本 居 宣 長 翁 の 國 諮 學 と 悉 曇 ( 下 ) 四 二
本
居
宣
長
翁
の
國
語
學
と
悉
曇
(下)
竹
田
鐵
仙
二 三 内 燈 言 の 研 究 國 語 の 擾 音 を 示 す 假 字 と し て、 今 日 は 三 様 に ン の 假 字 を も つ て 現 は す こ と が 認 め ら れ て ゐ る が、 今 試 み に、 損 害 ・ 反 封 ・ 新 間 の 例 に よ つ て、 こ れ 等 の 詞 の 發 音 上 に 起 る ン 音 を 聲 音 學 的 に 考 察 す る な ら ば、 ソ ン ガ イ の ン は 喉 口 を 閉 ぢ て 息 を 漏 ら さ な い で 鼻 か ら 聲 を 出 だ す 時 に 生 す る 音 で あ り、 そ の 調 音 部 位 は カ ・ ガ の 音 を 發 す る 場 合 と 同 襟 で あ る が、 た 爲 カ ・ ガ は 喉 口 の 閉 鎧 が 三 時 に 破 ち れ て 起 る 破 裂 音 で あ る の に 對 し て、 ン は 喉 鼻 中 に 摩 擦 を 俘 ふ 連 綾 音 で あ る。 ハ ン タ イ の ン は 喉 口 か ら 出 る 息 を 舌 端 を 顎 上 に 付 け て 障 ぎ り、 聲 を 鼻 か ら 漏 ら す 時 に 生 す る 音 で あ り う シ ン ブ ン の ン は 喉 口 か ら 出 る 息 を 爾 唇 を 付 け て 障 ぎ り、 聲 を 鼻 か ら 出 だ す 時 に 成 る 音 で あ つ て、 そ の 調 音 部 位 は ハ ン タ イ の ン は 破 裂 音 タ ・ ダ を、 シ ン ブ ン の ン は 破 裂 音 プ ・ ブ を 發 す る 場 合 と 同 様 で、 たゝ 連 綾 性 を 有 す る 摩 擦 音 で あ る 所 に 鼻 普 と の 相 違 が あ る。 こ れ を 要 す る に、 ソ ン ガ イ の ン ガ、 ハ ン タ イ の ン タ、 シ ン ブ ン の ン ブ の ガ 概 タ ・ ブ の 三 音 の 相 違 に 依 り 擯 音 の ン に 三 種 の 區 別 が 生 す る の で あ る。 堺 て、 撲 音 に 三 種 の 區 珊 が 存 す る の で あ る が、 古 來 我 が 國 語 の 上 に 於 い て は こ れ を 如 何 様 に 書 き 別 け た か と い ふに、 上 代 特 に 奈 良 朝 時 代 ま で は 確 實 に こ れ を 識 別 し て 存 在 し た こ と が、 己 に 徳 川 時 代 の 東 條 義 門 の ﹁ 男 信 ﹂ 太 田 全 齋 の ﹁ 漢 英 音 圖 説 ﹂ 白 井 寛 蔭 の ﹁ 音 韻 假 字 用 例 ﹂ 等 に よ つ て 論 證 さ れ て ゐ る。 そ し て こ れ 等 の 國 語 學 者 は、 こ の 壌 膏 の 研 究 問 題 を 初 め て 學 界 に 提 出 し た 宣 長 の 學 風 を 鰹 承 し て、 國 語 の 揆 音 を 悉 曇 の 三 内 室 點 に 比 較 し、 そ の 三 内 機 音 の 假 字 と し て 喉 内 音 に は ウ 又 は イ、 舌 内 音 に は ヌ 又 は 二、 唇 内 音 に は ム 又 は ミ 等 が 用 ゐ ら れ て 來 た こ と を も 論 證 し た の で あ る。 爾 そ の 後、 こ の 機 音 の 歴 史 的 變 遷 の 研 究 に 對 し て は 小 倉 進 李 博 士 の ﹁ 國 語 簸 音 の 歴 史 的 考 察 ﹂ ( 國 學 院 雑 誌、 第 十 四 巻 八 ・ 九 ・ 十 ・ 十 一 ) と い ふ 詳 細 な 發 表 を 見 る に 至 つ た。 斯 く 擾 音 に 三 内 の 識 別 が 存 在 し た の で あ る が 隔 然 ら ば 今 ロ 使 用 す る ン の 假 字 は 如 何 に し て 使 は れ た か、 又 そ の ン 音 の 表 は す 音 償 は 如 何 様 な も の で あ る か、 こ の 問 題 に 鍬 し て 古 人 は 明 確 な 論 定 を 與 へ て ゐ な い が、 こ の 點 に 議 論 を 創 唱 し た の は 本 居 宣 長 翁 で あ る。 が 然 し、 宣 長 の 主 と す る 所 は、 上 代 は ン の 假 字 も 又 そ の 膏 も 無 く ム の 音 か ら 轉 じ て ン と の み 發 音 す る に 至 つ て 初 め て ン の 字 形 も 雀 じ た と い ふ こ と を 力 説 せ ん と す る に あ つ た の で、 宣 長 に よ つ て こ の 問 題 が 提 起 さ れ る や、 上 田 秋 成 の こ れ に 鋤 す る ン の 字 形 は な く と も ン の 音 は 上 代 か ら 存 在 す べ き も の で あ る と い ふ、 矢 縫 早 の 挑 戦 答 問 書 で あ る ﹁ 呵 苅 葭 ﹂ を 初 め と し て、 爾 來 こ の ン を 中 心 と す る 擾 音 の 論 雫 に 關 す る 著 作 は 前 後 し て 著 は さ れ、 徳 川 中 世 以 降 の 國 語 學 上 の一 問 題 と な り、 そ の 論 戦 は 長 い 間 櫃 綾 し た の で あ る。 ン 音 を 以 つ て 不 正 な 音 と な し、 言 語 の 正 し い 皇 國 の 上 代 に は ン 音 は 存 在 し な か つ た 乏 い ふ 宣 長 の 國 學 的 愛 國 の 主 張 は、 爲 め に そ の 三 内 擯 音 の 説 明 に 於 い て は 理 路 の 矛 盾 と 自 家 撞 着 の 見 を 生 じ た の で あ る が、 ン 音 の 有 す る 音 償 の 論 明 に あ つ て は、 當 時 の 何 れ の 國 語 學 者 に も 觀 る こ と の 出 來 な い 卓 見 を 有 し て ゐ た。 こ の 點 が 國 語 音 韻 の 學 の 基 礎 を 悉 曇 に 求 め た 宣 長 の 長 所 で あ る。 本 論 に は 本 居 宣 長 翁 の 國 語 學 と 悉 曇 (下 ) 四 三
