度の在り方をめぐって
著者 嶋貫 真人
雑誌名 人間関係学研究 : 社会学社会心理学人間福祉学 : 大妻女子大学人間関係学部紀要
巻 22
ページ 101‑112
発行年 2021‑02‑12
URL http://id.nii.ac.jp/1114/00006963/
Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by‑nc‑nd/3.0/deed.ja
嶋貫 真人 * Masato SHIMANUKI
<キーワード>
社会福祉法,社会福祉法人,公益性,高齢者介護,イコールフィッティング
<要 約>
2016年の社会福祉法改正は,社会福祉法人の非営利性・公益性の純化を目的とするもので あった。しかし,他方で社会福祉基礎構造改革の結果,高齢者の在宅介護や乳幼児保育の分 野を中心に社会福祉法人はサービスの価格や質の面で営利企業等と市場で競争を展開してい くことになり,競争条件の均一化を求める声も高まっている。つまり,このような自由競争 の環境を整えることを重視する見解と,これまで以上に公益法人としての使命に忠実な活動 を期待する16年改正法の考え方とでは,理論的な衝突が避けられなくなっている。
公益性を担保するための各種規制やそれらを前提とする優遇措置という,社会福祉法人創 設以来維持されてきた制度の枠組みは,大幅な修正を迫られている。本稿では,これからの 社会福祉法人のあり方に関して,主として高齢者に対する介護サービスを素材としつつ,現 行制度に対して批判的な立場から検討を加えていく。
*大妻女子大学 人間福祉学科 教授
2016 年社会福祉法改正の問題点
―社会福祉法人制度の在り方をめぐって―
Issues related to the 2016 amendments to the Social Welfare Act:
Regarding the state of social welfare corporations
1.問題の所在
社会福祉法(以下では単に「法」と表記するこ とがある)は,2000年の「社会福祉事業法」から の題名改正以降,大きな見直しが行われることな く10年以上を経てきたが,16年の「社会福祉法 等の一部を改正する法律」(平成28年法律第21号。
以下「16年改正法」)によって,久々の大幅な改 正を見た。今回の改正は社会福祉法人制度に関す る部分に的を絞った手直しで,改正の直接の契機 となったのは,一部の法人における不明朗な会計 処理の発覚や社会福祉法人としての公益性や非営 利性に疑念を抱かせるような多額の内部留保金の 存在であった。
「措置から契約へ」に象徴される社会福祉基礎 構造改革の進展の中で,第二種社会福祉事業(以 下,社会福祉事業については「第一種事業・第二 種事業」と表記する),とりわけ高齢者の在宅介 護と乳幼児保育の分野では社会福祉法人の占める 地位が相対化し,社会福祉法人は営利企業を含む 多くの市場アクターの中の1つという位置づけに なった。この結果,社会福祉法人といえども,サー ビスの価格や質に関して他の法人と対等な条件下 で競争を展開していくべきというイコールフッ ティング論が営利法人(および規制緩和を主導す る一部の新古典派経済学者)の間で主張されるよ うになる(八代2002:24)。
しかし,自由競争の環境整備を重視するイコー ルフィッティング論の主張と,公益法人としての 使命にふさわしい社会貢献活動を期待する16年 改正法の考え方とでは,その立論における力点が 大きく異なっているように思える。すなわち,16 年改正法は社会福祉法人の存在意義自体に疑問を 差し挟むわけではなく,むしろその非営利性・公 益性を純化して,特殊法人としての価値を高めて いこうとする方向の改革であるから,そのような 公益性の実現に向けた各種の補助や多くの規制を 含んだ現行制度の枠組み自体を否定するものでは ない。これに対してイコールフィッティング論に おいては,社会福祉法人がそのような「公的に護 られた地位」にあること自体に疑問を投げかける
のである。
このように16年改正法によって,社会福祉法人 にはこれまで以上に厳格な公益性・純粋性・透明性 が求められるようになったが,他方で基礎構造改革 以降以降に拡大した営利法人との競争の場面では,
効率的で自立した経営が求められている。このよう に考えると,福祉サービスが契約の形態で提供さ れる時代を迎えて,社会福祉法人の公益性を担保 するための各種規制,そしてそれらを前提とする 優遇措置という,1951年の社会福祉事業法制定以 来続いてきた制度の枠組みは大幅な修正を迫られ ているように思われる。一体,社会福祉法人は今 後どこにその存在意義を見出していくべきなの か。福祉サービス市場を営利法人に開放していく 際の環境整備はどうあるべきなのか。社会福祉法 人が市場で競い合うアクターの中の1つという位 置づけになって,社会福祉法人固有の役割として 最後まで残るものは何なのか。私たちにはこれら の問いに対する答えが求められているのである。
本稿では,16年改正法を受けて,これまで以上 に厳格な監督・規制に服しつつ新たな使命を帯び て再出発することになった社会福祉法人に関し て,憲法89条の「公の支配」をめぐる通説的な 解釈に対して批判的な立場から検討を加えてい く。その際には,制度の評価尺度として,以下の 5つの基準を設定する。すなわち,①ボランティ アグループ,篤志家などの非営利的な私人(個人・
団体)の活動を阻害しない仕組みになっているか
(「自主性・独立性の尊重」という評価基準(1)),
