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行政処分による集団的消費者被害救済

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《論  説》

行政処分による集団的消費者被害救済

――EU消費者保護協力規則(2017年)制定を踏まえて――(三)

宗  田  貴  行

目次

一 問題の所在 1 本稿の目的 2 議論の必要性

3 本稿において検討を行う内容

二 従来の景表法・特商法・消費者契約法違反に係る金銭的被害救済制度の限界 1 景表法違反に係る従来の制度による金銭的被害救済の限界

2 特商法違反に係る従来の制度による金銭的被害救済の限界 3 消費者契約法違反に係る従来の制度による金銭的被害救済の限界

4 小括に代えて――妨害排除請求権による金銭的被害救済の意義(以上、109号)

三 行政処分による金銭的被害救済の必要性

1 消費者被害の変容による市場経済の前提条件の整備の必要性の増加 2 EU消費者保護協力規則(2004年)・ドイツVSchDGの意義(以上、110号)

四 消費者法分野の各法における行政処分の種類・目的・要件・内容 1 景表法上の措置命令の種類・目的・要件・内容

2 特商法上の指示の種類・目的・要件・内容 五 行政処分による金銭的被害救済の妥当性

1 EU消費者保護協力規則(2017年)制定等

2 我が国の景表法及び特商法上の行政処分による金銭的被害救済の妥当性 3 消費者契約法上の不当勧誘及び不当条項に係る行政処分の導入の妥当性(以

上、本号)

六 消費者法分野等の各法における行政処分による金銭的被害救済

(2)

1 従来の見解

2 従来の行政処分による金銭的被害救済の根拠・要件・内容 3 景表法上の措置命令及び特商法上の指示等に基づく返金命令 4 返金命令の実効性の確保

5 返金命令の利点

6 返金命令の限界とその解消の可能性 7 従来の見解の検討

8 電気通信事業法上の措置に基づく返金命令 七 結語

1 法理論上の2つの疑問に対する答え

2 行政処分による金銭的被害救済に係る立法の提案

四 消費者法分野の各法における行政処分の種類・目的・要件・内容

三において検討したように、今日においては、市場における参加者たる事業 者・消費者間の公平性の確保のために、消費者保護に資する法規に違反する行 為によって、多数の消費者に同種の金銭的被害が生じている状態を行政法上の 違法状態として捉える必要があるといえる。そして、この違法状態を排除する ために、行政処分によって金銭的被害の救済を命じうるとすることが必要であ ると考えられるところである。

このようなことから、我が国の消費者法分野に従来から存在している各法の 違反・違法状態の排除に係る行政処分によって、この必要性に応えることがで きるのかについて検討を行う必要があるが、そのためには、そもそも各法にお いて、いかなる種類・目的・要件・内容の命令が可能であるのかについて、明 らかにする必要がある。

従来、公法私法二元論の下、特商法上の行政処分たる指示(同法7条1項等)

は、①違反の事前予防及び②将来の被害の拡大の防止という行政法たる特商法 の役割を果たすため、法違反によって生じた違法状態又は不当状態を解消する という目的を有するものであると解されてきた1)

(3)

景表法上、既に止んだ違反行為に対する行政処分が認められている(同法7 条1項2文)のに対し、特商法には、既に止んだ違反行為に対する行政処分を定1)

めた明文規定がないことから、今日の特商法の解釈運用において、違反行為が 中止された場合には行政処分を下せないこととされている。このため、訪問販 売業者やネット通販業者が、短期間にのみ違反を行い、かつ違反が繰り返され るおそれのない事例において、違反行為により生じた違法状態が存続している 場合であっても、同法上の行政処分は不可能とされている2)。しかし、特商法 と同様に①違反の事前予防及び②将来の被害の拡大の防止という行政法たる景 表法の役割を果たすために、法違反によって生じた違法状態の解消を目的とす る行政処分たる措置命令が景表法上定められ、特商法及び景表法の行政処分の 役割や目的は同等のものであることに鑑みれば、このような既往の違反行為に 対する措置に係る解釈運用上の異なる取扱いに合理的根拠を見出すことはでき ない。このような問題は、今日における巨大なデジタル・プラットフォーム企 業の存在に鑑みるならば、今後、益々その重要性を有することになる可能性も あると考えられる。

この問題にも表れているように、従来、我が国の消費者法分野においては、

被害回復に係る命令の可否についてはもとより、違反・違法状態の排除に係る 行政処分の種類・目的・要件・内容についての精緻な議論が行われてきたとい うことはできない。このことは、我が国の行政法が範とする大陸法系のドイツ における行政法上の違反・違法状態の排除に係る行政処分の種類・目的・要件・

内容についての議論と我が国におけるこの点に係る議論とを比較するならば、

さらに明らかとなるものである。

1) 消費者庁取引・物価対策課・経済産業省商務情報政策局消費経済政策課『特定商取 引に関する法律の解説平成24年版』商事法務2014年83頁。消費者庁取引対策課=経 済産業省商務サービスグループ消費経済企画室編『特定商取引に関する法律の解説  平成28年版』商事法務2018年85頁は、「法違反若しくは不当な状態」を解消するもの とする。

2) 「日本消費者法学会第11回大会シンポジウム『消費者被害の救済と抑止の手法の多 様化』ディスカッション」消費者法11号2019年37−99頁、47頁(池本誠司発言)。

(4)

そこで、我が国の消費者法分野における違反・違法状態の排除に係る行政処 分による金銭的被害の回復の可否の問題の検討に入る前に、まず、消費者法分 野における諸法に定められている違反・違法状態の排除に係る行政処分の種類・

目的・要件・内容について、ここで明らかにしておかなければならない。

1 景表法上の措置命令の種類・目的・要件・内容

景表法上の消費者庁等の措置命令について、景表法7条1項は、「内閣総理 大臣は、第4条の規定による制限若しくは禁止又は第5条の規定に違反する行 為があるときは、当該事業者に対し、その行為の差止め若しくはその行為が再 び行われることを防止するために必要な事項又はこれらの実施に関連する公示 その他必要な事項を命ずることができる。その命令は、当該違反行為が既にな くなっている場合においても、次に掲げる者に対し、することができる。…」

と規定する。

⑴ 従来の指摘

措置命令は、その名宛人に対し、①当該行為の差止め、②その行為が再び行 われることを防止するために必要な事項、③これらの実施に関連する公示、④ その他必要な事項を命ずるものである(景表法7条1項1文)ところ、これま で、違法行為の不作為、一般消費者の誤認排除のための新聞広告等による公示、