本 居 宣 長 翁 の 國 調 學 と 悉 曇 (下 ) 四 四 悉 曇 に 説 く 三 内 兼 攝 め 撲 音 で あ る 塞 點 を 説 い て、 こ れ が 宣 長 の 三 内 撲 音 の 研 究 に 如 何 に 現 は れ て ゐ る か、 そ の 説 の 正 邪 理 由 を 辮 じ、 最 後 に ン 音 の 説 明 に 較 へ そ の 音 償 を 論 定 す る も の で あ る。 イ 悉 曇 に 説 く 三 内 兼 攝 の 擾 音 聲 音 發 生 の 基 礎 を 喉 内 ・ 舌 内 ・ 唇 内 の 三 内 に 置 い て、 こ れ を 喉 内 音 阿 の 一 音 に 攝 め 所 謂 阿 字 本 不 生 を 説 く 悉 曇 に 於 い て は、 三 内 の 擾 音 に 對 し て も そ の 促 音 の 説 明 と 共 に 至 極 合 理 的 な 説 明 を 與 へ て ゐ る。 悉 曇 の 機 音 促 音 は 夷 ap 却 ah. で 代 表 さ れ て ゐ る が、 悉 曇 で は こ れ を 室 點 浬 繋 點 と い ひ、 大 日 經 疏 に は ﹁ 暗 是 成 菩 提 ﹂ と あ つ て、 室 點 は 三 名 菩 提 の 點 と も 稱 す る の で あ る。 こ の 室 ・ 浬 葉 の 二 膏 は 悉 曇 字 母 を 塵 多 即 ち 母 韻 と、 體 文 即 ち 父 音 の 順 序 に 排 列 す る そ の 中 間 に 配 置 さ れ て あ つ て、 こ の 塵 多 と 體 文 と の 境 界 を な す と い ふ 意 味 か ら 界 眸 の 字 と も 稱 す る の で あ る が、 こ の 搬 音 促 音 を 母 韻 と 父 暑 の 間 に 考 へ た こ と は、 そ の 三 内 説 と 共 に 今 日 の 聲 音 學 上 か ら 觀 て も 悉 曇 の 勝 れ た 點 と 言 ひ 得 る。 帥 ち 聲 音 學 で は 擾 音 促 音 は 母 韻 か ら 子 音 に 移 る 間 に 起 る 音 で あ る と 言 つ て ゐ る が、 悉 曇 で は こ の 擾 音 促 音 の 性 質 を 字 母 排 列 の 上 に も 表 は し た も の と 思 は れ る。 界 畔 の 塞 點 an 岬が 體 文 五 鼻 聲 の 三 内 の 擬 音 を 具 備 す る こ と は 古 來 悉 曇 家 の 説 く 所 で あ る。 今 そ の 所 読 を 觀 る に ア ウ ア ン ア ム 耀 碍 二 字 各 通 二 三 内 一 所 謂 夷 字 三 内 者 盤 音 喉 内 安 音 舌 内 庵 暑 唇 内 也 浮 嚴 悉 曇 三 密 針 ( 上 ・ 四 三 右 ) と あ る。 盤 ・ 安 ・ 庵 に ウ ・ ン ・ ム の 撲 音 の 假 字 を 付 し て ゐ る が、 舌 内 に 用 ゐ た ン が 正 し く は ヌ で あ る こ と は、 悉 曇 家 が こ れ を ヌ バ、 不 と 稱 し、 ま た ウ ・ ヌ ・ ム の 假 字 を 以 つ て 三 内 撲 音 を 分 別 す る の に よ つ て 知 る こ と が 出 來 る。
ノ ハ ハ ハ ノ ハ ノ ヲ ノ ハ ノ キ ノ ハ ノ キ カ ゼ タ ン マ ン 空 點 三 内 宇 口 内 奴 香 内 無 唇 内 嘲 嶺 等 五 字 可 用 無 韻 斎 耀 等 五 宇 宇 韻 q o 五 字 奴 韻 也 番 勘 弓 湛 判 満 等 也 梵 漢 對 映 集 ( 上・ 二 三 左 ) ノ ク ハ レ ノ 答 三 内 替 也 謂 喉 宇 舌 奴 唇 無 也 塞 點 是 饗 字 所 出 也 同 書 (上 ・ 四 八 左 ) ニ ノ ナ リ ハ ノ ヵ ン ノ ハ ノ ノ ヲ フ ハ ノ ナ リ ハ 此 中 ウ ヌ ム 事 皆 饗 ( 型 ノ 誤リ ヵ ) 字 ウ 喉 音 騨 ッ ク 字 其 形 也 ヌ 舌 音 ハ ネ ナ リ 唐 人 官 字 ク ワ ヌ ト 呼 ム 唇 音 バ ネ 字 満 マ ム ク ノ ヲ フ キ ム テ ン ノ ノ ノ ユ ハ ノ ヲ ナ リ 唐 人 多 ム ハ ネ 字 呼 南 院 近 天 唐 人 呼 三 内 分 別 喉 ハ ネ ヤ ウ 言 云 同 書 ( 下 ・ 四 五 左 ) 本 書 は 正 保 二 年 刊 行 の 上 下 二 巻 本 で あ る が 、 著 者 は 未 詳 で あ る。 谷 首 に 元 和 九 癸 亥 正 月 元 日 向 燈 余 入 觀 七 十 持 歳 と あ る 者 者 が 下 總 國 賀 茂 輻 智 寺 に て 相 傳 し 表 悉 曇 の 説 に 基 付 い 糞 も の で あ る 。 寛 文 六 年 大 山 中 門 院 了 性 房 の 悉 曇 十 八 章 私 建 立 に は 、 室 點 の 三 内 を ウ ・ ヌ ・ ム で 表 は し 、 舌 内 を ヌ バ ネ と す る の を 見 る 。 夷 ウ ヌ ム 是 也 塞 點 有 三 二 種 (連 聲 事 ) シ マ ウ ノ ニ テ ヌ ハ ネ 也 ス ト 筆 於 歯 四 字 惹 字 爲 大 室 點 成 舌 内 讃 連 聲 云 々 (第 十 五 章 ) モ モ ハ 寸 ン ヌ 也 口 空 點 の 音 便 塞 點 鱒 が 三 内 機 音 を 兼 攝 す る こ と を 知 つ た の で あ る が 師 こ の 塞 點 と 體 文 の 五 鼻 聲 と の 蘭 係 は 何 う で あ る か 、 こ の 問 題 が 空 點 の 音 償 を 決 定 す る に 必 要 な こ と ゝ な る 。 延 文 四 年 呆 實 の 悉 曇 字 記 創 學 紗 に は 、 界 畔 の 室 點 ag と 體 文 五 鼻 聲 と の 相 違 を 説 い て 本 韻 耀 字 通 二 三 内 一 呼 二其 室 點 一 是 室 點 本 韻 故 び 等 不 爾 在 二 體 文 中 兼 塵 多 用 故 不 鰍 五 句 本 暑 而 呼 終 讃 韻 故 三 内 本 唐 宣 長 翁 の 國 語 學 と 悉 曇 (下 ) 四 五
