技術論文
C. DIFF QUIK CHEK COMPLETE
®
にてクロストリ
ジウム・ディフィシル抗原(グルタミン酸デヒドロゲ
ナーゼ(GDH))陽性・トキシン陰性を示した検体に
おける BD マックス CDIFF
®
を用いた遺伝子検査の有
用性
松浦 成美
1)佐伯 裕二
1)梅木 一美
1)武田 展幸
1)山田 明輝
1)山本 成郎
1)高城 一郎
1)2)岡山 昭彦
1)2) 1) 宮崎大学医学部附属病院検査部(〒 889-1601 宮崎市清武町木原 5200) 2) 宮崎大学医学部内科学講座免疫感染病態学分野 要 旨 Clostridium difficile(CD)は抗菌薬投与などにより引き起こされる抗菌薬関連下痢症の原因菌であり,接触感染により伝播するため院内感染対策が必要である。当院では,患者糞便検体からのトキシン産生 CD 検出のため C. DIFF QUIK CHEK
COMPLETE®(アーリアメディカル)(以下 QUIK CHEK と略す)を用いて一次検査を行っている。QUIK CHEK でグルタ
ミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)(+)・CD トキシン(−)の検体は培養を行い,得られたコロニーで再度 QUIK CHEK に よる検査を実施し最終報告を行っているが,培養には 2 日を要する。この問題を解決するために,CD トキシン遺伝子を 検出する BD マックス CDIFF®(日本 BD)の有用性を検討した。CD 菌株を用いた BD マックス CDIFF®による CD トキシ ン遺伝子の検出感度は,QUIK CHEK による GDH と同等もしくはそれ以上であった。さらに,当院で CD トキシン検査の 依頼があった 38 検体を用いて検査を行った。その結果,GDH(+)・CD トキシン(−)であった 24 検体のうち 22 検体 は,培養法と BD マックス CDIFF®による CD トキシン遺伝子の結果が一致し,ほぼ同等の結果が得られた。以上のこと より,BD マックス CDIFF®は結果が 90 分と短時間で得られ,高感度かつ迅速な CD トキシン検査法として役立つものと して期待される。 キーワード クロストリジウム ディフィシル,培養検査,遺伝子検査,感染対策 I はじめに Clostridium difficile(CD)は偏性嫌気性グラム陽性 桿菌で,健常人でも数%が腸内に保菌している1)。抗 菌薬投与などにより腸内の正常細菌叢が減少し,異 常増殖した CD がトキシン A(腸管毒)およびトキ シン B(細胞毒)を産生することにより病原性を発 揮する2)。CD は,それぞれのトキシン産生の有無に よりトキシン A(+)B(+)株,トキシン A(−)B (+)株,トキシン A(−)B(−)株の 3 つに分類さ れる3)。トキシンを産生する CD 株は抗菌薬関連下痢 症の原因菌であり,芽胞を形成しアルコールに抵抗 性で環境中に長期間生存できるため,院内感染の原 因菌として重要である。 当院では,イムノクロマトグラフィー法を測定原 理とした C. DIFF QUIK CHEK COMPLETE®(アーリ アメディカル)(以下 QUIK CHEK と略す)を用いて (平成 29 年 9 月 6 日受付・平成 30 年 4 月 2 日受理)
便中 CD トキシン検査および分離菌株の CD トキシ ン検査を行っている。QUIK CHEK は菌体抗原であ るグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)及び CD トキシン A および B の両毒素を検出することがで きる3),4)。しかし,CD トキシンは GDH と比べ産生 量が少ないため QUIK CHEK で GDH(+)・CD トキ シン(−)の場合,CD トキシン非産生 CD 株の存在 あるいは CD トキシンが検出感度以下なのかの判断 が難しい。そのため,QUIK CHEK で GDH(+)・CD トキシン(−)の結果が得られた場合には,CD 培養 を行って分離菌株の CD トキシン検査を行う必要が ある3)。当院でも,QUIK CHEK で GDH(+)・CD ト キシン(−)の結果が得られた場合には,便検体を CD選択培地である CCMA 培地 EX(日水製薬)で 嫌気培養し,発育したコロニーについて QUIK CHEK を用いて分離菌株の CD トキシン検査を行い最終判 定としている。しかし培養には 2 日を要し,結果報 告までに日数を要する。 一方,BD マックス CDIFF®(日本ベクトン・ディッ キンソン株式会社)は,リアルタイム PCR 法を用い て便検体から直接 CD トキシン遺伝子を感度よく検 出できることが報告されており5),6),結果判定までの 時間も大幅に短縮できる。本法は,便中 CD トキシ ン B をコードする遺伝子をリアルタイム PCR 法で 検出する。我々は,BD マックス CDIFF®を QUIK CHEKおよび培養法と比較し,その有用性について 検討した。 II 対象及び方法
