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幼児のカテゴリー化様式に及ぼす人物画描写能力と 刺激の影響
著者 桜井 茂男, 桜井 登世子
雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学
巻 39
号 1
ページ 181‑188
発行年 1990‑11‑26
その他のタイトル Effects of Human Figure Drawing Ability and Stimulus Separability on Young Children's Categorization
URL http://hdl.handle.net/10105/1963
幼児のカテゴリー化様式に及ぼす人物画描写能力と刺激の影響
桜 井 茂 男・桜 井 登世子
(奈良教育大学心理学教室) (桜井人間科学研究所) (平成2年4月25日受理)
カテゴリー化の研究において、全体的様式(holistic mode)と分析的様式(analytic mode)が 注目されるようになってから、様々な研究が行われてきた。全体的様式とは、刺激が未分化な全 体として扱われ、全体的な類似性によってカテゴリー化されることであり、分析的様式とは、刺 激が次元的な成分に分析されたセットとして扱われ、共有する次元価によってカテゴリー化され ることを意味している Kemler Nelson (1984)は、意図条件と偶発条件の下で大学生に分類学 習を行わせた結果、意図条件下では分析的様式を用いやすく、偶発条件下では全体的様式を用い やすいことを示し、また、幼児は全体的様式を用いやすく、小学5年生は全体的様式と分析的様 式を同程度に用いることを示した。杉村・井上(1987a)は、類似性と基準次元の両方で分類でき るルールを持つ分類課題では、幼児も大人と同様に分析的様式を用いやすく、類似性でしかカテ ゴリー化できないルールを持っ課題では、大人も幼児も全体的様式を用いやすいことを示した。
また、杉村・井上(1987b)は、 2つのルールを持つ分類学習課題で標本事例と学習事例の類似性 が低い課題の方が高い課題よりも分析的様式を用いやすいことを示した Sugimura & Inoue (1987c)は、 2つのル‑ルを持っカテゴリ一般化課題で正誤のフィードバックを与えた場合に分 析的様式を用いる者が増加することを示した。さらに、 Sugimura & Inoue (1988)は教示の効 果を検討し、仲間教示の方が分析的様式を用いやすく、似ている教示の時には全体的様式を用い やすいことを明らかにした。桜井・桜井(1988)は、カテゴリ一般化課題を用いてカテゴリーサイ ズ(3事例と6事例)について検討し、 6事例課題の方が分析的様式を用いやすいことを示唆し た。桜井・杉村(1990)は、 2つのカテゴリーの一方の標本事例のみを呈示して学習事例を分類さ せる条件と、 2つのカテゴリーの両方の標本事例を呈示する条件においてカテゴリー数の影響を 検討し、カテゴリー数が2つの方が分析的様式を用いやすく、学習量に関しては過剰学習によっ て分析的様式者がさらに増加することを示した。
以上は、全体的様式と分析的様式に及ぼす外的にコントロ‑ルされた要因、及び年令差といっ た発達要因の影響についての研究であるo カテゴリー化様式に影響する他の要因として被験者の 個人差といった内的要因が考えられるが、これに関する研究もいくつか行われている蝪Stagner
& Ward (1983)は、強制分類課題において分析的様式を用いやすかった者は、ロールシャッハ テストにおいて全体反応が多かったことを示した。 Ward (1985)は、虫制分類課題を用いて、選 択的注意能力の高い大人は試行が進むにつれて分析的様式を用いるが、能力の低い大人は試行が 進んでも全体的様式を用いやすいことを示した。杉村・岩本・守屋(1987)の実験Iでは、カテゴ リ一般化課題を用いて言語的抽象能力とカテゴリー化様式との関係を検討し、類似性と基準次元 の両方で分類できるルールを持つ課題では、言語的抽象能力の高い者の方が分析的様式を用いや すいことを示した。 Smith & Kemler Nelson (1988)は、衝動佐一熟慮性との関係を検討し、
衝動的な子供は分類課題で熟慮的な子供よりも全体的処理(類似反応)を行ったが、マッチング 課題では熟慮的な子供よりエラーが多く、衝動性一熟慮性とカテゴリー化様式との関係は明白に