再発防止策の策定、今後の広告の提出が命じられている3)。この他に、表示と 実際の商品又は役務の内容を合わせるように改善措置が命じられた事例4)もあ 5)

措置命令については、従来、以下のように指摘されてきたところである。

3) 大元慎二編著『景品表示法[第5版]』商事法務2017年274頁、林秀弥・村田恭介・

野村亮輔『「審決・命令・警告」徹底整理 景品表示法の理論と実務』中央経済社2017 年54頁。

4) 平成15年(排)第2号ないし第4号 中部地区における有料老人ホームを営む事業者 3名に対する排除命令(平成15年4月16日)。

5) 大元慎二編著『景品表示法[第5版]』商事法務2017年274頁。

(5)

景表法は行政法の一つであるので、公法私法二元論の下、従来から、①違反 の事前予防及び②将来の被害の拡大の防止が、その目的・役割であるとされて きた。

そこで、この景表法の目的・役割を果たすために、同法上の措置命令の目的 については、「現に存在する違法状態を将来にわたって除去することにある」

との指摘6)や、「当該違反行為を排除するため」と指摘7)されている。

措置命令の要件・内容については、過大な景品類の提供又は不当表示が認め られれば、「措置命令の内容を命じる必要性」がある限り、措置命令(差止め、

再発防止策等)を命じ得ると指摘8)されている。この「措置命令の内容を命じ る必要性」とは、「措置命令の内容(再発防止策の策定など)を措置命令以前 に実施しているか(それにより一般消費者の誤認が十分に排除されているか)

等を勘案して判断される。」と指摘されている。したがって、措置命令は、違 反による不当な状態ないし違法状態を要件とするようにみえるが、差止めを命 じる場合について、措置命令の要件は明らかではない。

また、措置命令の目的について、「現に存在する違法状態を将来にわたって 除去することにある」と指摘した上で、措置命令の内容について、それ故に、

「現存する違反行為に対する差止めが将来に及ぶのは当然である」とする見 9)もある。

この見解は、違反行為がいったん中止している場合において、措置命令によっ て行為の差止めを命じ得るのかについては、独禁法の事例である東宝・新東宝 事件東京高判昭和28年12月7日の判示「いったん違反行為がなされた後何らか の事情のため現在はこれが継続していないが、いつまた違反行為が復活するか わからないような場合には、現に排除の必要が解消したものとはいえないわけ 6) 菅久修一編著『景品表示法』商事法務2005年237頁。

7) 川井克倭・地頭所五男『Q&A景品表示法[改訂版第二版]』青林書院2007年350頁。

8) 大島義則・森大樹・杉田育子・関口岳史・辻畑泰喬編著『消費者行政法 安全・取引・

表示・個人情報保護分野における執行の実務』勁草書房2016年206−207頁、211頁(関 口岳史)。

9) 菅久修一編著『景品表示法』商事法務2005年237頁。

(6)

であって、たまたま審決の時に違反行為がないからといってこれを放置するこ となく、将来にわたって右の違反行為と同一の行為を禁止することは、むしろ 右違反行為の排除のため必要な措置というべきものである。」を挙げ、肯定す 10)

さらに、既往の違反行為に対する措置命令については、まず、以下の指摘11)

がある。「不当景品や不当表示が短期間で終了し、かつ、反復して行われやす いことから、違反行為の再発を防止する目的で設けられたものである。」

また、次のような指摘もある12)。「措置命令は、違反行為が既になくなってい る場合(既往の違反行為)についても行うことができる(景表法7条1項柱書 後段)。これは、違反行為者が違反行為を取りやめている場合であっても、そ れをもって、消費者の誤認が排除され一般消費者による自主的かつ合理的な選 択が回復されるわけではなく、新聞公示等によって消費者の誤認を排除する必 要があるほか、再発防止のための措置や不作為命令についても、違反行為が続 いているかどうかによらず、必要となる場合があるからである。除斥期間も規 定されておらず、必要性が認められる限り、時期に関係なく命令することがで きる。」「公示については、不当表示による一般消費者の誤認排除のために行わ れるものであることから、不当表示行為の終了後であっても命じることができ ることは当然である。」

そこで、このような景表法上の措置命令に関する従来の指摘を統合的に理解 するならば、まず、措置命令の目的は、「当該違反行為を排除する」ことと「現 に存在する違法状態を将来にわたって除去することにある」といえる。また、

既往の違反行為に対する措置命令の目的は、再発の防止にあるということにな る。

次に、措置命令の種類・内容について、⒤現に行われている行為に対し将来

10) 菅久修一編著『景品表示法』商事法務2005年237頁。

11) 今村成和他編『注解経済法(下巻)』青林書院1985年790頁(山田昭雄)。

12) 大元慎二編著『景品表示法[第5版]』商事法務2017年272頁。同様の指摘に、波 光巌・鈴木恭蔵『実務解説 景品表示法[第2版]』青林書院2016年174頁。

(7)

にわたる差止め(不作為)命令、 一旦止められているが、再発しそうな場合 の不作為命令13)、 現に行われている行為に対する作為命令、 既に終えられ た行為に対する作為及び不作為命令があるということになる。

さらに、措置命令の要件について、 については、措置命令の目的は、「現 に存在する違法状態を将来にわたって除去することにある」ため、措置命令の 内容について、それ故に、「現存する違反行為に対する差止めが将来に及ぶの は当然である」との指摘からすれば、現に存在する違法状態を要件としている ようにみえる。 については、反復のおそれが要件とされる。 については、

現に存在する違法状態を要件としていると思われる。既往の違反行為に関する については、当該行為の反復のおそれを要件とするものと、当該行為による 誤認の存在つまり違反により生じた違法状態をその要件とするものがある。

しかし、このような従来の理解に対しては、第一に、 について、なぜ将来 の不作為を命じるために、過去の行為によって生じた現時における違法状態を 要件とし、将来における違反の反復の危険を要件としないのかという疑問があ る。第二に、これと関連して、 について、違反の繰り返されるおそれがない 場合にまで、不作為を命じることは意味がなく、過剰規制となりかねないとい える。第三に、 について、一回目の違反が脅かされている場合に対する処分 が不可能であるという限界があると考えられる。第四に、 既往の違反行為に 対する措置命令について、解釈上、要件が確定されていないため、法的不安定 性が生じているといえる。

