ノ
カナダの上院−憲法と第二院︵二・完︶
富 井幸雄
一 はじめに1参議院とカナダ上院
ニ カナダ上院の憲法上のデザイン
ー カナダ上院の起源−立法評議会
2 ケベック会議
3 制憲者の意図
三 カナダの二院制と連邦制
四 カナダ上院の構成と議員の任命制
1 上院の憲法枠組み
2 政権との摩擦
3 上院の正当性−任命制の功罪
4 上院議員の選出−州の代表?
カナダの上院−憲法と第二院︵二・完︶ ︵都法四十八−一︶ 一
二
5 上院の議事運営と議長の役割
6 小括 ︵以上四七巻二号︶
五 カナダ上院の役割 ︵以下本号︶
1 上院は立法⁝機関の独立した一部である
2 国政調査研究⁝機能
3 新たな役割
4 小括
六 カナダ下院との相違
1 上院のユニークな選出方法
2 財務法案における下院の先議権
3 憲法改正の発議
4 小括
七 カナダ上院の改革をめぐる議論
1 焦点
2 憲法改正と上院改革ーシャーロットタウン合意
3 憲法改正によらない上院改革論ースミスの主張
4 検討
八 むすびにかえて1第二院問題とカナダの示唆
付録 五 カナダ上院の役割
1 上院は立法機関の独立した一部である
︵1︶問題の所在
前章でみたように︑上院が代表するのは必ずしも一般意思ではなく︑少数者や地域の利益である︒これは数量的に
提示される多数決で明らかにされるのではなく︑上院の立法審議の質︑より根本的には審議をする上院議員の質に規
定される︒この点が評価されないと上院はまったくの無駄な機関となってしまう︒
カナダの連邦法は︑下院と上院で可決された法案を国王︵カナダ総督︶が裁可すること︵ぽぺ巴﹀ωωo目﹇︶によって
成立する︵一八六七年憲法五五条︶︒歳入の一部を支出するための法案や︑租税︑課徴金を課すための法案は︑下院 ︵97︶ が先議権を有する︵五三条︶︒カナダ憲法には上院のみの権能にかんする規定はない︒下院とともに立法権を行使す
ることは憲法で明確にされている︒もっとも︑立憲民主主義の展開の中で︑民主的基盤がなく代表としての位置づけ
が不明確な上院は︑下院の通した法案をほとんど承認するというパターンをとっている︒そこに︑上院にもともと期
待されてきた下院に対する修正や抑制効果が発揮されていないとの批判を生むこととなる︒
立法は上院が承認しなければ完結しない︒実質的には下院のおさがりになっているとしても︑憲法上は立法権を行
カナダの上院−憲法と第二院︵二・完︶ ︵都法四十八ー一︶ 三
四
使する機関である︒立法権が下院と上院に帰属するとした一八六七年憲法一七条は︑執行権は女王に属するとする九
条︑司法権は連邦及び州裁判所に属するとする第七章︵九六条以下︶とともに︑権力分立の規定といえる︒もつとも︑
上院が立法機能を果たしているかの評価は難しい︒評価の基準をどこに設けるのか︒法案を多く提出しているとか審
議時間が長いとかの基準はどうなのか︒上院は下院の受け売りとされるが︑上院自ら法案を提出できないのであろう
か︒できるとしたら︑どの程度法案を作成しているのか︑そしてその可決率はどのようなものであるのか︒そこに明
確な尺度があるわけではない︒立憲民主主義の展開の中で第二院は第一院に対して謙抑の機関となり︑これが当然と
見られるようになるため︑上院は謙譲を美徳とし︑でしゃばることはしない︒上院の活動はマスコミ等でもさしてと
りあげられず︑われわれからは見えにくい面がある︒上院が現実に果たす立法機能は議会の立法過程のほんのわずか ︵98︶ な︑そしてさほど目に見えない部分でしかない︒
こうした中にあって︑カナダでは︑政府や下院の法案に対する拒否権と︑立法や政策の調査⁝機能に上院を評価する
むきがある︒ここではこれらを検討して上院の立法機能を評価することにしたい︒
︵2︶上院の補完機能 ︵99︶ カナダの立法過程は簡単に言うと次のようである︒与党が政治目的をアジェンダに載せ︑立法化を目標に立てる︒
大臣が自分の省庁の職員に主要事項をリサーチさせ︑政策を練りあげ︑利害関係人の意見を聞いて︑議会に提案し︑
討論し︑可決させるための法案を起草させる︒実際には官僚が︑政治家の政策目的を達成させるために法案のとる手
法に重要な影響を与える︒提案をした大臣は首相をはじめ閣僚から賛同を得るように努力し︑これがなされれば与党
が下院の議席の多数を占めているとき︑通常は可決される︒下院の討論の過程で野党に受容されうるような修正がな
されることはあるが︑立法の目的が全部変更させられることは稀である︒
これでよしとの慣例ができあがったといえる︒﹁もし常に︵上院がこうした︶態度となれば︑別に問題は起こらぬ
のではあるが︑上院なる休火山は時として活動する場合があ﹂り︑特に政権が替わったとき︑旧内閣の勢力が強い上
院は政権新内閣に反論することが都・こうした﹁政変当座だけ﹂上院の問題に﹁火の手が上がり︑やがて終息し
たものであ﹂るけれども︑カナダの政治状況も変化してきたのであるから︑﹁改革問題は到底本式に政治問題となら
ずには置かぬであろう﹂と近衛は予言し越・はたしてその指摘ははずれなかった︒カナダという国家の特性に基づく
カナダの議会制民主主義の困難さがそこにはある︒カナダは建国からフランス語圏と英語圏の二つの言語や文化を内
包し︑さらにイヌイットなど北方準州の少数民族を多く抱えている︒カナダは一九八二年憲法︵カナダ人権憲章︶で
少数民族や言語︑文化を尊重する多文化主義︵二七条︶を立憲主義とした︒人口はオンタリオとケベックのいわばセ
ントローレンス回廊︵⇔o日●o﹁︶に集中している︒人口比例代表でいくと︑地域や文化等の違いによって少数者が保
護されないとの懸念が生じるのである︒代表とは人ロ比例の純粋代表だけではなく︑これら少数の者の利益を代表さ せる︑言い換えれば連邦政治に反映させる仕組みが必要なのであり︑これを上院に果たさせるということである︒
上院には︑下院を補完する四つの役割があるとされる︒立法矯正機能︑調査機能︑地方代表機能︑言語その他少数
の保護機能︑である︒これらを上院は歴史的に果たしてきた︒上院は人口代表︵叶O︹了げ︼下唱OO︶たる下院では果たしき
