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成年後見制度と精神医学 : 成年精神障害者の心理 学的能力の検討

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成年後見制度と精神医学 : 成年精神障害者の心理 学的能力の検討

その他のタイトル Guardianship for adults and psychiatry : A review of the evaluation of psychological capacity of adults with mental disorders

著者 飯田 紀彦

雑誌名 関西大学社会学部紀要

巻 27

号 3

ページ 1‑20

発行年 1996‑03‑30

URL http://hdl.handle.net/10112/00022504

(2)

成年後見制度と精神医学:

成年精神障害者の心理学的能力の検討

Guardianship for adults and psychiatry : 

review of the evaluation of psychological capacity  of adults with mental disorders 

Norihiko IIDA 

Abstract 

Interdiction  is  the  current  Legal  system of guardianship for  adults  with  impaired psychological  capacity  in  Japan.  But,  several  faults  in  this  system have been pointed out. 

A renewed  legal  system of guardianship for  adults  intends  to  improve  the faults of the  interdiction system and then better protect  the  life  and property of frail  adults. 

Herewith,  the  issues of  diagnosing mental disorders  and assessing the  psychological  capacity of  frail adults  for psychiatrists  raises an  interest  in  a renewal  of  the  guardianship system. 

In  this  study,  a review of  the  evaluation of  mental  disorders and  psychological  capacity was performed. 

We  concluded that  more prudent  evaluation  is  necessary for  indication  of  "irresponsibility" and "incapacity"  in a renewed  system. 

Key Words: guardianship  for  adults,  autonomy,  mental  disorders,  psychological  capacity,  operative criteria 

要 旨

禁治産制度は,我が国では,心理学的能力が傷害された成人に対する唯一の法的保護制度である。

しかしながら,この制度は,種々の問題点を有していることが指摘されている。新たな成年後見制度 は,こうした禁治産制度の欠点を改善し,成人精神障害者の生命と財産を保護していこうとするもの である。

ここで,精神医学上,精神医学上の診断と,心理学的能力が精神科医の関心を引き起こす。本研究 では,心理学的能力と精神障害の判定に関する概観を展望した。

その結果,新たな制度下における「心身喪失」あるいは「無能力」の鑑定に関しては,さらに慎重 な検討が必要であると考えられた。

キーワード:成年後見,自律,精神障害,心理学的能力,操作的診断基準

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関西大学 r社会学部紀要」第27巻第3

I.  は じ め に

わが国において,現在,なんらかの精神機能の障害により,意志能力の低格化が認められた 場合には,禁治産制度による保護がなされているが,禁治産制度は戸籍記載,身分・職業・資 格上の支障,申立人や費用の問題,家族の負担の問題などが指摘されており,さらに,近年,

一般における法意識の向上,精神医学的知見の発展,精神科医療への理解の高まり,社会援助 システム機能の拡大などにより,精神障害者の自律性あるいは自己決定権,自己選択権といっ た人権が大幅に承認され,保障されるようになってきた現状を踏まえると,この禁治産制度が 適切かつ有効に活用されているとはいいがたい。

成年後見制度は,かかる旧来の制度の問題点を克服し,意志能力の低格化した障害者への手 厚い日常生活支援,財産管理,身上監護を行なっていこうとするものである。

ここで,精神医学上,問題になってくるのは,「心身喪失」あるいは「意思無能力」の程度の 判断であり, (1)精神医学上の診断と,②心理学的無能力の判定の 2つの要件が要請されてくる。

「心身喪失」あるいは「無能力」は,すべての能力が一律に障害されるのではなく,障害の 程度には個々において差異があり,かっ,その程度も刻々と変動するダイナミックな状況があ り,さらに,そのエンテイティは,判定者と非判定者の非人間学的関係においてではなく,た とえば,ブーバー (BuberM) 1>のいう「我と汝」における実存的共感によってのみ把握できる ものである。

しかしながら,「心身喪失」あるいは「無能力」が実定法上の要件となった場合,なんらかの 操作的な判定基準が必要となってくる。

本研究では,精神医学の立場から,まず,成年後見および自律性について述べ,ついでカナ ダ精神医学会およびアメリカ大統領レポートを基にしたカプラン (KaplanKH)のクライテリ ア叫イギリスのジェイノフスキ (JanofskiJS) 3>などによる意志能力,行為能力といった心理 学的能力の判定基準,厚生省の精神障害者保健福祉手帳における精神疾患および能力障害の程 度の分類4)や,さらに実際の無能力判定の際に重要と思われ,従来の精神鑑定に用いられた種々 の医学的検査や精神測定テスト、高次精神機能の基礎的知識,成年後見の対象となる主なる精 神疾患の特徴や診断基準などを文献的に展望しつつ,これまでの操作的判定の問題点などにつ いて述べていく。