⑵ ドイツにおける競争制限禁止法(GWB)上のカルテル庁の行政処分 我が国における独禁法上の排除措置命令(独禁法7条及び同20条)は、①景 表法上の措置命令と同様に行政処分であること、②もともと景表法は、独禁法 の特別法として制定された法律であること及び、③独禁法上の排除措置命令と 景表法上の措置命令を定めた条文の文言・規定の仕方が類似していること等に 鑑みると、独禁法上の公取委の排除措置命令の種類・目的・要件・内容に関す 13) 菅久修一編著『景品表示法』商事法務2005年237頁。

(8)

る議論は、この景表法上の措置命令の議論にとって参考にすべきものと考えら れる。

さらに、独禁法上の公取委の排除措置命令の種類・目的・要件・内容に関す る議論のためには、以下の理由に基づき、ドイツにおいて我が国の独禁法に相 当する競争制限禁止法(以下、「GWB」という)上のカルテル庁の行政処分

(GWB32条)の種類・目的・要件・内容に関する議論が参考になると考えら れる。まず、①我が国の行政法体系は、そもそも大陸法系のドイツ法を参考に したものであることである。次に、②今日の我が国における独禁法上の行政手 続は、旧来の審判手続を含むアメリカの独立行政委員会型のモデルから、近時 の改正によって、事前聴聞手続を含む欧州型のモデルへと変貌を遂げているこ とである。さらに、③以下のような消費者法の執行・実現体系からの考察であ る。すなわち、ドイツにおいて、消費者紛争は伝統的に民事的手法による解決 が第一とされているため、我が国の景表法によって規制されているような消費 者に向けられた不当表示行為は、ドイツにおいては、民事法である不正競争防 止法(UWG)によって違法とされ、差止請求の対象とされている。他方、行 政庁の処分に基づく消費者紛争の解決は、本稿で検討しているように、未だ、

EU消費者保護協力規則(2004年・2017年)にしたがい、国境を越えるEU法違 反に係る消費者紛争についてのみ認められているに過ぎない。しかし、競争法 分野にまで視野を広げれば、GWB違反に該当するカルテルや市場支配的地位 の濫用といった多数の消費者へ財産的被害を生じさせる行為の事例への対応 が、同法上のカルテル庁の違反・違法状態の排除に係る行政処分によって可能 とされている。このため、景表法上の違反行為に対する違反・違法状態の排除 に係る行政処分についてGWB上の違反・違法状態の排除に係る行政処分14) 参考にすることは、このような消費者法の執行・実現体系からの考察に基づい

14) 本編は、行政処分による集団的消費者被害救済というこのテーマの総集編である ので、以下のこの点についての記述は、宗田貴行「ドイツ競争制限禁止法上の行政 処分による集団的消費者被害救済」慶應法学42号2019年229−257頁と重なるもので あるが、ご了承頂きたい。

(9)

ても、妥当であると考えられる。

そこで、以下においては、ドイツにおけるGWB上のカルテル庁の違反・違 法状態排除に係る行政処分の種類・目的・要件・内容について検討を行うこと にしたい。

GWB32条1項は、「カルテル庁は、事業者又は事業者団体に対し、本法規定 違反、EU機能条約101条違反又は102条違反の中止を義務づけることができる。」

と規定する。

GWB32条2項1文は、「カルテル庁は、事業者又は事業者団体に対し、違反 中止処分のために、行為様式又は構造様式のすべての必要な以下のような排除 措置 (Abhilfemaßnahmen)を採ることができる。すなわち、認定された違反 行為に対して均衡のとれたものであり、かつ違反行為を実効的に中止するため に必要なものである。」と規定する。

このように規定されていることから、判例・学説上、GWB32条の定めるカ ルテル庁の行政処分には、以下の種類の命令が含まれると解されている。

ま ず、 違 反 行 為 が 行 わ れ、 一 旦 止 ん で い る が、 そ の「反 復 の 危 険

(Wiederholungsgefahr)」がある場合に、係る危険を排除することによって 違反の不作為を実現することを目的として、将来において違反の反復をしない こと(不作為)を命じる処分を、カルテル庁は、GWB32条1項に基づき命じ うる15)(以下、「反復中止処分」という)。

次に、判例16)・学説17)上、「一回目の違反の危険(Erstbegehungsgefahr)」が

15) Emmerich in Immenga/Mestmäcker, GWB Kommentar, 5. Aufl . 2014, §32 Rn. 9; 

Rainer Bechtold, GWB Kommentar, 7. Aufl ., 2013, 8. Aufl ., 2015, und 9. Aufl . 2018, 

§32 Rn. 10; BGH WuW/E DE-R 2408, 2417 ‒ Lottoblock; OLG München WuW-E  DE-R 790, 800 ‒ Bad Tölz.

16) BGH WuW/E DE-R 2408, 2417 ‒ Lottoblock; OLG München WuW-E DE-R 790,  800 ‒ Bad Tölz; OLG Düsseldorf, 16.09.2009 DFL-Vermarktungsrechte, WuW/E  DE-R 2755, 2759.

17) Rainer Bechtold, GWB Kommentar, 7. Aufl ., 2013, 8. Aufl ., 2015, und 9. Aufl . 2018, 

§32 Rn. 10; Bornkamm in Langen/Bunte, Kartellrecht Kommentar, 12. Aufl . 2014 

(10)

あるときも、実効的な権利保護を可能とするため、違反が既に行われている場 合に準ずるものとして、カルテル庁は、GWB32条1項に基づいて、以下の要 件の下、違反の予防を命じうると解されている。すなわち、脅かされた違反の 重大な懸念(Besorgnis)が生じていることを要件として、係る危険の排除の ために、将来において違反をしないことが命じられうる。これを以下において は、「予防的中止処分」という。

これら予防的中止処分・反復中止処分は、民事法でいえば、予防的差止請求 権・侵害反復差止請求権に相当するものである18)。侵害反復差止請求権の要件 である違反の反復の危険は、GWB違反行為が存在する場合に、通常存在す 19)。これと同様に、反復中止処分の要件である違反の反復の危険は、過去に おいて既にGWB違反行為が存在する場合に、原則的に存在する。しかし、

GWB上の差止請求権(同法33条1項・4項)の場合とは異なり、係る危険の 推定を覆すために、違約罰条項付きの不作為の意思表示(Erklärung)は不要 であり、むしろ、信頼のできる程度の確実性を伴った意思表示によって違反を

und 13. Aufl ., 2018, §32 GWB Rn. 15; Emmerich in Immenga/Mestmäcker, GWB  Kommentar, 5. Aufl . 2014, §32 Rn. 9; Emmerich, Kartellrecht, 13. Aufl . 2014, S. 519  Rn. 4; Rehbinder in Loewenheim/Meessen/Riesenkampf, GWB Kommentar, 3. Aufl .  2016, §32 Rn. 5.