れない連邦立法府の機能を果たす︒立法機能に付随するものであることはいうまでもない︒
︵3︶立法機能
一八六七年憲法五三条により財務法案には下院に先議権があるとされて︑ほとんどの立法は下院でまず審議可決さ
カナダの上院−憲法と第二院︵二・完︶ ︵都法四十入ー一︶ 五
六
れる︒政府提出の法案が上院に先に提出されることもないわけではない︒一九二四年から四五年までは政府立法が上
院に先に提出されたのはたった三六件であった︒それが一九四六年から五三年には二二八件に増加した︒政府は︑時
間と熟練を必要とする立法には上院が適した場所であるとして︑上院で可決した後で下院に送付するほうが効率よい
と考えている︒
上院議員にも法案提出権はある︒多くの時間を有し︑手続も下院ほど厳格でない上院のほうが法案作成に適してい
るともいえる︒現実には数が少なく︑一九六五年以来︑一一二の上院提出法案があったが︑国王の裁可までこぎつけ
たのはその内の四件である︒また鉄道拡張や慈善組織の法人化など︑私的利益を扱う個別法︵且く巴oひ巨ω︶は︑安
上がりだとして上院に提出される︒個別法請願者は法案の印刷などの経費を自費で賄う︒法案提出費が下院では一九
三四年以来五〇〇ドルであるのに対して︑上院では二〇〇ドルなのである︒一九六七年まで上院は離婚の立法に精力
的で︑平均して年間三四〇の離婚を可決してきた︒一九六八年以降は︑離婚の承認は州の裁判所に権限が移行されて
いる︒ また上院は政府提出法案や下院可決法案を拒否することでも立法機能を果たすといえる︒政府法案を連合以降上院
が否決した主要な事例は次のようである︒
①一八七五年︑公金支出の裏づけがないとの理由で︑ウd°ひ゜州エスキモルトからナナイモまでの鉄道建設の法案を
拒否した︒
②一入七九年︑州政府は選挙の真っ只中にあった︒その状況では増加を要求する権利はないとの理由で︑o︒°P州
に判事二人を追加する法案を拒否した︒
③一八九九年と一九〇〇年に︑代表再編が英領北米法で要求されたとき︑一九〇一年の国勢調査が終わるまでは
法案審議を進めるのは不適当であるとの理由で︑オンタリオ州代表再編の法案を拒否した︒
④一九〇九年︑不必要な訴訟や混乱を招来させるとして︑財務裁判所から州の量口同裁判所へ一定の事件について
控訴するのを認める法案が拒否された︒
⑤一九二ご年︑上院は海軍援助法を否決し︑﹁本院は国家的判断に達するまで法案を承認するのを正当化されて
いない﹂との議決をした︒
⑥一九一九年︑カナダ生物委員会を海洋水産大臣の管轄下に置く法案を︑この委員会は独立していなければなら
ず政治的干渉から保護されるべきだとの理由で︑認めなかった︒
⑦一九二四年︑下院から送付された七つの法案を拒否し︑新たに編成されたカナダ国鉄の支線の建設にかかわる
三つの法案を徹底的に改正した︒
⑧一九二六年︑一般的な公的要求がなく︑州も承認を示しておらず︑社会的に望ましくないとの理由で︑老人年
金法を拒否した︒
⑨一九三〇年から四〇年にかけて︑下院からの=二の法案が上院を通過できなかった︒特許権にかかわるものに
加え︑判事の恩給にかかわる法案と農民信託調整法の拡大を規定する法案の︑議員から提出された二つの個別法
案が含まれた︒
⑩一九六一年︑上院銀行委員会は︑カナダ銀行総裁のポストが空いていることを宣言する法案は︑先の総裁︑
ジェームズ・E・コインが辞任した後で採択されるべきと勧告した︒
⑪一九六一年︑上院はそれを顧客法に追加するための政府法案にする修正を主張した︒一九七〇年代︑上院が下
院立法へ与える影響は︑自らの面前にやってくる前に法案に対して事前検討委員会報告が発する勧告に見出され
カナダの上院−憲法と第二院︵二・完︶ ︵都法四十入−一︶ 七
八
る︒一九七五年破産法案のそうした事前研究によって︑ほぼ一四〇の修正が提案された︒
八〇年代以降︵とりわけ一九八四年以降︶︑上院は積極的となり︑明確に下院の立法に反対したり修正したりする
ようになっていったのは︑すでに見たとおりである︒
︵4︶拒否権
上院が下院や政府の法案を拒否する権能を言う︒修正や交渉など下院とのすり合わせがあるが︑上院が同意しなけ
れば法案は成立しないから︑これは目に見える強い上院の立法機能といえよう︒一方で︑拒否権は下院の僕にはなら
ないとの政治的パフォーマンスにすぎないと批評される︒行使されれば︑憲法上の義務というよりもこうした政治的
意味合いに取られることが一般的かもしれ蚕唖・
すでにみたように︑政府提出法案はほとんどが下院に先に提出されるようになっている︒上院は下院の可決した法
案に対して拒否権を行使できる︒二〇世紀初頭は定期的に行使していた︒しかし︑一九四〇年以降二〇年以上も行使
されなかったことから︑政府の立法を妨害する権限は腐食したとの印象が植え付けら鮭・上院は下院に対して委譲
すべきであるとか︑衝突の時は忍従すべきであるとかの風潮が優勢となっている︒憲法上はこうした主張には根拠は
ない︒立法機能を果たす責務があるから︑上院が拒否権を行使することは否定されない︒ 拒否権には四つの効果が認められる︒第一は政府そして下院に対する萎縮効果︵6巨皆oq⑦巷臼︶である︒第二が説
明責任を果たさせる効果である︵騨89日声O巨せΦ港o古︶︒上院も含む立法過程に政府その他証人が参画し︑立法の詳
細な説明と正当化を論じさせることとなる︒第三に治癒効果︵n巨§①巾借o︷︶である︒欠陥のある立法案を補正修
正させる︒第四に政府の立法活動への監視である︵°︒唇而旦ωo昌⑦港o叶︶︒
拒否権は立法機能として認められるものの︑それは正当なものでなければならない︒一九〇〇年来︑下院の可決し た法案に対して上院は四四回の拒否権を行使したといわれる︒数千もの立法について四四回であるから︑濫用との非
難は当たるまい︒問題は︑個別に検討してかかる拒否権の行使が上院の機能や地位に照らして正当なものといえるか
にある︒ジョイヤルは︑これら四四個の法案は複数の地域に重大な障害をもたらしうる︑憲法上保護された人権や自