1.QUIK CHEK 及び BD マックス CDIFF®の検出 感度 GDH(+)・CD トキシン(+)であった CD 株 1 株 を CCMA 培地 EX に接種して 2 日嫌気培養し発育 した分離株を用いて再培養を行った。再培養して得 られた菌を滅菌精製水でマックファーランド(Mcf.) 1(推定菌濃度 3.0 × 108CFU/mL)に調整し,さらに 10倍連続希釈系列を作成した。これらをサンプルと
して,QUIK CHEK および BD マックス CDIFF®で測 定した。 2.臨床検体の QUIK CHEK および CD 培養 2016年 7 月から 2017 年 4 月までに,当院で CD トキシン検査実施依頼のあった患者の便検体 38 検 体を使用した。まず,便検体を QUIK CHEK を用い て GDH および CD トキシンを測定した。QUIK CHEKで GDH(+)・CD トキシン(−)と判定され た検体については,CD の選択培地である CCMA 培 地 EX で 2 日間嫌気培養し,発育したコロニーを用 いて QUIK CHEK で再検査を行った。本研究は宮崎 大学医の倫理委員会の承認を得て実施した。 3.臨床検体の BD マックス CDIFF®測定 前述した便,38 検体を BD マックス CDIFF®を用 いて CD トキシン遺伝子を検出した。便検体を 10 μLループで 1 白金耳採取し専用のサンプルチューブ に入れよく混和し,サンプルとして用いた。測定は 機器の手順書に従い操作を行った。 III 結 果
1.QUIK CHEK および BD マックス CDIFF®の検出 感度
QUIK CHEKの GDH と CD トキシンおよび BD マックス CDIFF®の検出感度を Table 1 に示す。QUIK CHEKの GDH は推定菌濃度 3.0 × 106 CFU/mLまで, QUIK CHEKの CD トキシンは推定菌濃度 3.0 × 108 CFU/mLまで,BD マックス CDIFF®は推定菌濃度 3.0 × 105 CFU/mLまで陽性と判定された。 2.臨床検体における QUIK CHEK および BD マッ クス CDIFF®の比較検討 臨床検体 38 検体における QUIK CHEK および BD マックス CDIFF®の結果を示す(Table 2)。その結 果,3 検体が QUIK CHEK で GDH(+)・CD トキシ ン(+)と判定され,BD マックス CDIFF®でも陽性 であった。QUIK CHEK で GDH(+)・CD トキシン (−)であった 24 検体のうち,12 件体が BD マック ス CDIFF®陽性,12 件体は BD マックス CDIFF®陰性 であった。残りの 11 検体は GDH(−)・CD トキシ ン(−)であり,BD マックス CDIFF®も陰性であった。 3.QUIK CHEK で GDH(+)・CD トキシン(−)で あった臨床検体の CD 培養および BD マックス CDIFF®の比較 QUIK CHEKが GDH(+)・CD トキシン(−)で あった 24 検体について,CCMA 培地 EX で培養し 発育した菌株を用いて QUIK CHEK で CD トキシン
の産生を調べた。その結果,CD 培養陽性・BD マッ クス CDIFF®陰性および CD 培養陰性・BD マックス CDIFF®陽性が,各 1 検体認められた(Table 3)。 IV 考 察 CDは抗菌薬関連下痢症の原因菌であり,CD トキ シンを産生する CD が病原性を有する。本菌は芽胞 を形成しアルコールに抵抗性があるためベッドやト イレなど病院施設の環境中に長期間生存可能である ことから,院内感染対策上特に注意すべき細菌であ り,迅速な感染対策と治療が重要となる。 QUIK CHEKで GDH(+),CD トキシン(−)の結 果が得られた 24 検体の培養法と BD マックス CDIFF®の結果 BDマックス CDIFF®陽性 BDマックス CDIFF®陰性 計 CD培養*・陽性 11 1 12 CD培養・陰性 1 11 12 計 12 12 24 感度 92% 特異度 92% * CD培養:Clostridium difficile 培養 Table 3 GDH は 米 国 病 院 疫 学 学 会 / 米 国 感 染 症 学 会 (SHEA/IDSA)のガイドラインで CD の一次スクリー ニングとして採用されている7)。西尾ら3)によると GDH(−)は培養検査陰性と完全に一致し,GDH(−) の場合には培養検査は不要と考えられることを報告 している。症例数は少ないが我々の結果も同様であっ た。当院でも QUIK CHEK で GDH(−)の場合には CD(−)とし培養検査は行っていない。QUIK CHEK で GDH(+)・CD トキシン(+)の結果が得られた 場合には,CD トキシン産生 CD 株が存在すると考 え速やかに担当医と感染対策チーム(infection control team; ICT)に報告を行っており,この結果が感染対 策にも反映されている。QUIK CHEK において CD トキシン(−)でも培養法で陽性となることがあり, その陽性一致率は 41〜86%と低いことが報告されて いる3),8)。そのため QUIK CHEK で GDH(+)・CD ト キシン(−)の結果が得られた場合,CD トキシン非 産生 CD 株あるいはトキシン産生が検出感度以下の 両者の可能性があるため,CD 培養を実施して発育 した菌株を用いて CD トキシンを検査する必要があ る。当院では,GDH(+)・CD トキシン(−)であっ