②サービスの質の保障がなされているか(「質の 保障」という評価基準),③サービス利用者の選 択権が尊重されているか(「利用者の選択権」と いう評価基準),④株式会社を中心とする営利企 業の事業活動の自由が保障されているか(「営業 の自由の保障,市場の健全な発展」という評価基 準),⑤政府による財政支出およびサービス利用 者の自己負担が過大にならないようにするための 費用抑制のメカニズムが機能しているか(「サー ビスの効率性」という評価基準)の5つである。
以下では,これらの評価基準に照らしつつ,今後 のサービス供給体制のあり方の検討を行なう。
なお,本稿では以上のような検討を行なう際の 素材として,主として高齢者介護の分野を念頭に 置くこととする。なぜならば,社会福祉法人と営 利法人との間で市場での競合が最も顕著に現れて いるのは第二種事業の高齢者介護の分野である し,さらに参入規制が加えられているはずの第一 種事業の分野においてすら,特別養護老人ホーム
(以下「特養」と記す)と有料老人ホームを経営 する営利法人との間で実質的な競合関係が認めら れるからである(菊池2008:115)。
2.社会福祉法人に対する補助と規制をめぐ る制度の沿革
(1)社会福祉事業法制定当時の考え方
民間社会福祉事業の戦後の体制づくりにおいて は,憲法89条の「公金支出禁止原則」を念頭に 置きながら進められた点が重要である。すなわち,
この原則との論理的整合性を保ちつつ団体に対し て財政支援を行なうために,法人運営に関する政 府の監督(公の支配)を社会福祉事業法の中で規 定し,これを条件として社会福祉法人に税制上の 優遇措置や施設整備費の補助を行うこ(2)とが可 能になったのである。これは,換言すれば「公的 責任を民間に転嫁しない限り政府は民間からその 役務を購入することができる」(熊沢2002:101)
という技巧的な説明を用いて憲法上の問題を克服 しようとした,ととらえることができる。
そして,そのうえで本来政府が公的責任の観点 から実施する事業,すなわち貧困者等の「社会的 弱者」を対象とする事業,人権侵害の危険性の高 い事業を第一種事業として位置付け,これらの事 業については,財政的な安定性や公益性・純粋性 を担保するために厳格な公的統制に服する特殊法 人(社会福祉法人)に独占的に担当させることと した。このようにして憲法89条の解釈と平仄を 合わせる形で,法人に対する補助と規制とが一体 となった措置委託制度が論理的に構築されていっ たのである。
(2)社会福祉基礎構造改革による変容
上記のように,「公の支配」というのは,社会
福祉法人が措置制度下で第一種事業を運営してい た時代において,法人に対する公的補助を憲法上 正当化するために構築された説明概念であった。
そして,そうであるとするならば,このような考 え方の上に成立している社会福祉法人に対する規 制も,あるいは各種の保護制度についても,契約 による福祉の時代を迎えて,必然的に理論的な見 直しを迫られることになるはずである。
税制優遇や施設建設費の補助といった制度が,
実質的に見て事業に対する助成ではなく事業主体 である社会福祉法人に対する助成を目的としたも のであった(新田2000:186)にもかかわらず,
これによって生ずる他種の法人との間の競争条件 の不公平の問題は,社会福祉事業法制定の段階で は全く顧慮されていなかった。しかしその後,社 会福祉法人が競争的な環境の中で事業を展開して いかなければならない時代を迎えて,このような 優遇措置は競争政策上看過することができない問 題として浮上してくる。このようなイコールフッ ティング論は,営利法人の参入が認められている 第二種事業の分野でとりわけ顕著な形で現れる が,前述のとおり第一種事業である特養と有料老 人ホームの関係においても一定程度あてはまるよ うに思われる。
3.16 年改正法の問題点
(1)16 年改正法のねらい
16年改正法の柱は,1)法人ガバナンスの強化,
2)法人運営の透明性の確保,3)地域における公 益的な活動の推進の3つとされる3)。しかし,こ の改正は補助・規制と法人格とを連動させている 現行制度の枠組自体の見直しではなく,私見によ ればこの改正によって社会福祉法人制度はかえっ て深刻な矛盾を抱え込むことになってしまったよ うに思われる。そこで,このような問題認識に立っ て,16年改正法の内容を批判的に検討してみたい。
(2)社会福祉法人の競争上の地位をかえって有利 にしてしまう可能性
社会福祉法人経営研究会は,社会福祉法人の公 益性の特性として,ⓐ低所得者を排除しないこと,
ⓑ労力・コストのかかる者を排除しないこと,ⓒ
制度外にある新しい福祉ニーズに対応していくこ との3つをあげている(社会福祉法人経営研究会 2006:60)。そして,16年改正法では,上記ⓐ~
ⓒを具体的に実現するために,事業活動の結果生 じた収支残(法55条の2第3項4号の「社会福 祉充実残」で,それは税制上の優遇措置等の社会 福祉法人に与えられた特典の果実であるとみなさ れている)を地域における公益的な活動に充てる としている4)。さらに「地域における公益的な活動」
としてⓐの点をとりわけ重視しており,「日常生 活または社会生活上の支援を必要としている者に 対して,無料または低額な料金で福祉サービスを 提供するように努めなければならない」(以下,
このような運用を「社福減免」と呼ぶ)と述べて,