由を侵害した︑集団の言語や少数者の権利を傷つけた︑政府が選挙民からの使命を追求しなければならないほどカナ ヘ ヘ ヘ ダの将来にとって重大である︑議会の立法権の準濫用を構成するくらい不快である︑と総括して︑拒否権は正当だっ ︵皿︶ たとしている︒ トーマスは︑次の四つの場合は拒否権が正当化されうるとする︒①政府が選挙民からの指令を欠く高度に論争的な
法案︑②予測もできない回復不可能な損害を国益に与えうる危険な法案︑③カナダ人権憲章を含む憲法に違反する法
案︑④言語その他少数者の基本的権利に反する法案︒これらの一般的な要件は再解釈のために開かれており︑拒否権
行使についての定義的な準則は存在しないのである︒
カナダ議会にはイギリスのソールズベリー慣行︵Qの呂︒・言⊇Oo毫①昌8︶に相当するものはない︒これは︑﹁上院は
総選挙マニフェストに言及された政府提出法案について︑第二読会及び第三読会において同法案を否決しない﹂慣行
をW迦・上院の拒否権を制約する法であるが・カナダには蕊・二・世紀の議会制量主義の展開︵ウエストミンス
ター型議院内閣制の浸透とも言い換えてよい︶が上院の立法機関としての役割を下院より劣位にさせたことがある︒
自由党の長期政権で議会との対立構造がなかったこともあろう︒また︑カナダの主要政党は選挙民に対して思想によ
らないプラグマティックな訴え方をするから︑選挙で勝利した政党は細かな立法の綱領を掲げて公職に就いているの
カナダの上院−憲法と第二院︵二・完︶ ︵都法四十八ー一︶ 九
一〇
ではないのである︒かかるトーマスの分析は納得できる︒
拒否権が憲法上認められるとしても︑こうした政治文化が醸成され︑拒否権行使の正当性の要件も一義的ではない
ため︑マルルー二ー政権で見られたように︑拒否権行使は上院と下院‖政権との政治的摩擦を生み︑陰険なモードを
かもし出す︒拒否権行使の要件について判例をはじめ法の世界では語られることはないから︑政治的抗争は決着を見
ないこととなろう︒ ︵皿︶ ここで拒否権というのには三つの類型がある︒第一は︑法案可決を一時的に停止させて可決を遅らせるもので︑火
急になされた決定を再考させるようにする︒一九八八年︑アメリカとの自由貿易協定締結で上院が可決を遅らせたこ
とがあり︑80巨ぬo崩<㊦8とも呼びうる︒第二は︑下院から送付された法案を上院が修正するもので︑下院案がその
まま立法となるのを防ぎ︑上院から見れば立法をよりよいものにする︒第三は︑不定形のもので過度に熱の入った政
府への萎縮効果ともいうものである︒下院では与党が大勢を占めるためたやすく法案を可決させうるが︑上院では必
ずしもそうではないため︑法案に過度の提示をもり込むのをためらわせるというものである︒
イギリスでは︑一九一一年の議会法︵勺邑富B①巳﹀旦で︑上院︵貴族院︶は停止的拒否権︵ω已︒・O⑦嵩オo<⑦甘︶の
み認められることとなった︒制定法で上院の権限を制限し︑文字通り下院に礼譲する機能のみ果たすとした︒カナダ
の上院はこうした慣習も立法的配慮もされず︑一八六七年憲法以来︑下院に対して強力な立法機能H拒否権を果たし
てきている︒カナダ上院とイギリス上院は同じではないのである︒もっとも︑この停止的拒否権は下院よりもはるか
に深く法案を精査することに資するのはいうまでもない︒
︵5︶法案提出権
政府提出法案や下院が可決した法案の送付を受けて立法機能を果たすということは︑法案審査機能︵お己⑦≦后ロΦ
江8︶とも言い換えることができる︒審査はなによりも憲法に適合しているかを基準として︑カナダ憲章の人権規定 の や連邦制︵憲法が規定する連邦の立法管轄を超えていないか︶が検討される︒立法の違憲性は最終的には司法裁判所
によってなされるし︑司法裁判所が憲法保障機関といえるから︑上院の憲法審査はここでも補完的といえるかもしれ
ない︒しかし︑憲法適合性について法が制定される前に万全を期しておくことは立憲主義の要請である︒法務長官が 政府提出法案すべてについて慎重にこの審査をしており︑重層的となる︒憲法や法令との関係のみならず︑政策や財
政の面からの検討もなされるのであり︑これこれについては上院は審査してはいけないという限界があるわけではな
︵411︶
い︒
審査機能で上院が立法過程に参画するのはこれを評価しなければならない︒審査にとどまらず︑自ら法案を作成し
提出することはできないのか︒憲法上はこれを否定する規定はないから︑上院が法案を作成して提出することは可能
である︒もっとも︑現実には稀である︒
しかし︑こうした憲法状況であるからといって上院が法案創出の⁝機能を果たしていないと即断することは正しくな
い︒法案創出︵巨戊註漏︶には立法の必要性や問題の認識︑また政治的技術的な評価やさまざまなネゴシエーション なども含まれるとみるなら︑上院は堂々とかかる機能を果たしている︒上院の法案提出がほとんどないのは︑すでに
みたように︑上院は財政支出を巻き込む法案は提出できないことによるのが大きい︒なおこれは公法案︵言窪6げ巨︶
についてであり︑先に見たように個別法案は議員個人で提起しうる︒
カナダの上院−憲法と第二院︵二・完︶ ︵都法四十八−一︶ 一一
一二
2 国政調査研究機能
上院が機能を果たすのはその委員会によるところが大きい︒本会議は︑委員会室でなされたことの準備か︑もしく
は仕上げでしかない︒上院の委員会は立法を研究し︑政府の支出の提案を精査し︵見積もり︶︑関心のある問題領域
を調査する︒選ばれた案件は常任委員会か特別委員会に移送することができる︒常任委員会は上院規則で常設とさ
れ︑特別委員会は付託の特別の指図を研究するために任じられ︑その仕事の終結とともに消滅する︒上院規則に基づ
いて︑委員会は特別部会︵°っ昌δo日巨口①o︒・︶を設置することができる︒上院はまた︑合同常任委員会や合同特別委
員会を設置することで︑下院と合同することができる︒行政立法をチェックする規則調査合同委員会q9鼻Oo日日宇
甘o♂﹃日oo力o≡ぼぺo﹃図①管冨︷ざ口︒・︶は有名である︒一九七三年の法改正で︑総督命令︑規則︑その他連邦行政機関