18) Bornkamm in Langen/Bunte, Kartellrecht Kommentar, 12. Aufl. 2014 und 13. 

Aufl ., 2018, §32 GWB Rn. 15.

19) Rainer Bechtold, GWB Kommentar, 8. Aufl ., 2015 und 9. Aufl . 2018, §33 Rn. 16; 

Bornkamm in Langen/Bunte, Kartellrecht Kommentar, 13. Aufl . 2018, §33 GWB  Rn. 8.

なお、Rainer Bechtold, GWB Kommentar, 8. Aufl ., 2015 und 9. Aufl . 2018, §33 Rn. 

16は、同法上の差止請求権について、「この推定は、①当該GWB違反の性質に基づき、

又は②例えば、警告後の違約罰条項付きの不作為の意思表示といったような違反の 反復が脅かされないこととなる追加的状況に基づき、覆されうる。そして、その場 合には、妨害排除請求権の適用が、なお現存する阻害との関係で問題となる。」と指 摘する。また、予防的差止請求権の要件である侵害の危険は、違反行為者による予 告によって生じうると指摘する。

(11)

根絶することで足りる20)とされ、命令の名宛人の状態の変更が、疑いの余地の ない程度に証明されねばならない21)。この状態の変更をしないことに係る疑い が存在する以上、違反が継続する可能性があるからである22)。この推定は、状 況の変化によっても破られうるものである。これには、例えば、フランチャイ ジーに不利益を与えるフランチャイズ契約が不当妨害(GWB20条)に違反す る事例における当該契約の終了がある23)

最後に、「違反を中止するために必要な措置」が、GWB32条2項において規 定されている。この処分の要件は、「違反により違法状態が発生し、それが現 在においてもなお、存在していること」である24)。これは、すでに行われた違 反がなお現存するか否かを問わず、また違反の反復の危険が存在するか否かを 問わず、違反により生じた違法状態が現存している場合に、係る違法状態の排 除を行うことを目的として命じられるものであり、以下では、「違法状態排除 処分」という。これは、過去及び現在における違反行為の排除と、違反により 生じなお現存する違法状態の排除に向けられる。

このようにGWB32条1項が、予防的中止処分・反復中止処分を規定し、同 条2項が、違法状態排除処分を定め、これらの違反排除のための処分は、違法 状態排除処分の一種である利益返還命令(GWB32条2a項)と併せて、「広義 20) Bornkamm in Langen/Bunte, Kartellrecht Kommentar, 13. Aufl . 2018, §32 GWB 

Rn. 16; Emmerich in Immenga/Mestmäcker, GWB Kommentar, 5. Aufl . 2014, §32  Rn. 25.

21) Emmerich in Immenga/Mestmäcker, GWB Kommentar, 5. Aufl . 2014, §32 Rn. 25.

22) KG, 25.8.1983, WuW/E OLG 3121, 3123; Keßler in Münchener Kommentar GWB,  2. Aufl . 2015, §32 Rn. 36.

23) BGH, 11.11.2008 ‒ Bau und Hobby, WuW/E DR-R 1514ff , Tz. 11.

24) 違反により生じなお現存する妨害(阻害)の排除(Beseitigung einer geschenen,  aber noch gegenwärtigen Beeinträchtigung)のための措置(Bornkamm in Langen/

Bunte, Kartellrecht Kommentar, 12. Aufl . 2014, §32 GWB Rn. 34-35, 38 und 13. Aufl .  2018, §32 GWB Rn. 36ff )や、法違反状態の中止(Abstellung eines rechtswidrigen  Zustand)と表現される(Emmerich in Immenga/Mestmäcker, GWB Kommentar, 5. 

Aufl . 2014, §32 Rn. 40)。

(12)

の違反中止処分」とされている。

上記各処分のために、違反行為者の有責性(故意又は過失)は、必要とされ ない。

上述のように、予防的中止処分・反復中止処分は、将来における一回目の違 反の危険・違反の反復の危険を要件とし、将来における一回目の違反の不作為・

違反の反復の不作為を目的とするものである。すなわち、これら各処分の目的は、

上記の各危険を排除し、被審人事業者に将来において違反をさせないことであ る。各処分によって命じられる内容は、各処分の目的に反してはならず、それ 故に、各処分に対しては、「『将来における一回目の違反の危険・違反の反復の 危険の排除』と『命じられる内容』とが、同義であること」が要請され、違反 が不作為の形で認定されていない限り、もっぱら将来における当該違反の不作 為をその内容とするものである25)。さらに、各事例において、処分内容は、将来 における違反行為の中止のために十分であり(十分性の要請)、かつ最小限で あること(最小限の要請)という要請、さらに、命令が執行可能な程度に明確 で一義的で具体的であるとの特定性の要請に適ったものでなければならない。

次に、「違反を中止するために必要な措置」(GWB32条2項)としての違反 中止処分、つまり違法状態排除処分の内容を検討する。

違法状態排除処分は、過去・現在の違反行為により生じなお現存する違法状 態を要件とし、係る違法状態の排除を目的としたものであり、その内容は、過 去・現在の違反行為及び違反により生じなお現存する違法状態の排除である。

処分内容は、処分の目的に反してはならないため、「『違反により生じなお現存 する違法状態の排除』と『命じられる内容』とが、同義であること」が必要と されるが、この「同義であること」は、個々の事例において、具体的に以下の 三つの要請に合致する形で命じられることによって担保される。

EU競争法の議論の展開に沿うように、EU規則(VO  1/2003)7条1項2

25) 例えば、Rainer Bechtold, GWB Kommentar, 8. Aufl ., 2015 und 9. Aufl . 2018, §32  Rn. 12は、「違反中止処分は、違反の継続(又は再開Aufnahme)を禁止することに 限定される」と指摘する。

(13)

文と同様に、GWB32条2項1文においても、「認定された違反に対して均衡の とれたものであり」「違反を実効的に中止するために必要である」との文言が 規定されている。違法状態排除処分の内容の適法性については、違反中止処分 の内容は、他のいかなる種類の国家行為と同様に、相応しく(geeignet)、必 要であり(notwendig)、均衡のとれたもの(verhältnismäßig)であらねばな らないとの指摘26)や、違法状態の排除のために、「絶対に必要であり、かつ十 分であることとの要請が働く」との指摘27)等がある。違法状態排除処分に対し ては、以下の三つの要請があるといえる。