16年改正法ではこれを社会福祉法人の公益活動の 重要な柱と位置づけた(法24条2項)。また,こ れを受けて国の通知においても「無料又は低額な 料金」でのサービス提供を求めている(2008年1 月23日・社援基発0123第1号)5)。さらに,学 説でも菊池(2006:117)をはじめとして,社福 減免を社会福祉法人の公益性を示す重要なメルク マールであるとみなす論者は多い。
しかし,要介護高齢者のケアをめぐって有料老 人ホームと特養が実質的に市場で競合している現 状に照らすならば,社会福祉法人が優遇措置の成 果を社福減免の形で社会に還元したとしても,
サービス利用料が低額になったことで社会福祉法 人の方がより幅広い層の利用者を獲得できるよう になる6)(田近・油井2003:316)ばかりか,社福 減免による法人全体のイメージアップといった副 次的効果も無視できない7)。つまり,社福減免は 社会福祉法人の集客力をさらに増強させる可能性 があり,評価尺度④(市場の健全な発展への寄与)
に照らすと,おおいに問題のある制度である。
社会福祉法人が享受する特典を社会に還元する ことで,かえって他の事業主体との間の不公平が 広がってしまうという矛盾した結果の背景には,
公的補助と法人格を連動させている現行社会福祉 法人制度そのものの構造的な問題が存在している ように思える。
(3)社会福祉法人の自主・独立性の尊重や公的 責任の転嫁禁止に反する可能性
06年の公益法人制度の改正に際して展開された 次のような議論は,本稿の主題を考える際にも重 要な視点を提供してくれる。すなわち,公益法人 として税制優遇を受けるために自治体からの委 託・補助事業を積極的に受託し,これをもって「公 益性」をアピールしようとする団体も見られるが,
公益法人はあくまでも会員が納める会費(一般市 民からの寄付)で運営するのが本来の姿であるの で(堀田2011:38),行政の下請けの形で行う事 業は,たとえそれが住民福祉の向上につながった としても,活動の自発性に欠けるがゆえに,それ 自体には公益性が認められないとされているので ある(能見2011:31)。
このような考え方は公益財団法人の一類型に位 置づけられる社会福祉法人(伊奈川2001:27)に も基本的にあてはまると考えられる。たしかに監 督行政庁は社会福祉法人の自律性を尊重する立場 から,法人が取り組むべき公益活動の内容を具体 的に指示することはできないとされている(前掲 2008年通知)が,他方で社会福祉充実残を地域貢 献活動等に支出する際には社会福祉充実計画の策 定を求め,それを所轄庁に提出させて承認を与え るとしている(法55条の2)から,事実上行政庁 が法人の公益活動の内容に干渉していることにな る。このような16年改正法の背景にあるのは,
公費で支えられている活動である以上,常に「地 域に対し,法人自らその価値を明らかにしていく」
(前掲2008年通知)という考え方であるが,公的 な財政支援を受ける事業が世の中に数多くある中 で,なぜ社会福祉法人だけがこのような強い「内 政干渉」に甘んじなければならないのだろうか8)。
「規制の強さ」を強調することは他面で法人の自律 性を阻害することにつながるのであって,地域貢 献活動の内容の当否に行政が承認を与える制度で は,かえって憲法89条の基底にある慈善活動の独 立性や公私分離原則に反することになる。以上の ような理由により,地域貢献活動をめぐる16年改 正法の考え方は,評価尺度①(法人の自律性の尊 重)からも正当化することができないと思われる。
(4)公益活動の内容と税制上の優遇措置との均衡 の問題
理事会・評議員会で社会福祉充実残の発生が承 認されて,それを地域貢献活動のために支出する ことが決定されたとしても,決定された具体的な 活動の内容が各法人が享受する税制上の優遇措置 と数量的に均衡していることを客観的に証明する ことは不可能である。税制上の優遇措置というの は「ゼロか100か」の画一的な判断であるが,地 域貢献というのは質・量の両面で千差万別のもの であり,およそ税法上の平等性や画一性の要請に はなじまない。千葉(2006:126)も指摘すると おり,社会福祉事業の成果は本来測定することが 困難であるという特質をもつが,このことは当然 地域貢献活動にもあてはまるから,優遇措置に見 合った貢献を要求すること自体,活動の本質的な 性格と相容れないのである。
法55条の2第6項は,同条第4項2号の「地 域公益事業」として認められるためには,当該取 り組みの是非について定期的に地域住民等の意見 を聴取するといった手続の正統性が担保されてい なければならないとしている。つまり,税制上の 優遇措置と均衡しているか否かという定量的な測 定が困難なので,最終的には納税者である地域住 民が是認すれば良いという定性的な「手続」の問 題に置き換えてしまっているのである。
しかし,そもそも租税とは,国税・地方税を問 わず,社会全体の便益に向けられた活動の財源と して強制的に徴収されるものであるから,ある社 会福祉法人が提供する地域貢献活動の恩恵を直接 的に実感することができる限定された範囲の住民 の評価をもって,税の減免という文字通り国家的 な財政の変更を正当化するのは,財政民主主義や 租税の公平性の原則に照らして論理的に無理があ るといえよう9)。
(5)小括
16年改正法の柱ともいうべき社会福祉充実残を 財源とする地域貢献活動に対しては,次のような 批判が可能である。すなわち,新たに打ち出され た地域貢献活動の規定は,その存在意義や正当性