の行政立法はすべてこの委員会に付託されなければならないとされている︒
近時︑一九七〇年の﹁マスメディア﹂報告書に始まり︑上院の委員会は主要な社会経済問題を検討してきた実績が クロ ル ある︒金字塔といわれる一九七一年の﹃カナダにおける貧困︵勺︒<⑦身︷pひ芦毘①︶﹄は︑ρ昆上院議員によって先導
され︑飽食の時代の中での貧困について重要な議論を展開し・多くの反貧困組織の出現に大きく貢献し剖・この領域
での提言力︵巨口①皆⑦ω︶は時として︑王立委員会の任命を不要とさせたとまでいわれる︒上院による特別の調査研
究は最重要の役割を認められており︑政府提出の法案の背景を明確にしたり︑立法事実を鮮明にしたりすることで︑
︵田︶ ︵811︶ 純粋に立法機能を果たしている︒その理由は三つ挙げられる︒第一に︑この種の活動︵研究調査︶は公政策や計画に
一定の影響力を持つ上院には最良の機会を提供する︒第二に︑上院議員の多くは国家政策形成により意義ある貢献を
したがっていて精力的であり︑二次的な役割に甘んじることを望まない︒第三に︑上院委員会による調査研究は︑王
立委員会やタスクフォースなどによる時間とコストを要するもので︑上院がかかる研究を行うにはふさわしいとされ
る︒ ︵911︶ これらの背景には︑下院にはない上院の三つの利点がある︒第一に︑上院議員は下院議員よりはるかに任期が長
い︒下院議員の任期は解散があって平均で四年間であるのに対して︑上院議員はすでにみたように︑七五歳まで在任
することができる︒第二に︑上院議員はすでに公的な領域で輝かしい業績があり︑重要政策に関心を有している者が
多い︒第三に︑なによりも下院に比べてはるかに党派性はない︵﹃°・富ユω昌︶から︑政党のラインや規律の縛りの
外で活動できることである︒
上院の調査研究は社会問題に重点が置かれているなか︑行政府に対する﹁計画評価︵胃oぬ冨日o<巴已豊8︶﹂とカテ ︵021︶ ゴライズされるのもある︒一九七〇年代前半から活動している﹁国家財政常任委員会︵oり訂邑日ぬひo日日葺o①8Z①
口o口巴田ロき8︶﹂が主体となり︑省庁の計画を深く検証している︒ただそこでの指摘は大臣あるいは政府に対する助
言でしかなく︑計画評価に固有の政治的な価値判断は避けられない︒上院によるこうした評価は法案や歳出予算を検
討するのに有益とされる︒下院と異なり︑党派性に溺れることがなく︑真の争点に時間をかけて議論できる上院が浮
かびあがって来る︒この委員会が三〇年以上も︑政府が毎年議会に提出する主要及び補遺歳出見積︵ζ巴ロ目創白σ6且O
日⑦目§国︒・﹃陪oω︶を検証している︒また会計検査院︵O白80﹃日o﹂ざユぎ﹃Oo目o﹃巴o㌣O①ロ註①︶から財務や財政に
かんする年次報告を受領し︑相当の時間をかけて財政状況を検証する︒
財政や経済状況には迅速に対応するとともに長期的斬新的な視点も必要である︒一九八九年一〇月︑上院銀行貿易
通商常任委員会は︑﹁カナダ財政制度の未来を︑国際競争と変転する環境と︑とりわけこうした制度における所有権 ︵121︶ を研究する﹂使命を受けた︒九一年には主要な勧告を行っているが︑そのうちの重要なものは政府によって受容され
カナダの上院−憲法と第二院︵二・完︶ ︵都法四十八ー一︶ 一三
一四
なかった︒それは︑国内の金融市場の障壁を低減させ︑一つの国家的規模のカナダ市場を創設することであった︒九
八年一二月にも︑﹁変革のための青写真︵いbd后碧日⇔ま﹃O冨口伽q①︶﹂で︑カナダの金融市場の安全と統合と影響力を
確保し︑健全な金融競争を促進させる提言をしている︒こうした上院の活動は継続している︒﹁上院は影響力のある
堅実な声であり続け︑その多くの関心は︑カナダ人の必要性と金融産業の利害の両方が表明されて︑究極には調合さ ゆ れている﹂と評価されている︒一九八二年憲法制定後は︑カナダ人権憲章への適合性の確証が政府の重要な役割と
なっている︒その意図は人権保障にほかならない︒上院の人権委員会︵oり宮邑巨ぬOo昌日庄①ooロロ已日き呂晦宮ω︶はそ
の役割を果たすものである︒
上院による調査研究は︑公刊もされ︑議会の調査機能を果たし︑純粋に立法機能に資する価値のあるものと評価さ
︵螂︶ れている︒
3 新たな役割
今見た重要な政治社会問題の調査研究に加えて︑次の三点は一八六七年憲法が意図していなかった新たな上院の役
︵421︶ 割といえる︒
第一に︑上院による憲章適合性の審査統制である︒一九八二年憲法︵カナダ人権憲章︶は人権保障と司法による違
憲審査制度を確立させた︒爾後︑連邦政府は国家行為の憲章適合性に最大の関心を払うようになる︒国家行為の違憲 性の判断は何も司法権の専権ではなく︑政治過程で柔軟に判断されるのは有効であり望ましい︒二〇〇一年︑上院に
人権委員会︵oり口5ユ芦ぬOo日巨#oo8口已日芦呂嘗叶の︶が設置され︑憲章適合性の監視という新たな役割が認められた
のはその象徴といえる︒
第二に︑委任立法︵ユ①庁ぬ陪oユ庁包ω庁戊8︶の監視である︒下院による監視も行われるが︑かかる立法が州と連邦の
関係にかかわるのも多く︑しかもじっくりと審査できるから︑上院が適しているといえる︒
第三に︑カナダの批准する条約や一般的な国際的義務の省察である︒専門性が次第に要請されるようになり︑上院 はこれを果たすのにより適合した機関となっている︒カナダではこの意義は重要である︒条約の批准は総督11内閣の
権限である︒ただし︑カナダでは条約は自力執行力を持たない︒国内で法的拘束力をもたせるには国内法として制定
する必要がある︒その際︑州の立法管轄︵一八六七年憲法九二条︶に入る事項も出てくる︒州が条約を国内法化した
ものを履行しないと抗弁すれば︑条約上の義務を履行しないことになる︒オーストラリアのように︑憲法解釈で連邦
の管轄とするやり方もあるが︑これは立法の二元システムという連邦制原理をくずしてしまう︒カナダ憲法上は︑条 ︵721︶ 約の批准に議会の承認を要件とする法的要請はない︒しかし︑重要な条約については政府は両院の承認︵昌買o<巴︶