本 居 宣 長 射 の 國 語 學 と 悉 曇 ( 下 ) 四 六 別 呼 也 悉 曇 字 記 創 學 紗 (巻 一 〇 ) こ の 説 明 に よ る と、 室 點 ag は 三 内 の 擾 音 を 具 へ て ゐ る が、 體 文 の 五 鼻 聲 即 ち 父 音 で あ る 罫 血 箪 銭 d n イ ー 潤 田 等 は そ の 繭 音 各 々 に 三 内 の 差 別 を 生 す る こ と は 出 來 な い。 た 章 h は 喉 内 ・ n は 舌 内 ・ m は 暦 内 と 定 ま つ た 鼻 聲 に 過 ぎ な い も の で あ つ て、 こ の 鼻 聲 が 韻 尾 と な る こ と は 室 點 と 同 様 で は あ る が、 塞 點 の 檬 に 蓮 聲 に よ つ て 三 内 何 れ の 韻 尾 に も な り 得 る と い ふ 鼻 音 で は な い。 五 鼻 聲 は そ の 三 内 所 屬 の 韻 尾 と な る に 過 ぎ な い も の で あ つ て、 換 言 す れ ば 母 韻 に 近 い 抽 に な る こ と は 出 來 ぬ と い ふ の で あ ゐ。 然 る に 安 然 の 悉 曇 藏 に よ る と、 び 仰 筆 壌 肇 イ 襲 刃 葬 亦 有 二 五 字 一 即 同 二 上 頭 之 點 一也 (五・ 三 四 左 ) と あ つ て、 い ま 創 學 紗 に 言 ふ 様 な 察 點 と 五 鼻 聲 の 區 別 を 認 め て ゐ な い こ と ゝ な る。 こ の 説 は 體 文 五 鼻 聲 が 週 の 上 頭 の 點 に 同 じ だ と 言 ふ の で あ る が、 随 つ て 此 慮 に、 五 鼻 聲 も a導 の 様 に 各 々 三 内 撲 音 を 具 備 す る と い ふ こ と に 解 せ ら れ る。 こ の 爾 家 の 相 違 は 山 門 の 四 種 蓮 聲 と 東 寺 の 二 種 達 聲 と の 分 れ る 根 檬 を な す も の で あ つ て、 安 然 が こ の 五 鼻 聲 の 性 質 か ら 十 五 章 の 蓮 聲 を 立 て た の に 封 し、 東 寺 は こ の 五 鼻 聲 の 性 質 を 認 め な い 所 か ら 十 五 章 の 連 聲 を 設 け な い の で あ る。 今 こ の 爾 家 の 説 を 論 断 す る に 當 つ て、 考 察 す べ き 必 要 な 點 は、 韻 尾 に 表 は れ る 鼻 音 の 他 に 語 頭 に 立 つ 父 暑 的 鼻 聲 を 如 何 に 取 扱 ふ べ き か、 と い ふ こ の 説 明 を 求 め ね ば な ら ぬ。 こ れ に 封 し て 呆 賓 ば 次 の 襟 に 述 べ て ゐ る。 又 於 二 喚 點 一 合 二 諸 字 一 必 成 二 室 點 之 音 一至 二 亭 等 字 一随 二 所 合 字 一室 點 用 音 存 略 不 定 也 悉 曇 創 學 砂 (巻 一 ○ ) 體 文 本 位 諸 字 皆 呼 二 正 音 榊不 雑 二 異 音 此 故 亭 等 五 字 同 二 於 閃 韻 三 短 呼 爲 本 而 此 字 兼 二 持 入 鼻 聲 一 伺 書 (巷 三 〇 ) 即 ち 體 文 中 の 五 鼻 聲 臓 室 點 の 襟 に 韻 尾 と な る 場 合 も あ る が、 室 點 止 異 な る 所 は ha na pa na ma と 阿 を 伴 な つ て 語 頭 の
普 と な る、 と い ふ 爾 者 の 同 異 を 説 い た の で あ る。 こ の 説 明 か ら 爾 家 の 説 を 觀 る の に、 安 然 は 五 鼻 聲 を 韻 尾 と な る 一 面 の み に 考 へ て、 こ れ を 室 點 の と 同 一 鼻 音 に 見 た か ら、 悉 曇 十 八 章 中 の 第 十 五 章 の 連 聲 を 説 く の に 當 つ て、 ka 行 に 綾 く 揆 音 n cha 行 に 綾 く n ta 行 に 綾 く n ta 行 に 綾 く n ma 行 に 綾 く m の 様 に、 五 鼻 聲 が 各 そ の 所 屬 の 行 の 韻 尾 と な る こ と を も 創 學 紗 に い ふ 五 鼻 聲 の 兼 持 の 用 と は し な い で、 室 點 an が 各 五 行 に 達 聲 し て そ の 韻 尾 を な す も の と 見 て、 こ れ を 十 五 章 の 達 聲 と し た の で あ る が、 東 密 の 悉 曇 家 は、 五 鼻 聲 の 本 位 は 父 音 で あ る 他 の 體 文 と 同 襟 に a を 随 へ て na na 等 と 呼 ぶ べ き で あ つ て、 鼻 苦 と な る こ と は 五 齢 聲 の 兼 帯 の 用 で あ る と い ふ 見 地 か ら、 安 然 の い ふ 十 五 章 の 連 聲 を も 五 鼻 聲 粂 帯 の 用 に 過 ぎ ぬ も の と し て、 こ の 蓮 聲 を 別 し て 立 て な い の で あ る。 こ の 五 鼻 聲 の 性 質 を 認 め る 時 は、 次 の 三 密 妙 に 言 ふ 所 は 塞 點 が 五 鼻 聲 と 相 違 す る 點 を 明 瞭 に 示 し た も の と 言 ひ 得 る。 終 讃 者、 耀 葬 二 點 三 内 室 浬 般 盃 日 唯 響 二 諸 字 最 末 一不 轉 二 上 頭 一故 日 二 終 讃 一 也 悉 曇 三 密 紗 ( 上・ 四 八 左 ) 以 上 に よ つ て 室 點 と 五 鼻 聲 と の 同 別 を 決 す る の に、 母 韻 性 の 界 眸 塞 點 は 三 内 の 韻 尾 と は な り 得 る が 語 頭 に 立 た な い、 父 音 性 の 體 丈 五 鼻 聲 は 室 點 の 襟 に 韻 尾 と は な る が、 塞 點 の 様 に 三 内 に は 通 じ な い。 又 a を 件 な つ て 語 頭 に 立 つ こ と 等 を 知 り 得 る。 こ の 條 件 か ら 室 點 の 音 償 を 觀 る に、 先 づ 塞 點 an は 圓 妙 院 行 智 も ﹁ 此 ン ハ ロ ノ 開 合 二 拘 ハ ル コ ト ナ ク シ テ 出 ル ガ 如 シ ト イ ヘ ト モ、 賓 ニ ハ 少 シ モ。 ヨ リ 息 ノ 漏 ル、 ユ ト ア レ バ ン ノ 音 ヲ 成 ズ ル コ ナ シ ﹂ (悉 曇 字 記 眞 釋 二 ) と 言 つ 舌 る 様 に、 母 韻 は 口 の 開 合 に 拘 ら す し て 發 せ ら れ る 暑 で あ る が、 今 こ の 鼻 音 も 體 文 の 五 鼻 聲 と は 異 な り、 舌 唇 の 蓮 動 を 俘 な は な い で 口 の 開 合 何 れ に も 發 せ ら れ る 母 韻 性 の も の で あ る。 たゝ 母 韻 と 異 な る 點 は 息 を 口 外 に 出 さ す し て 鼻 か ら 幽 す の で 本 居 宣 長 翁 の 國 語 學 と 悉 曇 (下 ) 四 七