について十分な検証を欠いたまま納税者感情や競 合企業との間の公平性への配慮に基づいて創設さ れたにすぎず,社会福祉法人の優遇措置をめぐる イコールフッティング論からの批判に論理的に応 えるものとはなっていない。それどころか,以上 で検討したような諸矛盾によって,補助・規制と 法人格とを連動させている現行制度の問題性を一 層浮き彫りにしてしまったともいえる。つまり,
社会福祉法人に対する保護制度が迷路のような状 態にはまり込んでしまっている根本的な原因は,
社会福祉法人という法人格と「公益性・優遇措置」
とを直結させてとらえている社会福祉法(および その前身である社会福祉事業法)の「形式性の誤 謬」にあるように思われる。
そこで次段では,そもそも私的団体が行う活動 の「公益性」はどのような点に見出されるのか,
どのような要件を満たしたときにそれに優遇措置 が与えられるべきなのかについて,検討を加えて いくことにする。
4.「公益性」とは,何を意味するのか
(1)団体の公益性か,活動の公益性か
まず注目しておきたいのは,16年改正法のひと つのきっかけとなった前述の公益法人制度改正
(06年)の影響である。旧民法34条に基づく公益 法人制度が大幅に改正されて,「公益社団法人及 び公益財団法人の認定等に関する法律」(以下「公 益法人法」と呼ぶ)が08年に施行された。これ によって税制上の扱いで高い優遇措置を受けられ る公益財団法人・公益社団法人と,それより一段 低い優遇措置にとどまる一般財団法人・一般社団 法人の区分が設けられることになった。つまり,
前者については公益法人の中でも特に高い公益性 や透明性が求められ,そのことと引き替えに社会 から手厚い支援を受けることになったのである。
このような社会福祉法人を取り巻く周辺環境の動 きが,社会福祉法人の公益性を厳格に追及する16 年改正法に大きな影響を与えている。
ところで,社会福祉法人ではなく民法上の公益 法人の形態をとっても「福祉活動」を目的とする 団体を設立することは可能であるが,それにもか
かわらず社会福祉法人の形態をとった場合には公 益法人よりもさらに税制上の優遇措置は強くなっ ている10)。したがって,社会福祉法人には,一般 的な意味での「公益性」にとどまらない固有の価 値が認められるということになる(菊池2008: 116)。そこで,ここでいう「公益性」とは具体的 にどのようなことを意味するのかが問題となる。
「公益性」とは「不特定多数の者の利益の増進 に寄与するもの」と定義されているが(公益法人 法2条4号),公益法人法の運用においても,この 公益性概念が不明確であることが問題として指摘 されており,とりわけ「公益」と「共益」の区別 が 議 論 に な る こ と が 多 い と さ れ て い る( 雨 宮 2011:14)11)。一方,税法上は「公益性」の段階 について,「①私益(ないし共益)⇒②弱い公益(公 益法人)⇒③強い公益(社会福祉法人)」という 段階区分を設けていることになるが,上記のとお り「①⇒②」の境界が不明確であるので,その先 にある「②⇒③」の区別もまた困難ということに なる。このように考えると,「事業主体の公益性」
というのは有用性の乏しい概念であって,正しく は「個々の事業活動の公益性」を検討すべきなの ではないか12)。
他方で「主体の営利性」については,構成員に 剰余金の配当請求権または解散時の残余財産分配 請求権があることと定義されているため(内田 2008:213),公益性と非営利性とは2つの異なる 次元でとらえられることになる(伊奈川2001: 28)。たとえば,電力の供給や公共交通のように,
営利法人による公益事業はたくさん例があるし,
逆に社会福祉法人による非公益的事業(収益事業)
の例もある13)。さらには,非営利法人であるが公 益事業を行わない団体(労働組合,生活協同組合 等)もある(伊奈川2001:29)。
したがって,社会福祉法人の性格を分析する際 には,「団体の非営利性」と「活動の公益性」と いう2つの視点,すなわち下のア・イの角度から 検討を加える必要がある。
ア)社会福祉法人が出資者や理事に利益を還元し ないという性質(非営利性)が,本当に法人 の経営の安定(事業からの退出制限)やサー
ビスの質の向上につながり,ひいては福祉 サービス利用者の保護に資するのか。
イ)社会福祉法人が担う社会福祉事業は,活動主 体である法人に対する税制上の優遇措置に見 合うだけの「強い公益性」を有するのか。
以下,ア)については2で,イ)については3で,
段を分けて検討していく。
(2)団体の非営利性と利用者保護との関係 「営利を目的としない団体だから,弱者である 利用者の権利が守られる」という議論に関しては,
以下のような形で問題設定が可能である。すなわ ち,社会福祉法人については,配当禁止等,法人 の内部資金が外部に流出することを防止する措置 が他の非営利法人以上に厳格に設けられている
(法45条の35,47条1項)が,本当にこれらの 規制が利用者の保護につながるのかという問いで ある。
たしかに,株式会社においては株主からの利潤 配当圧力が,サービスの安定供給にマイナスの影 響を与える可能性はあるだろう。しかし,サービ ス提供の安定性を脅かす要因は,出資者からの利 潤配当要求だけではない。利用者の権利保護を図 るうえでの最大の脅威のひとつは,事業者が当該 サービスの提供市場から退出してしまうことであ るが,社会福祉法人理事会によるこのような決定 は,配当禁止等の規制手段によって防ぐことがで きない。契約によるサービスの時代に入って,社 会福祉法人といえども一般企業と同じ土俵の上で 競争を展開していかなければならなくなり,「当 該事業では収益をあげられない」と理事会が判断 したときには,出資者への配当の有無とは関係な く,当該事業から撤退するという決断はありうる。
