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気管支内視鏡により摘出した気管支異物の1例

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Academic year: 2021

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(1)

要 旨

症例は 54歳、男性。主訴は 37度台の発熱および咳嗽。近医で抗生剤を処方されるも、症状は一時的に改善 するのみであった。胸部X線写真では肺炎を疑う浸潤影を認めた。基礎疾患を持たない成人男性に繰り返し起 こる肺炎であり、原因精査のため当科紹介となった。初回の気管支内視鏡検査を含めた精査では、原因を特定 することができなかった。詳細な問診により、気管支異物の存在を疑った。再度、気管支内視鏡検査を行い、

気管支異物の存在が明らかになった。経内視鏡的にV字型把持鉗子を用いて異物を除去することができた。気 管支異物は、歯牙補塡物の一部であった。症状は劇的に改善し、胸部X線写真で認めた肺炎像も消失した。

キーワード

気管支異物、気管支内視鏡、異物摘出、歯科異物

緒 言

気管支異物は、短時間に気道狭窄による呼吸不全を来 たし、致死的状態に陥る救急症例から、発熱や呼吸苦、

喘鳴などから気管支炎や気管支喘息と診断され、長期間 経過してから気管支異物と診断される症例まで、その病 態は多様である。

今回、我々は気管支異物により繰り返す肺炎を呈した 症例を経験したので報告する。

症 例

症例:54歳、男性

主訴:37度台の発熱、咳嗽 既往歴:特記すべきことなし 家族歴:父、肺癌

喫煙歴:20〜40歳まで 1日 10本 飲酒歴:機会飲酒程度

アレルギー歴:なし 職業歴:酪農業

粉塵曝露歴・ペット飼育歴:なし 薬剤・健康食品摂取歴:なし

現病歴:2008年9月、1ヶ月以上続く咳嗽を主訴に近医 を受診。クラリスロマイシン内服により症状は改善した。

しかし、同年 12月再度咳嗽が出現し、同医での胸部X線

写真で、右肺門部から右下肺野縦隔側にかけて浸潤影を 認めた(図1)。血液検査で炎症反応が高値なため、抗生 剤(クラリスロマイシン内服、セフトリアキソン点滴)

が投与された。炎症反応は改善したが、聴診上喘鳴があっ たため、気管支喘息が合併していると考え、吸入ステロ イド・長時間作用型β2刺激薬合剤吸入薬、テオフィリン 薬、抗ロイコトリエン拮抗薬の内服が開始された。

2009年1月中旬、再度 38.5度の発熱および咳嗽を認 め、胸部X線写真で右下肺野広範囲に浸潤影を認めた。

基礎疾患の有無を含め、繰り返す肺炎の原因精査のため、

当科を紹介された。

史 本 庄 統 澤 田 格 笹 岡 彰 一

図1.前

繰り返す肺炎を契機に発見され、

気管支内視鏡により摘出した気管支異物の1例

市立室蘭総合病院 呼吸器科

小 林 智

)

縦隔側に浸潤影を認める。

室蘭

医での胸部X線写真 右肺門部から右下肺野

誌(第 34巻 第1号 平成 21年

病医 9月

論 文

プ ペ ト ッ

の み に入 れ る ー ジ

14

(2)

臨床経過:当科初診時、咳嗽および 37度台の発熱が持続 していた。室内気ではSpO 97%であり、呼吸不全は認め なかった。血液検査では、WBC 8380/μℓ(好中球分画 72.6%)、CRP 3.75mg/dℓと炎症反応所見が軽度高値 であった。右下肺野にcoarse crackleを聴取し、胸部X 線写真では右下肺野に広範囲な浸潤影を認めた(図2)。

胸部CTでは、右下葉S からS にかけて広範囲に区 域を無視して拡がるconsolidationを認めた(図3)。肺 炎(細菌性、ウイルス性、真菌性など)、器質化肺炎を含 めた間質性肺炎、好酸球性肺炎、過敏性肺炎、肺癌、サ ルコイドーシス、悪性リンパ腫などを鑑別疾患として考 えた。前医のクラリスロマイシン、レボフロキサシン内 服はそのまま継続とした。2週間後再診時、症状は持続 しており、血液所見、胸部X線写真および胸部CT所見 は当科初診時と著変は認めなかった。他の血液検査にも 目立った所見は得られず、βDグルカン、SPDIgE 腫瘍マーカー(SCC、CEA、CYFRA、SLX)、ACE、可