II.  成 年 後 見

現在,我が国における平均寿命が,男では76.57歳,女では82.98歳,さらに80歳まで生存で きる確率が半数というように,高齢化社会から長寿社会へと他に例を見ない速さで変化してお

(4)

り,老年期痴呆はいうまでもないが,精神発達遅滞や重症の慢性化した精神分裂病あるいは薬 物嗜癖などの患者の高齢化による精神機能の減退や衰退による無能力に対してなんらかの新た

な対応に迫られているといえよう。

民法838876条によれば,後見とは,民法上,未成年者を監護・教育し,または,禁治産者を 療養・看護するとともに,これらの被後見人の財産を管理する制度であり,これを規律する法 規範が後見法である。

既存の無能力者制度である禁治産後見は,一般的に精神的な面において減退または衰退など の障害を有しているものを,法律上の要件に該当する場合に,禁治産者・準禁治産者として,

法律行為の代理・同意という枠組みのなかで補充する制度であるといえるが,この制度は,① 心身喪失の常況の判定の困難さ,②公示方法の問題,戸籍記載の問題,③実質的に本人の財産 をめぐっての相続人ないし縁故者の争い,④鑑定費用などの諸問題が指摘されており,必ずし もうまく機能していないという認識がある。

また,後見人は同意,拒絶の代行,身上監護権,成人の意思無能力者に関する同意権の代行 を行う が,たとえば廣瀬6)は,精神障害者の後見に言及し,「現行制度下では,精神保健法第20 条に掲げられたものが保護義務者として代諾権者となる。しかしながら,医学的知識のないも のに義務を課すことの疑問,家族等近親者と患者との経済的・精神的・肉体的負担や相続面で の利益相反性,戦前からの家族制度の発想が踏襲されている」ことの問題があるとし,財産管 理と身上後見とを分けて,共同で患者たる被後見人の保護にあたらせ,かつ,幅広い範囲のも のからの異義申し立てが行なわれなければならないと主張している。

ちなみにアナス (AnnasGJ) 7>は,患者の権利の擁護システムの目標として,①患者を守る こと,②患者が医師と協力しながら,自分の治療計画に積極的に参加できるような機会を与え ること,③医療のあるがままの姿を見せることを掲げ,擁護者の役割として,①診療記録を無 条件で閲覧する権利,②病院の各種委員会への積極的な参加,③介護サーヴィスを受けられる よう取り計らう,④患者の診療に関する会議への出席,⑤退院への関与,⑥医師を呼ぶ,⑦苦 情を提出できるなどを挙げているが,いずれにしてもシュルテ (SchulteB) s>の述べるごとく,

後見人の権限は明確かつ限定的でなければならないし,また,後見人が,医学的,社会学的,

法律的分野の集中的な訓練を受けることのできるシステムなどが必要となってくる。

デルペレ (CohenTarugi, Delperee,  1987)は,成年後見制度について,「彼らの権利は守 られる必要がある。さもなくば,法律によって禁治産者とみなされ,何事も許可されなくなる。

そして,この権利保護は,柔軟で革新的な社会の変化への道具である」8)と規定しているが,こ うした成年無能力者に対する手厚い保護の要請に応えるべく新たな法制度の創設が考えられて いる9,10)0 

こうした後見制改革の勢いについて,シュルテ叫ま,国家の,社会及び個人に対する関係につ いての態度の変化した結果であり,①精神障害者の原因および治療の発展,②精神医療の脱収

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容化,③人権の保障,④社会福祉制度の向上が背景にあるとしている。

すでに,イギリスでは,任意代理制度, ドイツ,オーストリアでは世話人制度による新しい 成年後見制度を運用し始めている9)

成年後見は,いうまでもなく,パターナリズム(paternalism)に準拠した考えであるが,今,

考えられている成年後見法は,むしろ,自己決定権,自己選択権の可能なかぎりの尊重であり,

とりわけ高齢者を対象として彼らのQOL{Quality of Life)を顧慮して,そのライフスタイル に関わる身上監護に配慮しながら,かれらの財産を活用していくことに役立つと思われる。