措置の時代には「護送船団方式」の下,非営利性 を保ちつつ事業の継続性を維持することが可能で あったかもしれないが,現代の社会福祉法人は 個々のサービス提供の継続性を犠牲にしてでも,
法人全体の経営の安定性の方を優先しなければな らない場面に直面することがありうる。要するに,
サービスの利用者(とりわけ施設入所者)の権利 を守るためには,法人の非営利性の確保を目的と
する事業主体規制法ではなく,市場からの退出行 動そのものを制限する(あるいは退出の際の後継 事業者への事務引き継ぎに行政が介入する14))と いった事業規制法が必要とされているのである。
仮にあるサービス提供市場において複数の供給主 体が参入・退出を繰り返すことになったとしても,
新旧の事業者間でサービスが引き継がれている限 り,当該市場全体では「継続性・安定性」が保た れているという見方も可能である。換言するなら ば,サービス利用者の保護に向けて,旧事業法の 時代には事業主体である社会福祉法人の純粋性・
非営利性の確保という規制手段で臨んでいたもの が,現代では供給主体の多元化によってもたらさ れるサービスの継続性によって代替されうるので あって,行政による規制の手法もそれに合わせた 形に移行してきているとみることができる(豊島 2010:126)。
(3)活動の公益性と税制上の優遇措置の関係 前述のとおり,公益性の認定は,事業主体の種 別を判定する指標ではなく,個々の事業の性格を 評価する際の指標と考えるべきで,株式会社で あっても公益性のある活動を行うことは可能とい うことになる。それでは,社会福祉法人の活動に 特に高い公益性を認めて税制上も高い優遇措置を 与える現行制度は,どのような観点から正当化さ れるのか。
ひとつの見方として,「不特定多数の利益」に 向けた活動を始める際の事業主体の「動機」に着 目するというアプローチが想定される。すなわち,
社会福祉法人には既存制度の隙間で発生する新し い福祉ニーズに対応しようとする特質(不採算部 門や制度外へのニーズに取り組もうとする意欲)
があり,この点に他の事業主体には見られない固 有性があるという議論がある(増田2001:128)。
たしかに社会福祉法人職員の意識には,福祉 サービス提供の中核が契約に移行した現代にあっ ても,株式会社が決して乗り出さないような先駆 的ニーズに対応していこうという強い使命感が存 在するように思われる。実際に福祉現場実務をな がめてみても,制度化されたサービスの組み合わ
せだけでは生活問題が解決しない事例は多く見ら れるし,このような制度のはざまに落ちている ニーズや時代の最先端を切り開く新しい問題に立 ち向かう際の動機というのは,ある段階までは行 為者の内心の世界だけで輝くものであって,最初 からその価値を一般市民にわかりやすく説明する ことは難しいものなのかもしれない。
しかし,ここでの問題は,種々の優遇措置を経 てもなお競争条件の公平性が保たれているという 主張について,このような「傍流のニーズ」に積 極的に取り組んでいるという事実を根拠として客 観的に証明できるのかにある。
たしかに株主への利益配当に至上目標を置く営 利法人においては,不採算部門に積極的に進出す るという経営判断は,一般的には想定しにくいだ ろう。しかし,行政や他社が乗り出していない先 駆的な事業分野にあえて営利企業がチャレンジし ようとする背景には,冷徹でしたたかな成算が存 在する場合が多いのではないか。某大手通信会社 が,福島での原発事故の直後に,再生可能エネル ギーの一環として風力発電の研究に乗り出すこと を発表して話題となったが,このような短期的に 見て採算の合わない大胆な投資であっても,長期 的なスパンで見たときにそれを回収して利益をあ げる見通しが立つとか,このような新規事業に果 敢に挑戦する姿勢を社会にアピールすることで企 業のイメージアップをねらうなど,当該事業単体 としての採算性とは関係なしに企業全体の長期的 な経営戦略に立ってゴーサインを出しているのか もしれない。そして,このような一見利益度外視 のように見える企業の行動を「公益的」と評価す るかは,もはや言葉の使い方の問題にすぎない。
したがって,利益を度外視したかに見える団体の 行動に対して「既存の制度の隙間を埋めている」
といったあいまいな評価尺度をあてはめ,社会福 祉法人であるが故にそれに補助を与えるといった 議論は,税制優遇を正当化する根拠とはなりえな いのである。
以上のように考えると,制度外の特殊的ニーズ に対応する活動に公的な補助を与えるか否かの判 断においては,これに「公益性」というフィルター
を当てて判断することの意義は乏しく,一定の政 策目的に合致した事業であるならば営利法人に対 しても補助を行なうべきということになる。たと えば,特養が要介護3以上の利用者しか受け入れ ていない現状において,それよりも軽度の介護 ニーズの者が住み替えリスクなしで終生をすごせ る場所として介護付き有料老人ホーム(または サービス付き高齢者向け住宅)があり,これはま さしく制度化されていない法外のニーズを営利法 人が拾い上げている例である(その証拠に,サ高 住を経営する主体に対しては株式会社であっても 国庫から補助が行われている)。現行福祉制度の 隙間の部分では,このように常に新たなニーズが 発生しているが,そのような自主的・先駆的活動 に補助を与えるか否かについては,法人格の種別 とは関係なく,「任務(mission)を通じた支援」