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されなかったO桜井・桜井(1989)は、カテゴリ一般化課題を用いてロールシャッハテストにおけ る個人差とカテゴリー化様式の関係について調べ、全体的様式は部分反応をする者に得られやす く、分析的様式は全体反応をする者について得られやすいことを示した。杉村・清水(1989)はカ テゴリ一般化課題を用いてカテゴリー化様式と幼児の保存性の関係を検討したが、保存性はカテ
ゴリー化様式に影響を及ぼさなかった。このように、被験者内の要因を扱った研究もいくつか行 われているが、どんな認知能力、認知様式がカテゴリー化様式に影響を及ぼすのかについては明 白にされておらず、特に幼児に関する個人差との関係を検討しているものは少ないようである。
外的要因に関しては、幼児も大人と同様のカテゴリー化様式を示し、学習によって全体的様式か ら分析的様式に変化していくという結果がいずれの課題においても得られている。しかし、日常 場面における幼児の認知様式は大人のように固定的ではないので、外的コントロールを加えた学 習場面ではぼ一貫して得られた結果とはおそらく別の新たな関係が見出されると思われる。幼児 の認知様式には、前述の研究でも吟味された衝動性一熟慮性を含め、様々なとりあげ方があるが 本研究では非言語的概念能力、動作性能力を表すものである人物画描写能力について検討する。
人物画描写能力は、認知様式というよりは非言語的な知能の指標とされているが本研究では図式 的な顔刺激と大きさや形などが変化する図形刺激を用いるので、認知過程に岸似点があると思わ れる。
方 法
実験計画 人物画描写能力(高、低) ×刺激(顔、図形)の要因計画が用いられた。いずれも 被験者間要因であった。
被験者 幼稚園年長児82名であり、平均年齢は6 : 2 (5 : 8‑6 : 7)であった。グッドイ ナフ法人物画知能検査(小林, 1977)によって知能指数(I Q)を測定し、上位、下位それぞれ 30名ずっを抽出した。平均I Qは上位110 (SD‑10.05)、下位84 (SD‑6.73)であった。
刺 激 耳の大きさ(大・小) 、前髪の分け目(左・右) 、両目の間隔(広・狭) 、鼻の形 (三角・四角) 、口の大きさ(大・小)の5次元が2価で変化する図式的な顔と、大きさ(大・
小) 、位置(たて・ななめ) 、形(九・三角) 、色(自・黒) 、数(2つ・3つ)の5次元が2 価で変化する図形。
課 題 カテゴリ‑1の典型価を1、カテゴリー0の典型価を0としたとき、図1は本研究で 用いた課題のカテゴリー構造を示しているO
次 元 a b c d e 1 1 1 1 1
次 元 a b
0 0 0 0 0
標 本 事 例
1 1 1 1 0 1 1 1 0 1 0 1 1 1 0 1 1 1
0 0 0 0 1 0 0 0 1 0 0 0 1 0 0 0 1 0 0 0 テ ス ト 事 例 0 1 1 1 1 1 0 0 0 0
図1.カテゴリー構造
(a)標本事例 カテゴリ‑1では価1を4つ持つ4事例、カテゴリー0では価0を4つ持つ4事例 で構成されている。図が示すように、 1つの基準次元(たとえばa次元)においてカテゴリ‑1 では全ての事例が価1、カテゴリー0では全ての事例が価0であるので、この基準次元によって カテゴリ‑1とカテゴリー0に分類できる。また、カテゴリ‑1は価1を16、カテゴリー0は価 0を16持っているので、この典型価による類似性によってもカテゴリ‑1とカテゴリー0に分類 できる。
(b)テスト事例 カテゴリー化様式をテストするために、 2つの事例が用いられた 01111をカテ ゴリ‑1に、 10000をカテゴリー0に分類したときは全体的類似性によってカテゴリー化し、全 体的様式を用いたと判定する 01111をカテゴリー0に、 10000をカテゴリ‑1に分類したとき は基準次元によってカテゴリー化し、分析的様式を用いたと判定する。 01111と10000を同一カ テゴリーに分類した場合は、分析的様式、全体的様式のいずれでもないと判定し、不定とする。
手続き(1)人物画 次のような教示を与え、男児には男の子の絵を、女児には女の子の絵をA 4版の白紙に措かせた。 「ここに、男の子(女の子)の絵を描いてください。できるだけていね いに、顔だけでなく、全体を措いてください。 」措くのをためらっている場合には励ましてやっ てもよいが、いったん描き始めたら援助しない。たとえば、身体の重要な部分が欠けているとき、
その絵を完成するように促さない。子どもが描くのを中止したならば、 「それで終りですか」と 言うが、この促しは1回だけに限る。時間制限はないが、 5分を過ぎても完成しないときは、早