本 居 宣 憂 翁 の 國 語 學 と 悉 曇 (下 ) 四 八 あ る か ら、 行 智 も 言 つ た 様 に 合 に 近 い 音 と 稱 は れ る。 次 に こ の 母 韻 性 の 室 點 は 三 内 を 兼 攝 し て、 達 聾 に よ つ て 三 内 の 別 を 生 す る の で あ る が、 こ の 場 合 は 五 鼻 聲 と 類 似 し た 音 ど な る の で あ る。 更 に こ れ を 行 智 の 説 明 を 借 り て い ふ な ら ば、 且 其 訥 ノ 出 ル ニ、 三 處 ノ 所 觸 ア ル ニ 似 タ ル コ ト ァ リ、 其一 ハ 唇 ト 舌 ト ハ 闘 合 二 拘ハ ラ ズ、 係 ハ ル 所 ナ グ シ テ タゝ 喉 ロ ヲ 閉 テ 氣 息 ヲ 守 へ 与 聲 ヲ 鼻 中 ヨ リ 出 ス 時 直 ニ ン グ ト 云 塗 二 近 キ ン 駒 ト ナ ル。 コ レ 幽ニ 體 文 ノ 中 入 亭 ( h ) ノ 音ニ 通 入 シ テ 出 ル ト コ ヲ 喉 内 聲 ノ ン 韻 ナ リ。 喉 卜 唇 ト ハ 開 キ 放 チ テ、 タゝ 舌 端 ヲ 上 膠ニ 守 へ ロ ヨ リ 息 ヲ 出 サ ズ シ テ 鼻 中 二 從 テ 聲 息 ヲ 出 ス ト キ、 ヌ 聲 ニ 近 キ ン 韻 ト ナ ル。 コ レ 體 文 中 ノ 筆 ( n ) 門 ( n ) イ ( n ) 三 字 ノ 聲 ノ 餘 響 ヲ 含 ム ガ 如 ギ コ ト ア リ。 故 ニ コ レ ヲ 舌 内 聲 ノ ン 韻 ト ナ ス。 次 ニ ハ 喉 ト 舌 ト ハ 放 チ 開 キ テ タゝ 唇 ヲ 持着 テ 息 ヲ 守 へ、 鼻 孔 ヨ リ 聲 ヲ 出 ス 時 ム 音 二 近 キ ン 韻 ト ナ ル 即 チ 體 文 中 ノ 凋 ( m ) 字 ノ 餘 響 ヨ リ 出 ル ガ 如 キ コ ト ァ リ。 故 ニ コ レ ヲ 唇 内 聲 ノ ン ト ヌ。 悉 曇 字 記 眞 釋 ( 巻 二 ) と あ つ て、 母 韻 性 の 鼻 音 が 舌 唇 等 の 聲 調 器 管 の 位 置 變 化 に 依 り 三 内 の 別 を 生 す る こ と を 説 き、 室 點 が 三 内 の 別 を 生 す る の は り 畢 竟 連 聾 に よ る こ と で あ つ て、 こ の 場 合 下 字 の 語 頭 音 の 三 肘 に 随 つ て 自 つ か ら 三 酋 擯 音 の 別 を 生 す る も の だ と し て ゐ る。 然 ルニ プ ホ 此 ヲ 案 ズ ル ニ 然 ク 三 内 二 應 ズ ト 云 フ ハ、 賓 ニ ハ 本 字 ノ 下 二 他 ノ 字 音 ニ 喉 ・ 舌 ・唇 所 屬 ノ 聲、 差 別 ア ルニ 随 ヒ、 本 宇ニ 呼 ブ ト ニ ノ 空 點 ノ 韻、 自 然 ノ 三 慮ニ 觸 ル コ ト ト ナ ッ テ、 各 腱 ノ 聲 ヲ 兼 ヌ ル コ ト ァ ル イ ミ。 ( 同 上 ) こ れ に ょ つ て、 三 内 擯 音 を 兼 攝 す る 番 曇 空 點 の 音 償 は、 そ の 母 韻 性 鼻 音 で あ る 所 に 體 文 五 鼻 聲 と は 異 な つ た も の が
あ り 、 随 つ て 三 内 撲 音 を 假 字 で 表 は す ウ ・ ヌ ・ ム と は 別 種 の 音 贋 を 有 す る も の と な る 。 八 宣 長 の 擾 音 研 究 第 三 に ン 音 の 存 在 に 關 し て ゝ あ る が 、 宣 長 の 音 韻 の 學 が 了 蓮 寺 文 雄 に 負 ふ も の が 多 い こ と は 、 前 章 に も 述 べ た 所 で あ る が 、 今 ま た 文 雄 が 和 字 大 観 抄 (下・ 十 二 右 ) に 、 五 十 字 文 と い ろ は に は 唯 む の み あ つ て ん の 字 は な い 。 故 に む と ん と は 通 用 す る 字 で は あ る が 、 音 に は 異 な り が あ る 所 か ら 後 人 が ん の 字 を 作 つ た と い ふ 説 を 受 け て 、 宣 長 は 漢 字 三 音 考 に 抑 ン ハ 是 鼻 ノ 聾 ニ シ テ 正 シ カ ラ ザ ル 故 ニ 皇 國 ノ 古 言 ニ ハ コ レ ア ル コ ト ナ ケ レ バ 、 字 音 ノ ン ノ 韻 モ 古 ヘ ニ 初 メ テ 定 メ ラ レ シ 時 ニ ハ 如 何 ア リ ケ ム 。 本 ノ マ ゝ ニ ン ト 呼 シ 鰍 。 又 韓 ジ テ ム ト サ ダ カ ニ 呼 シ 鰍 。 サ ダ カ ナ ラ ザ レ ド モ 皇 國 言 ス ラ 中 古 ニ 至 テ ム 等 ハ 音 便 ニ ン ト 呼 ブ 者 多 ク ナ リ ヌ ル ヲ 思 ヘ バ 、 字 立 日 モ 原 ハ ム ナ リ シ ヲ 後 二 音 便 ニ テ 凡 テ ン ト 呼 ブ コ ト ニ ナ レ ル ニ モ ァ ル ベ シ。 漢 字 三 音 考 ( 二 五 ・ 左 ) と 言 つ て 、 文 雄 よ り 更 に 進 め て 上 古 に は ン の 字 も 音 も 無 か つ と 主 張 し た が 、 こ の 説 に 反 封 し た の は 上 田 秋 成 で あ る。 秋 成 は 呵 苅 葭 に 苦 匂 を 主 と す る 西 の 國 々 に す ら 、 ん と 呼 ぶ 三 定 の 字 な き は 、 ん は 音 に あ ら す 、 匂 な れ ば な り 。 然 れ ば 御 國 の 輩 に 出 砦 言 に は、 や の 音 有 べ き に あ ら す と い は む に 、 御 國 に も 上 よ り の 連 聲 に 随 ひ て 、 自 然 知 の 音 あ る を 、 其 れ に 然 る べ き 字 を 假 わ づ ら ひ て 、 牟 爾 毛 等 の 者 の 方 弗 た る を 用 ひ て 、 其 唱 る に は 活 用 し て 詠 歌 せ し な ら む と は 、 ひ た す ら に 思 は る 蕊 な り 。 呵 刈 葭 後 篇 (秋 成 全 集 上・ 四 四 ○ ) 本 居 宣 長 翁 の 國 語 學 と 悉 曇 (下 ) 四 九