という考え方へと,大きく方向転換していくべき なのである(原田2014b:46)。
(4)小括
以上のように,社会福祉法人が社会福祉法をは じめとする規制,すなわち「公の支配」に服して いることをもって,社会福祉法人に対する各種優 遇措置を合理的に説明することはできない。16年 改正法は,各種優遇措置の結果社会福祉法人内に 蓄積された資産を社会に還元させるという新たな
「規制」を社会福祉法人に課す(そして,それによっ て競争条件の均一化を図る)ことも,憲法89条 の「公の支配」の一場面であるという解釈に支え られているが,個々の事業の公益性は法人格の種 別によってアプリオリに決定されるものではない ので,社会福祉法人への助成の根拠を法人として の公益的性格やそれを担保するための各種規制に 求めること自体が誤っているのである。
仮に社会福祉法人であるというだけで(社会福 祉充実残があろうが,なかろうが)税制優遇等の 補助に相当する社会貢献を本来的に果たしてお り,「補助」と「貢献」とが理論上相殺される関 係が成立しているとみなすならば,そのうえさら に目に見える形での地域貢献の実績を求める16 年改正法の考え方は,社会福祉法人に対して二重
の負担を強いたことになって,むしろ新たな不公 平を生むことになるはずである。また,16年改正 法が「目に見える形での地域貢献」の実績を確認 できる法人だけに優遇措置を与えるという,算術 的等価性を重視する方向に舵を切ったのだとする と,地域貢献の効果を具体的に挙証できるのなら,
どんな種類の法人であっても優遇措置を与えなけ ればならなくなるはずである。
16年改正法は,このような社会福祉法人制度を めぐる本質的な問いに対して正面から回答を与え ることなく,内部留保金の問題に向けられた批判 をかわすためだけの改革に終わっているように思 える。ここで私たちに求められているのは,「補助・
規制」と法人格とを連動させている現行制度を根 底から見直したうえで,新たにこれらの要件や効 果を再構成していくことである。終章では,本稿 の結論としてそのような新たな視点を提示してい く。
5.結論
(1)参入規制から契約規制へ
以上の検討の結果,退出制限,サービスの安全 性や質の確保といった,福祉サービス利用者の保 護を目的とする政策としては,第一種事業に関す る参入規制や社会福祉法人の経営に対する監督・
規制といった手法では実効性がないことが確認さ れた。介護保険法におけるサービス事業者の指定・
監督制度に象徴されるように,基礎構造改革以降 は運営主体の営利・非営利の区別に関係なく一律 に同じ規制をあてはめていく手法を取り入れつつ あり,それを受けて社会福祉法自身も00年に第 8章のサービス提供過程の部分を大幅に改正し て,事業主体の種別を問わない契約規制の手法を 採用している。つまり,措置の時代において社会 福祉法人が占めていた優越的な地位を一部で廃し て,利用者保護に向けてすべての供給主体を同一 平面に置いた契約規制の手法で臨む手法を取り入 れたのである。
しかし,その後の運用の中で,社会福祉法第8 章の諸規定のみでは利用者の保護措置として不十 分であることが明らかとなり,個別分野ごとの福
祉法規の規定(たとえば,介護保険法の中の各種 指定介護保険事業者に対する規制等)で補完され るようになっている。高齢者介護が措置から契約 へと移行していく過程では,事業者に関する情報 公開制度等のサービス供給プロセスの透明化を通 じて事業者が淘汰されていくという市場原理を一 方に据えつつも,他方では行政がサービス利用関 係に直接介入して事業者の規制を行なう手法を精 緻化させてきたのである(豊島2010:117)。
このような契約規制を通じたサービスの質の確 保は,実は第一種事業・第二種事業の区別に関係 なく(さらに社会福祉事業に限定されることもな く),すべての福祉サービスに必要なものと思わ れる。利用者の権利保護に向けた参入規制と契約 規制という2つの手法を比較したときに,参入規 制の方は事業者の営業の自由や利用者の選択の自 由に対する制約が極めて強いのに対して,契約規 制の方はそれらのマイナス面が相対的に小さいと いえる(評価尺度③・④)し,以下のような理由 によりサービスの質の保障や利用者の権利擁護
(評価尺度②)の点でも優れていると考えられる。
第1に,契約規制の手法によるならば,前述の いわゆる「無届け老人ホーム」に対する規制を行 いやすくなる。一部の有料老人ホームの中には,
家賃を生活保護の住宅扶助基準額と同水準に設定 して,生活保護受給者を中心とする入所者に対し ておよそ「ケア」と呼ぶに値しない劣悪なサービ スを提供しているところがある。これらのホーム は第一種事業ではないので,参入規制に服するわ けではなく,また社会福祉を目的とする事業や社 会福祉に関する活動(法89条1項)として行政 の指導・監督を受けることもない。さらには介護 保険施設に適用される「指定介護老人福祉施設人 員,設備,運営基準」によってサービスの最低基 準が担保されることもない。したがって,このよ うなホームを含むすべての要介護高齢者の入所施 設でのサービスの質の向上のためには,社会福祉 事業のみを対象とする社会福祉法上の規制や,介 護保険施設を対象とする介護保険法上の規制と いった経営主体や報酬の種別を限定した規制では なく,高齢者のために何らかのケアを提供する施
設のすべてを対象として利用者を保護する総則的 位置づけの法律が必要となるが,契約規制の手法 によるならば,このような規制が可能となるので ある。