III.  自 律 性

一般に,欧米人が理想とする人格の成熟,自己実現や個性化などは,すなわち自己の独立性,

自律性 (Autonomy)を目指した言葉である叫

自律性は,近代西欧の自我主体(個人主義)を確立するための道徳的,倫理的,哲学的基礎 概念であり,自己決定権,自己選択権を保障する上で法理論上もきわめて重要であることは論

をまたない。

その源流は,まずトーマス・アクイナス (AquinasT)に遡る。アクイナスは,信仰と理性 の統一を図り,信仰の超越性と人間理性の自律性の両立を求めたとされる。

ついで哲学的に人間の自律を規定したのはカント (KantI)である。カントの義務論的倫理 学によれば,人間は理性によって超感性的な世界に触れる点で,動物を越えた存在である。そ して人間が内なる義務の声,道徳の声,つまるところ理性の命令(定言的命令)に,自らの意 志によって従うことに,人間存在の証しをみた。従って,人間が欲望から解放されて,理性に よって道徳律に従って生きたとき,はじめて「自由な」存在とみなされる。これがカントのい う自律である12)·•

自律性の概念は,さらに功利主義者のベンサム (BenthamJ),  ミル (MillJS)の幸福論あ るいは,幸福追求のためにはなにものにも阻害されてはならないとする,かの有名な「harm plinciple」,さらには,デュルケーム (DurkheimE)とウエーバー (WeberM)が主張する「個 人主義の発展は,特に全体としての社会とその構成員の聖なる作業となり,個人主義の重要視 は,高度に分化した近代社会構造の発展の鍵である」とする考えによって確立していくが,現 在,人間存在であるわれわれは,最低限,.①十分な知識,②理解力,③内的な力によって支配 されていない,④外的な力によって支配されていない13)といった条件を有する,「主体性を有す る自律的な尊厳ある個人」として成立しているといえよう。

一方,障害者,とりわけ,精神障害者がこうした「主体性を有する自律的な尊厳ある個人」

であるという認識が一般化したのは,さほど以前の話ではない。

精神障害者の自律性(自己決定権,自己選択権)の主張は,「表出された意思」の復権によっ

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て患者の回復をめざす論理である14)と考えられるが,私法上の自己決定権が確立したのは,

Schlorendorff v Society of New York Hospital裁判およびLenev Candura裁判 (1978) 後であり,我が国では,権威の失墜といわれる社会現象が生じ,医療一般においては個人の「主 体性」の保障と権威からの自己防衛手段としての自己決定権が確立したが,精神障害者では,

1980年代に入ってようやく議論がでてきたのである3,6)

そして,現在,ょうやく精神障害者の法的な自律性(自己決定権)が承認されてきつつある が叫精神医療や福祉に携わる現場の関係者からは,精神障害者の自律性が侵害されている多く の事例が報告されていることは,周知のことである。

成年後見制度は,前述したように,法的なパターナリズムであり,ある個人の自律を他者が 故意に制限する制度であるが,自律を制限するもの(後見人)は,専ら自律を制限されるもの ヘ恩恵を授けるという姿勢が必要であり13), 無能力者の「主体」を尊重し,病んだ意志を可能な 限り尊重すること12)を是としたものであることは当然のことである。

IV.  心理学的能力(意志能カ・行為能力)

法律上の能力とは,侵すことのできない固有の権利として,例外なく,かつ,出生のときか ら人間が所有しているものと一般に理解されている。また,法律を行う能力とは,権限を獲得 し,義務をはたすとともに,自らの行為に責任の取れる能力である8)

また,コンピーテンス (competence)とは,課題をはたす能力である,心理学的能力とは,

コンピーテンスに関連する諸能力で,能力の安定性と易変性,保持の程度が重要であるとさ 13), また,ァッペルバウム (AppelbaumPS) 15>は,こうした能力を「種々の臨床的データー から推測されるひとつの傾向 (aset)であり,それは基本的な精神機能によって容易に影響さ れ,連続的に変化する」と定義している。