本 居 宣 長 翁 の 國 語 學 と 悉 曇 (下 ) 五 〇 と、 ン の 字 は 無 か つ た に も せ よ、 ン の 韻 は 存 在 し た に 相 蓮 な い と 反 封 説 を 述 べ た。 こ の 爾 者 の 議 論 は 何 回 と な く 論 難 往 復 が あ り、 呵 刈 葭 は こ の 間 の 滑 息 を 傳 へ た も の で あ る が、 こ の 論 は 偏 狡 な 愛 國 心 か ら 出 發 し た 非 學 理 的 な 態 度 に 宣 長 の 論 理 に 矛 盾 が 窺 は れ て、 そ の ン 昔 の 非 存 在 説 は 當 を 得 た も の と は な し 難 い。 宣 長 の 學 を 糠 承 大 成 し た 義 門 信 男 信 ( 上・ 三 右 ) に こ の 呵 刈 葭 中 の 爾 者 の 論 箏 を 承 け て、 ン 音 の 存 在 し た と い ふ こ と に は 秋 成 に 賓 同 し、 更 に ン 音 の 存 在 し た 以 上 は こ れ を 表 は す 丈 字 を 工 夫 す る の は 當 然 で、 ん の 字 形 は 無 か つ た に も せ よ、 こ れ に 近 い 象 形 が あ る べ き だ と 秋 成 と の 全 同 を 避 け て、 爾 者 は 何 れ も 一 概 の 論 で あ つ て そ の 是 非 は 定 め 難 い、 と 論 雫 の 仲 裁 を し て ゐ る。 秋 成 の 言 ふ 蓮 聲 に 随 つ て 生 す る ン は 悉 曇 に い ふ 室 點 に 相 當 す る も の で あ つ て、 義 門 も ﹁ 又 古 へ 也 ト モ 言 ノ ィ ヒ 蓮 キ ニ ヨ リ テ ハ、 サ ス ガ エ ン ニ 近 キ 音 聲、 人 語 ニ モ 必 シ モ ナ カ ル ベ キ ニ ア ラ ズ ﹂ (男 信・ 上 三 右 ) と、 秋 成 の 所 論 と そ の 理 由 を 一 に し て ゐ み。 宣 長 が 漢 字 三 音 考 に ﹁ 然 レ バ 室 點 ノ 音 ハ 三 内 通 シ テ 一 ツ ニ 云 ト キ ハ ン ト セ ル モ 謂 レ タ ル 事 也 ﹂ ( 二 六 左 ) と し て、 他 の 何 れ の 國 語 學 者 よ り も 明 瞭 に 悉 曇 の 塞 點 に 組 當 す る ン が 人 の 音 聲 の 自 然 に 具 は つ て ゐ る こ と 認 め な が ら、 國 語 に そ の 非 存 在 を 唱 へ た の は、 全 く ン を 不 正 な 音 と 觀 た 上 に 立 て ら れ た 愛 國 的 凋 断 に 基 因 す る も の と 言 は ね ば な ら ぬ。 第 二 に は ン 音 の 位 置 音 償 に つ い てゝ あ る。 悉 曇 の 塞 點 が ウ ・ ヌ ・ ム 三 内 の 機 音 を 粂 攝 す る こ と を 知 つ た が、 そ の 室 點 と 五 鼻 聲 と の 關 係 が 室 點 の 音 償 を 決 定 す る の に 必 要 で あ つ た 襟 に、 今 ま た 國 語 の 揆 音 を 發 示 す る ウ ・ ヌ ・ ム と ン と の 關 係 を 知 る こ と に よ つ て、 ン 音 の 便 値 を 決 定 す る こ と が 出 來 る。 こ の 國 語 學 上 の 問 題 は 悉 曇 に 言 ふ 所 を 理 解 す る こ と に よ つ て 自 つ か ら 解 決 さ れ る も の で あ る が、 宣 長 が 悉 曇 に 較 へ て こ の 論 を な し て か ら、 爾 來 多 く の 國 語 學 者 は こ れ に 習
つ て 討 究 を 重 ね、 こゝ に 近 世 國 語 學 史 を 一 貫 し た 問 題 と な る に 至 つ た の で あ る。 了 蓮 寺 文 雄 の む ん 通 用 の 説 を 承 け て、 更 に ん 音 の 存 在 を 否 定 し た 宣 長 は、 ン と ウ ・ ヌ ・ ム の 關 係 に 於 い て も そ の 説 の 正 鵠 を 期 し 難 い が、 然 し ン 暑 の 性 質 償 値 を 正 し く 認 識 し た 所 に、 悉 曇 塞 點 に 類 似 し た 位 置 を ン 音 に 與 へ て ゐ る の を 觀 る こ と が 出 來 る。 ま つ 宣 長 は 文 雄 が、 ﹁ む は 唇 の 膏 に て 屑 を た ・ き て す こ し 開 ら く 音 な り。 ん は 唇 を 合 せ て 鼻 よ り 嵩 る 音 な り ﹂ (和 字 大 觀 紗 下・ 十 二 右 ) と 言 つ た そ の 開 合 説 を 破 し て、 開 合 に 拘 は ら ぬ ン 音 を 説 い て ゐ る が、 行 智 が 悉 曇 字 記 眞 釋 に 述 べ た 室 點 の 説 明 と 相 合 す る も の が あ る。 又 凡 テ ン ハ 鼻 ノ 聲 ナ ル 故 二 開 合 エ ア ヅ カ ラ ザ ル ガ 如 シ ト 云 ヘ ド モ、 開 ニ ハ 遠 ク シ テ 合 二 近 シ。 其 ノ 中 二 猫 三 ッ ノ 異 ア リ。 口 聲 ヲ 欝 テ 開 ク カ タ ニ 呼 ( バ イ エ ミ ニ 近 ク、 ソ レ ヲ 合 ス カ タ ニ 呼 ベ バ ウ ヌ ム ニ 近 ク、 又 ロ ノ 聲 ヲ 持 ズ シ テ 純 ラ 鼻ニテ ブ 呼 ベ バ マ サ シ キ ン ナ リ。 漢 字 三 音 考 ( 二 五 左-六 右 ) こ、 に ン 音 の 存 在 を 否 定 し た 宣 長 は、 イ ・ニ ・ ミ、 ウ ・ ヌ ・ ム と 三 内 に 轉 す る 揆 音 の 他 に、 輩 猫 に 發 せ ら れ る ン 音 の 存 在 を 明 瞭 に 認 め た の で あ る。 面 も そ の ン は イ ・ニ ・ ミ ・ ウ ・ ヌ ・ ム 等 が 口 聲 を 持 す る 音、 即 ち 舌 唇 の 蓮 動 を 多 少 受 け る 普 で あ る の に 封 し て、 ン は 口 聲 を 持 し な い 全 く 喉 口 を 閉 ぢ て、 聲 持 の 振 動 を 件 な つ た 氣 息 を 鼻 膣 に 通 し て 出 つ る 母 韻 性 の 鼻 音 で あ つ て、 こ の 宣 長 の い ふ ン は 正 し く 開 合 に 拘 は ら ぬ 悉 曇 の 室 點 の 有 す る 音 償 に 等 し い。 巳 に 母 韻 的 鼻 音 ン を 認 め た 翁 は、 こ 塩 に む か ら ん が 生 じ た と い ふ ん む 通 用 説 か ら 轉 じ て、 悉 曇 室 點 の 三 内 に 較 べ て、 自 か ら ン に 猫 立 し た 優 勝 な 地 位 を 輿 へ る に 至 つ た が、 今 そ の 經 路 を 示 さ う。 本 居 宣 長 翁 の 國 語 學 と 悉 曇 (下 ) 五 一