第一に、認定された違反により生じなお現存する違法状態を排除するために、

十分である(ausreichend)ことである(十分性)28)。これも、第二の要請と同 様に、認定された違反行為を考慮して、各事例において、具体的にその存否が 判断されねばならないものである。

第二に、処分の内容が、違反により生じなお現存する違法状態を排除するた めに、最小限であることである。なぜなら、違反行為者は、違反をどのような 積極的行為をもって止めるのか、或いは、違反により生じなお現存する違法状 態をどのような積極的行為をもって排除するのかについて自由を有しており、

それを違反中止処分によって侵害してはならないからである29)。言い換えれば、

違反により生じなお現存する違法状態の排除のための限度を超えた違反行為者 の契約の自由(Vertragsfreiheit)への過剰な介入になってはならないからで 26) Bornkamm in Langen/Bunte, Kartellrecht Kommentar, 12. Aufl . 2014, §32 GWB 

Rn. 42 und 13. Aufl . 2018, §32 GWB Rn. 44. また、「実効的ではない」措置は、そも そも「適切なものではない」とされる。このため、実効的ではないとの要件は、適 切ではないとの要件に吸収され得るが、適切ではない場合は、実効的ではない場合 に限られるものではないであろう。

27) Emmerich in Immenga/Mestmäcker, GWB Kommentar, 4. Aufl . 2007 und 5. Aufl .  2014, §32 Rn. 34.

28) Emmerich in Immenga/Mestmäcker, GWB Kommentar, 4. Aufl . 2007 und 5. Aufl .  2014, §32 Rn. 34.

29) Rainer Bechtold, GWB Kommentar, 7. Aufl . 2013, 8. Aufl . 2015 und 9. Aufl . 2018, 

§32 GWB Rn. 14.

(14)

ある30)。このように、この要請は、違反事業者の自由及び財産への介入が、当 該違反行為の排除のために適切な関係にあるべきことを意味するのであり31) EU競争法上の議論を参考にして、「違反を中止するために必要な措置」の内容 は、当該違反規定に係る適法な状態を回復するための限度を超えたものになっ てはならない、との指摘32)や、「命令は、具体的な違反に適切に対応したもの であり、かつ法律に適合した状態を回復するために相応しいものでなければな らない。また、命令は、名宛人事業者の判断の自由(Entscheidungsfreiheit)

へ必要な範囲を超えて介入してはならない。」との指摘がなされている33)。判 34)は、カルテル庁が、法違反の状態の排除のためのより緩和された方法を命 じうる場合に、常に比例原則の中の諸基準のうち、違反の実効的な(wirksam)

中止のために必要であることに反するとし、これに同調する学説35)もある。し かし、近時は、この判例について、「処分の目的のために適切かつ十分な範囲 を超えて、被審人事業者に負担を生じさせてはならない」としたものであり、

そのような場合は、狭義の比例原則の要請、つまり最小限の要請36)に反すると 解する学説37)もある。

これらを踏まえると、違法状態排除処分に対する第一の要請として、違反を 実効的に中止するために「十分である(ausreichend)」措置が採られねばなら

30) Emmerich in Immenga/Mestmäcker, GWB Kommentar, 4. Aufl . 2007 und 5. Aufl .  2014, §32 Rn. 34.

31) Bornkamm in Langen/Bunte, Kartellrecht Kommentar, 12. Aufl . 2014, §32 GWB  Rn. 42 und 13. Aufl . 2018, §32 GWB Rn. 44.

32) Bornkamm in Langen/Bunte, Kartellrecht Kommentar, 12. Aufl . 2014, §32 GWB  Rn. 41 und 13. Aufl . 2018, §32 GWB Rn. 43.

33) Emmerich in Immenga/Mestmäcker, GWB Kommentar, 5. Aufl . 2014, §32 Rn. 40.

34) OLG Düsseldorf, Urt. v. 25.10.2006-Kalksandsteinwerk, WuW/E DE-R 2081, 2086.

35) Bornkamm in Langen/Bunte, Kartellrecht Kommentar, 12. Aufl . 2014, §32 GWB  Rn. 41 und 13. Aufl . 2018, §32 GWB Rn. 44.

36) 「Grundsatz des geringstmöglichen Eingriff (最小限の介入の原則)」と言い表され る(Rainer Bechtold/Bosch, GWB Kommentar, 9. Aufl . 2018, §32 Rn. 15)。

37) Rainer Bechtold/Bosch, GWB Kommentar, 9. Aufl . 2018, §32 Rn. 15.

(15)

ないと共に、第二の要請として、それは「最小限であること」が要されている といえる。「認定された違反に対し均衡のとれた(比例した)ものであり

(verhältnismäßig)、 違 反 を 実 効 的 に 中 止 す る た め に 必 要 で あ る」 と の GWB32条2項の文言が、これら二つの要請を示しているといえる。違法状態 排除処分は、違法状態を排除するために十分なものでなければならないが、

「GWB上の規定の内容及びその規定による禁止の目的に従い必要とされる範 囲を超えてはならないものであり」、このように違法状態を排除するために最 小限であることが、「比例原則(Grundsatz der Verhältnismäßigkeit)上要請 される」、と的確に指摘されている38)

違法状態排除処分(GWB32条2項)の場合には、命令の内容が、不作為で はなく作為となることから、上述した受命者の契約の自由等との関係で、この 第二の要請を満たすか否かは、特に重要なものとなり39)、違法状態排除処分に よる違反事業者の契約の自由への介入は、違法状態の排除のために、「絶対的 に必要であること(erforderlich)が要され、かつ十分な範囲を超えてなされ てはならない」との指摘がみられるところである40)。したがってまた、違反に より生じなお現存する違法状態を排除するための複数の措置が存在する場合に は、カルテル庁は、命令の名宛人にそれらのうちどれを選択するかを委ねなけ ればならない、とされる41)

38) Rehbinder in Loewenheim/Meessen/Riesenkampf, GWB Kommentar, 3. Aufl. 

2016, §32 Rn. 11.

39) Rainer Bechtold, GWB Kommentar, 7. Aufl . 2013, 8. Aufl . 2015 und 9. Aufl . 2018, 

§32 GWB Rn. 14-18.

40) Emmerich in Immenga/Mestmäcker, GWB Kommentar, 4. Aufl . 2007, und 5. Aufl .  2014, §32 Rn. 34.