志水16)は,精神鑑定における意志能力を,「自分の行為の結果を判断することのできる精神的 能力であって,正常な認識力と予期力を含む」としている。

いわゆるInformedconsent (告知同意)問題における大統額レポート (1982)では,心理学 的同意能力の基準として,①expressed preference (表明された志向),②objective correct ( 観的な合理性),③the outcome approach (結果),④the status approach (状態像)を掲げ ており,また,マーティンら (MartinB et al)叫こよれば,①ability to evidence a choice  for or against treatment, ② factual understanding of information relevant to the treatment  decision, ③ ability to manupulate the information rationaly to make a choice on rational  reasons, ④ appreciation of nature of the situation within which consent is being sought 挙げている。

同様に,ロースら (RothLH et al) 2)は,①Evidencing a choice, ② Reasonable outcome 

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or choice, ③ choice based on rational reasons, ④ the ability to understand, ⑤ Actual  understanding5項目を提示している。

熊倉叫よ,これらの基準を参考として,心理学的能力を①患者の意志表示が一貫した価値と目 的に従っていること,②患者は情報を交換し,理解する能力をもつこと,③自己の決定につい て交流し,熟考する能力をもつこととしている。

さて,心理学的無能力に関しては,一般的には,十分な知識や,理解力がない,精神障害な どの内的な力や,社会状況などの外的な力によって支配されている13)ことが挙げられよう。

こうした能力の喪失,限定は「精神の障害」と「是非を弁別する能力,もしくは弁別にした がって行動する能力」の2つの標識によって判定される。前者は生物学的標識,後者は心理学 的標識といわれ,弁別能力と統御能力とに分けられる18)

そして, 1931年大審院,刑法第39条の解説によれば,能力の喪失,限定である「心神喪失」

と「心神耗弱」とは,「イズレモ精神障害ノ様態二属スルモノナリトイエドモ,ソノ程度ヲ異二 スルモノニシテ,スナワチ前者ハ精神ノ障害ニョリ事物ノ是非善悪ヲ弁識スル能カナク,マタ ハコノ能カ二従ヒテ行動スルノ能カナキ状態ヲ指称シ,後者ハ精神ノ状態イマダ上叙ノ能カヲ 欠如スル程度二達セザルモ,ソノ能カイチジルシク減退セル状態ヲ指称スルモノナリ」とされ ている19)

しかしながら,無能力の判定に関しては,可知論,不可知論があるが,中田18)は経験的(empir isch)な立場からの,特に統御能力の判定は困難であり,規範的 (normativ)な立場からのみ 可能であり,慣例 (Konvention)に従っておおまかな判断を与えるにすぎないとしているが,

精神病に関するかぎり,その存在の確認が責任能力の判定にきわめて重要な役割を演ずると述 ベ,こうした能力判定に精神医学的診断が重要であることを強調している。

また,小田20)によれば,前述の中田18)と同様に,意志能カ・行為能力の判定は,結局は不可知 であり,判例を積み重ね,慣例によるほかないとするものの,狭義の精神疾患モデルでは,同 意の推認,自傷他傷行為 (dangerousnessof others and dangerousness of oneself), 社会的 能力の低下,奇異な言動により共同社会が維持できないときなどが問題となるとしている。

もっとも,精神医学のみならず,医学一般における従来の診断学による疾病の説明モデルは,

時代や文化などに準拠した価値規範に関わりあっており,病気であるか否かを判定するような

「客観的基準」は存在しないとする反精神医学的立場や,従来の還元主義的なアプローチに批 判的な考え方が一方であることを認識しなければならない21)

さて,具体的な操作的判定基準に話を移そう。

成年後見制度における心理学的無能力の操作的判定基準のモデルとしては,従来の精神鑑定 における能力判定と,ィンフォームド・コンセント(告知同意)における能力判定基準が有用 である。

カナダ精神医学会の同意能力判定のガイドライン (1980)では,①患者は能力を調べられて

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いること,および能力という言葉の意味を知っているか?,②患者は治療が提案されている状 況を理解しているか?,③患者は治療の性質と目的を理解しているか?,④患者は治療を受け た場合のリスクと利益を理解しているか?,⑤患者は治療を受けない場合のリスクと利益を理 解しているか?というものである丸

カプランら (Kaplan, KH, 1989)のガイドラインは,前述の大統領レポートに基づくもの で,同意能力を,法的能力と心理学的能力に分けているが,心理学的能力判定では,まず一般 的な精神機能の判定,すなわち,診断名,記憶,見当識,気分,思考の内容と過程,認知機能 などの基本的機能についての判定である。ついで,患者の判断一意志決定能カー医学的状況の 理解,医師の勧める方針についての理解,医師の説明への理解,選択への熟慮,理由,選択を 実行した際の予想についての能力判定を行うものである丸