QUIK CHEKの GDH と CD トキシンおよび BD マックス CDIFF®の
検出感度
QUIK CHEK BDマックス CDIFF 推定菌濃度(CFU/mL) GDH* CDトキシン CDトキシン遺伝子 3.0 × 108 (+) (+) (+) 3.0 × 107 (+) (−) (+) 3.0 × 106 (+) (−) (+) 3.0 × 105 (−) (−) (+) 3.0 × 104 (−) (−) (−) 3.0 × 103 (−) (−) (−) 3.0 × 102 (−) (−) (−) 滅菌精製水 (−) (−) (−) * GDH:グルタミン酸デヒドロゲナーゼ Table 1
臨床検体 38 検体における QUIK CHEK および BD マックス CDIFF®
の結果
QUIK CHEK BDマックス CDIFF 計
(+) (−) GDH*(+)・CD トキシン(+) 3(7.9%) 0 3(7.9%) GDH(+)・CD トキシン(−) 12(31.6%) 12(31.6%) 24(63.2%) GDH(−)・CD トキシン(−) 0 11(28.9%) 11(28.9%) 計 15(39.5%) 23(60.5%) 38(100%) * GDH:グルタミン酸デヒドロゲナーゼ Table 2
た患者は培養結果が得られるまでトキシン陽性患者 として扱い感染対策を行ってきた。しかしながら, CD培養には 2 日を要するため,CD 培養で陰性の結 果が得られた患者にとって結果として不要な 2 日間 の隔離を招くことになる。このため,迅速な検査法 であるリアルタイム PCR 法を測定原理とする BD マックス CDIFF®を検討した5),6),9)。 BD マ ッ ク ス CDIFF®の 検 出 感 度 ( 3.0 × 105 CFU/mL)は,QUIK CHEK の CD トキシン(3.0 × 108 CFU/mL)より 1,000 倍,QUIK CHEK の GDH (3.0 × 106 CFU/mL)より 10 倍高く,高感度であった。 QUIK CHEKで GDH(+)・CD トキシン(−)の 24検体において,BD マックス CDIFF®は培養法に対 して感度,特異度ともに 92%であった。一方で,培 養法陰性の 1 検体が BD マックス CDIFF®で陽性,培 養法陽性の 1 検体が BD マックス CDIFF®で陰性を 示した。不一致の原因として,培養法陽性で BD マッ クス CDIFF®が陰性の例ではコロニーの発育はわず か 1 個であった。検体中の CD の菌数が少なく検出 感度以下であったものと推定された。CD トキシン 遺伝子を検査するにあたり,BD マックス CDIFFR® の検出感度や,偽陽性・偽陰性反応の可能性に留意 すべきである10)。また検討に用いた検体の性状を観 察すると,粘性の便や血液の混入している便もみら れた。このような性状の便は,PCR 反応が阻害され 正しい結果を得られない可能性があるため,白金耳 で採取する前に検体をよく混和する,もしくは滅菌 水を加えて均一にする必要があると考えられた。以 上の点を考慮しても,BD マックス CDIFF®が培養法 と比較して 2 日間検査時間が短縮されること,検出 感度が QUIK CHEK の CD トキシンおよび GDH よ り高感度であったことから,臨床的に有用であると 考える。 以上の結果から QUIK CHEK でスクリーニングを 実施し,GDH(+)・CD トキシン(−)と判定された 検体について CD トキシンの遺伝子を検出すること の有用性が示された。当院では 2017 年 3 月より便検 体において QUIK CHEK で GDH(+)・CD トキシン (−)であった場合,培養検査に代わり BD マックス CDIFF®を用いた検査法をルーチン法として新たに導 入した。今後迅速かつ効率的な CD トキシン検査の 実施が診療や院内感染対策に活用されると期待され る。 V 結 語 BDマックス CDIFF®を用いることで,高感度かつ 迅速に CD トキシン陽性の結果を得られることから, 迅速な結果報告が可能となり感染対策および治療に 貢献できるものと期待される。 ■文献 1) 大木 まゆみ,他:「酵素抗体法(迅速キット)による Clostridium difficileトキシン検出検査と毒素産生性 C. difficile の分離培養 との比較検討」,日本臨床微生物学雑誌,2013; 23: 259–263. 2) 神谷 茂:「ディフィシル感染症の基礎と臨床」,モダンメディ ア,2010; 56: 233–241.