を批准と締結の間に取り付ける実務ができている︒このことで規制することとし︑州の利益を代表すると目される上
院の承認を要請したことは連邦制に配慮したものといえる︒上院の審査は重要となる︒ ︵1︶ 政治的党派性のない雰囲気で経験豊かな上院の議員は︑困難な立法問題を扱うのに有用である︒一九入三年︑トル ︵921︶ ドーが安全保障情報局を設置する法案を提出したとき︑人権団体などから反対が起きたけれども︑政府は下院ではな
く上院にピットブイールドを長とする特別委員会を立ち上げ︑法案の多くの修正を行って通すことができた︒政府は
この緊要な立法を変更するには︑選挙された院ではなくむしろ上院を使用することが必要だと考えた︒下院の所為で
はなく︑カナダにおける人権を保護するには︑議会の委員会によって再審査され︑さらにそれは上院によって遂行さ ︵蜘︶ れるべき仕事であるとするのが重要なのである︒
カナダの上院−憲法と第二院︵二・完︶ ︵都法四十八ー一︶ 一五
一六
4 卜一舌 ノ ⊥﹃
上院の立法機能は下院や政府との対抗の中での上院の独自性で認識される︒その意味で前面に出るものではない︒ ︵撒︶ 上院の調査研究や立法の変更という地味な活動は︑下院の仕事を補完するのに有用である︒ ︵231︶ ﹁上院は学術組織ではないものの︑上院が発揮する影響は内容において知的である﹂︒ここでは上院の機能を立法
機能︑調査機能︑その他の役割に分けたが︑かかるわけ方は便宜にすぎない︒上院は立法機能を果たす機関で︑調査
機能等は立法機能を果たすために必要と認められるものと整理できる︒ ︵331︶ かかる立法⁝機能を脈分けしてみると︑つぎの五つにまとめられよう︒第一は立法の審査や研究である︒本章で見た
ように︑これは最も一般的で︑日常的に重要なものである︒第二に︑法案採択の遅延︵ユ巴昌︶である︒これは討論
を通じて国民に法案の意味を深く知らせるとともに︑政府や下院に熟考の機会を付与する意義がある︒第三は︑折衝
︵ロ而帽o亘豊oo︶であり︑修正について下院や政府からの同意をもらったり︑協議事項を設定したりするなど︑さまざ
まな方法がある︒第四は法案修正である︒これは上院の機能のうちで最も目に見える意思表示といえる︒第五は拒否
権︵宮≦而﹃8﹁巳而o﹇︶である︒これがなければ上院は諮問機関に成り下がってしまう︒
こうみてくると上院もなかなか捨てたものではなく︑立法過程には不可欠であることが認識されてくる︒もっと
も︑憲法を中心とする法制度設計と現実は必ずしも符合するものではないことは︑万人の知るところである︒法制度
設計の理念が達成可能であるのか︑不可能だと諦観してしまうのかは︑改革論の立場決定の基本スタンスになるとい
えよう︒
六 カナダ下院との相違
1 上院のユ一Tクな選出方法
カナダ憲法は上院議員の資格や地位︑選出方法や定数について明文の規定を設けた︵一八六七年憲法二一条−三六
条︶︒下院との違いでの憲法の関心は︑上院議員の選出方法にあるように思われる︒上院議員は連邦政府によって任
命され︑限定された立法府の規模と地方の利益を確保する︒任命される資格は︑三〇歳以上のカナダ国籍を有する者
で︑選出母体の地方に四〇〇〇ドル以上の財産を有していることとされる︒一八六七年憲法はもともと終身制をとつ
ていたが︑一九六五年に憲法が修正され︑七五歳が定年となった︒これは最初の上院の改革といわれる︒
憲法は上院を選挙によらない立法府としている︒上院議員は︑上院議員召喚令状がいうように︑﹁カナダの国家と
防衛にかかわる重要かつ困難なすべての事柄に助言と援助を獲得するために﹂任じられる︒上院議員には人民代表の
議員とは異なる職務を与えられるといえる︒下院と異なり︑上院の安定と存立は確固としている︒政府が上院を頑強
だと思っても︑むやみに窮地に追い込むことはできない︒憲法は上院に独立性を認め︑議会の仕事を計画するとき政
府が常に頭にいれておかなければならないのが上院ということである︒
上院議員の資格として憲法は財産要件を規定している︵二三条︶︒上院議員の財産は任命された州の中に所有され
ているのだから︑憲法上︑上院議員は地方の代表としての役割を与えられる︒いまどき︑議員たる資格に資産家であ ︵431︶ ることを要件としているのはおもしろい︒これはイギリス貴族院に由来するのが大きかろう︒イングランドには早く
から国会︵Z註oロ巴﹀︒・ωΦ目O■︶が存在し︑その諮問と同意に基づいて政府が運営されていた︒この国会を王国の一
カナダの上院−憲法と第二院︵二・完︶ ︵都法四十八ー一︶ 一七
一八
︵理 般評議会︵ひo日日巨oO80巨ロ日器管一︶という︒ノルマン人の征服の後︑封建制と結びついて政府の賢人会議︵ζΦoす
日ぬ亀日⑦≦ω⑳︶となり︑これがさらに国王顧問会議︵○已ユ①閲⑦ぬ一ロカ︶となり︑土地所有者で軍人は当然このメンバー
となるように国王によって召喚されることとなった︒﹁マグナカルタにも正式に認められたが︑劣等の直接受封者
︵冨崇巨ぎ6匡Φbの国家会議︵ロ豊o自巴oo§6自︶に出席する権利は︑数が増えてきたことと︑彼らの相対的貧困と︑
故郷から遠く離れて出席する個人的不具合によって︑しだいに実用的でなくなってきた︒そこで古典的な国会はだん
だんと﹁偉大な男爵︵鳴o巴Φ吟げ曽o口の︶﹂の集会以外の何ものでもなくなり︑結局は世襲的な貴族院へと発展していっ
たのである︒それが国会上院となった︒貴族院の世襲的な性格は︑いまや長く定着し根本となっているが︑ゆっくり
となんの企図もなく︵巨ユ⑦︒・喧己而ユ守︶確立していき︑結果︑国会への召喚が発せられる権利において︑男爵の封土の ︵㎜︶ 相続の血筋は実際には譲渡し得ないものとなった﹂︒
カナダはイギリスの議会制を踏襲するといっても︑上院議員の世襲貴族制の性格︵汀苫合§需2躍①︶は受け入
れることはなかった︒しかし貴族的性格は上院の不可欠の要素と考えたのであり︑保守的機関であるとの批判は織り
込み済みであったのであろう︒
2 財務法案における下院の先議権
カナダの上院は︑下院と国王とともに立法府を構成する不可欠の機関であり︑下院と同じ権限を有するから︑対等