熊倉叫ま,これらの判定基準を参考にしつつ, I一般的な判定項目:①精神医学的診断,②精 神状態像,③一般的事項に関する現状認識と意志決定能力, II心理学的同意能力判定:①医学 的状況への患者の理解度,②提案された治療の性質と目的の理解度,③治療を受けた場合のリ スクと利益についての患者の理解,④治療を受けない場合のリスクと利益についての患者の理 解を心理学的同意能力の基準項目として提案している。

ジェイノフスキら (JanofskyJS et  al) 3lによる HopkinsCompetency Assessment Test  (HCAT)は,短い説明文と当該説明文を患者が理解できるかを判定するための質問表であり,

対象は41例の内科,精神科入院患者である。その結果, HCAT MMSEのような一般的な テストでは判定しえない特異性を有し,区分点3/4点で感受性,特異性はともに100%であった とする。

小田町ま,今までの精神鑑定の経験から,長谷川式で10点以下の器質性痴呆,意識障害の存在,

Q35以下の精神発達遅滞,分裂病での人格荒廃・支離滅裂思考,頻回の治療脱落の薬物依存 などが無能力の対象となるとしている。

これまで紹介してきたガイドラインや判定基準とはいささか異なるが,高齢者の活動能力に ついて,柴田ら22)は,生命維持,機能的健康度,知覚一認知,身体的自立,手段的自立,状況対 応,社会的彼割の観点から高齢者の活動を捉える Lawton, MP (1972)の学説に従い,手段的 自立5問,知的能動性4問,社会的役割4問(計13問)から構成される「老研式活動能力指標」

を考案し,その有用性を論じている。

ジョーンズ (JonesGH) 23>は,慢性精神分裂病のインフォームド・コンセントにおいて,患 者の能力を評価する際,彼らの認知能力,記銘力や知能の低下に注目し,生活年齢の失見当識,

ウイスコンシン・カード・ソーティング・テスト(WisconsinCard Sorting Test)Probabilistic inference Task (ビーズ玉の認知テスト)の施行を推奨し,また,フェランら (PhelanMet  al) 24>らは重症の精神障害患者を対象として,彼らが作成したテスト (TheCamberwell Assess ment of Needs)によって,適応,食事,家事,仕事,身体的健康,精神症状などの22項目を

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評価し,患者の能力を検討している。

また,法学者である太田25)は,遺言書作成に関して,遺言者には,遺言書作成当時,平静な精 神状態にあり,通常人と同程度の判断カ・理解カ・表現力を有していることの心証がえられれ ばそれにて足る,遺言時の前後ある程度の時間帯継続ないし持続していることが必要ではない か。質疑にたいして,否定的な素振りないし発言をえられるかどうかの方が,病人の意志能力 ひいては遺言能力有りとの心証を得るのに役立つ」と述べている。

告知同意のためのガイドラインや判定基準では,ここでは後見と読み替えればすぐにそのま ま援用できるが,以上,概括してきたこうしたマニュアル化されたガイドラインやクライテリ アは,判定のパラドックス,公的レビューの限界,判定者のバイアス,手続き上の欠陥,臨床 的パラドックス(不確実性,精神力動,情報の不完全さ,プロセスの欠陥,状況のバイアス)

などの根幹にかかわる問題が包含されていることに留意しなければならない。

V. 検 査 法

従来の禁治産制度における精神鑑定(testimony)において,なかんずく,大脳の器質的変化 の有無を検索したり,神経伝達物質,ホルモン,サイトカインなどを測定したり,自律機能検 査あるいは認知,記銘力や知能などの高次機能の検査や人格・性格をうかがいしるための心理 測定テストが実施され,対象者の精神疾患の診断や心理学的能力の判定に役立っている27,28,29)0

1.  ここでは,こうした諸検査の一部を紹介する。

近年,脳神経疾患の検査として急速に発展してきたものに画像診断がある。

大脳C Tスキャン (BrainComputed Tomographic Scanning} X線が脳を通過し,減 衰していく値をコンピューター処理を行い,再現し,画像を作成するもので,この時,水を0