溶性IL2受容体は正常範囲内であった。初回の気管支

内視鏡検査では気管支腔内に多量の喀痰を認め、右下葉 底幹の気道狭窄所見および慢性炎症を示唆する粘膜発赤 や浮腫、肉芽形成所見を認めたが、明らかな異物は指摘 できなかった。粘膜面は易出血性であった。気管支洗浄 液の細胞診では、好中球を主体とする炎症細胞を多数認 めるという結果であった。気管支洗浄液の培養では有意 な病原菌は検出されなかった。

その後も症状の改善はみられなかったが、詳しい問診 の結果、1年程前に夕食時にむせたことがあり、それ以 降右胸痛や咳を自覚するようになったことを知り得た。

そのため気管支異物の存在を疑い、再度気管支内視鏡検 査を施行した。右下葉底幹の気道狭窄所見や粘膜発赤、

肉芽形成は前回と同様であったが(図4a)、右B から B 入口部を閉塞させるような異物の存在を認めた(図 4b)。出血に注意しながら、V字型把持鉗子を用いて異

物を把持し摘出することができた。摘出後、末梢の気管 支から多量の喀痰の流出を認めたが、出血はなかった(図 4c)。異物は以前に治療した歯牙充塡物の一部分であっ た(図4d)。摘出前の胸部CT縦隔条件を再度見直すと、

右底幹入口部に不整形の高吸収領域があり、異物の一部 を反映していたものと考えられた(図5)。異物摘出後は 速やかに解熱が得られ、咳嗽も消失し、血液所見上炎症 反応も改善した。胸部X線写真でも異常陰影は消失した。

考 察

気管支異物は、経口摂取を開始した乳幼児や嚥下機能 が低下した高齢者に好発しやすいと言われている。Ba- harlooらによる気管支異物症例 112例の検討では、84例 が8歳以下で、他の年齢層と比較すると有意に多い傾向 であった。特に2歳以下での発症が多かった。成人発症 例では 60歳代での発症が多かった。男女比は 3:2と男 性発症が比較的多かった 。

成人例では突発的な不慮のアクシデントによるもの以 外では比較的稀とされているが、近年では認知症や統合 失調症などの精神科疾患での発症例や脳梗塞後遺症や脳 出血後遺症など、意識障害を伴う場合での発症例が増加 している。いずれの場合においても、症状の訴えに乏し く、診断に苦慮することが多い。

気管支異物の形態によっては、気道を閉塞することで 呼吸不全を来たし、緊急的な治療が必要な場合があり、

呼吸器疾患の救急疾患の一つである。気管支異物の種類 として、乳幼児ではピーナッツなどの豆類、成人ではマ チ針・釘などの職業性の物質、歯科関連物質の誤嚥が多 く報告されている 。気管支異物の存在部位は、気管支 分岐角度が解剖学的に左側において大きいため、右側に 気管支異物が多いとされている。

気管支異物の診断には、胸部X線写真や胸部CT検査 が有用であり、またピーナッツなど脂肪成分を含む異物 の診断には胸部MRI検査が有用であるとの報告があ

図3.当科初診時の胸部C T写真(肺野条件)

右下葉S からS にかけて肺炎像を示唆するconsol idationを認める。  

図2.当科初診時の胸部X線写真 -

右下肺野広範囲に浸潤影を認める。

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(3)

る 。異物がX線非透過性の物質であれば診断は胸部X 線写真のみで容易であるが、異物がX線透過性物質であ る場合は診断が困難であり、無気肺、片側過膨張、呼気 時に縦隔が健側へ偏位するHolzknecht徴候などから異 物の存在を疑うこともある。Muらは、小児における気管 支異物症例 400例の胸部X線写真を検討し、62%の症例

air trappingによる肺の過膨張所見を、55%の症例で 縦隔偏移所見を認めたと報告している 。

気管支異物の症状としては、無症状で経過する症例も あるが、持続する咳嗽、発熱、息切れ、喘鳴、胸痛など の症状を認めることが多い 。診断は積極的に気管支異 物を疑わない限り、気管支炎や気管支喘息と誤診しやす く、診断が遅れる原因になる。早期に確定診断をするた めには、初診時の詳細な問診や誤嚥のエピソードを正確 に把握する必要がある。