本 居 宣 長 翁 の 國 語 學 と 悉 曇 (下 ) 五 二 梵 字 ニ ハ 室 點 ノ 音 二 喉 内 舌 唇 内 ト テ 三 ッ ノ 差 別 ア リ。 漢 ノ 對 注 二 仰 謗 向 等 ノ 字 ヲ 用 ヒ タ ル ヲ 喉 内 聲 ト 云 此 方 ノ 晋 ニ テ ウ ノ 韻 ナ ル 字 皆 同 ジ 安 見 桿 持等 ノ 字 ヲ 用 ヒ タ ル ヲ 汚 内 聲 卜 云。 庵 嚴 劒 等 ノ 字 ヲ 用 ヒ タ ル ヲ 唇 内 馨 卜 云 リ 既 方 ノ 音ニ ア ン ノ 韻 ナ ル 字 皆 舌 内 唇 内 二 攝 ス 此 ノ 字 ド モ ヲ 此 方 ノ 音 ニ シ デ 分 ッ ニ 仰 等 ハ ウ ノ 韻 ナ レ バ 喉 聲 二 論 ナ キ ヲ、 安 等 庵 等 ハ 共 ニ ン ノ 韻 ニ シ テ 舌 唇 ノ 差 別 ナ シ。 漢 字 三 音 考 ( 二 六 右 ) ア ウ ア ン ア ム 悉 曇 三 密 妙 に 塞 點 め 三 内 を 示 し た 漢 註 に 盛 ・ 安 ・ 庵 と あ つ 九 が、 宣 長 は そ の 安 庵 の ン ム を ン で 表 は し 舌 唇 の 差 別 な し と し た。 舌 内 の 安 等 の 機 音 の 假 字 は ヌ で 表 は す の が 至 當 で あ る こ と は 己 に 悉 曇 書 に 證 し て 述 べ た 所 で あ る が、 ま た 多 く の 悉 曇 書 に は ン の 假 字 を 當 て た の を も 見 受 け る。 三 密 紗 よ り 稱 ゝ 後 れ て 享 保 十 五 年 に 成 つ た 盛 典 の 悉 曇 倭 語 連 聲 集 に は、 塞 點 の 三 内 を ウ ・ ヌ ・ ム で 表 は し、 そ の 舌 内 の ヌ が ン で 表 は さ れ る こ と を 説 明 し て、 ﹁ メ ハ 舌 内 ノ 字 ナ ル ガ 故 ニ 跳 假 字 ノ ン 此 ノ 如 ク ナ ル モ ノ 是 ナ リ。 是 ヲ ヌ ノ 輕 音 卜 云 フ ナ リ ﹂ (十 四 右 ) と な し、 更 に 盛 典 は 舌 唇 の 擬 音 の 類 似 す る こ と を 述 べ て、 ﹁ 問 テ 日 ク ヌ ト ム ト ハ 跳 タ ル 氣 味 音 便 全 ク 同 ナ リ。 何 ゾ 各 別 二 建 立 ス ル ヤ。 答 フ 跳 タ ル 昔 便 ハ 全 ク 替 ラ ザ ル ニ 似 タ リ ト イ ヘ ド モ 唇 内 ト ム 跳 ノ 字 ナ ル ガ 故 二 舌 内 ト ヌ 跳 ノ 字 ナ ル ガ 故 ニ ノ 字 各 溺 ナ ル ガ 故 二 其 ノ 意 味 甚 ダ 異 ナ ル ナ リ ﹂ (十 四 右-左 ) と 言 つ て ゐ る が、 宣 長 が 舌 内 の ン と 唇 内 の ム と の 通 用 を 唱 へ 善 暦 の 差 別 な し と 主 張 す る の に は、 三 應 は 自 説 を 遜 へ た 至 極 な 読 と 言 ひ 得 る。 然 し 盛 典 が 暦 内 と 舌 内 の 相 異 を ム と ヌ に 求 め、 ン と ヌ と の 粗 異 を 暑 の 経 重 に 求 め た こ と に、 室 點 の 三 内 の 別 や、 ン の 三 内 か ら 猫 立 し た 優 勝 な 地 紘 が 導 か れ る。 盛 典 は ン を ヌ の 輕 音 と し た が、 音 の 輕 重 は 韻 で は な く 上 頭 の 吾 の 發 聲 に 瀾 は る こ と で あ つ て、 重 音 ヌ を 發 す る 時 は 舌 端 を 上 鰐 に 強 く 付 け る が、 經 音 と い ふ か ち 舌 端 を 張 く 上 鰐 に 付 け な い で 發 せ ら れ る 暑 が ン だ と い ふ こ と に な る。 前 に 母 韻 牲 の 鼻 音 は 舌 縛 の
蓮 動 を 借 り な い で 發 せ ら れ る も の で あ る こ と を 迹 べ た が、 盛 典 の 言 ふ ヌ の 輕 普 ン も 亦 悉 曇 察 點 を 表 は す 母 韻 性 の 鼻 膏 と一 致 す る こ と に な つ て 随 つ て 三 内 兼 性 の 塞 點 乏 等 し い ン を 以 つ て 舌 内 に の み 限 る こ と は 謬 見 と 言 は ね ば な ら ぬ。 母 韻 性 の 鼻 昔 で あ る ン を 認 め た 宣 長 は、 舌 唇 の 無 差 別、 ん む の 通 用 を 唱 へ な が ら、 こ、 に 舌 内 の 機 音 に ン を 用 ゐ る こ と の 不 合 理 を 指 摘 し た の で あ る。 即 ち 前 文 に 次 い で 故ニ 唇 内 聲 ヲ バ ム ト シ、 舌 内 聲 ヲ ン ト シ テ 是 ヲ 分 ッ 也。 然 レ ド モ ン ハ 全 ク 鼻 聲 ニ コ ソ ア レ 舌 ニ ハ サ ラ ニ 關 ラ ザ レ バ 是 ヲ 舌 内ニ 充 ル ハ 謂 ナ シ。 因 テ 思 フ ニ 舌 内 ヲ バ ヌ ノ 韻 ト ス ベ シ。 ヌ ハ 舌 聲 ナ レ バ ナ リ。 漢 字 三 音 考 ( 二 大 左 ) と し て、 悉 曇 三 密 紗 等 に 見 る 後 世 の 悉 曇 家 が 誤 用 し た 舌 内 の ン を 正 し く ヌ と 改 め た が、 そ の 卓 見 の 嫁 つ て 來 る 所 は、 當 に 界 眸 室 點、 の 有 す る 母 韻 性 の 鼻 音 を 認 め て ゐ た こ と に 存 す る も の で あ る。 更 に 宣 長 は こ の 悉 曇 の 智 識 か ら 塞 點 ン の 優 越 性 を も 認 め 得 た の で あ る。 ク モ リ サ テ 此 ノ 三 内、 喉 ハ ウ 舌 ハ ヌ 唇 ハ ム ナ レ ド モ 皇 國 ノ 音 ノ ウ ヌ ム ノ 如 ク 分 明 ニ ハ 非 ズ。 外 國 ノ 音 ハ 凡 テ 渾 濁 テ ユ清 亮 ナ ラ ザ レ バ 三 内 相 遠 カ ラ ズ。 何 レ モ 鼻 二 觸 テ 髪 髭 ト シ テ 皆 ン ノ 如 ク 間 ユ ル ナ リ。 カ ノ 仰 講 向 等 ノ 類 ノ 字 モ 今 ノ 唐 音 ハ 皆 ン ノ 韻 二 呼 ブ ヲ 以 テ モ 知 ベ シ。 然 レ バ 室 點 ノ 昔 ハ 三 内 通 ジ テ 一 ツ ニ 云 ト キ ハ ン ト セ ル モ 謂 レ タ ル 事 也 漢 字 三 音 考 ( 二 六 ・左-七 右 ) 宣 長 は 悉 曇 に 較 へ て、 悉 曇 の 空 點 が ン で 表 は さ れ る こ と ・ ン と ウ・ ヌ・ ム の 蘭 係 が 室 點 と 五 鼻 聲 と の 關 係 に 立 つ こ と を 理 論 上 か ら は 認 め 九 の で あ る が、 外 國 の 音 を 不 正 と し、 國 語 の 優 越 を 唱 へ た 翁 の 偏 狡 な 愛 國 的 主 張 か ら、 上 代 國 語 ン 音 の 存 在 を 否 定 し、 ン は ム が 音 便 に く つ れ て 生 じ た も の で あ る と 信 じ た 所 に、 國 語 の ン と ウ ・ ヌ ・ ム 三 内 揆 音 と の 屬 本 居 宣 長 翁 の 國 調 學 と 悉 曇 (下 ) 五 三