として減衰係数値を取ると,脳脊髄液は黒く,逆に骨は白く見える。 C Tスキャナーは一般に 出血巣など形態的病変の検出に有効である。精神分裂病患者では脳室が拡大しているという報 告もある。

MRI (Magnetic Resonance Imaging)は,人間の細胞が水素やリン,その他の電磁気に敏 感な元素を多く含むことを利用している。被検者は円筒型の磁石に入れられる。この磁力に反 応して,胎内の水素原子が移動する。そして電磁気が消失すると,水素原子は元に戻る。その 動きを磁気信号として捕らえるものである。利点は放射線被爆の危険性がないし,どんな立体 構造も可能である。微細構造を画像化できるなどで,最近,脳ドッグなどで盛んに利用され,

いままで検出できなかった無症状の小脳の微細梗塞巣なども発見されている。 SPECT(Single  Photon Emission Computed Tomography) 123I‑IMPなどを静脈注射し,血流内のッ腺

を測定することで,その動態を把握する。検出機器には,ッカメラ回転型と SPECT専用の多検 出器型装置がある。検査施行時間は1時間ほどで,簡便なことから頻用されはじめている。

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PET (Positron Emission Computed Tomography)はポジトロン(陽子線)を利用して,

かなり詳細な脳構造が見られ,さまざまな刺激に対して,活動中の脳のどの部分が反応してい るかが分かるという利点がある。まず,サイクトロンでポジトロン放射性同位元素が作られ(陽 子を酸素や窒素にぶつけ,ポジトロン放射性物質に変化させる),この放射性ポジトロンをブド ウ糖に付着させ,動脈に注入する。分裂病患者では,前頭葉の活動が低い,あるいは左半球で より活性が低いことなどが示唆されている。

2. 局所脳血流量の測定の放射性標識物質としてキセノン133が主として使われている。キセノ 133を吸入させ,脳におけるキセノンの分布を調べる。うつ病患者では脳内の代謝の低下が指 摘されている。

3. 脳波 (Electroencephalography)は,神経細胞の電気活動を束ねておおまかな大脳機能の 指標を提供する検査でハンス・ベルガー (BergerH)が人間に測定できるように開発した。

前頭部では主に1sec20Hzの波が見られる (fl波)。後頭部では,目を閉じた際, 8‑12  Hza活動と呼ばれる波が出現する。

人間の脳波は覚醒しているときには低振幅のf]波が支配的であるが,睡眠にはいると 4つの 段階がみられる。 1.大脳活動が低下していき, 2.ついで小さな群発波, 3.4‑7 HzSWS

(Slow Wave Sleep,  8波)から4, 3 Hz以下の 8波のdeepsleepに至る。

このサイクルが循環し, REM睡眠 (RapidEye Movement)を迎える。この時期に夢を見 ていることが多く,夢発見器に応用されている。うつ病の患者では, REMに非常に早くはいる (REM潜時の減少), REMが全体に占める割合(REM密度)が大きく,逆に深い眠りである SWSが少なくなるという報告がされている。

4. 事象関連電位 (ERP, Event Related Potential)は,各種の刺激により生じた脳波の大き なうねりの中の小さな電気変動である。一般にはオドボール課題の際,見られる波成分を分析 する。痴呆ではP300(認知文脈の更新の過程を示していると考えられている)の頂点潜時が延 長し,診断的意義が高い。

5. 心理テスト (PsychometricTest)は,被検者の知的水準,感情,意欲,行動特性,精神機 能や個性を客観的,数量的に測定しようとするもので,いってみればその人となりや人格を知

る手段のひとつである。

ちなみに人格 (Personality)PER(THROUGH)SONAE(SPEAKS)から成る言葉 PERSONA (仮面)に由来する。キケロによれば,人格とは実際にはそうでないが他人にはそ う見えるもの,人生における役割,性質の総体あるいは威厳,区別を意味する。オールポート (Allport GW)の定義では「人格とは,人が現実にあるところのものであり,心理一身体体系 としての個人の内の力動的組織であり,環境に対する独自な適応を規定するもの」とされてい

知能テストは,元来,精神発達遅滞児のために開発された。

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知能指数 (IQ ; Intelligence Quotient)は精神年齢(MA; Mental Age)を暦年齢 (CA;