3) 西尾 美津留,他:「C. DIFF QUIK CHEK COMPLETE におけ る GDH 抗原検出の有用性評価」,医学検査,2014; 63: 635– 639.
4) Quinn CD et al.: “C. Diff Quik Chek Complete enzyme immunoassay provides a reliable first-line method for detection of
Clostridium difficile in stool specimens,” J Clin Microbiol, 2014;
48: 603–605.
5) Le Guern R et al.: “Evaluation of a new molecular test, the BD Max Cdiff, for detection of toxgenic Clostridium difficile in fecal samples,” J Clin Microbiol, 2012; 50: 3089–3090.
6) Verhoeven PO et al.: “Evaluation of the new CE-IVD marked BD MAX Cdiff Assay for the detection of toxigenic Clostridium
difficile harboring the tcdB gene from clinical stool samples,” J
Microbiol Meth, 2013; 94: 58–60.
7) Cohen, SH et al.: “Clinical practice guidelines for Clostridium
difficile infection in adults: 2010 update by the Society for
Healthcare Epidemiology of America (SHEA) and the Infectious Diseases Society of America (IDSA),” Infect Control Hosp Epidemiol, 2010; 31: 431–455.
8) 山本 由香梨,他:「C. DIFF QUIK CHEK コンプリートによる
Clostridium difficile抗原およびトキシン A/B 検出の評価と運 用について」,医療と検査機器・試薬,2013; 36: 349–353. 9) Yoo J et al.: “Evaluation of 3 automated real-time PCR (Xpert C.
difficile assay, BD MAX Cdiff, and IMDx C. difficile for Abbott
m2000 assay) for detecting Clostridium difficile toxin gene compared to toxigenic culture in stool specimens,” Diagn Microbiol Infect Dis, 2015; 83: 7–10.
10) Shin BM et al.: “Evaluation of Xpert C. difficile, BD MAX Cdiff, IMDx C. difficile for Abbott m2000, and Illumigene C. difficile assays for direct detection of toxigenic Clostridium difficile in stool specimens,” Ann Lab Med, 2016; 36: 131–137.
Technical Article
Usefulness of genetic test for
Clostridium difficile
toxin gene using
BD MAX CDIFF in combination with immunochromatography, C. DIFF
QUIK CHEK COMPLETE
Narumi MATSUURA1) Yuji SAEKI1) Kazumi UMEKI1) Nobuyuki TAKEDA1) Akiteru YAMADA1) Ikuo YAMAMOTO1) Ichiro TAKAJO1)2) Akihiko OKAYAMA1)2) 1)Clinical Laboratory, University of Miyazaki Hospital (5200, Kihara, Kiyotake-cho, Miyazaki 889-1601, Japan) 2)Department of Rheumatology, Infectious Diseases and Laboratory Medicine, Faculty of Medicine, University of
Miyazaki Summary
Clostridium difficile is a pathogen causing antibiotics-associated colitis. Appropriate infection control for patients with C. difficile is required to prevent nosocomial infection. Immunochromatography with C. DIFF QUIK CHEK COMPLETE
(Aerial Medical) (QUIK CHEK), which detects C. difficile-specific glutamate dehydrogenase (GDH) and toxins (CD toxins), is used as the screening test for C. difficile infection. It has been reported that the sensitivity of QUIK CHEK in detecting CD toxins in stool is relatively low. Therefore, when samples test positive for GDH but negative for CD toxins using QUIK CHEK, stool samples are processed for bacterial culture. If C. difficile colonies are obtained, they are tested for CD toxins by the same assay. However, it takes about 2 days for colonies to form, thus delaying the diagnosis of C. difficile infection. To solve this problem, we conducted real-time PCR analysis to detect the CD toxin B gene using BD MAX CDIFF (Becton, Dickinson and Company). The sensitivity of BD MAX CDIFF in detecting the CD toxin B gene was shown to be higher than or equal to that of QUIK CHEK to detect GDH of C. difficile. When we tested 38 clinical samples, 24 samples tested positive for GDH but negative for CD toxin B, and the results of 22 of them tested using BD MAX CDIFF almost agreed with those obtained using QUIK CHEK. Taken together, BD MAX CDIFF is considered as a quick and useful tool for the confirmation of the presence of CD toxins in samples.
Key words: Clostridium difficile, the bacterial culture, genetic test, infection control