型の二院制といえる︒ただし二つの例外が憲法で規定される︒第一に︑財務法案︵目oロ⑦司げ巨ω︶は下院に先議権が
あることである︵一八六七年憲法五三条︶︒第二に︑憲法の修正は上院の同意なくなされうることである︵一九八二
年憲法四七条一項︶︒選出方法に両院の大きな違いはみられるものの︑権限においては︑すでにみたように財務法案 ︵731︶ の下院先議権以外︑憲法上は同じである︒
憲法上明確に下院の優越を規定しているのは︑この五三条の財務法案の先議権である︒歳入の一部を支出するため
の法案︑または租税もしくは課徴金を課すための法案は︑下院で先議される︒無論︑下院に全権があるのではない︒
こうした法案がすでに総督が教書で勧告しなかった目的のために採択されたり可決されたりするのは︑適法ではない
(一
ェ六七年憲法五四条︶︒
下院のこの先議権は連合︵︹︸O§ユO﹁豊O口︶からの伝統であり︑さらにはイギリス議会の法であった︒一八四〇年
の合邦法︵d巳o口>6﹇︶は︑アッパー・カナダとロワー・カナダを連合させてカナダ州を形成させた︒その五七条は︑
国庫︵Oo口ωo巨巳⑦△﹃①ロ已⑦曽⇒△︶の余剰の一部を支出するまたは新たな税もしくは課徴金を課すすべての法案は︑
カナダ州立法議会︵寂σq芭①口<o>︒・°・①日ぴ■︶から発しなければならないとした︒これには︑イギリス議会で︑庶民院
が何世紀にもわたってかかる権能を主張して認められてきた背景があった︒一八六七年のカナダ議会では︑一八四〇 年に先議権が明文で確認されたのであり︑イギリス議会と同様の状況に置かれることに異論はなかった︒問題は︑か
かる歴史や先例を離れて︑一八六七年憲法五三条の文言を中心とした憲法解釈から︑上院は下院の可決したこの種の
法案を修正したり否決したりできるかである︒
イギリス議会では︑補助金や供給については庶民院が先議するものとされ︑一六七〇年の庶民院の議事録には︑人
民に賦課を課すことが貴族院から発せられることは︑庶民院の特権を侵害することになり︑すべての人民への賦課は ︵珊︶ 庶民院で始められなければならないとの文言も見られる︒では︑貴族院は庶民院が可決した租税法案を修正できるの
か︒一六七一年︑貴族院が租税法案を修正する権利があると主張したのに対して庶民院は︑﹁第一に︑すべての援助
カナダの上院−憲法と第二院︵二・完︶ ︵都法四十八ー二 一九
二〇
は庶民院から始まる︒貴族院は援助について付託されてはならないが︑法案を送付しなければならない︒第二に︑庶
民院が先議したとき︑貴族院は付加も廃止もできない︒貴族院があとでそれを変更できるとするなら︑個別の委員会 り で先に事項を適合させることは無駄である︒﹂と言明している︒貴族院が庶民院のこの特権を侵害しようものなら︑
一丸となって果敢に︵巨ぎ§守きユ己σqo﹃o已︒り乞抵抗するとし︑庶民院は貴族院の歳出にかんするいじくりまわし ハ ︵日o合已口ぬ︶に反対してきた︒貴族院が財務法案を発意する権利を失ったとき︑庶民院で先議された援助供給の法
案に干渉する権利を獲得することはなかった︒一九一一年の議会法によって︑貴族院の同意なくとも法案を可決させ
ることがいまや可能となった・これは財務法案に関する庶民院の特権とは関係なく発展してきたもので窪・ ぜ ドリジャーは︑カナダでも同様に考えられるとする︒上院が修正できるとすると︑それはもはや下院が提議した財
務法案とはならなくなるのではないかということである︒しかし︑最も強固な根拠は︑代表と同意が公金を承認し税
金を課す下院の権限の基盤を形成するとの立憲主義原理である︒﹁代表なければ課税なし﹂に通じる︒カナダでは選
挙による代表機関は下院のみである︒
カナダは︑歳出についての総督からの教書が下院のみを指示し︵一八六七年憲法五四条︶︑イギリス憲法の例に従っ
て︑租税手法が国王から大臣を通して下院に勧告される︒財務大臣の予算演説が下院のみでなされ︑下院供給委員会
と執行措置委員会で十分に審議される︒上院は︑一八六七年憲法五三条と五四条は財務法案にかんする上院の権限の
制約でしかなく︑五三条は先議権のみであるから︑財務法案を修正して下院と調整する権限は上院に委ねられている
とする︒国王の同意なくして歳出を増額させ︑あるいは税金を増やすことはできないが︑上院の増額権への制約は五
三条と五四条には見出されえない︒五三条は先議権のみであり︑国王の指示等については言及されていない︒また︑
五四条は支出にかんしてのみであり︑賦課課税には関わっていない︒五四条は下院に対する制約であって上院にでは
ない︒五三条は先議権のみを認めたのであり︑修正権についてではない︒イギリス憲法原理では上院︵貴族院︶は課
税について変更する権限を認められないが︑五三条にも五四条にもかかる規定はない︒むしろ上院がよりよいと判断
するなら︑変更できると解する︒かくて上院は︑税ならびに支出の増減額︑支出目的の変更︑税法案の審議期間の制
限及び施行の延期︑課税の範囲の変更をなしうると主張する︒一八六七年憲法一八条はイギリス議会の権限を超えて
はならないとするが︑同条は議員の特権にかんする規定である︒﹁五三条は上院との対比で下院に排他的な特権を特
に設けたものであり︑一八条はかかる種類の特権を扱ったものではないと解するのが合理的である︒五四条は下院へ
の制約であり上院にでは蕊﹂・憲法解釈に関わるが︑法的な問題として大きく争われたことはないようである︒
3 憲法改正の発議
日本国憲法では参議院と衆議院は憲法改正の発議では同等とされている︵九六条︶︒参議院で三分の二以上の賛成
が得られなければ︑憲法改正はそこで不可能となる︒カナダでも上院と下院の同等の権限に憲法改正権があげられ
る︒ 一九八二年憲法は改正手続を三つの場合に分けている︒第一は一般的改正手続であり︑各院の決議と︑カナダ総人
口の五〇%以上を占める七州以上の州議会の決議を要する︵三八条︶︒第二は︑女王︑総督︑州総督の職など四一条
が掲げる特定の事項についての改正で︑両院と全州の議会で承認されたときのみ改正が成立する︵四一条︶︒第三は︑