Chronogical Age)で除し, 100を乗じたもので,おおむねIQlOOを平均値とした正規分布を描 くように標準化してある。

わが国では小児では田中ビネー知能検査が,成人では知能を計算や諺などの言語性と積み木 などの動作性に区分したウェクスラーによる知能検査が広く行なわれている (WAIS; echs

!er Adult Intelligence Scale)

福島によると,たとえば,精神分裂病と分裂病質人格障害では,数唱問題野得点はきわめて 高いにもかかわらず,算数問題の得点が低い,器質性脳障害では,言語性が低く,それに比べ,

動作性が高い傾向がうかがえるという。

痴呆の疑われる高齢患者では,長谷川式痴呆評価尺度,器質的脳障害検査, BenderGestalt Test (簡単な9つの図形の模写)やGressiTest (積木の構成)などの作業能力検査がよく使わ れている。

ベンダー・ゲシュタルト (BenderGestaltTest)検査は,大脳高次機能としてある種の形態 をまとまった形として把握できる人間の能力(ゲシュタルト機能)を利用したもので,ゲシュ タルト機能の障害を反映するテストとして頻用されている。

質問紙法は性格,態度,興味,欲求,適応性,人生の目的性などパーソナリティのどの側面 を知ろうかとすることによって多種多様な検査法が作成されている。

パーソナリティに関わる質問項目を被検者自身の内省により,回答させる。矢田部ギルフォ ード性格検査 (YG性格検査)は抑うつ,回帰,劣等感,神経質,非客観性,非協調性,攻撃 性,一般的活動性,のんきさ,社会的外向,支配性の12の特性を測定し, A型(平均型), B

(不安定積極型), C型(安定消極型), D型(安定積極型)とE型(不安定消極型)の5つの プロフィールに分ける。

MMPI (ミネソタ多面性人格目録)は精神疾患の疑いのある場合に特に適しているとされ,

Hs (心気症), D (抑うつ), Hy(ヒステリー性), Pd(精神病質的偏奇性), Mf(性度), Pa

(偏執性), Pt(精神衰弱性), Sc(精神分裂性), Ma(軽そう性), Si(社会的向性)の10尺度 と妥当性尺度から成る。 CMI(コーネル・メディカル・インデックス)は12つの身体的項目,

6つの精神的項目からなる。

投影法は,知覚を介して個人の内的な世界を探ろうとする方法である。

ロールシャッハテスト (RorschachTest),  TAT (主題統覚テスト), SCT(文章完成法),

描画テスト, PFスタディ(絵画欲求不満テスト)などが頻用されている。

ロールシャッハテストは10枚の左右対称のインクのシミを見させるもので,多くの臨床家は,

ロールシャッハテストがパーソナリティの基本構造を示すと考え,知的側面と情緒的側面との 関連,成熟度と適応度,情緒の安定性,特定の欲求,統制力,人間関係への基本的態度などを 理解できると考えている。

(12)

V I .  

大脳高次機能の基礎

ヘッブ (HebbDO) 30>が,「こころ,思考,意識はまさに脳の物質的活動ないし機能であり,

行動は,その研究のデーターである」と定義しているように,医学的には大脳,特に大脳連合 野の障害が精神障害の主たる原因であるといえる26,31,32,33)

大脳は,前後径約20センチメートル,重量約1,400グラム,表面積は約2,200平方メートルで,

丁度,新聞を広げた位の器官で外から観察すると,大脳皮質に覆われ,その中に間脳,中脳,

橋,延髄,脊髄と連なっている。間脳から延髄までを脳幹と呼び,さらにその後ろ側には主に 運動機能を司る小脳がある。

大脳は厚い頭蓋骨に守られ,前頭葉,側頭葉,頭頂葉,後頭葉に分かれ,その中に神経細胞

(ニューロン)が約4億,その他は脳の栄養を主に司るグリア細胞があり,あわせて約140億個 の細胞があると推し測られている。

神経細胞は他の細胞と同様に核を持ち,核の中には遺伝子があり, DNA情報を伝達してい る。細胞は細胞膜でかこまれ, 1本の長い神経線維と樹状突起を出しており,神経線維は,他 のニューロンと接触しており,ニューロンとニューロンの接合部をシナプスと呼んでいる。ひ とつのニューロンは数千から 1 2万個のシナプスと接合しており,このようにして神経線維 は網目のような構造を形成している。