治療は、経気道的異物除去が第一であり、呼吸不全を 認めない症例では、局所麻酔下における気管支内視鏡に よる摘出を考慮する。気管支内視鏡の発達により、気管 支異物のほとんどは軟性気管支鏡で摘出可能となった が、内視鏡操作上、不用意に鉗子を開閉して異物を気道 末梢に押し込まないようにすること、また、異物を鉗子 で強力に把持し、粉砕してしまわないことに注意が必要 である。鉗子は異物の形態に合った種類を選択すること が重要であり、V字型鉗子や鰐口型鉗子、バスケット鉗 子、スネア鉗子、腎盂バルーンカテーテルやフォガティー カテーテルなどを用いて気管支異物を摘出した症例が報 告されている 。異物が長期間にわたり留置される 図4.気管支内視鏡所見

4a:右中間気管支幹からの見下ろし像。(内側より)中葉入口部、底幹入口部、B 入口部。気道粘膜発赤 調に加え、全体に浮腫を呈しており、易出血性。B 入口部にはポリープ型病変を認める。

4b:右底幹入口部。異物が気管支腔を閉塞させている。周囲粘膜は浮腫状で隆起し肉芽を形成している。

4c:異物除去後。末梢気管支からの喀痰の流出が著しい。

4d:摘出された異物。歯牙補塡物の一部であった。

図5.当科初診時の胸部C T写真(縦隔条件)

右底幹入口部に異物の一部と思われる高吸収域像

(矢印)を認める。

4a   4b   4c   4d

 

16

(4)

と、異物周囲に肉芽組織が発生して、気管支内視鏡的摘 出が困難となることがある。摘出が困難な場合や、異物 が組織損傷を引き起こす可能性がある場合は全身麻酔下 による開胸手術を要することもあり得る。

本症例は基礎疾患を持たない成人男性での発症で、異 物は歯牙補塡物であった。歯科異物の発生原因は、食事 中の誤嚥と歯科治療中の誤嚥が多いとされている。歯科 異物は食物片異物などの他の気管支異物と比較すると、

咳嗽、喘鳴、呼吸困難などの臨床症状に乏しいと報告さ れている 。歯科異物の多くはX線非透過性物質で診断 が比較的容易であるが、今回の異物は歯牙補塡物の一部 分であり胸部X線写真では確認することができなかっ た。詳細な問診だけではなく、身体所見や画像所見を詳 細に検討すればより早期に診断が得られた可能性があ り、教訓的な症例であった。

結 語

今回、我々は繰り返す肺炎を契機に発見され、気管支 内視鏡により摘出可能であった気管支異物の1例を経験 した。気管支異物の診断は詳細な問診による情報の収集 や身体所見、画像所見を解析して、気管支異物の存在を 疑うことが重要である。高齢化社会が進むことにより、

今後増加する疾患であることが予想される。

文 献

1)Baharloo F, Veyckemans F, Francis C, Biettlot  

MP, Rodenstein  DO: Tracheobronchial foreign bodies -presentation and management in children  and adults-. Chest 115:1357  1362, 1999.

2) 下窪 徹, 伊井敏彦, 比嘉利信, 隅本健司:気管支 鏡下にバスケット把持鉗子を用いて摘出した気管支 異物(梅干しの種)の1例:気管支学 24:462‑467, 2002.

3) 森川洋匡, 平井 隆, 山中 晃, 中村保清, 山口将 史, 赤井雅也:気管支鏡にて摘出できた気管支異物 症例 13例の検討. 気管支学 26:505‑510, 2004.

4)Mu L,Sun D,Shenyang PH:Radiological diagno- sis of aspirated foreign bodies in children -Review of 343 cases-. J Laryngol Otol 104:778  782, 1990.

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6) 金子公一, 赤石 亨, 中村聡美, 二反田博之, 坂口 浩三, 石田博徳:気管支異物 ⎜ 最近の症例から

⎜ . 気管支学 27:518‑523, 2005.

7) 清嶋護之, 朝戸祐二, 鏑木孝之, 橋本幾太, 内海啓 子, 雨宮龍太:当院における気道異物症例. 気管支 学 27:529‑532, 2005.

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日呼吸会誌 36:1023‑1026, 1998.

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参照

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