本 居 宣 長 窮 の 國 語 學 と 悉 曇 (下 ) 五 四 係 に 正 當 な 立 論 を 観 る こ と が 出 來 な か つ た と せ ね ば な ら ぬ。 舌 内 の ン を ヌ に 改 め、 そ の ン に 母 韻 性 を 認 め て、 ン に 舌 内 ヌ 唇 内 ム か ら 猫 立 し た 地 位 を 與 へ た が、 ン ム の 通 用 説 に 縁 つ て ゐ る 翁 の 立 論 か ら は、 三 内 の ウ ・ ヌ ・ ム か ら 凋 立 し た ン を 導 く こ と は 出 來 な か つ た の で あ る。 換 言 す れ ば、 翁 の こ、 に 言 ふ諭 ン は 舌 暦 二 聲 か ら 凋 立 し た 鼻 音 で あ つ て、 喉 内 の 聲 ウ に は 係 は つ て ゐ な い。 こ の 誤 謬 は そ の 地 名 字 音 韓 用 例 に も 明 ら か に 表 は れ て ゐ る の を 窺 ふ こ と が 暴 る。 即 ち イ サ マ ア ザ ミ ン が 唇 内 マ 行 に 通 用 す る 例 と し て、 摂 参 伊 佐 万 安 曇 阿 都 三 等 の 地 名 を 爆 け、 ン が 舌 内 ナ 行 に 通 用 す る 例 と し て 信 濃 ン ナ ノ タ ニ ハ サ ヌ キ 之 奈 乃 丹 波 太 魎 波 讃 岐 佐 奴 岐 等 の 地 名 を 塞 け て、 ン の 青 屑 二 内 に 轄 用 す る こ と を 認 め た の で あ る が、 ン が 喉 内 に 韓 用 す る こ と に 言 及 し て ゐ な い の は、 そ の ン が 三 内 の ウ ・ ヌ ・ ム を 兼 撮 し た ン で な い こ と を 明 ら か に 立 謹 す る も の で あ る。 こ の 訣 黙 が 宣 長 以 後 の 學 者 の 研 究 を 倹 つ 所 以 で あ る が、 太 田 全 齊 は 宣 長 の こ の 地 名 字 音 韓 用 例 を 基 と し て、 ン の マ 行 に 韓 す る 例 か ら 簸 音 ム を、 ナ 行 に 韓 す る 例 か ら 擾 音 ヌ を 導 き 出 し、 更 に こ の 二 例 の あ る 以 上 ン が ウ に 韓 す る こ と は 當 然 認 め 得 べ き で あ る と し て、 こ れ を 韻 鏡 上 に 照 ら し、 是 ノ 如 ク ニ 東 冬 已 下 ハ ウ ノ 韻。 眞 諄 以 下 ハ ヌ ノ 韻。 侵 輩 以 下 ハ ム ノ 韻 ト 三 ノ 正 シ キ 撲 假 字 用 ル コ ト ナ リ。 携 ン ハ 音 便ニ 三 韻 ヲ 囁 ス ル 也 漢 奥 音 圖 説 ( 二 二 右 ) と、 字 音 及 び 國 語 の 三 内 機 音 を 説 き、 更 に 喉 内 揆 音 ウ を 説 明 し て ﹁ 三 内 音 ノ ゥ ヌ ム ハ 皆 ン ナ レ ド ニ、 ウ ハ 西 土 ノ 普 ロ ノ 開 テ ウ ヲ 呼 ル 意 持 ニ テ 鼻 ヨ リ 出 ル 音 ノ ン ナ リ ﹂ (漢 奨 音 圖 口 義 七 右 ) と い ひ、 こ ゝ に 宣 長 の ん む 通 用 の 誤 謬 は 開 拓 せ ら れ ン に 三 内 兼 揺 の 地 位 が 與 へ ら れ た の で あ る。 結 言
宣 長 の 擾 音 研 究 は、 ン は ム か ら 生 じ た 不 正 な 音 で あ つ て 皇 國 の 正 音 に あ ら す と い ふ 愛 國 的 獅 断 論 に 出 獲 し て ン の 存 在 を 否 定 し、 ン ム 通 用 説 を 立 て た が、 三 内 説 に 基 く 悉 曇 の 説 に 比 較 す る に 當 つ て、 間 々 舌 内 擾 音 の 假 字 と し て 使 用 さ れ て ゐ る ン を ヌ に 改 め、 ン に 唇 舌 二 内 か ら 猫 立 し た 兼 揺 性 を 認 め る に 至 つ た の で あ る。 そ の ン に 與 へ た 母 韻 性 の 音 便 は 賓 際 と し て は 舌 唇 二 内 の み で は な く 三 内 擾 音 を 兼 囁 す る 悉 曇 空 貼 の 有 す る 音 償 で あ つ た。 翁 が 正 し い ン の 音 贋 を 認 め な が ら、 こ れ に 三 内 の 兼 囁 性 を 認 め 得 な か つ た こ と は、 そ の 誤 ま ら れ た 愛 國 的 猫 断 に 燕 因 す る も の で は あ る が、 ま た 三 面 に は 當 時 流 布 し て ゐ た 悉 曇 書 が、 三 内 擾 音 を 表 示 す る ウ ・ ヌ ・ ム ・ と ン の 使 用 を 観 し て ゐ た こ と に も 因 る の で は な か ら う か。 兎 に 角、 文 雄 が 悉 曇 に 較 へ、 宣 長 に よ つ て 提 出 さ れ た 機 音 の 問 題 は、 近 世 國 語 學 史 上 の 三 問 題 と な り、 呵 刈 葭 に 見 る 上 田 秋 成 の 反 謝 論 を 初 め、 太 田 全 齊 の 漢 呉 音 圖 説 な ど に 見 た 創 見 は、 宣 長 の 説 の 改 訂 補 説 に 忠 賓 な 東 篠 義 門 に も 取 入 れ ら れ て、 秋 成 に 封 す る 師 説 の 補 説 辮 護 と し て 男 信 が 著 は さ れ、 白 井 寛 蔭 の 音 韻 假 字 用 例 は、 全 齊 の 學 統 を 受 け て 宣 長 及 び そ の 説 を 催 承 し た 義 門 の 説 の 誤 謬 を 指 摘 し、 諸 家 の 論 難 辮 護 を 別 に し て、 字 音 の 上 か ら 猫 自 の 研 究 々 爲 し た 關 政 方 の 庸 字 例 が あ る な ど、 こ れ 等 の 諸 家 の 説 に は 各 々 長 短 得 失 が あ つ て、 二 概 に そ の 便 値 を 決 定 し 難 い が、 今 こ れ 等 の 研 究 を 二 貫 す る こ と は、 宣 長 の 研 究 を 基 礎 と し 而 も 何 れ も 悉 曇 の 説 に 出 入 し て ゐ る こ と で あ る。 全 齊 は ン と ウ ・ ヌ ・ ム を 空 貼 と 三 内 機 音 の 關 係 に 導 き、 宣 長 の 達 し 得 な か つ た 喉 内 機 音 の ウ を ン に 兼 囁 せ し め た が、 ン の 音 慣 を 積 極 的 に 説 明 し 得 な か つ た 所 に 宣 長 に 及 ば な い 鮎 か あ る。 義 門 は 宣 長 の ン ・ ム 通 用 説 を 正 し た が、 三 内 擬 音 を ウ ・ ン ・ ム と し て、 宣 長 が 舌 内 に 當 ら す と し て ヌ に 改 め た 舌 内 の 擾 音 を 再 び ン に 改 め た の で あ る。 寛 蔭 は 義 門 の こ の 映 鮎 を 指 摘 し ン 本 居 宣 長 翁 の 國 語 學 と 悉 曇 (下 ) 五 五