三八条の手続で改正しなければならない事項を列記する四二条︵上院の権限と上院議員の選出方法が含まれる︶と︑
この四一条に従うことを条件として︑連邦政府と各院にかんする改正は通常の立法によることができるとするもので
カナダの上院−憲法と第二院︵二・完︶ ︵都法四十八ー一︶ 二一
二二
ある︵四四条︶︒なお︑一九九六年に制定された憲法改正法︵ぎξ﹇締゜・Ooo口梶ひo目ω庄已匡oロ巴︾日o昆日o具㊤ρ﹂q⊃qっ◎
巳︶は︑いくつかの改正については︑主要な州の同意がなされないうちに改正を提議することを禁じている︒
さらに︑一九八二年憲法四七条一項は︑四二条を含むこれらの改正手続において︑下院が改正決議を可決した後一
八〇日以内に上院が同趣旨の決議を可決しなくても︑その期間経過後に下院が再議決したときはこれが連邦議会の決
議となるとする︒上院の権限や上院議員の選出方法にかんする憲法改正では上院は下院の決議に逆らうことはでき
ず︑ただ最長一八〇日までの決議決定の延長しかできないのである︒この点は下院の優越が見られる︒これは上院が
自らの改革を阻止することを予防し︑また︑いかなる場合にあっても州議会の定められた多数による同意によって︑
下院のみで憲法改正を課すことができないようにするとの理由で明らかに正当化さ弘・連邦国家にあっては・上院
の改正は広汎な同意が必要であるということである︒
4 小舌 ノ⊥︸コ
議員選出は人口比例代表︵﹃①ローぴ司−廿Ob︶ではなく︑州︵厳密には国土の一定の区域︶単位で政府による任命制と
している一方で︑下院とほぼ同等の権限を付与されている上院は︑下院︑総督とともに立法府の一部である︒憲法の
条文では独立して立法機能を果たしうる︵例外は財務法案で︑これについては発議権が認められていない︶︒しかし︑
実際にはイギリス議会で貴族院が抑制された地位になっていたのも影響して︑立法権等で下院と同じ権限が認められ
ても︑それはあくまで下院の考えを矯正するという控えめな地位にとどめられた︒
上院は補完的な立法府︵8日巳6日o目§庁ぬ邑旬晋o︒冨日げ①﹃︶という位置づけがなされる︒制憲者が意図したこと
︵641︶ でもあろう︒
七 カナダ上院の改革をめぐる議論
1 焦点 任命制による上院の構成は︑①古い︑②富裕者を多く含む︑③長期的な政権与党に不当に方向付けられている︵宮︐
器⑦ユ︶︑④前提として少数政党を代表しない︑⑤男性支配的︑⑥一般に下院より政治の経験が豊富なメンバーから構 ︵741︶ 成されている︑との制度的帰結を生んだ︒
カナダの上院は憲法で規定されたものの︑代表機能や立法機能が果たされていない︑保守的傾向がその障害となつ
ているなどと︑一八六七年憲法制定当初から改革が叫ばれてきた︒早くも︑一八八七年の初の州際会議︵﹈巳⑦目8己早
量︒§6星では・上院の改革が主たるテ←となつ︵挫・讃袋制と連邦政府による任命制が根本的な上院批
判につきまとい︑上院議員の任命方法と政党の代表の不均衡が︑すでにみたように一九八四年以降の上院の積極主義 の時代からむし返されている︒ わが国の参議院と同様に︑カナダでも上院の廃止論まで含む改革論は定期的に提示されている︒それらは実現しな
かったけれども︑無益ではない︒これら提示された改革論は︑上院の歴史のみならず︑今後の改革の視点やその推進
力や今後の展開などを藁していくのに嚢があ墨・ここでは︑シャ←ットタウン合意で問題にされ︑上院改革
の要ともいうべき上院の構成や選出に関わる改革を中心にみる︒改革の手法として憲法改正を必要とするものとそう
カナダの上院−憲法と第二院︵二・完︶ ︵都法四十八ー一︶ 二三
二四
でないものとに分類することもできよう︒そもそも憲法改正は困難である躍・これを避けるべく政治的倫理的レ
ヴェルでの可能な改革を執行するべきだとの声も強い︵°︒巨芭︒
憲法改正が困難であることや︑廃止論や選出方法︑権限を含めて︑憲法改正までの強い主張は国民的合意を得られ
ているとは言い難い︒上院の改革は手法としては憲法改正を伴わない方が現実的とい︑麓・もつとも・憲法改正には
先に見たように厳格な手続によらないのもあるので︑憲法改正をまったく伴わないとは言い難い︒
ここでは公式には最後の改革論ともいうべきシャーロットタウン合意︵一九九二年︶での上院論を確認したうえ
で︑改革論を検討することにしたい︒
2 憲法改正と上院改革ーシャーロットタウン合意
一九九二年のシャーロットタウン合意は新しい上院の創設を提案している︒その背景にはカナダの複雑な政治文化
状況がある︒一九八二年憲法はカナダ自身による憲法改正権限を規定し︑イギリス議会の承認なく立法を完結させる
権限を認め︑文字通りイギリスから独立したことを宣言する︒ただし︑フランス語圏のケベック州が反対したため︑
同州の承認を留保しての新憲法のスタートであった︒ケベック州の憲法合意は政治課題であった︒ケベックでは一九
八五年︑反対色の強いケベック党︵勺置○已害Φ8邑に替わってブーラッサ州首相の自由党政府が樹立され︑連邦に
好意的となり︑一九八二年憲法を批准しようとの動きが加速していった︒そして︑①ケベックは独自の社会であるこ
との承認︑②三〇%の移民割り当て枠︑③連邦最高裁判事三名の推薦枠︑④憲法改正拒否権︑⑤連邦支出権の制約︑
の五つの条件にマルルー二ー首相をはじめ一一の首相が合意した︒一九八七年のミーチ・レイク合意︵呂80庁9⑦
ぎoo己︶である︒これが法となるには両院と州の議決が必要であった︒カナダ上院が反対したものの︑一九八二年
憲法四七条に基づいて下院による再議決で通った︒しかし︑ニューファンドランドとマニトバの両州が反対したた
め︑ミーチ・レイク合意は法とならなかった︒
一九九一年︑三年間の批准期間が切れたために︑この憲法改正の動きは終結した︒しかし︑︑︑ーチ.レイク合意に加
えて︑上院の選挙制とアボリジニ政府の規定を盛り込むシャーロットタウン合意が︑クレチエン首相を含む=の首
相の間でなされた︒この憲法改正の過程で一九八二年憲法四一条が適用され︑一九九二年一〇月二六日︑各州でレ