く完成するように励ましてあげる。しかし、子どもが絵に満足して自発的にやめるまでは、用紙 を回収しなかった。 (2)カテゴリ一般化課題 人物画を措かせた後で、カテゴリ一般化課額を個別 に行なった。図2、図3に示すように、カテゴリ‑1とカテゴリー0の4つの標本事例を各々枠 で囲み左右に並べ、下の中央に呈示した。枠で囲まれた4つの顔(図形)は仲間であり、下の顔 (図形)はどっちの仲間と思うかを指でさし示すように教示した。課題は5 (基準次元) ×2 (テスト事例)の合計10枚を冊子にまとめ、被験者ペースで進められた。
図2.カテゴリ一般化課薦(顔)
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○ ▲
○ ▲
△ △
△
△ △
□
図3.カテゴリ一般化課題(図形) 結 果
表1は、カテゴリー化様式を人物画描写能力と刺激について表したものである。表が示すよう に、標本値では全体的様式は人物画描写能力の高い者の方が多く用いており、不定は人物画描写 能力の低い者の方が多いが、刺激をこみにして2 (人物画描写能力) × 3 (カテゴリ‑化様式) のx2検定を行ったところ、 x2(2)‑2.30となり有意ではなかった。つぎに、能力をこみにして2 (刺激) ×3 (カテゴリー化様式)のx2検定を行ったところ、 x2(2)‑12.78、 p<‑01となり、
図形刺激と顔刺激では用いられるカテゴリー化様式に有意な差が認められた。そこで、各様式ご とにZ 2検定を行った結果、分析的様式については有意ではなかったが、全体的様式はx2(D‑
7.07、 p<.Olとなり、図形刺激において用いられやすかった。不定はZ2(l)‑12.44、 p<.001 で顔刺激の方が多かった。さらに、描写能力別にみると、描写能力が高い者は、図形刺激におい て顔刺激よりも全体的様式を有意に用いやすいが(Z2(l)‑5.23、 p <.05)、描写能力が低い者 にはこのような有意差がみられなかった。不定に関しては描写能力の高い者も低い者も顔刺激の 方が有意に多かった。
表1.カテゴリー化様式(形)
分 析 全 体 不 定
高 低 形
画 画 顔
物 物人 人 図
23. 3 50. 7 2 1. 3 44. 7 24. 0 55. 3 20. 7 40. 0
26. 0 34. 0 20. 4 39. 3
全体的様式に関して、描写能力間、刺激間に異なる傾向がみられたので、角変換法による2 (刺激) ×2 (描写能力)の分散分析を行った結果、刺激(Z2(l)‑13.09, p<.㈹1,
10.95)、描写能力(Z2(D‑3.53, p<.10, <7 a>2‑10.95)の主効果がいずれも有意であった。
したがって、全体的様式は人物画描写能力の高い者によって用いられやすく、これは図形刺激に おいて顕著であることが示された。
考 察
本研究の結果は、人物画描写能力が全体的様式にのみ影響を及ぼすことを示した。このことは 本研究においてカテゴリ一般化課題が用いられたことにも関与していると思われる。カテゴリ一 般化課務は、我々が日常場面で概念を獲得していく過程と類似しており、日常場面ではRosch (1973)が示唆したように、カテゴリ‑の典型性に基く類似性による認知が行われるようである。
したがって、カテゴリ一般化課題では類似性による全体的様式を用いることが適切な分類方略で あり、心的努力も少なくてよいと思われる。人物画描写能力は、人物に対する概念を非言語的に 表したものであると考えられ、人物画描写能力の高い者の方が場面に適切に対処できるようであ る。分析的様式における角変換法による分散分析の結果も、主効果(刺激、能力)は有意ではな かったが交互作用がZ2(D‑3.14、 p <.10で有意となり、描写能力が高い者は顔刺激において能 力が低い者より分析的様式を用いやすく、刺激に対する分化的な処理をしていると思われる。
図形刺激の方が全体的様式を用いやすいという結果は、刺激の分離可能性に帰因すると考えら れる。 Garner(1974, 1976, 1983)は、様々なタイプの刺激の本質と、これらの刺激がその処理 にどのように影響を及ぼすのかを明らかにし、分離可能次元は各次元が相互に分離して知覚され、
独立に処理されるので、一方の次元に注目し、他方の次元を無視するのは容易であるが、統合次 元は各次元が統合して知覚されるので、選択的に一方の次元に注目し、他方の次元を無視するの は困難であることを見出した。図形刺激と顔刺激を比べると、図形刺激の方は大きさ、位置、形、