41) Bornkamm in Langen/Bunte, Kartellrecht Kommentar, 12. Aufl . 2014, §32 GWB  Rn. 42 und 13. Aufl . 2018, §32 GWB Rn. 44; Klose in Wiedemann, Handbuch des  Kartellrechts, 3. Aufl . 2016, §51 Rn. 17; Emmerich in Immenga/Mestmäcker, GWB  Kommentar, 4. Aufl . 2007, und 5. Aufl . 2014, §32 Rn. 40; BKartA WuW/E DE-R  DE-V 1251f. -DLTB und Landeslottogesellschaften; BKarA WuW/E DE-R DE-V  1177f.-Soda Club; BKartA WuW/E DE-R DE-V 1147- E.ON Ruhrgas; OLG Düsseldorf 

(16)

第三に、命令内容が、執行可能な程度に具体的であること(明確性・特定性)

(Bestimmtheitsgebot)が要される42)。この特定性は、行政処分一般に適用さ れる基準であり、行政手続法(以下、「VwVfG」という)37条1項(「行政行 為は、内容的に十分に特定されなければならない。」)に従い導かれるものであ る。また、ドイツ基本法(GG)103条2項の憲法上の特定性の要求にも基づく ものでもある。なぜなら、有責性をもって違法状態排除処分に違反する行為は、

GWB81条1項2a号に従った秩序違反(Ordnungswidrigkeit)とされ得ること になるからであり、したがって、違法状態排除処分は、明確で、一義的で、完 全でなければならず、具体的違反構成要件を十分に特定した表現でなされなけ ればならないからである43)。命令の内容が命令の主文から明らかではない場合 には、処分の理由も含めて解釈によって内容が具体化され得る44)。このように、

処分理由が、命令内容の具体化のための解釈の手助け(Interpretationshilfe)

となりうる45)が、処分は、それ自体で執行される措置の根拠に相応しいもので なければならず、それ故に、ここにおいて具体的であることという要請は、言 い換えれば、命令によって中止されることが何であるかについて、執行に委ね られてはならない、ということになる46)。このように命令内容が執行可能であ

WuW/E DE-R 2198-E.ON. Ruhrgas; BGH WuW/E DE-R 2680-Gaslieferverträge.

なお、EU規則2003年1号第7条1項と同様にGWB32条2項の定める構造に係る排 除措置(Abhilfemaßnahmen struktureller Art)は、上述した行為に係る排除措置

(Abhilfemaßnahmen verhaltensorientierter Art)を補充するものであり、第二に、

十分性・最小限性・特定性の要請を受けるものである(Emmerich in Immenga/

Mestmäcker, GWB Kommentar, 5. Aufl . 2014, §32 Rn. 37-39)。

42) Klose in Wiedemann, Handbuch des Kartellrechts, 3. Aufl . 2016, §51 Rn. 16; BGH  WuW/E  BGH  2073,  2074-Kaufmarkt;  OLG  München  WuW/E  OLG  2942,  2943-Kaufmarkt; BGH WuW/E BGH 2967, 2968-Strompreis Schwäbisch-Hall.

43) Rehbinder in Loewenheim/Meessen/Riesenkampf, GWB Kommentar, 3. Aufl. 

2016, §32 Rn. 12.

44) WuW/E BGH 2073, 2074-Kaufmarkt.

45) Klose in Wiedemann, Handbuch des Kartellrechts, 3. Aufl . 2016, §51 Rn. 16.

46) WuW/E BGH DE-R 195ff =WRP1999, 200ff .-Beanstandung durch Apothekerkammer; 

(17)

る程度に「具体的であること」が必要である47)ことは、命令の名宛人が命令 を遵守するために、47)その内容が、命令の名宛人にとって、一義的であり、具体 的に明確であり、履行可能である必要があるからである48)

これらの処分を纏めて図にすると、以下のようになる(図1「カルテル庁の 違反中止処分の概念整理」)。

図1 カルテル庁の違反中止処分の概念整理

このように、GWBは、違反及び違法状態の排除のための処分として、カル テル庁が、「違反行為の中止」を命じうること(GWB32条1項)及び、「認定 された違反に対し均衡のとれたものであり(verhältnismäßig)、かつ実効的に 違反を中止するために必要な(erforderlich)措置」(排除措置)を命じうるこ とを規定しているところ(GWB32条2項)、この後者の一つとして、近時の判 例・学説の展開49)に鑑み、GWB32条2a項1文は、「カルテル庁は、違反中止

Klose in: Wiedemann, Handbuch des Kartellrechts, 3. Aufl ., 2016, §51 Rn. 16.

47) 例えば、Rehbinder in Loewenheim/Meessen/Riesenkampf, GWB Kommentar, 3. 

Aufl . 2016, §32 Rn. 12; Klose in: Wiedemann, Handbuch des Kartellrechts, 3. Aufl .,  2016, §51 Rn. 16; Rainer Bechtold, GWB Kommentar, 8. Aufl ., 2015, §32 Rn. 13; 

Emmerich in Immenga/Mestmäcker, GWB Kommentar, 5. Aufl . 2014, §32 Rn. 42.

48) WuW/E BGH DE-R 195ff =WRP1999, 200ff .-Beanstandung durch Apothekerkammer. 

BGH Z 130,390,395及びBGH Z 129,37,40も同旨。それ故に、連邦通常裁判所判決 が述べているように、執行段階において具体化され得る範囲ではある程度抽象的 な表現(例えば、差別行為に当たる商品供給の事例での商品供給命令における「通 常 の 条 件」 と の 表 現) で も 特 定 性 に 欠 け る こ と は な い(WuW/E BGH 2990ff .,  2992.-Importarzneimittel.)。これについては、「独禁法違反と取引命令(仮)」として 検討を予定している。

49) 宗田貴行「搾取的濫用行為と独禁法上の行政及び民事的エンフォースメント――

狭義の 違反中止処分 広義の違反中止処分

予防的中止処分

(将来の違反の不作為)

反復中止処分

(将来の反復の不作為)

違法状態排除処分(過去・現在の違反・違法状態の排除)

(18)

処分において、カルテル法違反行為により生じた利益の返還を命じることがで きる。」と定め、「利益返還命令」を規定し50)、その運用事例もみられている。

例えば、電力供給業者がGWB19条1項及び4項違反の濫用的価格設定行為 を行った事例であるEntega事件に関する連邦カルテル庁の2012年3月19日決 定は、以下のように述べて、当該電力供給業者に対し、総額約500万ユーロを 暖房用電力の購入者たる顧客に返還するよう命じている51)

「GWB違反 の認定及び利息を含む電気料金の超過支払い額の返還を命じる ことは、GWB32条2項にしたがい適切な措置である。すなわち、GWB19条な いし29条に違反する行為の実効的な中止のために、適切であり(geeignet)、