本 居 宣 長 翁 の 國 語 學 と 悉 曇 ( 下 ) 五 六 は 舌 屠 爾 内 を 撮 む べ き で あ る と し て、 ン を ヌ に 改 め た が、 彼 れ も 亦 母 韻 的 ン の 性 質 を 明 ら か に し て ゐ な い。 の み な ら す 全 齊 の 三 内 兼 擁 の ン を 視 蓮 し な が ら、 動 と も す る と、 ン を 舌 唇 二 内 の 兼 揚 に の み 観 た 趣 が 窺 は れ る。 こ れ を 要 す る に、 三 内 機 音 の ウ ・ ヌ ・ ム を 粂 爆 す る ン の 母 韻 的 鼻 音 で あ る 特 異 性 を 認 め る 所 に、 本 問 題 の 解 決 が 存 す る の で あ る が、 こ の 中 心 に 鰯 れ た 舗 に 於 い て は、 宣 長 を 以 つ て そ の 創 説 且 つ 第 一 人 者 と せ ね ば な ら ぬ。 悉 曇 學 者 た る 國 語 學 者 の 圓 妙 院 行 智 が 字 記 眞 繹 に、 空 貼 ン が 三 内 に 轄 す る こ と に、 そ の 説 の 詳 細 を 極 め 得 た の は、 斯 る 近 世 の 國 語 學 界 に あ つ て 築 き 得 た 卓 見 と 言 ふ こ と が 出 來 る。 ン 音 の こ の 特 異 性 を 決 定 す る こ と に よ つ て、 現 代 使 用 す る 擾 音 ン の 出 現 襲 明 は、 國 語 音 韻 學 上 の 襲 達 と 観 る こ と が 出 來 る と 思 ふ。 即 ち こ の 様 な ン 膏 が 上 代 か ら 國 語 に 存 在 し た こ と は 人 間 の 盤 音 の 自 然 か ら は 箏 は れ な い 事 賓 で あ つ て、 そ れ を 李 安 朝 の 音 便 嚢 生 に 件 な つ て 起 つ た 言 語 の 一 種 の 堕 落 現 象 で あ る と 観 る の は 一 概 に 當 ら な い 論 と 思 ふ。 ン の 字 形 の な い 上 代 に 於 い て、 こ の 鼻 音 が 三 内 の 鼻 馨 ウ ・ ヌ ・ ム 或 は 同 行 の 假 字 に 代 用 さ れ た こ と は 當 然 で あ つ て、 上 代 人 が こ の 韓 用 を 正 し く 爲 し た 所 に そ の 功 績 と 苦 心 と を 認 め 得 る が、 こ の 苦 心 か ら 救 は れ た の が 字 形 ン の 嚢 明 で あ る。 箪 に 唇 内 の ム が 音 便 に 攣 じ て ン と 呼 ば れ た も の で は な く、 言 語 の 堕 落 で は な い。 清 少 納 言 枕 草 子 に ﹁ 車 宿 に 入 り て 較 ほ う と う ち 下 す を ﹂ ま た ﹁ 五 つ 六 つ ほ う く と 投 け 入 れ な ど す る こ そ い み じ け れ ﹂ と あ る の を 見 れ ば、 こ ゝ に 亦 ン は ウ の 音 便 か ら 生 じ た と も い ひ 得 る こ と に な る。 ホ ウ は ボ ン の 擬 聲 語 で あ る。 こ ゝ に 王 朝 當 時 の 入 が た と ヘ ン を 是 等 の 暑 便 か ら 導 き 出 し た に も せ よ、 當 時 の 入 が ン 音 の 存 在 を 認 め、 そ の 字 形 を 襲 明 し た こ と は 國 語 の 登 達 と 言 は ね ば な ら ぬ。 而 も そ の 襲 明 さ れ た 文 字 は 現 代 ま で 使 用 し 來 つ て、 他 の 假 字 と 何 等 の 混 雑 不 便 を 感 じ な い 猫 自 の 文 字 で あ る。 こ の 猫
自 の 文 字 で あ る 所 か ら、 ン は 何 慮 に 用 ゐ ら れ て あ つ て も 必 す 機 膏 で あ る こ と を 識 別 す る こ と が で き、 他 の い と ゐ、 お と を 等 の 假 字 遣 の 様 な 混 雑 を 來 九 す こ と も な く、 そ の 三 内 の 題 別 は 連 聲 に よ つ て 容 易 に 知 り 得 る の で あ る。 斯 る 合 理 的 な ン は、 そ の 昔 償 は 悉 曇 の 空 黙 に 等 し く、 そ の 字 形 は 示 の 馨 ム か ら 成 つ た と い ふ 新 説 よ り も、 新 井 白 石 ・ 白 井 寛 蔭 な ど が 空 黙に 姦 に 考 へ た 蕾 説 に 今 後 の 研 究 を 倹 つ も の で あ る。 以 上、 宣 長 の 國 語 學 研 究 に 表 は れ た 悉 曇 の 影 響 を 槻 た の で あ る が、 聲 音 嚢 生 の 研 究 の 阿 中 心 と い ひ、 三 内 擾 音 研 究 の 空 鮎 髄ン の 特 異 性 と い ひ、 そ の 學 の 嫁 つ て 來 た る 所 は、 何 れ も 悉 曇 の 三 内 説 に 基 因 し て ゐ る こ と を 知 つ た の で あ る。 音 韻 に 詳 細 を 誇 る 悉 曇 に 較 へ た 所 に、 翁 の 學 説 の 卓 見 が あ る。 偏 狡 な 愛 國 心 に 執 は れ 外 國 音 の 不 正 を 唱 へ な が ら、 ﹁ 凡 ソ 音 韻 ヲ 學 バ ム 者 必 悉 曇 ヲ 知 ラ ズ バ ア ル ベ カ ラ ズ ﹂ と 言 つ た 所 に 國 學 者 た る 翁 に、 よ り 以 上 崇 仰 な 學 者 的 態 度 が 窺 は れ る。 と 同 時 に 悉 曇 學 に 從 事 す る 我 等 の 今 後 の 國 語 學 界 に 封 す る 義 務 を 痛 感 す る も の で あ る。 (昭 和 十 二・ 八・ 七 完 ) 本 居 宣 長 翁 の 國 語 學 と 悉 曇 (下 ) 五 七