ファレンダムが実施された︒賛成四四・六%︑反対五四・四%で否決されたが︑ケベックを含む六州がどちらでもな
いという答えを出している︒ちなみに︑レファレンダムにかけられた質問は︑﹁一九九二年八月二八日に合意に達し
たことを基にしてカナダ憲法は刷新されるべきことに︑あなたは同意しますか﹂であった︒
シャーロットタウン合意は︑憲法改正条項や先住民の権利︑さらに政府の責任と役割なども盛り込まれ︑複雑であ
る︒本稿の関心から上院の改革案︵七条から一五条まで︶についてのみ見ておこう︒シャーロットタウン合意の上院
にかんする憲法改正は︑新たな上院の創設である︒各州平等に六名の定員で公選とされる︵八条︶︒公選は州︵準州︶
民かその州︵準州︶の立法議会の議員による選挙のどちらかでなされる︵七条︶︒上院の選挙については憲法の定め
に従って連邦議会が治め︑上院の構成に性の平等を認めることができる︵七条︶︒北西準州とユーコン準州の一名ず
つを含めて六二名の定員となる︵ ︵鵬︶八条︶・アボリジニも上院への代表が保障される︵九条︶︒ただし︑信任の院︵§ 臣Φ口80冨日ぴ隅︶ではなく︑選挙の結果は政権の交替や議会の解散をもたらさない︒新上院は歳入歳出法案を妨げ
る権限を持たず︑ただ三〇日間の遅延の権限︵ω50⑦昌ω守o<08︶のみ認められる︵一二条︶︒フランス語やフランス
文化に影響を与える法案は上院の過半数の承認とフランス語圏の議員の過半数の承認を必要とし︑これを下院が否決
カナダの上院−憲法と第二院︵二・完︶ ︵都法四十八−一︶ 二五
二六
することはできない︒上院には︑カナダ銀行総裁など主要な政府の任命を裁可する権限が認められる︵一五条︶︒上
院が否決したときは両院合同会議Oo巨︒・⑦§ぬ︶が開かれ︑そこでの多数決とされる︒下院は上院の五倍の定数で
あり︑下院は政権与党が多数を占めるから︑下院の優越は維持されることとなる︒これらの改革案は日の目をみるこ
とがなかったのである︒﹁シャーロットタウン合意が実現されなかったことは︑この上院改革の終焉を意味し︑のの
しられた既存の上院は新たな命を獲得した︵Oぴ§Oユ目O司一6①o力ΦO目幕︶﹂︵印ぷ巨犀ω︶︒
シャーロットタウン合意で一見して明らかなのは︑上院の代表について州の平等を旨としたことである︒﹁三つの
E﹂の論に沿うものである︒しかし︑州の平等な代表は︑州民の大多数がフランス語のケベックのユニークさ︑とり
わけカナダはフランス人とイギリス人の二つの民族によって建国され︑一〇州の平等よりもこの二元主義によって代 表されるべきとの強固な考えを無視している︒ケベックの特別の立場を保護するために︑シャーロットタウン合意二
一条は下院の議席の二五%はケベック州の議席であるのを保障した︒同九条とともに︑代表を下院における市民の平
等よりも上院においては州の平等にまで高めた︒ ・ 上院の権限には二つの特徴がみられる︒一つは︑立法に多くの区別を設け︑いくつかの立法については上院がその
法案の運命に相対的な影響力を持たせるようにしている︒そうでない立法には下院の優越を認める︒もう一つは︑多
くの法案の帰趨を下院と上院の合同会議によらしめていることである︒これは上院の考えや活動を目に見えるように
し︑少数者の意見を反映させることになる︒
上院改革の部分が支持を得なかったのかは明確ではない︒ただ上院改革も含めて憲法は現状のままでよい︵切声巨︒・
ρ已o︶との審判が下された︒憲法改正による上院改革は困難を極めることをまじまじと見せつけたのである︒
3 憲法改正によらない上院改革論ースミスの主張
シャーロットタウン合意の失敗は上院改革にも大きな影響を与えた︒憲法改正を伴う上院改革は︑もともと困難で
ある上にこの合意の失敗でさらに失速したといえる︒しかし︑上院改革は頓挫させてはならない︒現行憲法の枠組み
の中で憲法が意図した上院を実現するための改革は︑説得力を帯びてきているように思える︒ そのなかで憲法の変更を伴わない手法による上院改革論が展開されている︒ここではスミスの議論を見ておこう︒
スミスの改革論は︑まず憲法に即して上院が何をなすべきかを整理したうえで︑憲法改正を伴わない改革論の有効性 のリトマス試験紙ともいうべき指針として︑次の八つの原則を掲げている︒第一に︑カナダは法の支配と人権保障を
旨とする民主主義国家である︒これはカナダ憲章や憲法で具体化されている︒改革の根本原則として改革論はすべて
カナダの統治の質︵ρ已巴置亀晦o<①∋碧8日ひ⇔日注①︶を高めるものでなければならない︵カナダの統治の質の向
上︶︒第二に︑カナダの政治権力は相互に抑制と均衡を保つさまざまな機関に分散されている︒すべての改革論は個々
のというよりもむしろ政治制度全体の中で上院を考えなければならない︵不均衡な権限配分の矯正︶︒第三に︑上院
は下院の単なるコピーでない固有の貢献をしている︒上院は下院と競合するのでなく︑補完するものである︒改革論
は下院が責任政府での役割を認識し︑二院制の補完的役割を強化するものでなければならない︵補完的関係︶︒第四
に︑制憲者が上院に与えた役割は今なお将来にも重要である︒改革論は上院の根本的要素や特徴︑すなわち独立性︑
継続性︑長期的視点︑職能的経験︑少数集団代表を尊重しなければならない︵基本的特徴︶︒第五に︑上院は立法を
詳察する固有の機能を発揮させてきた︒改革論は︑立法の修正︑行政権の精査︑少数集団代表︑政策調査における上
院の既存の役割を強化するものでなければならない︵役割︶︒第六に︑上院が果たした役割は議会には適切で不可欠
カナダの上院−憲法と第二院︵二・完︶ ︵都法四十八ー一︶ 二七
二八
のものである︒改革論はすべてかかる役割を果たすのに十分な権限を上院が持つことを確証させるものでなければな
ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ ヘ へ らず︑この見方が下院によって適切に考慮されなければならない︵適切な権限︶︒第七に︑まっとうな第二の考えの