必要であり(erforderlich)、かつ認定された違反に対して均衡のとれたもの

(verhältnismäßig)である。2007年から2009年の期間における違反によって 生じかつ現存する妨害は、電力購入者たる顧客が利息も含め返還されるべき金 額を獲得することにおいて排除される。」「濫用的価格引き上げによって生じた 利益の返還をGWB32条1項に基づき命じることは、違反行為を有効に中止す るために必要である。すでに生じ、かつ現存する妨害の中止の措置及び利益の 返 還 は、GWB32条 1 項 及 び 2 項 に よ り 認 め ら れ る も の で あ る。」 と し、

Stadtwerke Uelzen事件に関する連邦通常裁判所2008年12月10日決定52)の「すで に生じ現存する妨害を排除することも、違反中止処分の範囲において命じられ ることに基本的に疑いがない。濫用行為によって獲得された利益の返還を命じ ることも、これに含まれる。」との判示を引用した上で、以下のように述べた。

ドイツ競争制限禁止法における議論を参考にして――(上)」獨協法学96号2015年 195−309頁。

50) 利益返還命令は、違法状態のための排除処分(GWB32条2項)の一つとして運用 され、明文化されたものであるため、GWB32条2a項1文において「違反中止処分」

というのは、後述する狭義の違反中止処分(予防的中止処分・反復中止処分)では なく、違法状態排除処分も含めた広義の違反中止処分である。

51) BkartA,  19.  03.  2012-Entega,  B10-16/09,  Bundeskartellamt,  Tätigkeitsbericht  2011/2012(BT Drucksache 17/13675), S. 100f.

52) Az. KVR 2/08, NJW2009, 1116ff ., WuW/E DE-R 2538, 2540-Stadtwerke Uelzen.

(19)

すなわち、「命令の名宛人による補償がまだ行われていない以上、引き上げら れた価格の支払いによって生じた妨害は、なお現存するものである。このため、

本決定部は超過支払い分の返還を命じる。」

このようにカルテル庁の行政処分の目的は、 違反の発生・反復・継続の危 険を排除し、被審人事業者に将来において違反をさせないこと及び、 過去・

現在の違反行為により生じなお現存する違法状態の排除を目的としたものであ り、この後者には被害の回復も含まれるものといえる。

GWBは、たしかに、市場参加者の財産自体を保護するものではないが、競 争のプロセス(過程)を保護するために、市場参加者の財産の形成・維持のた めの活動の自由を保護するものであるため、GWB違反による財産的被害につ いて、GWB違反によって生じなお現存する違法状態と捉え、その排除のために、

カルテル庁の行政処分によって被害回復を命じうるとされている。

⑶ 我が国の独禁法上の公取委の排除措置命令

このようなドイツにおけるGWB上のカルテル庁の行政処分に関する議論を 踏まえると、我が国の独禁法上の公取委の排除措置命令の種類・目的・要件・

内容については、以下のように考えられる53)

独禁法上、排除措置命令は、同法7条及び同法20条等に規定されている。

独禁法7条1項は、「第3条又は前条の規定に違反する行為があるときは、

公正取引委員会は、第8章第2節に規定する手続に従い、事業者に対し、当 該行為の差止め、事業の一部の譲渡その他これらの規定に違反する行為を排 除するために必要な措置を命ずることができる。」と規定し、同法20条1項は、

「前条の規定に違反する行為があるときは、公正取引委員会は、第八章第二 節に規定する手続に従い、事業者に対し、当該行為の差止め、契約条項の削 除その他当該行為を排除するために必要な措置を命ずることができる。」と規

53) 宗田貴行「搾取的濫用行為と独禁法上の行政及び民事的エンフォースメント――

ドイツ競争制限禁止法における議論を参考にして――(下)」獨協法学97号2015年1

−73頁、14−18頁。

(20)

定する。

従来から、公法私法二元論の下、独禁法は行政法の一つである以上、独禁法 ないし同法上の行政処分の役割は、①違反の事前予防及び②将来の被害の拡大 防止にあると考えられ、独禁法上の排除措置命令は、違反行為があるときに、

独禁法違反行為によってもたらされた違法状態を公取委の公権的介入によって 除去し、競争を復活させることを目的とする行政処分であると解されてきた。

このため、刑事罰のように、過去の違法行為に対する制裁を行うものでも行 為者の責任を追及するものでもなく、行為者の主観的要件は要されない。ここ で、違反行為があるときとは、禁止規定に違反する行為によって、法が抑止し ようとしている状態(違法状態)を現出させていることを意味し、排除措置命 令の目的は、この違反行為によって生じ現出している違法状態を除去し、その 将来への継続を防止することにある54)

判例は、独禁法7条1項の排除措置命令について、違反行為を排除するため の必要な措置は、現在同法に違反してなされている行為の差止め、違反行為か らもたらされた結果の除去等、直ちに現在において違反行為がないと同一の状 態を作り出すことだけではなく、将来にわたって当該違反行為と同一の行為を 禁止することも含むとしている55)

上述したドイツにおけるGWB上のカルテル庁の行政処分の議論と我が国の 独禁法上の公取委の排除措置に係る学説・判例に鑑みるならば、公取委の排除 措置命令(独禁法7条1項・20条1項)には、①「当該行為の差止め」との文 言に基づき、違反の継続又は反復の重大かつ具体的危険の存在する場合に、係 る危険の排除という目的のために不作為を命じる継続・反復排除措置命令があ

54) 以上につき、今村成和『独占禁止法(新版)』有斐閣1978年211〜212頁。厚谷襄児・

糸田省吾・ 向田直範・稗貫俊文・和田健夫編『条解独占禁止法』弘文堂1997年260頁(和 田健夫) は、排除措置命令は、「違法行為によってもたらされた現在の違法状態を排 除し原状回復を図る行政処分」であるとされる。今村成和他編『注解経済法(上巻)』

青林書院1985年347頁(和田健夫)、田中誠二・菊池元一・久保欣哉・坂本延夫著『コ ンメンタール独占禁止法』勁草書房1981年410頁(福岡博之)。

55) 東宝・新東宝事件東京高判昭和28年12月7日審決集5巻145頁。

(21)

るといえる。これは、不当な取引拒絶のように、違反が不作為の形で認定され る場合には、例外的に作為を命じうるものである。また、②「必要な措置」と の文言に基づき違反により生じなお現存する違法状態が存在する場合に、その 排除という目的のために作為を命じる違法状態排除措置命令があると考えられ る。さらに、③「当該行為の差止め」との文言に基づき、一回目の違反の重大 かつ具体的な危険の存在する場合に、係る危険の排除という目的のために不作 為を命じる予防的排除措置命令があるといえる。これは、このような場合には、