神経細胞の内部は電気的に外部より約70 90ミリボルトほどマイナスであるが(膜電位),静 止状態の神経細胞にある刺激が与えられると, 20ミリボルト位の電位の逆転が起こり,静止期 に比べ, 90 ll0ミリボルトの電位差が生じ,放電現象が, ALLOR NOTHINGの法則に従っ て,一定の強さ以上だと放電し,それ以下だと放電しないというパターンで次々と信号が神経 線維を伝わっていく。

シナプスにはわずかながら間隙があり,信号(インパルス)がシナプスに達すると,そこで 神経伝達物質などさまざまな化学物質が分秘され,接合している他のニューロンに信号(情報)

を伝達する。

神経細胞の働きは原則的には,いわば電灯のスイッチのような簡単な伝達系の機能にすぎな いが,ニューロンの網目のようなネットワークシステムや,階層構造を有するニューロンモジ ュールによって,高度で複雑な精神機能を営んでいるのである。

ところで,人間が適切な行動をとるためにはまずはっきりと覚醒し,注意を向けたり,意識 が明晰であることが必要である。人間の意識水準を維持しているのが脳幹の延髄や網様体(灰 白質と白質が網のようにマダラになっているのでそう呼ばれている)である。

そのすぐ上に中脳と呼ばれ,橋とともに脳内の重要な化学物質の分秘する神経の出発点(青 斑核など)がある。人間が体の内外からなんらかの刺激を受けると,情動と関わりあって判断

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関西大学『社会学部紀要』第27巻第3

されて,命令信号が送られてくるが,その信号に見合った神経伝達物質が放出される。

大脳皮質は6層に区分され,この内,発生学的に古い皮質(第4層)では産まれたときから の遺伝情報がストックされていると考えられており,魚類や両生類ではほとんどこの古い皮質 だけしかない。

この古い皮質と視床下部などをあわせて辺縁系 (limbicsystem)と名付けている。辺縁系の 司る精神機能としては,脊髄から中脳の役割機能が人間が生きていくための基本的機能とする と,辺縁系の機能は本能的行動,情動の調整や表出,自律神経系やホルモン系の制御,また,

新皮質での高次の精神活動と脳幹での基本的な活動の相互の中継点となっている。

は虫類からはっきりとしてくる発生学的により新しい部分,新皮質という部分では,主とし て環境からの影響や学習によって形成される後天的なプログラミング(第2 3層)を司ると され,さまざまの精神機能を統合したり,あるいは複雑な精神機能をカテゴリーごとに区分し,

単純化(分化)したり,また,最近の認知心理学の知見では,外部からのさまざまの複雑な情 報をパターン化して認識し,同時的・並列的に処理を行なったりしていることが認められてい

新皮質の表層では,中枢の局在が認められ,たとえば視覚は後頭葉,聴覚は側頭葉といった 具合いで,頭部外傷などの器質的病変があると,失語,失行,失認などの巣症状が起こってく

大脳機能全体の最も重要な点は,体の内外環境の要求に対して,順応し,個体の維持に努め るとともに,自己主張性,自己組織性があり, DNA情報と文化情報を蓄積し,新たな創造的発 展に寄与し,次の世代に伝達していく役割を担っていることである。

ここで,ホメオスターシスと生物時計について概略しておく。

ホメオスターシスとは,外部環境の変化にも拘らず,内部環境を一定に保持するプロセス,

すなわち環境の要求と身体の必要性とを統合する作用で,先に述べたように,ベルナールによ って提唱され,キャノンによって発展した概念である。

そして,このホメオスターシスを司っているのが自律神経系とホルモン系である。

自律神経系には,交感神経系と副交感神経系とがある。自律神経系はエネルギーを動かす作 用があり,攻撃と逃避に備えている。副交感神経系はエネルギーを保存する作用を有し,安静 と回復の条件を整えるものである。自律神経系に対する中枢神経の支配は,主として視床下部 と脳幹で行なわれ,交感神経系と副交感神経系はある時は桔抗し,ある時は協調してホメオス ターシスを保持している。

自律神経系が外部環境の変化に即座に対応する役目をもっているが,ホルモン系は内部環境 の変化にゆっくりとネガティブ・フィードバックで対応する役目を担っている。

内分泌器官とは,別の器官の細胞の活動を調節するために,直接血液中に物質を分泌する器 官で,腺と呼ばれ,腺が分泌する物質をホルモンと呼んでいる。

参照

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