色、数という5次元に分離するのは困難であるが、顔刺激の方は、 5次元が目、ロ、鼻、耳、髪 といった顔の構成要素であり、次元に分離するのが容易であると思われる。したがって、図形刺 激においては全体的処理が行われやすかったのであろう。顔刺激において不定が多かったのは、
最適分類方略が全体的様式ではなかったことに関与していると思われる。 Kemler Nelson (1984)が指摘するように、幼児にとっては基準次元に基く分析的処理より類似性に基く全体的処 理の方が容易であるため、全体的処理がうまく使えない時には方略が一定しなかったのではない だろうか。
人物画描写能力とカテゴリー化様式の関係を吟味した結果、非言語的な概念能力は場面に応じ た処理を行う能力に影響を及ぼすことが示されたが、今後は言語的な概念能力、及び認知スタイ ルなどについて検討を行い、実験的場面でのカテゴリー化と日常場面での認知がどのような関係 にあるのかを検討することが望まれる。
要 約
カテゴリー化における全体的様式、分析的様式に及ぼす影響として外的要因と内的要因が考え られる。本研究では5次元2価の図式的な顔と図形で構成されたカテゴリ一般化課席を用いて、
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内的要因である人物画描写能力を取りあげ、幼児の人物画描写能力とカテゴリー化様式との関係 を検討し、さらに外的要因である刺激の影響についても考察を加えた。
被験者は幼稚園年長児であり、 A4版の白紙に人物画を措かせたあとでカテゴリ‑般化課題を 行った。その結果、描写能力の高い者と低い者のカテゴリー化様式は全般的には同傾向を示した が、全体的様式は描写能力の高い者の方が低い者より有意に多く用いていた。刺激については、
図形刺激の方が顔刺激よりも全体的様式が用いられやすく、不定は図形刺激よりも顔刺激の方が 多かった。
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Effects of Human Figure Drawing Ability and Stimulus Separability on
Young Children's Categorization
Shigeo Sakurai
{Department of Psychology, Nara University of Education, Nara 630 Japan) and
Toyoko Sakurai
(Sakurai Institute of Human Sciences, Osaka 562 Japan) (Received April 25, 1990)
This study was conducted to clear the effects of human figure drawing ability and stimulus separability on categorization mode in young children. Eighty‑two 5‑ and 6‑
year‑old children were asked to draw a same‑sex human figure on a 21cm X30cm paper. A氏er drawing, they were showed the category generalization tasks of schematic faces or geometric figures with five dimensions varying in two values, and required to classify the test exemplars. As a result, children with high scores on human figure drawing classified them by holistic mode rather than those with low scores on human figure drawing. Geometric figure test exemplars were classified by holistic mode rather than schematic face test exemplars. This result suggests that integral stimuli may be likely to be classified by holistic mode.