第2に,介護保険法の特定施設の指定を受けて いる有料老人ホームの利用者保護のあり方を見直 す契機となる。このようなホームではケアの内容 に関して行政の監督下に置かれているものの,高 額な入居費を徴収しながら,途中で経営が破綻し て閉鎖に追い込まれ,入居者が退去を迫られると いう事態が多く発生している。このような有料老 人ホームでは,「公の支配」に服していない営利 法人が実質的に第一種事業の入所施設の利用者と 同じニーズに対応していることになるが,その過 程でこのような紛争が発生している現実は,第一 種事業・第二種事業という区分が利用者保護に向 けた事業者コントロールの枠組みとして,もはや 有効性を失っていることを示している。すなわち,
介護保険か私費か,社会福祉法人か否か,公的な 建設費補助を受けているか否かに関係なく,すべ ての介護サービス提供施設に対して総則的に規制 を行なう法制度が求められているのである。
(2)老人介護サービス事業に対する補助のあり方 (今後の展望)
以上のとおり,介護サービス事業に対する公的 補助や税制上の優遇措置については,事業の公益 性や事業主体に対する「公の支配」とは関係なく,
当該事業を保護・育成していく必要性という政策 的な配慮に基づいて決定されるということにな る。
なお,特養と介護付き有料老人ホームとの関係 については,両者の間で利用者の所得層による市 場での棲み分けが成立しているから,特養を運営 する社会福祉法人に限定した補助であっても問題 ないという反論があるかもしれない。しかし,特 養と有料老人ホームの関係について,本当に利用 者の所得層による棲み分けという形で整理するこ とが妥当なのかは,おおいに疑問である。前述の とおり,将来発生するかもしれない介護ニーズに 対して住み替えリスクなしに対応するには,介護
付き有料老人ホームに早目に入居するしか方法が なく,現状ではこうした選択は有料老人ホームに 入居できるだけの所得を有する者に限定されてし まうため,たしかに利用者の所得層によって両者 の線引きが一応成立している。ところが,実際に は一部の有料老人ホームにおいて,低所得層の介 護ニーズに対応するべく,公費助成がない中で価 格面で特養と競合しようとし,利用者が劣悪な環 境に置かれるところが現れているのは前述のとお りである。すなわち,このような介護保険制度の 外側(無届けホーム)で発生する要介護高齢者の 権利侵害の問題は,特養と有料老人ホームとがい ずれも国民の介護ニーズに応える機能を担いなが ら,両者間のイコールフィッティングが達成され ていないことが主要な原因となって発生している と考えられる。同じニーズに応えるためのサービ ス間では,補助の面でも規制の面でも,競争条件 をそろえておかなければ,サービス利用者の所得 層に偏りが生ずるか,あるいは特定のサービスの 質だけが極端に劣化してしまう。そのような歪み をなくすためには,やはりイコールフィッティン グに配慮することは重要なのである。これは評価 尺度②・③・④から導かれる結論である。
この場面において,両者の競争条件の均一化を 図る方策として,理論上は1)特養経営への参入 規制を撤廃したうえで,法人類型に関係なく建設 費などの補助を行う,2)低所得者のために有料 老人ホームの入居費に対して所得補助を行う,3) 有料老人ホームの経営主体にも社会福祉法人と同 等の税制優遇措置や建設費の補助を行う,の3つ が考えられる。しかし,2)・3)については,株 式会社に対する特養参入規制を継続することを前 提とする点で,営業の自由(評価尺度④)に反す るし,補助財源の効率的な運用という点でも疑問 が多い(評価尺度⑤による)。したがって,本稿 では次段で1)を推し進めていくことを提言する のである。
(3)全体のまとめ
以上の検討の結果,福祉サービス(とりわけ高 齢者に対してケアを提供する事業)に関する規制
および補助は,サービス提供主体の法人格とは無 関係に行われるべきということになる。すなわち,
税制上の優遇措置や事業活動に対する補助につい ては,当該事業の保護・育成という,個別場面ご との政策判断で決定されるべきと考える。この点,
社会福祉法による「公の支配」を強化していくこ とで社会福祉法人に対する補助の正当性を根拠づ けようとする16年改正法は,誤った方向を志向 する改革であると思われる。また,利用者保護に 向けた規制のあり方についても,個々のサービス 提供契約の性質に応じて決定されるということに なる。したがって,利用者保護のための退出制限 が必要な第一種事業も含めて,すべての福祉サー ビス領域について参入規制を撤廃して契約規制に よって利用者の権利擁護を図る形に切り替えてい くべきである。そして,本稿のように「補助」と「規 制」とを別建ての制度として再編し,「公の支配」
に服さない営利法人であっても,政策目的達成の うえで必要な場面で補助を与える(もちろん公費 支出の適正さを担保するための監督は行う)こと に切り換えたならば,社会福祉法人として存続す ることは,財務会計や組織の規律に関する厳格な 監督に服さなければならない分だけ,他種類の法 人との競争においてむしろ不利な条件を強いられ ることになる。したがって,このようなサービス 供給体制の下では,必然的に社会福祉法人の存在 意義が問われることになるだろう。福祉サービス 市場で社会福祉法人が占める位置が相対化する中 で,社会福祉法人固有の事業分野というべきもの はもはや残されておらず,福祉サービス事業者に とって,社会福祉法人という特殊法人類型にとど まることの意味は,社会的な信用や名声の維持と いった点にしか見いだせなくなるのではないか。
