは大変興味深 い もので あ る。 しか しなが ら、 この場合、当時の英語話者がそれぞれの段階の構造分析 を 行 な うに至 った言語的手がか りを想定 しな くてはな らない。 この ことは困難 を 要す るものであるので、 (19a)を 採用す る。

11おそらくこの頃に(19b)の 構造が確立 した と思われ る。

12動名詞 と現在分詞が形態的に交差 していた と見倣せ る例が存在す る。

(i)&π

ttЙ Sθ物りο%s,26‑一Visser(1966:1175) swo apierede[sc.si sterre]te 30  3rie kinges of so  appeared    the star  to those three kings of he3enesse   toianes 30 Sunne risinnde

heathendom against the sun  riSing

̀so the star appeared to those three heathen kings at the tilne of the sun's rising'

ただ し、(i)に関 して、動名詞 と現在分詞 の形態的交差以外 の理 由 も考 え られ る。

‑341‑―

(19)

13独立分詞の主語の格 は、16世紀頃 までには主格 に移行す るが、通格の場合 は 両者の間に形態上の区別 はない。

140hШra(1997)は 極小主義 プログラム(Minimalist Program;cfo Chomsky (1995))に基づいて動詞的動名詞 を分析 している。 とりわけ、属格主語 と対格 主語の認可 は、次の方法で行 なわれ る。属格素性 を含む名詞句 は、PF収(PF

rlvergence)のためにDP指定辞 まで顕在的に移動する。属格素性 を含む機能 範疇DはLFにおいて、指定辞位置 にある名詞句の属格素性 を照合する。一方、

対格素性 を含む名詞句 は、顕在的にIP指定辞 まで移動するが、DP指定辞 に移

動する必要 はない (したがって、移動 しない)。 LFにおいて、対格素性 を含 む 機能範疇DはIP指定辞 にある名詞句の対格素性 を誘因(attract)し照合す る。

格照合 に関す る詳 しい議論 に関 しては、Ohnura(1997)を参照。

15実際、ヘル シンキコーパ スを用 いて 1640‑1710に 現われた属格主語 を伴 う 動詞的動名詞 と対格主語 を伴 う動詞的動名詞の数 を比較 してみると、前者が72 例 に対 して後者 は28例であった。この ことか ら、少な くともこの時期 には、対 格主語が頻繁 に現われていなかった ことがわかる。

引用文献

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Do dissertation,MIT,Cambridge,Massachusetts.

Chomsky, Noalm (1991) Sorrle Notes on Economy of Derivation and Representation,"″πθ夕′賀 απグルz%ι″弯 物の απ″υι Gπ%%″,

edited by Robert Freidin,MIT Press,Cambridge,MassachusettS

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Chomsky,Noam(1995)物 〃′π′ηπ施′o『απ,MIT Press,Cambridge, Massachusetts.

中尾俊夫 (1972)『英語史 Ⅱ (英語学体系8)』,大修館,東.

大村光弘(Mitsuhir0 0hnura)(1995)「英語史 における属格付与子の変遷 につ いて」,『近代英語研究』第11号,近代英語協会,47‑62。

Ohnura,MitsuhirO(1997) On●e EPP Effect in Verbal Gerunds,"」 磁クι簿 力 π ttθ コイ厖 ♪屹滅フπα′Cο″ ″π o/ηtt Eηg′た力Zグ篠μた,党 Saσルク び

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‑342‑

(20)

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Tajima, Matsuji (1985) The Syntactic Deuelopment of the Gerund in Middle English, Nan'un-do, Tokyo.

Visser, Frederikus Theodorus (1966) An Histori,cal Syntax of the English Lang,nge, Vol. II, E. J. Brill, Leiden, Netherlands.

-343-

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