違反の事前予防・将来の被害の拡大防止という行政法の役割を果たすために必 要であると考えられるものである(図2「公取委の排除措置命令の概念整理」)。

なお、既往の違反行為に対する措置は、同法7条2項において定められてい る。これは、既に止んだ違反によって生じなお現存する違法状態を排除する違 法状態排除措置命令によって命じられ得るものであり、同法7条2項は、その ことを明示して確認した規定であると考えられる。

図2 公取委の排除措置命令の概念整理

公取委は、「違反行為の差止め」として、違反行為自体の中止を命じること ができ、これは、具体的には、例えば、独禁法に違反する不当高額販売の事例 において、違反行為自体の排除として、正当な価格を上回る価格での販売の取 りやめを命じ得ると考えられる56)。また、公取委は、独禁法違反行為からもた らされた結果の除去のため、「違反行為を排除するために必要な措置」を命じ

56) 不当廉売の事例において、公取委が、特定の価格を下回る価格での販売の禁止が 命じられた中部読売新聞社事件(東京高決昭和50年4月30日審決集22巻301頁、同意 審決昭和52年11月24日審決集24巻50頁)もある。これに関しては、村上政博編『条 解独占禁止法』弘文堂2014年305頁(江崎滋恒=西向美由=森崎航)。

排除措置命令

予防的排除措置命令(将来の違反の不作為)

継続・反復排除措置命令(将来の違反の継続・反復の不作為)

違法状態排除措置命令(過去・現在の違反・違法状態の排除)

(22)

ることができる。具体的には、近時においては、公取委が、例えば、独禁法に 違反する不当高額販売の事例において、「違反行為を排除するために必要な措 置」として、違反行為により生じ現存する違法状態を排除するため、利益の返 還を命じることが可能であると考えられるようになってきている(六2)。

排除措置命令は、受命者に義務を課す行政処分である以上、内容が具体的で あり明確であること及び、その履行が著しく困難ではなく、履行可能であるこ とが必要とされる57)だけではなく、①目的に照らし必要最小限度で合理的範囲 であること58)及び、②違法状態の除去や競争秩序の回復のために十分であるこ とも必要である59)

57) 第一次粉ミルク(明治商事)事件・東京高判昭和46年7月17日行集22巻7号1022頁、

石油連盟価格カルテル事件・東京高判昭和52年8月15日判時865号3頁、石油価格協 定過料事件・最決昭和52年4月13日審決集24巻234頁。

58) 経済法学会編『独占禁止法講座Ⅶ』商事法務研究会1989年260−261頁(利部脩二)、 

日本経済法学会編『経済法講座3 独禁法の理論と展開⑵』三省堂2002年272頁(鈴木 加人)。GWB上の行政処分と同様に、比例原則の下、 必要性及び 目的と手段が比 例していることを要すると考えられる。比例原則の内容には、①適合性ないし適切性、

②必要性、目的達成のための手段の最小限度性、③成果と被侵害利益の均衡等があ るが、ここでは、特に②が関係すると考えられる。行政法に関する文献においては、

比例原則の根拠を憲法13条に求める見解(今村成和・畠山武道補訂『行政法入門(第 6版再補訂版)』有斐閣2002年98頁、遠藤博也『実定行政法』有斐閣 1989年164頁等)

が多数説である。これに対し、比例原則の根拠を行政法の一般原則に求める見解に、

塩野宏『行政法Ⅰ(第3版)』有斐閣2003年53頁がある。さらに、「行政庁」と「規 制の名宛人」との二面関係だけではなく、「規制の受益者」を入れた三面関係におけ る「過少禁止」(宇賀克也『行政法概説I行政法総論[第5版]』有斐閣2013年56頁)が、

独禁法上の利益返還命令においても問題となると考えられる。係る命令が行われる 事例でも、利益の返還を受ける者が「規制の受益者」として存在するからである。

このため、上述の違法状態の除去や競争秩序の回復のために十分であることとの要 件は、競争秩序の回復や違法状態の除去は勿論のこと、「規制の受益者」たる利益の 返還を受ける者への配慮からも、要されると考え得る。

59) これらにつき、経済法学会編『独占禁止法講座Ⅶ』商事法務研究会1989年260− 

(23)

このように考えられるため、独禁法上の行政処分の目的は、以下のように考 えられる。すなわち、独禁法上の公取委の行政処分の目的は、 違反の発生・

反復・継続の危険を排除し、被審人事業者に将来において違反をさせないこと 及び、 過去・現在の違反行為により生じなお現存する違法状態の排除を目的 としたものであり、この後者 には、被害の回復も含まれるものといえる。

このため、行政法たる独禁法ないし同法上の行政処分の役割ないしその究極 的な目的は、①違反の事前予防及び②将来の被害の拡大の防止を行うことに加 えて、③すでに生じた被害の回復にもあるということができる。

⑷ 景表法上の措置命令の種類・目的・要件の検討

このような独禁法上の行政処分の種類・目的・要件・内容に係る議論を参考 にすると、景表法上の措置命令(景表法7条1項1文)の種類・目的・要件・

内容については、以下のように考えられる。

そもそも、景表法上の措置命令の目的は、同法が行政規制を有する行政法の 一つである以上、公法私法二元論の下、一3で述べた同法1条に掲げられた同 法の目的を実現するため、①違反の事前予防及び②将来の被害の拡大の防止を 行うことにある、とされてきた。しかし、それにとどまるのであろうか。端的 にいえば、措置命令の目的は、違法状態の排除による被害の回復にも及ぶので はないのか。これについては、措置命令には、どのような種類があり、それら は、どのような目的・要件・内容を有するものであるのかについて検討する必 要がある。

まず、景表法上の措置命令には、以下の各目的を有する各種類の命令がある と考えられる。

261頁(利部脩二)。この他に、丹宗暁信・岸井大太郎編『独占禁止手続法』有斐閣  2002年93頁(藤田稔)、根岸哲編『注釈独占禁止法』有斐閣2009年136頁(根岸哲)、

村上政博編『条解独占禁止法』弘文堂2014年303頁(江崎滋恒=西向美由=森崎航)、

白石忠志・多田敏明編『論点体系独占禁止法』第一法規2014年170−172頁(伊永大輔)、

村上政博=栗田誠編『独占禁止法の手続』中央経済社2006年40−41頁(栗田誠)。こ の他に、平等原則に反しないことも、当然要される。

参照

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