以上のような本稿の結論に対しては,次のよう な反論が予想される。すなわち,介護保険法に基 づくサービスのように利用契約に移行した事業に ついては契約規制で臨むことが可能であるとして も,契約化せずに措置のまま存続している第一種 事業(児童養護施設など)については,契約規制 の手法では利用者の保護を図ることができない。
そこで,この分野についてのみ営利法人の参入規
制を残すとともに,この分野の事業を独占する社 会福祉法人に対する優遇措置は,今後も存続させ る必要があるという意見である。
たしかに第一種事業を営む法人に措置受託義務 を課す制度は,当該事業についての政府の公的責 任を端的に示すものであり,質の保障に向けた規 制の必要性は高いが,契約規制という手法の適用 場面を「利用者と事業者の間の契約」だけでなく,
「行政と事業者の間の契約」にまで拡張して考え るならば,措置委託の形で提供されている第一種 事業についても,契約規制(地方公共団体が締結 する契約の内容を国の法令で規制する)の方法で 利用者の権利を守りつつ,社会福祉法人以外の経 営主体の参入を認めることは十分に可能なのでは ないか。
以上のように考えると,「福祉サービスの契約 化⇒競争条件の公平性の要請」という基礎構造改 革以降の大きな流れは,措置から契約に移行した 高齢者介護などの分野だけでなく,措置の形態を 維持している分野においてもあてはまるように思 われる。換言すれば,競争条件の公平性の要請は,
「利用者と事業者」の契約をめぐる事業者間の競 争場面だけでなく,「行政と事業者」の契約をめ ぐる事業者間の競争場面においても,妥当性をも つということになる15)。
注
( 1 )現行法上も社会福祉法61条1項2号におい て,この考え方が明文化されている。
( 2 )国の補助金の交付金化に伴い,05年以降は 一部の交付金について社会福祉法人以外の 設置主体であっても地方公共団体経由で施 設整備費として助成することが可能となっ たが,国の社会福祉施設等整備補助金につ いては,依然としてその対象は特別監督(法 58条)に服する社会福祉法人が設置した施 設に限定されている。
( 3 )2014年7月 社会福祉法人の在り方等に関 する検討会報告「社会福祉法人制度の見直 しについて」
( 4 )前掲注(3)
( 5 )なお,サービス利用料の設定が元々応能負 担の形になっていて,低所得者について減 免された利用料が全額公費で補填されてい る場合には,ここでいう「無料又は低額な 料金」に該当しないことはいうまでもない。
( 6 )また,原田(2014a:329)は,特養入所者 については居住費・食費に関して利用者に 対する補足給付が行われるのに対して,有 料老人ホームにおいてはこのような利用料 補助の制度が存在せず,この点も両者の競 争条件の不均衡として問題であると指摘し ている。
( 7 )しかも,いったん法人によって軽減された 利用者負担分の一部は,事後に市町村から 公費で補填されることになっているので,
実際に法人自身の負担として残る部分はご くわずかである。
( 8 )八代(2002:26)は,「農業や中小企業に対 しては可能な公的助成が,『慈善,教育,博 愛事業』にだけ禁止という論理は不明であ る」と述べている。
( 9 )公益法人制度においても,複数の都道府県 において類似の公益活動を展開している法 人について公益性の認定を行う際には,都 道府県間で連絡を取り合いながら統一性の とれた判断をするべきであるとされている
(小幡2011:22)。
(10)株式会社等の営利法人との比較でいうと,
法人事業税が非課税となる点で社会福祉法 人と公益認定を受けた公益法人は共に営利 法人よりも優遇されているが,さらに社会 福祉法人と公益法人とを比較すると,社会 福祉法人のみ固定資産税が非課税となって いる点で,税制上は社会福祉法人の方がよ り優遇されている。
(11)能見(2011:29)は,次のような例を挙げ てこのことを指摘している。たとえば,非 営利団体である「○○駅前商店街組合」は,
その組合員の利益のみを目的とする団体な ので一応「共益」に分類されるが,商店街
の発展がその地域全体の発展につながると いう見方をした場合には,「公益」とみなせ ないこともない。また,堀田(2011:32)は,
2条4号の「不特定多数」の概念が相対的な ものである以上,「公益と共益」の区別,「公 益と私益」の区別が不明確となるのは当然 であるとしている。
(12)小幡(2011:23)は,「営利企業が同種の事 業を行っているというだけの理由で,公益 目的事業に該当しないということにはなら ない」と述べている。すなわち事業主体の種 別に関係なく,個々の事業についてその公 益性の有無が判断されるということになる。
(13)原田(2014b:31)は,その例として,法人 の所有する不動産を活用した貸しビルや駐 車場の経営等をあげている。
(14)たとえば,介護保険法88条5項では,指定 介護老人福祉施設の経営主体が指定を辞退 する場合には,入所者が引き続き必要なサー ビスを受けられるよう,他の法人と連絡調 整を行わなければならないと規定している。
(15)このことについては,公共事業発注の際の 競争入札において,独占禁止法によって競 争条件の公平性が確保されていることのア ナロジーを用いた説明が可能かもしれない。
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